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参考人(
山口不二夫君)
明治大学大学院グローバルビジネス研究科の山口です。
私は、公会計を含む会計と
経営分析の
専門家です。本日は、
道路公団の現在の財務
状況と将来の収益力、さらに
債務の
返済可能性について
意見を述べさせていただきます。
まず、
道路四
公団の現在の概要を簡単に述べ、そして分析対象についてお話をさせていただきます。
本四連絡橋
公団については、現在、
債務超過であり、過大な利子負担で独立はなかなか難しいところでございます。今後も追加支援の可能性が非常に高いと考えられます。
阪神高速道路公団についてはかなり厳しい
状況でして、ただし、本四
公団ほどではありません。これらについては詳細な分析は今回は避けさせていただきます。今回は、これらに比べて規模が大きくて、そして今後更に
路線拡大の可能性の高い
日本道路公団を中心に
意見を述べさせていただきたいと思っております。
なお、今話し忘れました首都高速
公団については恐らく独立は可能であるというふうに考えられます。
さて、的を絞ります、
日本道路公団の財務
状況についてですけれども、
道路公団については数種類の財務諸表があることが知られております。一つは、現行方式である
償還準備金方式、そして民間並みの財務諸表、そして民間並みでも
連結のもの、そして幻の財務諸表といったものも知られております。
よく問題にされるのは、これらのうちどの財務諸表が正しいのかということですけれども、結論を申し上げますと、会計理論的にはどれもあり得るということです。結局、出資者の意図が何であるかと。使い切りであるのか、維持更新を
期待するのか、そして資産の実体というものをどう考えるのか、耐用年数はどうであるのか、永久資産なのかどうかと。ということで、会計方式が違うということは十分あり得るわけです。
では、問題は何かといいますと、経済実態との乖離が財務諸表の中にあるんじゃないかということが実は問題でして、それのことを我々は通常、粉飾と言っております。現行方式での粉飾の可能性というのは、実は財務諸表に記載されている
道路資産に実体が伴うのかということです。それは、既に譲渡されたものが載っているであるとか、そして実際は価値が非常に減価されたものがそのまま載っているかなどということです。
ただし、民間
企業並みでも粉飾というのは可能性は残されております。それは、減価償却率であるとか耐用年数であるとか、そして減価償却の方法が実態に即したものであるかどうか、適正なものであるかどうかという点です。また、もう一つは、
道路の更新費が過大ではないか、また過小ではないか、若しくは
道路更新費自体が資産に算入されているのではないかという可能性です。
じゃ、本当に粉飾はないかどうかについては、実体は分かりません。実は、それはここに一つ問題あるんですが、やはり
公団の会計ということに問題があったのではないかという気がいたします。それが国鉄
改革のときとは少し違う点でして、国鉄
改革では、会計担当者と会計の責任者というのは非常に誇りを持って、そこでは
議論のたたき台というものがあり、分割
民営化に際しては国鉄の出した資料の下での検討というのがきちんと行われることができたと。そこがちょっと違うところでございます。
では、これらの財務諸表というのに粉飾がある、若しくは実体が分からないというときに分析ができないかといいますと、そうとも言えません。というのは、現在重要なのは、実はその
公団の将来の収益力というのが実は重要なわけです。そうすると、その分析のためには、現在、我々はキャッシュフロー計算書というのを重視しております。これは資産の実体が明らかでないときに有用な分析方法であります。そして、現在のキャッシュフローというのは将来も続く可能性が高いデータでありますので、将来予測に十分使うことも可能です。
平成十四年度の
日本道路公団では、実は豊富な営業キャッシュフローを生み出しております。特に、利子を支払う前の営業キャッシュフロー、本業のキャッシュフローですね、これは一・七兆円に上り、大変にすばらしい金額でございます。しかし、一方で非常に重い利子負担を負っております。五年前で九千億円、現在は六千億円です。結果として営業キャッシュフローは、利子負担を除きますと約一兆円ですね。それに対して、投資キャッシュフローはマイナス一・三兆円。これはほとんど新規
建設でございます。そして、財務キャッシュフロー、これは新たに資金を調達するということです。それは三千億円以上ということです。
つまり、豊富な営業キャッシュフローを全部新規の投資につぎ込んでいて、それでまだ足りないので新たに財務的に調達しているという
状態でございます。このような営業キャッシュフローを超えて新規投資を行うということは民間
企業では異常な
状況でございます。
では、どうしたらそういう
状況が許されるのかといいますと、それは、唯一許される
状態は、非常に有利な投資先があるという場合にはこのような投資行動というのも許される。つまり、有利な投資ならばこのような財務行動は十分納得できるところでございます。しかし、現在
建設中あるいは今後
建設される
道路の投資というのは非常に
採算性が低いものであるとすると、今後、
公団の
経営の足を引っ張るおそれというのは十分あると考えられます。
それでは、将来のキャッシュフロー、そして収益の方向性をもう少し探ってみます。そのためには損益計算書を見ていくことが重要です。
実は、
日本道路公団の
経営は、
償還準備金繰入れ前の利益で見ますと、この六
年間、非常に安定しているように見えますが、その内実に実は変化が生じています。金利負担で見ると、この五
年間、大幅に減少しています。先ほど申し上げたように、九千億円台から六千億円台へ下がっております。これは低金利というのが反映しているわけです。実は、一方で業務収入は減少傾向であり、利子負担前の業務利益というのは確実に減少しているわけです。つまり、
道路公団の利益が安定的であるというのは、ここ何
年間かは利子負担が減少しているということが背景にあり、本業の方では業績悪化の兆しがもう見え始めているということなわけです。つまり、
交通需要の減退と不
採算道路増加のツケがもう既に回ってきているということです。
もう一つ、将来キャッシュフローの予測として使いますものが
道路別の収支
状況の表でございます。これはもう広くインターネットその他で公開されております。その表を検討いたしますと、
大都市圏を除いては昭和六十年代以降の開通線は収支率が一〇〇%以上、つまり
採算は取れていないということでございます。逆に言うと、もうかる
路線は
大都市圏か昭和六十年以前の開通
路線です。ということは、今後
建設される地方
路線の収支率は非常に高い、つまり赤字は必至であるということです。
これまではプール制によって超優良、優良
路線が不
採算路線を支えてきました。超優良
路線は二〇%、三〇%の収支率ですので、極端に言うと五分の一の料金に下げても平気だと、そういうような超優良
路線がたくさんあったわけです。今後どこまでその超優良
路線が不
採算路線を支えることができるかと。つまり、今
公団の
経営は曲がり角に来ているのではないかというのが私の
意見でございます。
さて、
道路公団の
債務返済については、既に四月の九日に
国土交通省から
道路関係四
公団の
債務返済イメージの試算例という書類が公表されております。この書類については私の資料で添付させていただきました。ちょっと読みにくいものではございますが、お許しください。
これを検討いたしますと、まずこの試算例の
機構の方ですと、
債務の
返済はほとんど後半に行われております。つまり四十五年で
返済するということですね。最初の十八年では五兆円しか
返済できませんが、後半では三年で五兆円を
返済しております。この理由は、十六
年間の追加
建設の行う期間には実は実質的に
返済ができないということです。そのために幾つかのからくりを作ってありまして、初期は非常に低い金利でむしろ出資を増やしているということです。
恐らくこの出資というのは金利が付かないお金ですので、金利の付かない資金を増やして
建設を初期では行っていこう、そうしないと実は
返済どころか
債務がどんどん増えていってしまう、そうすると表の上で非常にイメージが悪いという考えがこの作成者にはあったんだろうと思います。つまり逆に、追加
建設を行わなければずっと早く、私の試算では恐らく十年から二十年の間ぐらいですね、つまり追加出資額を幾らにするかによってこれが違ってくるんですが、十年から二十年早く
返済ができるだろうと思います。ただし、この
返済というのは、次のように、
会社の方、六
会社の将来の収益試算予測が正しい場合でございます。
この資料での次のページの収益試算予測でございますけれども、ここでは、まず特徴としまして料金収入が二十年
程度増加を仮定しているということですね。実は、もう既に、
路線は、距離数は増えていますが、減少傾向がもうもはや見えているのでございます。実は、ここ数年収益は停滞、減少傾向にある、しかも新規
建設は、低
採算路線が多いところから収益は増えない、支出ばかり増える可能性というのが極めて高いということです。
もう一つの問題点は、更新経費、
道路の更新経費、
道路は四十兆から五十兆円あるわけですが、毎年一千億円しか見積もっていない点でございます。
道路の維持
管理をこのような僅少な金額で可能であるのかというのは非常に疑わしいところでございます。つまり、資産の実質減価が進んでいる場合、高額の維持更新経費が今後必要になる。つまり支出の増える可能性が非常に高いだろうということです。
しかも、ここでの私の分析では
日本道路公団を中心にしてまいりましたが、実はそのほかに本四架橋の
公団があります。そちらの方は恐らく橋、そして海という性質上、維持更新経費というのが膨大に掛かる可能性があり、それらの支出の増加を見ますと、このような
返済計画というのは非常に難しいのではないかと。
結論としましては、例示のように、例示というのは実は最も楽観的において
債務の
返済ができると。実は常識的に考えると無理なのではないかと。今後、本四架橋に追加の支援が必要な可能性を考えると、
状況は更に悪く、
会社はリース料の支払ができなくなり、
機構は
債務の
返済が行えなく、その分
国民の負担が更に発生する可能性が非常に高いと思われます。
そもそも
債務の
返済というのはなぜ必要なんでしょうか。コーポレートガバナンス、つまり
企業をきちんと監督するという
観点からは、むしろ債権者や投資家がいて監視した方が効率的な
経営が行えるはずです。私は、
高速道路は受益者負担、永久有料制、そして
債務をむしろ残す、若しくは資本を残した方がいいのではないかと考えております。資本調達や借金は、むしろ健全な
経営を行い配当と利息を支払っている限りにおいては資金を生かすことであり、社会的にむしろ貢献していることでございます。
債務償還原則による楽観的な机上の空論よりも、実現が十分可能であり、組織の行動の指針となるような永久有料制の方が社会的に有用な組織となるのではないかというのが私の
意見でございます。