○
公述人(
紺谷典子君)
紺谷でございます。よろしくお願いいたします。
どうして
改革政権が出てくるたびに
国民生活は悪化して
国民の不安は高まるんでしょうか。
国民のための
改革ではないからじゃないだろうかという疑いをかねてから強く持っております。
景気対策は効かないというお話が今ありましたけれども、しかし
景気対策のやり方が間違っていたんではないでしょうか。
これまで
世界の歴史を振り返りましても、
緊縮財政、
増税で
財政再建に成功した国は
一つもないということでございます。この
バブル破裂以降の
日本経済を振り返ってみましても、
緊縮財政を取ると、
景気が悪くなって
税収が細って、より多くの
国債を発行せざるを得なくなるということを繰り返してきたんではないでしょうか。
景気対策が効かなかったかのように見えるのは、
一つにはツーリトル・ツーレートです。
アメリカは、例えばナイン・イレブンの直後に
ITバブルの
破裂と相まって、
アメリカ発の恐慌かというような懸念が一部に生まれたことを
皆さん御
承知だと思います。ですけれども、非常に積極的な
経済対策を打ちまして、今や元気になっているということは
皆さん御
承知のとおりでございます。言ってみたら、
アメリカはお
年寄りと
一緒に歩いているときに、そのお
年寄りがけつまずいてよろめいたときにすぐ
ひじを押さえてやるんですよ。
ひじを押さえればお
年寄りもすぐ体勢を立て直して、
ひじをつかんでいてもらえるんですから、より安心して以前よりもしっかりした足取りで元気に歩いていけるということなんですね。
ところが、
日本の場合は、
一緒に歩いているお
年寄りがけつまずいてよろめくと、こうやって見ているんです、手をこまねいて見ているんです。一時的なことかもしれないからしばらく様子を見よう。
自分で立ち直るかもしれないじゃないか。
年寄りだからといって甘やかしてはならないというような話になってしまうんですね。そうすると、ばたんと転んで
ひざのお皿を割ったりしちゃうわけですよ。背負ってお医者さんに連れていかなきゃいけないと。
ひじをつかんであげればそれだけの手間で済んだものが、高い
治療費が掛かると。
ひざのお皿を割っているんですから歩けなくなって、その後
寝たきり老人になってしまうかもしれないわけです。適宜適切にタイムリーな必要十分な
景気対策をやらなかったことによって、余分な費用を掛けてきたということだと思うんですね。
しかも、その薬は不十分だったわけなんですけれども、その不十分な薬でももらって多少良くなってくると、もう良くなったじゃないかといって薬を途中で取り上げてしまうわけでございます。ところが、薬で熱を抑えているだけですから、すぐぶり返すんですね。中途半端に薬をもらったから
耐性菌ができちゃっているかもしれないわけですよ。ぶり返すたびに状態が悪化するということを重ねてきたんじゃないでしょうか。
景気対策を打ったにもかかわらず、
経済がいつまでも低迷しているというのは
景気対策が効き目がないということではなくて、
景気対策のやり方がとても下手だったんだということであろうと私は思っております。
昨今、年金の問題なんかも言われておりますけれども、年金も実は
景気対策をきちんとやっていただけば今の料率でも大丈夫なのではないかというふうに私は思っているぐらいでございます。もちろん高齢化の進展とか、
日本経済全体が豊かになってきたと、
個人でも相当部分の手当てができるようになったということですから、総体的に
社会保障制度を見直すということはもちろん必要です。しかし、年金
財政が悪化した悪化したということで、それで給付を引き下げ保険料を上げるということを安易にしなくてはならなかったほど今の年金
財政が本当に悪いのかどうかというと、相当の疑問を持っております。
例えば、
政府は本当のことを公表しておりません。年金の積立金は百四十七兆円としばしば言われますけれども、これは全体ではありません。厚生年金の代行部分三十兆円がこれには含まれておりません。さらには、共済年金の積立金の五十兆も含まれておりません。ですから、実際には八十兆円少なめに公的年金の積立金を言っているということでありまして、何のためにそういうことをなさるのかなと。年金
財政の危機をあおるためではないかというふうに考えたくなってしまうわけでございます。
二〇〇一年度の
数字で申し上げますと、年金の保険料収入二十七兆円でございます。それから国庫
負担分が五・六兆でございましたかね。それから給付が三十九兆だというんですね。しかし、二百三十兆前後の積立金があるわけでございますから、これが従来の年金の運用利回りの半分以下である三%で回ったとしても、六兆円を超える運用益が上がってくるわけでございます。
経済が立て直ってその
程度の、三%
程度の利回りというのは決して過大な期待ではないと思うんですね。そういたしますと、六兆円入ってくると年金は
赤字から
黒字になっちゃうんですよ。現に四年前までずっと
黒字で推移してきたわけでございます。しかも、
経済が良くなって給与が増えれば、保険料率が同じでありましても保険金収入は増えるわけですね。そういう設計というのが一番望ましいのではないかというふうに考えているわけでございます。
改革、
改革といって、
改革のたびに
国民生活が悪化すると申しましたけれども、例えば年金
改革、医療保険
改革、
財政改革というのを見ましても、中身は
国民生活は蚊帳の外に置いて、ただ単に
財政再建といって、すべてお金の話なんですね。すべてお金の話なんです。ですから、例えば
国民に痛みを求めてまでも
財政の健全化を図ると、
国民生活の健全性を犠牲にして
財政の健全化を優先するというのは本末転倒もいいところではないかと私は思うわけでございます。
財政というのは、元々
国民自身が
国民生活を守るために拠出した税金ではないですか。
財政担当の役所が権限を振るうための資金ではないわけでございます。であるにもかかわらず、
国民生活の健全性を犠牲にして
財政の健全化を図ってきた結果、何が起きたかということなんでございますけれども、今
小泉政権も
財政改革とおっしゃっていただきましたけれども、その結果何が起きたか。
税収が十兆円も減っちゃったということですね。
九〇年代以降に入りまして
税収は二十兆減っておりますけれども、それでもその約半分をたった二年で減らしてしまったと。非常にラジカルな
改革と称するものが行われた結果ではないかと私は考えているんですね。
改革というのは名ばかりでありまして、年金
改革にいたしましても、医療保険
改革にいたしましても、単なる
国民の
負担増、単なる
社会保障の削減でありまして、
国民は何ら安心も安全も得ていないということでございます。
しかも、年金の危機と医療保険の危機というのをさんざんあおってきたわけですね。先ほど申し上げましたように、実際以上に危機をあおってきたわけです。医療保険に関しましても、
政府管掌保険は
赤字だ
赤字だとずっと報じられてきたわけですけれども、本当は
黒字であるということをもう
日本医師会のシンクタンクである日医総研が計算して示しております。本当は
黒字であると。年金も、先ほど申し上げたように実際に
政府が公表なさっている積立金は、一部を除いて、非常にその危機をあおるような形になってきているということですね。
医療保険というのは、医療保険の
財政をもたせるために存在しているわけではなくて、
国民が安心して医療を受けられて健康な生活を送るためにあるんではないでしょうか。年金も、
国民が将来不安を感じずに最低限の老後保障があるというふうに思えるためのものではないでしょうか。それなのに年金が危ない、もたないと。医療保険がもたない、危ないとさんざん
国民の将来不安をあおった結果、何が起きたかということです。そんなもたない年金だったら入ってもばかばかしいよということで、未納率を高めてかえって年金
財政を危うくする一因を作ったんではないでしょうか。
しかも、年金と医療保険のそうした経過の結果、
改革と称するものの結果、何が起きたかといいますと、
国民は非常に将来不安に駆られて、当初は、橋本行革のときでございますけれども、医療保険
改革、年金
改革を行うために医療と年金の危機をあおったということで、
国民はそれじゃ
自分で貯金しなくちゃなということで、消費激減、
デフレ経済に突入するきっかけを作ってしまったわけでございます。
今回も、保険料の値上げとそれから給付の引下げその他を決めましたけれども、それでも
国民はもう年金のシステムに安心できないと、多くのアンケート調査がすべて同じ結果を出しているんですね、全然安心できないと。
改革を行ったら不安が高まるというのは一体どういうことなんでしょうか。
改革と称するものの多くは
国民のためじゃないじゃないかという疑いをずっと強く抱いてきておりました。例えば、道路公団の民営化って一体何なんだろうかと、なぜ民営化すれば良くなるのかと、どこが改善されるのかということはさっぱり分からないですね。最終
段階になってようやっと会計がどうのこうの、財務諸表がどうのこうのという議論が出てくるのも順番が違っております。まず最初に現状分析です。どこに問題があったのか、どこで意思決定を誤ったのかという現状分析をしっかりやった上でなければ、対策も講じられませんし
改革の方向も見えないということです。初めに民営化ありきというのがなぜ
改革なのか、私には一向に分かりません。道路四公団の四十兆円の借金を民営化すればすべて
民間にツケ回しができるなという感想を強く持ちました。
国鉄を民営化したときにいろいろな形で国費を使ったわけでございます。郵便局のお金からたばこ税から何からいろいろ投入したと思うんですね。国鉄をつぶした方が道路公団の民営化を論じるというのもとても変わった事態だなというふうに思っておりますけれども、でも道路公団を民営化すればなぜ
改革なのかということは一切見えないんです。
しかも、採算、採算、採算とおっしゃる。採算って何なんですか。いつ
政府は営利企業に成り下がったのかというふうに私は思いました。採算が取れることでしたらばほうっておいても
民間がやるからです。事業としてやるからです。もしも高速道路が採算の取れる事業であるんでしたらば、ほうっておいても
民間の高速道路会社ができているんじゃないでしょうか。なぜできないんでしょうか。
採算が取れることはほうっておいても民に任せていただきたい、民に任せよとおっしゃる
小泉政権なんですから、民に任せていただくということでもいいんですけれども、でもですね、
皆さん、採算が取れる高速道路だけ造るということでいいんですか、仮にそんなものがあったとして。ないから道路会社ができてないんだと思いますけれども、仮にあったとして、採算が取れる高速道路だけ造っていていいんでしょうか。高速道路網と申しますね。網というのはネットワークという
意味です。道路というのはつながって初めて
意味を持つものですね。それなのにぶつ切り状態でいいんですか。ここは採算が取れるから造ると、ここは造らないと、そんな高速道路網なんて聞いたこともないですね。
空港も港湾も非常に利用率が落ちているということを御
承知と思います。利用料金が極めて高いからなんですね。高速道路も同じでございます。造って使わないというのが最大の無駄であると私は思うんですけれども、ほかの国は、高速道路にいたしましても、例えば
アメリカであれドイツであれ一〇〇%税金で造っているわけですね。それで、原則的には無料で提供していると。使うために造っているからでございます。
もちろん無駄な道路は要りません。だとしたら、道路の
改革というのは、どれが必要な道路で、どれが無駄かという選別をすることでこそありまして、やたらめたら削減、凍結する、工事を中止するということではないはずでございます。まして、地球は何年か前から災害のサイクルに入ったと言われ、大地震から鉄砲水から様々な自然災害が起きているということですね。
日本に限らず全
世界で起きているわけでございます。道路というのは、そういう局面におきまして、
国民が災害から避難するための道でもあるわけです。救援車が来るための道でもあるわけです。単に生活の便宜とかあるいは産業育成のためだけのものではないですね。危機管理として道路というのは存在しているんだということも忘れてはならないことだと思うわけです。
さらに、
改革と称するものがすべてお金の話であると。それも、中央の
財政の節約ということだけを目指しているんではないかという疑いは、
地方分権改革にも非常に如実に現れたと思うんですね。
地方分権改革の三位一体というのはなぜかすべてお金の話なんですね。国庫補助
負担金の削減、
地方交付税の見直し、税源移譲と全部お金の話で、何で分権
改革推進
会議が分権を論じずにお金ばっかり論じるのかなという不思議がございます。
さらには、最近財務省がおっしゃっているのは、中央の
財政が非常に危機なんだから、この
赤字を
地方にも分担してもらおうと。とんでもないことでございます。
地方の
赤字はだれが作ったのかと。もちろん、
地方自治体が非常に甘えて、安易な箱物を造ったという事実はございます。しかし、箱物だったらばお金が出やすいという
状況を作ってきたのは中央
政府ではないですか。さらに、この
景気悪化に関しまして
地方は何の責任も負っておりません。
地方は
日本経済を良くすることはできないんですよ。限界があるんですね。
マクロ政策は中央
政府の責任でございます。中央
政府が
マクロ政策を失敗したそのツケを
地方に回すなんていうのはとんでもない、本末転倒でございます。もしも本当に
地方分権、地域の活性化ということを目指すんであれば、重荷を背負って自由には動けませんから、
地方の借金の二百兆は国が肩代わりすると。元々国に責任があったことでございますから、そうやって自由に
地方は活性化してくださいと。そうすれば、長い目で見て、地域から
日本全体が良くなるという動きが出てくると思うんですけれども、元々中央が作った借金を
地方に上乗せしてやろうなんというのはとんでもない発想だというふうに私は考えております。
実は、
国債発行が五百兆に及ぶというような話があるんでございますけれども、これは
景気対策のせいなんだと、
公共事業のせいなんだと思われておりますけれども、既に
国会でも度々指摘されておりますように、
公共事業は九五年以降、毎年毎年減ってきております。一方、
財政赤字の方はその時点から急増しているということですね。
さらに、
景気対策のせいなんだという
意見もございますけれども、約百三十兆ほどの
景気対策をやってまいりまして、そのうち真水と言われる本当に
財政支出をした分は五、六十兆と言われております。これは正確な
データがないので分からないんですけれども、まあそのぐらいというふうに言われております。ところが、その間に幾ら
国債が発行、増発されたのかというと、三百兆ほど発行されちゃっているわけですね。じゃ、残りの二百数十兆は一体どうしちゃったんですかということではないですか。それは何のために使われたのか。簡単な話なんです、
税収不足なんですね。
じゃ、どうして
税収不足が起きたのか。
景気が悪いからではありませんか。法人
税収も落ちた、
赤字法人ばかりになったからでございます。
所得税収も落ちた、
国民所得が落ちてきているからでございます。消費
税収も落ちた、物が売れないからですね。
景気が悪いから
税収不足が起きて、そのために
財政赤字が増えて、より多くの
国債を発行しなくてはならなかったということでありまして、多くの
国民は
財政赤字の最大の原因は
公共事業だ、
景気対策だというふうに思い込まされておりますけれども、これは
財政担当の役所のキャンペーンの成果ではないでしょうか。しかし、本来はここまで
税収を落ち込ませてしまったという税務当局、
財政当局の責任というのは重大ではないでしょうか。
銀行の経営責任を追及しておいでの大臣もおいでですけれども、なぜ銀行の経営がここまで悪化したのか。
小泉政権になる前は不良債権だってどんどん減ってきていたわけですね。ところが、不良債権の処理を加速した結果、逆に不良債権が増えるという結果になったわけです。各地で堅実経営で有名なしにせ企業がばたばたつぶれるという事態を招いているわけですね。
こんなに元気な企業があるじゃないか、頑張っている企業があるじゃないかというふうにおっしゃいますけれども、物すごくできの悪い教師が百点取れる学生がうちのクラスにいるんだからいいじゃないかと言っているのと同じでございます。本来、合格点を取れるはずの企業が合格点を取れずにいるということですね。平均点は幾らであるのかということを考えないといけないんですよ。みんな優等生のまねをしろというのは間違っているんじゃないでしょうか。
普通の人、普通の企業が普通の努力をしたらば生活していけるという環境を作るのが
政府の務めであるというふうに私は考えております。そうであるにもかかわらず、一部の非常に優秀な学生がいい点取っているんだからこれでいいんだと、みんなも頑張れという、そういうたぐいの
政策をお取りになっているかなというふうに思っております。
景気は良くなってきたというふうに言われておりますけれども、それは間違いであるというふうに思います。どんなに不況のときでも、サイクルを持って
経済というのは動いておりますから、波がありますから、若干上向くというときはあるんですね。これまでも度々ございました、九〇年以降ですね。一方、どんなに好況のときでも
経済が落ち込むということは、
日本の高度成長期を振り返っていただいても、高度成長期にさえ不況があったんだということを考えていただけば御理解いただけると思うんですね。
確かに、
経済は良くなっていて数値も改善しております。しかし、それはどこと比べるかということでございまして、
小泉政権がお作りになった大底と比べたら多少は良くなっております。しかし、
小泉政権以前と比べると非常に悪化したままであるということなんですね。
ですから、今多少
景気が良くなったとしても、これは国内の
景気が良くなったからではないんだと、
アメリカと中国に引っ張ってもらっているからなんだということはもう
皆さん御
承知のとおりです。その
アメリカも夏ごろまでじゃないのかなというふうに言われているわけですね。夏の、夏までの結果がちょうど大統領選のころに
数字となって表れるからでございます。中国も、先ほど申し上げたように、高度成長は続くと思いますが、それでも波がございますから、落ち込んでくるということはあり得るわけですね。ですから、そういう中で
日本が
景気対策をやらないと、
アメリカと中国が下り坂になったときに非常に重大な危機を迎えるという事態に至るんではないかというふうに思っております。
現在、一見
景気が良くなったように見えるのは、下山途中の上り坂。山登りをして下りてくるときだって下り坂ばっかりではないはずですよね。上ったり下ったりしながら上っていき、上ったり下ったりしながら下りてくるわけです。あるいは、重病人の小康状態と言ってもよろしくて、どんな重病人も、例えば今日は調子がいいなと思って庭へ出て少し散歩してみようかなということはあるわけですね。それと同じように、重病人がたまたま最近調子がいいということであって、病気が本復したわけでも何でもないと。
是非、
景気対策をおやりいただきたいと申し上げて、私の話を終わらせていただきます。