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2004-05-27 第159回国会 参議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十六年五月二十七日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  五月二十五日     辞任         補欠選任      小川 敏夫君     江田 五月君  五月二十六日     辞任         補欠選任      大渕 絹子君     千葉 景子君      直嶋 正行君     樋口 俊一君  五月二十七日     辞任         補欠選任      樋口 俊一君     平田 健二君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         山本  保君     理 事                 松村 龍二君                 吉田 博美君                 角田 義一君                 木庭健太郎君     委 員                 青木 幹雄君                 岩井 國臣君                 鴻池 祥肇君                 陣内 孝雄君                 野間  赳君                 今泉  昭君                 平田 健二君                 堀  利和君                 井上 哲士君    国務大臣        法務大臣     野沢 太三君    副大臣        法務大臣    実川 幸夫君    大臣政務官        法務大臣政務官  中野  清君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局民事局長        兼最高裁判所事        務総局行政局長  園尾 隆司君    事務局側        常任委員会専門        員        加藤 一宇君    政府参考人        司法制度改革推        進本部事務局長  山崎  潮君        法務大臣官房司        法法制部長    寺田 逸郎君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○政府参考人出席要求に関する件 ○行政事件訴訟法の一部を改正する法律案内閣  提出衆議院送付)     ─────────────
  2. 山本保

    委員長山本保君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る二十五日、小川敏夫君が委員辞任され、その補欠として江田五月君が選任されました。  また、昨二十六日、直嶋正行君及び大渕絹子君が委員辞任され、その補欠として樋口俊一君及び千葉景子君が選任されました。     ─────────────
  3. 山本保

    委員長山本保君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  行政事件訴訟法の一部を改正する法律案審査のため、来る六月一日、参考人出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 山本保

    委員長山本保君) 御異議ないと認めます。  なお、その人選等につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 山本保

    委員長山本保君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  6. 山本保

    委員長山本保君) 政府参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  行政事件訴訟法の一部を改正する法律案審査のため、本日の委員会司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君及び法務大臣官房司法法制部長寺田逸郎君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 山本保

    委員長山本保君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  8. 山本保

    委員長山本保君) 行政事件訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本案趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  9. 岩井國臣

    岩井國臣君 三権分立でございますが、三権分立というのはもう小学生も知っている当たり前のことだと思いますけれども、余りにも当たり前というのでしょうか、かえってその哲学的な意味とか具体的な在り方となるとよく分からない面がございます。  人は、長い歴史的経験に基づきまして、主権者である国民権利と自由を擁護するために国家権力を三分し、相互に抑制と均衡を行わせるという権力分立制度を考え出し、近代民主国家がいずれもこれを採用しているということはもう周知の事実であります。最初は言うまでもなくアメリカ合衆国憲法であろうかと思います。私はトライアドと言っておりますけれども、言ってみれば人類知恵みたいなもので、河合隼雄中沢新一の言い方で言いますと神話的知恵ということになります。その辺の話は時間の関係もありまして省略いたしますけれども、三権分立の考え方は人類知恵だということにしておきたいと思います。  今回の行政事件訴訟法改正は、平成十一年七月に設置されました司法制度改革審議会での二年間にわたる検討を経まして、内閣府に司法制度改革推進本部が設けられたわけであります。政府としての並々ならぬ覚悟がうかがわれます。そして、平成十四年二月に設置されました行政訴訟検討会の精力的な検討を経まして、やっと政府案ができたということでございます。司法制度改革推進本部の御苦労に対しまして、ここに深甚なる敬意を表させていただきたいと思います。  しかし、問題がないわけではありません。政府中心司法制度改革を進めるのは憲法違反ではないかという意見もあるのでございます。特に行政訴訟国家権力三権分立の根幹にかかわる制度でありまして、行政訴訟の一当事者となるべき政府が自ら改革案取りまとめることについては、その改革が十分なものになるのかどうか、疑いの目で見る向きもありました。  で、質問でありますけれども、今回の行政事件訴訟法の一部を改正する法律案取りまとめるに当たりまして、行政訴訟当事者である政府が行うことは三権分立を逸脱したやや行き過ぎたやり方だという批判がありますが、法案取りまとめまでの経緯を御説明いただきたいと思います。また、三権分立を逸脱したやや行き過ぎたやり方だという批判に対する司法制度改革推進本部の見解をお伺いしたいと思います。
  10. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この問題につきまして、ただいま御指摘のような意見、あるいは御批判かもしれませんけれども、私ども、あるということは承知はしております。これに関しまして、今これから申し上げますけれども、実質的にその御批判は当たらないのではないかというふうに考えております。  その経緯理由でございますけれども、今回の行政事件訴訟法改正でございますけれども、これは、総理を本部長といたしまして、それから全閣僚を本部員とする司法制度改革推進本部においてその案を作成したものでございますけれども、この作成に際しては、本部に設置されました顧問会議、それから、あるいは事務局に設置がされました行政訴訟検討会のメンバーとして有識者の方々に御協力をいただいたということでございます。それから、この案を作成するに当たりましては、いろいろな形をもって国民皆様方から広く御意見、御提言をいただいているというところでございます。また、この案を最終的に確定をしていくという段階では、並行していろいろな政党の方々の御意見も拝聴しながら最終的に決めていったと、こういう経緯にあります。この中でも随分いろいろな活発な議論がございまして、今回、法改正としてなるべく盛り込めるものは盛り込もうという観点から御提案をさせていただいたということになるわけでございます。  こういうふうに、その改正につきましては、かなりいろんな関係者方々関与をしていただきまして、また御努力をいただいたという、そういうことから、それを踏まえまして、国民権利利益のより実効的な救済手続整備を図るという観点から、総合的な改革を実現しようとするものでございます。  したがいまして、政府といたしましては、行政運営を行う立場からのみだけではなくて、広く各方面から幅広い御意見をいただきまして、これを踏まえまして、それから国民の視点に立って本改正案取りまとめを行ってきたということでございますので、確かに内閣の中で改正案を出すということにはなりますけれども、実質的には様々な外部の御意見も取り入れたということで御理解を賜りたいというふうに考えております。
  11. 岩井國臣

    岩井國臣君 前回の裁判員制度については私大分いろいろ迷っておったんでありますけれども、今回のこの行政事件訴訟法改正は、もちろん私は積極的に大賛成であります。三権分立を逸脱したやや行き過ぎたやり方だという一部の批判は、むしろ私は立法府として厳粛に受け止めなければならない問題であって、政府に対する批判見当違いではないかと、そんなふうに思ったりしております。立法府の力が足らないのではないか、そんな感じもするわけであります。  今、三権分立バランスが崩れているとすれば、司法の力を付けることではなく、立法、それも良識の府であるべき参議院の力を付けることではないか。参議院は本来良識の府でないといけないと思うのでございますが、人権擁護法案審議になかなか入れないのを見て分かりますように、若干力不足のところがないわけではない、そんな感じも実はするわけであります。  いずれにいたしましても、今回の法改正動きは画期的なことでありまして、それだけに各方面期待も非常に大きかったと思います。期待が大きかっただけに落胆も大きかったのかもしれません。政治なんてまあしょせん妥協ですから、現状が少し良くなれば良いのではないか、私はそんなふうに思ったりしておるわけでございまして、なかなか革命みたいなことは起こらないのではないか。日本的革命の思想、明恵の「あるべきようわ」というのがありますけれども、あれでいったらええのではないかと、こんなふうに思ったりしております。そういう意味で、私は今回の改正案は百点満点に近いというふうに、私の物差しではそう思っておるんですが、さて、皆さんどんな感じでしょうかね。  そこで、質問でございますけれども、各方面動きからは、行政事件訴訟法の見直しが不可避であることはもちろん争いがないわけですね。抜本的改正にどの程度踏み込んだかが問題だというふうに思います。しかし、その程度というのは実は期待の大きさと関係があるわけでございまして、評価はいろいろ分かれるわけだと思います。  今回の行政事件訴訟法改正案国民評価としては何点ぐらいなんでしょうか。法務大臣評価は何点ぐらいでございましょうか。
  12. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 長年、行政中心におられ、しかも、なおかつ最大事業官庁での御経験に基づかれた岩井委員の御指摘は厳粛に受け止めさせていただきたいと思いますが、現行の行政事件訴訟法につきましては、御承知のとおり、昭和三十七年に制定されたものでございます。それから四十年余りを経まして、行政需要増大行政作用多様化に伴いまして、行政による国民利益調整が一層複雑多様化するなどの変化が生じております。  三十七年当時から今日までの予算規模という面で見ても、数十倍という予算増大があり、また手掛けている仕事の内容も大変多様化しているのは委員承知のとおりでございますが、今回のその改正案につきましては、このような近年における国民行政関係在り方変化に対応していくために、まず第一に国民権利利益救済範囲の拡大、それから二つ目審理充実及び促進三つ目行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組みの整備、それから四つ目本案判決前の仮の救済制度整備という四つ観点から、総合的、多角的に行政訴訟制度改革を実現しようとするものであります。  これによりまして、国民権利利益のより実効的な救済手続整備が図られますし、行政訴訟制度の機能がより一層国民期待にこたえて充実することを期待しておりまして、極めて重要な意義があると考えておるところでございます。  これが国民評価として何点ぐらいか、あるいは私、法務大臣としての何点くらいの評価と考えるかという御質問でございますが、委員が大変高く評価していただいていることは大変私どもとしても有り難いわけでございますが、数字的に何点というのは、法案提出責任者として自ら点数付けることは差し控えさせていただきまして、後日の国民皆様評価、点数にお任せをしたいと思うわけでございます。  いずれにいたしましても、私自身としましては、今回の改革国民訴訟を利用しやすくするという観点から四十年ぶりに行政訴訟制度を抜本的に改革するという極めて重要な意義のある改革であるという認識では、最大限努力をさせていただいたつもりでございます。私も行政の一環を担った時期もございまして、どうしても行政というのは最大多数の最大公約という大きな利益のために個別の具体的な人々の権利を場合によっては侵害することもあるということをいろいろな場面経験させていただいておりますので、その点が今回バランスよく調整されることが期待できるという点で、よろしく御審議のほどをお願いしたいと思います。
  13. 岩井國臣

    岩井國臣君 アメリカ裁判はすこぶる短く、何か月もの長期裁判が行われる裁判は非常にまれだというふうに言われておりますけれども、なぜ日本裁判は長くなるのか。私は、裁判というものは早ければいいというものではないと思います。十分に慎重な審理が大前提でありますから一概には言えないと思いますけれども、中にはやはり大幅に時間短縮を図るものがあってもよいのではないでしょうか。  まずは現状認識をお伺いいたします。そして、その点について今度の法律改正ではどのように考慮をされたのか、御説明願いたいと思います。
  14. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) まず、審理期間の問題の現状認識でございますけれども、確かに以前、日本裁判が非常に遅いという御指摘がございまして、正にそういう実態にあったのかもしれません。ただ、その後、かなり運用努力をいたしまして、民事事件審理期間も相当縮まっております。現在で、二〇〇一年ですか、済みません、二〇〇一年で見ますと、アメリカで、一般民事事件でございますけれども、平均審理期間が八・七か月ということで、日本は八・五か月と、ほぼ同じぐらいまでに努力して短くなっているという現状でございます。  ただ、これを行政訴訟関係で見てまいりますと、これは平均審理期間平成十四年で、ちょっと年度は違うんですけれども、十六・八か月ということですから、約、一般事件の倍ぐらいは掛かるということになろうかと思います。そういう実態にあるというのがまずその前提でございます。  何で裁判が長くなるのか、それをどういうふうにして解消していくのかという点でございますけれども、一般的に言われている原因でございますけれども、まず当事者が非常に多数であるということ、それから事件内容が非常に複雑で専門的であるというもの、こういうことですね、こういうことがまず一つ要因になるだろうと。  それから、やはり期日の調整が非常に困難であるというような事件、こういうものもございますし、それは、裁判所整理の仕方、当事者の進行の協力具合、こういうことによってもいろいろ影響を受けるということも要因として言われております。  それからあと、争点がやっぱり非常に複雑なことに関連するわけでございますけれども、初めの段階でその整理が不十分なまま審理がずっと入っていって、結局何をどういうふうにしていいか分からないままとにかくやることをやるというふうに積み重なっちゃうと、こういうものもあるわけでございます。あるいは、個々裁判官の事件の一人当たりの持っている時間が多過ぎてさばき切れないとか、いろんな要因はあろうかと思います。そういうものが複合しているということになろうかと思います。  このことに関して、これを解消していくために現在いろいろな運用の工夫はされておりますけれども、それ以外に、昨年ここで、この法務委員会でも御承認いただきましたけれども、裁判迅速化に関する法律、これはもう既に公布、施行されているわけでございますけれども、この精神は、第一審の訴訟手続を二年以内のできるだけ短い期間内に終局させると、これを目標にするということでございまして、目標にしてそれを充実した手続を実施することによって行っていくと。あるいはこれを支える制度、あるいはその体制、こういう整備をしながらやっていきましょうと、こういうものでございました。  これの目標に従って、まず、それぞれの運用努力をしなければならない。それから、個々の、例えば民事訴訟手続刑事訴訟手続、それぞれのところでこの目的に沿うような手続改正が必要ならばやっていくと、こういうことになるわけでございます。こういう努力を今しているところでございまして、この結果がどういうふうに出てくるか、これをまず見なきゃいかぬだろうというふうに思っております。  また、行政訴訟特有の問題として申し上げますと、やはり行政処分は、昭和三十七年にこの行政事件訴訟法ができ上がったときと現在を比べますと、先ほど大臣からもございましたけれども、何というんですかね、国の関与在り方というのは非常に膨大に増えてきて、かつ複雑化しているということになるわけでございますので、この内容理解するためには相当時間が掛かるということになろうと思います。特に、訴える側の国民の方で、それがどういう理由でどういうふうに行われたのかということ、これについて理解をして訴訟を起こすと、それから訴訟を進行していくということに関してやはり相当な時間を要するということになろうかと思います。要するに、専門性複雑性、これがポイントになろうかと思います。  このままやっぱり放置してはならないということになります。余り時間が掛かれば、やっぱり当事者として訴訟を提起するということをちゅうちょするということにもなるわけでございますので、そこで、今回、一つポイントといたしましてその点にスポットを当てまして、行政庁が判断の根拠とした資料、これを早期に訴訟資料とすることが必要だと。それによって訴訟がスムーズに進行していくだろうということを考えまして、この法案では、裁判所行政庁に対して処分あるいは裁決内容とか、それから処分あるいはその裁決根拠となる法令の条項、それから処分裁決原因となる事実とか、その他その処分裁決理由を明らかにする資料、こういうものについて提出を求めると、釈明処分として求めると。  それから、あるいは審査請求にかかわる事件の記録がございますので、これの提出を求めると、こういうことを制度として設けまして、審理の割合早い段階で何が争点かということをきちっと分かっていただいて、それで訴訟を進めていくということにしようとしているわけでございまして、これがうまくいけば審理期間はかなり短縮できるだろうと、それから内容的にも充実した審理ができるのではないかと、こういうことを期待しているわけでございます。
  15. 岩井國臣

    岩井國臣君 ありがとうございました。  なかなか現在の行政複雑になっているし、極めて専門的でありますので、その事件にかかわる訴訟ということになると大変だと思いますけれども、是非頑張っていただきたいと思います。  次の質問でございますが、我が国行政訴訟提起件数でございますが、諸外国に比べて圧倒的に少ないと言われております。諸外国と比較してどのようなことになっているのか、お述べいただきたいと思います。  そして、今回の法改正では、国民にとってどのように便利になったのか、訴訟というものがどのように身近なものになったのか、国民に分かりやすく御説明願いたいと思います。
  16. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) まず、ちょっと事件数、世界の比較をしてまいりますけれども、平成十四年の数字でございますけれども、我が国では二千三百二十八件ということでございます。アメリカを例えば見ますと、二〇〇二年で、若干年度はずれるわけでございますけれども、四万千四件、四万件ですね、大体、ということになります。それからイギリスでございます。同じく二〇〇二年でございますけれども、五千三百七十七件ということで、日本にかなり近い数字ではございます。それからドイツでございますけれども、これは二〇〇一年でございますけれども、五十万四千百三十二件というすごい数字でございます。それからフランスでございますけれども、やはり二〇〇一年でございますけれども、十三万四千五百六十件と、こういう数字を一応承知をしているわけでございます。相当に数字の違いもあるという現状でございます。  これ、単純になかなか比較するのは、どちらがいいのかとか、これはなかなか難しいところはあろうかと思いますが、いろいろ制度も違っているという点があろうかと思いますけれども、ただ言えることは、訴訟手続に関して、やっぱり使い勝手が悪いということになれば、やっぱり国民方々は、複雑であり時間が掛かるということになれば、どうしてもやっぱり利用をためらうということになろうかと思います。  そこで、今回の改正案でございますけれども、この中では、まず、そういう障害となり得るだろうと思われるようなところを取り除こうということを考えているわけでございます。  個々に申し上げると、例えば取消し訴訟の原告適格ですね、これを実質的に広く認められるように、そういうふうにしようという改正もしております。これは、本体に近づけるかどうかのポイントでございますけれども、近づけないで終わってしまうということになれば、なかなか訴訟を提起してくることをためらうということになるわけでございますが、その点をまず改正をしている。  それから、現在のいろいろな複雑行政処分が行われている中で、やはりいろんな類型を認めないとやはり足りない場面があるということで、取消し訴訟だけでは足りないだろうということから、義務付けの訴えとかあるいは差止めの訴えというものを新たな手段として設けるということにしております。  それから、これは確認的な規定でございますけれども、今現在ある、当事者訴訟という訴訟があるわけでございますけれども、その中で確認訴訟という類型のものも使えるんだよということで、これを明示をするということもしております。こういう意味で、訴訟類型の選択の幅を広げているということになります。  それから、先ほど申し上げました、行政庁に対して資料提出を求めるということで審理充実促進を図ろうということでございます。  それから、被告適格簡明化ということでございますが、現在は処分をした行政庁を相手に起こすということになるわけでございますが、これがなかなか、どこの行政庁かということを特定するのが難しいという問題もございますので、原則として被告適格を国という形にするということでそこの負担をなくすということ。  それから、管轄裁判所については、現在、一定の範囲で限られているわけでございますけれども、これをもう少し当事者の利便も考えて広げていこうということ。  それから、出訴期間、現在三か月でございますけれども、これだけ複雑化した時代で、なかなか三か月でいろいろ調査を終えて訴えを提起するというのは難しいという御指摘もございましたので、これは原則六か月に延長しましょうと。  それから、出訴期間等あるいは不服申立て手続等について、なかなかこれは分からない、分かりにくいところがございますので、これを教える制度、教示する制度、こういうものを設けて、なるべく使いやすいように、迷わないようにと、こういう配慮をいたしまして、今回の改正案を御提言させていただいているということでございます。
  17. 岩井國臣

    岩井國臣君 それでは、ちょっと再び三権分立に戻らさしていただきたいと思います。  行政にチェック機能ということがよく言われるわけであります。行政に対するチェック機能というのは、国民の負託を受けている立法にはそもそも本来的な機能として備わっているかと思います。立法は、国民の立場に立って行政をチェックするという意思を常に持っていなければならない。しかし、省についてはどうかなと、ちょっといろいろ思っておるわけであります。  省というものは、もちろん国民の立場に立つというのではございませんし、国民と法の間にあって中立というものでなければならないのではないかと。法にぴったりとくっ付いて、常に法に忠実でなければならないのではないかと思ったりもするわけであります。庶民の感性に合った大岡裁判が一番良いとは言い切れないのではないかと思います。行政に対するチェック機能を、司法がしかるべき役割を果たすべきだとお考えの人が決して少なくないようでありますけれども、私はそういう考えにちょっと違和感を持っているのでございます。  かつて、水害訴訟が頻発しましたけれども、原告側には河川行政そのものの在り方を問題にするというところがございまして、マスコミでは河川行政が裁かれているという、そういう風潮があったかと思います。多摩川の水害訴訟は一審で負け、二審で国が勝って、最高裁まで行って差戻しになったわけでございますが、法務省と相談の上、建設省は上告しないことにしたわけでありますけれども、私はそのときの河川局長でございまして、実は省内の説得に大変苦労したのでございます。河川局のほとんどの人は、河川管理に瑕疵はなかったと考えておりました。私もそうでございました。しかし、法務省の考え方と同様、私はこの裁判は絶対に勝てない、そういうふうにも思っておったわけであります。河川管理に瑕疵はないと思っていたけれども、この裁判は勝てない。困ったなと。さて、どうするかと、かんかんがくがくな議論があったわけですね。裁判、これ上告しなかったらもう裁判確定するわけですから、河川管理に瑕疵があったということが確定するわけでありますから、さて困ったなと、まあこんなことだったんですね。  もちろん、裁判の過程でいろいろと論争が行われる、そのことによって今後の河川行政に参考にすべきことは多々あるのでありますけれども、私の考えでは、河川管理に瑕疵があったとの判決が確定したからといって、まあ反省すべき点はあるんですけれども、単純に判決に従って河川行政そのものが裁かれたということではないというふうに思っておりました。  私の考えでは、訴訟指揮が間違っていたので負けたと。予見可能性で争ったから負けたのであって、財政制約論で争っていれば負けなかったのではないかと、こんなふうにも思ったり、そんなことはどうでもいいんですけれども、要するに言いたいことは、私の考えでは、裁判というものは多分に闘う戦法に左右されるのではないかと。戦略、戦術が悪けりゃやっぱり負けるんですよ。  したがいまして、裁判の結果に行政は一々従う必要、ちょっと極端な言い方ですけれども、必要がないのではないかと。結果というよりも、その闘い方、論争の中から学ぶべきこと、行政としてですよ、学ぶべきことをしっかり学んでいくということでいいのではないかなと、こんなふうに実は思っておるわけであります。  行政事件訴訟というのはあくまでも国民権利救済するものであって、行政そのものを私は裁くものではないと、そのように考えているのでございますが、そこで法務大臣にお伺いしたいわけでありますが、行政に対するチェック機能というものにつきまして、法務大臣の基本的認識をお伺いしたいと思います。
  18. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) お尋ねの行政に対するチェック機能につきましては、三権分立の下でございますと、行政まず自らによるチェック、それから立法による行政のチェックも当然ございますし、それから司法による行政のチェックもございますが、これはいずれも重要な性格、性質を持って、それぞれ努力をしながら共存していくと。それで、結果として調和を保った形で国民利益が保障される、ここが大事であろうかと思います。  このうち、司法行政に対するチェック機能ということにつきましては、司法権の行使を通じまして三権の抑制と均衡の仕組みの中で行政作用の適法性を審査し、国民権利利益救済を確保すると、こういう立場になろうかと思いますが、近年におきましては特に行政需要増大して、しかも多様化しているということの中で、行政の果たすべき役割が格段に大きく変化していることを考えますと、これに対する、行政に対するチェック機能の司法の持つ重要性はますます増大していると、また重要になっていると考えるわけでございます。  いずれにしましても、立法、行政司法ともに、それぞれ最終的には国民利益というところを追求し、そこを一つの到達点として、相互の権利行政の手法、それを調整すればいいわけでありますので、裁判その他に関しては、必ずしも勝った負けたということよりも、結果的にいずれの答えが国民のためになるかと、ここを判断として、多少の思いは残るにいたしましても、そこを上手に調整するということが大事でございますので、今回の法案では最大限それに近づくような手順、手続を用意したつもりでございます。
  19. 岩井國臣

    岩井國臣君 スペインの違憲立法審査制度というのがありますけれども、この制度は憲法裁判所を作って審査をしております。これに対し、日本の違憲立法審査制度というのは、通常の裁判所が具体の事件裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で審査を行う方式になっておるかと思います。これは司法に対する考え方の違いが背景にあるのではないか。  そこで質問でございますが、行政訴訟制度における司法権の役割についてどのようなものとお考えになっているのか、御説明願いたいと思います。
  20. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) ただいま御指摘のとおり、我が国事件を通じて、その中で違憲立法審査権、これを行使をしていくと、こういう建前になっておりまして、ヨーロッパあるいはそれ以外の外国もいろいろあるかと思いますけれども、憲法裁判所、こういうものを設けているシステムとは違うということになります。  したがいまして、行政事件訴訟法に求められるその役割につきましても、やはり訴訟、まず紛争、これを最終的にどちらかというのを裁くのが、これが司法権であるという建前になるわけでございます。したがいまして、個別の権利関係を解決をして、それで最終的には国民権利救済に資する、これが司法の役割だということになろうかと思います。  先ほどの御質問の中にも出ておりますけれども、行政のチェックという問題、これは当然に国民権利救済を図る前提としてはそのチェックが入るわけでございますけれども、ただ、それが最大の目的かと言われると、そうではない。それはやはり個人の権利救済をする前提として判断をする、それが違法か適法か、そういうことになろうかと思います。  そういう意味で、この行政事件訴訟法の考え方の中には、行政の違法性のチェック、これを重点的に目的として掲げるべきだという考え方と、やっぱり個別の権利救済をしていくべきだという、この両方の考え方がございまして、私ども、今回、いろんな議論はございましたけれども、基本的には個別の権利救済、これを中心に考えていくということで、改正案をそのまま出させていただいているということでございます。
  21. 岩井國臣

    岩井國臣君 さて、それでは各論に入っていきたいと思います。  まずは処分性の問題でございます。  取消し訴訟におきまして、その対象となる処分に該当しないとして却下されることがあるのは、市民の権利救済観点からすると問題があると。その辺が一番の問題だ、そういう指摘があるわけですね。行政訴訟検討会でも、処分性を緩和すべきであるとの見解が当然あったわけであります。  質問でございますけれども、なぜ処分性の問題を現状のままとしたのか、国民にもなるほどと分かるように御説明願いたいと思います。
  22. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、今回の検討で、取消し訴訟の対象として処分性がないものについても認めるべき、あるいは処分性の考え方を緩和すべきであるということの議論がされたわけでございますが、最終的にはそこのところは変更を加えていないということになろうかと思います。  その理由でございますけれども、まず、取消し訴訟の対象を拡大すると。よく例に出されますのは、例えば行政計画、それから通達とか、それと行政指導とか、こういうものを一般的に対象にできないのかと、こういう議論が行われるわけでございます。これは一般的に、このことについてはそれ自体として処分性がないということで、取消し訴訟としての抗告訴訟の対象とはならないという考え方が一般でございます。  これは、ここまでにじゃ処分性を認める、あるいは取消し訴訟の対象にするということになりますと、例えば行政計画が発表されまして取消し訴訟の対象になりますと、それじゃ訴え提起の期間、今度六か月にしておりますけれども、それを過ぎてしまいますともう争えなくなってしまうということにもなるわけでございまして、そういうような効果も伴ってくるわけでございますね。  ですから、通達を仮に出されますと、そうすると、じゃ六か月たったらもう争えないのかという、そういうことにもなるわけでございまして、そこがなかなか、そういう点もよく考えてやらなければならないということが非常に難しいということで、今回はその範囲を変えることはしなかったわけでございます。そういう点も全部総合的に検討する必要があるということになります。  それからもう一つは、先ほど申し上げましたように、行政計画とか通達とか行政指導、こういうものをじゃ一般的に訴訟の対象にするのかという問題でございますけれども、これにつきましても、裁判は、やはり個別の権利関係についていろいろ紛争が生じたと、こういう場合に国民権利をどういうふうに救済をしていくかというのが裁判の、司法の役目ということでございます。したがいまして、そういう事態でもないのにただそれだけを争わせるというのは、今の裁判の考え方からいかがなものかという、もっと抜本的な議論をしなければならないだろうということで、今回はそこには踏み込んでいないということでございます。  それじゃ一切対象にできないのかということになるわけでございますが、これはそうではなくて、例えば、こういうような通達とか行政指導があるということを前提にして、抗告訴訟の対象とならないようなその行政行為を契機として争いが生じた公法上の法律関係については、確認の利益が認められる場合には現行法でも当事者訴訟としての確認の訴えが解釈上可能なわけでございます。  ただ、ここのところは意外と知られていないというところがございまして、余り利用が多くないということもございまして、そういうことを明確にするという趣旨から、この公法上の法律関係に関する確認の訴え当事者訴訟の一類型として明記をするということにさせていただきまして、これで本当に権利関係に影響があるならば確認訴訟を利用していただきたいと、こういうことでございます。  結論的に申し上げますと、その通達あるいは行政指導等に全くその自分の利害に、権利関係のない方がそれが不満だといって裁判を起こすということはできませんけれども、もしそういう行政指導あるいは通達等があることによって自分が申請をしたときに自分の権利義務関係に影響があるということであれば、この確認訴訟類型を使っていただいて、そういう義務がないことの確認とか、そういうものを起こしていただければ実質的には権利救済になるということでございますので、そちらをお使いいただきたいと、こういう趣旨でございます。
  23. 岩井國臣

    岩井國臣君 次に、原告の適格要件の問題に触れさせていただきたいと思います。  取消し訴訟では、法律上の利益を有しない限り、結局、原告適格を有しない限りということですが、却下されるということがあるのは、処分性の問題の場合と同様に市民の権利救済観点からすると、やはり問題があるのではないかという指摘がございます。  そこで、この問題につきまして、原則的な物の考え方は変えないけれども、解釈条項を新設して実質的に原告適格を拡大されましたですね。  そこで、質問でありますが、第九条第二項の解釈条項の分かりやすい説明をしていただきたいと思います。今まではこういうことで法律上の利益がないと解釈されていたのに、今回はこういうことでオーケーだと、そういうふうに、ちょっと具体的に分かりやすく例を挙げて説明いただければ有り難いんでございますけれども。
  24. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この九条二項、大きく分けて四つの要素が書かれております。なかなか四つ理解がなかなか難しいところがございますけれども、ちょっと分けて御説明を申し上げます。  第一でございますけれども、当該処分又は裁決根拠となる法令の趣旨及び目的、これを考慮しなさいということでございますので、例えば何かの処分が行われると、そこの根拠となる条文がございますけれども、それだけではなくて、その全体の法律の趣旨、どういうことを守ろうとしているのかと、そういう点も全部考慮をしなさいと、こういうことでございます。  それから第二が、当該処分において考慮されるべき利益内容及び性質を考慮するということでございますので、処分をしたときにどういうことを考えてその処分をしなければならないのかと、そういう点も、その法でどういう点までその保護をするというふうに考えているのかをよく考えなさいと、こういうことを言っているわけでございます。  それから第三でございますけれども、最初の処分ですね、最初に申し上げたその法令の趣旨及び目的を考慮するというその点で、これを考慮するに当たって、その当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参照するということでございますので、その法律だけではなくて、その目的を共通にする法律もきちっと見た上で判断をしなさいと、こういうふうになります。  それから第四でございますけれども、先ほどその処分において考慮されるべき利益内容及び性質というふうに申し上げましたけれども、これを判断するに当たって、仮にその当該処分根拠となる法令に違反してされた場合に、その害されることとなる利益内容及び性質ですね、それからこれが害されることに、害される態様及び程度、これも勘案するということでございますので、現実にどういう被害が生じてくるのか、その程度はどうなのか、どういう性質なのか、こういうことも考え合わせて当事者適格があるかどうかを判断をしなさいと、こういう四つの命題を掲げているわけでございます。  これにつきましては、今までは解釈で行われていたわけでございますけれども、今回はその解釈として必ず考慮しなければならない規範として掲げているわけでございますので、必ずこれは全部考えなければならないということになります。  考えるについても、またここにももちろん解釈がございますのでその幅は当然あるわけでございますけれども、そういう意味では、今までは解釈にゆだねられておりましたので、その解釈の幅はかなりありますから、一番下の方を取るか上の方を取るか、これは自由というふうに言われていたわけでございますけれども、これを必ず今掲げたものについては考慮をしなさい、こういうことになります。  例えば、その例を挙げますと、処分の許可要件が非常に技術的な、技術上の基準で決まっている場合もあるわけでございますけれども、そういうふうに一般的、抽象的に定まっている場合でありましても、その根拠となる法令の規定の文言だけではなくて、それによることなく、その根拠法令の趣旨、目的あるいはその当該処分において考慮されるべき利益の性質、内容、こういうものを考慮するということになるわけでございます。  それから、その処分が違法にされた場合に起こる事故などによって害される利益内容及び性質、それから並びにこれが害される態様それから程度、こういうものも勘案をして、その想定される被害の内容、程度を踏まえまして個々事件について考えていきなさいと、こういうふうになるわけでございますので、そういう意味で、そのある処分根拠となる条文ですね、それの文言だけにとらわれることなくてその法令全体の目的を見なさい、それからその処分をすることによってどういうところを保護しようとしているのか、そういうこともきちっと考えなさい、現実に起こる被害の実態、これも全部判断をしなさいということになります。それから、関係する法令ですね、これについても全部考慮に入れなさいと、こういうことになるわけでございます。  一つ、長くなって恐縮でございますが、例を挙げますと、都市計画法上で道路の拡幅工事をするといった場合に、これ現実に例もあるようでございますけれども、これに対して不服を申し立てることができるものについては、その法律によりますと、拡幅工事で土地を奪われる所有者だということになるわけ、解釈上なるわけでございますけれども、今まではそういうふうに解釈されてきているわけでございますけれども、その後、最近、環境影響評価法というものが、アセスメント法と言われておりますけれども、これができまして、これの関係では、いろいろな公共的な事業、大きな事業をする場合には、そこで行われるその事業によって与える環境、環境にどういう影響を与えるかということも全部評価した上で、そしてその環境影響評価法で決まってくる内容をそのまま事業計画の内容として取り込んでやらなければならないというような法律ができておりますので、これは目的を共通にする法律ということになるわけでございますので、それを全部考慮した上で決めなければならないということになります。  そうなりますと、単に道路を奪われる土地所有者だけではなくて、その周辺に住んでおられます居住者ですね、こういう方についても、もちろん被害の程度とかその性質にもよりますけれども、そういう点も考えて当事者適格を決めろということになるわけでございまして、これは大きな違いが出てくるということでございます。
  25. 岩井國臣

    岩井國臣君 次に、第二十五条の関係でございますが、二十五条に執行停止の考え方、これは基本的には変わっていないわけですが、第二項において「回復の困難な損害」という文言が「重大な損害」というふうに変わっておりますね。それでまた、新たに第三項が新設される、これらの変更によりまして今までとは大分変わってくるんじゃないかと思いますけれども、どのように変わってくるのか、これもちょっと具体的な例を挙げて御説明願いたいと思います。
  26. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 執行停止の基本的な考え方は確かに変わっていないわけでございますけれども、この損害要件のところ、それの判断方法について変更が加わっているということでございます。  御指摘のとおり、現在その二十五条二項では回復の困難な損害と、これを要件にしているわけでございますが、これを重大な損害というふうに改めております。また、この三項で、裁判所が重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、その損害の回復の困難の程度を考慮するとともに、その損害の性質及び程度並びに処分内容、それから性質、こういうものも総合的に勘案して考えなさいと、こういうふうになっているわけでございます。  これをもうちょっと具体的に言うと、回復困難な損害ということでございますけれども、例えば金銭賠償の可能性も考えると損害の回復の程度が必ずしも著しいとまでは認められないという場合でありましても、具体的な処分内容、それから性質を勘案した上で、重大な損害を生ずると認められるときは執行停止を認めることができるということになりますので、例えば一つ例を出しますと、営業が完全に破綻するところまではいかないといたしましても、その営業を回復するについて重大な損害が起こり得るという場合にも、これを視野に入れて実情に即した執行停止の運用をしなさいと、こういうふうになるわけでございまして、そういう意味では、回復困難な損害というと取り返しの付かない損害ということにかなり限定的になるわけでございますが、そこまで至らなくても重大な損害が生ずる場合には、処分との総合的な比較をするわけでございますけれども、執行停止が可能になると、こういうことを言っているわけでございます。
  27. 岩井國臣

    岩井國臣君 大分時間がなくなってきたんですけれども、あと一、二。  今回の改正案によりますと、出訴期間等の教示に関する条項が新設されております。行政庁が書面による処分をする際に、その相手方に対して、当該処分に係る取消し訴訟の被告、出訴期間及び不服審査前置の要否を教示しなければならないというふうになっているかと思います。当たり前のことでありますが、教示をするのであれば、それだけではなくて、ともかく分からないことがあったときの相談窓口を教示するとか、何かもうちょっと、もう一歩踏み込んで行政訴訟を分かりやすく、利用しやすくするための工夫というのができなかったのかなと、こう思ったりしておるんですが、この点いかがでしょうか。
  28. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、訴訟自体が難しい上に、行政訴訟、ますます複雑でございますので、なかなか分かりにくいということでございまして、今回、書面によってそれを教示するという制度を設けさせていただきました。これによって今よりは良くなるだろうというふうに思われるわけでございますが、この書面に記載された内容をどれだけ易しく、理解しやすいようにするかということが一つポイントだろうと思います。  この点につきましては、私どももこの法案御承認いただいたら、行政庁に対してなるべく易しいもの、理解しやすいもの、こういうものを作っていただけるようにいろいろお願いをしなければならないだろうというふうにまず考えております。  それで、まずそういう手当てもしなければなりませんけれども、もう一つは、この制度自体をどこでじゃそういうふうに相談をしたらいいのかということにもなるわけでございますので、この点は、この間御承認いただきました総合法律支援法、これによって設立されます日本司法支援センターが情報提供業務を行うわけでございますので、こういう中で是非分からないことは聞いていただきたいと。決して迷わないような形で相談をさせていただくということになろうかと思いますので、いろんな形でこれを図っていく必要があるというふうに考えております。
  29. 岩井國臣

    岩井國臣君 時間がなくなりましたので、一つ要望だけさせていただきたいと思いますけれども、要するに、なかなかこれ難しいんですね。一般国民に分かりにくいところが多々あると思うんですね。要は、今まではこういうことは行政訴訟にならなかったけれども、今回の法改正でこういうふうに可能になったと、そういうのを、例示をできるだけ数多く、例えばインターネットで検索できるようにするとか、ひとつ特段のそういう配慮を考えていただきたいということをお願いさせていただいて、最後に法務大臣質問をさせていただきたいと思いますけれども。  私は、今回の行政事件訴訟法の抜本改正を高く評価させていただいております。もちろんこれからの課題がないわけではないと思います。行政事件訴訟の結果をどう行政や立法に生かしていくのか。これからの課題は行政府にも当然あるでしょうし、立法府にもあるのではないか、そのように思います。  そこで、質問でございますけれども、司法制度にかかわる行政を預かる法務大臣とされましては、今回の行政事件訴訟法の抜本改正を契機として、司法制度の近代化にどう取り組んでいくおつもりであるのか、法務大臣の決意を聞かせていただきたいと思います。
  30. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 冒頭に申し上げましたように、行政需要が非常に増大していることと、また行政作用多様化をしていると。これによりまして行政による国民利益調整が一層複雑化しているということの中で今回のこの司法制度改革を行う、そして特にまた行政訴訟に関しての大改正もやろうと、こういうことで取り組んでおるところでございます。  ここで司法行政のかかわりがどうあるのが一番いいかということでございますが、これはやはり行政の目的としております国民の福祉、こういったものが個別の個人の権利についても保障されるということで、司法のまた果たす役割もそこに大きくあるわけでございます。  したがいまして、今後とも司法制度改革を進めていく中で、結局、司法、立法、行政の三つのそれぞれの機能がそれぞれやはり工夫し努力する中で、相互にチェックし、補完し、影響し合う中で、最終的には国民利益が実現されていくと、こういうことが望ましいわけでございます。  したがいまして、司法制度改革は今回で終わりとかいうことではございませんで、これはもう今後ともに、社会、経済、政治含め、あらゆる面での変化に適応しながら、やっぱり常時見直しと改正、改良に向かって努力を進めるべきことと考えておるわけでございます。  引き続き、その意味で最もリーダーシップを取っていただくべき立法府が、それぞれの御意見国民皆様の多様な御意見を吸い上げて、司法に、あるいは行政に御意見を反映していただくことが私は極めて重要だと考えております。
  31. 岩井國臣

    岩井國臣君 終わります。
  32. 角田義一

    ○角田義一君 民主党・新緑の角田義一でございます。  今、岩井先生から、自分の経験も踏まえられた非常に貴重な御意見も承りながら、私は感銘を持って聞いておったんですけれども、行政事件訴訟法質問しろということで一生懸命勉強しましたけれども、こんな分からない法律はないですな。難しくて分からない。それが率直な感想ですよ。  この前、この行政事件訴訟法について、私どもの民主党・新緑の鈴木寛議員が大臣に本会議でいろいろ質問をいたしておりました。自分の同僚議員を褒めてはいかがと思いますが、私は非常に立派ないい質問だったなというふうに率直に思いました。彼が提起をしている幾つかの問題について、各論に入る前にやっぱり大臣なり本部事務局長の意見を私聞いておきたいと思っております。  彼がその本会議でこう言っておるんですな。  我々が、戦後政治を振り返り、国家の基本法を見直すときに最も重視すべきは、我が国が、いまだに行政裁量の恣意性に対して裁判所も議会もそれを抑止する十分な歯止めになっていないという厳然たる事実でありますと。  現行憲法の進化、発展を図るとすれば、その第一の目的は、官僚主権を脱し、真の国民主権を実現することであり、とりわけ行政を民主的統制と正義による法の支配に服さしめることでありますと。  本来、行政訴訟制度とは、主権者たる国民がその権力を一時的に信託した行政府が行う違法又は不当な行政活動を抑止し、是正し、そして正義を実現、回復するための制度でありますと。その意味で、行政訴訟は選挙と並んで真の国民主権と法の支配を支える根幹的な制度であると。こういうふうに、彼はこの行政訴訟というものについて、憲法上の位置付けというものを踏まえながらこう述べておるわけであります。  これは彼の一種の主張でありますが、これに対して別に本会議大臣の所信を問うてはおらないんですね、議事録を見ましたら。しかし、私はなかなか核心をついたいい主張だなと思っておるんですが、法務大臣、この主張に対してどんな存念というかな、どんな感想を持っておるか、まずそれを聞いておきたいと思います。
  33. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 大変本質的な問題についてのお尋ねでございます。これにつきましては、まず私の意見という前に、司法制度改革審議会意見書が出ております。  これについては、「司法は、具体的事件・争訟を契機に、法の正しい解釈・適用を通じて当該事件・争訟を適正に解決して、違法行為の是正や被害を受けた者の権利救済を行い、あるいは公正な手続の下で適正かつ迅速に刑罰権を実現して、ルール違反に対して的確に対処する役割を担い、これを通じて法の維持・形成を図ることが期待されている。」というふうに述べておるものでございますが、この同じ意見書の中でさらに、司法権の役割と行政訴訟に関しまして、憲法は、国会、内閣と並んで、裁判所三権分立ないし抑制・均衡システムの一翼を担うにふさわしいものとすべく、民事・刑事事件についての裁判権のほか行政事件裁判権をも司法権に含ませて、更に違憲立法審査権を裁判所に付与したと、こういうことになっておるわけでございます。「裁判所は、これらの権限の行使を通じて、国民権利・自由の保障を最終的に担保し、憲法を頂点とする法秩序を維持することを期待されたのである。」と述べておるわけでございます。  今回の行政訴訟制度意義につきましては、この意見書で述べておりますところと基本的に同じ認識に立ちまして、更にこれを具体化して御提言申し上げているわけでございますが、司法権の行使を通じて、三権の抑制と均衡の仕組みの中で行政作用の適法性を審査し、国民権利利益救済を確保するという重要な意義を有していると考えておるわけでございます。  ただ、委員指摘のとおり、あるいは本会議における鈴木議員の御指摘がありましたように、とかく行政の方が非常に大きく強く発展する中で、裁判所の機能がそれに十分追随していたかどうか、あるいはその機能を十分発揮していったかどうかということについては、やはり私は多少反省を要する面もあろうかと思いまして、今回の改正では、四十年ぶりという中で、そういったこの裁判所の機能をより適切な形に近づけまして、バランスを取ったものということでございまして、御指摘の趣旨には十分沿い得るものと考えておるわけでございます。
  34. 角田義一

    ○角田義一君 山崎さん、どう思いました。
  35. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 今大臣からお話があったとおりでございますけれども、私、裁判所裁判の役割、行政裁判とどういうふうに役割を分担するかということでございますけれども、最終的に行政は法に従った行政をしなければならないと、これがもう命題でございます。それについて本当に法に従った行政になっているかどうか、これを審査をするのが裁判であるということになりまして、そのことによって国民権利救済をされていくと、こういう仕組みになるということでございますけれども。  従来の行政司法の考え方、これは昭和三十七年にこの元の制度が作られておるわけでございますが、そのときとやはり少し変わってきているだろうという認識でございまして、この中でその最たるものは、今までは取消し訴訟類型中心に考えていたと、処分が行われたときに事後的にどうするかという、こういう手段しか基本的にはないということだったわけでございますけれども、今回は、行われた後であってもそれを義務付けるという義務付けの訴え、それから事前にそれを差し止める訴えですね、それに伴いましてその仮の救済ということになるわけでございますので、そういう意味では、従来の司法行政の役割のラインがあるわけですけれども、それにかなり踏み込んだ形、もちろん限度はございます。そういう意味で、いろんな要件を設けておりますけれども、やはり裁判の方がもう少し中に入って審査をすると、こういうような考え方に変わってきているわけでございまして、それだけやはり司法の役割、これの重要性、それから国民権利救済をどうあるべきかという考え方が大きく変わってきていると。それを受けて今回御提案をさせていただいているということでございまして、ますますその司法の果たす役割が大きくなっているという認識でございます。
  36. 角田義一

    ○角田義一君 そして、彼は続いてこう言っているんですね。  現状では、行政事件訴訟における被告適格や原告適格が極めて限定的なため門前払いされるケースが多く、やっと裁判にこぎ着けたとしても、行政をおもんばかる我が国裁判所の消極的姿勢から原告が敗訴する場合が圧倒的に多くなっておりますと。  我が国行政訴訟の第一審受件件数は、先ほどちょっとお話のあった、年間二千件余りで、ドイツの二百分の一、アメリカの十六分の一、さらに台湾の八十五分の一、韓国の二十八分の一と極めて少なく、原告の勝訴率は一部勝訴も含めてもわずか二〇%にすぎないということですな。というふうに彼は指摘をいたしております。  恐らくこの行政訴訟事件を、法案を作る過程でいろいろ外国の事例というようなものも相当勉強されてしんしゃくをされてきていると思うんですが、二つだけちょっと聞いておきたいんですね。  アメリカはさっき言った四万一千件ということですから、日本の人口からいえばかなり、さっき言った日本の十六倍ですね、十六倍も訴えを起こされているということなんですが、これは訴訟制度そのものにいろいろ違いがあるんでしょうか。どういうふうにその辺は理解をされていたのか。あるいはまた、アメリカ訴訟制度行政訴訟ですよ、についてのいいところとかそういうのも取り入れるというようなことは議論されたのかどうか、まず経過だけちょっと聞いておきたいんです。
  37. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) アメリカは、現在、日本で行っている制度と基本的には同じでございますので、通常の裁判所でその判断をしていくということになるわけでございますので、その点ではそんなに大きく違いはないという理解をしております。  じゃ、なぜ日本はこんなに裁判が少ないのかと、事件が少ないのかということでございますけれども、これについてはなかなか様々なその要因がございまして、難しい点はございますけれども、やっぱり日本人の気質の問題がかなり影響しているんではないかということが一つ全体としては言えるだろうと思います。要するに争いを好まないというような、元々持っている性質があります。それと、やはり長年、どうなんですかね、お上に逆らわないというような気質も残っているといえば残っているのかもしれません。この辺はやっぱり日本人全体の意識の問題かなというところもあろうかと思います。  あと、検討会で若干議論されたのは、これはもう私も最終的にはそれが正しいのかちょっと何か確信はないんですけれども、意見としては、やはり日本は非常に行政指導がよく機能していると、これがいいか悪いかはまた評価は別といたしまして。それで、事前にそこで指導があって是正をしていくんで実際には訴訟にならないというようなことが多いというようなことを指摘される方もおられます。そういうことから、それほど事件が多くないと。これは民事訴訟全体についても同じことが言えるかと思います。  あと、勝訴率云々という問題になりますと、率でいえば日本は二〇%近く原告が勝訴しているわけでございますので、諸外国に比べてそれほどその数字が少ないというわけではない。やっぱり一定の機能はきちっとしているだろうということになろうかと思いますけれども、そういう点で、諸外国の点については一応参考にはいたしましたけれども、やはり我が国としてどういう点に今問題点があるかということを中心に、それでその各制度改正点、これを取り上げまして御提案をさせていただいていると、こういう経緯でございます。
  38. 角田義一

    ○角田義一君 もう一つ聞いてみましょうかね。  ドイツが先ほどのだと五十万件ですね。これ、日本は二千件だ。これはいかにも、同じ敗戦国でいろいろな、敗戦してたどってきたドイツと日本というのはいつもいろいろ比較されるけれども、五十万件行政事件があるというのは非常にびっくりすると同時に、なぜこういう五十万件もあるのかねということと、それから、山崎さんあれだぜ、あれだぜなんて言っちゃいけないな、これドイツで五十万件もあって勝訴率が二〇%なんて、こんな五十万件なんか、おれ絶対ないと思いますよ。相当恐らく、分からない、私はドイツ行ったことないから分からないけれども、恐らくドイツの行政事件の勝訴率がもっと格段に高いんじゃないですか。それで救済される人が多いから五十万件も出ているんじゃないかと思うんだけれども、その辺は検討委員会とかそういうところでどういう分析をしているんですか、したんでしょうかね。
  39. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 勝訴率については一つのデータで承知をしているわけでございますので、本当にどうだったかということを言われましてもそこはちょっと私どもも分からないということでございますが、ただ、検討会でいろいろ言われた、何で多いのかと、ドイツで。  その例をちょっと紹介をいたしたいと思いますけれども、例えばドイツは、戦前の日本と同じでございますので、司法裁判所じゃなくて行政の中の裁判所で判断をしていくという制度を取っておりますけれども、ドイツは、例えば庭に小さな物置を建てるようなこと一つについても逐一建築基準法上の規制があって、違反に対しては例外なく除去命令が発せられると、こういうような制度も設けていると。これが前提になっているということのようでございまして、そうすると国民においてそれが不服であれば行政訴訟でそれを争っていくというようなことで、国民生活の細部にわたって行政関与をしていくという状況があると、こういう指摘がされているということでございます。  このように、ですから、行政事件の件数については国民生活と行政のかかわり方ということによっても大きく異なってくるんではないかというような議論がされておりまして、これはもう少し詳細に本当にどういうことかということを実態を調べていかないとなかなか結論が出る話ではないだろうというふうに私ども理解はしております。
  40. 角田義一

    ○角田義一君 じゃ、ちょっともう一つ聞いてみましょうか。  台湾の八十五分の一とか韓国が二十八、要するに日本でいえば台湾は日本の八十五倍ですよ、それから韓国は二十八倍ですよ。この韓国とか台湾というのは後進資本主義国で、今だあっと日本を追い付き追い越そうとしているときだね、今。こういう、こういうのというのは失礼だな、韓国とか台湾でこんなに行政事件が多いわけですな。これ、どういうふうにその委員会検討したの、同じアジアですよね。
  41. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、人口比でいえばかなりあるということになろうかと思いますけれども、ちょっとこの点について、どうしてそうなのかということを最終的にそこまで分析はできておりません。むしろ、日本がどうして少ないのかというところに帰着するんだろうということでございまして、先ほど申し上げましたように、やっぱり争いを好まないという国民性というんですかね、それからお上に弱いという国民性というのはかなりあるんではないかということだろうと思うんですね。そういう点ぐらいしか今のところはちょっとなかなか、どうして少ないのかと、これ、なかなか分析はこれ以上できない状況でございます。  ただ、使い勝手がいいか悪いかという問題になりますと、これは個々制度についてやはりその使い勝手が悪いところもあるわけでございます。時代、これ四十年間改正していないわけでございますので、そういう点については使いやすいように手当てをしていこうというのが今回の改正の趣旨でございまして、それじゃ大本の国民の意識はどこでどう変えるかという問題になりますと、これは司法だけの問題ではなくて、国民全体の考え方の問題ということになりますので、これはまた別途の方法、やり方が必要になっていくかという理解をしているわけでございます。
  42. 角田義一

    ○角田義一君 まあ、よく山崎さんが、お上に弱いということをあなたよく言ったなと思いますけれどもね。  要するに、いろいろの本読んで勉強してみると、やっぱり行政訴訟はやるだけ無駄だというんだな。学者なんか言っているよ、やるだけ無駄なんだと。だけれども、無駄なんだけれども、やはりそうはいっても、権利侵害に耐えられないというか我慢できないと、あえてお上に、盾突くと言っちゃちょっと言葉は悪いけれども、たださなきゃ我慢できない、もう。こういうので本当に踏ん張ってやっているのが二千何件じゃないかと僕は思うんだね。  それで、先ほどの、行政訴訟はやるだけ無駄だと、それから官僚、強大な官僚機構に我々はもう対抗できない、さっき言った泣き寝入りをしなきゃならぬという風潮も私はあると思うんですよ。  それともう一つはやっぱり、今日は最高裁の偉い人が来ているから聞くけれども、やっぱり裁判所裁判官の態度なり傾向なりというのはどっちかというと、勝訴率二〇%を見ると、どっちかというと、もうはっきり私に言わせると行政寄りだよな。民衆の側じゃねえよな。行政のやることは大体間違いない、お上のやることは間違いない、裁判所訴えられてきてもなかなかそれを、行政を負かすということについては何となく抵抗感があるというような意識がいまだ裁判官にあるんじゃないんですか。偉い局長さん、どうですか。
  43. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 大変大きな観点からの御質問ですが、裁判所といたしましては、一つ一つの起こった事件について法律の支配ということでもって検討して判決をしておるという、その一つ一つの集合体についてどうか、評価されるかという議論でございますので、この点については、裁判所としては一つ一つの点にしっかりとやっていくということでやってまいりましたが、そのやる手続について変更していこうということになっておる、それも相当大幅な変更を加えていこうという状況になっておりますので、またこの変更の趣旨を考えまして一つ一つ事件について専心努力をしていきたいというように考えておるわけでございますが、その全体像がどうなのかということは、ひとつ裁判所の外からごらんになっていただいて御議論をいただくということを私ども拝聴するという立場にあるというように考えております。
  44. 角田義一

    ○角田義一君 あなたの答弁はいつも優等生の答弁で、まあ結構なんだけれども。  国民一般的な感覚なり感性からいうと、必ずしも裁判所は民衆の味方ではないと思っている人が多いということですよ。それは裁判官も腹の中に置いておいた方がいいですよ。特に行政事件なんかやれば、これからいろいろ制度が良くなっていくようだけれども、訴訟指揮にしろ、あるいは証拠の収集にしろ、あるいは行政に対する、あれですな、訴訟指揮にしろ、どちらかといえばやっぱり行政寄りじゃないかという、そういう感性を持っている国民の方がやっぱり多いということ。  それはやっぱり裁判官、これからいろいろ研修されたり修習されたりしてしゃばに、しゃばの中へ入っていくというからいいことだと私は思いますけれども、やっぱりこの行政事件訴訟法が根本的に改革をされていくと、将来、例えば行政庁同士の裁判なんというものだってあるかもしれないね、市が国を訴えるとかですね。今日も朝来たら、アメリカで安楽死の問題で州とそれから司法省との対立を裁判所が裁いていましたけれども、そういう行政同士の争いとかいうことだって今後やっぱり日本の民主主義が進化してくれば起こってくるだろうと思う。そうすると、裁判官、相当やっぱり法の支配というものを本当に的確に、しかも、何と言ったらいいのかな、今言った行政庁同士の争いとか、あるいは市民がどんどんどんどん訴えを起こしてくるとかいうことになると、変な話なんですけれども、勝訴率二〇%でいいなんというわけに私はいかなくなると思いますよ。もうちょっとやっぱり民衆が勝つようになってくると私はもう期待しているんだよ。  ただ、あんたの答弁は大体分かっているんだ。憲法と良心に基づいて、法律に基づいてやりますからと、こんな話だな、大体、答弁は。だけれども、それだけじゃ済まないところに来ているんじゃないかということをあえて聞きたいんですよ。裁判官の、ちょっと言葉はきついけれども、裁判官の意識改革もやってもらわないと、これだけの器を作って、いい器を作ったけれども、それが生きないというおそれは私はなしとしないと思うから、裁判官の意識改革もこの行政事件訴訟法を直すに当たってはやっぱり考えてもらわぬといかぬじゃないかということをあえて、あえて聞きます。
  45. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 裁判官の意識改革という点でございますが、まず今の行政訴訟について、国民権利の実現という観点から、何が問題とされ、今回の法改正の過程でどこまでそれを取り入れるべきと考えられたかというような議論について、裁判官がしっかりとした認識を持つことは大変重要であるというように考えておるところでございます。  この観点から見てみますと、今回の法改正検討におきましては、司法制度改革推進本部に設置されました行政訴訟検討会のメンバーの一人として、地方裁判所行政訴訟を担当しておるベテラン裁判官が議論に加わっております関係上、この検討の経過と内容につきましては全国の裁判官に詳細な情報が提供されております。また、この国会でもただいまのような指摘がされたということについて、今後も裁判官に十分な情報を提供していって、どのような議論の中で今回の法改正が行われてきているのかということを十分に周知をするという方法を取っていきたいというように考えているところでございます。  既に、このような議論をかみ砕く中で、多くの裁判官が現在の行政訴訟の置かれておる状況について改めて認識を深めてきておるというように認識をしておりまして、裁判官の意識改革という点について申しますと、現在、既に実行の途上にあるというように考えているところでございます。  なお、この改正法が成立しました後にも、裁判官、行政事件の担当裁判官の間で協議を十分に重ねる、あるいは司法研修所で外部の講師などを招いて研究会を行うというようなことを通じまして、改めて裁判官が法改正の趣旨と内容についてしっかりとした認識を持って事件に臨むことができるように、今後とも努力をしていきたいというように考えておるところでございます。
  46. 角田義一

    ○角田義一君 まあ、大いに期待をいたします。十年後には勝訴率が少なくとも半分以上ぐらいになっていてもらわないとこの法律改正した意味ないと思いますので、御期待を、期待をさせていただきます。  それで、先ほど岩井先生から的確な御質問があったんですが、原告適格の拡大ということなんですけれども、まずちょっと最初の、定義を聞きたいんだけれども、原告適格って何ですか。
  47. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 端的に言えば、比喩的に言うことでございますけれども、裁判を起こしまして、訴状を持って門のところまで行ったと。そうしたら、そこに取次ぎがいて、ここで帰れと言う。端的に言えば、門のところで終わりと、門前払いというわけでございますので、正にそういう実態だということでございます。ここをクリアすると、例えば玄関まで行けると。玄関まで訴状を持っていって、最終的に認められるかどうか、これについては中身いかんになるわけでございますけれども、判断をしてもらいまして、最終的には判決をもらえると。そういうような、比喩的に言えばそういうものでございますので、たどり着けるかどうかというそういうチェックポイントと、こういうことになるわけでございます。
  48. 角田義一

    ○角田義一君 よく分かりやすく説明してもらってありがとうございました。  それで、今までの、今言った門前払いが多かったということですけれども、なぜ門前払いがそんなに多かったんですか。
  49. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) なかなかその分析は難しいんですけれども、例えば、ある処分を受けた人が、それに対して不服であるという場合には、これはもう処分を受けた側ですから、当然要件は要らないんで、それを取り消してほしいということになるわけでございますけれども、問題は、そういう対象者じゃない第三者が不満で、不服で起こすと。  例えば、一つは、ある処分があるところに行われていたと。それいかんによって周辺の住民の方がいろいろ影響を受けると。だから、規制権限を発動してほしいということを裁判所の方に、裁判所というか、行政庁の方に申請をする。これについて、そういう資格があるかどうか、言う資格があるかどうかというのが当事者適格の問題になるわけでございまして、これは法律上の利益のある者ということで今規定されております。これが非常に抽象的な文言になっているわけでございまして、これを、じゃ法律上の利益がある者というのはどういうふうに解釈するのかというと、解釈がこれ千差万別に分かれるわけでございます。そういう中で、その解釈をすごく広く考える考え方と、狭い、非常に狭い考え方、これどうしても解釈ですから分かれるわけでございますね。したがいまして、非常に実務、運用としてもばらばらになると、こういう状況でございます。  特に今までは、一番ポイントになるのは、ある処分が行われます、そうすると、その処分根拠となる条文があるわけでございますが、そこにどういうふうに書かれているかということですね。これを中心に物を考えるというのが一番狭い考え方になるわけでございますけれども、比較的、そういうふうな処分が行われた根拠となる条文の解釈、そこから出てくるところ、この範囲に限定をして考えていこうという、それが中心にあったんではないかということで、今までは比較的狭く考えられてきたということがあろうかと思います。  そういう点を今回反省をいたしまして、そういう条文のそこに書かれている文言のみにとらわれることなく、こういう点も考慮をしなさいということで、考慮しなければならない要素を明確にいたしまして、これを実質的に解釈してもらいまして広がるようにと、こういうふうにしたわけでございます。
  50. 角田義一

    ○角田義一君 先ほどの岩井先生の御質問の中で、あなたが考慮しなきゃならぬといって四項目ぐらいが挙げておられましたけれども、今までの行政事件訴訟を見ていると、なるべく門前払いをしないように、裁判所もそれなりの苦労というか、御苦労をしながら判例というものが積み上げられてきたというふうに物の本には書いてある。私は行政事件やったことないからそれがよく分からないんだけれども、その積み上げてきた判例があって、その判例を今度は条文化したというか、そういうふうに理解する人も多いようなんだけれども、これは法律も生き物ですから、その判例を踏まえながら今回条文化したというふうに理解をしてよろしいのか。  それともう一つは、そうすると判例の射程距離というものもあるわけだけれども、今度の法律というのは、その判例の射程距離を更に乗り越えて、もっと広く原告適格を認めようとする、そういう展望の下にやられているのか。ちょっとなかなか私理解できないので、具体的な例を挙げぬでもいいけれども、さっきあなたが言った、もう四つの例を挙げただけでももう頭痛くなっちゃうんだよ、こっちは本当に。こういうものを、これいいといったって、それ四つ、こうあって考慮しなきゃならぬということ、その四つ全部なきゃ駄目なのか、それともその一つでいいのか、その辺のことも含めて、原告適格を拡張しようというのなら、どういう法の精神というかな、立法の精神なのか、よく分かるように説明してもらえませんかね。
  51. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに御指摘のとおり、今までかなりの判例が積み重ねられてきているということでございますけれども、その中には、確かにかなり広く認めたもの、それから極めて狭くしか認めなかったもの、これがございます。  しかしながら、これがもうばらばらでございまして、仮に上級審の判決でかなりその当事者適格を広く認めた、そういうものもあるわけでございますが、そういう判例が出たからといって、それではその下級審の方でそれに従った、そういう流れに従った当事者適格の判断がされているかというと必ずしもそうではないということで、要するに解釈でございますので、その事案事案に照らして、それぞれの考え方はその裁量、範囲のものであれば許されるわけでございますので、そうなりますと、必ずしも全体がかなり広い方向の解釈に固まっていくかというとそういう状況ではございません。  今回、そこをどうしたら全体に底上げになって広くなっていくかということ、これを考えたわけでございまして、確かにここに掲げてあるような要素は、今まで判例の中で出てきたような要素ですね、これをかなりここの中に盛り込んでいることは間違いございません。しかし、問題は、今まではそれを、すべての判例でそれをちゃんとやっていたかと、裁判でやっていたかというとそうではないわけでございます。そういう要素を全部ここに盛り込みまして、四つ掲げておりますけれども、これは全部、裁判官としては、裁判としては判断をしなければならない要素だということで掲げているわけでございますので、今までのように解釈だから自由だというわけにはいかないということでございます。最低限ここに掲げてある四つの項目については判断した上で決めなさいということになります。  そこで、全体としてはもう底上げということになるわけでございますので、これはレベルアップということでございますし、かつそのレベルをアップしたところでもまだ解釈は当然入るわけでございます。これは抽象的に「法律上の利益」と書いてあって、考慮しなければならない要素は書いてございますけれども、それ以上どう考慮するかということは解釈でございますので、その上にまた解釈が乗るということで、実質的に私どもはこれは広がっていくと、そういうものであるというふうに理解をしているわけでございます。  それから、先ほどの四つの点について掲げてございますけれども、これは大きく言って二つでございまして、一つは法の全体の趣旨がどういうものかということですね、そういう理解をまずしなさいと。で、これに関して目的を共通にする法令、これもちゃんと見なさいよという、そういうふうに法令の全体の解釈の問題で二つに分かれているわけでございます。これは最低限それをやっていただかなきゃならぬということになります。  それからもう一つは、何かの処分を行われるときにやっぱり周りにどういう影響があるかと、どういう利益を考慮してやらなければならないかということで、法でどういうふうに考えているかということですね、これもきちっと判断をしなさいということになるわけでございますけれども、それを判断するについて、もしその行政処分が違法であった場合現実にどういう損害が生じ得るのか、どういう性質のどの程度の損害が生ずるのか現実を見なさいということですね。  現実をちゃんと見た上で、最終的に法でどういうものを考慮しているかということも判断をしなさいということになるわけですから、大きく分けて二つのジャンル、それを四つに分けているわけでございますけれども、この二つはきちっと両方とも考慮をしなければならないということになろうかと思います。
  52. 角田義一

    ○角田義一君 ちょっと技術的なことで申し訳ないんですけれども、そうすると、原告適格の今あなたがおっしゃったような主張というのは、当然原告が訴状に書くということになりますか。それで、書いた上であれですな、裁判所の審判を、審判というかな、判断を受けると。そうすると、その主張責任というのは、当然のことだけれども、原告が全部それは書かないかぬということになるんでしょうかね。技術的なことで申し訳ないけれども。
  53. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは訴訟要件というふうに考えられておりますので、通常は原告の方、自己に利益なものを全部言うということになりますけれども、仮に書かれていなくても、訴訟要件でございますので、裁判所は判断をするということになろうかと思います。
  54. 角田義一

    ○角田義一君 なるほどね。  いずれにしても、あなたはレベルアップした、どうしたとかといったって、やっぱり原告は相当なものを書かなくちゃいけないということに私はなると思うんです。後でちょっと、アメリカ制度については午後にでもちょっと聞きたいと思っているんですが。  そこで、原告の在り方なんですけれども、今の法律、いや今度の、今度のですよ、今度の法律ですら、いい法律だといって、できたといって鬼の首でも取ったようにみんな言うんだけれども、それでも、例えば団体訴訟というものについては今回は見送られているわけですね。それで、例えば団体訴訟というのはどういうものを団体訴訟というふうにまずいうのか我々国民に分かりやすく説明してもらって、それからどういうケースがあるんだということについてもまず一、二説明をまず聞きたいと思うんですね。どういう概念か、それでどういう例があるかというようなこと、団体訴訟というもの。
  55. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これ、今一般的に言われておりますのは、例えば消費者一般利益が問題になるようなもの、こういう問題に関して、あるいは、それから文化財保護のような国民一般のやっぱり利益が問題になるようなものにつきまして、その分野を専門としている団体、これはNPOだとかNGOとかいろいろあろうかと思いますけれども、そういうような団体にその訴訟の提起をゆだねると、こういうシステムでございまして、これが言わば団体訴訟というわけでございます。例えば、消費者が個々に起こすというのはなかなか難しい状況もあるわけでございますので、そういう関係について詳しい団体、それが代わって起こすと、それに当事者としての資格を与えると、こういうような議論でございます。  これにつきまして、私どもの方でもテーマの一つとしてもちろんあったわけでございますけれども、これは、そういうことを認めるかどうかというのは、実体の方でそういうことを認めると、実体法の関係でですね、あるジャンルに関してこういうものが必要で、そこで当事者適格を認めると、当事者を認めるということであれば、それは訴訟上で受けていくということになるわけでございますが、それをどういうふうに付与するかということは、それぞれ行政の実体法のジャンルでの必要性で決まってくるということでございまして、私どもの司法制度改革の中で一律にこういうものは認めるとかそれはできない性質のものであるということから、今回はこの議論の対象にはしていないということで、今後の検討課題であるということでございまして、現に一部でそういう議論が始まっているというところも聞いております。  今、それについて若干申し上げますけれども、ちょっとお待ちいただけますか。  これは一つの例でございますけれども、申し上げますけれども、消費者団体訴訟制度の導入について、現在、内閣府の国民生活審議会消費者政策部会に消費者団体訴訟制度検討委員会、こういうものを今設けて、これを団体に資格を与えるか、あるいはどういうところに与えるかとか、そういう議論を今やっているところでございまして、私どもも今後はこういういろんなジャンルジャンルによって必要性に応じて議論をしていく、そういうテーマであるというふうに理解をしております。
  56. 角田義一

    ○角田義一君 分かりました。そうすると、裁判所の立場からいうと、今言った、今事務局長が説明してくれたけれども、実体法というのかな、例えば消費者団体にそういう適格を与えるという法律ができていく、あるいは文化財保護について、これ例えば、どういうことなのかな、風景とか景観とか、そういうものを維持してもらいたいとかいう、いろいろあるじゃないですか、文化財保護団体とか。そういうなら、文化財保護の、その文化財保護の規定の中にそういう団体に訴える資格を与えると、こういうふうに一つ一つ法律に決められていかなければ今の現段階では裁判所としてはとてもそれは受けられないと、こういうことで理解していいわけですね。
  57. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 御指摘のとおり、行政実体法が物すごい数あるわけでございますが、そちらでみんな必要性を検討していただいて、そこで規定をしていただく、それについて裁判所の方はそこで規定されたものについては当然受けていくと、こういう考え方でございまして、これを訴訟の立場から一律にこういうものはいいよということはなかなか言いにくい、言えないということでございますので、これは実体の方にお任せをすると、こういうことでございます。
  58. 角田義一

    ○角田義一君 最高裁はどうですか。
  59. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 裁判所認識としても同じでございまして、具体的な訴訟は、一般的には法律上その者に保護された自己の利益に基づいて権利主張をして訴えの提起をしていくということでございますが、特に法律で、その関連が直接的でないものでもよい、一定の団体が引き受けてもよいというような法律ができればそれに従った裁判をしていくということで、その検討の推移を見守るということになっていこうかと思っております。
  60. 角田義一

    ○角田義一君 もう少しちょっとやらせていただきます。  被告適格の問題ですね、この訴える相手方の問題ですね。これ私は行政余り疎いので分からないんだけれども、それは弁護士さんだってどこが処分したのか、どこを相手にしていいのか分からぬし、難問ですよ、これは。それで、裁判やって、その結論が、おまえのところ、この被告適格がねえ、相手が間違っているよといって却下されちゃうわけだ、しらばっくれて裁判所はずっと審査させておきながら、最後へ来たら被告を間違っていますよといってばさっと切っている事件、一杯あるじゃないですか。これも随分不親切な話だと私は思うんだね。それで、今度はそこのところを、あれですか、大分、一々細かくどこの省庁がやったとかどこがやったとかということを一々書かぬでも、かなり粗っぽい出し方でいいということになっておるんだけれども、私の質問も粗っぽいので分からない、よく理解できないかもしれないけれども、どういうふうにそこのところ変えたんだね。国民に分かりやすいようにちょっと説明してくれませんか。
  61. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 結論としては、行政処分を行われますと、その処分した行政庁ということが当事者になるわけでございますけれども、これ行政庁というのは一体どこかというのは非常にまた難しい点がございまして、その点について訴える側としては非常に間違いやすいということもありますので、原則としてこれもう国というふうに変えまして、国ですからこれは全体を、すべてをやっているわけでございますから、あとは、国で起こしていただければ、その訴状が来たときに内部でどこの担当かということをきちっと把握してそこに対応してもらうという形で、それを、負担を国民の方に負わせないと、こういうことでございます。  事例で若干ちょっと申し上げますと、どういう間違いが起こったかということでございますけれども、例えば、市町村が管理をする市町村道の供用開始処分取消し訴訟、これを提起をするという場合がございますけれども、被告はこれは市町村とすべきところを市町村の長としたというものがあるわけでございます。  それから、またこれはちょっと税金関係で非常に難しいんですけれども、税務署長が国税局の職員の調査による記載のある通知書、これで更正処分を行うという場合がございますけれども、税務署長の上級庁である国税局長ですね、これを処分庁として異議申立てを行うという、そういう制度になっているわけでございますけれども、今度、更正処分に対する取消し訴訟の被告はだれかという点につきましては、これは税務署長でございまして、国税局長ではないんですね。これを間違えまして国税局長で起こしたと、こういう例がある。  こういうような例が、一部ではございますけれども、本当にどちらになるのか。例えば、市町村なのか、それの長なのかとかですね、それから今のように税務署長なのか国税局長なのか、非常に分かりにくい状態があるわけでございまして、これ以外に、例えば処分を行った行政庁が現在はないということもあり得るわけでございますので、そうなりますと、一体どこにどういうふうに起こすのかと。これは国民にとっては大変負担になるわけでございますので、そこは原則として全部国に変えていって起こしやすくしましょうと、こういうことでございます。
  62. 角田義一

    ○角田義一君 今、国のことは分かりましたけれども、例えば県とか市町村だって行政処分やるでしょう。そうすると、それに準じて、もう例えば県なら県、それから市なら市ということでやって、その中でどこがやったなんてことは書く必要ないですね、というふうに理解していいんですか。  今あなたは国のことをおっしゃったけれども、必ずしも行政処分というのは国だけじゃないものね。県もやるだろうし市町村もおやりになりますよね。そうすると、それは今あなたがおっしゃった説明をそのまま敷衍して県とか市とかと。市と市長を間違ったからって、おまえ、これ駄目だというような、そういう意地悪なことはもうないわけですな。
  63. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 地方公共団体についても同じ考え方でございます。
  64. 角田義一

    ○角田義一君 そうすると、細かいことで申し訳ないけれども、訴状にはもう国なら国とだけ書けばいい、あるいは県なら県と書けばいい、市なら市と、市町村なら市町村とだけ書けばいいと、こういうふうに理解していいですか。実務的な話で申し訳ないけれども。
  65. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 相手方としてはそれで結構なんですけれども、ちょっとこの十一条四項という規定がございまして、現実にどこの行政庁が行ったかということを事実上記載してほしいという規定もございます。ただ、これは一応、国の方として受けたときに、どこの行政庁に準備をさせるかとか、あるいはそれ、どういう拘束力がどこに働くかということを知る手掛かりとして記載をしていただくという規定がございますけれども、これは分からなければ書かなくても結構でございますし、それから書いたものが間違っていたといっても法的には影響力はないと、こういうものとして、お願いということで書くというだけでございまして、法的には、国なら国、県なら県ということで結構でございます。
  66. 角田義一

    ○角田義一君 最高裁、どうですか。それでよろしいですか、裁判所の方は。
  67. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) ただいまの答弁のとおりに裁判所認識をしております。
  68. 角田義一

    ○角田義一君 もう一つ聞きますが、先ほど出訴期間の問題がありましたですな。出訴期間が今回、その処分のあったことを知った日から三か月という期間を六か月に延長しております。弁護士さんだって、これ処分を知って、そして、さっき言った難しい、あなたが言った、今度は法律改正されたとはいえ、いろいろ原告の適格について難しい要件が一杯書いてある、書かなきゃならぬと。かなりいろいろ勉強もしなきゃ訴えを起こせないというような事情もあると思うんですね。もたもたしたらすぐ三か月たっちゃうんですよ。弁護士さんもこれだけやっているわけじゃないから、ほかの事件も一杯やっているわけだから。そういうことを考えると、なぜ三か月というのが六か月に延びたのか。どういう実態があって、その実態を踏まえた上でこういうものに恐らくなっていったと私は思うんですけれども、その辺の事情、背景事情というものを説明していただきたいと思います。
  69. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 元々、この出訴期間、何のために置くかということでございますけれども、やっぱり行政の行為でございますので、あまねく日本全体にいろいろ影響するわけでございますので、その行為を行ったときに早期安定の要請ということがあるわけでございます。これが行政行為が行われて大分たってからそれが変わっていくということになりますと、やはりかなり混乱を生ずるということから、出訴期間というのを設けているわけでございます。片や、それを設ける必要はありますけれども、じゃこれ今度、裁判を起こす方の国民の負担という問題も別途また考えざるを得ない。この両方のバランスで成り立っていくものであろうということでございます。  まだそれほど複雑行政行為がたくさんないという時代には、場合によっては三か月で済んだのかもしれませんけれども、現在のように行政行為、物すごい数、それも専門的に複雑になっているわけでございまして、そうなりますと、例えば申し上げました行政庁がどこであるかとか、それから原告適格があるかないかとか、そういうこと。それから、もちろん実態の中身の調査も必要になるわけでございまして、どうしてもやっぱり今の複雑な時代には足りないと、期間としてですね。  これは結局、出訴を妨げる足かせにもなるんではないかと、こういう御議論がございまして、それではもう少し広げていこう、期間を広げていこうということになったわけでございますけれども、ここで、じゃどの程度拡大をするかということでございますけれども、これにつきましては、じゃこれを仮に一年というような考え方をすると、ある行為が行われて一年たたないと最終的に確定をしないということになるわけでございますので、これだけ大量の行政行為が積み重なっている、そういう時代にやっぱり一年は長過ぎるんではないかと、こういうような御議論がありまして、せめて六か月は必要かということで今回その期間を延ばしたということでございまして、そういう点から六か月あれば、大変かとは思いますけれども、いろいろな調査をして訴えを起こしていくというには一応足りるんではないかと、こういう発想でございます。
  70. 角田義一

    ○角田義一君 あれですか、検討会の中には、今あなたがおっしゃったように、一年というのは長過ぎるじゃないかと、六か月ぐらいがいいところだなということで落ち着いたようだけれども、この出訴期間というのをある程度取っ払っちゃえと、取っ払ってしまえと、ちょっとラジカルかもしれぬけれども、そういう意見もあったように私は聞いているんだけれども、なぜそういう意見が出るんですか、取っ払っちゃった方がいいと、出訴期間なんか取っ払っちゃった方がいいと。  それなりの理由があるからそういう意見が私は検討委員会で出たと思うんですけれども、どうですか、それは聞いていませんか。
  71. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かにそういう議論ございました。何で要るのかという御議論もございましたけれども、ちょっとその本当に真意は、どういう理由なのかということを私もちょっと量りかねるところがあるわけでございますけれども、その議論についてはそれほど多数の意見があったわけではございませんので、そういう意見もあったということでございまして、ただ、これ全く取り払っちゃうということになると、本当に多数の行政行為が複雑に絡み合っていく時代に、かなりたってからあるものは覆って、それに関係する第三者もいろいろおられるわけでございますから、そういう権利関係が不安定になるということで果たしていいのかという点がほとんどの方の意見でございまして、そういう点からゼロにはできないと、ゼロというか、なくすことはできないということでございまして、じゃそこを、せめてその倍の六か月にしてそこをカバーしていこうと、こういう議論になったということでございます。
  72. 角田義一

    ○角田義一君 ちょっと五分ばかり早いんだけれども、これでいったん、切りのいいところで。
  73. 山本保

    委員長山本保君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。    午前十一時五十五分休憩      ─────・─────    午後一時三十一分開会
  74. 山本保

    委員長山本保君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、行政事件訴訟法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  75. 角田義一

    ○角田義一君 先ほどの、引き続き幾つかお尋ねしますが、出訴期間について、処分をする行政庁処分の相手方に対して出訴期間があることを教示することになっていますね、今度の法律で。これはどういうことなんでしょうか。この法律だけ存在すればすべての行政庁はこのとおりの指示に従ってやるのか、それとも先ほど言った、いろいろのこの実体法がありますね、その実体法に全部これを書き込まなくちゃいけないのか、どういうことになるんでしょうか。運用を含めて御説明願いたいと思うんです。
  76. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この教示の制度についてはこちらの行政事件訴訟法制度を設けますので、これでルールの基本はできているわけでございますので、これに従っていただくということになりますので、個々行政実体法の中で規定をするということはないというふうに承知をしております。  あと、これについて行政庁がどのように具体的に分かりやすく教示をしていくかという点については、私どもの政府全体としてこれを統一的なある程度扱いをしていくということが必要になろうかというふうに考えております。
  77. 角田義一

    ○角田義一君 そうすると、当然のことながら、先ほどの被告適格じゃないですけれども、県や市町村も行政処分やりますよね。そうすると、その県や市町村に対しても、そういう処分をしたときには必ず、今度、出訴期間について知らせなさいという指示は、これはどこでやるんですか。総務庁でやるのかね。具体的にはどういうふうにやるんですか。
  78. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに地方公共団体の問題がございます。  これは管轄、所管しているのが総務省でございますので、総務省の方とよく相談をして、どういうやり方をしたら一番よく分かってもらえるかということですね、それを相談しながらその対応をしてまいりたいというふうに考えております。
  79. 角田義一

    ○角田義一君 国民年金の加入じゃないけれども、これもし、六か月の出訴期間というのがありますよというのをあなたが言うとおりに全部周知徹底すればいいけれども、徹底しないで、必ずしも全部徹底するとは私は限らないと思うんですよね、行政庁一杯あるから。そうすると、その通知がなくて知らないでというふうなところも出てくると思うんですよね。そのときの救済はどういうふうになるんですか。六か月を過ぎちゃったとして、もう駄目だというふうに払っちゃうのか、それともそれがやむを得ない事由だということであれば救済できるのかどうか、その辺もちょっと聞いておきたいですな。
  80. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに御指摘のとおりの問題ございます。それで、今回はその点について若干手当てを加えて救済、手当てを加えまして救済されやすい方向に規定を変えております。  まず現在の建前でございますけれども、現在は処分があったことを知った日から三か月の取消し訴訟の出訴期間を不変期間という位置付けをしております。したがいまして、例えば出訴期間に関する誤った教示に従った場合でもこれを救済することは困難、要するに不変期間の例外がございますけれども、そこに当たらない限りは無理だということになるわけでございます。  この点について、改正案では、その不変期間という規定、その位置付けをやめまして、正当な理由により出訴期間を遵守できなかった場合、この救済規定を置くことにしております。したがいまして、例えば誤って本来より長い出訴期間の教示がされまして、原告がこれを誤信して本来の出訴期間の経過後に取消し訴訟を提起したという、そういうような場合につきましては、それは他に特段の事由があるかどうかという問題も一般的にありますけれども、正当な理由があると認められるということで救済を図るという、そういう規定を置いているわけでございます。
  81. 角田義一

    ○角田義一君 そうすると、今あなたがおっしゃったように、例えば六か月を八か月というように間違ったのもあるかもしれないけれども、そういう場合もあるかもしらぬけれども、全然ない場合も、欠落しちゃうこともあるわね。国民年金にこだわるわけじゃないけれども、僕なんか全然来ないんだから。まあ、それはこっちへ置きますけれども、そういう場合もどうするんですか。それはあり得ますよ、これ。
  82. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、忘れちゃったとか、それはないとは言えないと思うんです。そういうことで全然気が付かないで徒過しちゃったということも起こり得ると思いますけれども、これも同じ事柄ということでその正当理由で判断をしていくということになろうかと思います。
  83. 角田義一

    ○角田義一君 それで最後に、取消し訴訟全体にかかわる問題なんですけれども、原告適格、原告不適格と並んで大事な問題として、先ほど岩井先生からもお話があった、どうしてもこの処分性、行政処分というか処分性というものは最後までこだわっているんですか。今回の改正案でもその原則だけは貫くわけ。この辺はどうなんでしょうか。
  84. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 現在、取消し訴訟の対象につきましては、この法律の三条で「行政庁処分その他公権力の行使」と、これを対象にしております。したがいまして、ここではその判例によって解釈がされておりますけれども、公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと、こういうふうにされておりますので、そういう意味では、ここのところについては変更を加えておりませんので、処分性が要求されるということになるわけでございます。  この拡大についていろいろ議論もしたわけでございますけれども、例えば行政計画について争えるようにしたらどうかという議論もございました。これをその段階で争えるようにするかどうかというのは正に実体法の問題ではございますけれども、仮にそこで認めるということになると、まだかなりアバウトな計画のうちに争う、そういう形にするとやはり出訴期間という問題がどうしても影響してくるわけでございますので、それが過ぎてしまいますと後で気が付いてももう争えませんよということにもなるわけでございますので、やはりどこで争うのが一番いいのかということですね、こういう点についてはそれぞれの実体法できちっと考えていく問題ではないかと、こういう議論になったわけでございまして、それから通達の問題についても、通達が発せられたらそれから六か月でもう争うことができなくなるよとか、そういうようなことも付きまとってくるわけでございまして、そういうことで本当にいいのかどうかということにもなるわけでございますので、その点については今回はその対象を拡大することはしない、そういうことで考えてきたわけでございます。  それからもう一つは、行政計画あるいは通達、行政指導、こういうものについて、仮に処分性がないとしても、これについて争わせてもいいじゃないかと、こういう考え方もあるんですけれども、この考え方は、それじゃ、その行政計画とか通達があることによって直接自らの権利に影響がないという方でも一般的に争える、これはおかしいじゃないかということになりますと、司法権の、裁判の使命といいますか、これは具体的にその個人の権利関係に影響がある、そういう紛争について裁判をするという建前になっておりますので、その建前と少し違ってくるじゃないかということにもなりまして、今回の議論の中では、そこまで広げるべきかどうかというのはちょっと今の段階では難しいと、こういう議論になったわけでございます。  では、全く争えないのかという問題になるわけでございますが、そこのところはそうではなくて、こういうものについて一般的に抗告訴訟取消し訴訟の対象とはならないわけでございますけれども、こういう行政庁の行為、これを契機として争いが生じた公法上の法律関係、こういうものについては、確認の利益が認められる場合は当事者訴訟としての確認の訴え、これが可能であるということはいろいろ検討の中で出てまいりましたので、これを使えるんだということを明示するために法律に書いている、今回は書いているわけでございますが、これを利用して問題がある場合には争えるということでございますので、仮に自らの権利関係で申請をしたらこういうことが向こうから行われると、行政庁から行われるということが予想される場合には、そういう、それに従う義務がないとか、そういうことをしなければならない義務はないと、こういう形で、確認の訴えを起こしていただくという形で実質的な国民権利はそこで救われていくだろうということで、今回はそういう範疇でやっていくということで、それを広げなかったということでございます。
  85. 角田義一

    ○角田義一君 最高裁にちょっとお尋ねしますけれども、確認訴訟というのは今の現行法の下でも実際にあったのかどうか。それはどういう根拠で認めてきたのか、明文の根拠があってやってきたのか、それとも一つの判例というかな、そういうものを積み上げてきたのかどうかと。具体的にどんな例があるというようなこともちょっとお話ししておいていただくと今の山崎さんの話とよくかみ合うんだけれども、そういう観点説明してくれませんか。
  86. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 公法上の法律関係につきましても、確認の利益が認められる場合には行政事件訴訟法第四条に定める当事者訴訟の一類型として確認の訴えを提起することができるというのが一般的な解釈でございまして、判例集に登載された裁判例の中にも確認の訴えを適法と認めたものが登載されてございます。その中には最高裁判決によってその適法性が承認された事例がありますので、これを御紹介したいと思います。  一つは、昭和四十一年七月二十日の最高裁判決の事例ですが、これは、薬局の開設を登録制から許可制に改めた薬事法の改正憲法違反であるとしまして、既に薬局開設の登録を受けている者が法改正後も許可を受けずに引き続き薬局の営業をすることができるということの確認を求めた訴えでございます。最高裁は、この訴えについて、訴え自体の適法性を認めつつ、憲法違反の主張は退けるという判断をいたしました。  もう一つは、平成九年十月十七日の最高裁判決の事例ですが、これは外国人の母の非嫡出子が日本人である父により出生後に認知されたという事案につきまして、日本国籍を有することの確認請求を認めた高等裁判所の判断を承認いたしまして、上告を棄却したというものでございます。  このように、当事者訴訟として確認の訴えを提起できるということにつきましては最高裁判決によっても認められているところでございます。
  87. 角田義一

    ○角田義一君 今度、もう一遍聞きますけれども、事務局長、これはどうなんですか、明文であれですか、確認訴訟というのは認められることになるんですか。
  88. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この点につきましては、確認訴訟ができるということはその例示として明文の規定の中に今回は入れるということにしているわけでございまして、今、事例が報告ございましたけれども、非常に、事例だけに、その事例が広がりを持っているということが余り一般的に理解をされておりませんで、今回議論した中では、行政計画あるいは行政指導、通達等、それが自らの権利に影響があるということならばこの訴訟類型を利用することができるということがいろいろ検討の結果出てきたわけでございまして、それならばやはり使ってもらえるようにそれを明文上明確にすべきではないかということから設けたわけでございまして、従来も当然この法律の解釈には入っているわけでございますけれども、これを明らかにしたと、こういうことでございます。
  89. 角田義一

    ○角田義一君 行政訴訟行政事件訴訟法原則として手続は民事訴訟法に準ずるということのようですね。そうすると、主張立証責任の配分というようなものも一応民事訴訟法にのっとるというふうに一般的には理解されていると思います。  しかし、なるべく今度は原告適格が増え、門戸が開かれて、門前払いではない、実体判決というか、実体に踏み込んだ判断をなるべく多くなっていくだろう、またしていくべきだということになっていくと思うんです。しかし、現実の裁判とすると、国民は別に証拠をたくさん持っているわけじゃないし、国家権力のように強い証拠収集能力もあるわけじゃないし、違法性の立証責任というのは国民の方にあるんだということになると、なかなか違法だということを立証するのはそれは難しいんじゃないかと。むしろ逆に、これが適法であるということについて当然行政庁の方で主張立証責任を負うべきではないかと。  この違法性の問題とかそういう問題についての主張立証責任は今度の法律によって何か変わるんでしょうか。それとも、そのことについては従前どおりの手続でいくというか、法理に基づいていくというのか。その点について説明していただきたいですね。
  90. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この点につきましても、私どもの検討会の方でも議論はございました。  この制度全体としての位置付けでございますけれども、行政事件訴訟法は民事訴訟法の特例、特則という位置付けでございますので、その特則を置いているもの以外は民事訴訟法の例によるということになるわけでございます。  したがいまして、ただいま御指摘のとおり、立証責任というのは民事訴訟法の中にも書いていない、その中の解釈で読まれているわけでございますが、それは実体法で決まってくると。どちらでどういう主張をさせるのが合理的か、それから立証の負担の問題、こういう点を考えて決められていくという建前になっているわけでございまして、この点につきましては行政事件訴訟法でも基本的には同じでございます。  ただ、この解釈については様々な解釈論がございます。これがどれが通説的だという、そういう考え方もまだなかなか見付からないところでございますけれども、現在行われているそういう解釈、要するに実体法の解釈によって決まってくるという点についてはやはり民事訴訟法と同じであって、ここで特別のルールを作るというのはなかなか難しいということから、今回その点については何も設けていないということになりますけれども、御指摘のような問題点があるということは私どももそれはよく意識をしておりまして、実質的に釈明処分の特則という規定を置きまして、審理の早い段階行政庁処分をした根拠、あるいはそれに使った資料、こういうものについて提出を命じていくという形で資料が出てくるということになりますので、その資料を見て、その上で原告の方がどういう主張を組み立てていくかということの手掛かりになるようにということでその規定を設けたわけでございまして、原則は変えませんけれども、これを御利用いただいて今までとは少し違ってくるだろうと、こういうことを考えているわけでございます。
  91. 角田義一

    ○角田義一君 今、ちょっと事務局長答えられたその特則というかな、釈明処分の特則というのはどういうものなんですか。そして、それはどうしてそういう主張が出てきたんですか。やっぱり実務の中から、やっぱり役所が自分の手持ち証拠というかな、手持ち証拠と言っちゃいけないかな、刑事と違うから。手持ちの証拠だよ、やっぱりね。それを出したがらないという傾向が強いんじゃないんですか、実際、実務では。裁判所もそれ非常に難儀したんじゃないんですか。あれは現行の法もその辺を巡ってえらい争いになっていたというのが実態じゃないんですか。その辺はどうなんでしょうか。それで、そういう特則を設けたとすれば、その特則を設けた立法理由ですよね。
  92. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、御指摘のとおり、実務上はなかなか原告、いわゆる国民の側でございますけれども、資料がない。それから、行政庁がどういう根拠に基づいてこういう処分をしたのかなかなか分かりにくいということでございまして、それから訴訟でもなかなかその点を明らかにしてくれないと、こういうような不満、いろいろ指摘がございました。  これを受けまして、それでやっぱり裁判がなかなかスムーズに、迅速にも行われない、それから的確に行われるかという点でも問題になるということから、じゃ立証責任というのは、これはかなり大きな問題になってまいりますので、これを一律に決めるということはなかなか議論として難しい点がありますけれども、実質的にそこを満たすようなものとして釈明処分の特則というものを設けようということで、これを今回置かせていただくわけでございますけれども、これにつきましては、裁判所行政庁に対し、処分又は裁決、その内容、それから処分又は裁決根拠となる法令の条項、それから処分裁決原因となる事実その他の処分又は裁決理由、これを明らかにする資料、それから審査請求事件もありますので、審査請求に係る事件の記録、この提出を求めると、こういう規定を置いたわけでございます。  もう委員御案内のとおり、一般の民事訴訟法でも釈明処分ということがあるわけでございますけれども、それの特則でございまして、例えば一般の民事訴訟法では、釈明処分提出を求めることができる文書につきましては、当事者の引用した文書で当事者の所持するものに限られているわけでございますけれども、これにつきまして、この特則では文書の範囲、それから処分理由を明らかにする文書や裁決の記録まで広げているということになります。  例えば、独立行政法人の処分につきまして、その処分の基準を定めた上級官庁があるような場合に、その当事者である独立行政法人以外の行政庁に対して嘱託を求めることもできると、こういうような特則を設けております。  こういうふうにすることによって、訴訟の早い段階でその処分を行った実質的な理由あるいは資料、それを参考にした資料等、あるいは論点、こういうものが出てくるということになりまして、争点を絞って立証活動をやりやすいようにと、こういう配慮に基づくものでございます。  これでなお足りないというような場合には、今度は証拠の関係で文書提出命令等の利用をしていただくと、こういう二段構えを考えたということでございます。
  93. 角田義一

    ○角田義一君 最高裁にちょっと聞きますけれども、やっぱり行政事件をやる中で、裁判所とすれば、言わば行政庁は強大な権力を持っていて、そしてその全部証拠とかいうのを全部握っているわけでしょう、資料をね。それは住民の側はなかなかそれは手に入りませんよね。そういうところでしかし裁判所は的確な判断をしなきゃならぬと。その場合に、その提出を促すとかいうような形でえらい御苦労があったのではないかと思いますけれども、実態はどうだったんでしょうか。
  94. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 証拠の提出方法に関しましては、まず民事訴訟一般の流れがございまして、従来、随時提出主義といって、主張、証拠の提出はその当事者に全くゆだねられるという考えで動いてきたわけですが、新しく平成十年から施行されました新民事訴訟法では適時提出主義ということで、適切な時期に証拠を提出しなければその当事者はそれなりの不利益を受けるという考えに大きく変わってきております。そのような流れを更に強めるというものが今回の釈明処分の特例であるということで、これはただいま申しましたような流れを更に行政訴訟という分野で促進させるものだということで、大変歓迎をしておるところでございます。  それからもう一つ行政訴訟の特有の事情といたしまして、処分をした処分庁とそれから裁決をした行政庁というようなものがございまして、例えば処分庁の担当者がそれは裁決をした庁にあるというそういうふうに考える書類については、そのものは持っていないというような、そのような言わば責任の押し付け合いのようなところもある問題もありますので、この点についても、裁決庁についてもきちんと法律上射程内に入れて規定を設けるということで、これも適正な訴訟を迅速にやっていくという上では大変有用な規定であるというように考えております。
  95. 角田義一

    ○角田義一君 それじゃ、山崎さんに聞きますけれども、あれですか、この釈明処分の実効性というのはどういうふうに担保されるんですか。何か、先ほどのこちらの最高裁の局長さんのお話ですと、今の民事訴訟法ではそれなりのペナルティーがあるということのようですけれども、仮にどういうペナルティーがあるのか。そして、それは今度はじゃ行政事件で釈明をする、その釈明に応じないといった場合にはどういうペナルティーがあるのか、どういうふうに担保されるのか、両者から聞きたい、御説明願いたい。
  96. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは、基本となります民事訴訟法上の釈明処分、これにつきましても、これを拒否した場合にそれに対するペナルティーとかそれから不服申立て、この手続は設けていないわけでございます。今回、私どもが設けました特則も、それと同じように、従わない場合の罰則だとか制裁、これは設けておりません。  じゃ、これが本当に有効なのかということになるわけでございますけれども、これは仮にそうであったとしても、これをもしじゃその段階で制裁とか罰則とか入れるということになりますと、かなり要件を細かく書いて、その上でペナルティーを科すとか、そういうふうにせざるを得なくなってしまいます、不利益処分、不利益になりますから。  そうなりますと、そもそもその訴訟の冒頭からそれに当たるか当たらないかとか、そういうところでえらい労力を使ってしまいまして、提出すべきかどうかというところの争いが物すごく先鋭化してしまうと。そうすると、一向に訴訟も進んでいかないという問題がありまして、ここの段階でそういう重たい手続を入れるというのはやっぱり余り得策ではないんじゃないかということで、制裁をもっていろいろ対応していこうということになるのであれば、もう少し先の段階で進んだ証拠調べ、文書提出命令がございますので、これに例えば従わない場合のペナルティーがいろいろ用意されているわけでございますので、そういうところで最終的には担保をしていこうということが一つございます。  それからもう一つは、それは行政庁でも例えばいろいろな個人のプライバシーが絡む書類等そういうものについて提出を拒むという、そういう正当な理由のあるものもありますし、そうじゃないものもあるわけでございますが、仮に正当な理由もなくて提出を拒否するということになれば、やっぱり裁判所の心証全体に影響していくだろうということになるわけでございまして、そういう実質的な面からも一種のサンクションというのは考えられるわけでございますので、具体的なきちっとした制裁、罰則、これは設けないけれども、この運用の中でそういうことが実質的に担保されていくだろうと、こういうことでございます。
  97. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 民事訴訟手続におきましても、法的なサンクションがどうかというふうにいいますと、時機に後れた攻撃防御方法の却下というような規定がございますけれども、現実の実務におきましては、それ自体を使うというよりは、裁判所が広範に持っている自由裁量の権限といいますか、そういうことで訴訟手続を更に進めていくというような訴訟指揮に影響していくという意味で、事実上のサンクションというような形でこの適時提出主義の規定が運用されていっているというように考えますけれども、今回の行政事件訴訟法上の釈明処分につきましても、ただいま山崎事務局長からの答弁がございましたように、裁判所の自由裁量ということで、心証をどのように取るかというようなところを一つのてこにしまして、裁判所として更に適正な訴訟手続が進めやすくなるというように考えておりまして、それが一般的な運用の姿であろうというように考えておるところでございます。
  98. 角田義一

    ○角田義一君 大臣、どうですか、今のお二人の意見、ずっと聞いておりまして。  確かに、この行政事件訴訟法釈明処分とか釈明処分の特則とかいうのができて、私は、ないよりはいいと思いますよ、これ、武器として。ただ、これは、今までの行政庁の意識を変えてもらわないと私はいかぬと思う。これが絵にかいたもちに終わるおそれがあると。  裁判所裁判所なりにこれを使って一生懸命催告をして出させようとするんでしょうけれども、頑としてそれを行政庁が聞かないというような態度を、もしそれに固執されたら、これはせっかくの法律が魂ちっとも入りませんわな。  そうするとこれは、法務大臣とすれば、この法律ができたらこういうシステムになりますよ、したがって各省庁においては、裁判になったときにはそれにやっぱり協力して、この実が上がるようにしてもらわなきゃ困ると。はっきり言えば、裁判所だけじゃなくて役所の意識改革も必要ですわな。それはどういうふうに対応しています。
  99. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 私、一つ経験があるんですが、これとは直接関係ございませんけれども、かつてアセスメントの手続がスタートしたときに、これは大変だ、えらい厄介になったということで、これを大変警戒した向きも実はあったんですね。  ところが結果として、やってみますと、このアセスがあるということを事前に行政側がもう承知をして手続に入る、そしてその手順をしっかり踏んで仕事を進める。今までは、いわゆる一般説明なりあるいは相手側のお勉強なりで済ませていた環境問題というようなものが、大変実は、もう手続の正規のルールに乗ったということで後の仕事が非常にスムーズにいくという経験をしたことがございます。これは現実に今でもそうなっていると思いますが。  その意味で、今回のこの行政訴訟の問題については、もし御不満があるならば、あるいはもし問題があるならば、どうぞこういう手順、手続がありますよということを、あらかじめやはり行政側も、ユーザーたる、あるいは利益を直接受ける国民皆様、それに対して事前にもう提示をして、そういった救済措置がもう用意されているんだということを、やはりこれは、あらかじめこれ徹底することが大事ではないかと思うんです。  そのことによって、なるほどそうかということで安心して問題を受け入れられるということも考えられるものですから、私、その点では今度の法案を、今委員指摘のとおり、正に周知徹底し、意識を改革すると同時に、行政手続の中にもうこれを組み込んだ形で御理解していただくことによってその実効が大いに上がるんじゃないかと期待をいたしております。
  100. 角田義一

    ○角田義一君 大臣のおっしゃることもよく分かるんですけれども、私がお尋ねしたのはもうちょっと実務的な話で申し訳ないんですが、要するに、現実に行政裁判が今後起きていくとこういう新しい手続に基づくわけで、その場合に、釈明処分の特則というような形でいろいろの資料を積極的に出しなさいということが裁判所から言われるんだけれども、ペナルティーはないというわけですね。ペナルティーがないということになると、あるにもかかわらず今までのとおりのやり方で出さなきゃいいんだというような形でやられたんでは、私は意味がないというふうなことを言っておるんです。  したがって、そういうことについてやっぱり行政庁も態度を変えてもらわぬと、国民権利を擁護するという意味からいえばそれなりの発想も変えてもらいたいということを私は申し上げて、そのことを具体的にどういうふうに行政に指示をされるつもりなのかという、私の質問の趣旨はそういう質問の趣旨でございます。
  101. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 法務省といたしましては、やはりこの法律の趣旨に沿いまして、各省庁に対して積極的に資料提出から、あるいは今言った手続の遵守から要請をいたしまして、この法の趣旨が生きるように努力をしてまいるつもりでございます。
  102. 角田義一

    ○角田義一君 それから、あとオールラウンドに聞いていきますけれども、義務付け訴訟というのが今度できるそうですな。  義務付け訴訟というのは具体的にはどういう場面で使われるんでしょうかね。現実の問題として、例を挙げながらこういうものだということで説明していただけると、字面だけじゃちょっと分かりませんので。また、それで、なぜこういうものができてきたかということの背景もひとつ御説明願いたいと思います。
  103. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 現在も、解釈上は無名抗告訴訟ということで、義務付けだとか差止め、こういう形態もあり得るというふうに言われているんでございますけれども、ただ、その要件が様々な見解がありまして、これといった、これを要件にすればいいという通説的なものはなかなかないという状況でございますので、これをじゃ起こして本当に認められるかどうかというのが分からないわけでございます。したがいまして、余り使われていない、認められた例も少ないと、こういうのが現実だということでございます。  なぜこういうものを入れたかということでございますけれども、現在は、基本的に、ある処分が行われます、そうすると、その処分がいいか悪いかということで、その取消しだけをするということになるわけでございますので、そうなりますと、取消しがされますと、申請がある状態に戻るだけでございます。その後の処分がどういうふうに行われるかというのは、必ずしも、どういう処分が行われるかという裁量があればはっきりするわけではないわけでございます。  そこで、ある一定のいろんな要件を備えたものについては、取消しを認めるだけではなくて、現実にこういう処分をしなさいというところまで命じて一回で終わらせましょうということでございまして、先ほど言ったように、取消しがあって、申請が残った状態でまた何か処分が行われた、またそれに対して不満であるということになったらまたやらなきゃいかぬということになるわけでございますので、そういう繰り返し等を避けようと、そういうことから、それから時間的にも早くなるということも考えまして、義務付け訴訟というのを考える、認めていこうということでございます。  したがいまして、これは、取消し訴訟は民事訴訟で考えますと形成の訴えになるわけでございますが、これはどちらかというと給付の訴えに近いものということになるわけでございまして、例を挙げれば、年金あるいは公的保険などの社会保障給付につきまして、法律により認められるべき申請が拒否された場合、申請が拒否された場合ですね、これについて、その取消しをするだけじゃなくて、例えば金幾らを給付する処分をせよと、こういうふうになるわけでございます。  それから二番目でございますけれども、これは、例えば公害防止などのために行政の規制あるいは監督権限、この発動として是正措置等の処分をすべきであるのにそれがされない場合があるということでございまして、現行の法の定める訴訟類型では必ずしも十分な救済が得られない場合がございますので、これは処分の対象者じゃありませんけれども、その影響を受ける住民等が行政庁に規制権限の発動を求めると、こういうことを義務付けると、こういうものでございますので、これはかなり広がりがあるものでございまして、処分の対象者じゃない第三者もそういうことを求めることができると、こういうことを認めるわけでございます。
  104. 角田義一

    ○角田義一君 そうすると、随分あれですな、門戸が開かれるということになって結構なことだと思います。  そこで、いろいろな、取消しじゃなくて義務もある、差止めもある、それから、先ほど言った原告の適格の要件もうんと緩和されるということで、大変な、幾つか類型がたくさん認められるのはうんと結構なんだけれども、訴えを提起する国民の立場からいうと、ある意味じゃ有り難いようにも思えるんだが、アメリカのように是正訴訟というのかな、ああいう、アメリカは是正訴訟だと、是正訴訟がうんと進んでいるというふうに言われておるんですが、このいうところの講学上の是正訴訟というのはどういうことを意味しているんですか。まずお聞きします。
  105. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これ、私ども提唱しているわけじゃないんで、その言っているところ、必ずしも明確じゃないかもしれません。私が理解しているところで申し上げますけれども、例えば何か行政行為に対して不服がある場合に、その行政行為は特定しなきゃならないわけですけれども、特定した上で取消しだとか義務付け、不作為違法確認だとか、いろんな訴訟類型がありますけれども、こういう類型を選ぶことなくて、違法是正、これを求める、それで足りるんだという、そういうような提言だということでございますので、類型にとらわれず、とにかく違法の是正を求めると、こういうふうにすればいいと、こういう理解でいるわけでございます。
  106. 角田義一

    ○角田義一君 私が日弁連の方で説明を受けた内容ですと、日弁連はアメリカ行政訴訟を参考にして是正訴訟という制度を提案をしたというふうに言われ、そういうふうに聞いておるんです。  日弁連の言う是正訴訟の概念というのは、簡単に言うと、先ほどあなたが言ったように、行政の行為を是正してほしいというだけで訴訟提起ができる訴訟と、うんと簡単に言えばそうだと。ちょっとこれは言い過ぎかどうか分かんないけれども、国民がはがき一枚で訴訟を提起できるイメージだと。是正訴訟には訴訟類型がない、判決のメニューだけが存在をすると。是正を求める行政の行為さえ、是正を求める行政の行為さえ特定できれば足りるんだと。その訴訟の対象となる行政の行為についても処分性という限定を外してしまうと。紛争の成熟性があれば司法判断ができるようにすると。  例えば、国民は、例えば町づくりでも生活保護でも課税でも、行政の何らかの行為を特定しさえすれば、取消し、義務付け、不作為の違法確認など、訴訟類型を選ぶ必要はないんだと。その違法是正を求めることができるようにすればいいんだと。国民にとっては処分性や訴訟類型といった議論は分かりにくいと。国民にとって使いやすいと考えられる是正訴訟の提案をしたんだと。こういうことなんだけれども、これらはその検討会で真剣な議論になったんですか。もうこんなものは無理だというので一蹴しちゃったんかい、あんた方偉い人は。
  107. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 一蹴したわけではございません。議論をしたわけでございます。  この日弁連の提唱される提言ですね、これについても資料としてこの検討会にも出されておりまして、それから、私どもの検討会の中で、若手の学者グループにお願いをいたしまして、世界の主要各国の訴訟アメリカ、フランス、ドイツ等、そういうこともちょっと研究をしていただきまして、それを報告していただきまして、それに基づいた最終的な議論をしたということでございます。  その中で、日弁連のおっしゃっておられるのは、今委員がおっしゃるとおりだろうと思いますけれども、ただちょっと前提が、アメリカを例に取って言われているわけでございますけれども、アメリカも二通りの考え方があるようでございまして、一つは、個別法上の司法審査というのは、これ、各行政個別実体法ですね、そういうところで訴訟要件等を定めたもの、こういうものもあるようでございまして、これにつきましては、取消し、変更など、その制定法で認められた救済方法に限られているということでございます。それから、出訴期間も当然それに定められていると、こういう類型なものがあるということでございます。  それと、もう一つ違う、この点を多分言われているんだろうと思うんですけれども、そこに当たらないとしても、判例法上司法審査を認めたもの、こういうものもあるというふうに聞いておりまして、これは規定がないときに一般的に認めるものでございます。  これにつきましては、これは民事訴訟法と同じ考え方によるわけでございまして、この場合には、判例で認められた訴訟類型に従いまして、我が国の差止めあるいは義務付けに当たると思われますインジャンクションという制度があるわけでございますけれども、それと、それから確認訴訟に当たると思われます宣言判決というのがございまして、これのどちらかを求めるということでやると、この二つがあるようでございまして、多分日弁連のおっしゃっているのは、その後者の方を言われているのかもしれませんけれども、これについても二つの類型があって、そのどちらかを選んでいくと、こういうことで、それが前提だということでございます。  それからもう一つの点は、弁護士会がおっしゃっている、そういう是正訴訟の提言がどうかという問題でございますけれども、これは審理の対象を明確にするとともに、紛争の種類、その性質に応じた適切な要件、規律を定めて、それにふさわしい手続整備して救済の実を上げようというふうにして訴訟類型を複数なもの、これを認めてきた、今度認めようとするわけでございます。  この訴訟類型の区別を廃止して一つ訴訟類型に統一するという是正訴訟の考え方ですね、これについては、やっぱり審理の対象が非常に不明確になるんではないかと。それから、訴訟の適切な運営を困難にするものであって、やっぱり慎重に検討すべきであるという意見が強かったということでございます。  例えば、求められる裁判所も、違法確認を、不作為違法確認を言われているだけなのか、それから、こういうことをしろというふうに求められているのか、それによって大分違うんだろうと思うんですね。例えば、民事で、民事訴訟で物すごく分かりやすく言えば、ある行為が行われていると、それに対して、金銭賠償をしろというのか、それを差し止めろというのかということでございまして、それを、どういう希望をしているのかということをきちっとしてもらわないと、やっぱり裁判所が勝手に決めるというのはなかなか難しいことだ。  それから、その態様によっては要件が違ってくるということでございますので、それをきっちり判断をしなければならない。そうすると、何を求めるかによって要件も違ってくるということでございますので、やっぱり訴訟が、今の日本の体系の中でそれをやっていくというのは極めて難しいのではないかと。  一つの提言で、今後の検討の課題ではあるかと思いますけれども、現段階でこれを導入していくというのは、民事訴訟の方の関係も同じように考えていくかどうかという問題も出てくるわけでございますので、そこはちょっと現段階では難しいということで見送られたと、こういう経緯でございます。
  108. 角田義一

    ○角田義一君 民事訴訟における訴訟物理論みたいなものが行政訴訟においてもどういうふうになっていくのか、私も浅学非才でよく分かりませんけれども、要は、日弁連の言わんとしている真意というのは、必ずしも、日本の場合は弁護士さんが必ずしも代理人に付くわけではないわけで、付かなくちゃいけないということでもない、そうすると、本当のど素人の国民が、いろいろ行政庁やり方に対して不満がある、不服があるということで何とか訴えの提起にはこぎ着けるんだけれども、必ずしも、厳格な行政事件訴訟法に定められた要件をぴっちり書き上げられるわけでもないということになれば、そこは裁判になったときに、裁判所が原告側に対していろいろ聞いて、それなりの訴訟構成要件をきちっとやっていくというふうにしやすくしてやるというようなことも私はあるんじゃないかと、私は、そう善意に解釈するわけなんだけれども。  だから、これは一つの問題提起ではあると思う。しかも、今度、こういういろいろな訴訟類型ができてきてこれが動いていくということになればなったで、それらを参考にしながらまた新しい訴訟やり方というのも研究に値はするなと僕は思うんですね。だから、これは一概にもうこんなものは奇想天外な話じゃ駄目だというふうには言えないような気がするんですけれどもね。これはちょっと、最高裁にも聞きたいし、事務局長にも聞きたい。
  109. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 御指摘のとおり、今回いろいろな類型を認めたわけでございますが、こういうことについて、本当にやってみて使い勝手がいいのかどうかとか、混乱が起こらないのかどうかと、この辺はやっぱり検証していかざるを得ないんだろうと思います。そういう意味では、提唱されたことも将来の課題ではあると私ども認識はしているわけでございます。  ただ、今御指摘のような点が起こらないように、先ほど来の御質問で、行政庁被告適格行政庁から国に変えるというふうに申し上げましたけれども、これは国で統一いたしますと、行政庁を変えることになりませんので、相手方は国でございますので、訴訟類型、仮に違った訴訟類型で起こしちゃって途中で変えるという場合も、当事者が同じでございますので、そこは比較的変えやすくなるわけでございまして、そういう点で、裁判所の方がよく釈明をして、この類型、このタイプの事件はこういう類型であると、そういう示唆をして変えてもらって、要件はこういうことですよということを釈明して、間違いのないようにしていくということは一応可能にはなっていると。  しかし、これでも本当に今後やっていっていろんな問題、どういう問題が出てくるかということは当然ありますので、御提言は御提言として、将来的にどうしていくか研究はしていかなければならぬと、こういうふうに思っているわけでございます。
  110. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 今回の行政事件訴訟法改正につきましては、大変広範な観点から検討がされて、それから今回法案として盛り込まれた内容も極めて多岐にわたって、しかもきめ細かいもの、それから使いやすくするもの、それから、例えば差止め訴訟の法廷のように新しい類型を作るものということでたくさんの改正点を盛り込みました。  私どもとしましては、これをまず十分に生かして、しかし十分に生かしながらも、その中でまた新しい問題が次々と出てくるというように予想しておりますが、しかし、まず今回のこの広範な改正を十分に生かして運用してみて、それから次に出てくる新しい問題についてはまたその実績を踏まえて研究がなされていくだろうというつもりで、今回の法改正の趣旨については徹底した周知の方法を取って議論もやっていきたいというように考えているところでございます。  その中で、さらに、次にどのような検討すべきかということは恐らく必ず出てくるであろうというように考えておるところでございます。
  111. 角田義一

    ○角田義一君 あと、二つ三つ尋ねて終わりますが、先ほど岩井先生の方から、執行停止の要件についてお尋ねがありましたので、私はそのことには触れませんが、内閣総理大臣異議という制度があるようですが、この執行停止を裁判所が勇気を持ってやったと。なかなか今の裁判所は執行停止でなかなか私はやらないんじゃないかと思うんですけれどもね、勇気を持ってやったが、内閣総理大臣がストップを掛けるという制度は残してあるわけですね。なぜこれは残したんですか。この際思い切って、もう内閣総理大臣も我慢して、執行停止があればそれはしようがないということにはならなかったのかどうか。  そして、内閣総理大臣は、その異議の要件というかな、異議を述べる要件というのはどういう要件なんですか。かなり厳格でないと私はまずいと思うんだけれどもね。説明してください。
  112. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この議論、私どもの検討会のテーマでございました。議論はいたしましたけれども、結局この点については現行法のままということになったわけでございます。  これ、元々その置かれた趣旨でございますけれども、やはり三権のバランスをどういうふうに取っていくかという議論、これが大きく出てくるわけでございまして、そういう議論を十分に経ないと、今の制度を本当に変えていくということにどういうふうにつながっていくかということは、技術的な議論だけでは足りないということが前提にございました。  それともう一つは、国民の重大な利益に影響を及ぼすような緊急事態、こういう事態が生じたときに、内閣総理大臣としてそれについて何もできないということで本当に国家として大丈夫なのかという点も、最近の特にテロのようなもの、こういうものを考えたときに、ある処分についてそれを止めない、執行停止がされてしまうということによってそういう事態に発展をするということ、もしあったとすれば、それも本当に大丈夫なのかどうかということで、まだまだ十分な検証が行われていないということから、これを存置するということになったわけでございます。  なおちなみに、この内閣総理大臣異議というのはここ何十年と今のところは使われてはいません。過去において、昭和四十年代ぐらいですか、そのころまでには使われたという例はございますけれども、現在は、それ以降はないという状況でございます。  ただ、制度としてこれを本当に廃止していいかどうかというのは、もっともっと大きな議論をする必要があるということでございます。
  113. 角田義一

    ○角田義一君 あと二つ聞きますが、訴えの提起の手数料の問題ですが、今は、現行制度ではあれですか、一つ行政処分を一人で争う場合は、金額算定が困難な場合だということになって、印紙代が一万三千円だと。同じ行政処分を仮に三百人で争った場合は三百人分で計算するので、単純計算で三百万ぐらい払わなくちゃいけないということになるんでしょうか。  それから、しかし、取消し訴訟で得られる違法是正の効果というのは、一人で争っても三百人で争っても同じじゃないかと思うんですね。環境訴訟なんかの場合、かなり多くの人がやりたいんだけれどもこの手数料のこともあって控えるというような現象もあるやに聞いているんですが、この行政事件における手数料の問題、なるべく低額に抑えるということでやりやすくするのが理想だと思いますけれども、この根本的な考え方、行政事件における手数料の根本的な考え方、これは裁判所とそれから事務局長に、両方にお聞きしたいです。
  114. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) まず、手数料をなるべく低くという点につきましては、昨年、法律改正をさせていただきまして、全体的に引き下げたということで、今年の一月からそれが施行されているということになるわけでございます。ただ、下の方はいろいろ調整関係がありますので若干上がっているものももちろんあるわけでございますけれども、全体としては引き下げているということでございます。  この手数料の考え方でございますけれども、これは民事訴訟法も共通な考え方でできているわけでございますので、やはり自分が利益を受けるという方についてはそれを負担をしていただく、こういう思想でございます。  そこで、先ほど環境訴訟等の事例を言われましたけれども、例えば民事訴訟法でも、差止めを求める場合、これは個人個人の利益であるということから、それを一人が起こせばそれでもう全部そこで払い済みという形でなくて全員で、全員に手数料を払ってもらう、こういう考え方になっておりまして、そういうものとのバランスも考えなきゃならないということでございますので、行政だけの独特のルールというよりも、民事訴訟全体の考え方を変えていく必要があるということから、今回はそこまでは十分検討はし切れないということでございます。  それからもう一つは、すべて算定不能にしろという御議論もございましたけれども、これは元々すごい金銭が対象になっているものもあるわけでございますので、それを算定不能でもいいというのはなかなかその御理解が得られるかどうかという問題もございましたので、そこも現在のルールのままにしようと、こういうことでございます。
  115. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 手数料をどのように定めるかということに関しましては、裁判を受ける権利との関係もありますので、裁判所としてもその算定には意を用いているところでございますが、ただいま山崎局長からの答弁がございましたとおり、民事訴訟全般についてどのような手数料徴収の体系を取っていくのか、そういうような問題にかかわってくる大変大きな問題であろうというように考えております。  行政事件訴訟についての手数料ということについては、今回、従来どおりということになったわけですが、手数料についてどのような姿勢で臨むかということについては、これまでも民事訴訟手続上の手数料の見直しというようなことが行われてまいりましたが、そういう全体の動きの中で見直しが必要なものは見直されていくだろうというように見守っておるところでございます。
  116. 角田義一

    ○角田義一君 最後にお尋ねしますけれども、今回の行政事件訴訟法が大幅な改正になる、私は結構なことだと思っているんですけれども、行政がやる手続についての決めは行政手続法というのがあって、これはかなりいろいろ、新しい法律ではあるんですが、この行政手続法というものとこの行政事件訴訟法というのはどういう関係に今後なっていくか。逆に言うと、これだけ行政訴訟がやりやすくなっていくときに、肝心な行政手続法はそのままでいいのかどうか。もっとはっきり言えば、今の手続法の最大の問題は、政省令などの行政立法や都市計画決定などの行政計画についての規定が欠落しておって、行政の裁量がうんと広く認められていると。こういう問題についてやっぱりメスを入れていかないといけないんじゃないかと。逆に言えば、国民行政訴訟をやりやすくというかな、より親しく使えるようにするためには行政手続法そのものもメスを入れていく必要があるんじゃないかと。それが無傷で済むはずはないと私は思うんですけれども、この辺はどういうふうに、今後どういう課題として認識しているかどうか、事務局長に聞きたい。
  117. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、御指摘のとおり、こちらの行政事件訴訟法だけではなかなか対応し切れないところについて行政手続法の中でいろいろ対応していくという、そういうような相関関係もあろうかと思います。  これは具体的にまた詰めてみないと、どういう点がどういうふうになるかという問題はもちろんございますけれども、そういう意味では、私ども、行政手続法の関係も一応視野に入れながら検討を進めてきているわけでございますが、現在、行政手続法の関係につきましては総務省の方でその在り方等について今鋭意検討中というふうに聞いておりますので、その辺の結果、推移、こういうものを見守った上で、最終的にこちらでどうしなければならないか、また今後の課題の問題であるというふうに認識をしております。
  118. 角田義一

    ○角田義一君 終わります。
  119. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 今日は、行政事件訴訟法改正案審議をやるわけでございます。  私ども公明党、二〇〇〇年十一月、ちょっと古い話になりますが、二〇〇〇年十一月に司法制度改革へ向けての提言というのをさせていただいて、その際、行政訴訟制度改革についても、訴訟要件の緩和など、国民が利用しやすい行政事件訴訟法改正すべきであるという基本的な考えを示させていただいた上で、昨年八月には司法制度改革推進本部に対しても行政に対する司法によるチェック機能強化への提言の申入れをさせていただいて、国民裁判を受ける権利を保障し、利用しやすい行政訴訟制度にするように要請を行わさせていただきました。  やっぱり行政のこの公権力による国民権利侵害に対して司法による権利救済が十分機能しなければ、憲法が保障している国民の基本的人権というのは絵にかいたもちになると、こういう観点から、私どもは、この行政訴訟制度充実は言わば国民の基本的人権を守り裁判を受ける権利を真に保障するために欠かせない問題だということでとらえてやってきたつもりでございます。  その意味で、今回、この司法制度改革の一環として、言わば、私ども申し入れた観点から、国民の実効的な救済手続整備するという観点から見ても、救済範囲を拡大、また審理充実促進行政訴訟をより利用しやすく分かりやすくするための仕組み、本案判決前における仮の救済制度整備、言わば四点ございますね。これ、大きな柱とするこの法律案がまとまったことは、私どもとしても是非ともこれを成立させたいと、こういう私どものこれは思いでございまして、そこで、これは私どもの思いでございまして、法務省が、一九六二年以来実に約四十年ぶり、この改革を行うわけでございますが、改めて法務大臣に、このような改革が必要となったのか、その背景と改革意義について大臣から基本的なことを伺っておきたいと思います。
  120. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) この法案をまとめるに当たりまして、皆様からの御提言、御支援をいただきましたこと、改めて感謝を申し上げるわけでございますが、今御指摘のように、現行の行政事件訴訟法につきましては昭和三十七年に制定でございまして、高度成長時代の入口というくらいのところで始まったものでございます。  近年におきましては、それが、行政需要増大行政作用多様化ということで、行政による国民利益調整が一層複雑多様化するなどの変化が生じておりまして、このような中で国民権利利益のより実効的な救済手続整備を図る必要性が指摘されているところでございます。当時の国家予算だけ見ましても、大体今日までに約四十倍近い予算の規模が拡大され、また対象とする案件も複雑化、多様化しておるということでございます。  そこで、今回の改正におきましては、このような近年における変化に対応しまして、行政事件訴訟につきまして、国民権利利益のより実効的な救済手続整備を図る観点から、国民権利利益救済範囲を拡大し、審理充実及び促進を図るとともに、これをより利用しやすく分かりやすくするための仕組みを整備して、さらに、本案判決前における仮の救済制度整備、今委員指摘のような内容を盛り込みまして意義のある内容としたものでございまして、これからの行政に対する課題に十分こたえ得るものと考えております。
  121. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 行政訴訟につきましては、今日ずっと議論があっているように、出訴期間の問題であってみたり原告適格、つまりだれが訴えていいか、だれを訴えていいか、もういろんなこの要件がたくさんあって、結局、何かやろうとしても、本当に訴えられるのかなということでまずしり込みしてしまう、そこまで至らないと。じゃ、今度は思い切ってやってみたと、やってみたら、また何かいろんなこれ訴訟要件があって、またこれも厳しくて、門前払いで却下することも多いというようなことになって、まあ、やるだけ無駄訴訟とかいうのが行政訴訟だみたいなこと言う方もいらっしゃったり、何をやるかといったらウサギがライオンに挑戦するようなものだとか、正に今までのこの在り方というのは非常に評判が悪かったことも事実でございます。  実際どうだったのかというのを審議をしますので確認をしておきたいんですけれども、最高裁に。この行政訴訟現状、最近五年間で結構でございます。行政訴訟事件数、それから訴えが却下された割合、原告の勝訴率、どのようになっているか、一応確認のため伺っておきたいと思います。
  122. 園尾隆司

    最高裁判所長官代理者園尾隆司君) 最近五年間の行政訴訟事件数についてですが、平成十年における第一審行政訴訟の新受件数は千七百四十八件でしたが、その後徐々に増加してまいりまして、平成十四年には二千三百二十八件となっております。  次に、訴えが却下された割合についてですが、平成十年には、第一審行政訴訟の既済事件のうち却下判決により終了したものは全体の一五・九%を占めておりましたが、その後わずかずつ率が減少しておりまして、平成十四年には全体の一二・八%となっております。  また、同じく第一審行政訴訟の既済事件のうち原告の全部又は一部勝訴によって終了したものは、平成十年には全体の一二・〇%を占めておりましたが、その後わずかずつ率が増加してまいりまして、平成十四年には全体の一七・九%となっております。
  123. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 まあ、でもなかなか厳しいですねというのが、やっぱり。まあ、そのために今回法改正をするわけでございますから。  つまり、もうこれも一番今回のポイントは、言わばこの原告適格、つまりだれが訴えていいかという問題についてこれの範囲を拡大したことなんだと、したがって救済範囲が拡大されるんだということがポイントの一番大きなところの一つだと思うんです。  ただ、この原告適格につきましては、法文を読みましたら、処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り訴えを提訴することができるというのが、これは取消し訴訟の原告適格ですよね。この文言自体は変わっていないわけでございまして、結局、これに法律上の利益の有無を判断するに当たっての考慮事項を定めたということである意味ではこの原告適格というのが広がったんだと、こうなるわけですよね、仕組みとしては。ところが、普通の人にとってみて、文面変わっていない、考慮されるだけでどう広がるのと、普通の人ですよ、国民から見れば。専門家から見れば考慮事項を定めればこうこうこうなるんだといっても、普通の人には分かりにくいんですよね、考慮するということだけ言われても。  したがって、きちんと御説明を当委員会でいただいておきたいと思うんですけれども、考慮事項を定めることでどういう場合にどう原告適格が認められたと言えるのかというところをきちんともう一回、午前中も御説明なさっていましたが、説明をし直しておいていただきたいと思うんです。
  124. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに考慮事項を定めているわけでございまして、この考慮事項の文言を見ていただきますと、当該処分又は裁決根拠法令の規定の文言のみによることなくということが、その文章が入っているわけでございますけれども、従来は、ややもすると、ある処分が行われるときに、その処分根拠となる規定がございますけれども、そこにどう書いてあるかということ、これを中心に物を考えていくという時代があったわけでございます。そうなりますと、その規定に明確に書いていないとなかなか認められない、こういうような傾向になるということでございます。  これも、どういうふうに解釈をするかはその考え方によっていろいろ違います。その条文だけという考え方と、その定めている法令全体の趣旨とか目的、ここまできちっと考えなければならないという考えもあろうかと思います。そういうようなことで、その考え方が、解釈でございますから、かなり広い解釈を取るものと、それからかなり狭い解釈を取るもの、こういうものがいろいろばらばらに出るわけでございます。そうなりますと、訴えるときに本当にどこまで考慮してもらえるのかということは、解釈でございますから、はっきりしないということになるわけでございまして、なかなかその訴える方も勇気が要るということになるわけでございます。そこで起こしにくいというような御批判もいろいろあったわけでございます。あるいは狭い、もっと広げるべきだと、こういうことでございます。  確かに、判例の中ではかなり広く認めたものもあるわけでございますけれども、じゃ、その判例にみんなほかが従ったかというと必ずしもそうではないという、やはり個々の事案事案によっていろいろ凸凹があるという状況でございました。  こういう中で、やはり当事者適格、原告適格が非常に狭いといういろいろ御批判がございました。この法律上の文言を変えていくべきかどうかという議論ももちろんあったわけでございますけれども、そこにつきましてはなかなか難しい、それを変えただけでは変わらないだろうということから、法律上の文言はそのままにしながら、こういう点を必ず考慮しなければならないという規定を置いて、いろいろな実務の運用で凸凹になるところを凸凹にならないように、必ずこの四つ、ここに掲げておりますけれども、これを全部考慮しなさいと、こういうことにするわけでございます。  そうなりますと、どういう事例においても全部これを考慮した上で決めていくということになりますから、全体としてはレベルアップが図られるということになるわけでございまして、そのレベルアップしたところでまだ更に解釈の問題ももちろん入るわけでございますので、相当にこれはその解釈のしようによっては実質的に広がっていくということから、この四つの要素を考慮事項として定めさしていただいたわけでございます。  その定めるについては、まず申し上げましたのは、その法令全体の目的とか趣旨、こういうものを考慮しなさいということが一つでございます。それを考慮するについては、この法令と目的を共通にする、そういう法令についても当然考慮をしなさいということで、広がったわけでございます。  それから、もう一つの考え方でございますけれども、処分をする際に、周りにどういう影響を与えるかとか、そういう考慮をしなければならない利益とか、そういうものも当然法ではある程度予想、予測をしているわけでございますけれども、それが一体何であるかということもちゃんと考えなさいということでございますし、それから、もしその行われた処分が違法であった場合、この場合に一体現実にどういう被害、どういう種類のどの程度の被害が生ずるのか、これもきちっと見た上で判断をしなさいと、こういうふうになったわけでございまして、これによりましてかなり原告適格については幅が広がっていくという理解をしているわけでございます。
  125. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 今もおっしゃったように、議論の中で一つあったのは、じゃ、言葉を換えるだけでどうなるんだという御指摘をされました。  ただ、これも途中の議論だったんでしょうけれども、例えば法律上の利益という言葉を利害関係というような他の言葉に置き換えることである意味ではこれまでの判例の考え方を抜本的に変えるというような議論もあったと思われるんです。ただ、今回は変えていません。なぜ置き換え、置き換えた方がかえって効果があったじゃないかという議論、最後まで残ったと思うんですけれども、そこの部分を御説明をいただきたいのと、いろんな新聞等も読ましていただいたんですけれども、何かこれについても、評価していただく人の方が多いんですけれども、例えば今言われたような四項目の考慮するということだと、つまりこの程度の手直しでは判例が原告適格を拡大する保証はないという、切り捨てるような言い方をされる人もいらっしゃいます、切り捨てるような言い方ですよ。その辺についても、いや、そうじゃないんだ、こういう部分できちんとなっていくんだという部分、併せて御答弁をいただいておきたいと思うんです。
  126. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) まず前段の問題でございますけれども、御指摘のとおり、検討会では様々な議論がされまして、この法律上の利益という文言を他の文言に置き換えようという議論がされました。その中で二つほど候補はございまして、法的利益という考え方と利害関係という考え方がございました。  この法的利益というのは、なかなか難しいんですが、法律上の利益と法的利益というのはほぼ同じ概念じゃないかということで、これはほとんど差がないんじゃないかなという、これは私の考えでございますけれども、まずそういうことになります。  それから、もう一つは利害関係、これはかなり変わるだろうという、確かに御指摘はそのとおりなんですけれども、問題は、この場合に、もし利害関係と置き換えた場合に、営業上の不利益を受けるおそれのある業者が他の業者に対する営業許可の取消しを求めるような場合、これを処分するに当たって、考慮されるべきでない事実上の利益根拠に第三者が処分の取消しを求めるような場合にも原告適格が認められるようになるおそれもあるということなんですね。  例えば、ある地域に対して、ある営業について一定範囲にはその一つを認めるとか、そういうような規定の中でもう一つその近くに置いたということのときに、当然、置かれればその業者は影響を受けるわけでございますので、そういう意味においては利害関係があるということになるわけでございますが、これは、かなり公益的な理由で、この範囲には幾つ置くとか、何メートル以内には置かないとか決まっているわけでございまして、その営業をしている人の利益、これを守るためにやっているわけではないわけですけれども、利害関係といいますと、そういう利害というそのニュアンスがかなり強くなってくるおそれがあるということで、本当にいいのか、取り込んでいいのかという問題と。  もう一つは、利害関係という文言は、現在、民事訴訟法あるいは破産法も含めまして相当に使われております。それぞれ、どこの場面でそういう規定を置くかによって非常に狭く解される場合もあるわけでございまして、もう既成の文言でかなりでき上がっているもの、同じものを持ってくると、本当に使っている場面によって広さが違いますので、本当にこれによって、じゃ、もう一律に広がるんだという合図になるかどうかということは必ずしも確証はない、結局は何を考慮すべきかということにまた戻ってきてしまうだろうという議論になりまして、やはり文言の置き換えだけではやっぱり十分ではないということから、それならば本当にこれを考慮しなさいというふうにした方がよっぽど手掛かりになる、こういうことからこのような発想にしたということでございます。  それから、もう一つの後段の御指摘でございますが、判例の、何というんですかね、追認というんですかね、そういうのにすぎないんじゃないかと。確かにそういう批判があるということは私どもも承知しておりますけれども、先ほど来ちょっと申し上げましたけれども、判例は今では解釈でございますので、確かに広いものと狭いもの、これはいろいろあるわけでございまして、それは解釈の中ですから、それはどれを取るかは自由ということになるわけでございますので、必ずしも、じゃ広い判例が出たからといって、それみんなが従っているかというとそうではないということになるわけでございますので、そうなりますと、いつまでたってもアンバランスというのがそのままになってしまうということでございます。  今回、私どもは、この四つの考慮要素、確かにここに入れましたけれども、いろいろな判例で言われているものの中で非常に大事なものを引っ張ってきているわけでございますけれども、この四つを全部考慮せよという今まで判例というのは多分ないんだろうと思うんですよね。今回はそれを全部掲げますけれども、全部考慮しなければならないということになるわけでございますので、全体としてはレベルアップして単なる追認ではない、こういうことでございますので御理解を賜りたいというふうに思います。
  127. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 じゃ、もう少し細かく聞いていきますが、では、もう言葉があれですが、考慮事項の考慮が必要な場合をどういうものに限っているかというと、「処分又は裁決の相手方以外の者」というふうに限っていますね。これはどういう理由なのか、御説明をいただいておきたいと思うんです。
  128. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは、処分あるいは裁決の相手方につきましては、自己に不利益処分あるいは裁決がされた場合に、これによりまして直接に権利を侵害されて、あるいは義務を課されるという立場にある者でございますので、そうなりますと、こういう者については処分又は裁決の取消しを求めるについて法律上の利益を有することは当然明らかでございますので、これについては何ももう言う必要もないだろうということになるわけでございますが、じゃ第三者ですね、処分の相手方じゃない第三者について、それじゃだれでも訴えを提起できるのかということになるわけでございますので、その場合にはやはり原告適格というところで一定の線を画する、こういう必要があるだろうということになるわけでございますので、第三者について原告適格、これが必要だということを述べているわけでございます。  これを例で申し上げますと、例えば原子力発電所の設置許可処分について許可処分を受けた電力会社、これが処分の相手方で、これが不満であればそこで当然起こせるわけでございますけれども、その電力会社じゃなくて、発電所の設置予定地の付近住民が設置許可の取消しを求めるような場合について、そういうような場合に、主として処分又は裁決の相手方以外の第三者が取消し訴訟を提起する場合であるということになるわけでございますので、そういう場合に、どういう方が裁判を起こしていけるのかということを決める、そういうファクターになるわけでございます。  したがいまして、じゃ、これを設けないと、何か事故があったときに、それじゃ何千キロも先の人がそれは不満であるから訴訟を起こす、あるいは全くそこまでも及ばない、被害が及ばないような方も全部起こすということになったらこれは、それは本当にいいのかという問題も生ずるわけでございますので、そこの付近住民の方でどういう被害がどの程度起こるか、そういう実態もよく考えながら、そのある一定の範囲に入る方については適格を認めていく、こういうような今最近の流れになっているわけでございますので、そういうところを画するものがこの原告適格であるということになるわけでございます。
  129. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 次は、今度は目的、先ほどちょっとおっしゃっていますが、「目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌する」というふうになっていますね。この理由を伺うとともに、処分根拠法令と関係法令が目的を共通するのか否か、これはどんなふうにして判断をなさるのか。これも、ちょっと今お話しいただいたように具体例で言っていただくと分かりやすいんで、具体例も含めて教えていただきたいと思います。
  130. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この目的を共通にする関係法令、この趣旨及び目的をも参酌するということにしている理由でございますけれども、行政における利益調整において、関連性を有する他の法令の趣旨及び目的をも十分に参酌することが、今日の複雑多様化した立法やあるいは行政在り方を原告適格の判断に十分反映するために必要である、あるいは適切であると考えたわけでございます。  これは抽象的に言ってもなかなか分かりにくいので、その例を申し上げたいというふうに思います。  例えば、航空による、飛行機による騒音の関係でございますけれども、航空法百九条の規定がございまして、これは事業計画の変更の認可の規定でございますけれども、これに基づく変更認可をする場合に、航空法と目的を共通にする関係法令として二つございまして、例えば公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止に関する法律というものがございまして、これは環境、騒音による環境を守ろうとする法律でございます。それから、特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法というものも設けられておりまして、これはいずれも関連をするわけでございます。航空法でも、その抽象的な目的の中にはやっぱり周りに対する被害の問題も当然入っているわけでございますので、そういう意味では目的を共通にする法律でございますので、このすべてを一応よく対象にして、その上で判断をしなさいということになります。  これ以外にちょっと二つほど申し上げたいと思いますけれども、公有水面埋立法二条に基づく埋立て許可につきまして、公有水面埋立法と目的を共通にする関係法令として環境影響評価法がございます。この環境影響評価法で、一定の規模以上の公有水面の埋立てについては環境アセスメントの関係手続をすべてやらなければならないということにされているわけでございますので、これが事業計画の中に組み込まれるということになりますので、目的を共通にするということになろうかと思います。  それから、これは午前中にもちょっとお話し申し上げたと思いますけれども、都市計画法の関係で道路の拡幅の関係でございます。これにつきましても、都市計画法上では、その拡幅を受ける土地所有者が、これが適格があるということになっているわけでございますが、それ以外にはないという考え方になるわけでございますが、これについても、環境影響評価法が目的を共通にする法律として位置付けられますので、これについて考慮をした上で判断をしなければならないということになります。  こちらの法律によって、その拡幅工事による付近住民の方、そういう方でも一定の影響を受ける方についてはやっぱり対象になっていく可能性があると、こういうことでございまして、そういう意味で広がっていくと、こういうことを言っているわけでございます。
  131. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 今お話ししたのは、正にその目的を共通にするという問題とともに、もう一つの考慮事項ですか、「当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。」という部分も併せて御説明をいただいたような気がいたします。  ただ、これ、本当、法律って何でこんなに分かりにくい言葉になるのかなと、本当ちょっと思うんですよね。これだけ読んだら、だれもどうやってやっていいのか分からないですよ、これ。その辺を本当は、せっかく皆さんに使っていただきたいためにやるんですけれども、もちろん、要件をきちんとしなくちゃいけない、その他の問題があったにしても、ちょっとこれは、是非、この会議録なりをきちんと皆さんに教えない限り、これ、本当分からないですよ、何回読んでもどういう、だから具体例挙げていただいたんですけれども。  本当、その辺は、これやりながら、せっかく国民に開かれて、これから行政訴訟、正に行政に対するチェック、国民の人権をみたいなことを言いながら、法律見ると何言っとるのやかなという話になってしまうところが非常に難しいなと。これは法律の専門家でしようがないんでしょうけれども、私ども一般国民からすると、もうちょっとこれ書きようがなかったのかなという気もするんですけれども、それは文句は言ってもしようがない部分もありますし、ただ、後ほど議論しようと思いますが、先ほども議論になっていましたが、出訴期間等の情報提供の問題がその後出てくるんでしょうが、是非、具体的にどう変わったんだと、どう変わったんだと。  つまり、どんな人が原告適格が広がりそうなんだということは、何とかこれ周知徹底しないと、元々が、さっき言ったみたいに、皆さん、これやるのは何かライオンに挑戦するウサギだとみんな思っているわけですから、どうせ門前払いになるんじゃないかみたいなまだイメージぬぐい切れないわけですから、そうじゃないんだよと。考慮事項を設けたことで、今おっしゃったようなこと、具体例を聞くと、ああ、これは広がりそうだな、正に権利を守るためにいろんな形態が生まれるんだなということが分かりますから、その辺は本当、注意しながらやっていかなくちゃいけない問題かなと、議論をしながらちょっと感じましたので。御質問しようと思ったその原告適格の拡大の先ほど言った項目については、御説明いただいた分でもう事足りていると思うので更に聞きませんが。  そこで、これも午前中というか午後の議論でしたか、角田委員からも御指摘がありました、私どもも、団体の問題なんですよね。  やっぱり、通常、歴史的、文化的な遺産保全とか自然環境とか町づくりとか消費者保護など、ある意味では、ある分野で、しかも一定期間公益的活動をする団体、言わばそこの定義をきちんとしてあげれば、この団体についてもやはり原告適格を認めるべきではないのかというふうに我々は思っておりましたし、提言の中でも実はこのことは訴えさせてもいただきました。  先ほどお聞きしていましたら、やはりそれぞれのテーマとかそういう問題もある、実体法との関係として考えるべきであり、そういう作業も今始まっているんだというお話もあったんですけれども、やっぱり、どうせ今回改正されるんならここまで踏み込んでおくべきではなかったかなという思いがいまだに残っております。これについての御答弁をいただいておきたいと思います。
  132. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かにこの問題は私どものテーマでございましたけれども、最終的には成案を得られなかったということになるわけでございますけれども、やはり、今御指摘がございましたように、手続法の方で、行政事件訴訟法の方で、すべてのいろいろな利益を考慮しながら、こういう要件を備えたところについては団体としての適格を認めるというふうに本当に書けるかどうかの問題でございまして、それは、そのジャンルジャンルによってどういう団体にその当事者適格を認めるかということはやっぱり違ってくるだろうと思うんですね。  それからまた、そういう団体の在り方、社会の実態、これによっても違ってくるわけでございまして、もう少し議論を深めないと、いろんなジャンルで言われている共通項が一体どういうものであるかということがまだ出てきていない状況でございます。そういうものがかなりのところで統一的に出てくるという状況の中で、全体を横断的に考えたら訴訟手続法でどういうふうに置くかという問題、これはある程度議論が可能になっていくかもしれませんけれども、現在、そこまでは行っていないということになりまして、手続法を持っている立場から、すべての行政庁処分について全部を網羅して、どういう団体に適格を認めるかというのはかなり至難の業のところがございまして、将来課題にさせていただきたいということでございます。
  133. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 もう一つ、次は、これも、義務付ける義務付けの訴え行政庁に対して処分することを義務付ける義務付けの訴えというんだそうですね、これ、法律用語になると。処分してはならない旨を命ずる差止めの訴え、これが今回新設された問題だと思っております。  先ほど御答弁で、義務付けというのは今回新たに設けたことで、二度手間になっているような問題、例えば、取消しを求める訴訟で一回取消しを、その手続があって、更に今度は、社会保障給付の問題、例挙げていただきましたが、そういったときにこの義務付け訴訟をやっておけば払ってもらえる額が確定するというようなことですよね。そういった問題もあるということを聞きました。  もちろん、その義務付けの訴え、どんな例かというのは具体的にいただきましたから、その社会保障給付、多分、大学の入学取消しとかそういう問題のときも使われるのか使われないのかちょっと分かりませんが、どんな例があるのか。社会保障給付以外に何か具体例があるならこの義務付けの部分を教えていただきたいし、逆に、差止めの訴えというのは一体どのような場合に活用されるのか、この具体例を教えていただきたいのと、これも話がありましたが、併せて一緒にもうお聞きしておきたいと思うんです。要するに、義務付けの訴えとか差止めの訴え、これまで実際には、やれないことはないんだけれどもほとんど使われてこなかったわけですよね。それがこの新設し改正することによって実際に使われるように本当になるのかどうか。こうだから使われるようになるんだという部分があるのならそこの部分の解説も併せてしていただきたい。
  134. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 幾つか御質問ございましたので順番に申し上げますけれども、まず、義務付け訴訟でございますけれども、先ほど、公的給付の問題を申し上げました。これは一番典型的に分かりやすいわけでございますが、今、たしか入学とか保育園の入園だとか、そういうのもあろうかと思いますけれども、これも義務付け訴訟の対象になるということでございますので、入学についていろいろ争いがあったといってその入学を不許可にするというようなことが例えばあって、それについて不満があるということで取消し訴訟を起こすということは可能でございますけれども、それじゃ、もう一体いつになって入れるか分からない、その利益を失っちゃうわけでございますので、そういう場合には入学を認めるという処分をせよと、こういうことになるわけでございまして、そういう態様もあり得るということでございます。  それからもう一つ、先ほど、角田委員にも御説明した中にございますけれども、そういうようなその直接の、何というんですかね、申請の対象者に対するものと、そうじゃない、第三者がその申請をする義務付けの態様のものもございます。これは、公害防止などのための行政の規制、あるいは監督権限の発動ですね、こういう是正を例えば住民が求めるという態様のものですね。こういうものについては、今度、新たな態様でございますので、これは今までのものよりもはるかに、何というんですかね、広がったということになるわけでございます。  それから、今度、差止めの方でございますけれども、この差止めの方としては、考えられますのは、行政の規制あるいは監督権限に基づくその制裁処分ですね。これが公表されると、あるいは個人、企業等についてその名誉や信用、これに重大な損害を生ずるおそれがある場合がございます。こういうような場合に、事前にその差止めをすると、事後で取消し訴訟を起こすということでは足りないと、それじゃもう信用が失墜されてしまってもう立ち上がることができないというような状況もございますので、それを事前に差し止めると、こういうことを考えているわけでございます。  それで、この関係では、現在でも確かにその解釈でこれ、まあ無名抗告訴訟と言っているようでございますけれども、その解釈でできるということにはなっております。これについてはいろんな説がございまして、どういう要件でできるかというのは必ずしも定説があるというわけではございません。いろんな考え方がございます。そういう中で、もし訴えていったときに、裁判所がどういう解釈でこれを認めるのかということ、これ分からないとこれ利用のしようがないということで、かなり冒険になってしまうということでございますので、なかなか使えといっても非常に使いにくいということから、余り例もなく、認められた例も余りないと、こういう状況に至っているわけでございます。  しかし、今の社会の実態を見たときに、本当に、じゃ、こういうものをきちっと認めなくて大丈夫なのかということは、先ほど申し上げましたその義務付けでもいろんな態様がございます。それから差止めもございます。こういうものは認めていかざるを得ないもう社会状況になっているということから、今回、その要件とかそういうものをきちっと決めて、それをクリアするものについてはできますよということで使い勝手のいいものにしようと、こういうことでございます。
  135. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 また、一言で言えば、きちんと今回の場合、要件が定めてある、どういう場合にできる、分かる、したがって、是非これは使える形になったと、今までと、ある意味ではどう本当に解釈どうなるか分からなかったやつが、今回きちんとした形で新設されたことによって国民は非常に使いやすくなるし、国民の人権を守るという意味でも、ある意味では取消し訴訟よりもより効果のあるものとしてのこういうものができたと、こう解釈してよろしいんですかね。
  136. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、要件をきちっとして、これでできるよということを法文でうたうわけでございますから、必要なものはこれを利用していただきたいということで、今ある取消し訴訟では足りない部分、これで活用していけるということになりますので、当然今より手段が一杯できて広がっていくと、こういう理解でございます。
  137. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 そして、今回の改正案見ますと、今度は訴訟の対象でございますけれども、取消し訴訟の対象は行政庁処分その他公権力の行使とされていて、取消し訴訟の対象は拡大していないと。一方で、これまで取消し訴訟の対象をもっと拡大すべきではないかという意見もありましたし、多様な行政活動における関係から、国民権利利益救済を広く確保する観点から、これも皆さん議論をしているところなんですけれども、要するに、行政立法、行政計画、行政指導、通達、これをどうするかという問題。  ある程度私は、この紛争に成熟性があった場合にはこういったものも対象とすべきではないかなというような気もするんですよね。まあ議論をなさってこられたんでしょうけれども。ともかく今回、こういう結果になって、そこはある意味では外された形になっていると。これについてどうするんだということになれば、確認訴訟を利用すればいいんだというお話もありました。  ただ、どうその、ある意味では今回の改正というのは、多様な、行政が多様に活動が変わってきたんだと、そういうものに対応して国民権利救済の機会を広く確保するんだという観点からこの改正が行われたとするならば、やはりそこまでどうして取り込めなかったのかなという国民の疑問は残ると思うんです。この点についての御説明もいただいておきたいと思います。
  138. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは司法の役割が何であるかということにも影響してくるわけでございますけれども、司法はやっぱり個人の権利救済、言わばその紛争に関してそれを裁断をするというのが基本的には司法の使命であるということになるわけでございます。したがいまして、今挙げられました行政立法、行政計画、いろいろございますけれども、こういうものに関して、そのことによって自らの権利に影響をするというような場合に、それを訴訟を起こせないというのはこれは困るわけでございますので、そういう点については確認訴訟当事者訴訟の中の確認訴訟類型でやっていただくということを考えているわけでございまして、じゃこれを、じゃその自らの権利に影響がなくてもこれがおかしいということを提訴できるのかということになりますと、これはやっぱり訴訟というものは何であるかというそういうところに引っ掛かるというか、抵触するわけでございまして、今回はそこまで抜本的に考えて広げるということはいたしませんでした。  先ほど、成熟性というふうにおっしゃられました。成熟性の議論というのはいろんなところで行われているわけでございますけれども、これはアメリカでもそういうような文言があるようでございますけれども、正にその成熟性というのは、その個人の権利に影響がある場合はできるよということにもつながっていくわけでございますので、私はその方できちっと道が広がっていればいいのではないかというふうに考えております。  なお、じゃ、これを一般的に、じゃおかしいものは是正していく方法は何かということでございますが、これは司法の役割だけなのかどうかという問題でございまして、行政在り方に関していろいろ問題があれば、国会の方でも、それは国会でやっていただくという責任もあるかと思いますので、いろいろなところの役割分担でその是正していくものは是正をしていくと、こういうふうに私ども、私個人でございますけれども、そういうふうに考えているわけでございます。我々として、できるものはやっていくという考えでございます。
  139. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 また同じようなことの繰り返しになるかもしれませんが、これも角田委員から指摘があった問題ですけれども、要するに、行政訴訟のこれまでのまた問題点の一つは、その行政側の持っている資料訴えようとする国民、ハンディキャップが当然物すごいあると。もちろん、国民がその行政の違法を裁判の場でどう証明するかといったら、それは難しいに決まっているんであって、だから、今回改正するに当たって、これも議論があったと思います。やはりこういう大改正をするんであれば、行政訴訟では少なくても立証責任は行政の側にあるというようなことを規定するところまでなぜ行けなかったのかと。また、行くべきでないとなぜ判断されたのかという理由もこれは明確にしておいていただきたいし、あわせて、先ほど──まあここまで聞きますか、まず。なぜ、行政の立証責任問題。
  140. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは、行政事件訴訟法は民事訴訟法の特則でございますので、広い意味では民事訴訟の世界に入っているわけでございます。したがいまして、民事訴訟共通のルールといたしまして、立証責任というのは、手続法でどこでも書いているわけではございません。これは実体法の解釈、例えば民法の解釈で、こういう要件についてはどちらにその立証、主張立証責任を課したらいいかと、それが合理的かと。それから、その負担の問題、こういうこともいろいろ総合的に考えてその解釈で決まってくるということで長年の実務が行われているわけでございまして、これは行政について、行政訴訟についても同じでございます。  したがいまして、その立証責任がどうあるべきかということは正に実体法の規定の仕方によっていろいろ変わってくるということでございまして、また、その立証の負担のことを考えたときに、例えばある処分が行われるとその当事者にとってどういう不利益が生ずるかということになりますと、これは知っているのはその当事者が一番よく知っているわけでございますので、すべての点について行政庁の立証責任にするというのはなかなか難しい点がございます。じゃ、どういう場合にどういうふうに区切るのかということもまだ議論として十分に成熟をしていない、こういう状況で、今回はその点についての改正は見送ったと、こういうことでございます。
  141. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 その代わりに、改正案を見ると、審議充実促進のために裁判所釈明処分として行政庁に対し裁決の記録や処分理由を明らかにする資料提出を求めることができることとする釈明処分の特則を設けられたんだと、こうなっているわけです。これはこれですばらしいことだと思うんです。  ただ、私も、この制度を設けた、それでかなり効果が上がってくるだろうと思うし、先ほどの御説明で納得すべきかどうかと思いながら聞いているんですけれども、ただ、実際にこの制度が機能するのかといえば、文書提出命令の制裁がないわけですよね。ない場合にこれきちんといくんだろうかと。大臣は一生懸命、各省庁に対してもきちんとこんなことをやっていくんだと、こうおっしゃっていた。ただ、現実どうなのかなというのはやっぱり疑問が残るし、もう一つ裁判所の方おっしゃっていたのは、いわゆる裁判所の心証ですか、裁判官の、そこに実際的には影響するんだから実質的な担保はできるんだという御説明はお聞きしたんですけれども、何となくもうひとつ釈然としません。もう一歩何かお話として、本当にこううまく機能するのかなと思うものですから、せっかく作ったいい仕組み、でも機能するのかなという危惧がある、これについての御答弁をいただいておきたいと思うんです。
  142. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この点につきましては先ほど大臣からも御答弁ございました。  私の立場で今申し上げていいかどうか分かりませんけれども、前に訟務局長をやっておりました立場から言わせていただきますけれども、今、訟務局ではございませんけれども、訟務部門でございますけれども、ここは全行政庁、国の関係でございますけれども、また委託があればその地方公共団体のものもありますけれども、これを全部一括して、権限法がございますので、法務大臣が権限を持っているわけでございます。したがいまして、訴訟が起こったときに行政庁と一緒に訴訟を行うわけでございますが、最終の決定の権限ですね、訴訟に関する、それにつきましては法務大臣でございます。したがいまして、訟務部門の方の指導がどういうものになっていくかということが大変重要な問題になっていくだろうということでございます。  したがいまして、この点は、私の今の立場で言うのはなかなか口幅ったいわけでございますが、訟務部門がどれだけきちっと理解をして行政庁を説得していくかというところに懸かってくる可能性がございます。それを是非お願いをしたい。今、私の立場でお願いをするという立場になると思いますけれども、そうしていただきたいというふうに考えているところでございます。  それで、なかなかこれがうまくいかないとかいう問題がもし生ずるとすれば、この附則に五年後見直し規定というものを置いているわけでございますが、今回いろいろ規定を置いても、本当に運用上どういうふうにいくかということを全部予測し切れないところもございますので、問題があれば五年後にまた再検討をするという条項を置かせていただいておりますけれども、そういう中でも検討をしていかざるを得ないだろうと、こういうことになろうかと思います。
  143. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 大変分かりにくいという御指摘を再三ちょうだいしておりますが、私なりに解釈いたしておりますのは、今までの行政訴訟制度は言わば土俵が非常に小さかったというのが私の印象でございます。今度それを一段と大きくしたり、仕切り線の位置を変えたり、塩のまき方も少し自由にやってもらおうと。私の実は大変応援しております朝青龍の故郷のモンゴルには土俵の俵がないんです。要するに自由にやれと、こういうモンゴルの相撲がございますが、大変、例えがちょっととっぴでございますけれども、私は今度のこの訴訟制度を、その意味で、より広い土俵で、それぞれ国民皆様も官庁の側も、そしてそれをまた扱います法務省といたしましても、より一層活発な訴訟が行われまして、結果として行政による国民権利の侵害というものができるだけ少なくなるように、そして、結果としての行政の方もそれで適切な目的が達成される、国民権利の保全もできるという、それを実は両者相まって良くなったなということを期待しておるわけでございます。
  144. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 大臣言われたように、我々一般庶民がこういう法律読むと、本当、何書いておるのよと、さっきも話しましたけれども、でも、実際にやろうとしていることは、今大臣指摘になられたとおりのことだと思うんですよ。初めて、全部土俵がなくなったと言うにはちょっと広過ぎると思うんですけれども、確かに広がった中でできるような体制はできていると。是非とも、だからそれをどう実効性よく本当にこれが使っていきやすいようになれるかというところが一つの焦点だと思っておるんです。  あとちょっと二、三問だけ確認をしながら御答弁をいただこうと思っているんですけれども、一つは、先ほども、今度は原告じゃなくて被告、つまり相手の問題でございます。  被告適格についても、今回の法案ではこれをある意味ではこれは簡明化、分かりやすくしたということになっていると。さっき御答弁いただいたので法律の文言じゃ分かりにくいんですけれども、具体的に言えば、今回の改正で被告というのはどうなるかというと、国か都道府県か市町村か、これが相手になると、これでいいんですよね、理解して。国か都道府県か市町村、これだけでいいわけですよね。いろんな余計なものは入らない、だからそこに的を絞って訴えたい人はやればいいということなのか、確認しておきたいと思うんです。
  145. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは原則でございます。若干の例外はございますので、例外を言うと分かりにくくなるのでちょっとそれは省きますけれども。原則として団体でいいわけですから、国それから都道府県、市町村ですね、これが全部その対象になります。それから、独立行政法人というものももちろんあるわけでございますけれども、大体大きなジャンルはそういうふうに分かれるということでございまして、先ほどちょっと例を申し上げましたけれども、市町村なのか市町村の長なのかとかですね、そういうところの疑義はなくなるわけでございます。それから、国税の関係で、相手が税務署長なのか国税局の局長なのかという点もなくなりますので、国ということになりますので、これはかなり簡明な形になっていくだろうということでございます。  若干、例外は申し上げないとかえって答弁漏れということになるかもしれませんけれども、特許庁長官を被告とする審決取消し訴訟とか、これはかなりの数があって、もうこれみんななじんじゃっているという点もございまして、これはもうそのまま存置をするというのもございます。それからあと、高等海難審判庁長官を被告とする訴訟、特許庁もこれは長官ですね、特許庁長官を被告とするというようなことで、組織じゃなくて長をするものも、若干例外はあるということでございますが、基本的なものについては全部団体に変わっていくと、こういうことでございます。
  146. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 次は、管轄裁判所の問題でございます。  管轄裁判所を今回拡大いたします。現行の制度とどう変わるのかということと、原告の住居地の地方裁判所を含めるべきではないかという意見もたしかあったと思うんですけれども、これを高等裁判所の所在地の地方裁判所とした理由含めて御答弁をいただいておきたいと思います。
  147. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 現在のちょっと管轄をまず前提として申し上げますけれども、これは取消し訴訟等で考えますと処分をした行政庁の所在地の地方裁判所ということになりますが、これ以外に、不動産に係る処分についてはその不動産の所在地の地方裁判所、これも管轄裁判所になるということです。それから、処分に関して事案の処理に当たった下級行政庁があるときはその下級行政機関の所在地の地方裁判所、これにも管轄があるということになりますので、現行法でもかなり複数のものはあるということになります。  この今回の法案によってどういうものが増えていったかということでございますが、まずは被告の適格を国としたわけでございますので、国の所在地は東京で法務省のところにございますので、そうしますと東京地方裁判所が必ず加わるということが一つでございます。それから、原告の普通裁判籍を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所、これは本当に分かりにくくて恐縮なんですが、九州で申し上げますと、熊本の方が福岡で起こすことも可能になるということでございます。これは高裁の本庁の所在地のところの地裁ですから、福岡地方裁判所で起こすことができると、こういう解釈になるわけでございます。  この点につきまして、なぜ高等裁判所の管轄のところの地方裁判所だけにしたのかという多分御質問だというふうに思いますけれども、自分が住んでいるところでいいじゃないかと、こういう趣旨かと思いますけれども、これは広げた理由は、行政訴訟における裁判所専門性ですね。これは本当は全国どこでもそういう専門家がいるということは理想ではありますけれども、現実問題としてなかなか難しいということから、大きな高等裁判所の所在地の地方裁判所ならばそういうものを配置してやっていくことが非常に可能、まあ可能になるんではないかということと、それから訴えを提起する原告の便宜も図る必要があるということでございますので、なるべく近いところで起こすこと、この利益も考えてということで高等裁判所の所在地のところの地方裁判所、ここにも認めましょうとしたわけでございますので、これを全部自分の住んでいるところの所在地まで広げなかったのは、やはり裁判所の対応もなかなかそれじゃ難しいということでございます。
  148. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 今日の最後に大臣にお伺いしておきたいんですけれども、これ皆さん議論されていたように、すばらしい形に間違いなく、難しい文言ですけれども、拾ってみれば、今回その行政訴訟というのが初めて国民の皆さんにようやく開かれた形になったということはもうそのとおりだと思うし、その意味では大いに意味ある改正だと思っておりますが、御指摘あったように、まだまだもう少しここを整備すればこうなるんじゃないかというような改善すべき点も随分残している部分もあります。議論が詰まっていないというお答えもありました。ただ、議論が詰まっていないならば、その議論を今後も続けていって、今回はこれで発足しますが、よりいいものへといろんな検討を続けていく必要が私はこの問題あると思っておりますので、それについての大臣の御答弁を伺って、今日は終わりたいと思います。
  149. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 司法制度改革推進本部事務局には行政訴訟検討会というものを置いておりまして、ここで行政訴訟制度に関して多くの論点が指摘をされ検討が行われました。その論点といいますか御提言の幾つかありますが、司法制度審議会からの御提言あるいは関係の諸団体からの御提言等がこの中に含まれまして、その検討を踏まえまして今回の行政事件訴訟法改正について御提言しているわけでございます。  ここでは、先ほどから御議論いただきましたように、国民権利利益のより実効的な救済手続整備を図るということと、さらには総合的、多角的に行政訴訟制度改革を実現しようとすること、そしてこれを具体的に実行しようとする諸手続、これを決めているわけでございますが、これまでの御指摘の中には司法制度改革の枠組みを超えるような、いわゆる三権分立の問題に触れていくような話もございまして、更に十分な検討が必要であることは委員指摘のとおりであると思います。  そこで、私どもはこの検討会を、さらにこの法案審議の後再開をいたしまして、引き続き検討をしてまいりますし、また司法制度改革審議会あるいは推進本部自身も十一月解散とはなっておりますが、その後も引き続き法務中心になろうかと思いますが、十分な審議を続けましてこの制度の更なる改善、改良に心掛けてまいらねばならぬと、かように考えております。
  150. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 終わります。
  151. 井上哲士

    ○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。  まず、法案そのものに入る前に、背景といいますか歴史の問題について幾つかお伺いをいたします。  戦前は、行政事件については、司法裁判所とは異なる行政裁判所に管轄をされるということになっておりました。当時、この裁判所が東京のみに置かれて、この判決に対しては再審を求めることもできない、出訴事項についても大変限定をされておりました。これが戦後の新しい憲法の下でこういう行政裁判所がなくなって、通常の裁判所に管轄は移りまして、扱いも一緒になります。  ところが、昭和二十三年に行政事件訴訟特例法というのができたわけでありますが、これも訴願前置主義を取ったり出訴期間を制限するなど、大変行政に対する司法審査を制限する色彩の強いものだったと思います。  その後、今日の行政訴訟法ができたわけでありますが、なぜ戦後この行政裁判行政訴訟の特別扱いをやめたのか、そしてなぜこの特例にすることが復活をしたのか、この辺の経緯はいかがでしょうか。
  152. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 経緯といたしましては、今委員指摘のとおりだろうと思いますけれども、明治二十三年に行政裁判法というものが作られまして、司法権に属さない行政裁判所が置かれたと、こういうことでございます。  この経緯は、どうも日本の全体、明治時代の法律はドイツの影響がかなりあったということでございまして、そういう関係からこのような体制を取ってきたものというふうに理解をしております。戦後、その体制が変わったわけでございますが、この司法裁判所の方に属して判断をしていくということでございますけれども、これはもうアメリカがそういう考え方を取っておりまして、ヨーロッパ系からアメリカ系に移ったという経緯だろうというふうに思います。  ただいま御指摘の点につきましても、昭和二十二年に日本国憲法の施行に伴う民事訴訟法の応急的措置に関する法律というのがまず制定されまして、それから委員が御指摘のとおり二十三年に行政事件訴訟特例法が作られまして、昭和三十七年の行政事件訴訟法のところにつながっていったと、こういう経緯でございます。  まず、なぜ大きな体制が変わったかということは、これはいろいろな歴史的な経緯からドイツ型からアメリカ型に変わったというのが一つの大きな考え方ということでございます。  それから、じゃなぜ一般の民事訴訟じゃなくてこういう特別の規定を置いたのかと、こういう御質問だろうと思いますけれども、やはりこの権利国民権利義務に影響があると、それを守る訴訟だということであっても、やはり行政事件の特殊な性格があるわけでございまして、やはり早期安定と、行政処分ですね、これは行政処分がいろいろ重なっていきますと、かなり時間がたってそれが覆るということになりますと第三者にもいろいろ影響していくと。そういうような早期確定という、そういう要請が一つあるということでございます。  それともう一つは、この行政処分に関しまして取消し訴訟のタイプでやるわけでございますが、取消し訴訟についてこれは第三者効があると、形成訴訟だということで第三者効を与えているわけでございますので、これになりますと、一人その関連の事件裁判を起こしますと、それが全部の第三者にも効力を生ずるということで、その統一が図られるということになるわけでございますが、これは通常の民事訴訟でやるということになると、その個人対個人の関係、そこで効力が生ずるという形になるわけでございますので、そこはやはり通常の民事訴訟とは違う要素を持っているということからこのようなものが置かれてきたと、これが現在のように発展してきたと、こういうことでございます。     ─────────────
  153. 山本保

    委員長山本保君) この際、委員異動について御報告いたします。  本日、樋口俊一君が委員辞任され、その補欠として平田健二君が選任されました。     ─────────────
  154. 井上哲士

    ○井上哲士君 朝の審議日本国民性としてお上に物を言わないというのがあるというようなお話もありました。私はむしろ、戦前の憲法に色濃くあるような、お上に物を言うな、こういう姿勢が行政の中に色濃くあると思うんですね。これは脈々と今も受け継がれているのではないかと。  司法制度改革審議会意見書を受けて、この行政訴訟法の改正にいろんな作業が行われたその経過で、昨年の七月に各省庁にヒアリングをしたということが報道をされておりますが、なかなか今の各お役所の率直な意見が報道をされております。  例えば、義務付け訴訟については、専門的な判断が求められる行政分野で裁判所に適切な判断ができるか、厚生労働省。それから、原告適格、いたずらに拡大すると多数の者から訴訟が提起され、円滑な行政運営が阻害される、農林水産省。それから、行政計画、行政計画などに対象を拡大すると正当な利益がないものの活動の場として利用されるおそれがあり、不適当、国土交通省。こういうような議論が随分出てきた、相当の抵抗があったということも報道をされておりまして、ここにはやっぱりなるべく行政異議申立てをさせないという戦前からの流れというのが見え隠れするわけですね。  こういう中で、推進本部はいろいろ御苦労されて立案作業をされてきたわけでありますが、どうなんでしょうか、こういういろんな抵抗に対してかなり押し戻して、行政が間違いないんだ、行政無謬論みたいなものを押し返してこの法案まで来たと、こういう御認識か、それとも相当の省庁の抵抗の中でそこまで行かなかったと、こういうものなのか、事務局長、いかがでしょうか。
  155. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 私の立場でお答えするのは非常にお答えしにくいわけでございますが、確かにヒアリングを二日間にわたりまして全省庁から行ったということでございまして、その中でいろんな御意見ございました。やはり現在の制度を変えていくということに関しましてはそれなりにいろいろ御意見もあり、場合によっては抵抗もあったという理解はしておりますけれども、最終的には、もう時代が国民がこういうものを要求しているんだということですね、そういう時代背景をよく認識をしていただきまして、御理解をいただいてこういう成案の形になったということでございます。  それを押し返したのかどうかという、これはなかなか評価は難しいところもございますので、少なくとも閣議決定ができて、出せる運びになったわけでございますので、御理解はいただいたと、こういうことでございます。
  156. 井上哲士

    ○井上哲士君 衆議院の議論を見ておりましても、与党自民党の議員の方からも、三合目か四合目ぐらいだ、今度の法案はと、こういうようななかなか厳しい評価もされておりました。この間の本会議でも、そもそも行政が自分たちが不利になるような法律の仕組みを作るはずがないんで、そこは限界がある、むしろ議員立法でやるべきだという、このような意見もあったわけですね。  どうでしょうか。そうしますと、そういういろんな各省の抵抗もあって議論をしてきて今回出したものが、これでもう言わばぎりぎりの線なのか、それとも今後まだ更に検討を加えて、政府としても更に前進したものを出していけると、こういうお考えでしょうか。
  157. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この点については二つございまして、今回、私どもとしては手続法の中でできるものは可能な限り出していこうということから今回の案を考えさせていただきましたけれども、ただ、これについても、じゃこれで万全かと言われますと、やってみないと分からないところもあるんです。やったことによって結果がなかなか出ないとか、そういうこともございますので、そこを考慮いたしまして、先ほど申し上げましたけれども、附則で、五年後にはまた見直していこう、必要があれば見直していこうと、こういう規定を置かしていただいております。ということは、これで終わりではないということを一つ表しているわけでございます。  それと、今回、いろいろ検討会では対象になりながらこの法案の中に盛り込まれていない点につきまして、先ほど大臣の方からも御答弁ございましたけれども、これについてはもっと議論を経なければならないというものもございますし、それから、これは行政の場合によっては実体法の問題であって、いわゆる司法の方からアクセスをするというのが適当かどうかというものもあるということ、それからもっと大きな問題になりますと、司法行政がどこまで権限を行使することになるのか、それからあるいは国会との関係もどうするのかという三権の在り方に大きくかかわってくるような考え方も提唱をされているわけでございまして、これについては本格的な議論をした上でどうするかということを決めないと、なかなかそんな簡単に技術論で収まっていく話ではない。  こういうものについては、私ども本部がある限りはもう少し検討を深めて、仮に本部が終わった後どうするかという問題についても、そのジャンルジャンルによってどういうところでどういう議論をしていくかということがその中で浮かび上がってくることになろうかと思いますので、またそういう点についてもどうしていくかということも含めて今後の検討課題であるということでございますので、これで終わりということを言っているわけではないという御理解を賜りたいと思います。
  158. 井上哲士

    ○井上哲士君 四十年ぶりの改正で多々前進面を持っておりますが、しかしそれでもまだ通過点にすぎないんだと、こういうお話でありました。  その上で、法案のそのものに入ってまいりますけれども、まず大臣に、午前中からも、今の日本行政訴訟現状についてのいろんな認識についての議論がありました。そもそも訴訟の件数が非常に少ない。二〇〇二年度で二千三百件余りでありますから、ドイツの二百分の一、アメリカの十六分の一、台湾の八十五分の一、韓国の二十八分の一と、こういう少ない現状になっているその原因をどのようにお考えで、そして本法案でどのように改善をされるとお考えか。まず大臣からお願いいたします。
  159. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 委員指摘のとおり、また午前中での御審議の中でも指摘をされておりますが、一概に、多い少ないというのは、これは言えないところもございますが、それは訴訟制度の違いもありますし、国民性の違いもあり、また歴史的な経緯もあるということもございますが、実際比べてみた場合には、日本の提起件数、少ないことは確かに事実だと思います。  しかしながら、行政訴訟制度現状を受件数だけで評価することについてはいかがかなと思っておりますし、先ほどからも原告の勝訴率の問題も出てきておるわけでございますが、いずれにしても、少ないということは、一つにはやっぱり入口が狭いというか、この制度自身の使い勝手がやっぱり難しいということが一つあったかと思います。この点は、今回できるだけ改善しようということで取り組んでおるわけでございますし、もう一つ、私は行政の方の立場から考えてみれば、できるだけトラブルが起こらないようにということで、熟慮に熟慮を重ねた形で提案され、実行されているということもあるし、また行政の内部でのそれぞれの救済措置なりあるいは回復措置なりというものも機能している部分もあったかと思うわけでございます。  いろいろな要するに諸条件がかみ合わさって結果としてこのような数字が出ておるわけでございますけれども、私は最初から申しましているとおり、行政の規模が非常に大きくなって多様化して、しかも国民の生活のもうあらゆる分野に及んでいる中では、もっともっとそれに対する国民の側からの意見があってしかるべきですし、行政というのはどうしてもマクロ的な規模で問題を進めることが多くありますから、個別の個人の権利の侵害ということも起こってくることも事実であるということからして、今度の制度の発足によりまして、やっぱり件数あるいは内容ともに、これは拡大していくことがあってもしかるべきではないかと思うわけでございます。  今回の制度の中では、この原告適格が実質的に広く認められるような改正がありますし、義務付けの訴え及び差止めの訴えも新たに設けておる。それから、確認訴訟の明示、訴訟類型の選択の幅も広げる。行政庁に対する資料提出を求めることも行いまして、審理充実促進を図るということもやっておるわけでございます。  被告適格簡明化とか管轄裁判所の拡大、出訴期間の延長、さらには出訴期間等の教示ということで、相当利用しやすくする改革もしておりますので、この結果を十分見守りまして、先ほど事務局長からも説明がございましたが、実績を見ながら更に必要な改善を加えていくことが大事ではないか、こう思っております。
  160. 井上哲士

    ○井上哲士君 午前中の審議でも日本行政訴訟の勝訴率はそう外国に引けを取らないんだということはありました。  しかし、非常に訴訟に至るまでのハードルがたくさん日本の場合はあって、訴訟する側からすれば、それをやっとくぐり抜けて裁判まで持っていってもこの程度しか勝てないということですから、私はやっぱり単純に勝訴率が外国と一緒だということは言えないんじゃないかと思うんです。  その大きなハードルになっているのが原告適格の問題で、先ほど来ずっと議論がありました。これが非常に狭く解釈をされてきた。今回の法案でのこの考慮規定を入れるという手当てによって、どういうことを期待をして出されているんでしょうか。
  161. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この点につきましては、今委員指摘のとおり、いろんなハードルがあって、本体の中身を審議してもらうところまでなかなか行けないというような御批判があったわけでございまして、そういう点について、やはり現在のままでは非常にやっぱり障壁が高過ぎるといろいろ御指摘がございました。  そういう点を踏まえまして、それをどうやって広げていくかということでございまして、私ども、先ほど来御答弁させていただいておりますけれども、法律上の利益という文言はそのまま存置をいたしますけれども、これが実質的に広がっていくように、拡大していくようにということでわざわざ二項を置いて、その考慮事項を四つ、それは大別すれば二つということになりますけれども、これを置きまして、全体の考慮事項を必ずどういう裁判でも考慮しなければならないものとして位置付けをいたしましてレベルをアップしていくと、こういうことを図ったわけでございまして、これの趣旨をよく理解をしていただきまして、最終的には裁判所裁判で定めることではございますけれども、その辺のところはよく理解した上で裁判に当たっていただきたいなということでございます。
  162. 井上哲士

    ○井上哲士君 では、実際に裁判が原告適格の拡大によってどう変わるのか、幾つかの具体例でお聞きをいたしますので、できるだけ具体的にお答えをいただきたいと思うんですね。  まず、今年の三月の十六日に最高裁で判決が出ました学資保険裁判というのがあります。これは、福岡市の夫妻が子供の高校進学に備えて郵便局の学資保険に加入をして生活保護から払い続けてきたわけですね。これを、この掛金を福祉事務所が収入と認定をして、半年間生活保護費を減額をした、これが違法だということで争われた裁判です。  一番の争いは、保護費を学資保険に積み立てることが生活保護の趣旨に合うのかどうかと、これが争いでしたけれども、一審ではやはり原告適格が問題になったわけですね。九五年三月の福岡地裁の判決は、実は生活保護支給の名あて人である父親が死亡したわけですね。ですから、保護の受給権は一身専属で相続ができないということで、娘二人の原告適格を認めずに言わば門前払いをしたと、こういうことになったわけですね。  これは、控訴審では原告適格ありということで逆転勝訴をしましたし、最高裁で確定をしたわけですけれども、こういう裁判のケースはこの法案が成立すればどのように変わると予想されるんでしょうか。
  163. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この事件に関しまして、私、前に訟務局長であったときに、たしか私も名前がどこかに載っかっているかと思いますけれども、そういう意味ではちょっとお答えしにくいところがございますけれども、この結論は結論として、今委員が御指摘になりましたように、一審と二審で考え方が分かれまして、上告審ではもうその控訴審の判断をそのままいいということで、もうほとんど対象にならずに終わったということでございます。  こういう経緯を見てまいりますと、最高裁でもこの点については現行法の中でも当事者適格があるということが承認されたわけでございまして、そういう経緯からいけば、一般論として言えば、今回の改正によって原告適格についての結論が変わるということでなくて、現行法の中でも認められるものだと、こういうふうに考えておるわけでございます。
  164. 井上哲士

    ○井上哲士君 ただ、現行法がそうであっても一審は逆の判断をしたということでありまして、そういうことが多分きちっと、レベルアップと言われましたけれども、正されていくと、こういうことでよろしいでしょうか。
  165. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 先ほど私、そういうふうに申し上げましたので、確かにこういうふうに判断が分かれるということですね。こういうことはこの考慮事項を置くというようなことによって大体皆同じような考え方に統一していくんではないか、こういうことを期待しているわけでございます。
  166. 井上哲士

    ○井上哲士君 次に、これは去年の十二月十八日に東京高裁で控訴審判決が出た小田急の高架事業の認可取消し訴訟です。  これは、二〇〇一年十月三日、東京地裁で住民勝訴の判決が出まして、大変大きな話題になった判決ですけれども、高裁では逆に住民原告を全面敗訴とする判決になりました。これも原告適格が問題になったわけですね。高裁の判決は、本来は一体的である連続立体交差化の鉄道の高架事業と側道事業が別だと、こういうふうにしまして、側道の地権者には側道事業への原告適格は認めるけれども鉄道の事業については争うことはできないと、こういう判断を下したわけですが、この訴訟については本法案でどういう変化が起きると思われるでしょうか。
  167. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) この事件は、現在、最高裁に係属中でございまして、この点について今私がここでお答えするのはやっぱり適当ではないだろうということで、その点は御勘弁をいただきたいというふうに思います。
  168. 井上哲士

    ○井上哲士君 もう一点、そうしたら、現在、第二電電がNTTの接続料金の値上げ認可の取消しを求める訴訟を行っております。認可を受けたのはNTTということで、認可対象でない利用者は不利益を受けるとしても対象でないというような、この間の流れからいいますと、当時の片山総務大臣は、却下されるんじゃないかと、こういうような発言もされておりますけれども、こういう場合もこのケースではいかがかと。また、反射的に電話料金の値上げで不利益を被る一般国民が出訴をするという場合にはどうなるのか。いかがでしょうか。
  169. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 前段の問題につきましては、ちょっと事件、まだ係属中でございますので、この点についてはちょっと御勘弁をいただきたいというふうに思います。  それから、後段の方は、一般的設例という理解でおりますけれども、例えば電話料金の値上げについて一般の方が出訴できるかどうかという点につきましては、この法がどういう建前を取っているかということになるわけでございますけれども、どうも私もこの点、必ずしも詳しくはございませんけれども、法の建前といたしましては、電気通信事業法上、契約約款の一内容として総務大臣に対して届け出ることで足りる場合もあるというふうに聞いております。そうなりますと、届出だけの問題であれば、これはもう処分とかそういう問題ではないということになるわけでございますが、ただ、例外もございますようで、総務大臣の認可を要する場合もあるということでございます。  認可を要する場合の認可の取消しの訴えの原告適格については、この電気事業法の趣旨及び目的のほか、許可をしてはならない事由としてその法律の二十一条三項に各号列挙をされておりますので、そういう事由、こういう点も踏まえまして、認可において考慮されるべき利益内容及び性質等について考慮することによって判断をしていくということになろうかと思います。  これは、ちょっと今一般的に申し上げるのはなかなか難しいわけでございますけれども、この各号列挙で何が掲げられているかということだけはちょっと御紹介をしたいというふうに思います。  これにつきましては、二十一条の三項の各号でございますけれども、これにつきましては、「総務大臣は、前項の認可の申請があつた場合において、基準料金指数以下の料金指数の料金により難い特別な事情があり、かつ、当該申請に係る変更後の料金が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、同項の認可をしなければならない。」と、こういう規定になっておりまして、一号として、「料金の額の算出方法が適正かつ明確に定められていないこと。」、それから「特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであること。」、それから「他の電気通信事業者との間に不当な競争を引き起こすものであり、その他社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため、利用者の利益を阻害するものであること。」と、こういう条項が置かれているわけでございまして、まず、この条項で一体どういうものを守ろうとしているのか、こういう点も判断し、現実にどういう実害が生じているのか、こういう点も総合的に考えて当事者適格を定めていくと、こういうことを行政事件訴訟法では言うことになるわけでございますが、それを総合的に判断をしていただいて、当事者適格があるかどうか、これを決めてもらう、こういうことになるわけでございます。
  170. 井上哲士

    ○井上哲士君 これ、ずっと朝から議論が続いておるわけでありますが、考慮事項の列挙で確かに一定の改善になるんだろうと思うんですが、やはりこれ、どうも答弁を聞いておりますと、そう大きくは前進しないんではないかと、こういう懸念を非常に抱くんですけれども、その点いかがでしょうか。
  171. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 朝からこの質問責めでございますけれども、私、いろいろなところから批判受けていることは、それはもう承知をしておりますけれども、今まで、解釈でございますから、それは解釈はその裁判所裁判官、それは自由でございますから、事案事案によって考えていくわけでございますから、仮にかなり広く認めた判例があったとしても、じゃ、ほかの裁判例で必ずしもそのとおりにいくのか、それを利用するのかといったら、そうではない、解釈でございますから、その事案事案に適したものでいいと、こういうことになるわけでございます。  したがいまして、判例で、何かそういうことが一つ出た、あるいはこういう要素を判断したものがあるといっても、そのままに存置しておきますと、全体として拡大していくのかというと必ずしもそうなるかどうか、保証の限りではないわけでございます。  したがいまして、今回、この考慮要素、四つ入れさせていただきましたけれども、これは今までの判例等で何か出てきている要素でありまして、これで我々としてやっぱりここの点を盛り込めば広がっていくだろうと考えたものをこの中に盛り込んでいるわけでございますが、これは今回の法律が置かれることによって必ずこの考慮要素については判断をしなければならないという命題になるわけでございますので、今までのように解釈で自由にやってもいいということにはなりません。  したがいまして、最低限ここは考えていただくということになりますし、これを踏まえた上で、まだ更に解釈の問題も当然出てくるわけでございますので、そういう意味では、全体的にかなり広がっていくだろうと私どもは考えておりまして、また期待もしているわけでございます。
  172. 井上哲士

    ○井上哲士君 期待をしているということでありましたけれども、大きく変わる一つのかぎは国の応訴態度にあると思うんですね。  先ほど紹介した福岡の学資保険裁判の当時の訟務局長が事務局長だったというお話がありましたけれども、国側が訴えられたときに相手に原告適格がないじゃないかということで争うケースというのは結構多いわけですよ。それが、この法律が成立しても、これまでと同じように原告適格を争うというような応訴態度を国が取ったらこれは何も変わらないし、むしろこの法案の水準で変わるというならば大きな変化が私は起こると思うんです。  当然、法案提出をした政府としてそういうふうな応訴態度が大きく変わるということで、これは大臣から御確認の答弁をいただきたいと思います。
  173. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 今回の改正におきましては、原告適格の判断におきまして法律の趣旨、目的や処分において考慮されるべき利益内容、性質などを考慮すべき旨が規定されているところでございますが、法務省といたしましては、改正の趣旨に沿いまして適切な対応を取ってまいりたいと考えておるところでございます。
  174. 井上哲士

    ○井上哲士君 裁判迅速化法ができまして、法務省としてきちっと趣旨に沿った対応をするようにというようなパンフレットを出されていたこともこの間委員会質問をいたしましたけれども、国側がどういう対応をするかというのは地方自治体もよく見ているわけですね。法律はできたけれども、結局、同じように原告適格を国も争ったじゃないかということになりますと、裁判としても延びまして、全く趣旨とも変わるわけでありますから、これは是非、正に法務省の決断でできることでありますので、お願いを繰り返ししておきます。  次に、新たな救済手段が設けられた点についてお聞きをいたします。  これ自体は大変前進なわけでありますけれども、例えば都市計画道路等で、都市計画決定そのものが違法だと、こういう場合が争うことができないということで退けられていろいろ問題になってまいりましたけれども、これ自体は解決をしておりません。裁判所が無名抗告訴訟に対して非常に消極的な態度を取っているということを見ますと、更にこの救済手法とか救済対象を拡大をすることが必要かと思うんですが、いかがでしょうか。
  175. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) ただいま都市計画の例を出されたわけでございますけれども、これが計画がされた段階で早期にその都市計画について争いの対象にするかどうかという点、これは従来からもいろいろ議論がされているわけでございまして、判例上も否定されているものもあるということでございます。  この点も私どもの検討会でもいろいろ議論はいたしましたけれども、この都市計画を直接の訴訟の対象として公共事業の計画段階などの早期の司法審査を認めるということが適切かどうかという点でございまして、これにつきましては、例えば、もしそれを認めることになりますと、その段階で出訴期間も適用になるわけでございますので、かなり早い段階できちっと対応しておかなければ後で争えなくなるということも出てくるわけでございまして、本当にそういうことでいいのかどうかという点も重々検討を加えなければならないという問題でございます。  これは、訴訟法上物を考えるというよりも、それぞれそういう政策をお持ちの各行政庁でそれをどうしていくのが一番いいのかというまず実体法の判断が優先すべきことでございます。  したがいまして、この点についてはそういうその対象のいろいろな行政行為をお持ちのところでまず基本的に検討していただくと、こういう命題であろうというふうに理解をしておるわけでございます。  それから、全体として出訴期間とか、そういう関連とか、そういうこと、それから後で争いたい場合についてどうしていくかということとか、全体の手続の流れ、これをきちっと定めておかないととんでもない混乱が生じてしまうということにもなるわけでございますので、これは抜本的な検討が必要だということになります。これは、手続法のレベルからだけ検討するというのでは足りないということから、今回は手続法の観点から可能なものについてやっていくということで検討の対象から落としたということで、今後の検討課題であるという位置付けだろうというふうに思っております。
  176. 井上哲士

    ○井上哲士君 今回、新たに行政訴訟類型が加わるわけですが、たくさんのそういうメニューがありますけれども、こういう行政訴訟に熟知されている方ばかりではありませんから、どういう類型を選ぶのか、事件によっては非常に場合分けが難しいケースが多いと思うんですね。その類型の選び方によって判決も変わるということもあるわけで、類型間の移動、変更というのを柔軟に認めるという運用が必要だと思うんですけれども、その点はいかがでしょうか。
  177. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、いろんな類型ができますので、類型を誤ったときにそれで終わりと言われると、やっぱり国民としては、それはやや酷ではないかという問題も生ずるわけでございますが、先ほどもちょっと答弁させていただきましたけれども、被告の、被告適格というんですか、被告の対象が基本的には国あるいは地方公共団体ということになるわけでございますので、そうなりますといろんな態様の訴訟も、相手は国になるわけでございますから、そうすると国の、官の訴訟類型の変更ということになりますので、今までのように処分庁、対象者が変わるということにはなりませんので、そういう意味では変更はある程度しやすくなってくるということでこの規定を設けさせていただいておりますけれども、ただこれ、余りくるくるくるくる変わっていってはこれはもう裁判の対象何であるかということになります。ただ、やはりある程度柔軟に処理をして、実質的な解決ができるようにというふうにすべきであるということは間違いないということでございます。
  178. 井上哲士

    ○井上哲士君 今回、抗告訴訟の一類型として義務付け訴訟と差止め訴訟が法定をされました。これはこれまでも無名抗告訴訟として認められるというのが通説ではあったと思うんですが、実際には判決では認められてこなかったと。その理由は何なのか。そして、今回の改正でどういうことが期待をされているのか、いかがでしょうか。
  179. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、御指摘のとおり、現在でも無名抗告訴訟として解釈上は可能であるというふうに理解をされておりますけれども、実はその要件等についてなかなかその通説的な見解がない、いろいろ見解が分かれているという状況でございますので、そうなりますと、裁判を起こしてもそれが認められるのかどうかということ、これについて確たるものがないという状況でございますので、起こしにくいということは間違いございません。そういう影響を受けてというふうに思われますけれども、余り件数もない、それから認められたものもないと、こういう状況であったわけでございます。  しかしながら、やっぱりニーズはあるということから、この類型を認めていこうということでございます。これを比喩的に言えば、民事訴訟法では確認の訴え、形成の訴え、それから給付の訴え、それから場合によっては差止めももちろんございますね、そういうような類型を認めているわけでございます。それで、行政の方は基本的には形成の訴え、取消しというのは形成の訴えでございますので、これを中心にしているわけでございまして、あと確認訴訟もあることはありますけれども、いわゆる給付的な訴えとかですね、差止め的な訴えがないといえばないわけでございます。したがいまして、今回の改正は限りなく民事訴訟訴訟類型手段、これに近づけようということでございます。  先ほど来申し上げております義務付け訴訟につきましては、一種の給付的なものでございますので、こういう処分をしなければならないと、これを命ずるわけでございますので、金幾らを払えというのとほぼ同じものでございます。  それから、差止めの訴訟につきましては、こういう処分をしてはならないというわけでございますので、これは民事でも差止めの訴訟がございますけれども、それと同じ機能を果たすものということでございまして、これだけ社会が複雑になってまいりまして行政行為が増えてまいりますと、こういう対応のものも設けてないと権利保護のために不十分な場合も生じてくると、こういうことから設けたということでございます。
  180. 井上哲士

    ○井上哲士君 新たに設けられたわけですが、この二つの類型とも原告勝訴の判決を行うのは非常に厳しい要件があるんですね。その「訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」と、大変厳しい要件が入っております。取消し訴訟の場合には判決にこういうような要件の規定はないかと思うんですが、この義務付け訴訟、差止め訴訟の二つの類型にこういう厳しい要件を付けたのはどういう理由なんでしょうか。
  181. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは二通りございまして、まず義務付けでございますけれども、法令によって申請権が認められているもの、これが拒否をされるという場合がございます。このときに、取消しだけではなくてこういう処分をせよと、こういうタイプがございます。これにつきましては、端的に法令に基づく申請が違法に拒否され又は放置されたことが要件とされているわけでございまして、これについては何も要件を設けていない、これは当然でございますね、そういう位置付けにしております。  もう一つ類型の点でございますが、これは申請権が認められていないタイプのものでございまして、これにつきましては、例えば他人に対する規制権限の行使などの処分を求めるような場合、こういう義務付けもできるわけでございます。そうなりますと、これは申請権のない者が行政の介入を求めるということになるわけでございますので、そう簡単に申請権がない者はそこの中に入っていくというのはそうだれでもいいよというわけにはいかないと、こういう前提があるわけでございます。そこで、一定の処分がされないことによって重大な損害を生ずるおそれがあるということがやっぱりどうしても一つ必要になるわけで、余り何も影響がないのに勝手にやめてくれやめてくれということにはならないということですね。  それと、もう一つは、その損害を避けるために他に適当な方法がないときに限って提起をすることができるということでございまして、これは法令上こういう場合には他の訴訟類型を用意しているものもあるわけでございますので、そういうものについてはそれで利用をしていただきたい、こういうことを言っているわけでございます。これについては民事訴訟ができるから、それで、それによればいいんであって、こちらを利用することができないと、そういう解釈ではございません。民事訴訟は民事訴訟でやっていただく、こちらはこちらということでございますが、行政上の争い方についても別途法律で決まっているものもあります。そういうものについてはそれを利用していただきたいと、これを言っているだけということでございます。基本は、ここで言っているのは、やっぱり重大な損害を生ずるおそれがあるかどうか、これが基本の要件だということになるわけです。  それから差止めの方でございますけれども、これはその処分裁決がいまだにされてないわけでございまして、それを事前にその判断をするということになるわけでございますので、これはある意味じゃ行政処分する前に司法が入り込んでいくということになるわけで、一線を中に入るということになるわけでございますので、そうなりますと、やはりその一定の処分又は裁決がされることによって重大な損害を生ずるおそれがある場合に限ってそういう提起をすることができるというふうにしないと、だれでもかれでも、じゃ事前に差止めで中に入っていけるということになるのは、やっぱり行政と立法のその境をどこにするかという問題の一線を超えるときに、それではちょっとまずいだろうということからこういうものを設けていると。  それから、例外的に、先ほど申し上げましたように、損害を避けるために他に適当な方法があるとき、これはできないと。これは先ほどと同じ考え方でございますので、言わば行政司法の境をどういうふうにしていくかということの範囲を変えていくわけでございますので、申請権があるもの以外のものについては、それについてはやっぱり重大な損害とかそういうおそれがあるものに限るべきであると、こういう考えでございます。
  182. 井上哲士

    ○井上哲士君 今のに関連ですけれども、行政処分については一般行政不服審判法による行政不服審査が行えるということになっていますが、今の二つの類型とも他に損害を避ける適当な手段がないときに限って認めるということになっておりますが、これは行政不服審査を経ないと出訴できないと、こういう趣旨でしょうか。
  183. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) いや、それとは関係はございません。別途、行政不服審査とは違って、法律上、こういう訴訟によらなければならないというのが規定されておりますので、そういうものをいうわけでございますので、それほど例が一杯あるわけではございません。  例えば、ちょっと一点だけ具体的にちょっと申し上げたいと思いますけれども、税金の更正の請求でございますけれども、期間経過前は義務付けの訴えは不適法となりまして、その期間経過後の場合も、更正の請求の制度を設けつつ、その請求期間を限定して、その租税法律関係の安定を図った制度、こういうものを設けているわけでございますので、これについてはその制度を利用してもらうということでございます。  これが、例えば過大な申告をした場合に、その税額の減額をする更正の請求の制度が別途あるような場合に、その損害を避けるための方策が個別法の中で特別に定められているような、こういうような場合には、減額更正処分の義務付けを求めるというようなことについては別途その規定があるものですから、これは他に、損害を避けるため他に適当な方法があるということになるわけでございますのでこの義務付け訴訟を使うことはできないと、こういう解釈でございます。
  184. 井上哲士

    ○井上哲士君 この義務付けと差止め訴訟が法定化されたことに伴いまして新たな仮の救済制度というのが設けられましたけれども、この趣旨はどういうことでしょうか。
  185. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 確かに、義務付け訴訟、それから差止め訴訟はできましたけれども、これを訴え提起をいたしましても、直ちにそこで結論が出るというわけにはいかないわけでございます。したがいまして、そのまま放置をしておきますとその方の生活について重大な支障が生ずる場合もあり得るわけでございます。  例えば、公的給付等についてこういうような処分を、金幾らを支払う処分をしなければならないということを裁判で起こしましても、直ちにそれで支払われるわけではございません。そうなりますと、その金銭で生活をしている方については途端に生活が困ってしまうわけでございます。場合によっては命にも影響してくるということになりますので、そういう状況のある方については、訴えを提起したときに仮の義務付け、これを行いまして、いわゆる仮処分でございます、民事でいえば、それで、断行の仮処分的なものになろうかと思いますけれども、仮に金幾らを給付する、その処分をしなければならない、こういうものを認めて、国民が本当に困った状況にはならない、そういう手段を与えると、こういうことでございます。
  186. 井上哲士

    ○井上哲士君 新しい制度が設けられること自身は確かに前進なんですが、ただ、大変固い要件なんですね、これも。執行停止の場合は、回復の困難な損害という要件が重大な損害ということに緩和をされたわけですね。ところが、この仮の救済制度については、償うことができない損害を避けるためという要件になっております。  今、大半のことが慰謝料とか損害賠償で償うということが行われておりますから、こういう償うことができない損害を避けるためという要件を付けると相当狭くなるんではないか。新聞の中で例えばある学者が指摘されていますけれども、例えば公立高校の入試で、成績上位者が身体障害者というだけの理由で不合格となった場合、仮入学できる可能性が開けるが、その基準は償うことのできない損害を被る場合というと。この表現だと一年や二年浪人しても人生は償えるとして、救済されないかもしれないと。同級生と一緒に四月に仮入学ができるように、重大な損害と要件を修正するべきじゃないかと、こういう指摘もあるわけでありますが、この点はいかがでしょうか。
  187. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは、そもそも義務付け、差止めというのは、本来、行政庁が行うべきところを、もうその前に司法がその判断をするわけでございます。それに、かつまた緊急状態で仮のものを認めるわけでございますから、その判断変わることもあり得るわけですね、物によっては。そうなりますると、まだ十分に審議をしないままでも認めるわけでございますので、そうなりますと、そう簡単にだれでもかれでもできるということではございませんで、仮にこの給付、仮に払ってしまいまして、後で結論ひっくり返りましても、多分それを返還することはもう不可能だろうということにもなるわけでございます。  そういう意味から、償うことのできない損害ということを求めているわけでございますが、仮に先ほど私申し上げたような例で生活ができないということは、これはもう償うことのできない損害であろうというふうにも考えられます。  それから、ちょっと事案によって先ほど御指摘あった点、具体的にどういう事案を言うのかはちょっと別として、一般的に言えば、その仮の入学を認めるとか、こういう点につきましては、じゃ、そこの一年二年はいいじゃないかという議論になるのか、一番可塑性に富んだ時期の一年二年、これは人生で本当に取り返しが付くのかどうかという、そういう判断にもなろうかと思います。  そういう判断いかんによっては、当然償うことのできない損害というふうに解釈される余地もあるわけでございますので、今後のまた事例を柔軟に解釈していく問題であろうというふうに考えております。
  188. 井上哲士

    ○井上哲士君 次に、確認訴訟のことについて、まず大臣にお聞きします。  当事者訴訟として確認訴訟というのが例示をされることになります。従来から、この確認訴訟当事者訴訟に含まれると言われておったわけですが、これをわざわざ今回例示をしたその理由は何でしょうか。
  189. 野沢太三

    国務大臣野沢太三君) 行政需要増大行政作用多様化が進展する中で、典型的な行政作用を念頭に置きまして、行政庁処分その他公権力の行使に当たる行為を対象としている取消し訴訟などの抗告訴訟のみでは、国民権利利益の実効的な救済を図ることが困難な場合が生じておるわけでございます。  御指摘のとおり、公法上の法律関係に関する確認の訴えにつきましては、これまでも当事者訴訟に含まれると解されていたと考えられます。  これを当事者訴訟の一類型として例示することとした趣旨につきましては、ただいま申し上げましたような状況に対応するために、抗告訴訟の対象とならない行政の行為を契機として争いが生じた公法上の法律関係に関して、確認の利益が認められる場合については現行の行政事件訴訟法においても当事者訴訟としての確認訴訟が可能であることを明らかにいたしまして、その活用による多様な権利利益の実効的な救済を図ろうと、こういう考えで実施したものでございます。
  190. 井上哲士

    ○井上哲士君 大いに活用されることが期待されて作られたわけですが、そこでちょっと聞くんですけれども、民事の確認訴訟というのもあります。それと、この行政訴訟確認訴訟がどう違うのか、特に規定はないわけですが、原告適格、それから判決が行われる場合の判断基準、出訴期間などなど、民事とどう違うのか同じなのか、この点いかがでしょうか。
  191. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) 基本的には、民事訴訟は私法上の法律関係の確認、これを目的とするものでございます。行政訴訟につきましては公法上の法律関係の確認を目的とすると。この違いは当然あるわけでございますが、それ以外の点についてはどちらも確認の利益を有するものについて原告適格は認められます。それから、判断基準は、これはもう実体法の問題ですから、これも同じだということになります。出訴期間はどちらもないということですから、基本的には同じだという理解をしております。
  192. 井上哲士

    ○井上哲士君 抗告訴訟の場合は仮の救済制度というのが整備をされておりますが、確認訴訟にはありません。例えば労働者としての地位の確認を求めるという場合などは、法律関係に、そういう場合などですね、法律関係によっては仮の救済制度を作るという必要もあるかと思うんですけれども、この点はどのようにお考えでしょうか。
  193. 山崎潮

    政府参考人山崎潮君) これは、公務員の労働者の場合には懲戒免職によってその地位を失うということになるわけでございまして、当該処分について取消し訴訟を提起するということになろうかと思います。その取消し訴訟を提起するとともに、仮の救済といたしましては、処分の執行停止の制度が現在もありますので、これを御利用いただいて仮の救済と同じ効果を生じていくと、こういうことでございますので、手段はこちらで用意がされているというふうに理解をしていただきたいと思います。
  194. 井上哲士

    ○井上哲士君 今日はこれで終わります。
  195. 山本保

    委員長山本保君) 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後四時三十二分散会