運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

2004-02-09 第159回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十六年二月九日(月曜日)    午後一時開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         関谷 勝嗣君     理 事                 愛知 治郎君                 加納 時男君                 山崎  力君                 岩本  司君                 田村 秀昭君                 緒方 靖夫君     委 員                 入澤  肇君                 河本 英典君                 小林  温君                 椎名 一保君                 西銘順志郎君                 三浦 一水君                 今泉  昭君                 小川 勝也君                 田名部匡省君                 高橋 千秋君                 広野ただし君                 荒木 清寛君                 池田 幹幸君    事務局側        第一特別調査室        長        渋川 文隆君    参考人        全国農業協同組        合中央会専務理        事        山田 俊男君        東レ株式会社顧        問        大川三千男君        東京大学東洋文        化研究所教授   田中 明彦君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「新しい共存時代における日本役割」の  うち、東アジア経済現状展望東アジア経  済統合促進のための課題)について)     ─────────────
  2. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会調査テーマであります「新しい共存時代における日本役割」のうち、東アジア経済現状展望に関し、東アジア経済統合促進のための課題について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、全国農業協同組合中央会専務理事山田俊男参考人東レ株式会社顧問大川三千男参考人及び東京大学東洋文化研究所教授田中明彦参考人に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多忙中のところ本調査会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。  本調査会では、東アジア経済現状展望につきまして重点的かつ多角的な調査を進めておりますが、本日は、東アジア経済統合促進のための課題について参考人から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞどうぞよろしくお願いをいたします。  本日の議事の進め方でございますが、まず山田参考人大川参考人田中参考人の順でお一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、午後四時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いをいたします。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、早速、山田参考人から御意見をお述べいただきます。山田参考人
  3. 山田俊男

    参考人山田俊男君) JA全中山田であります。  本日は、国会の場におきまして、当面する最大の課題であります東アジア諸国FTAに関連しまして意見を申し述べる機会をいただきました。大変貴重な機会をいただいたわけでありまして、御礼を申し上げます。  お手元に資料を差し上げると同時に、パワーポイントで報告させていただきたいと存じます。(OHP映写)  まず、基本的な視点について申し上げます。  東アジア諸国我が国は、政治、経済社会文化など様々な側面でこれまで密接な関係を構築してきております。JAグループも、一九六三年にアジア農協振興機関、これIDACAといいますが、を設立し、アジア地域農協運動振興に貢献してきております。さらに、一九九七年の第二十一回JA全国大会三つ共生JAグループ運動目標として決定し、FAO飢餓撲滅草の根募金テレフードや、アジア九か国の農業団体で構成する協力のためのアジア農業者グループ取組等を通じたアジアとの共生運動を推進してきております。  このような経過から、現在進められております韓国タイフィリピンマレーシアインドネシアとのFTA交渉予備的協議が、東アジア諸国相互発展繁栄確保し、農村貧困が解消され、農業者生活の質や所得向上が図られるものと展望できるものであれば、我々JAグループは、アジアとの共生取組を更に発展させていく機会としてFTAをとらえることができると考えております。  一方で、FTAは、WTO協定においても実質的にすべての貿易関税撤廃を行うことと規定しております。アジアモンスーン気候の下、人口密度も高い中で東アジア諸国農業は、水田農業中心小規模家族経営を行うという特徴を持ち、栽培品目も似ており、その農村生活維持するため、関税撤廃が困難な品目を抱えている状況にあります。このため、東アジア諸国とのFTA交渉に当たっては、我が国を含め、これら国々農業者が抱える困難な状況について消費者経済界など内外の関係者の十分な理解と支持を得て進めていく必要があると考えております。  次の図表は、JAグループによるアジア農業者農協との連携についてであります。  アジア農協振興機関による研修受入れ実績は、韓国タイインドネシア等順番であります。また、アジアとの共生取組は、FAO飢餓撲滅草の根募金で、かんがい用ポンプ導入学校菜園農村女性食品加工事業などへの支援、マイクロプロジェクトとしてアジア展開しております。さらに、JAによる人的交流で、タイ里親制度農家交流JAとして取り組んでおります。そして、協力のためのアジア農業者グループによる農業団体間協力を行っておりますが、これは、アジアの米を中心とする九か国の農業者農協組織で構成し、既に五年になっております。  次に、FTAに関するJAグループ基本的考え方についてであります。  まず、相手国との相互発展繁栄促進を本来の目的とし、両国経済的、社会的、文化的発展を目指し、様々な分野をパッケージとして総合的に議論すべきと考えております。とりわけ、東アジア諸国との関係では、貧困対策を含めた両国農業者発展につながるものでなければならないと考えます。そして、各産業分野において公平な利益が享受されるべきであり、現状は、我が国農林水産物の圧倒的な輸入国である中で、農業分野のみにしわ寄せを求める内容になることは到底認められないと考えております。  続いて、この表は、アジアにおける貧困農業依存、零細についてであります。これらは先生方案内のとおりの状況でありまして、国民所得について大きな格差が御案内のとおりあります。一方、我が国も含めましてアジア諸国は一ヘクタール前後の零細な農業中心となっておりまして、新大陸型農業米国とは大きな格差があるところであります。  次の貿易関係についても先生方案内のとおりでありますが、貿易総額で見て我が国からの大幅な輸出超過になっておりますし、また農林水産物貿易では我が国の圧倒的な輸入超過となっております。  もう一点の貿易関係の表でありますが、それぞれの国の輸入額に占める、それぞれの国からの我が国輸入額に占めます農林水産物の割合も、タイ国とは二二%に上りますが、あとの国は一〇%程度の水準であります。  FTAに関するJAグループ基本的考え方のもう一点でありますが、多様な農業共存農業多面的機能発揮を実現できるFTAとすべきであると考えます。とりわけ、零細な家族農業中心とする東アジア諸国とのFTAについては、食糧安全保障貧困緩和雇用の創出など、アジア農業者共通の関心に対応した農業多面的機能確保される必要があると考えます。  農業の持つ多面的機能につきましては、これも御案内のとおりでありますが、日本学術会議試算では年間八兆円相当を創出しているとしているところであります。  次の文言でありますが、協力のためのアジア農業者グループもこの点について共同宣言を行っております。このアジアグループの中には輸出国も入っておるわけでありますが、我が国を除いて圧倒的途上国であります。それらの国々共同宣言であります。  アジアモンスーン地域小規模農業生産という特徴考えると、国内食糧自給率向上させることが第一義的な目標となるべきであるという点、さらに、食糧安全保障、国土・自然環境保全農村社会維持発展といった農業多面的機能が十分に発揮されなければならないといった点、さらに、アジアモンスーン地域において、食糧安全保障貧困緩和確保するため、米は歴史的にかつ今後も引き続き最も重要な作物である。米は小規模農業者の主要な雇用源所得源となっておる。また、国の経済的、社会的、政治的な安定と成長に貢献している。同時に、この地域の急傾斜な土地条件や雨量が多い条件の下で、洪水を防止し水資源を涵養するなど、水田農業社会に対して様々な非経済的な利益をもたらしているとしているところであります。  FTAに関するJAグループ基本的考え方の次の考えでありますが、現在締結されている諸外国のFTAでは農産物等に多くの例外措置が講じられています。これはそれぞれの国の気候風土地域特性の下で生産されている個別品目のセンシティビティーが尊重されているからであり、品目ごとの事情を検証の上で関税撤廃例外措置が講じられるべきであります。  貧困対策とも関連して、関税撤廃のみを中心とするのではなく、地域開発産業基盤整備などの政府間、農協間の協力基本バランスの取れたアプローチとすべきという考えでもあります。  次の自由化例外品目の例でありますが、北米自由貿易協定米国カナダ間のFTAにおきましても、米国側カナダ側においても例外品目を置いておりますし、カナダメキシコ間のFTAにおきましても同様であります。また、EUメキシコ自由貿易協定におきましても再協議品目として相当数例外措置を講じているところであります。  次は日タイ経済連携タスクフォース報告書についてであります。  産官学の作業部会を行ったわけでありまして、その報告書の中で日タイ経済連携協定の範囲につきまして以下のようにまとめております。  双方農業分野における協力重要性認識し、双方のセンシティブさを考慮しながら自由化との適切なバランスを取らなければならないことを認識した。双方はまた、このようなバランスを取ることの主な目的は、両国の農民の生活の質と向上を、所得向上させるものであることを一致したとしているところであります。  続きまして、FTA締結に向けて特に留意すべき事項として何点か考えを申し上げたいと存じます。  その一つは、食品安全性確保食糧安定供給に関連した事項であります。  まず、加工農産物調整品等を含めた原産地表示整備及びFTAにおける原産地規則の確実な措置が何としても不可欠だということであります。そして、我が国現行食品安全性基準の厳格な運用と科学的根拠に基づく衛生植物検疫措置の堅持も必要であります。さらに、我が国農産物品種品種育成者保護も絶対に欠かせないところであります。  次の表は輸入食品等食品衛生法上の不適格事例、これは今年一月の分に限ってでありまして、厚生省、厚生労働省のホームページより抜粋しておりますが、こんな状況であります。さらに、これらの点についても、これも日タイ経済連携協定タスクフォース報告書でまとめているところでありますが、国内消費と農産・食品貿易に関する食品安全性重要性認識し、双方両国農業者及び消費者利益を考慮し、科学的に立脚した相互食品安全協力を推進するとまとめているところでもあります。  FTA締結に向けて特に留意すべき事項二つ目は、アジアモンスーン地域による一層の連携強化が必要だということであります。  といいますのは、これまでのWTO農業交渉は、結果として米国豪州などを中心とする農産物輸出国が最も利益を得る形でルールが作られており、ウルグアイ・ラウンド合意以降、アジア主要国農産物貿易収支は悪化しているところであります。  小規模、零細な水田農業特徴であるアジアモンスーン地域農業新大陸型農業に席巻されないためには、WTO多国間交渉においてアジア諸国共通の対応を展開すべきであり、東アジア諸国とのFTA交渉においてはこうした将来的な連携の在り方が併せて模索されるべきということであります。  また、国民食糧の六〇%を海外に依存し、もうこれ以上依存できない我が国としては、貧困に苦しむアジア国々からの輸入拡大を図るには、圧倒的に輸入依存の大きい米国等からの輸入アジア諸国への多元化が必要だと考えるわけであります。  もう少し率直に申し上げますと、これはパワーポイントには載せておりませんが、自由化のみを志向する新大陸型農業における大規模商業農家や多国籍企業のみに利益を与える農産物貿易ルールではなく、国内自給率向上基本に持続可能な農業を主流とした食糧安全保障の達成や農業の多面的な機能が重視される貿易ルールが必要だということであり、アジア国々とこれらの方向連携したいと考えているところであります。  次の図表ウルグアイ・ラウンド合意以降のアジアの多くの国々農産物貿易収支が悪化している状況であります。  左のASEAN主要国におきます農産物貿易収支であります。上から順番に、タイマレーシアインドネシアフィリピンであります。タイマレーシア収支を悪化させているのはアジア経済危機影響していると考えられます。また、フィリピン赤字になってしまっております。  右側の日本韓国でありますが、上が韓国、下が日本であります。両国とも大きな赤字でありまして、日本が近年アップしていますが、これは為替の影響かと考えているところであります。  次の図は我が国食糧輸入額国別シェアでありますが、我が国食糧輸入額のうち先進国農産物輸出国である米国豪州カナダの三か国が占めるシェアは三八・一%に上っております。アジア諸国との連携強化観点から、また輸入多元化による食糧安全保障強化観点から、アジアからの輸入シェアを高めるべきだと考えるところであります。  さて次に、最後になりますが、FTA締結に向けて特に留意すべき事項三つ目は、国内農業政策制度転換対策についてであります。  現行国内農業政策は、品目によって、関税など国境措置前提に、国内の需給や価格安定を図る制度運営が行われておりますが、FTAによっても影響を来さないような国内政策制度転換が必要であります。当然、JAグループとしましても地域農業担い手育成確保取組に全力を挙げる所存であります。  具体的な検討を要する事項としましては、農地農地として効率的に利用し得る農地利用制度の確立であります。さらに、集落営農も含めた地域農業担い手経営を支える新たな経営所得安定対策であります。さらに、多面的機能発揮する農業資源保全農村整備対策であります。さらに、自給率向上を目指した飼料作物や大家畜の水田農業への戦略的な導入定着化であります。そして、輸出振興バイオマスエネルギー利用の推進など、我が国農産物優位性発揮のための対策でありまして、そして、これら施策を支援するための税制・金融・法制度整備対策についてでありまして、これらが何としても必要だと考えているところであります。  以上、述べさせていただきました。大変ありがとうございました。
  4. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、大川参考人から御意見をお述べいただきます。大川参考人
  5. 大川三千男

    参考人大川三千男君) ただいま御紹介をいただきました東レ顧問をしております大川でございます。  本日は、この参議院国際問題調査会の席上でお話をさせていただく機会をいただき、誠に光栄に存ずるとともに、厚く御礼を申し上げます。  私は、産業界立場から、自由貿易協定というFTAを含むEPA、エコノミック・パートナーシップ・アグリーメントと呼ばれておりますけれども、これをしっかりと進めていきたいと、こういう立場に立ったお話を申し上げたいと思います。  若干、私の自己紹介をさせていただきますと、私は東レ、当時は東洋レーヨンという会社に昭和三十八年に入社をいたしまして、繊維事業の営業でありますとか事業企画管理ということを長年やっておりました。その間、日本繊維産業は、これは御案内のとおり、いろいろな戦後の復興にも大きな役割を果たし、私がちょうど入社したころはまだまだ高度成長期であったわけでありますが、その後、国内市場の成熟、それから周辺諸国の躍進、それからオイルショック、そういうことが重なりまして構造不況的な業種になっていったと。  その間でどういう一つのことをやったかと申しますと、一つ事業多角化ということで、非常にきめの細かい繊維を作るという技術周辺化学品に生かして、フィルムとか樹脂とか、そういう分野に出るとか、あるいはグローバルな展開、つまり日本国内ではなかなか事業として成立しないもの、そして周辺の国ではこれから事業化しようとしているものに対して、どんどんと海外に出て、今まで持っている技術その他を生かすという一つのグローバリゼーション、それから多角化と、こういうことを身をもって関与してまいりました。そういう中で、やはりいろいろな東南アジア諸国との競争のありようとか、あるいは自分たち一つ技術開発力とか、そういうことが非常に重要なポイントになってきたわけであります。  そういうようなことを踏まえて、現在、私は日本経団連アジア大洋地域委員会企画部会長というところを務めさせていただいておりまして、このアジアとの経済連携をどうして、どういうふうな形で強化していくかというプロジェクトに携わっておりますので、まずそのお話から始めたいと思います。  お手元に若干のレジュメを用意しておりますけれども、このアジア大洋地域委員会では、二〇〇二年から二〇〇三年にかけまして何回かの提言をしてきております。その提言意見内容は、やはり日本ASEANが包括的な経済連携構想をしっかりと進めていく必要がある。いろいろ御承知のように、アメリカにおきますNAFTAEU、非常に大きな地域統合ということができておりますし、現在、世界では二百近いFTAが成立していると。しかしながら、日本の場合は、WTOという一つバイ通商対策ということを中心に据えて、済みません、マルチの通商対策中心に置いて、バイのそういう一つFTAとかそういうことについてはかなり後れてきたわけでありますけれども、やはり数年前から日本方向転換をしようと。現実に企業の活動もどんどん海外に出てグローバルな展開が進んでいるわけでありますから、そういう形でのニーズというのは非常に強くあったわけであります。  まず、ASEANプラス3、この3というのは日本中国韓国でありますけれども、そういうところを中心とする統合された東アジア市場ということの形成、それがやはり日本経済の活力の維持ということにつながるというのが基本的な認識でありますけれども、この全体を作るためにはまだ相当時間が掛かります。個別の、国別FTAプラス、それにプラスしたEPAということでありますが、一方で日本ASEANの包括的な経済連携構想ということも早期に具体化できるように考えていかなければいけない、こういう一つ考え方であります。  その中で、東アジアにおいて中国というのが、この四、五年間の台頭ぶりは物すごいものがありまして非常に大きな力を持つように至っている。競争力の点、いろいろな点で日本からの直接海外投資中国に非常に大きなウエートが掛かるようになってきております。  しかしながら、もちろん中国の持つ可能性と力は強いわけでありますけれども、やはり日本企業が過去二十年近くにわたって培ってきたASEANにおける産業の集積あるいは人材ということが非常に重要なわけでありますから、中国ASEANとがひとつバランスを持って日本対象地域として考えていかなければいけないと、こういう認識をしているわけであります。  そういう中で、対象分野といたしましては、単なる、先ほどから申し上げましたFTA自由貿易協定という関税相互引下げ中心にして、原産地規則でありますとか直接その貿易にかかわる自由化を行うということに加えまして、包括的な経済連携ということで、投資ルールでありますとか知的財産権でありますとか、要するに、経済連携全般についてのしっかりとした提携を進めていかなければいけないということで、分野を非常に広めようと。これにつきましては、日本とシンガポールのEPA、JSEPAというものが成立をして発効してから既に一年を経過しておりますけれども、これがモデルになります。  それから、ASEAN全体としては、タイフィリピンマレーシアインドネシアという先進国グループと、それからCLMVと言われますカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムと、こういうグループとがあるわけでありますが、全体としてどのように進めるかということは非常に難しい課題ではありますけれども、時間を掛けながらASEAN一つの結束と安定を重視するという形でのASEAN全域での経済連携を進めなければいけない。しかしながら、そのベースとしては個々の国とのEPAを進めるということで、デュアルアプローチと呼んでおりますけれども、国別交渉ASEAN全体との交渉ということを並行して行うという形で、まず国別交渉が先行し、しかし、そのときにもASEAN全体との包括的な連携ということも念頭に置きながらやっていくことが必要であると、こういう考え方一つ産業界意見として打ち出しております。  そういうことを進めていくときに、非常に日本産業にとりましての大きな課題は、やはり国内構造改革を進めていかないといけないと。やはりFTAというものはより一層の貿易自由化であります。やはり競争力ということが非常に強く問われるわけでありまして、日本産業競争力はいろんな面で、優れた品質の力あるいは製品開発力とかいろいろありますけれども、やはりコストは非常に高いという高コスト構造という一つ基盤を持っている。そういうものをしっかりと是正していく、あるいは対外的な市場アクセスを改善する、こういうようなことがFTAEPAを進めていく前提条件として必要である。したがって、正に関税相互引下げ対象になるような貿易財競争力を増やすための、例えば国内における製造業基盤を構成するような物流であるとかエネルギーであるとか、そういう分野でのやはり生産性向上ということがまず必要にもなる、こういうことを非常に重視をしております。  国際競争力の弱い分野についてしっかり改革をする、そして産業構造を高度化する。新しい一つの国との間の産業分担とかそういうことが起きますけれども、何か非常に日本が弱いから外へ委託するという、外へ出して分担をするというよりも、やはりその中で一つ一つ産業日本でやっていける可能性ということをしっかりと見極めて改善をしていくと、こういうことも一つ非常に大事なことではないかと思います。  それから、人の移動の自由化という、この辺りのことも進めなければいけない。それから、戦略的な産業分野の基礎研究の充実と応用開発の強化日本の場合には、このような新しい分野あるいは優れた分野でのやっぱり研究の充実、技術力の開発、新しい商品の開発力と、こういうことが大変な決め手になりますので、この辺りについては、是非しっかりとした環境であるとかバイオテクノロジーであるとかナノテクノロジー、ITというような分野での基礎研究の充実と応用開発の強化と、こういうことが不断になされていかなければいけないということであります。  そういうような形でのFTAEPAを進めますと、結果としてまた国内日本産業構造改革促進されるという面があります。割合、この後者の方がしばしばよく強調されるんですけれども、やはりそういうことをやっていけるための国内のいろいろな産業基盤強化ということがあってFTAEPAということがしっかりいくであろうというように考えております。  それから、そういうような中で、東アジアについて、タイとかあるいはマレーシア、シンガポールとの個別の経済連携のいろいろな組立てが進みましたが、私はたまたまタイ経済連携協定、今、山田専務からもお話がありましたけれども、このタスクフォースにも参加する機会がありまして、これは五回の、二〇〇二年九月から二〇〇三年の五月までに五回の作業部会がありまして、そのうちの二回ほどと、昨年の七月から十一月までの更にタスクフォースを実施した三回とに参加をいたしました。  その中で、いろいろな具体的な検討内容、これはやっぱりEPAでありますから、非常に広い分野にわたって双方のいろんな認識あるいはその課題というものを確認できることができました。これは大変な作業だったと思いますが、やはり一つ一つの国との経済連携強化のために、こういう一つのいろんな基礎的な作業をして、さらに本格交渉に入ると、こういうステップは、これは大変な労力とエネルギーが要りますけれども、やはり今の日本にとって非常に大事なことではないかというのが参加した実感でございます。  それともう一つは、タイの場合に、タイの側に国として推進する機運といいますか、これが非常に強い。タクシン首相のリーダーシップという面があろうかと思いますけれども、関税率を平均してみますと、日本タイとの間には相当大きな差があります。多分、日本が二・何%ぐらいの平均的な関税率に対して、タイの方は二五%かそれぐらいのレベルの大きな関税率の差がありながら、タイの方はやはり日本とのFTAEPAをしっかりとやっていきたいというところがありまして、昨年の六月にASEANの首脳が日本に来られたときに、そのときに本格交渉に入るのかどうかという一つタイミングがあったんでありますけれども、これは、そのときはまだ日本は本格交渉には入れないと。いろいろタイのトップと日本のトップとの間にもギャップがあったようではありますけれども、基本的にはそれから後、このいわゆるタスクフォースという産官学の検討会をもう少し続けて、基盤を作ってから本格交渉に入ろうということになったわけであります。  この下に、この辺はもう先生方案内のとおりでございますけれども、この秋から韓国との本格交渉の開始が十月二十日の日韓首脳会議で決まりました。  それから、このタイを含め、マレーシアフィリピンとの本格交渉の開始が、十二月の日本と各国の首脳会談がありましたけれども、その個別の首脳会談で決まっております。  それから、日本メキシコは、御承知のように現在、今最後の段階での詰めでのなかなか苦しい話合いが進められるというふうに聞いております。  それから、この日本ASEAN全体での経済連携の枠組みということも、二〇〇三年十月八日のバリ島の日・ASEAN首脳会議で署名されまして、二〇一二年というところ以前にスタートをしようと、完成をさせようということで交渉、協議を始め、交渉を来年から始めると、こういうような形の枠組みが署名をされております。  それから、日中韓ビジネスフォーラムの成果ということでは、まだこれはそういうことの以前の段階のビジネスフォーラムでありますけれども、今年も第二回が北京で開催をされているということでございます。  こういうような形で、私どもが日本経団連アジア大洋地域委員会で主張してきておりますことが、ともかく現実の本格交渉あるいは枠組みの署名という形で現実に近くなってきたということについては、非常にこれは高く評価されて、我々も更に一段とそういうことが進めるように後押しをしていかなければいけないのではないかと考えております。  こういうことについての一つ産業界基本的な考え方といたしまして、日本経団連では、二〇〇一年の六月に、いろいろそのころから重層的な通商政策ということで、マルチだけではなくてバイもということでありましたが、例えば農業問題のない国とまずやろうとか、あるいはどこからか言われたからやろうということではなくて、やっぱり産業界としてのグランドデザインということが非常に重要ではないかという問題意識で、日本経団連が二〇〇一年六月にこういう戦略的通商政策ということでまとめております。  WTOにおける自由化とかルール強化、これが一つのあれでありますが、併せて二国間地域協定の推進、それから国内体制の整備ということで、実は日本の場合にこの通商政策ということが割合手薄であったというふうにも思います。国内改革の推進もしなければいけないし、国内の通商法制、これもいろいろな通商的な手段というものが諸外国に比べると、これはアンチダンピングでありますとかセーフガードでありますとか、いろいろな貿易救済措置を含めて余り使われていなかったと。そういうことをもっとしっかりやろうと。そういうことも含めて一つのグランドデザインをそこで立てたわけであります。  さらに、昨年の二月に、日本経団連ビジョンという形で奥田ビジョンと呼ばれるものが世に公表されましたが、その中の第三章は、東アジア経済連携強化しグローバル競争に挑むという形でこれが書かれておりまして、時間がないので詳しくは申し上げませんけれども、一つは、この中に開国という言葉が出てまいります。やはり日本が第三の開国を進めるべきなんだと、自らの手でやるんだと、これは明治維新と第二次大戦後のことに続く第三の開国をするんだということで、やはり改革と、それからやっぱり五つの自由化といいますか、外に向かって開いていくという、このことがやはり日本のこれからの経済産業の活力を維持していくための非常に重要なポイントであるということが強調されていることは一つ重要なところだと思います。  それから、産業競争力強化のための六つの戦略という、これは経済産業省がまとめた産業競争力強化の戦略的な強化ということの中でも、東アジア自由ビジネス圏というものを形成して、そこでのやり取りの中で経済活力を高めていくということがうたわれております。  それから、個別産業それから企業ということでは、いろいろと先ほどからも、私どもの会社でももう昭和四十年代の半ばからいろいろなグローバリゼーションを進めなければいけないと。最近はますますそういうようなグローバルな展開ということが強くなってきておりますが、そういうことと、それから輸出入ということでの日本の、貿易依存度が高い貿易立国の国におきますこの経済連携強化ということが非常に重要でございます。  この辺り、その四番で書いてありますことは、これは私のかなり私見でございますけれども、やはり経済発展の原動力ということは、やっぱり競争力強化産業競争力強化ということが基本になるわけで、それのための一つ改革と、そして自由化、外に向かって開かれた世界にしていく。中国のトウ小平が開放と改革ということで非常に短時間にあの国を大きな経済発展に向かわせたように、この二つのポイントが非常に重要ではないかと。  それから、この今のEPAの推進体制、経団連も、EPAタスクフォースということでいろんな委員会に分散しておりました検討体制を一本化して今強化しようとしておりますし、各省庁も、FTA重視の体制と、こういうことが組まれておりますが、じゃ国としてどういう形が要るのかと。非常に、対外的な交渉、それから国内的な調整ということにおいて、これの一つの実行機関ということが非常に重要だということが言われております。  それから、五番の経済連携に関する諸論点ということは、今までの中でいろいろとちょっと申し上げましたが、一つ中国、インドとASEAN経済連携、これは途上国同士ですから日本が入る場合よりはもっとやりやすいんでありますけれども、これが非常に具体的にどんどん進んできている。  それから、NAFTAとかEUというところが地域統合をどう活用しているかということもよく勉強していく必要があるのではないかと思います。  大変走りましたけれども、私の意見として今申し上げたとおりでございます。  ありがとうございました。
  6. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、田中参考人から御意見をお述べいただきます。田中参考人
  7. 田中明彦

    参考人田中明彦君) 東京大学の田中でございます。  本日は、参議院国際問題調査会にお招きいただきまして、大変ありがとうございます。本調査会におきまして、東アジア経済統合促進のための措置について御審議いただくということ、大変すばらしいことであろうというふうに思っております。  この東アジアの経済統合促進というテーマにつきましては、本日のお二方の御参考人、それから自由貿易協定促進につきましてはこれまでにも御参考人の方が実質的な議論についてはお話しいただいているというふうに承知しておりまして、私は、その実質的な議論を踏まえた上で、日本がそこでどのような外交を進めるべきか、そのためにどのような体制が必要であるか、あるいは現在の体制にどのような問題点があるかというようなことについて私の私見を申し述べさせていただきたいというふうに思っております。  お手元に一枚の非常に簡単な項目だけを示した紙を御用意しておりますけれども、それに従いまして少しずつ御説明申し上げさせていただきたいというふうに思います。  一番最初、やや学者、研究者風の言論的に申し上げて恐縮ですけれども、本日、経済外交強化というふうに申し上げましたけれども、現在、この外交というものに一体どういう特徴があるかということについて、まず最初、簡単におさらいをさせていただきたいというふうに思います。  古典的に言いますと、十九世紀とか二十世紀の初めぐらいの外交といいますと、大まかに言えば国と国とが特命全権大使を交わして交渉すると、そういうようなイメージでありますね。今年は日露戦争の百周年ですけれども、外交のイメージというと、やはりポーツマス講和会議に出ていった小村寿太郎全権がロシアの全権と渡り合うというような、そういうイメージでございます。  もちろん、このようなタイプの外交交渉というのは今もございます。日本が例えば北朝鮮との間で拉致問題について交渉をやるといえば、それは国を代表した特命全権ないしそれに代わる部分の人がやるわけですが、こればかりが現代の外交ではないと。今の外交というのは、今までの古典的なものに比べて相当複雑性を増している。なぜかというと、そもそも外交の取り扱う課題というものが非常に多くなって、その結果、外交といっても外務省だけがやるというようなものではなくなってきている。  ここに、私、やや抽象的な現代外交の定義を書きましたけれども、ここに、読み上げますと、「自国と世界システムの他の部分との間の相互作用に関する国家としての(非軍事的)処理」と。やや持って回った言い方をしましたけれども、今、外交ということを考えると、こういうようなやや持って回ったような抽象的なことを言わざるを得ない。  こういうふうに言った上で、どういうところに特徴があるか、古典的なものと比べてどういうところに特徴があるかというと、ここに四つほど挙げておきました。  一つは、まず、様々な交渉経路というのが同時並行的に進んでいる。外務省と外務省だけが交渉しているわけではない。経済産業省も交渉している。農水省も交渉しているし、経団連も交渉しているし、JA交渉していると。様々なものが交渉しているという多数の交渉経路があります。  そして、第二に、このいろんなところで行われている交渉が皆、個々別々に行われているのではなくて、非常に複雑なリンケージ、連携といいましょうか連関の下に、一方で起こっていることが他方に常に影響を与えるということがあります。  それから、三番目に、ここに「2レベル・ゲーム」と書きましたけれども、現代の外交というのは外国とだけ交渉していればいいのではないのですね。外国との交渉の結果を国内の有権者の人たちがこれで受け入れてくれるかという問題もあって、国内向けにもゲームをやっている。つまり、外で行うゲームをやりつつ、それが国内で行うゲームでもそれが同じ範囲に収まるというような形、両方のゲームで解答を求めなければいけないという状況があります。  そして、四番目に、外交といったときに、例えば日本タイとで交渉を進めているという外交は、それだけが行われているわけではなくて、WTOで行われる多角的な外交と、それと日本タイとの外交というのは同時並行的に行われるという現象も起こってくるわけであります。  ですから、今申し上げましたように、現代の、特に経済中心としたような外交ということは非常に複雑な絡まり合った様相を呈しているということをまず確認しておく必要があろうかと思います。  そこで、第二の論点でありますが、現在の日本にとっての経済外交の課題というのはどんなものがあるのかということについて私の考えを述べたいと思います。  まず、第一に考えなければいけないのは、東アジア共同体というようなものを作るということが日本にとって戦略的に重要な課題になっているということを申し上げたいというふうに思います。  日本の外交といえば、常に日米関係が重要であるということが言われますし、それからもう一つ、抽象的に言えば国際協調が重要であるということが言われます。この日米重視も国際協調もともに重要であることは間違いありませんが、これに加えて、やはり今後の日本の将来を考えたときに、日本の近隣地域、つまり東アジアに平和で安定し、繁栄する地域を作っていくということの意味を非常に重く考えなければいけないというふうに思います。  もちろん、日本日本だと、日本独自でやっていくのだという考え方もあるとは思いますが、現代の世界の中で、とりわけ日本において少子高齢化等が進む中で、日本人が日本人の国民利益を最大限に維持しておくために日本というユニットだけで考えて世界に対処するのが望ましいかという問題がございます。  私は、現在の日本にとっては、日本を重視するということとともに、日本を含むより大きな枠組みを日本周辺地域に作っていくということが重要であり、その日本周辺地域に作った大きな枠組みの中で日本人の発言力を確保していくということが非常に重要であると思っております。したがって、そのような枠組みというのがここで言う東アジア共同体というものだと思います。  そして、この東アジア共同体を作るためにはどうしたらいいかということを考えていきますと、現在の東アジアの客観的情勢ですね、政治的には様々な体制があり、文化的にも様々であるというような状況から考えれば、この中で最も促進しやすい領域はどこかといえば、これは経済なのであります。経済的な相互依存、結び付き、深めていき、そして経済的に、ああ、我々は同じ船に乗っているんだというふうに東アジアの人々が思っていくということが正にこの東アジアの共同体を作っていくことにつながる一番有効な道であるということです。  そして、その経済重視の東アジア共同体重視といったときに具体策は何かといえば、現在のところ最も重要なのは、先ほど来お話がある自由貿易協定作成であり、包括的経済連携の実現であるということであります。  ただ、このような東アジア共同体というような戦略的課題を実現しようとすると、これはかなり容易ならざる事業であるということを我々は考えなければいけない。なぜかというと、それは取り扱う対象一つのものに限られないわけですね。課題の包括性というふうに言ったらいいと思います。つまり、外交交渉にこれはなりますけれども、その外交交渉の取り扱う領域は日本の官僚組織すべての管轄事項にまたがると言っても過言でないという状況なのであります。  特に、そういうような課題についてこれまでの小泉政権のやってきたこと、全くなかったということではなくて、それなりの成果があると思います。  二〇〇二年の一月に小泉さんはシンガポールに行って、ともに進みともに歩むコミュニティーということで東アジア共同体を提起されて、シンガポールとの経済連携協定を実現させるという形で進んできましたし、昨年の十二月には日・ASEAN首脳会議ということで、そのときに、先ほどの大川参考人からのお話にあったような様々な交渉に入るということが進んできたわけであります。  ただ、私、このプロセスを見ておりますと、やはりそこには日本経済外交を実施する上での問題点というものが出てきているというふうに思わざるを得ません。つまり、一番最初に、冒頭述べましたような、現在のような複雑な外交を進めるための、進めていくのに、今の体制で果たしていいのかという問題が出てきていると思うわけであります。  先ほど大川参考人がおっしゃられたことで、日本タイとのFTAについて、タイの首脳は昨年の六月に何とか本格交渉に入りたいと意気込んで日本に来られたわけですね。ところが、そのときに、日本の政府、小泉さんはもうちょっと待ってくれということを実質おっしゃったわけです。これがこの十二月に本格交渉に入れたというのですから、現実には日本タイの間で本格交渉に入るということは、後から考えれば問題はないはずなんですね。十二月にできたものがなぜ六月にできないのかという、そういう問題があると思います。その六か月遅れたことによってどういう問題が起きたかというようなことをやはりいろいろ考えてみる必要があろうかと思います。  さて、その面を考える場合に、日本のやはりその政策実現のための体制の特徴ということをもう一度ここでおさらいしてみる必要があると思います。  これは、日本の通常の行政組織ですから内閣法の下にありまして、各省設置法に基づいて行われます。この体制は通常いわゆる縦割り行政といったものですが、日本FTA交渉を進めるに当たっても、いわゆる縦割り行政の弊害というものが私はかなり色濃く出ているというふうに思わざるを得ません。  しばしば、日本の体制をやゆする表現として、日本には課長の数だけ政府があると言われたりすることがあるわけですね。そして、その結果、課あって局なく、局あって省なく、省あって国なしというような、すべてが課の関心中心に物事が進む。そのすべての担当の課を中心に、それに利益団体と、場合によっては政治家の先生方がくっ付いた小さい鉄の三角形というものができ上がって、すべての課ごとに小さい鉄の三角形がある。この小さい鉄の三角形がノーと言うと何も動かないというようなことが、時に日本の政策決定メカニズムに対して批判される特徴なのであります。これは、すべてがこうなっていると私は申し上げませんけれども、このような面が現在のFTA交渉についても出てきているというふうに思うわけであります。  その結果、今の日本経済外交にどういう問題が出ているかというと、ここに四つほど挙げました。  まず、統一意思の欠如であります。このFTA、先ほど申し上げましたように、すべてといいましょうか、非常に包括的な領域にかかわり合います。そうすると、担当している課長さんの数というのは何人にもなるわけですね。そうすると、それぞれの課長さんが政府ですから、一つの単一の日本政府の意図というのがそこから生じないという問題があります。  そして、統一意思がございませんから、この交渉をどのように進めていくかということについての日本国としてのゲームプランというものが欠如する。この進め方はもちろん、対外的にもそうですし対内的にも、両方あると思います。例えば、六月に日タイ交渉は入るのはやめた、それから九月にWTO会議がある、同時に日本メキシコFTAが進んでいるといったときに、この三つなり四つなりのものをどう関連させて進めていくのかについて、果たしてどれだけ突っ込んだゲームプランがあったのかということになると、私はいささか自信が持てないわけであります。  そして三番目に、リンケージ戦略の欠如と書きました。非常に複雑な様々な問題を一緒に取り扱う交渉事になります。その結果、何が必要になるかというと、まとめようとした場合に、一つの領域について何かこちらに得をしようと思えば、別の領域で譲歩しなければいけないということになります。ところが、日本には、先ほど申し上げましたように課長の数だけ政府がありまして、そうすると、こちらの課のところで得点を取ろうと思ったら、どこかの課で泣いてもらわなきゃいけないわけですね。ところが、この両方が政府で、両方が拒否権を持っていますから、そうすると、片方で日本国としては絶対的に得になるものを獲得しようとしても、他方のところで譲歩するということが決断ができないということになる、そういう問題が出てきます。  それから、最後に、そのように大勢のアクターを取りまとめていきますから、これは時間が非常に掛かる。先ほど、なぜ六月は駄目だったのが十二月になってできるのかというと、やっぱり六か月時間が必要だったということなのが実態なのだと思います。現代のような、情勢がかなり早く進む中でこのように時間を掛けていくということが、果たして日本経済外交にとって適切かというような問題が出てきていると思います。必ずしも、中国のやっているやり方がすべて正しかったり、うまくいっているというわけではありませんけれども、例えば日本ASEANとの交渉でいえば、中国ASEANに対して行う様々なオファーというようなものにはそれなりのスピード感が見られるということは、私は事実だと思います。  さて、最後に、もう時間もございませんが、それではどうしたらいいかということでございます。  長期的な面とそれから短期的な面について、分けて申し述べてみたいと思います。  私にしても、これは大変、非常に複雑な日本の、そもそもこれまでに長い間できた政治体制の問題ですから、直ちに答えが出るというものではありませんが、若干、私論的に申し上げますと、長期的に言うと、やはり各省ごとの役目が余りに固定的に決まっている設置法の体制というのはそれなりに考えていかなければいけない。各省の任務、役割分担について、もう少し総理大臣あるいは官房なりがその任務についてフレキシビリティーを持てるような法体制にしていく必要があるのではなかろうかと思います。  それから、このFTAのような総合的な対外戦略を考えるに当たって、やはり長期的に言えば、経済財政諮問会議とか総合科学技術会議というような総合的なシステムが現在は内閣府にございますけれども、そのような対外政策についても、対外関係総合戦略会議といったようなものを総理の下に設置するということも考慮に値するのではなかろうかと思っております。  さらにまた、省庁の再編ということはもうこの間やりましたからなかなか難しいかもしれませんけれども、経済産業省と外務省、それからその他の省庁の経済担当部門というものを今後どういうふうに位置付けるのかということも長期の課題であろうと思います。  さて、そのような長期のものは課題として考えるとして、短期的に現在のFTAを進めるためにどういうことが必要であろうかというふうに思うわけであります。  二〇〇一年の中央省庁等改革によって、実際は総理大臣の重要政策等についての発議権というようなものが新しい内閣法に書き込まれておりますから、あるいは内閣官房の企画立案ということも新しい内閣法に書き込まれておるわけでありますので、政治のリーダーシップをかなり強く発揮すれば、現在でも相当程度総合的なリーダーシップを発揮するということは可能であろうと思います。ただ、それでも、現在の段階ですと、経済交渉というと、その交渉のたびに関係閣僚すべてが出ていく。外務大臣、経産大臣、農水大臣、みんなが出ていって交渉に行く。大臣レベルでないときも、次官級といいましょうか、外務審議官が行けば通商審議官が行き、そこに農水省のやはり同じランクの審議官が行くという、すべて関係の省庁のランクの同じ人が日本は全部行くわけですね。それで行って、相手方は一人と交渉する。このような体制というのはやはり考えていかなければいけない。  私は、例えば特命で、現在、対外経済担当大臣というようなものを任命して、日本FTA交渉はこの一人の人がやるのだということを決めるということが必要であろうと思います。もちろん、特命で一人の方を任命するということ以外には、例えば現在の経済産業大臣をその特命の対外経済担当大臣であるのだということによって、一人の責任者が日本交渉をする、一人の交渉者がギブ・アンド・テークで、先ほど言ったリンケージ戦略が取れるという形を取っていく必要があるのではなかろうかと思っております。  言い尽くせない点もございますが、この辺で私の発言とさせていただきます。
  8. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  お三方の御意見もまだおありでしょうけれども、それは質疑の間でまた参考人の方々から十分にお述べいただけたらいいと思います。  これより質疑を行います。  本日も、あらかじめ質疑者を定めず、質疑応答を行います。  質疑を希望される方は、挙手の上、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと思います。  できるだけ多くの委員の方々が質疑を行うことができますよう、委員の一回の発言時間は五分程度お願いをいたします。  また、質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  なお、本日は、各会派の協議により、自民、公明、民主、共産の順に各会派一人一巡するよう指名をいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  まず最初に、加納時男君。
  9. 加納時男

    ○加納時男君 自由民主党の加納時男でございます。  今日は、三人の参考人の方、非常に有益なお話をいただきまして、ありがとうございました。限られた五分間という時間で、私の発言時間ですが、二点に絞ります。  一つは、田中参考人に伺いたいと思っております。  今日、鋭くもおっしゃったように、現代の経済外交の特徴は、多数、複雑な交渉、対内、対外のツーレベルのゲーム、そしてマルチとバイの外交の併存と。私風に言うと三点、先生は四点ということですが、こういうふうな特徴というのは同感でございます。  そこで、例えば対外交渉をやるときに、相手は一人なのに対して、日本は三省あるいは四省のそれぞれトップ、準トップが同時に出掛けていくというのは変じゃないかとおっしゃるのは同感であります。  参考になるものとしてUSTRがあると思います。USTRは、アメリカ通商代表部でありますが、私もよくお付き合いしておりますが、これは大変な強力な権限がありまして、対内的に各省の利害を調整する、そして対外的には代表交渉の一本の窓口となって、ワンボイス、USワンボイスということで発言する。日本は、マルチボイス、ボイシズと言うんですか、たくさんの声が出るというところで、ちょっとこれ違うわけですね。  そこで、どうしたらいいのか。今、設置法体制の見直しと、もう一つ、対外経済担当大臣の任命とおっしゃったんですが、大臣だけ任命しても本当にいいんだろうかと。  一つの案として、私はこういう案もあり得ると思うのは、JTR。JTRというのは、JTとかJRがありますが、JTRというのはジャパン・トレード・レプリゼンタティブズ、要するに日本通商代表部というようなものを、強力なものを作り、総理直属のものを作り、それは各省庁よりも一つランクが上の大臣が担当すると。そこに強力なスタッフが付くと。そこで、いろんな調整はもちろん必要ですが、その上で、そこでまとまったものは、日本は対内的にも対外的にもワンボイスでいくというふうなアイデアがありますが、これについて先生の御所見を承りたいと思います。  質問だけ最初させていただくと、第二の質問は農業の問題であります。  農というとすぐ農業と言うんですが、私はこれ非常に抵抗がありまして、農というのには三つの切り口があると思います。  一つは、文化としての農。例えば、美しい田園とか中山間地域の活用だとか、自然、生態系との共存だとか、今日、山田参考人がおっしゃったように水資源の涵養とか、それからまたコミュニティーとしての農村。いろんな意味で文化としての農というのは私は非常に大切にしたいなと思っています。  と同時に、二つ目食糧としての農というとらえ方があると思います。つまり、農業基本法にもあります、自給率の向上というのが食糧としての農の肝だと思います。米というのにすぐみんな頭がいきますが、米だけではなく、穀物とか、実は飼料というのが大変に自給率が低いわけでありまして、これは私は非常に日本の安全保障上大きく憂慮されるところではないかと思いますが、そういう食糧としての農。  それから、三つ目が、今日も議題になったのは、実は産業としての農業。農と農業は違うというのが私の主張でございます。農業といいますと、どうしても産業・通商政策との調整が必要になってきますが、何といっても、この答えといいますか方向性としては、現状、比較劣位に入りますので、生産性を上げることこそ解決の急務だろうと思っています。そのためにも、余りにも小規模な農地の集約化であるとか、あるいは、直ちに法人が全部やるというのがいいかどうかは問題ですが、少なくとも現状の農家を出発点とした、法人化による大規模な農業経営による規模の利益を得ること、あるいはそこに企業の論理を導入すること、さらには流通の近代化、こういったようなことが大事だろうと思っております。  東アジアでは先ほど来御指摘があったように小規模で零細なものが多く、非常にこの問題を取り上げるのがセンシティブであるというのは十分分かっておりますが、センシティブだからこそ、逃げるんじゃなくて、センシティブなものをいかに解決し、そして、大川参考人がおっしゃったような改革と開放といった、開国といったことをこの農でもやっていくべきではないだろうかと。  私は、質問をまとめますと、文化としての農、食糧としての農、産業としての農、三つの農を良い加減に考えていく。これ、具体的には、例えば除外品目を設けるとか、それを段階的に減らすとか、いろんな折り合いがあると思うんですが、良い加減の折り合いこそ大事ではないかと思うんですが、これについて御示唆をいただければいいのかと思います。  余り能のある質問じゃなくて申し訳ございませんが、以上三点を伺い、ちょうど五分になりましたので終わります。
  10. 田中明彦

    参考人田中明彦君) 加納先生おっしゃられたJTRでありますけれども、これは一つ考え方として十分成り立ち得ると思っております。  ただ、私これを申し上げなかったのは、短期の対策といいますのは、現にFTA今やっているわけで、この現状のプロセスの中でもし今このJTRを作りましょうということを始めますと、これは日本の、何というんでしょうか、役所の通弊といいましょうか、いわゆる組織いじりに言及されると日本の役人の皆さんはこれに抵抗することに全精力を費やすようになるんですね。ですから、現下の情勢で、もし自由貿易協定を作りましょうということを一生懸命やっているときに省庁再編あるいは新組織を作りますというふうに言いますと、若干私は非生産的なことが起こるんではないかというふうに危惧しておりまして、短期のことでは申し上げませんでした。  ただ、これは中長期的に考えますと考え得ることでありまして、特に日本の場合は対外経済交渉について経済産業省とそれから外務省との役割分担ということがやや問題含みになってきておりますので、JTR構想ということを考える場合には正にそのような経産省あるいは外務省の経済局などの体制の見直しを含めた形で行っていくということが必要になってくると思っております。  どうもありがとうございます。
  11. 山田俊男

    参考人山田俊男君) 加納先生の御指摘になりました三つの農という考えに全く大賛成であります。大変御示唆をいただきましてありがとうございます。  先生、とりわけその中でおっしゃいました、食糧としての農につきまして先生御指摘の、穀物と飼料穀物の自給率が低いという御指摘であります。  おっしゃるとおりでありまして、我が国は実は穀物と飼料穀物合わせまして三千万トン近いものを、それこそ関税ゼロで輸入しておるわけであります。もっとも、一部、麦についてのみ、食用の麦についてのみ今関税を掛けておりますが、あとは圧倒的に関税ゼロであります。一方で、高関税品目について、米を始めとして十品目程度があるわけであります。我が国がいかにも高関税の国でありまして、かつそれを、FTA等の推進の邪魔になっているのが農産物であるという指摘ありますが、事実のやっぱり認識は少し違うんじゃないかというふうに考えているところでありまして、そういう面では飼料穀物等三千トンもの関税をゼロにしているということが我が国農産物の何といいますか、外交交渉の力を大変弱くしている部分がある、弾力的な対応ができていないというふうに受け止めているところであります。  ところで、十品目の高い関税につきまして、関税品目につきましてどう対応するかということでありますが、制度的な対応をきちっとやることによりまして対策が十分講じられるんではないかというふうに認識しているところがあります。  しかし、それにしましても、新大陸型の大規模農業には決してなり得ないわけでありますし、それから、農地をそれこそこういう形で所有しているわけでありますが、規模を拡大する以上は、農地を所有ではなくて利用の形でどんなふうに拡大できるかということがあろうかというふうに思っておりまして、私有財産制の国ではあるわけでありますけれども、しかし、利用を拡大する手だてにつきまして法制度上の大胆な検討があってもいいんではないかというふうに思うところであります。  それから、先生御指摘の法人化につきましてはそういう形で大賛成でありますが、実は、法人化が進んでいないのは土地利用型の農業について進んでいないわけでありまして、多様な、株式会社も含めました参入は施設型なり畜産の経営におきましては相当進んでいるわけであります。その分だけやはり土地利用型の農業の難しさがあるわけでありまして、その場合の手だてでありますが、土地は集落を中心にしまして水管理や国土保全等々多様な機能が果たされているわけでありますから、集落をベースに営農組合を育成して、それが徐々に法人化に発展していくという、そういう、若干息が長いわけでありますけれども、手だてを是非講じていただきたいというふうに考えているところであります。
  12. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  荒木清寛君。
  13. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 公明党の荒木清寛です。お三方に一問ずつ質疑をさせていただきます。  まず、山田参考人にお尋ねをいたします。  JAFTAアジアとの共生という視点でとらえられていることに大変私は示唆を受けました。当然、このFTA締結する場合に、農業分野の幾つかの部分が例外品措置にならざるを得ないというのも私は当然であろうと思います。  ただ、日本としてもう一歩発想を転換をすべきではないかと思うんですが、例えばチリという国がありますけれども、あそこも自由貿易を大いに進める中でいったん農業も随分打撃を受けたようでありますけれども、しかし、最終的には競争力がかえって強化されたというようなこともあるようでございます。  したがって、私は、日本競争にさらすことで逆に農業の体力を強化できるんだという、そういう積極的な発想をすべきではないかと思うのでありますが、御見解をお聞きしたいと思います。  次に、大川参考人には、経団連としてEPA、特にASEANとのEPAを優先すべきであるというお話がよく分かりました。それで、このEPAというのはFTAを当然含んでいるという理解でございます。  しかし、シンガポールとEPAができたというのは、言わば難しいそういう農業の問題が比較的少なかったということもあろうかと思います。したがって、ASEANとのそうした締結、協定の締結考える場合に、必ずしもFTAといいますか関税引下げにこだわるのではなくて、例えばシンガポールとの協定でも、大学における単位の交換でありますとかあるいは基準・認証を共通化するとか、いろいろ幅広いわけでありますね。ですから、必ずしもFTAということにこだわらなくても、そういう全体的な協定を考えていけばいいではないかという考えもあろうかと思いますが、御意見をお聞きしたいと思います。  最後に田中参考人には、東アジア共同体という戦略を持つべきだということは私も賛成でございますし、当然、経済主導で当初は考えていかなければいけないと思います。  ただ、共同体という言葉を聞きますと、どうしても例えばEUのようなものを想定するわけでありまして、将来的な姿として安全保障というようなものもこの東アジア共同体の中で考えていくような仕組みを想定すべきなのかどうか、御意見をお聞きしたいと思います。  以上です。
  14. 山田俊男

    参考人山田俊男君) 先生にアジアとの共生に関連しまして評価をいただきまして、大変ありがとうございます。我々としても、アジア国々貧困状況を目の当たりにいたしますと、更にその貧困を推し進める形での取組ではなくて、農業者貧困をどう解消するかという形での我が国協力の仕方は一杯あるというふうに思っておりますので、是非そういう形での経済協力協定が進むことをお願いするところであります。  先生御指摘の、競争にさらすことによって力を付けられるのではないかという部分についてでありますが、土地利用型以外の果樹なり野菜、それから畜産等におきましては相当競争力はもう既にありますし、それなりに付けることができるというふうに思っておりますが、残念ながら、小規模な土地利用に制約されております米、麦、大豆、飼料作物等につきましては容易に競争力を付けるというのは難しいというふうに思っているところであります。  同時に、こうした我が国農業全体の高コストは、農業条件だけではなくて、その他もろもろの、公共料金なり運賃なり燃料なり労賃なりという経済全体の高コスト構造がやはりあるということも事実でありまして、そうしたことの言わば改革の中で対応が可能かというふうに思っております。  もちろん、先生の御指摘の部分と関係するかというふうに思いますけれども、品目によりましては、高品質で大変安全、安心なものにつきましてアジアの言わば一定の都市や高所得国民に対して提供できるという部分はあるのではないかというふうに思っておりますので、そういう部分は是非挑戦してまいりたいというふうに考えております。
  15. 大川三千男

    参考人大川三千男君) 今、先生、荒木先生の方からFTAEPAということで、我々、EPAを進めるという中にFTAを含むEPAということが一つ前提になるということで、そこを非常に固定的に考えているわけではありませんけれども、やはり基本的には、こういう一つ自由化ということは入ります。ただ、いろいろそこには、条件の付け方とか時間的な処置の仕方であるとかあるいは例外的なやり方ということのいろんな工夫はできるわけでありまして、もちろん、日本先進国でありますから、途上国同士の中国ASEANというようにいかないところがあります。  これは、WTOと整合させるとするといろいろな条件がございますけれども、せっかく、先ほど田中先生がおっしゃったように半年延びたという中で三回の産官学の研究会、タスクフォースも開かれて、そこでやはりいろいろと、農業の問題を含めて、あるいは人の移動の問題を含めて、更にこういう一つ交渉をやろうというところでのやっぱり日本の問題なりなんなりがはっきりと認識されてきたというメリットは遅れたということの裏腹にあったと思うんですね。やはりそれを、そういうことをやっぱり活用しながら、日本全体としてそういう問題をどういうふうに考えていったらいいんだろうかと。  私も、必ずしも競争力の強い産業界でないところにおりましたので、どういう形でもって一つの国際的な分業とか分担をしようかということについては相当日ごろ考えなければいけない立場におりますけれども、いろいろな、山田さん今おっしゃった高コスト構造的なことの改革を含め、やはり是非ここのところは、こういうことが日本全体の一つの活力を生むようになるために、かなりちょっと忍耐強い検討とワークを進めていくべきところではないかなというように考えております。やはりそれは、一つ産業だけ、あるいは一つ分野だけの問題じゃなくて、やはり日本経済全体としてどういうふうに持っていくのがいいんだろうかということをやはり考え一つの場ではないだろうかと思います。  ちょっと十分なお答えになったかどうか分かりませんが。
  16. 田中明彦

    参考人田中明彦君) どうも御質問ありがとうございました。  まず最初に、私、少し明示的に申し上げておかなければいけないと思いましたのは、現代世界においてコミュニティーといいましょうか共同体といったときにこれはどういうものをイメージするかという問題なんですが、私の理解では、現代のこのグローバリゼーションの進む世界においてコミュニティーといったときに、それはAというコミュニティーに属すればBというコミュニティーには属さないというような、相互排他的なグループのことをコミュニティーというのでは私はないのだと思います。ヨーロピアンユニオンというのはかなりその中でいえば排他的なものですが、それでも、例えばヨーロッパの多くの諸国はEUという枠組みにも入っておりますし、北大西洋条約機構のメンバーでもあるということで、北大西洋コミュニティー、ノースアトランティックコミュニティーにも入っているというようなことがございます。  ですから、現在において、国と国、人々と人々のコミュニティーというのは基本的には多層で重複的なものになるということだと思います。それで、現代の東アジア特徴は、その多層ないろいろなものの中でいうと、この東アジアレベルというのがぽこっとないということが問題なのだというふうに思うのであります。  ですから、日本でいえば、日本とアメリカというような日米同盟の枠組みがあり、それから、日本とそれからG8とかいうサミットの先進諸国との枠組みがあり、それから国際連合体制とかWTOというようなグローバルな枠組みがあるにもかかわらず、東アジアレベルというものがこのASEANプラス3というものが生まれるまでほとんどなかったということが問題であります。ですから、私の主張は、ここをまず強化していくということが非常に重要になるというふうに思っております。  そこで、これは安保を含むのかといえば、私は、当然、将来的に言えば含んでいくものが望ましいというふうに思います。特に長期的な目的としては、やはりこの地域において、いかなる国もそれぞれこの地域内のいかなるほかの国とも戦争するなぞということは全く考えられないと。どんなもめ事があっても武力を使うということは全く考えられないという状況にこの地域を持っていくということが一番重要な目的だと思っております。ただ、これは直ちには実現しない、様々ないろいろな問題がございますから。  そこで、私が、当面やはり考えなければいけないのは、日本としてみれば、日米安全保障体制というものを基軸にして、これによって抑止し得る、日本に対する攻撃あるいは不必要な武力紛争の発生を抑止するという体制を維持しつつ、東アジア内の枠組み、今北朝鮮問題でやっております六か国協議というようなものを更に進めていって、より一般的な形で北東アジアの安全保障を考える枠組みを作り、東アジア全体でいえばASEAN地域フォーラムといったようなものを更に活用して相互信頼を深めると。そのような様々な安全保障の枠組みを使うことによって、長期的に言えば、この地域でいかなる国同士もいかなる国際問題についても武力を使うということは考えられないという状況に持っていくということが望ましいと思っております。
  17. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、小川勝也君。
  18. 小川勝也

    ○小川勝也君 それぞれの参考人からそれぞれの分野でのすばらしい御意見を聞かせていただきましてありがとうございました。ちょっと細かくなるかもしれませんけれども、数点、参考人別に質問させていただきたいと思います。  まず、山田参考人にお伺いをしたいと思いますが、この資料の中にも的確にまとめられているなというふうに感心したんですけれども、自由貿易体制というこのすばらしい用語はあるわけでありますけれども、例えばアメリカ合衆国とかオーストラリアは輸出品目の中の重要なアイテムにこの農産物が挙げられています。  そんな中で、アジアでの農産物というのは、表の中にもありましたとおり、産業というよりも生命、生活そのものであるわけでありまして、私は、実はこのアジアモンスーン地域においての米を中心とする農業や国の成り立ちから考えても、我が国においても、これだけ様々な貿易振興した、高度にテクノロジーが進化した国であってもその思いというのはまだ消え去っていないんだろうというふうに思います。すなわち、農業産業ではない。今アメリカ、オーストラリアとアジア諸国というこの対比の中できちっと浮き彫りになっていることをもっと全中としても披瀝していただいたらどうかなというふうな思いがありまして、そのことに対する感想をまずお伺いをしたいと思います。  そして、トピックなテーマで質問させていただきますけれども、BSEに引き続いて鳥インフルエンザの問題が大変大きなテーマとなってまいりました。鳥インフルエンザは、豚にも感染をしたというそんな報道もありますし、そのことにおいて人に感染力を高める変質を遂げるのではないかという危惧もあります。  そのことにおいて、我が国の牛どん屋から牛どんが消える、そして次いで焼き鳥屋が焼き鳥屋でなくなるんじゃないかというそんな報道もあるとおり、特に農業貿易の中で、畜肉、家畜の貿易に関していうと自給率の低さというその根本的な課題はあるわけでありますけれども、新たな問題を提起されたのではないかなというふうに思います。そのことに対するお答えをいただければというふうに思います。  大川参考人にはこのアジア結束の重要性を様々な社会経験の中から御意見をいただきましたけれども、仄聞するところによりますと、このアジア、特に我々の国から非常に近い韓国中国、それぞれ国の成り立ちや考え方、商慣習が違って、大変ビジネスシーンで働いておられる皆さんも苦労してこられたというそんな話も伺ったことがあります。特に、この東アジア地域において結束が必要な地域、各国々でありますけれども、その多士済々な国柄、このことをもってしてどのような難しい課題があるのか、簡単に教えていただければ有り難いというふうに思います。  次いで、田中参考人にお伺いをいたします。  国のシステムと官僚制の問題点を指摘していただきました。通商立国として日本がこの東アジアをしっかりまとめ上げていくというそんな歩みが求められているわけでありますけれども、日本国内としてもまだまだやらなければならないことがたくさんあるんではないかなというふうに私は思います。制度、機構論というよりも、政策的に国内的に何をなさなければならないと考えておられるのか、お伺いをしたいと思います。  そして、最後、お答えいただけるかどうか分かりませんけれども、田中参考人にもう一つお伺いをしたいと思います。  よくグローバルスタンダードという言葉はアメリカンスタンダードと同義語だという話があります。そして、責任のある話かどうか分かりませんけれども、アメリカ合衆国の国策としてこの東アジア地域、特に日本韓国日本中国、この地域が本当に仲良く結束しないように合衆国の力が働いていたんではないか、こんな言い方をする人たちもいます。この辺についての御感想があればお伺いをしたいなというふうに思います。  以上です。
  19. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) それでは、今回は逆から参ります。
  20. 田中明彦

    参考人田中明彦君) システムと官僚制、それの一つのシステムの問題と並び、さらに国内的にどのようなことをしなければいけないのかということでありますが、これはなかなか大問題でございますので、果たして正確に御意図を反映してお答えできるかどうかよく分からないのですけれども、日本が今の国の中で日本国民の暮らしを向上させていくと、そのためには平和な環境というのが必要であると。ただ単に平和なだけではなくて、国民の暮らしを良くするというためには、日本がそれなりに国際社会の中で発言力を持っていくということも必要だと思うんですね。  そのためにはやはり、私は、非常に一般的、抽象的に言えば、日本国際競争力というものを常に維持していかなければいけない、国際的競争力というものは、経済面においていえばやはり産業その他の競争力であると。これを少子高齢化等が進む中でやっていくということは、今までと同じようなやり方をやっていたのではなかなか難しい、いわゆる構造改革というものが必要になってくるというふうに思うわけであります。とりわけやはり重要なのは、ある種のソフトを生かす産業なりあるいは政治なり文化なりの力というものを強めるということが必要だろうと思っております。  その次の問題ですね、グローバルスタンダードはアメリカンスタンダードであるというふうに言われる一方、アメリカというのは東アジアの動向についてどのようなことを考えているのかということであります。  まず第一に、そのグローバルスタンダードはアメリカンスタンダードですかといえば、これは、これを等号で結ぶというのは私は間違いだというふうに思っております。もちろん世界の中で最も多くの人が受け入れているものの中にはアメリカ出自のものというのは大変多いわけでありますけれども、すべてがアメリカ出自というわけではございません。アメリカ出自でありながら世界じゅうでほとんど受け入れないものとすれば、例えば私どもが使っているセンチメートルとかメートル法とかという単位、温度の単位、これはアメリカというのは世界の中でいうと全く特殊な世界であります。  それから、こういう紙ですが、これはA4サイズと言いますけれども、このA4サイズという紙は世界じゅうほとんどの国で使っていますけれども、アメリカでは使っておりません。アメリカではレターサイズというので、これよりももうちょっと膨れて寸詰まりのものですね。アメリカ人が使っているからといって我々A4サイズを使わないということはない。ですから、グローバルスタンダードとアメリカンスタンダードとは大分違うと思います。  アメリカが日本中国韓国が一緒になることを望んでいないんじゃないかということですが、これは、そこに含まれる中国なり韓国なり日本がどのようなことを考えているかということによって変わってくるのだと思います。冷戦の時代、日中国交正常化以前の中国文化大革命をやっている中国日本韓国が一緒になるといったら、それはアメリカにとってこれは安全保障上の脅威をもたらしますから断固反対だと思います。ですが、現在のような状況中国がますます経済発展をし、できればこれが政治的多元化を遂げていくと、超長期的には民主化もするというような中国日本と民主主義の下の韓国が良好な関係を作るというのはアメリカにとってもいいことであって、これについて私は反対だというアメリカ人の人はごく少ない例外を除いて余り知りません。
  21. 大川三千男

    参考人大川三千男君) 御質問どうもありがとうございます。  いろいろ、海外でのことといいますといろんなことがございますが、やはり一番基本的には、やっぱりお互いが人間対人間としての結び付きといいますか、心の交流ということを非常に大事にしながら、いろいろ、商売とかあるいは事業の運営ということになりますと相当厳しい局面はもちろんありますけれども、一番基本的にはそういうことがあるのではないかと思います。  いろいろな当社も海外事業をしておりまして、もう本当にその地域に溶け込んで、例えばある私どもの管理者は柔道を非常に自分の特技として持っておりまして、柔道を現地で広めるというようなことでは大変な例えば信頼を得るとか。それから、もうちょっとあれになりますと、私どもでも中国に大きな工場を持っておりますけれども、この中国で一体どういうふうにしたら中国から役に立つと思われるのか、そして自分たちがどういうことを中国でやろうとするか、そして中国がそれをどう評価するかということにつきましては大変に事前に当社の経営、当時のトップはよく考え、よく意見を聞きまして、やっぱり大事にされないと、それは中国辺り、ただ自分たちがこういうことだけをやりたいということではやっぱり排除をされてしまいます。  それから、昔、田中総理のころだったと思います。三十年ぐらい前にバンコクで日本人排斥というような動きが起きたことがありますが、このときの教訓で、今先生方にも大変お世話になっておりますけれども、日・タイ経済協力協会という、日本への留学生の方を軸にした、日本からタイへの技術協力、ソフト的な、人材育成でありますとか、それにODAも出していただいているんですけれども、そういう仕組みができまして、日本の方は日・タイ経済協力協会という団体、そしてそれのカウンターパートとして、泰日技術振興協会という、タイの方に、TPAと言っておりますけれども、そういうところがあって、いろいろなソフトな経済協力をやるという試みが昨年、一昨年三十周年を迎えましたけれども、これはやはりそういう草の根的な、やはり一つの、日本と例えばタイならタイとの国の共感といいますか協力が必要だという運動でございまして、やっぱりそういうことを一つ一つ積み重ねながらやっていくということで、やはり一つのビジネスはビジネスとして、その中にはやはり人間としての共感、そして、ともに歩みともに進むとか、そういうような心と心の触れ合いとか、そういうことがやっぱり非常に大事ではないかなというのが私の幾つかの事例を通した感想でございます。
  22. 山田俊男

    参考人山田俊男君) 小川先生の御指摘、二点あったかというふうに思っております。とりわけ、アジア農業のとらえ方につきまして、JAグループとしてもっと踏み込んでとらえてみろという御指摘につきまして、是非一層の検討を深めたいというふうに思っております。  その関連で若干申し上げさせていただきますが、インドネシアフィリピン等は大変な経済危機を経験したわけでありますが、そのためにIMFから融資を受けるということで、融資の条件農産物関税引下げということであったわけでありまして、結果としまして米国からの農産物が押し寄せてくるという事態がありまして、先ほど表で示しましたが、貿易収支農産物貿易収支を極めて悪化させているところであります。結果としまして、このままアジア国々農業は、そして一方中国もというふうに言わざるを得ないわけでありまして、中国WTOに加入の中で米国からの関税割当てによります大幅な穀物の輸入を合意しているわけであります。このままだと、米国やオーストラリアに席巻されてしまうんじゃないかという心配があります。  とりわけ、この点も先ほど申し上げましたが、全部、それはとりわけ米国の場合多国籍企業が関与しておるところでありまして、その点も本当に何とも言えませんが、円滑な貿易を実現しているという部分におきましては間違いなく役割を果たしているわけかもしれませんが、しかし本当にもうけ主義でないのかということがあるわけであります。  そうなりますと、アジアの、先ほど田中先生からも御指摘いただいてなるほどと思っておるわけでありますが、アジアの共同体を、それこそ食糧の安全保障という観点で、アジアのこのよく似た、モンスーンにおきます零細な家族農業経営食糧安全保障という体制をそれこそEPAの中で考えていくという部分があってもいいんではないかと、こんなふうに考えるところであります。  二点目は、BSE並びに鳥インフルエンザに関連してでありますが、米国産の牛肉を使っていることを売り物にして安く供給していたという事実があろうかというふうに思います。そこが一番困難に遭っておるところでありましょうが、やはり一定の自給率があって初めて安定供給が可能だという部分につきまして、是非是非国民合意を得ていく最大の機会にしてまいりたいというふうに思います。  あわせまして、実は大東京近辺に野菜の供給するために、北関東の群馬も茨城も栃木も、そして千葉もあるわけでありまして、実はそれらの地域で野菜が供給できるのは、そこに大家畜が細々ながらいるからであります。酪農の乳牛であったり、それからさらに肉用牛であったり、豚肉であったり、養豚であったりしているわけで、そこのふん尿が間違いなく土を豊かにして野菜の供給を可能にしているわけでありまして、そういう面からしますと、正にそういう循環の中で行われている農業について、新鮮な牛乳が供給できる、それがひいては新鮮な野菜を供給するというこの循環をやはり国民合意にしていく必要が絶対あるというふうに思っておりまして、単なる自由貿易体制だけでは決着付かない食糧問題につきましての、何といいますか、食育といいますか、大変大事だというふうに考えている次第であります。
  23. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  続きまして、緒方靖夫君。
  24. 緒方靖夫

    ○緒方靖夫君 日本共産党の緒方靖夫です。  三人の先生方、本当にありがとうございました。  大変重要な問題で、例えばカンクンのWTO交渉が決裂して、改めて先進国発展途上国の対立の深さ、とりわけ農業分野においてそれが大変深いということを目の当たりにしてきたわけですけれども、FTA締結についてはやはり公正さをいかに担保するかということが非常に大事だなということを痛感しました。  まず、山田参考人にお伺いいたしますけれども、鳥インフルエンザ、今もお話ありましたけれども、この間タイの大使館の方とお話ししましたら、タイにとって日本は四七%以上の鳥の輸出先と、日本にとっては三〇%の輸入先と、それだけのものが早く取引できるようになるといいと、そんなことを話しておりました。  同時に私思いますのは、やはり食品の安全といいますか、それからまた日本がそのことにどれだけ腐心しているかということについてのアピールですね、これは国民にとってもそうですけれども、ASEANやそのほかの国々にとってもそれが非常に大事だなということをこの機会に痛感しているわけですが、その点について御見解をお伺いしたい。それが一点です。  それからもう一つ、大変興味ある問題として、タイ東アジア米備蓄機構があると伺っているんですけれども、これの意味ですね、それについて同じくお伺いできたらと思っております。  それから、大川参考人にお伺いしたいんですけれども、レジュメの最後の部分が大変興味深かったんですが、多分時間がないために割愛されたと思うんですけれども、それは五のところの、中国、インド、ASEAN経済連携方向と。とりわけ今日は、直接のテーマになりにくいかもしれませんが、インドについて、インドの国力、それからインド人の持っている才能、素質ですね。リグヴェーダを暗記し、数学に強い、もちろん英語にも強い。したがって、大変大きな可能性を秘めていると思うんですね。それで、例えばシリコンバレーでソフト開発の主力になっているのもインド人。それから、この辺でターバンを巻いている人を見ると大抵ソフトの開発に従事しているという、今そういう時代になっているわけですね。  そういう中で、インドとASEANがどういうそれぞれ戦略性を持って経済関係を構築しつつあるのか大変興味があるので、その点について教えていただけたら大変有り難いと思っております。  それから、田中先生にお伺いいたしますけれども、同僚議員の質問に対する答えに触発されてお聞きしたいんですけれども、確かにアジアにはほかの大陸にあるようなプラットフォームがなかった。いろんな試みがありました。マハティールがEAEC構想を提唱する、しかしそれはうまくいかない。しかし、変形的だけれども、結局はASEANプラス3という形でそれができて、それが本当に充実して、それが非常に大事な役割を果たしつつあるという、今そこに至っているなと思うんですね。  そういう中で、例えばこれまでもASEANプラス3の会議で、何年か前だったか、簡単でしたけれども、TACなどのいろんな文書を挙げながら安全保障についても言及したことがたった一度だけでもあったと思うんですね。僕はそういう動きというのはとっても大事だと思うんですけれども、先生にお聞きしたいのは、ちょっと本題から外れるかもしれませんけれども、TACに対して中国それからインドが調印した、それから日本も少し遅れましたけれども調印した、この持っている意味合いですね。  例えば、私、英字新聞読んでおりましたら、ノー・アグレッション・パクトに調印することになったという、そういう見出しが飛び込んできたんですけれども、恐らくそういう意味合いもあるんじゃないかと思うんですが、先生のその点での御見解をお伺いできたらと思います。  それからもう一つお聞きしたいんですけれども、先生のレジュメの中に、これもやはり最後の方に問題点として四つ挙げられておりますけれども、本当にどれを取ってもそうだなと思えるんですね。  例えば、ASEANにとって中国交渉してみる、それからまたそのほかの国と交渉してみたときに、日本がいかにこう、何といいますか遅々としているのか、何を考えているか分からないという、そういう思いがあるということを聞く機会が大変多いんですけれども、ですからこの四点の問題というのはすべてそのとおりだと思うんですが、その日本の見劣りですね。例えばよく引用されたタイのタクシン政権というのは国会で政治的に非常に安定している、彼自身財力もある、そして政治手法がトップダウン方式で即断即決していこうとしている。そして、例えばタイ日本FTAについてはタイの方がむしろ持ち掛けて、どうしてやらないんだ、やらないんだという形で持ち掛けているという、それに対して日本が対応し切れないという、そういう現状があると思うんですけれども、その点で結局その日本の持っている問題は何なのか。ただ単にシステムの問題だけではないと思うんですね。  私、一番大きいのは、アジアに対して、あるいはASEANに対してどういう戦略性を持って臨むかという、正にそこが非常に大きな問題ではないかということを痛感するわけですけれども、その点についての先生の御見解をお伺いできたらと思っております。  以上です。
  25. 大川三千男

    参考人大川三千男君) 確かにちょっとさっき時間がなかったわけでありますけれども、やはり中国ASEANというところの経済連携が、あるいはFTAが出てきたと、これも非常に大きな驚きであるとともに、やっぱり中国が非常に戦略的に農産物のアーリーハーベストということでもう既に実行しているわけでありまして、この辺りのまた新しいやはり動きが出てきていて、やはりアジアでのいろんな発展がいろんな地域的な拡大も伴い、またいろんなその経済発展のレベルの違いもあって出てきている。  この間の十二月の日・ASEAN首脳会議のときに、ASEANから来られたいろいろな方、特にGLMVと申しますか、例えばミャンマーの外交の副大臣であるとか、そういう方なんかが盛んに強調して幾つも出てきた言葉にGMSという言葉がございました。グレーター・メコン・サブリージョンという一つの開発計画、発展計画だそうでありますけれども、いろいろそのASEANの中の割合先進国であるタイ、そしてその一番北側には中国の雲南省があって、そこからメコン川の流域の開発ということを非常に進めようという動きがあり、そのことによってカンボジアとかラオスとかベトナムとかがやっぱり一つ自分たちのところの経済発展を描こうと、それにタイ協力する、中国協力する。そして、そこの中にFTAというものが出てきて、最近現地の方を回った人の話ですと、非常にメコン川に中国の船が増え、また観光客もどんどん来る、あるいは農産物の流通が始まってお互いが非常に新しい果物を口にする、そういうようなことが起きているそうであります。  したがって、日本立場からとか、あるいは私どもの企業立場からいきますと、ASEAN自体には相当事業をしておりますので、そういうところと、もう一つその先の世界とでどういう一つ事業展開していくことが日本全体、日本のこういうこととか企業全体の一つのグローバリゼーションの中でいいのかということですが、その辺にやっぱり大きな一つ発展の芽が出てきているというようなことで、中国ASEANの、非常に中国が積極的によくあそこまで、上手ですよね、いろいろと新しい、タイにとってやっぱり魅力的なことが出てきているわけですから、そういう非常に戦略的な動きがございます。  それから、インドというのは実は私もよく分かりませんけれども、二年ぐらい前ですかね、インドのある非常に大きなメーカーのビジネスマンと話しておりまして、なぜインドはASEANに加入しないんですかというようなことを聞きますと、そんなことはとても考えられないと。例えば、中国との関係とかいろんな関係で、ASEANとインドというのは近いんだけれども、そこが一緒にいろんなASEANに加盟するとか、そんなことは考えられない事態ですよといって話していたのに、今すぐインドもやっぱりこういうふうな形でもって経済連携を求めると。インドについてよく分かっているわけじゃありませんけれども、インドも非常に関税の高い国でありますし、そういうところがやはり全体としての広域的な、あるいは包括的な経済連携という中でやろうと。先生おっしゃられましたように、インドの人というのは英語もよくできますし、それから一つのITとか、そういうことにおいては非常に優れた技術力も持っているところでありますが、そういうところが出てくると。  こういうことによって、やはりアジア一つ経済発展情勢というものが非常に質的に大きく変化してきているということを感じているわけでありまして、中国ASEAN、インドとASEANについてちょっとここで項目を立てましたのは、そういうことに対して、私自身もまだとても不勉強なんですけれども、よく見ていくと、いかないといけないと。非常に情勢は早く、しかもいろいろ質的に変化を伴い、地域的にも変化して発展していく動きがあるということを申し上げたかったわけでございます。  どうも大変、御質問いただきましてありがとうございました。
  26. 山田俊男

    参考人山田俊男君) 緒方先生の質問、二つあったかというふうに思っております。  第一点は、安全、食品の安全性に関してでありまして、鳥インフルエンザでタイ農業者の様子等がテレビに出るたびに実は、また変な言い方でありますけれども、より貧困農業者に更に貧困が追い打ちを掛けているんじゃないかということで胸が痛むところであります。  ところで、我々、経済連携のためのタスクフォース、私は農業側の委員として出席しておりましたが、タイ農業協同組合省とのこうしたやり取りの中で、彼らの方からも食品の安全性の確保、安全性の大事さに関連しまして、単に関税引下げ、物の関税引下げだけのFTAではなくて、協力、とりわけその中で食品の安全についての位置付けをお願いしたいと、日本からそうした技術協力や指導を是非いただきたいんだと、こういう話でありまして、報告書の中にも盛り込んだ次第であります。  我々にとりましても、単にアメリカやオーストラリアから入れるだけではありませんでして、そのごく一部だけでもアジア国々から入れることができれば、というのは、我が国はどうしても大きな食糧につきましては海外に依存せざるを得ないという側面を持っておりますので、しかしその部分を一部分でもアジア国々から入れることができれば相当のそれらの国々に対する影響は大きいわけでありまして、そういう、しかし多元化を図るにしましても農村基盤の開発だったり、それから安全の確保だったり、防疫措置の体制整備であったりするわけでありまして、そうした意味で段階的な経済連携協定の取組があってはいいんではないかというふうに考える次第であります。  二つ目は、東アジア米備蓄機構についてのお尋ねであったかというふうに思います。  確かに、ASEANプラス3で検討が進んでおりまして、近々運用を開始されるということで期待しているところであります。内容につきましては、災害直後の緊急のニーズに対応するためにはアジア国々連携して備蓄していくという、それを活用するという仕組みでありまして、そういう面では大変簡便な仕組みでありますし、具体的な運用が十分可能な仕組みであります。とりわけ、インドネシア食糧危機や、若干異質かもしれませんが、北朝鮮の問題等を考えるにつきましても、やはりアジア国々に、アジアの場面でこうした取組が是非必要というふうに考えておるわけでありまして、この点につきましても今後の経済連携協定の検討の中で積極的に位置付けていっていただくということが必要ではないかと、こんなふうに考えています。
  27. 田中明彦

    参考人田中明彦君) 二つほど御質問をいただいたと思いますけれども、最初はTAC、東南アジア友好協力条約について、これに中国、インド、そして日本が参加するということの意味合いをどのように評価するかということでございます。  東南アジア友好協力条約は、御案内のとおり、一九七〇年代にASEAN諸国でお互いの合意として作った文書でありまして、これを九〇年代になってからASEAN加盟国以外の国も署名し、参加できるように改正していったものでございます。中身は、条文をお読みいただくとよく分かると思うんですけれども、相互不可侵とか内政不干渉とか、非常に、何というんでしょうか、二十世紀中葉ぐらいまでに国際社会の規範であると思われることを大体盛り込んだ条約でございまして、とりわけ発展途上国の観点からすればそのような相互内政不干渉等を重要な原則として入れた条約として成り立っているものであります。ですから、先ほど、外国のメディアで日本中国、インド、ASEAN相互不可侵条約を締結したんだというふうな評価ですが、これはその意味でいえば正にそのとおりでございます。お互い戦争しないということであります。  ですから、その意味でいえばこれはそういうことなんですが、ただ、それは考えてみれば国際連合加盟国というのは全員そうなんですね。国連憲章を調印しているということは、お互い侵略するなぞということはやってはいけないということですから、その意味でいえばこのTACに加盟したからといって直ちに、特に日本なぞにとってみれば新たな義務なりコミットメントが生じたということではございません。  私の見るところ、九〇年代にASEANはこの条約を加盟国以外の署名に開放したということは、実際の安全保障上の懸念等ももちろんですけれども、より重要なのは、もう少し象徴的に、東南アジア諸国ASEAN諸国と友好的に付き合っていく、付き合っていくコミットメント、気持ちはあるのかというようなことのしるしを示してほしいという、そういう象徴的な意味が非常に強かったと思います。ですから、その意味でいって、中国とインドがこれに対して参加するというふうに言って、やや日本の中では若干の混乱があったのかもしれませんけれども、そういう象徴的なものであるというふうに考えれば、これに参加することに何の問題もないというふうに私は思っております。  第二の点で、ASEANとの交渉で一体、何というのか、見劣りする、ほかの国と比べてどうも見劣りがするという印象があるが、これは一体いかなる理由かということでありますが、ある程度公平さを期して申し上げますと、ASEANというのも相当にやりにくい相手であるということはまず言わなければいけない。日本が時間が掛かるとすれば、ASEANも大変時間が掛かるわけですね。ASEANというのは、十か国のコンセンサス方式でやりますから、日本以上に場合によるとなかなか物事が決まらないということがございます。そういうこともありますから、多分、タクシンさんのように、タイのことを考えていれば、ASEAN全体として日本と何とかなぞと言っていたらいつになるか分からない、それならば我が国独自でやれるものはどんどん進めたいということで話が進んでいるというふうに思います。  ただ、このASEANの側から見ると、ASEANの側のややスローモー、コンセンサス重視は若干棚に上げた上で、日本と対するとどういう点が問題になるかというと、これは私が何回かASEANの側の関係者から聞いた話ですけれども、ASEANはそうやって物事を決めるのに時間が掛かって、手順が掛かるんですね。ASEANのシニアオフィシャルズというか、高級、高官級の会合というのがあって、そこで大体決めるんですけれども、日本側の時間が掛かっていると、ASEANの側が決めたいと思っている会議のときまでに日本側が持ってきてくれないと決められないんですね。それが、ASEANの側の高級レベルで決めたいときに日本側は持ってこなくて、首脳会議直前になってこうなったとかと言われると、ASEAN側として見るともうとても困ってしまうということで、その辺が問題があるというふうに言われます。それに比べると、といって、何というんでしょうか、ややてんびんに掛けるようなことになるわけですけれども、中国はそういうときにすっとASEAN側が会議をする前に持ってきてくれるというようなことで、日本側もう少し何とかなりませんかねと言ったりすることがあるわけです。  この原因は何か。先ほど先生、戦略の欠如ということをおっしゃられたわけですけれども、私、そのとおりだろうと思います。つまり、現在のこの東南アジアとのFTAといったときに、日本タイ自由貿易協定というものを日本タイ自由貿易協定というその問題とのみとらえるという形であれば、実務的にいろんなものを淡々とこなしていくなり、あるいは国内調整が掛かればそれなりにやるということですけれども、やはりそれらの動きを全体としてもうちょっと大きな動きの中でとらえるということが必要になってくると、もう少しやり方も変わってくるのかなと思います。  先ほど私は制度のことを申し上げましたけれども、制度を運用するのは人間でありリーダーでありますから、二〇〇一年の中央省庁等改革の動きからすれば、今の総理大臣がやろうと思えばできることは相当あるというふうに私は思っております。
  28. 緒方靖夫

    ○緒方靖夫君 ありがとうございました。
  29. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  以上で各会派一人一巡いたしましたので、これからは自由に質疑を行っていただきます。  それで、前もって申出のある先生方から質疑を行っていただきたいと思います。
  30. 椎名一保

    ○椎名一保君 少しお伺いさせていただきます。  本日は三参考人の皆さん、本当にありがとうございます。  まず、大川先生にお伺いしたいんですけれども、先週、東アジアのある大使と会食をさせていただいたときに出たことなんですけれども、今、大川さんからお話があったように、中国ASEANが非常に、何というんですか、身近になっていると。それは日本米国関係が友好になればなるほどそういうことが起きているんだと。  先週、この勉強会で、FTAでも途上国同士のFTAは完全なFTAでなくてもいいと、そういう形で中国ASEANが進んでいますと。ですから、ちょっと言葉は悪いんですけれども、日米、日米中ですね、そういう関係の中にあって、本来のFTAではない、ちょっとうさん臭いような、そういった形で事が動いているんではないかというような思いがするんですけれども、そのことについてちょっとお聞かせいただきたいと思います。  それから、田中先生、EUができて、よく外交評論家の方々が、五十年間ヨーロッパに、ヨーロッパではもう紛争の種がなくなったんだと、大げさな話なんでしょうけれども、そういうことをおっしゃいますけれども、東アジアの安全保障の観点から、このFTAを基に共同体を築いていくということがそういう観点から本当に今早急に進めなければならないことなのかどうか。もしそうであるとすれば、我々の、我々というより、少なくとも私なんかは認識が少し、もう少しきちっとしなきゃいかぬなという思いを持っているんですけれども、ちょっと漠然とした話ですけれども、そこら辺についてお聞かせいただきたいと思います。  それから、山田参考人、やはり農業の問題は国内の農政をきちっとしなきゃいかぬと思うんですけれども、一番最後の十八ページにいろいろ提案をしてくださっていますけれども、特にこの「多面的機能発揮する農業資源保全農村整備」と、農水省の中で構造改善というインフラ整備事業があるんですけれども、縦割りで、私なんかも農政は今学んでいるところなんですけれども、多面的機能というのは環境面とかそういうことだけではなくて、正にこのFTA締結しても通用するような、広く農政全般にわたる多面的な面を整備して、インフラを整備していかなきゃいかぬと思うんですけれども、もし山田参考人農村整備という、保全整備という、インフラの面から少なくともこういうような形になればいいなというお考えがございましたら、お聞かせいただきたいと思います。  以上です。
  31. 大川三千男

    参考人大川三千男君) 米国日本関係と、ASEAN中国関係がどう影響するかという辺りはちょっと私よく分かりかねるんですけれども、先ほどの、例えばインドとASEANの接近ということを中国も容認するというふうに、いろいろと変わってきていることがあるので、いろんなことが今までと違う枠組みでいこうかと思うんですが、途上国同士のFTAということにつきましては、これは今、日本という言わば先進国タイとのFTAにつきましては、いわゆるWTOの、ガットの二十四条のサブスタンシャリーオールといいますか、実質的にすべての自由化とかあるいは分野を排除しないとか、そういうことが入ってくるわけでありますけれども、途上国同士ですと、これは私も専門じゃないんであれですけれども、一つの授権条項ということで必ずしもそこを守らなくてもFTAが結べるということで、日本タイとやるよりは、あるいは中国タイとを結ぶ方がそこのところの縛りがないんで、もうちょっと自分たちがやりやすいところでもってやれるというふうに聞いておりますので、これはこれなりに一つの、途上国の一つ貿易自由化のための特別な条項だと思いますから、そういうことでどんどんやっていくということはあり得ると思います。  これは、日本はやっぱりそこはしようがないですね。それを何とかクリアするように時間を掛けてやるということを考えなければいけないと思います。
  32. 山田俊男

    参考人山田俊男君) 椎名先生からの御指摘で、何か知恵があるのかというお話でありました。  なかなか知恵がないんですが、実は今地域で進んでおること、それは先生御案内のとおりでありますが、とりわけ水田の地帯で圧倒的に担い手がいなくなったということであろうかというふうに思います。その担い手というのは、まともにちゃんと水田を中心にして農業を行う主体がいなくなったということであろうかというふうに思います。  それから第二点は、農村の環境がそういう面では以前に比べてなかなか、率直に言いますと美しくなくなったんじゃないかと思うくらい、やはり全体の農村整備がもう乱雑になっているんじゃないかというふうに思うところでありまして、これらのことにつきまして、やはり担い手については地域農業を支えるというきちっとした担い手を作る、それは集落営農であったり、それからきちっとした自立的な大規模経営であったり、それを問わないわけでありますが、それを作り上げる。そのためには何としてでも所得の実現が必要でありまして、現在、これは担い手だぞと言われるような人を見ましても、年間一生懸命働いても三百万円足らずでは、ほかの兼業の人に比べまして到底地域農業を支えるということにならないというふうになるわけでありまして、そうした本来の担い手に対する所得の安定対策を仕組めないかということであります。  二つ目には、そうした美しい環境を守るという意味では集落の機能が低下しているということが背景にあろうかというふうに思っておりまして、集落全体で機能維持するための対策が是非とも必要というふうに思っております。  そして、これらの手だては、先生御指摘のようにFTA締結しましても高関税国内制度維持している仕組みをどんな形で見直すかと。そして一方で、今言いました担い手や集落の機能維持するための補てんの仕組み等を工夫することによって可能ではないかというふうに考えておりまして、もちろん大変乱雑な意見を申し上げたところでありますが、徹底した詰めを是非お願いしたいというふうに考えております。
  33. 田中明彦

    参考人田中明彦君) 御質問は、ヨーロッパ、EUで五十年以上紛争がないということにかんがみて、今後のその東アジア方向はどうであるかというような御質問であったと思いますが、まず第一に、その前提で、確かに西ヨーロッパではこの五十何年間戦争がないわけですね。  それで、これは二十世紀の前半と比べると大変なことでありまして、二十世紀の前半、一九四五年まで、世界の中で大戦争が起こるといえばどこで起きるかといえば、これはもうナポレオンのときからドイツとフランスが戦うということになっていたわけですね。ですから、第一次世界大戦も第二次世界大戦もすべて世界じゅうを巻き込んだ戦争というのはヨーロッパを中心に起きていたわけです。このヨーロッパで、戦争が二十世紀後半なく、二十一世紀に入ってもまずほとんど起きそうもないというこの事態を考えれば、やはりEUのその成し遂げた業績というのは大変なものがあると言わざるを得ないと思います。  ただ、西ヨーロッパ地域でそれではなぜ戦争がなかったのかということになると、これはなかなか一筋縄ではいかないわけでありまして、EUも多分一つの理由でありましょうけれども、EUだけがそうだったというふうにはなかなか言いにくい面があります。前半でいえば、これはソ連という共通の敵があったということがお互いで戦争しないで済んでいたという面もあると思います。  ただ、それにしても、ソ連が解体して、した後もヨーロッパ諸国の間でお互いに戦争をするなぞということはもはや考えられないという状態になっているということを考えればこれはすばらしいことでありますし、それから、通常よくヨーロッパ共同体作成というのは経済面での話が多うございまして、今でもユーロというような共通通貨ということもありますが、そもそも第二次世界大戦後、ヨーロッパに共同体を作ろうというふうに考えた先覚者たちが念頭に置いていたことは経済共同体作りではありません。この人たちが考えたのは、二十世紀前半のこの大戦争を繰り返したヨーロッパを何とか平和な地域にしようということが最大の目的です。ドイツとフランスとの間で再び戦争はしてはいけないということのためにヨーロッパ共同体というものを考え、そのためには何をするかということから、まず最初に石炭とかのエネルギーの融通から始めて、EEC、経済共同体を作りという形で今まで来ております。  その面でいえば、もちろんヨーロッパと同じことが東アジアができるわけではございませんけれども、やはり東アジアの中で共同体を作ろうといったときのその根本的な発想の中には、この地域をやはり平和な地域にしていくということ、そしてこの平和な地域にしていくということに際して経済的な協力をどんどん進めていくと、お互いのその経済の状態によってお互いが良くなる、一つの船に乗っているという感覚を作るということが大事だということが必要だと思います。  東アジアも、一九七九年を最後に大きな戦争が発生することはなくなりました。七九年というのは中国がベトナムを攻めていたときであります。それから、その後、一九九二年にカンボジアで内戦が終わりまして以降、東アジアでは大規模な戦闘行為は続いておりません。ですから、その意味でいえば、東アジアも十二年間にわたって何とか平和を維持してきております。これをあと四十年、五十年、東アジアでは全然戦争が起きないという状態に持っていくということが東アジアにおける経済統合のやはり背後にある重要な動機であるというふうにお考えになっていただくのが、私として見ればより長期的な観点となるのではないかと思っております。
  34. 椎名一保

    ○椎名一保君 ありがとうございました。
  35. 田名部匡省

    田名部匡省君 最初に、三人の先生方にお伺いしたいんですが、日本は大変な少子化だと、しかも高齢化も進むという中でどういう基本政策をきちっと持たなきゃならぬのか、このことをひとつお伺いしたいと思うんですが。  特に、賃金の格差が今までは大分ありまして、私が羽田総理のときに質問したんですけれども、当時、日本が三十万ちょっと、タイが二万円で中国が五千円か幾らでしたね。で、こんなことしていると中国にもう産業逃げていきますよという話をしたんですが、この賃金の格差というのは、これ大変なことになっていくんだろうと。  例えば、このASEAN諸国でいろんな交渉事始まっても、どうもかつて日本とアメリカとの差が日本と今度はASEANとの差になっているような気がしまして、それをどう乗り越えていけばいいのかというのが一つ。  それから、山田参考人にお伺いしたいんですが、少子高齢化時代日本農業をどうするのか。  かつて私は、所得補償方式をやったらどうかというのと、私が大臣のときに、株式会社法人、集落ごとに共同でもうやって、個々に機械を買わないと。三アールの田んぼに五百万の機械買ってやっているような農業をやっておっては駄目ですよという話をして、随分あのときは粗っぽい案を出しまして、随分交渉しました、ウルグアイ・ラウンドで。大変な苦労なんですね、これはみんな違うものですから、それぞれが。それをどうやって切り抜けるかといっても、最終的にはやっぱり政治家がどう判断するか。リーダーシップをもう取り切れない。それはなぜかというと、選挙があるからなんですよ。  それはもう、すべてにおいて、日本のこういう、これからの年金であれ何であれ、将来に向けてやろうという、この基本をしっかり作れないというのは、最後になると選挙に落ちたくないというのが先になって政治が足並みがそろわないという中で、これはどうすればいいのかと思っていつも見ておるんですが、それぞれの御意見を伺えれば有り難いと思います。  以上です。
  36. 山田俊男

    参考人山田俊男君) 田名部先生の、少子高齢化についての基本政策について何か知恵があるかということでありますが、十分申し上げられるほどの知恵がないわけでありますが、いずれにしても、率直に言いまして子供を育てるのに金が掛かるということでありまして、教育費も高い、それからさらに、育てるのに様々な形での対策がやっぱり弱いのかというふうに考えているところでありまして、それ以上なかなか申し上げられるだけの知恵がございません。  二つ目は、先生おっしゃいました日本農業をどうするかということの関連で、先生が年来指摘されておられました所得補償の問題と、それと集落を法人化して機械の共同利用を進めるという手だてがないのかというふうにおっしゃっておられた事ごとが、正に今、大変大事なことだということで検討課題に上ってきているわけでありまして、そういう面からすると何年間も時間を損したのかというふうに思いますが、ここの部分を、しっかり集落を単位にして農地を利用すると。これが正に、地域の環境を保全しながら持続的な農業を作っていく、そして、かつまた農地農地として有効に利用するという手だてになるわけでありますので、先生のおっしゃいました集落を法人化してやっていくという手法につきまして、是非その具体化を徹底して図っていただきたいと、こんなふうに思うところであります。
  37. 大川三千男

    参考人大川三千男君) この労務費の格差、あるいはその人件費の格差というのは、日本ASEANの諸国、あるいは中国とでも非常に大きいわけでありますから、これを日本産業がどういうふうに克服できるかということは、もうこの何年来かの根本問題でございます。ですから、工程とか産業の業種によりましては、とてもやはり労働集約度が高ければそこには対抗できないわけでありますから、それはやはりそちらでやらざるを得ない。  ちょっと具体的な例で若干申し上げますと、私の属しております繊維産業の中で、縫製するという工程は、これもう今ほとんど日本の中ではミシンがありません。ちょっと今正確に覚えておりませんけれども、例えば中国では、六百万台とか七百万台のミシンがあって、そのうち二百万台が国内向けで残りが輸出用であると。日本向けに百二十万台ぐらいのミシンを使うと。日本の中には十六万台ぐらいのもうミシンしかない。ですから、日本の皆さんが着ておられる衣料、これは非常に上等なものもありますし、相当カジュアル的な、汎用的なものもありますけれども、そういうものはやっぱり中国とか東南アジアのミシンの手をかりないと日本人の衣料も供給されないと、そういうふうになっているわけでございますね。  だから、縫製品の縫製するという工程でもちろん日本に、相当レベルの高い衣料品についてもちろん残っておりますけれども、それは先ほどのような、ちょっと今日、今記憶で、概算でございますけれども、そのレベルのものしかないと。ここの工程はどうしてもやはり人件費の格差というものがストレートに出ますので、そういうことになりますが、それに至る前の段階は、やっぱり例えば衣料にするためのテキスタイルにする段階というのは、やはりいろいろ技術的に優れたものを作るとか、いろんな付加価値の高いものを作るとかいうことで、人件費の格差だけでは決まらないところがあって、まあ日本で作られたそういうものを中国とか東南アジアで縫製してまた日本へ持ってくるとか欧米に持ってくるとか、そういう一つの国際分業ということができていく世界だろうと思います。  ただ、もちろんそういう労務費の格差はありますけれども、まあやはりいろいろなその仕事のやり方、無駄とか無理の排除とか、あるいはマーケットに対する非常に時間的な適応力とか、そういうことで今、日本産業の多くはそういう人件費の格差を克服しながらレベルの高いことをやろうと。だけれども、それはどうしてもそれができない業種とか工程ももちろんあるわけでありますけれども、その辺りにかけては、やはり日本の人たちの働きというものがそういう高い付加価値を生むというような一つ産業構造にしていかないことには、先生のおっしゃるような少子高齢化の日本社会というものが成り立たないわけですから、やはりそういうことに関して、産業としては非常なやっぱり努力をしながら、日本でできること、海外でできること、あるいはその分担をどういう形でやるかと、そういう世界をこういう一つ経済連携の大きな枠の中で追求していくということが企業役割になるのかなと思います。
  38. 田中明彦

    参考人田中明彦君) 具体の問題になりますと、様々な問題点がございますので一概に断言しにくいところもございますけれども、原則からいうと、私は、日本の今のこの少子高齢化の社会において守りの姿勢でいったらしりすぼみであるということだと思います。現在の日本人の生活水準を守るということを考えると、これはできるだけ競争力を付けるために広い世界との間のつながりをできるだけ生かしていくという形でやっていかなければいけないというふうに思います。  企業の戦略として見れば、様々な賃金格差を生かした形で戦略を作る、それによって企業が生き延びる、さらに成長すると。それによってその企業が、日本国民のためにということでいえば、税金が払えるということになるわけですね。最終的に言って、ただ守っているばかりでいって、日本企業はほとんどいなくなって、日本で税金を払う人はだれもいなくなったということでは具合が悪いわけであります。  それから、東アジアの情勢を見ていきますと、これは直ちにこんなことが実現するということはありませんけれども、現在の、先ほど先生おっしゃったこととも関係しますけれども、賃金格差もそれほど静態的、止まっているものでもなくて、例えば中国の沿海地方で見れば、沿海地方の人たちの生活水準というのはどんどん上がりますから、長期的に見ればこのプロセスというのは、日本人の生活水準と東アジアのそれ以外の国々の人たちの生活水準が徐々に徐々に近づいてくるということですね。近づいてくるということの結果、日本人の作った高水準のものが東アジアでも売れるということになって、日本人の生活水準は守られるということになっていくわけですから、そのようなやはり好循環を生むような形のためにできるだけ守りではなくて攻めの姿勢でいかなければいけない。  そして、日本全体でいえば、やはり、やや人の移動も含めて、かつては日本では人の移動というとやや単純労働の話ばかり言われておりましたけれども、やはり今の日本にとって非常に重要なのは高付加価値生産をできる人材が日本に来てもらうということですね。あるいは高付加価値生産をできる企業日本に来てもらう。要は税金を払ってくれる人が日本に一杯来てくれるという、そういう形で発想していく必要があるんじゃないかと思います。
  39. 小林温

    ○小林温君 三名の参考人の皆さん、今日は本当にありがとうございました。  それぞれの御発言の中でも触れられているところもあるんですが、一つ農業の問題についてお三方の意見をお伺いしたいんですが、田中参考人からは、自民党の政策決定、政府の政策決定、いろんな問題があるということを御指摘もいただいております。自民党の中にもFTAの特命委員会というのも設けまして、その縦割りをどう解消していくか、あるいはスピード感をどう持って政策決定していくかということについて、特にこのFTAの部分で今鋭意努力もしているところなんですが、その中で、私も参加をさせていただいておりまして、特に農業の問題については一つの解決策として、当然、多面的機能をどう評価していくかということに加えて、直接支払も含めた所得補償というものが現実的な処方せんとして議論の中にも見受けられるようになってまいりました。  ただ、この手法を採用するのにはまず政治的なハードルがある。それから、財政面でのハードルも当然ありますし、と同時に、ある意味では税金を一つ産業に投入するということにもなりますので、国民的な理解がどれだけ得られるかという部分まで勘案した上でこういう政策決定をしていかなければいけないというふうに思うんですが、一つの処方せんとしては、これは前に進んでいるんじゃないかと私自身は評価しているところで、この点について、まず山田参考人からは、農業にかかわる皆さん方からこの直接支払というものがどういうふうに映っているか、その可能性についても言及をいただければと。  それから、大川参考人からは、産業界から見た場合にこのシナリオというものについてどういう御評価をいただけるかと。  そして、田中参考人からは、政治経済学的にアプローチした場合に、この具体的な一つの処方せんについてどういう御意見をお持ちかということをお伺いしたい。  それからもう一点、これは大川参考人田中参考人に少しお伺いをしたいと思うんですが、中国日本が、特にASEANを含めた東南アジアFTA、どちらが主導権を握るかという、今そういう競合もあるわけですが、これは決してスピードだけの問題じゃなくて、でき上がった経済連携の質が将来どうあるべきかということにも私はかかわってくるというふうに思っています。  つまり、やはり中国ASEANとのFTAというのはどこまでいっても発展途上国間の経済連携であって、関税撤廃をやはり基本として、余り質が高いものにはなり得ないんじゃないかと。それを考えると、日本としては将来的に質の高い東アジア全体の経済連携目標に置き、かつ中国にもビジネス環境の整備をこれは迫っていかなければならないという意味において、最初から質の高いFTA日本が主導するということが東アジア全体での経済連携の質を高めていくということにつながるんだろうというふうに思うんですが、こういう考え方の下に、いろんなリスクを負ってまで日本政府が更に積極的に東南アジアへのアプローチを対中国もにらんだ上で進めていくことの意義について御意見があればお伺いをしたいと思います。
  40. 山田俊男

    参考人山田俊男君) 小林先生からのお話であります。直接支払につきましてどう受け止めるかというお話でありまして、直接支払の重要性は、もう担い手をどうつくるかということからしても何としてでも必要だという考えでおります。とりわけFTAWTOがあるから直接支払をやるというわけではないわけでありますが、しかし、それにしましても、高関税前提にして、かつ国内の高い価格を維持する制度運営になっておるわけでありますから、FTAやその他で関税が下がってくれば、当然国内のその制度維持はできないわけであります。そういう面では、何としてもそういう作物生産を行っている農業者に対する手だてが必要というふうに考えるわけであります。  しかし、その場合、先生の御指摘もありましたけれども、政治的、財政的な問題あるぞというお話であります。担い手のすべてに対して一定の直接支払をやるという話はなかなか通らないということで、今回の農林水産省におきます大臣の一つの提案の中におきましても、一定の高いハードルが必要だというふうに言って、担い手はそれなりに限定的だということがあるわけであります。  しかし、一体、それでは高いハードルから除かれた、除外された農家の対策はどうするんだということでありまして、我が国の実態からしましても、そうした農業者がそれなりに、やはり集落におきまして地域の環境保全や、それから水路や農道の改修等も含めまして、それから農業の補助的な役割、これは田名部先生からも先ほどありましたが、兼業で得た所得の大部分を機械に費やしてでも、しかし米を植えているという事実も現にあるわけでありまして、そういう形の中で地域農業維持されているという部分があるわけでありますから、そういたしますと、そういう一定の地域農業を守る担い手、これは存在しますよと。これは直接支払の所得補てんがあります。  一方、その一方で、その担い手を育成する育成段階の農業者、それからそこに行き着かない農業者に対しましても一定の環境等対策、これは集落等の対策などの、例えば中山間地直接支払が今実施されていまして、それなりに、耕作放棄地の対策も含めた取組はそれなりに進んでいるということ等の経験を十分踏まえた上で、環境維持等の支払対策も並行して作っていただくという検討が必要ではないかというふうに考えているところであります。
  41. 大川三千男

    参考人大川三千男君) 今のところが、私は農業問題、もちろん専門ではないんであれですけれども、一番非常に基本的なところで、そういう問題が非常にしっかりと、特に直接支払とかそういうことが議論されるようになってきたということがやっぱり非常に大事なことではないかと思います。  私が産業立場あるいは製造業立場から見ましてやっぱり農業に対して非常に思いますのは、やはり我々工場で物を作る立場でいきますと、先ほどから海外展開、グローバルな展開をしていると申し上げましたように、どうしても日本の中で競争力のない事業あるいはその業種、それはしかしアジアへ持っていってやれば十分に自分たち技術も生かせると、そういうような一つの最適の経営資源を求めて海外で生産をする、そして日本と現地の工場等いろんなマーケットに応じてグローバルなオペレーションをすると、こういうことはできるわけでございます。  それから、工場で物を作る以上、割合その生産条件とかそういうことはそれなりに安定したものが得られるわけでありますけれども、農業の場合には、特に水田農業というようなことになりますと海外へ行くというわけにはいかない。それについてもまたいろいろな工夫の仕方があるのかもしれませんけれども、あるいはいろんな耕地の広さの制約とか、自分たちでどうしようもない一つの制約条件ということに対して、いろいろなやはり配慮とか補助とか、そういうことが産業として、先ほど農としての、加納先生おっしゃられたこととか、産業としての農ということがありますが、産業としての農業ということを考えた場合には、そういうようないろいろな違いということに対してはやっぱり十分な手当てということがなされなければいけないんじゃないかなと。  我々もやはり海外との競争というようなことになりますと、自分たちでどうしようもない要因で来たときのやっぱり競争力格差ということが非常にあるわけでありますが、それをどう受け止めてどういうふうにやるかということに対してはいろんな対応の仕方がありますけれども、農業の場合にはそこでのやっぱり制約がいろいろあるとすれば、そういうしっかりとした一つの、特にやはり直接支払というような形での産業としての持っていき方はあると思いますし、またFTAの実行というような面においてはやっぱり時間的にもいろいろな形での対策が要ると思いますが、いずれにせよ、やはりそういう一つ構造改革的なことをしっかりと進めていかなければいけないということは確かではないかというふうに思います。  それから、小林先生、もう一つ、そうですね、質の話がございました。  おっしゃるように、先ほどからもありますように、授権条項があることで結ばれるFTAと、日本と例えばASEANタイとの間のことがありますと、これはやはり別にそれでスピードが遅くなっていいというわけではありませんけれども、やはりレベルの高い地域協定、せっかく、もちろん農業の問題は、それが除外されているということがありましたが、シンガポールとの間の協定ということでは一つの実例もできているわけであります。  それをさらに踏まえながら、例えばタイとの場合には、農産品の問題も組み入れた形でレベルの高い一つのことを目指してやっていくということはやっぱり一つ日本としての大事な立場だろうと思いますが、それだから時間が掛かっていいということではなくて、やっぱり今の場合のスピードということも非常に重要であろうと思います。
  42. 田中明彦

    参考人田中明彦君) 最初の質問で所得補償の件ですけれども、私はこの件は原則として日本としてのネットベネフィット、純益がどうなっているかということを考えるべきだと思います。そして、FTAということから考えたときに、日本産業その他が、例えばタイなりあるいはそれ以外のASEAN諸国との間で自由貿易をやった場合に得られる利益をかんがみたときに、ある日本農業の一分野に対して所得補償をすることが日本全体としてどのぐらいの得になっているかということだと思うんです。  それで、私の、何というんでしょうか、正確な計算はしたことございませんけれども、私の大まかに見るところでは、現在対象となっているような特定品種について所得補償をしても、FTAを短期に実現することによって得られる利益の方が日本にとってははるかに大きいというふうに私は思います。ですから、今、先生がおっしゃったような処方せんというのは私は十分考えられるし、誠に現実的なものだろうと思っております。  ただ、そこに条件を付けるとすれば、何でもかんでも所得補償だということになると、これはややモラルハザードのようなものがございますから、やはりそこには時限とか条件を付けて、構造改革が進むというそういう枠内で所得補償をしていくのだという形であれば、これは多くの国民にとっても納得がいくことじゃないかというふうに思っております。  それから二番目の、日本FTAの主導権を取ることによって東アジア地域の自由貿易の質が高まるということは、私はそのとおりだろうと思っております。FTAの問題、とりわけ二国間FTAの問題は、それぞれの国々がそれぞれの枠組みで個々別々のFTAをそこらじゅうで結び合った結果、お互いに整合性が全く取れず、かえって原産地証明だとかその他のいろいろな問題で非効率が高まってしまうという問題がございます。  望ましいのは、二国間のFTAを作っていっても、最終的には非常に大きなところで枠組みが共通してあって、東アジア全体が自由になるということ、これが一番重要なわけですね。その面でいいますと、中国ASEANのイニシアチブのままでやっていくというのは東アジア全体にとってみるとそれほど質が高くもならない、あるいは今ASEANの自由貿易というのでAFTAというのがございますけれども、これもほっておくと余り質の高いものにならないということがあります。  日本にとってみれば、日本相手国の二国間の貿易が、その自由化が高まるということもとても重要ですけれども、多くの日本企業にとってみると、東アジア諸国間の間の相互の障壁がどんどん低下してくれるということのメリットというのも、これは忘れるわけにはいかないわけですね。ですから、今の日本のシンガポールと結んだEPAの枠組みというのは、私の見るところ大変包括的によくできていると思いますので、このような枠組みでもって様々なところと日本がイニシアチブを取って結んでいくことによって、最終的には相手国同士の枠組みもそれに近づけてもらうということ、それによって全体の東アジアの自由貿易を強めるということができるということですから、正に日本が今そのような形で主導権を取るということが東アジア全体にとっても役に立つことであろうと私は思います。
  43. 広野ただし

    広野ただし君 どうもありがとうございます。  日本はやはり通商立国ということで、ガットあるいはウルグアイ・ラウンド、WTOのマルチの中で貿易、通商、投資関係を拡大をしてきているというのは誠に大事なことだと、またそれは間違いではないと思っておるんですが、そうはいうものの、その中で日本アジア関係ということを考えますと、私は、やはり歴史を見ますと日本アジア関係は非常に深いものがありますし、何といっても今までの経済関係を見ても、先ほどからるる説明がありましたような形で非常に深い関係になっているわけですね。  アメリカは、アメリカ、南米、北米を中心とした一つ経済関係を昔から歴史の中から作ってきているし、ヨーロッパはヨーロッパを拡大してやってきて、さらにアフリカの関係をどうするかとかいろいろなことがあるんだろうと思いますが、やはり日本は、昔からのことではありませんが、大東亜共栄、大東亜というよりも共栄、共存共栄の道をアジアとの間で進まなきゃいけないんじゃないかと、こう思っておりますが、そういう中でやはり根っこのところに農業の問題があるんだろうと思っております。  農業も、先ほどから山田参考人がいろいろとお話しいただきましたが、JA全中グループ農協協定、何といいますか、いろいろと協力関係を各国と結んできておられる、これも非常に大切なことで、農業関係でも共存共栄の道がないのかどうかということがやっぱり大切なことだと思うんですね。  どの経済的な連携あるいは統合というものを見ても、単なる垂直関係の、垂直分業というような考え方の統合というのは最終的にはうまくいかないんだろうと。それぞれの発展段階があって、ずっと連携を深めていけばいくほど、どちらかというと水平分業的なものでないとなかなかうまくいかないんじゃないかというふうに思っておりますが、農業の面で何かそういう水平分業的な共存共栄の道というのがないんだろうか。もちろん国内におけるいろんな対策というのがあって、先ほどからいろんな御議論があったとおりだと思いますし、私はやはり多面的な機能で、環境あるいは災害防止ということからもっと強力な農業政策を展開しなきゃいけない、農林水産業政策を展開しなきゃいけないと、国内的にはですね、思っておりますが、そういうことも含めながら、何か水平的なことがないのかということを山田参考人にお聞かせいただきたいと思いますし。  もう一つFTAあるいはEPAをやってまいりますときに、どうしても工業分野あるいはサービス分野農業とが対立関係のごとくに扱われることが往々にしてあるんですが、私はそうあってはならないんだろうと思います。そういう面で、経済界を代表して、どうしたら農業分野アジアとの関係で両方とも発展していく道があるのか、具体的なやはりアドバイスについて大川参考人にお聞かせいただきたいと思いますし。  また、田中参考人には、やはりFTAでもEPAでもステップ・バイ・ステップだろうと思うんですね。まずできたからと言って、例えば五年なり十年の間にまた見直しをしながら連携を深めていく、更に深い強力な関係になっていくということだと思うんですが、そういうことをやっていく場合にも、やはり農業というのが最終的にどういう姿、日本農業がどういう姿になるのか、また、アジアにおける農業はそれぞれの国においてはどうなるのかというようなことがやっぱりあって結ばれるんではないかと思いますので、その点について田中参考人からお聞かせいただければと思います。  時間でございます。
  44. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) それでは、最後の質疑者に時間的になると思いますが、そういうようなことで、参考人先生方は、何か今まで言い残しましたこともありましたら、それも含めてどうぞおっしゃってください。
  45. 山田俊男

    参考人山田俊男君) ありがとうございます。  広野先生のお話でありまして、我々も是非アジアグループ取組の中でこれはもう伸ばしていきたい、ないしはアジアグループの話合いの中でこれをやっていこうじゃないかというふうに言っていることを御指摘いただいたかというふうに思っております。  我々アジアグループ九か国は、日本韓国、それからインド、マレーシアインドネシアタイフィリピン、ベトナム、スリランカと、以上九か国でありますが、ともに米を主食にしている国のアジア・モンスーンの国々であります。  先ほど来申し上げましたように、これらの国々はともに国の農業者をどう豊かにするかということがあるわけで、かつ、そのことによって日本農産物を輸出して日本農業者を困らせるということはいささかも考えていないんだと、こういう中でそれぞれの国の自給率をどんなふうに上げるか、農業者を豊かにするか、それから持っております農業生産の多面的機能をどんなふうに発揮するかと、こういう観点で話合いを進めているところであります。  そんな中で、率直に申し上げまして、これはどう評価したらいいかということはあるわけでありますが、間違いなく戦前は、第二次世界大戦の前は、アジアのこれら国々我が国との貿易関係は大変大きいものがありました。農産物も含めまして、不足する部分はこれらの国々に依存していた部分が相当あります。一方、戦後、実はもう明らかに農産物を圧倒的に米国に依存するという構図ができ上がってしまっておるわけでありまして、この点が、経済全体が米国との間で経済関係ができてきたということも裏腹ではないというふうに思いますし、我が国がかくのごとく農村も含めて発展してきたという部分は、そうした経済、政治の状況が背景にあったということはいささかも否定しないわけでありますが、事実としてそういうことがあります。  こんな中で考えますときに、先ほど来も申し上げましたが、いささかでも輸入多元化ができないかというふうに考えるところであります。しかし、そのためには必要な港湾の整備農村開発や安全、安心等の対策アジア国々に何としても必要なわけでありまして、そういう部分についてしっかり経済連携協定の中で内容を充実していくという取組が必要というふうに考えるわけであります。  それからもう一点は、アジア国々貧困対策と関連いたしまして、例えば我が国では大分県で発達しました一村一品の取組が、やはり今の段階でタイ農村では大変一つの力になるということが言われておりますし、それからフィリピン農村で見ましたが、農協が、日本でかつて取り組みました預託、豚の預託豚の仕組みですね、農協が資金を貸して、そしてそれで豚を買って、豚も貸し付けて、農家がそれぞれ豚を育成して、それを農協がまた売って回収するという取組で、日本ではかつてありましたが、もう今はほとんど企業養豚になっていくわけでありますけれども、そうしたかつての経験が農村所得向上のために大変大きな力になっているということも事実であります。  そういう意味合いからしまして、是非こうした農業協力をしっかり貧困対策の一環としても経済連携協定の中に位置付けていくということで、アジアのより共同体としての力が強まれば大変力になるんじゃないかと、こう考えるところであります。
  46. 大川三千男

    参考人大川三千男君) 今、広野先生からおっしゃられた点、誠にそのとおりでございまして、工業分野、サービス分野農業分野が対立するというような、あるいは何らかのそこでの犠牲の上にそういうものが成立させるというFTAEPAであってはならないということはもう大変肝心なことでございまして、どういうアドバイスがと言われて、まだとてもそういうところまでは分かりませんけれども、今、山田専務とはタイのタスクフォースでもずっと御一緒をさせていただきました。いろんなお話を伺う機会もあり、今、日本経団連経済連携のためのタスクフォースでも、農業問題、人の移動の問題ということを今真剣に勉強をしていって、そういう一つの解を見いだすことについて、それなりにやっぱり我々も勉強していこうというつもりでおります。  やはり、私自身、先ほどから何回か申し上げましたように、必ずしも非常に競争力の強い産業ということでないところでいろいろと海外とのやり取り、あるいは競争力でいろんな事業分担が行われるとか、そういうことで、やはり例えばFTAの中でも一種の貿易救済措置が非常に重要な役割を担うことであろうとか、まあいろいろな、単に関税相互引き下げるということ以外、EPAじゃなくてFTAの要素の中でも、それから原産地規則の問題とか、やっぱりいろんなことを大事に考えていかなければいけないし、お互いの、先ほどの労務費の話とかいろいろ競争条件の差がありました、の話がございましたが、そういう中でどういうふうにやっぱり日本産業の力というものを持っていこうかと。  これは、もうやはり競争力をいかに、いろんな分野競争力コスト競争力だけではなくて、差別化品の問題とか、そういうことをやっぱりいかに付けるかということでのいろんな工夫の余地というのがいろんな産業にやはりそれなりにあるという、何かちょっと非常に抽象的な御説明で申し訳ないんですけれども、やっぱりそういうものを、今このFTAEPAを作ろうという運動の中で、正にそういうことのために手間暇を掛けて、時間は急いでやると、こういうことではないかと思います。  それから、先ほど小林先生の御質問に田中先生が御回答を上手にしていただきましたように、今日も冒頭から、やはりアジアとの包括的な経済連携ということがやはり一つ目的でありますので、やはりそのことによって日本経済活力というものがしっかりと発揮できるという観点で、やはり一つ一つ質の高い連携を積み重ねながら、その中では原産地規則、特にASEANの場合は包括的なそういうASEAN原産というようなことも非常に今後重要になってくると思いますので、一つ一つを最後に全体としてまとめられるようなFTAEPAということをしっかりと作っていけるようにというのが基本的な考えでございます。  どうもありがとうございました。
  47. 田中明彦

    参考人田中明彦君) 私、今日はこの調査会に参加させていただきまして、こう申し上げるのもいかがかとも思われますが、JA山田専務からの御報告で、農業問題を日本の問題というふうにとらえるのとともに、アジアの問題であるというふうにとらえるというこの視点に大変感銘を受けました。  ややもすると、これまで私ども、この自由貿易とか東アジアの共同体というようなことを考えてきまして、農業関係の皆さんとお話ししていると、そんなことをやって開いたら、アジアの低所得のところからもうあっという間に入ってきて、日本農業みんな駄目になっちゃいますよというようなある種の危機のシナリオをおっしゃられるわけですが、今日の御発言のように、それを日本という問題ということとともにアジア全体という観点からお話しになったのが大変重要な論点だと思います。やはり東アジアでともに歩みともに進むその共同体を作っていくということからすれば、日本農業に関与する人たちも、アジア農業に関与する人たちとともに歩みともに進むという形を作っていかなければいけないと思うのですね。  それから、先ほど山田専務からのお話にありましたように、アジア農業の在り方というのはやはり北米なぞとはかなり違うわけでありまして、これでアジアでかなり所得水準が上がるという形で工業化が進んできますと、アジア各国で日本農業と同じような問題が起きてくる可能性もあるわけですね。そうなりますと、その中でアジア全体の農業をどう考えていくかということは重要なことだと思います。  是非今後の、日本の農水省なりあるいはJAでも、日本農業のビジョン、日本農業構造改革と並んでアジア農業ビジョンというようなものを前提とした上で、自由化とか構造改革とか、日本農業構造改革考える上でもアジアとの連携の上でどう構造改革をするのが人の、人材の供給とかその他の面、技術の面含めて大事なのかということを考えていただければというふうに思うんですね。  それから、食糧安全保障といったときの単位の問題でありますが、これまでのやはり日本における食糧安全保障論の単位は国なんですね。ですから、自給といったときも、必ず日本としてどれだけ自給率がありますかという議論ばかりをしておるわけですけれども、もし東アジアの共同体というようなことを考えるとすれば、食糧安全保障の単位としても、国もそうですけれども、それと並んで東アジアというものがどういう役割を果たすかということも考えていかなければいけないと思うんですね。  ですから、先ほど米の備蓄の動きが東アジアで出てくるというのは、これは食糧安全保障という観点からいっても、国だけではなくて、国を超えた地域としての食糧安全保障をどう考えるかという形に物事が展開しているので大変望ましいと思います。  ただ、最後にちょっと一言だけやや留保条件付けますと、食糧安全保障といったときに自給率というのが決定打であって、これのみが一番重要なことであるというのはやや短絡的な考え方であります。  前回、というか議論の中でも少し出ましたけれども、BSEとか鳥インフルエンザとかということがございまして、これ、完璧に自給ということでやっていて、自分の国でこれが起きたらどうなるかという話はあるんですね。安全保障の観点からすると、もし自分の国のみで生産していて、これが全滅したらどうするかということを考えますと、やはり物にはいろいろなあんばいというものがございますから、やはり安全保障という観点からすると、自給も含めて多角化なんですね。どこか一か所が壊滅したときに、ほかから代わりがあるというのが安全保障にとって非常な重要なことでありますから、東アジアをもしユニットとして考える場合でも、現実的には北米とかその他を全く無視して農業をやるなぞということは今の世界ではできないことだと思いますけれども、その自給と並んで多角化というようなことを念頭に置いてその制度考えていくと。  いずれにしても、日本という枠だけではなくて東アジアという枠でも食糧安全保障考えるというような視点を出していただいたのは、私としてみると大変有り難いことだと思っております。
  48. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  ちょうど予定の四時が参りましたので、本日の質疑はこの程度といたします。  一言お礼のごあいさつをさせていただきます。  参考人におかれましては、長時間にわたりまして大変貴重な御意見をお述べいただき、おかげさまで大変有意義な調査を行うことができました。  皆様方のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後四時散会