○岡崎トミ子君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました
公益通報者保護法案について竹中
経済財政担当
大臣に
質問をいたします。
この数年、
行政や企業の内部からの通報で私たちの命や健康に重大な被害を及ぼしかねない不祥事が相次いで明らかになりました。二〇〇〇年、三菱自動車工業のリコール隠し、二〇〇一年、
東京女子医科大学の医療ミスとカルテ改ざん、二〇〇二年、雪印食品による肉の偽装表示、同じく二〇〇二年、ダスキンによる食品衛生法上認められていない物質の使用と
日本ハムによる肉の偽装表示、
東京電力による検査記録の改ざん、そして今年、浅田農産による鳥インフルエンザの疑いがあった生きた鶏の出荷です。
これらの不祥事については、勇気ある告発によって被害が未然に防がれたり
拡大が抑えられたりしてきました。取り返しの付かない被害が出たケースでも再発防止につながった例が少なくありません。私たちの社会は、告発者の勇気によって自浄機能を発揮してきたと言えるのです。
しかしながら、そうした告発者の多くは、勇気ある決断をしたにもかかわらず、いわれのない代償を払わされてきました。狭い組織の中で裏切り者扱いをされて陰湿な嫌がらせに遭ったり、差別的な取扱いを受けるなどの制裁を受けている例が少なくないのです。不当配転され、三畳一間の部屋で仕事も与えられず、二十数年孤独と闘わされた人もいます。正しいことを信じたために、信念に基づいて行動した告発者たちを救うことができない社会は未来への希望を失わせる社会です。
私たち民主党が、今日、この政府案とともに
趣旨説明が行われた
行政運営適
正化公益通報法案をいち早く提案したのは、告発者の名誉を回復し、その勇気に報いなければならない、そして不祥事による被害を防止したり、社会を良くしたいという市民の強い声を受けてのことでした。
こうした経緯からも、
公益通報者を保護し、
国民の生命、身体、財産その他の利益の保護と
公益の利益の増進に役立つ
公益通報者保護法が待たれています。にもかかわらず、私はこの政府案が
衆議院を通過し、今日、こうして参議院での審議の段階に至ったことに大変な危惧の念を抱いています。私だけではありません。
公益通報者保護法の実現を願ってきた人々の政府案に対する評価は辛らつです。政府案が
国民の願ったものとは全く違ったものになってしまったからです。
特に自民党は、外部通報は裏切りだ、密告を奨励するわけにはいかない、
日本の文化的特性に
配慮すべきだと言い立てて、保護されるべき
公益通報にやたらめったら条件を付けてしまいました。これでは、これまで被害防止などに大きな役割を果たしてきた数々の勇気ある告発が保護の
対象にならなくなってしまいます。このことは通報を考えている労働者を萎縮させ、被害の未然防止の道を閉ざすだけではありません。高いハードルを設定して、この条件に当てはまらない
公益通報者は保護しないと政府が
法律によって宣言し、さらには、
公益通報を不適切な行為であると認定するのと変わらなくなってしまいます。
竹中
大臣は、告発者たちの勇気ある行動をどう評価されているのでしょうか。そして、この方たちが払わされている代償について十分な
認識を持ってこの
法案に反映させたとお考えになっているのかどうか、お聞かせ願います。
以下、
法案の具体的な
問題点について
質問をさせていただきます。
政府案では、保護される
公益通報者の範囲を労働者に限定して、その
公益通報者に対する保護を解雇、降格、減給等の禁止といった雇用上の不利益取扱い禁止に限定しております。これでは範囲が狭過ぎます。例えば、私たちの記憶に新しい、そして
公益通報の
意義を改めて知らしめた雪印乳業の牛肉偽装事件を告発した西宮冷蔵のような
取引事業者からの通報は保護されないことになります。
民主党は、下請等
事業者を保護の
対象とすべきと主張し、
衆議院で修正要求をしていますが、竹中
大臣は、
取引自由の観点から慎重に検討すべきとの見解のようです。
公益のために通報を行った
取引先に不利益を与えることが、
取引自由の範囲だという議論だと考えていいのでしょうか。
事業者等を保護の
対象としなかった理由を、
衆議院での質疑を踏まえて改めてお聞かせ願います。
政府案では、通報
対象事実の範囲をわずか七本の
法律と政令で定める、罰則による担保のある法令に限定をしています。政府案をぱっと見れば、
法律違反でなければどんなに悪いことをしてもいいと言っていると読めてしまいます。そして、もっとよく政府案を見ると、
法律違反をしても、その
法律がこの七つの
法律、政令で定めた法令でさえなければいいと読めてしまいます。一般常識から懸け離れており、納得できません。
そもそも、健康や安全にかかわる法令は後追い
規制になりがちであることは私たちが度々国会で
指摘してきたとおりです。過去の例では薬害エイズ、シックハウス、最近の例では回転ドアや遊具等の事故については罰則で担保された法令はなく、したがって通報しても保護の
対象にはなりません。
竹中
大臣、最低限、法令一般に違反する事実を通報
対象事実として保護の
対象にすべきですし、民主党の修正案のように、法令違反ではなくても生命や健康に重大な影響を与える事実を
対象に加えるべきではありませんか。
竹中
大臣は、政令で定める法令について、
国民生活への影響を見ながら機動的に対処するとしていますが、どのような
法律がどの程度
対象法令とされるかによってこの
法案の意味合いが全く異なってしまいます。このような重要なことを、国会での審議の
対象となる法文ではなく、政令に
対象法令の指定をゆだねてしまったことは全く不適切だと
思いますが、どう思われますか。
せめて審議の前提としてお聞かせいただきますが、二月の要綱段階で別表に明記された四百八十九の法令のうち、幾つぐらいを
対象法令とすることを考えているのでしょうか。数が言えなくても、おおよそのイメージを示していただきます。ほぼすべてでしょうか、八割程度でしょうか、半分程度でしょうか、それとも、一、二割程度、あるいはそれ以下でしょうか。
竹中
大臣は、通報
対象事実を罰則の担保のある法令違反に絞った理由を、
基準を明確化するためだとしています。そうやって当事者の間の見解の相違を防がないと、
制度の
運営に混乱が生じるという主張のようです。しかし、
制度の
運営に混乱を生じさせないことを
国民の生命、健康、財産を守ることより優先していいのでしょうか。
また、イギリスの英国
公益開示法では罰則の有無を問わない方式を取っていますが、そのイギリスでは問題になるような混乱が生じているのでしょうか。
そもそも、竹中
大臣がそんなに重視される
制度の
運営の混乱とはどういう意味なのか、議論の混乱を避けるために、その意味するところを御
説明願います。
さらに、竹中
大臣は、通報しようとする業務に携わっている人は関係法令について一定の知識を有しているだろうという見解を示されています。しかし、幾らその業務に携わっているといっても、一般の労働者に法令違反であるかどうか判断できるだけの正確な知識を要求するのは非現実的ではないでしょうか。
また、法令の明文化によって、
自分が行おうとする通報が保護の
対象となるかどうかについての予測可能性が増して通報しやすくなるということですが、政府案のような狭い
規定の仕方では、何を言っても保護されないだろうという予測しかできないのではないでしょうか。これでは、ただでさえ不安を抱える通報者をますます萎縮させてしまいます。そして、それでもなお決断して通報を行った通報者が保護されないことになってしまいます。こうした
指摘について、竹中
大臣はどうお答えになるのでしょうか。
政府はまた、保護の
対象となる通報の中身を、通報
対象事実が正に生じようとしている旨としてしまいました。つまり、
個人の生命や健康に重大な影響を及ぼす法令違反などが発生する可能性があって、労働者がそのことで早めにだれかに通報してそれを防ごうと思っても、切迫した事態になってからでないと保護できない、可能性があるだけで通報するなら自己責任でということになってしまうのです。政府も、年末に示した骨子案では、まさに生じようとしている旨ではなく、より幅広に、生じるおそれがある旨としていたではありませんか。これもこの
公益通報保護法の
意義を損ねる深刻な後退です。
これについても、竹中
大臣は
衆議院で、生じるおそれがある旨としてしまうと当事者の
認識の相違を生む可能性があるなどと言っております。しかし、当事者の間で見解の相違がないようなケースばかりを
対象にしていては現実の対応に間に合いません。また、まさに生じるおそれがある旨としたところで、抽象的な表現である以上、当事者間で見解の相違が生じることに変わりはないのではないでしょうか。竹中
大臣の見解を伺います。
外部通報先について条件が厳し過ぎ、例えば
国民生活センターに相談をした場合などは保護の
対象とはならないと思われます。ただでさえ孤独な通報者を支えるために外部通報先の範囲を広く認めるべきであり、これも民主党の修正案が求めるとおり、通報
対象事実の発生若しくはこれによる被害の
拡大を防止するために必要であると認められる者を、資する者、つまり役立つ者と改めるべきです。
一体、政府案では、
国民生活センター、消費者団体やNPO、労働組合、そして国
会議員への通報、相談は、保護の
対象になるのでしょうか。竹中
大臣に政府としてのお考えを伺います。
また、政府案では、他人の正当な利益等を尊重することを課していますが、そもそも
公益通報の定義において、不正の利益を得る
目的、他人に損害を加える
目的その他の不正な
目的ではなくとされており、十分担保されています。こんな当たり前のことにまで二重の縛りを掛け、ますます
公益通報を萎縮させる必要があるのでしょうか。民主党は、このような
規定は削除すべきと考え、これも修正案に盛り込んでいますが、竹中
大臣はどのようにお考えでしょうか。
さて、この
法案が万が一成立してしまった場合の見直し
規定について、政府案は、公布から二年以内に
施行、見直しは
施行後五年後に行うこととなっておりますが、これでは、
法案成立後、見直しまで最大七年掛かることになります。余りにも長過ぎます。民主党は、公布から一年以内に
施行、見直しは
施行後三年以内に行うという修正を訴えていますが、竹中
大臣はどのようにお考えでしょうか。
以上、訴えてきたとおり、私たちは、この
法案が、
公益通報者を保護する
法案ではなく、
公益通報の条件を狭く限定することで、ごく例外的な場合だけ
公益通報を認めて保護し、あとはなるべく
公益通報を発生しないようにしようとする
公益通報思いとどまらせ
法案になっているのではないかと危機感を抱いています。
公益通報者保護法は、
公益通報者の保護というこれまでルールがなかったところにルールを定めるもので非常に重要です。まずは実績を見ながら
発展させるべきという意見もありますが、最初の一歩を間違えては取り返しの付かないことになってしまいます。是非、民主党の修正案の内容を真剣に取り上げることを、竹中
大臣だけでなく、この本
会議場に座っている与党の議員の皆さんにも訴えたいと
思います。
もし修正ができないというならば、せめて、腰の定まらない抑制
法案を撤回し、拙速に大事な
制度をスタートすることを踏みとどまるべきだと考えます。竹中
大臣のお考えをお聞かせください。
最後に申し上げます。
すべての組織が誤りを犯し、抱え込んでしまう要素を持っています。人間の弱さ、ちょっとした気の緩みが積み重なったとき、それは何かのきっかけで本来犯してはならない不祥事につながる可能性があるのです。そして、その不祥事の結果が
個人や社会に向かったとき、私たちの命や健康、有形無形の財産が危険にさらされたり人権侵害が引き起こされたりします。残念ながら、そういうことは起こり得るし、現に起こってきました。そして、その誤りを正し、この社会を救ってきたのは、多くの場合に、やむにやまれぬ
個人の告発、本来の意味での
公益通報だったのです。
マスコミによる派手なスクープ、国会での爆弾
質問も、実はそうした、社会を良くしたい、不正を許してはいけないという
思いにつき動かされた名もなき告発者の声がきっかけになっていることが少なくありません。この人々の勇気がなかったら、不正がやみに葬られ、被害者が泣き寝入りをしなくてはならなかったかもしれないのです。しかし、そうやって声を上げた正義の人々は往々にして迫害され、苦しんでいます。
良識の府参議院に身を置く私たちがしなければならないのは、勇気ある告発者を保護する堂々とした
法律を作ることではないでしょうか。それが正義に報いることであり、私たちの社会の健全な自浄機能を守ることです。
私たちがこうした
法律を作ることは使命であるということを申し上げ、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣竹中平蔵君
登壇、
拍手〕