○
参考人(
伊藤隆敏君) 東京大学の
伊藤隆敏です。
私も、
FTAの進展、それからそれが
日本にもたらす影響ということについて
お話ししたいと思います。
木村参考人の方から
FTAの基本的な
お話でありますとか
日本のスタンスということで既に
お話がありましたので、なるべく重複を避けて
お話ししたいというふうに思います。
まず、
日本を取り巻く経済環境の変化というものに目覚ましいものがあったということは皆さんよく御存じのことだと思います。
FTAが世界じゅうに広まったと、これは
木村さんがおっしゃったことですが。それから、
WTOが発足したんだけれども新ラウンドがなかなか進展しない、それから
アジアの中で
域内の
協力が進展してきた、それから
中国が非常に大きな経済パワーとして出てきたと、この
辺りが
日本を取り巻く経済環境の大きな変化を考える上でのポイントになるかと思います。
アジアにおける
域内協力の進展ということでありますが、
一つは、これは自然な流れというものがありまして、
域内の
貿易比率、
域内貿易比率ですね、
域内のお互いの
国同士が
輸出入する比率というのが非常に高まってきているということが挙げられます。したがって、それだけ
日本にとって
アジアに向かう関心というのは強くなってきた、あるいは
アジアから見る
日本への期待、関心というのが大きくなってきたということがあります。
それから、もう
一つは
アジア通貨危機、一九九七年、
タイ、
インドネシア、
韓国にIMFが入った、この金融危機というものが非常に
アジアの国にとって大きなショックだった。と同時に、そこからの回復の過程での一体感、
アジアとしての一体感というものが生まれてきたということが言えると思います。
もう
一つ重要なのは、そこで金融についてはかなり
アジアの中で
協力してやっていこうという期待感、実際の政治、行政のレベルでの
協力関係というのが生まれてきたということが言えると思います。実際に、チェンマイ・イニシアチブあるいは
アジア・ボンド構想という形での
協力関係というのが進展しております。これは今日の話題ではないので詳しくは述べませんけれども、
FTAと実は車の両輪、物と金の車の両輪として考えるべきことだと思います。
それから、
中国の台頭ということでも、
中国が非常に
アジアに対して積極的にその
協力関係を結んでいこうという
立場に変わってきたということが非常に注目すべき点だと思います。
アジア通貨危機のさなかにいわゆる
アジア通貨基金構想、AMF構想というのが打ち上げられまして、ところがこれがIMF、それから
アメリカ、さらに
中国の反対によってつぶされたという経緯があります。ところが、それに代わるものとしてチェンマイ・イニシアチブのような
協力の構想が生まれたときには
中国は非常にこれを積極的にサポートしております。したがって、そこでも
一つその変化のシグナルが出ていると。さらに、
中国から
ASEAN諸国に対して
FTAに向けて
交渉しましょうという提案を行ってきました。これによって、
中国は現在のところ
日本より一年先行して
ASEANとの
交渉のプロセスを歩んでいます。さらに、
木村参考人の
お話の中にありましたように、
中国から
ASEANに対して農業の先行
自由化について提案、それから実施ということに入っております。
したがって、
日本が
アジアに対しての
FTAあるいは
自由化、
経済連携というものを考えていく中で、この
中国との関係というのはやはり
一つ押さえておくべきポイントかと思います。
次に、
FTAのちょっと一般論、これは
木村さんの話と若干ダブるんですけれども、を
お話ししておきたいと思います。
FTAがいいか、あるいは
WTOがいいのかと、いわゆる地域
貿易協定がいいのか、世界レベルでの
貿易協定がいいのかという点について、これは議論が分かれてきました。これは
経済学者の中でも完全に
意見が一致しているわけではありません。
FTAの利点としては、
WTOではなかなか実現できない深い
統合ができるんではないか。深いという
意味は、単に
関税をゼロにするだけではなくて、基準、規制、このようなものを撤廃して自由に
投資ができる、あるいは
企業、あるいは人の活動をもっと自由に行き来できるようにしようということが入ってきます。より深い
意味では基準の統一、あるいは法制、税制の調和、ハーモナイゼーションというようなこともそこの深いというところには含められているということが言えると思います。これによって市場規模あるいは経済規模というものを拡大することができて
企業活動にとって非常に有利になる、あるいは消費者にとって便益のあることが実現することができるということであります。
それから次に、利点、もう
一つの利点は、
交渉の
スピードが速い。これは、百八十二か国と
交渉する必要はなくて、二か国あるいは数か国の間で
交渉すればいいわけですから、これは
スピードは速く
交渉することができるということであります。
もう
一つは、
WTOで
自由化をしていくということに対して、その地域でいったん深い
統合が実現していれば、その深い
統合を結び付けることによって世界規模でも深い
統合ができるんではないかという
意味での
WTOのビルディングブロックになるということが言われております。
それから、もう
一つの
FTAに向かう利点は、これは取り残された者にとっては非常に不利になるわけですから、その取り残された者にとってこれを、
FTAを結ぶことによってその不利を取り戻そうという、これは防御的な理由になると思いますけれども、こういうことも考えられます。
日本と
メキシコの場合に、実は
日本の場合、
日本にとっての
インセンティブというのはかなり防御的なところがありまして、
メキシコが既にNA
FTAで
アメリカと自由
貿易を実現している、それからヨーロッパとは二国間の
FTAを結んでいるということで、主要な二つの経済ブロックと
FTAを結んで、しかも
アメリカに近い生産基地になり得るということで、各国の
企業が立地する中で
日本企業の子会社あるいは関連会社だけが
関税を払ってパーツを輸入しなくてはいけないという不利益を被っているということが言われています。これが取り残された者の不利益ということであります。
FTAの欠点、これは
WTO、いかに
WTOの方を重視した方がいいかという点でありますが、これは
木村参考人も触れられた点なので省略させていただきます。
次に、国益から考えた
FTAという点について
お話ししたいと思います。
国益というのは何かということで、これは議論があるところですけれども、
日本にとっての
産業全体、国全体としての生産あるいは利益、それから消費者としての効用の高まり、安い物をたくさん買えるという
意味で国益というものを考えてみたいと思います。非常に狭い
意味の経済的な国益というふうに考えてみたいと思います。
国益を増進すると、国益を高めるというのは
経済外交、対外経済
政策の基本であると思います。そうしますと、利益の方が、利益を得る
産業、あるいは利益を得る消費者、
企業が不利益を被る、
FTAを結ぶことによって不利益を被る
産業セクターあるいは
企業、人よりも金額において勝るならば、このような
FTA、あるいは
WTOでもいいんですけれども、こういう経済、対外経済の戦略の中で、そういった利益が不利益を上回るようなものについては推進すべきであるということがまず第一点押さえるべきことであると思います。
例えば
メキシコの場合に、先ほど言いましたように、
日本企業が非常に不利益を被っているということで、
日本から
メキシコへの
製造業品の、例えば自動車も含めて、あるいは自動車のパーツも含めて
製造業品の
メキシコへの
輸出が停滞している、
メキシコにおける
日本製品のシェアが
アメリカやヨーロッパよりも低くなってきたという事実があります。これはもちろんいろんな要因があると思いますけれども、
日本企業が
関税を払って
輸出しなくてはいけないという点、ヨーロッパや
アメリカの
企業に比べて差別されているという点があると思われます。
これが何千億円になるかという試算は非常に難しいんですけれども、恐らく
EUが、
EUと
自由貿易協定するまでのトレンドの伸びをそのまま伸ばしたとしまして、今停滞している部分との差額が恐らく四千億円を超えると言われています。これは
貿易額、
輸出額だけですね。それを川上の
産業とかありますから、国内でそれを生産しているその下請とか関連会社の雇用でありますとか生産まで含めて、国内でどれくらい損失が出ているかというと、恐らく五千億円から六千億円、それを超えるかもしれないというふうに言われております。これが
メキシコと
FTAを結ばなかった、結んでいない、まだ結んでいないことによる不利益ということであります。
これに対して、
メキシコと
FTAを結ぶことによって出るであろう不利益というものはどれくらいかということでありますが、これも非常にもちろん算出は難しいんですが、先ほど
木村参考人から出た豚肉、もしこれを
自由化したとしたらどれくらい国産の豚肉の業者が困るだろうか。
それから、最後に
交渉決裂に至ったところでオレンジジュースという話が出ておりましたが、オレンジジュースを
メキシコに対して無税枠を非常に大きくすることによって
日本の、
日本にはほとんどオレンジジュースのメーカーというのはありませんから、これはミカンの産地が困るだろうと言われているんですけれども、そこにどれくらいの被害が出るか、これも非常に難しい算定だと思いますが、恐らく六千億円はないだろうと、四千億円あるかないかというところだというふうに言われております。したがいまして、これは明らかに利益の方が大きい。
それで、もう
一つ言いたい。もう
一つは、不利益と言われていることも、これは消費者にとっては利益かもしれない。したがって、物を作っている産地にとっては、ある特定の地域のある特定の産地にとっては不利益かもしれないけれども、消費者全体にとってはいいことなわけですから、国全体で見ると、ひょっとしたらそこも四千億円よりもっともっと小さな額かもしれないということです。そうすると、単純な算術で
メキシコとの
FTAはやるべきだという結論になると思います。
もちろん、そんなに単純ではないということはよく
承知しておりますが、実際にその
FTAの
交渉あるいは対外的な経済戦略を立てる場合に、こういった国内問題をいかに乗り越えるのかというところが非常に重要な点になってくるということをこの例は示していると思います。
もう少し、もう一歩進めて言えば、その利益の出る
産業から不利益の出る
産業に対してある程度の所得補償といったような形での所得移転を時限で、時間に限りを付けて行うといったような国内措置というものも検討に値するんではないかと。あるいは、先ほど
木村参考人の話にも出た十年という猶予を付けることができるわけですから、そういう経過措置あるいは激変緩和措置といったものも十分考えられるわけで、対外経済戦略を推し進めるのをサポートすると、国内の措置でサポートするという体制を是非構築することが必要だと思います。
それから、これは国内の話でありますが、相手のある
交渉ですから、相手にどういう
メリットがあるのかということであります。あるいは
日本にどういう
メリットがあるのかということであります。単にこれは
輸出が五千億円、六千億円増えるということ以上の利益があるということを
お話ししたいと思います。
通常、
先進国、
日本のような
先進国と例えば
タイのような開発
途上国との間の
FTAについて見ますと、
先進国にとっての利益の方が恐らく
相手国よりも大きいだろうと言われています。
一つには、単純に
関税、
関税率で見れば、
日本の
関税率というのはもうほぼゼロ%になっていますから、
農産品以外はゼロ%になっていますから、もうこれ以上譲るものがないわけですね。一方、
タイの方はまだ高
関税のものがたくさんありますから、それをゼロにする。そうすると、
日本からの
輸出が増えると。先ほどの重商主義的な、マーカンティリズム的な考え方に立てば、
タイの方がよほど国内で被害が出る
可能性が高い。
したがって、通常は
先進国と開発
途上国の
FTA交渉というのは、
先進国の方がやろう、やろう、やろうと言って、開発
途上国の方がちょっと待ってくれと言うのが通常のパターンで、例えば
アメリカと
メキシコの場合も大体パターンとしてはそういうパターンだったんですね。
ところが、現在は
タイの方がむしろ積極的に
日本にアプローチして、
FTAをやりましょうと言っているんですが、
日本がなかなかうんと言わなかった。これは昨年の六月に
タイのタクシン首相が来たときに、
タイの方からやろうと言ったのを、小泉首相がまだ機が熟していないということでいったん断って、ようやく十二月になって、これはやりましょうということになっていると。
どうしてこういうことになっているのかということでありますが、これも先ほどから
お話に出ているような、
日本の中の足並みがそろっていない。四省がコチェアマンで出ていると言いましたけれども、事実上、そこの調整がうまく図られていない。先ほど言った足し算で、ネットでプラスになりますねということを確認する戦略的な思考ができていないということが重要な点だと思います。この辺が
タイあるいは
中国の場合には非常に政治の高いレベルのところで
FTAを対外経済戦略と据えて、国内措置もそこでやってしまうという体制になっているということだと思います。
それから、もう
一つの
先進国と開発
途上国の関係で言いますと、今、その
FTA、あるいは深い
統合としての
FTAですけれども、これを推し進めていくことのもう
一つの
日本にとっての
メリットは、
日本でできている法制、法制度ですね、税制あるいは基準・認証、資格、このようなものを開発
途上国に広めていくと言うと言葉は悪いんですけれども、調和するようなものに変えていってもらう、改革していってもらうということが重要な点になります。
先ほど
木村さんの
お話にあったように、開発
途上国の方が
日本の
企業に来てもらいたい。しかし、
日本の
企業にとっては、どうもあそこの国の法制度は信用できない、裁判に持っていっても裁判所がなかなか有利な判決をしないとか、そもそも破産法制がうまくできていないから、貸したお金が返ってこないときに、それを取り立てるのが難しいといったような問題がいろいろあるわけですが、こういうものを直してくださいと、
日本企業が安心して
投資できるような制度に変更してくださいということを
相手国に、ことで
相手国を説得するいいチャンスなんですね、
FTAというのは。
したがって、深い
統合を目指す
FTAを
日本が積極的に推進していくということは、
日本の基準、
日本の制度、
日本の税制、あるいは
日本の資格、これは看護師とか介護士とか、そういう資格を
アジアレベルで採用してもらうということを強力に推し進めるための
一つの有力な武器になり得るということであります。そこまで戦略的にしないと、これからの
アジアにおける
日本のプレゼンス、あるいはその地位というのが保てないというふうに思います。
さっき
ガット二十四条の問題というのは
木村さんが詳しく
お話しになったんで私からは触れませんが、私も全く同じ
意見で、その米、米は多分かなり時間が掛かる。例外
品目にしなくてはいけないわけですが、そこを除けば、かなりの部分、その九五%カバレッジで
日本はいけるんではないかというふうに思っています。それほど心配する、汚い、いわゆる汚い
FTAになる心配はない。
これは、
アメリカやヨーロッパの人と話をしていると、どうせ
日本はできないだろう、きれいな
FTAはできないだろう、農業製品なんというのはみんな例外にしようとしているに違いないと思っているんですね。だから、そこをきちんと反論して、
アジアでこれだけすばらしい
FTAができているんだということを言うためには是非そこをアピールしていかなくてはいけなくて、私の計算では、米はしようがない、米は例外。しかし、それ以外は
自由化しましょう、十年掛けて
自由化しましょう、その間国内措置をきちんとやりましょうということで十分いけるのではないかというふうに思っています。
ちょっと脱線しますけれども、
アメリカだってヨーロッパだってそんなに完全にきれいな
FTAを、いや、
関税同盟ですね、やっているわけじゃないんですね。砂糖の問題であるとかバナナの問題であるとか、いろいろ
アメリカやヨーロッパにもアキレス腱はあるわけで、その
一つの
品目ぐらいはいいじゃないかということは世界で通用することなわけですが、農業全部外してくれと、これはもう全然通りません。したがって、そういう
意味では、できるだけ限られた
品目だけは守るけれども、それで、限られた
品目といってもそれは米だけだと思うんですね、長期的には。あとは多分十年掛けて改革をして、その間の調整コストをなるべく低くする方法を考えるという方に注力した方が私は生産的だというふうに思います。
アジアの中での
日本のポジショニングということ、これは
木村さんも先ほどおっしゃいましたけれども、
FTAを積極的に
アジアで進めていくということの利益と、それからその
スピードですね、積極的にスピーディーにやっていくということの利益と、そうしない、だらだらだらだら、嫌々、遅々として進まないといった形で
交渉を進めていくということの不利益、これを十分に認識する必要があると思います。
先ほど言いましたように、ここは先行する利益というものが非常に大きい。
日本の
企業は安心して活動できる、あるいは
日本との行き来が非常に自由になるといったことで、
日本企業あるいは
日本の消費者の厚生が、利益が向上するということを十分に認識する必要があると思います。
それから、自由
貿易にすると仕事や
企業が逃げていく、空洞化するんじゃないかという心配をする人がいますけれども、これは私は逆だと思いますね。
中国なんかは非常にまだ高い
関税があるわけですから、あるいは
タイも非常に高い
関税があるわけですから、本来は
日本で作って
輸出した方がいいものを、
中国で作って
中国の国内で販売しようとしているということで、その高い
関税がある場合に、むしろまだ出る時期じゃないのにわざわざ
中国に進出している、あるいは
タイに進出して工場を造ってしまうということがある。そうすると、それは正に空洞化で仕事が海外に行ってしまうということになります。したがって、相手の国の
関税を下げさせるということは、仕事を
日本の国内に守ることができるということを十分に考える必要があると思います。
それから、乗り遅れることの利益というのは、私は非常に大きな心配があると思っております。
一つは、
中国が
アジアをまとめてしまう
危険性であります。
先ほど言いましたように、
ASEANに対して
中国は非常に早い時期でアプローチをしまして、
日本よりも
一つ、一年早いサイクルで
交渉に向けての
合意、それから実際に
交渉を開始といった、それから目標年次も
日本よりも一年早く設定しております。
中国経済が非常に高い成長率を示しておりますので、
アジアの国にとっても非常に
中国というのは魅力的な市場なんですね。もちろん、
日本からの
投資の方が額は非常に大きいし、
日本への
輸出額の方が大きいんですが、伸び率だけ見ると
中国の方が非常に伸びているということで、非常に
中国との関係を重視しようという雰囲気が出てきている。したがって、その残高あるいは金額ではなくて伸び率を見ているということであります。
例えば、これも若干脱線するんですけれども、
韓国と今
日本は
FTAをやろうとしているわけですけれども、
韓国に行って向こうの
政策担当者と話をしていると、いや、
日本との
FTAをやりたいんだけれども
中国がいろいろささやいてきますと。
中国から言われるのは、
日本とは、
韓国はですね、
韓国から見て
日本に対して
貿易赤字でしょう。
韓国と
中国の関係は、
韓国が
中国に対して
貿易黒字でしょう。よく考えてごらんなさいと、
韓国。
韓国が
日本と
FTAをやるのと我々
中国と
FTAをやるのとどっちがいいと思うんですかというような形でささやかれると。
そうすると、あ、そうか、
日本と
FTAをやると赤字が増えちゃうのかというふうに単純に思ってしまうという
状況もありまして、やはり
日本にとっては、
韓国あるいは
アジアの国と
FTAをやる場合に、物を買いますよ、サービスを買いますよ、人にも来てもらいますというようなことを積極的にアピールできる、それを歓迎するようなムードが出てこないとなかなか説得がしづらいのかなと、そういう
時代にもう既になってしまっているということを十分に認識する必要があると思います。したがって、
スピードが非常に大切だというふうに思います。
それから、もう
一つの
危険性は、
アメリカが
アジアをまとめてしまうという
可能性すらあるということですね。
アメリカは既に
シンガポールとの間に
FTAを結んでいます。それから
タイとの間でも
交渉を開始すると言っています。それからオーストラリアとは
交渉しています。それから
ASEANとの間でも
FTAに向けての
交渉をしましょうということになっています。したがって、
アメリカも戦略は転換して、どんどん
自分と二国間の
FTAを結んでいこうという方針になってきていますので、
アメリカが
日本に先行して
アジアの中の
FTAの
ネットワークを広げてしまうという
危険性も、まあ危険と言うと怒られるかもしれませんけれども、そういう
可能性も否定できない。
先ほど
メキシコの例で言いましたように、そういう
FTAの
ネットワークあるいはブロックが広がる中で取り残されるという
危険性。取り残されるということは、
日本の
企業が高い
関税を、ほかの
アメリカや
中国やあるいはヨーロッパの
企業に比べて高い
関税を払わなくてはいけない、あるいは活動も制限される、あるいは
日本の基準が通用しないといったようなことが起きかねないということですので、これは十分に考えなくてはいけないことだと思います。
最後にもう一度
FTAに対する反対論というものを考えてみたいんですが、よく言われるのは、食糧安全保障あるいは農業の多面的な機能というものを維持するために
農産品は
自由化できないという議論であります。
食糧の安全保障について言いますと、食糧だけの安全保障というものはあり得るのかということをまず考えていただきたいと思います。これはもう、原油についても安全保障ですし、あるいは軍事的なものでも安全保障ですし、輸入が止まるような事態というもの、
輸出国の事情によって輸入が止まってしまうといったような事態が果たして想定できるのか。そのときにはもう原油も止まっちゃうんじゃないか、あるいはほかにも不利益が生じるんじゃないかということで、食糧だけ自給していれば安全なのかというと、そうではないんじゃないかというふうに思います。むしろ、輸入先を分散する、もし本当に安全保障というのを考えるのであれば、輸入先を分散すると。
牛肉についても、例えば牛肉についても
アメリカとオーストラリアと両方から入っているから、
アメリカが止まってもオーストラリアからかなり輸入できるといったような形で分散して、常に幾つかの国から輸入しているということがいわゆる食糧安全保障につながるというふうに思います。
それから、今は
アメリカ産の牛肉が危ないということになっていますが、つい数年前は、
日本で狂牛病が出たときには国産の牛肉が危ないということで、輸入品、輸入品というふうに消費者が言ったわけで、必ずしも自国だけで生産していればそれで安全かというと、そういうものではない。もちろん、その安全基準というのは非常に厳しく保って自国製品も外国製品も同様に扱うということが必要なわけですけれども、自国製品、自給するのが安全保障というのは間違いだと思います。
それからもう
一つは、農業保護がかえって農業の競争力をなくしている面があると思います。
これは、例えば牛肉の場合も非常な
貿易摩擦の中で部分的に
自由化されまして、まだ
関税も非常に高いんですけれども、その中で出てきた
日本の牛肉農家の対応というのはブランドネームを高めましょうと、ブランドネームの力を高めましょうということで、いわゆる有名なブランド、神戸牛でありますとか松阪牛というものの値段というのはむしろ昔よりも高くなった、高く売れるようになってきているということであります。
したがって、豚肉においても同様のブランドの威力というものを高めていくという努力を
促進するのが
自由化であるというふうに位置付けることができるんではないかというふうに思います。
農業を守る、あるいは農家を守るといったことはある程度は必要なことだというふうに私も認識しておりまして、これはしかし
関税によって守るというのが一番効率的な守り方ではないんですね。したがって、もし農家の所得を守るというんであれば、これはもちろんいろんな制度を考えなくてはいけませんけれども、所得補償に移行すべきですし、農業を守るというんであれば、これは大規模農業に行くしかないんですね。効率性を高めるしかない。したがって、業界としての農業を守るんであれば大規模化、このためには農家の戸数は減るしかない。そういった戦略的な農業の転換というものが必要で、これは農水省もそういった方向に既に考え方は変わっていると私は理解しておりますが、これを是非政治の方からも推し進めていただきたいというふうに思います。
時間も経過しておりますので、最後に、こういった
FTAの戦略というものを立てる場合に必要なのが、あるいは
日本にとって現在欠けているのがやはり司令塔の不在ということだと思います。
木村さんもおっしゃったように、四省、四人、こちら、
FTAの
交渉をする場合に、
日本側は四人座っていて相手は一人なんですね。それで
交渉をしようということがそもそも無理でありまして、相手の前で内輪げんかをしているといったような
状況になっていると。
交渉に臨む前に既に国内では調整をしていかなきゃいけないんですね。そういうことになって、そういう体制を是非作らなくてはいけない。
一つには、いわゆる
日本版USTRと、トレード・レプリゼンタティブという制度を作ったらどうかという提案も出ていると聞いていますが、どのような制度にUSTRというものを作るのか、あるいは官邸の中に対外経済戦略担当官といったものを置くのか分かりませんが、とにかく調整、国内の調整、あるいは四省の
意見、利害が対立したときに、それの上から、じゃ、こっちからこっちに所得補償を少しして、国としてはこれをやりましょうといったことを言える人、あるいは制度というものが絶対に必要だと思います。
こうしないと
スピードを持って
交渉できない、それで取り残される危険というものが非常に大きくなっていくということで、その中で国内の農業
政策の転換といったことを行っていくということが必要だと思います。重要なのは
スピードであり、今はチャンスだと、今がチャンス。そのチャンスを生かさないと乗り遅れるといった非常にクリティカルなところに来ているというふうに私は考えています。
私からは以上です。
どうもありがとうございました。