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2004-02-04 第159回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十六年二月四日(水曜日)    午後一時三分開会     ─────────────    委員氏名     会 長         関谷 勝嗣君     理 事         愛知 治郎君     理 事         加納 時男君     理 事         山崎  力君     理 事         岩本  司君     理 事         田村 秀昭君     理 事         高野 博師君     理 事         緒方 靖夫君                 入澤  肇君                 河本 英典君                 小林  温君                 椎名 一保君                 西銘順志郎君                 野上浩太郎君                 舛添 要一君                 三浦 一水君                 池口 修次君                 今泉  昭君                 小川 勝也君                 田名部匡省君                 高橋 千秋君                 広野ただし君                 荒木 清寛君                 池田 幹幸君                 大田 昌秀君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         関谷 勝嗣君     理 事                 愛知 治郎君                 山崎  力君                 岩本  司君                 田村 秀昭君                 高野 博師君                 緒方 靖夫君     委 員                 入澤  肇君                 河本 英典君                 小林  温君                 椎名 一保君                 西銘順志郎君                 野上浩太郎君                 三浦 一水君                 池口 修次君                 今泉  昭君                 小川 勝也君                 田名部匡省君                 高橋 千秋君                 広野ただし君                 荒木 清寛君                 池田 幹幸君                 大田 昌秀君    事務局側        第一特別調査室        長        渋川 文隆君    参考人        慶應義塾大学経        済学部教授    木村 福成君        東京大学先端科        学技術研究セン        ター教授     伊藤 隆敏君        経営支援NPO        クラブ理事長        三井物産株式会        社顧問      大貫 義昭君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○国際問題に関する調査  (「新しい共存時代における日本役割」の  うち、東アジア経済現状展望自由貿易協  定促進のための課題)について)     ─────────────
  2. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ただいまから国際問題に関する調査会開会をいたします。  委員の異動について御報告いたします。  去る十二月二十六日、江本孟紀君が委員を辞任され、その補欠として今泉昭君が選任をされました。  また、去る一月八日、井上哲士君が委員を辞任され、その補欠として池田幹幸君が選任されました。  また、去る一月十六日、榛葉賀津也君委員を辞任され、その補欠として田名部匡省君が選任されました。     ─────────────
  3. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国際問題に関する調査のため、今期国会中、必要に応じ参考人出席を求め、その意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 御異議ないと認めます。  なお、その日時及び人選等につきましては、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  6. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会調査テーマである「新しい共存時代における日本役割」のうち、東アジア経済現状展望に関し、自由貿易協定促進のための課題について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、慶應義塾大学経済学部教授木村福成参考人東京大学先端科学技術研究センター教授伊藤隆敏参考人及び経営支援NPOクラブ理事長三井物産株式会社顧問大貫義昭参考人、お三方に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多忙中のところ本調査会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。  本調査会では、東アジア経済現状展望につきまして重点的かつ多角的な調査を進めておりますが、本日は、自由貿易協定促進のための課題について参考人から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願いを申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず木村参考人伊藤参考人大貫参考人の順でお一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、午後四時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いをいたします。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、木村参考人から御意見をお述べいただきます。木村参考人
  7. 木村福成

    参考人木村福成君) ありがとうございます。慶應大学木村です。よろしくお願いします。  レジュメをお配りしておりますが、あと二人の参考人の方もどちらかというと同じようなトーンのお話だと思いますので、特に私、国際貿易論という、それから開発経済学という経済学の中の分野のことをやっておりますので、それに近いところの話を特に強調しながらお話をさせていただこうと思います。  これまでの経緯につきましては既に御承知と思いますが、ここで特に申し上げておきたいのは、九〇年代後半から出てきた地域主義というのが、それ以前のNAFTAですとかEUだとかというものと若干性格の異なるものがたくさん出てきたということが一つあります。これは、EUEUで、より深い統合、より広い統合を志向しているわけでありますが、それと同時に、メキシコチリシンガポール、それから最近はニュージーランド、もしかしたらタイも入るかもしれませんが、そういった中進諸国あるいは比較的小さな国がFTAをいろんな国と張り巡らせまして、そのネットワークのハブを目指すということを世界じゅうで始めております。  そういった動き東アジアは比較的後れておりまして、東欧の方は当然これはEUに入りたいということでありますし、ラテンアメリカの方はこういうネットワークがどんどん張り巡らされるということになっていて、東アジアはやや後れていたというのが九〇年代の最後の辺り状況でした。  その辺りからアジアの方もようやく動き出しまして、まず、金融面協力ではチェンマイ・イニシアチブ等がございましたけれども、実物面の方では、日本シンガポール経済連携協定、これが二〇〇二年一月に署名、十一月に発効いたしました。それから同時に、中国ASEANが包括的な経済枠組み協定を締結して、これは一部アーリーハーベスト実施ということでこの一月から実施されていると、こういう状況になっております。韓国は若干出遅れておりますが、チリとの間ではFTA交渉を終了しましたけれども、国会批准手続のところで手間取っているという状況ですが、シンガポールとの協議は開始するというふうに報じられております。  一つこれで特徴的なのは、どの国も東アジアというものを一つ経済単位として統合していこうということを暗黙のうちに了解しながら進めているということですね。どの国も、だから、まあ東アジアの定義もいろいろあると思いますが、もちろん北朝鮮とか台湾とかあるいはモンゴルとか、そういうところをどうするのかとか、インドは入るのか入らないのかとか、いろんな問題あるかもしれませんが、基本的にはASEANプラス3、ASEANプラス日本韓国中国というところを取りあえずの一単位とする、東アジア全体を最終的には統合していくんだということは特に話合いをしなくてもどの国も合意しているという、そこが東アジア統合一つの重要な点だと思います。  日本をめぐる動向は、これ御承知のとおりで、今メキシコとは政府間交渉が継続中でありまして、最終段階で足踏みしておりますが、これからまた何とかなるかもしれないというふうに伺っております。韓国とは十二月に政府間交渉開始。それから、ASEANとは経済連携の大枠、それからいわゆるコミュニティーの形成をしましょうということに合意と。タイフィリピンマレーシアとは十二月に政府間交渉開始合意して、マレーシアも既に先月始まっておりますし、フィリピンは今日ですね、今日初めての交渉で、タイは今月の中ごろというふうに伺っております。インドネシアも近いうちに始まる、合意があるだろうというふうに言われております。  二ページ目の、済みません、上のところにもありますが、日本経済外交というのを見たときに、やはり主体的に日本の方から働き掛けていく形の経済外交というのは恐らくAPECがほとんど初めでありまして、それ以降そういうことが出てきたんだと思いますが、特にやっぱりAPECFTAの大きな違いというのは、FTAの場合には、いわゆるガットWTOの規律が掛かった形で貿易自由化というところが一番コアになって形成される協定でありますから、ある意味相手国政策かなり手を突っ込んで変えさせていくという、あるいは自分の方ももちろん変わらなきゃいけないわけですけれども、そういった形のレベレッジが利いた協定になるというところが大きな違いだと思います。APECの場合は基本的には自主的な動きの中でやっていきましょうということですけれども、それよりもかなり強制力が、ある意味で強い形のものを進めていくということだと思います。  霞が関の方では、外務省の「日本FTA戦略」というドキュメントがおととし出ておりますけれども、何らかの形で、特に経済的な動機が先行する形ですけれども、戦略的な取組を明示的に意図しようという動きははっきりと見れるということだと思います。  複数省庁を巻き込んだ交渉、検討になっているというのは、これも御承知のとおりだと思いますが、基本的には四省庁ですね。外務省、財務省、経済産業省、農林水産省、それからトピックによってはその他の省庁も加わっておりますけれども、その四省庁人たちが出ていって交渉をしているという形になっている。  交渉仕方そのものはほかの国と必ずしも同じでないかもしれません。首相官邸等のところで非常に強いグループがある国であれば、そこが代表してすべて交渉をするという形も可能かもしれませんが、日本の場合には、どちらかというとそれがなかなか難しい。そうすると、複数省庁が出ていってやるというのは、ある意味では次善の策ではあると。だから、外国から見ると、コチェアマンがたくさんいて、何か、だれと話ししているんだかよく分からなくて変だなというふうな声もありますが、一方で、交渉の途中の段階でも、非常にある意味、いろんな本省の方ですとか、あるいはいろんな利益団体との根回しも進んだ形で交渉ができるということですから、ある意味では次善の策としてはやむを得ないのではないかというふうに私は思っておりますが、全体としてはそういうふうに進んでいるということであります。  二番に参りますが、「FTAという政策ツール特徴」であります。  特に国際貿易論という私のやっている分野は、ガットWTOベースの無差別的な自由化というのが最も望ましいんだということを年来主張してきた分野であります。  そのときに、いわゆる地域主義FTAといういわゆる自由貿易地域の場合とそれから関税同盟の場合とありますが、そのときに強調されていたのは、一つ経済ブロック化のおそれ、それから貿易転換ですね。差別的なことを要するにやるわけですよね。域内だけで貿易自由化をするということですから、域内国域外国を差別していくというところがどうしてもその地域主義の中に入ってくると。そこから出てくる負の効果というものを強調するという立場がありました。  ただ、過去十年の間に、実際のその地域主義動きを見ていく中で、評価がだんだんと変わってきていると思います。  一つは、関税撤廃効果そのものを考えるだけじゃなくて、投資促進効果あるいは政策改革促進する効果と、こういったものはむしろ重要なんじゃないかという見方が強くなってきた。  それから、貿易転換ですとか経済ブロック化のおそれよりも、むしろ自由化促進する効果もかなり大きいんじゃないかと。ここも評価が変わってきた点です。  それから、地域主義相手国も、近い国の方がいいんだとか、あるいは昔からいろんな意味で似通った国、所得水準とか似通った国、それがいいんじゃないかということが以前は強調されていたけれども、今はむしろ自由化への意思を共有するんであれば、地理的に近くなくてもいいし、所得水準も違ってもいいんじゃないかというふうに変わってきたと。  負の効果というのはすべて差別的な扱いをする方から出てくるわけでありまして、ですから、マルチの自由化を同時に進めていくということも実はこれ非常に重要でありまして、WTO地域主義かということではなくて、地域主義を進めると同時にやっぱりWTOもやっていかなければいけないというところは強調しておきたいと思います。  FTAの利点ですけれども、特に自由化促進するという視点から見ると、スピードスコープシークエンシングという書き方を、ちょっと片仮名で恐縮ですが、させていただきましたが。  スピードというのは、FTAを結ぼうと思った国同士合意さえすれば幾らでも早く作れると。それで、これはガットWTOベース交渉とは随分違いますと。  それから、スコープについても、WTOでまた新しい新分野を取り入れていくというのは、これ大変なエネルギーが要るわけですけれども、FTAに関して言いますと、当事国同士がやりたいと思ったことであれば、WTOの、WTO違反にならない限りは何でも取り込んでいけると。  それから、シークエンシングと書きました。これは、特に自由貿易地域関税同盟自由貿易地域の方に当てはまる話ですけれども、既にどこかの国と自由貿易地域形成していても、また第三国と自由貿易地域形成するときに、元々の協定には何も変更を加える必要がないと。つまり、やりやすい国からどんどん五月雨式に作っていくということが可能になっていると。ここもFTAの大きな特徴です。  自由貿易地域関税同盟の違いについてその次に書いてありますが、では、自由貿易地域FTAというのは自由貿易地域協定のことをFTAと言っているわけですが、FTAネットワークになってきても、二国間FTAネットワークになっても、これは自動的に多国間FTAになるわけではありません。つまり、域外国に対する関税率というのは国によって異なっているわけですから、常にどこか関税率が低い国から迂回して入ってくるものを防がなければいけない。つまり、そこから原産地規則という問題が出てくるわけですけれども、そういうものを付けなきゃいけないということになります。ですから、二国間FTAネットワークになっても自動的には多国間ネットワークにはならないわけで、いつまでたっても原産地証明というものが付いて回るということになります。  ここが関税同盟とは違うところでありまして、EUに皆さん行かれますと、実際に国境というのは物理的になくなっていますよね。つまり、物がもう国境で何もチェックする必要はないという形で自由に動くということになっているわけです。これは関税がゼロだということだけじゃなくて、そもそも原産地をチェックする必要が基本的にないわけですね。一回外側の壁を入ってくれば、もうその後はチェックしなくていい、これが関税同盟メリットということになります。  これ、ただ、関税同盟というのは当然作るためには物すごく大きな政治的エネルギーが要るわけで、FTAというのは、だからそういう手間は省けると。シークエンシングということが自由に使えるということもメリットだと。その代わり、原産地規則の話がいつまでたっても付きまとう可能性がある、危険性があると、そういうことになります。  ただ、ラテンアメリカやヨーロッパの場合と東アジアの場合で恐らく原産地証明原産地規則のその意味というのは多分違ってくるだろうと。ちょっと先取りしてここに書いてありますが。  ラテンアメリカの場合には、実際にはメキシコアメリカの間を除きますと、国と国の間、ラテンアメリカ諸国同士貿易というのは非常に小さいです。特に、東アジアみたいな機械産業での工程間分業みたいなものは事実上ほとんどないと言っていい状態ですね。そこに加えて、かなり複雑な原産地規則を作って、保護したい品目としたくない品目の間で原産地規則の厳しさをいろいろ変えたり、制度も複雑にしたりということをかなり意図的にやっています。  メキシコFTAに関してはそういうスタディーもあるんですが、非常に難しいことをやっていると。そういうことをやらないで、なるべくシンプルなものを作っていくということができればかなりそういうおそれは低くなると思いますし、それからもう一つは、ガット譲許税率という書き方をしましたが、いわゆるガットWTOベースで約束している一番高くできる税率、これがメキシコ等の場合には非常に高く設定されています。特に主要な製造業品について四〇%、六〇%、八〇%というふうな譲許税率が設定されています。  アジアの場合には、中国タイを除きますと、かなりもう譲許税率が低いです。譲許税率が低いということは域内関税域外関税との間の差が大きくはできないということでありますから、その分だけ要するに差別性というものは相対的に小さいと。そうすると、原産地規則重要性というのも相対的に小さいということになるので、アメリカ等の学者がいつもスパゲッティ・ボウル・フェノメノンとかと言っていますけれども、言っているような状況というのは東アジアでは起こさないでやれる可能性もあるんじゃないかというふうに考えています。  二ページ目の下の方から参りますが、「三、東アジア経済の特質とFTA」ということですが、「国際的生産流通ネットワーク発達」という書き方をしましたが、これは東アジアの過去十年間のこういうネットワーク発達というのは非常に目覚ましいものがあります。  そういうネットワークというのはいろんなところにあるじゃないかということもよく言われたりもするんですが、実はそのデータを見てみると、ラテンアメリカ、特にアメリカメキシコの間にはかなりそういうものがあります。それから、東欧でもドイツとチェコ、ドイツとハンガリーの間にはある程度あるんですけれども、東アジアのように貿易の非常に大きな部分がもう機械製品になっている。それから、しかもその機械製品の中でも機械の部品とか中間財になっている。それが各国経済の中で非常に大きなウエートを占めている。  それで、そのネットワークというのがいろんな国にまたがって展開されている。さらに、その中での取引というのが、企業内の取引だけじゃなくて企業間の取引、しかも、それも日系企業だけではなくていろんな国籍の企業の間の取引を含める、含むという、そういうふうな形で展開されていると。そういう意味東アジアネットワークというのは非常に発達しているものだというふうに考えています。これにつきましては、資料集の方に私のちょっと長めの論文がありますので、もし御興味があれば後でごらんいただければと思います。  その含意というのは、東アジア途上国側からの立場からいいますと、レジュメ三ページ目ですけれども、一つは、輸入代替型の産業というのをまだ彼らは抱えていまして、これは外資を導入しているケースもたくさんあるわけですが、具体的には自動車とか家電とか、国によっては石油化学鉄鋼等も含みますけれども、こういったところはまだ保護に守られた形で国内市場を対象とした輸入代替をやっているところですね。こういったところはやはり効率が非常に悪いので、ゴールを決めてだんだんこれは自由化をしていかなきゃいけないと。ここは関税撤廃というのが非常に大きなものになっていきます。  もう一つは、輸出志向型とかあるいはグローバルネットワーク型の産業のための政策支援ということで、ここでは関税撤廃そのものだけじゃなくて、その他のいろんなサービス・リンク・コストの削減とか、あるいはその集積の形成のための政策環境作りというのが重要になってくるということだと思います。  先進国途上国FTAを作るときに、途上国側に一体どんなインセンティブがあるんだろうかと。日本の場合にも、ほかの国から日本FTAをやりたいやりたいというオファーがたくさん来るわけですけれども、どうしてそういうことが起きているのかということですけれども、途上国側からのインセンティブで一番大きなものはやっぱり直接投資促進効果、既に入っている企業あるいは外資系企業あるいはこれからもっと来てもらえる企業、こういったものを誘致したいというのはやっぱり決定的に大きなポイントだと思います。  かつては、やっぱり先進国市場へのアクセスですね、先進国に対して輸出を伸ばしたいと、これが非常に大きかったわけですが、先進国側ももうそれほど貿易障壁が残っているわけじゃありません。農産品の一部とか繊維、衣料なんかにはもちろん残っていますが、それ以外の分野ではかなりもう自由化が進んでいますので、FTAを結んだから途上国先進国にたくさん輸出ができるようになるというわけでは必ずしもないわけですね。  一番大きな動機は、自分の国に直接投資が来てもらいたい、あるいはもう既に入っている外資系企業にしてみれば、そこにとにかく居続けて活動してもらいたいと、これがやっぱり決定的に大きなものだと思います。特にASEAN中国のバランスということでいうと、中国の立地の優位性というのは高まってきているわけですね。その中でASEANというのは何か頑張ったことをしないと直接投資を引き付け続けることが難しいんだと。やっぱりそこがタイFTAに非常に積極的になっている一つの大きな理由ですし、ほかのマレーシアとかフィリピンとかインドネシアも、タイがやるならやらなきゃいけないなというのは、当然タイに負けないぐらい直接投資を呼んでこなきゃいけないと、ここがやっぱり決定的に大きなものだと思います。  ただ、途上国側としては、じゃそのために何をしなきゃいけないかというアイデアは非常に乏しいわけでありまして、関税は大変だけれども撤廃しなきゃいけないなと、これは分かるんですけれども、それ以外には何をしなきゃいけないのか必ずしもよく分かっていないと。そういうところはやはり日本の方から積極的に働き掛けて、何をしたら直接投資というのはもっと来る可能性があるのであって、もっと投資環境を良くするために何をしなきゃいけないのかということを具体的にやっぱり提案していくということが重要だと思います。  レジュメ四ページ目ですけれども、東アジアにおいては日本は経済統合を進めていく上での主導権をしっかり握っていくということが大変大事だと思いますし、実際可能であるというふうに考えています。  経済外交重要性についてはもう皆さん御承知のとおりですけれども、経済的な意味での相対的な国力低下というのは、これはもういかんともし難いものでありまして、逆に言うと、アジアのほかの国が豊かになっていくということですから、それそのものはそんなに悪いことじゃないかもしれない。ただ、東アジアにおける相対的な地位の低下というのはやっぱりどこかで下げ止まらなきゃいけないわけで、そのために経済外交というのは決定的に重要じゃないかと。  FTAというのもそのための一つの道具でありまして、FTAをやったからすべていろんなことができるわけではありませんけれども、ですけれども、日本がどんなふうなFTAを作っていくのかというのはやっぱり非常に重要で、それが東アジアでの経済統合一つの枠組み作りの第一歩になるということだと思います。質の高いものを作っていくということをやっていくと、中国ASEANFTAなんてそんなに質の高いものはできないわけですね、実際問題としては。特にガット二十四条の規律も途上国同士ということで掛かりませんし、したがって関税も実質上のすべての貿易を自由にするという規律も実は掛からないと。それから、物の貿易以外の要素についてはやっぱり中・ASEANではほとんど多分入ってこないということですから、日本東アジアで作っているFTAというのはそのプロトタイプとしても非常に重要だということだと思うんですね。  質の高いものというのは二つの要素があると思うんですが、一つは規律の高さということで、自由化の度合いが高いということですね。自由化例外品目をなるべく少なく、それから原産地規則をなるべく緩く透明に設定するということだと思います。当然これは農業もその中に入ってくるということだと思います。  第二の要素は、カバーする範囲のトピックの広さということで、ここは特にアジアのダイナミズムを生かしていくために、関税撤廃だけではなくてほかの要素をいろいろ入れていかなきゃいけないということで、盛り込まれるべき内容と書きましたけれども、関税撤廃に加えて貿易投資自由化、円滑化、それから制度構築、それからいろんな意味での紛争解決方式の確立ですね。これはWTOベースの国家対国家というふうな大きな紛争解決じゃなくて、もっと民間と政府の間の細かいものなんか、問題等も解決するようなそういうふうなシステム、それから経済・技術協力と、こういったものが東アジアとのFTAには盛り込まれていくべきだと思います。  それから、ASEANの後発国の場合にはやっぱりいろんな配慮が必要で、最終ゴールは高く広く設定する必要があるでしょうけれども、タイムスケジュールはやっぱりゆったりと設定してあげる必要があると思います。  そろそろもう二十分たっておりますが、最後のページだけ、済みません、簡単にお話ししますが、五ページですけれども、日本の農業部門につきましては、皆さんもいろんなお立場の方がいらっしゃると思いますが、特にFTAとの関係で申し上げますと、一つは、農水省のスタンスというのがFTAを始めた最初のころとは随分変わってきたということをまず申し上げたいと思います。  シンガポールとの交渉の中では、始まるときにはとにかくもう一切譲歩、自由化はしないんだと、そういう条件であればまあ一緒に付き合ってあげましょうというところからスタートして、実質的な譲歩、自由化は一切しないという立場シンガポールとのFTAはできてきたということです。しかし大変、最近はFTA締結というのが日本の国益、まあ国益もいろんな定義があると思いますが、国益にかなうものであるというふうに考えるんであれば、農業部門も原則的にFTA締結については支持をしますよというふうに立場は変わってきていると思います。ですから、FTA交渉、検討にも積極的に関与していきますよというところまでははっきりと変わってきているということだと思います。  ガットWTOルールをやはり日本の場合にはきちんと守っていくということが一つ重要だと思うんですけれども、そこで特に引っ掛かってくるのは、ここの実質上のすべての貿易について十年以内に完全に自由化をしなければいけないという規律が掛かっているわけですけれども、これもいろんな解釈があって、通常の解釈と申し上げたのは、これはEUが採用している解釈でありまして、これをやれば日本は一切非難されないで済むかどうかというのはまたちょっと別問題でありますが、取りあえず、これですと貿易量の九〇%以上について完全に自由化をしますと、それから特定分野、例えば農業を一括して自由化例外としないということがその解釈として言われております。  実際の品目FTA交渉している国同士でチェックしてみますと、メキシコの場合には、メキシコから輸入しているものの大体二三%ぐらいですか、が農林水産品で、そのうちの半分が豚肉であると、こんなふうなことになっているということですね。ですから、九〇%を仮にクリアしようと思うと、その中のどこかをやらなきゃいけないということになるんだと思います。ただ、東アジアの国の場合にはタイが、タイは非常にこういう農産品の比率がやっぱり二〇%近くだったと思いますし、かなり高くて、いろいろ頑張らないといけないということだと思いますが、ほかの国、韓国マレーシアフィリピン、それからインドネシアもそうですけれども、それらの国については農林水産品の輸入に対する比率というのは一〇%そこそこか、あるいは一〇%切っている国もあります。そのくらいになっています。ということですから、もちろんほかの製造業品等が完全に全部自由化になるという前提で話をした場合には、九〇%ルールをクリアするのはそれほど厳しくないという状況になっているかなというふうには思います。  ただ、そのFTA交渉における農業交渉というのを見るときには三つチェックポイントがあると思うんです。  一つは、今申し上げたようなガットWTO規律をクリアできるかどうかと。これはもちろん重要なことですけれども、最低限しなきゃいけないことですが、メキシコとの交渉で分かってきたのは、どうもそれだけじゃ十分じゃないかもしれないと。  二番目が、交渉相手国が満足するかどうか、あるいはほかの分野が、交渉に当たってほかの分野が不利な状況に置かれないかどうかということもやっぱり非常に重要な要素になってきていると思います。メキシコとの交渉でやっぱり大変だったのは、WTO交渉と同じような交渉スタンスで入ったものですから、譲歩をちょっとずつちびちび出していくという形の交渉をしたと、それがメキシコ側を非常にいら立たせたということも一つはあったと思います。ですから、もう少し自由化できるところとできないところを最初からはっきり分けて交渉するという、あるいは日本自由化をするんだよという態度をやっぱりはっきり最初から出していくというのが交渉スタンスとしては重要なんじゃないかと思います。  それから三番目は、日本の農業部門の改革につながるかどうかと。これは、ですからFTAを契機にしてそういうことをやろうという気がどのくらいあるかということに懸かってくるわけでありまして、FTAで引っ掛かってきている農産物というのは必ずしもメジャーグレインではありません。ですから、日本で一番難しいのは米ですとか麦ですとか砂糖ですとか、そういった非常に主な主要農産品、そういうものは必ずしもFTAでは全部引っ掛かってくるものではありません。ですから、そういうことをFTAを契機にどこまでやろうという気があるのかということも問題になってくると思います。  人の移動についても、御承知のとおり、フィリピンあるいはタイの場合には話が出ていますが、この二番と三番の議論はほぼ同じようなことが当てはまるんではないかと思います。  ですから、WTO農業交渉というのは引き続き恐らく重要で、特に日本農産品の改革ということは重要だということになるんだと思います。  時間を少々オーバーして大変失礼いたしましたが、以上であります。  ありがとうございました。
  8. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、伊藤参考人から御意見をお述べいただきます。伊藤参考人
  9. 伊藤隆敏

    参考人伊藤隆敏君) 東京大学の伊藤隆敏です。  私も、FTAの進展、それからそれが日本にもたらす影響ということについてお話ししたいと思います。木村参考人の方からFTAの基本的なお話でありますとか日本のスタンスということで既にお話がありましたので、なるべく重複を避けてお話ししたいというふうに思います。  まず、日本を取り巻く経済環境の変化というものに目覚ましいものがあったということは皆さんよく御存じのことだと思います。FTAが世界じゅうに広まったと、これは木村さんがおっしゃったことですが。それから、WTOが発足したんだけれども新ラウンドがなかなか進展しない、それからアジアの中で域内協力が進展してきた、それから中国が非常に大きな経済パワーとして出てきたと、この辺り日本を取り巻く経済環境の大きな変化を考える上でのポイントになるかと思います。  アジアにおける域内協力の進展ということでありますが、一つは、これは自然な流れというものがありまして、域内貿易比率、域内貿易比率ですね、域内のお互いの国同士輸出入する比率というのが非常に高まってきているということが挙げられます。したがって、それだけ日本にとってアジアに向かう関心というのは強くなってきた、あるいはアジアから見る日本への期待、関心というのが大きくなってきたということがあります。  それから、もう一つアジア通貨危機、一九九七年、タイインドネシア韓国にIMFが入った、この金融危機というものが非常にアジアの国にとって大きなショックだった。と同時に、そこからの回復の過程での一体感、アジアとしての一体感というものが生まれてきたということが言えると思います。  もう一つ重要なのは、そこで金融についてはかなりアジアの中で協力してやっていこうという期待感、実際の政治、行政のレベルでの協力関係というのが生まれてきたということが言えると思います。実際に、チェンマイ・イニシアチブあるいはアジア・ボンド構想という形での協力関係というのが進展しております。これは今日の話題ではないので詳しくは述べませんけれども、FTAと実は車の両輪、物と金の車の両輪として考えるべきことだと思います。  それから、中国の台頭ということでも、中国が非常にアジアに対して積極的にその協力関係を結んでいこうという立場に変わってきたということが非常に注目すべき点だと思います。  アジア通貨危機のさなかにいわゆるアジア通貨基金構想、AMF構想というのが打ち上げられまして、ところがこれがIMF、それからアメリカ、さらに中国の反対によってつぶされたという経緯があります。ところが、それに代わるものとしてチェンマイ・イニシアチブのような協力の構想が生まれたときには中国は非常にこれを積極的にサポートしております。したがって、そこでも一つその変化のシグナルが出ていると。さらに、中国からASEAN諸国に対してFTAに向けて交渉しましょうという提案を行ってきました。これによって、中国は現在のところ日本より一年先行してASEANとの交渉のプロセスを歩んでいます。さらに、木村参考人お話の中にありましたように、中国からASEANに対して農業の先行自由化について提案、それから実施ということに入っております。  したがって、日本アジアに対してのFTAあるいは自由化経済連携というものを考えていく中で、この中国との関係というのはやはり一つ押さえておくべきポイントかと思います。  次に、FTAのちょっと一般論、これは木村さんの話と若干ダブるんですけれども、をお話ししておきたいと思います。  FTAがいいか、あるいはWTOがいいのかと、いわゆる地域貿易協定がいいのか、世界レベルでの貿易協定がいいのかという点について、これは議論が分かれてきました。これは経済学者の中でも完全に意見が一致しているわけではありません。  FTAの利点としては、WTOではなかなか実現できない深い統合ができるんではないか。深いという意味は、単に関税をゼロにするだけではなくて、基準、規制、このようなものを撤廃して自由に投資ができる、あるいは企業、あるいは人の活動をもっと自由に行き来できるようにしようということが入ってきます。より深い意味では基準の統一、あるいは法制、税制の調和、ハーモナイゼーションというようなこともそこの深いというところには含められているということが言えると思います。これによって市場規模あるいは経済規模というものを拡大することができて企業活動にとって非常に有利になる、あるいは消費者にとって便益のあることが実現することができるということであります。  それから次に、利点、もう一つの利点は、交渉スピードが速い。これは、百八十二か国と交渉する必要はなくて、二か国あるいは数か国の間で交渉すればいいわけですから、これはスピードは速く交渉することができるということであります。  もう一つは、WTO自由化をしていくということに対して、その地域でいったん深い統合が実現していれば、その深い統合を結び付けることによって世界規模でも深い統合ができるんではないかという意味でのWTOのビルディングブロックになるということが言われております。  それから、もう一つFTAに向かう利点は、これは取り残された者にとっては非常に不利になるわけですから、その取り残された者にとってこれを、FTAを結ぶことによってその不利を取り戻そうという、これは防御的な理由になると思いますけれども、こういうことも考えられます。  日本メキシコの場合に、実は日本の場合、日本にとってのインセンティブというのはかなり防御的なところがありまして、メキシコが既にNAFTAアメリカと自由貿易を実現している、それからヨーロッパとは二国間のFTAを結んでいるということで、主要な二つの経済ブロックとFTAを結んで、しかもアメリカに近い生産基地になり得るということで、各国の企業が立地する中で日本企業の子会社あるいは関連会社だけが関税を払ってパーツを輸入しなくてはいけないという不利益を被っているということが言われています。これが取り残された者の不利益ということであります。  FTAの欠点、これはWTO、いかにWTOの方を重視した方がいいかという点でありますが、これは木村参考人も触れられた点なので省略させていただきます。  次に、国益から考えたFTAという点についてお話ししたいと思います。  国益というのは何かということで、これは議論があるところですけれども、日本にとっての産業全体、国全体としての生産あるいは利益、それから消費者としての効用の高まり、安い物をたくさん買えるという意味で国益というものを考えてみたいと思います。非常に狭い意味の経済的な国益というふうに考えてみたいと思います。  国益を増進すると、国益を高めるというのは経済外交、対外経済政策の基本であると思います。そうしますと、利益の方が、利益を得る産業、あるいは利益を得る消費者、企業が不利益を被る、FTAを結ぶことによって不利益を被る産業セクターあるいは企業、人よりも金額において勝るならば、このようなFTA、あるいはWTOでもいいんですけれども、こういう経済、対外経済の戦略の中で、そういった利益が不利益を上回るようなものについては推進すべきであるということがまず第一点押さえるべきことであると思います。  例えばメキシコの場合に、先ほど言いましたように、日本企業が非常に不利益を被っているということで、日本からメキシコへの製造業品の、例えば自動車も含めて、あるいは自動車のパーツも含めて製造業品メキシコへの輸出が停滞している、メキシコにおける日本製品のシェアがアメリカやヨーロッパよりも低くなってきたという事実があります。これはもちろんいろんな要因があると思いますけれども、日本企業関税を払って輸出しなくてはいけないという点、ヨーロッパやアメリカ企業に比べて差別されているという点があると思われます。  これが何千億円になるかという試算は非常に難しいんですけれども、恐らくEUが、EU自由貿易協定するまでのトレンドの伸びをそのまま伸ばしたとしまして、今停滞している部分との差額が恐らく四千億円を超えると言われています。これは貿易額、輸出額だけですね。それを川上の産業とかありますから、国内でそれを生産しているその下請とか関連会社の雇用でありますとか生産まで含めて、国内でどれくらい損失が出ているかというと、恐らく五千億円から六千億円、それを超えるかもしれないというふうに言われております。これがメキシコFTAを結ばなかった、結んでいない、まだ結んでいないことによる不利益ということであります。  これに対して、メキシコFTAを結ぶことによって出るであろう不利益というものはどれくらいかということでありますが、これも非常にもちろん算出は難しいんですが、先ほど木村参考人から出た豚肉、もしこれを自由化したとしたらどれくらい国産の豚肉の業者が困るだろうか。  それから、最後に交渉決裂に至ったところでオレンジジュースという話が出ておりましたが、オレンジジュースをメキシコに対して無税枠を非常に大きくすることによって日本の、日本にはほとんどオレンジジュースのメーカーというのはありませんから、これはミカンの産地が困るだろうと言われているんですけれども、そこにどれくらいの被害が出るか、これも非常に難しい算定だと思いますが、恐らく六千億円はないだろうと、四千億円あるかないかというところだというふうに言われております。したがいまして、これは明らかに利益の方が大きい。  それで、もう一つ言いたい。もう一つは、不利益と言われていることも、これは消費者にとっては利益かもしれない。したがって、物を作っている産地にとっては、ある特定の地域のある特定の産地にとっては不利益かもしれないけれども、消費者全体にとってはいいことなわけですから、国全体で見ると、ひょっとしたらそこも四千億円よりもっともっと小さな額かもしれないということです。そうすると、単純な算術でメキシコとのFTAはやるべきだという結論になると思います。  もちろん、そんなに単純ではないということはよく承知しておりますが、実際にそのFTA交渉あるいは対外的な経済戦略を立てる場合に、こういった国内問題をいかに乗り越えるのかというところが非常に重要な点になってくるということをこの例は示していると思います。  もう少し、もう一歩進めて言えば、その利益の出る産業から不利益の出る産業に対してある程度の所得補償といったような形での所得移転を時限で、時間に限りを付けて行うといったような国内措置というものも検討に値するんではないかと。あるいは、先ほど木村参考人の話にも出た十年という猶予を付けることができるわけですから、そういう経過措置あるいは激変緩和措置といったものも十分考えられるわけで、対外経済戦略を推し進めるのをサポートすると、国内の措置でサポートするという体制を是非構築することが必要だと思います。  それから、これは国内の話でありますが、相手のある交渉ですから、相手にどういうメリットがあるのかということであります。あるいは日本にどういうメリットがあるのかということであります。単にこれは輸出が五千億円、六千億円増えるということ以上の利益があるということをお話ししたいと思います。  通常、先進国日本のような先進国と例えばタイのような開発途上国との間のFTAについて見ますと、先進国にとっての利益の方が恐らく相手国よりも大きいだろうと言われています。一つには、単純に関税関税率で見れば、日本関税率というのはもうほぼゼロ%になっていますから、農産品以外はゼロ%になっていますから、もうこれ以上譲るものがないわけですね。一方、タイの方はまだ高関税のものがたくさんありますから、それをゼロにする。そうすると、日本からの輸出が増えると。先ほどの重商主義的な、マーカンティリズム的な考え方に立てば、タイの方がよほど国内で被害が出る可能性が高い。  したがって、通常は先進国と開発途上国FTA交渉というのは、先進国の方がやろう、やろう、やろうと言って、開発途上国の方がちょっと待ってくれと言うのが通常のパターンで、例えばアメリカメキシコの場合も大体パターンとしてはそういうパターンだったんですね。  ところが、現在はタイの方がむしろ積極的に日本にアプローチして、FTAをやりましょうと言っているんですが、日本がなかなかうんと言わなかった。これは昨年の六月にタイのタクシン首相が来たときに、タイの方からやろうと言ったのを、小泉首相がまだ機が熟していないということでいったん断って、ようやく十二月になって、これはやりましょうということになっていると。  どうしてこういうことになっているのかということでありますが、これも先ほどからお話に出ているような、日本の中の足並みがそろっていない。四省がコチェアマンで出ていると言いましたけれども、事実上、そこの調整がうまく図られていない。先ほど言った足し算で、ネットでプラスになりますねということを確認する戦略的な思考ができていないということが重要な点だと思います。この辺がタイあるいは中国の場合には非常に政治の高いレベルのところでFTAを対外経済戦略と据えて、国内措置もそこでやってしまうという体制になっているということだと思います。  それから、もう一つ先進国と開発途上国の関係で言いますと、今、そのFTA、あるいは深い統合としてのFTAですけれども、これを推し進めていくことのもう一つ日本にとってのメリットは、日本でできている法制、法制度ですね、税制あるいは基準・認証、資格、このようなものを開発途上国に広めていくと言うと言葉は悪いんですけれども、調和するようなものに変えていってもらう、改革していってもらうということが重要な点になります。  先ほど木村さんのお話にあったように、開発途上国の方が日本企業に来てもらいたい。しかし、日本企業にとっては、どうもあそこの国の法制度は信用できない、裁判に持っていっても裁判所がなかなか有利な判決をしないとか、そもそも破産法制がうまくできていないから、貸したお金が返ってこないときに、それを取り立てるのが難しいといったような問題がいろいろあるわけですが、こういうものを直してくださいと、日本企業が安心して投資できるような制度に変更してくださいということを相手国に、ことで相手国を説得するいいチャンスなんですね、FTAというのは。  したがって、深い統合を目指すFTA日本が積極的に推進していくということは、日本の基準、日本の制度、日本の税制、あるいは日本の資格、これは看護師とか介護士とか、そういう資格をアジアレベルで採用してもらうということを強力に推し進めるための一つの有力な武器になり得るということであります。そこまで戦略的にしないと、これからのアジアにおける日本のプレゼンス、あるいはその地位というのが保てないというふうに思います。  さっきガット二十四条の問題というのは木村さんが詳しくお話しになったんで私からは触れませんが、私も全く同じ意見で、その米、米は多分かなり時間が掛かる。例外品目にしなくてはいけないわけですが、そこを除けば、かなりの部分、その九五%カバレッジで日本はいけるんではないかというふうに思っています。それほど心配する、汚い、いわゆる汚いFTAになる心配はない。  これは、アメリカやヨーロッパの人と話をしていると、どうせ日本はできないだろう、きれいなFTAはできないだろう、農業製品なんというのはみんな例外にしようとしているに違いないと思っているんですね。だから、そこをきちんと反論して、アジアでこれだけすばらしいFTAができているんだということを言うためには是非そこをアピールしていかなくてはいけなくて、私の計算では、米はしようがない、米は例外。しかし、それ以外は自由化しましょう、十年掛けて自由化しましょう、その間国内措置をきちんとやりましょうということで十分いけるのではないかというふうに思っています。  ちょっと脱線しますけれども、アメリカだってヨーロッパだってそんなに完全にきれいなFTAを、いや、関税同盟ですね、やっているわけじゃないんですね。砂糖の問題であるとかバナナの問題であるとか、いろいろアメリカやヨーロッパにもアキレス腱はあるわけで、その一つ品目ぐらいはいいじゃないかということは世界で通用することなわけですが、農業全部外してくれと、これはもう全然通りません。したがって、そういう意味では、できるだけ限られた品目だけは守るけれども、それで、限られた品目といってもそれは米だけだと思うんですね、長期的には。あとは多分十年掛けて改革をして、その間の調整コストをなるべく低くする方法を考えるという方に注力した方が私は生産的だというふうに思います。  アジアの中での日本のポジショニングということ、これは木村さんも先ほどおっしゃいましたけれども、FTAを積極的にアジアで進めていくということの利益と、それからそのスピードですね、積極的にスピーディーにやっていくということの利益と、そうしない、だらだらだらだら、嫌々、遅々として進まないといった形で交渉を進めていくということの不利益、これを十分に認識する必要があると思います。  先ほど言いましたように、ここは先行する利益というものが非常に大きい。日本企業は安心して活動できる、あるいは日本との行き来が非常に自由になるといったことで、日本企業あるいは日本の消費者の厚生が、利益が向上するということを十分に認識する必要があると思います。  それから、自由貿易にすると仕事や企業が逃げていく、空洞化するんじゃないかという心配をする人がいますけれども、これは私は逆だと思いますね。中国なんかは非常にまだ高い関税があるわけですから、あるいはタイも非常に高い関税があるわけですから、本来は日本で作って輸出した方がいいものを、中国で作って中国の国内で販売しようとしているということで、その高い関税がある場合に、むしろまだ出る時期じゃないのにわざわざ中国に進出している、あるいはタイに進出して工場を造ってしまうということがある。そうすると、それは正に空洞化で仕事が海外に行ってしまうということになります。したがって、相手の国の関税を下げさせるということは、仕事を日本の国内に守ることができるということを十分に考える必要があると思います。  それから、乗り遅れることの利益というのは、私は非常に大きな心配があると思っております。一つは、中国アジアをまとめてしまう危険性であります。  先ほど言いましたように、ASEANに対して中国は非常に早い時期でアプローチをしまして、日本よりも一つ、一年早いサイクルで交渉に向けての合意、それから実際に交渉を開始といった、それから目標年次も日本よりも一年早く設定しております。  中国経済が非常に高い成長率を示しておりますので、アジアの国にとっても非常に中国というのは魅力的な市場なんですね。もちろん、日本からの投資の方が額は非常に大きいし、日本への輸出額の方が大きいんですが、伸び率だけ見ると中国の方が非常に伸びているということで、非常に中国との関係を重視しようという雰囲気が出てきている。したがって、その残高あるいは金額ではなくて伸び率を見ているということであります。  例えば、これも若干脱線するんですけれども、韓国と今日本FTAをやろうとしているわけですけれども、韓国に行って向こうの政策担当者と話をしていると、いや、日本とのFTAをやりたいんだけれども中国がいろいろささやいてきますと。中国から言われるのは、日本とは、韓国はですね、韓国から見て日本に対して貿易赤字でしょう。韓国中国の関係は、韓国中国に対して貿易黒字でしょう。よく考えてごらんなさいと、韓国韓国日本FTAをやるのと我々中国FTAをやるのとどっちがいいと思うんですかというような形でささやかれると。  そうすると、あ、そうか、日本FTAをやると赤字が増えちゃうのかというふうに単純に思ってしまうという状況もありまして、やはり日本にとっては、韓国あるいはアジアの国とFTAをやる場合に、物を買いますよ、サービスを買いますよ、人にも来てもらいますというようなことを積極的にアピールできる、それを歓迎するようなムードが出てこないとなかなか説得がしづらいのかなと、そういう時代にもう既になってしまっているということを十分に認識する必要があると思います。したがって、スピードが非常に大切だというふうに思います。  それから、もう一つ危険性は、アメリカアジアをまとめてしまうという可能性すらあるということですね。  アメリカは既にシンガポールとの間にFTAを結んでいます。それからタイとの間でも交渉を開始すると言っています。それからオーストラリアとは交渉しています。それからASEANとの間でもFTAに向けての交渉をしましょうということになっています。したがって、アメリカも戦略は転換して、どんどん自分と二国間のFTAを結んでいこうという方針になってきていますので、アメリカ日本に先行してアジアの中のFTAネットワークを広げてしまうという危険性も、まあ危険と言うと怒られるかもしれませんけれども、そういう可能性も否定できない。  先ほどメキシコの例で言いましたように、そういうFTAネットワークあるいはブロックが広がる中で取り残されるという危険性。取り残されるということは、日本企業が高い関税を、ほかのアメリカ中国やあるいはヨーロッパの企業に比べて高い関税を払わなくてはいけない、あるいは活動も制限される、あるいは日本の基準が通用しないといったようなことが起きかねないということですので、これは十分に考えなくてはいけないことだと思います。  最後にもう一度FTAに対する反対論というものを考えてみたいんですが、よく言われるのは、食糧安全保障あるいは農業の多面的な機能というものを維持するために農産品自由化できないという議論であります。  食糧の安全保障について言いますと、食糧だけの安全保障というものはあり得るのかということをまず考えていただきたいと思います。これはもう、原油についても安全保障ですし、あるいは軍事的なものでも安全保障ですし、輸入が止まるような事態というもの、輸出国の事情によって輸入が止まってしまうといったような事態が果たして想定できるのか。そのときにはもう原油も止まっちゃうんじゃないか、あるいはほかにも不利益が生じるんじゃないかということで、食糧だけ自給していれば安全なのかというと、そうではないんじゃないかというふうに思います。むしろ、輸入先を分散する、もし本当に安全保障というのを考えるのであれば、輸入先を分散すると。  牛肉についても、例えば牛肉についてもアメリカとオーストラリアと両方から入っているから、アメリカが止まってもオーストラリアからかなり輸入できるといったような形で分散して、常に幾つかの国から輸入しているということがいわゆる食糧安全保障につながるというふうに思います。  それから、今はアメリカ産の牛肉が危ないということになっていますが、つい数年前は、日本で狂牛病が出たときには国産の牛肉が危ないということで、輸入品、輸入品というふうに消費者が言ったわけで、必ずしも自国だけで生産していればそれで安全かというと、そういうものではない。もちろん、その安全基準というのは非常に厳しく保って自国製品も外国製品も同様に扱うということが必要なわけですけれども、自国製品、自給するのが安全保障というのは間違いだと思います。  それからもう一つは、農業保護がかえって農業の競争力をなくしている面があると思います。  これは、例えば牛肉の場合も非常な貿易摩擦の中で部分的に自由化されまして、まだ関税も非常に高いんですけれども、その中で出てきた日本の牛肉農家の対応というのはブランドネームを高めましょうと、ブランドネームの力を高めましょうということで、いわゆる有名なブランド、神戸牛でありますとか松阪牛というものの値段というのはむしろ昔よりも高くなった、高く売れるようになってきているということであります。  したがって、豚肉においても同様のブランドの威力というものを高めていくという努力を促進するのが自由化であるというふうに位置付けることができるんではないかというふうに思います。  農業を守る、あるいは農家を守るといったことはある程度は必要なことだというふうに私も認識しておりまして、これはしかし関税によって守るというのが一番効率的な守り方ではないんですね。したがって、もし農家の所得を守るというんであれば、これはもちろんいろんな制度を考えなくてはいけませんけれども、所得補償に移行すべきですし、農業を守るというんであれば、これは大規模農業に行くしかないんですね。効率性を高めるしかない。したがって、業界としての農業を守るんであれば大規模化、このためには農家の戸数は減るしかない。そういった戦略的な農業の転換というものが必要で、これは農水省もそういった方向に既に考え方は変わっていると私は理解しておりますが、これを是非政治の方からも推し進めていただきたいというふうに思います。  時間も経過しておりますので、最後に、こういったFTAの戦略というものを立てる場合に必要なのが、あるいは日本にとって現在欠けているのがやはり司令塔の不在ということだと思います。  木村さんもおっしゃったように、四省、四人、こちら、FTA交渉をする場合に、日本側は四人座っていて相手は一人なんですね。それで交渉をしようということがそもそも無理でありまして、相手の前で内輪げんかをしているといったような状況になっていると。交渉に臨む前に既に国内では調整をしていかなきゃいけないんですね。そういうことになって、そういう体制を是非作らなくてはいけない。  一つには、いわゆる日本版USTRと、トレード・レプリゼンタティブという制度を作ったらどうかという提案も出ていると聞いていますが、どのような制度にUSTRというものを作るのか、あるいは官邸の中に対外経済戦略担当官といったものを置くのか分かりませんが、とにかく調整、国内の調整、あるいは四省の意見、利害が対立したときに、それの上から、じゃ、こっちからこっちに所得補償を少しして、国としてはこれをやりましょうといったことを言える人、あるいは制度というものが絶対に必要だと思います。  こうしないとスピードを持って交渉できない、それで取り残される危険というものが非常に大きくなっていくということで、その中で国内の農業政策の転換といったことを行っていくということが必要だと思います。重要なのはスピードであり、今はチャンスだと、今がチャンス。そのチャンスを生かさないと乗り遅れるといった非常にクリティカルなところに来ているというふうに私は考えています。  私からは以上です。  どうもありがとうございました。
  10. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、大貫参考人から御意見をお述べいただきます。大貫参考人
  11. 大貫義昭

    参考人大貫義昭君) 大貫でございます。  今日は、国際問題調査会にお招きいただきまして大変有り難く、光栄に思っております。  私自身は、既に御案内されておりますが、一介のビジネスマンでございまして、三井物産に四十数年働きまして、今や顧問ということでおりますけれども、NPOなどという非常に社会貢献的な格好いい仕事に励んでおります。  たまたまいろいろ過去の仕事の関係もございまして、というのは昔ソウル支店長などもやりましたものですから、いろいろ日韓の貿易の問題、投資の問題等にも絡まってまいりました。また、EUが発足、いわゆるユーロがスタートした時期にヨーロッパの欧州物産の社長などもやっておりましたので、ユーロ等の動向などについても非常に興味がありますので、そんな関係から経団連の日韓産業協力検討会、こんなところの座長をやれとか、あるいは政府の方から日韓FTA交渉についての共同勉強会、これの民間側の委員をやれというようなことで、この二、三年、能力を省みずやってまいったわけです。  そんな関係から今日のような会議にお招きいただいたわけでございますが、既に両先生から自由貿易協定の理念とかその在り方、あるいは現状、これは相当細かくお話がしてございますので、私のこのレジュメの中にも一応前半に地域貿易協定への動きとかそういったものを書いてございますが、その辺はもうはしょりまして、私が実際に日韓の交渉あるいは霞が関の皆さんとの交渉、そういったものをやっている中で個人的に考えたことを御参考になれば先生方にお話しして、多少は価値のあるお話をできればと、こう思っております。  レジュメの方は二部にわたって書いておりますが、第一部が経済統合現状概観ということ、それから第二部が我が国のアジアとのFTAにおける経営者、いわゆる企業経営者としての考え方ということに分かれております。  私、お断りしておきますが、私自身は今日は全く個人的な資格で個人のキャパシティーにおいてお話し申し上げておりますので、関連会社あるいは関連団体等との事前の打合せは全くなしに私の責任においてお話を申し上げますので、相当間違った点が出ても私の責任ということで御了解をいただきたいと、こう思います。  まず、第一部の経済統合現状概観でございますが、これは既にFTAというものが二百五十五件も世界じゅうで成立しておりまして、そのうち百三十件ぐらいが最近この十年間、言ってみればWTOがスタートした後に結ばれてきているというのが事実でございます。特に活発なのは、大きさからいってもEUあるいはNAFTAというのが出てくるわけですが、私がロンドンに四年ぐらい前までおりましたときにちょうどユーロがスタートする、もう大変なエキサイティングな場面でございまして、私も欧州三井物産をいかように経営するか、中東からあるいは東欧、その辺をどうするか、いろいろうれしい悩みを抱きました。当時、取締役会で、ユーロというのはそのうちナホトカまで来るからと、ナホトカかサハリンでもユーロが通じるようになるよというような冗談を言いまして、財務の担当役員にちゃんとユーロの買い持ちをしておきなさいと、必ず将来はもうかるからというようなお話をしたんですが、そのとおりやっておれば、今は大変会社もハッピーになっておるんじゃないかなと、やっておることを期待しておるわけでございます。  そんな状況で、EUの今度、東欧十か国がまた参加しまして、大変大きな組織になるわけでございます。これは両先生もお話しになっていましたが、そういう世界の動きの中でアジアがぽかっと真空地帯にあったということは事実だと思います。我々も会社の経営戦略として、アジアアジア三井物産を私は作ろうかなというようなことを十数年前から考えておったんですが、意外に国ごとの特色が強く出ていまして、それぞれをうまく統括して欧州三井物産というものを作るのが非常に難しかったんですね。私は業務本部長をやっていまして、ちょっとそれは結局成就しなかったわけですが、言ってみれば、要するにアジアの諸国は非常にこう特色が分かれていまして、同じ尺度でもって酌み取れないという点があったわけです。ただ、皆さんも御存じのとおり、その後ASEANのいろんな結束、AFTAの登場と、そういったことから、大変世界的な交易問題に国々が目覚めてきたということは言えると思います。  その中でも、私はよく言うんですが、マハティールさんとジョージ・ソロスが香港で、これは一九九七年ですか、アジア危機の後に、マレーシアがいわゆる統制経済といいますか、そういったものをやると。それに対してジョージ・ソロス、あるいはアメリカのグローバリズムの観点からいうと、それは国の発展を阻害するからやめた方がいいよというようなことで激論が交わされたわけですが、結論的にはソーファー、マレーシアのマハティールさんに軍配が上がったような形はなっているんじゃないかと、こう思います。  そのとき、私は経営会議で、よく皆さん考えてくださいと、一体アジアの国はどんな形で行くんですかと。端的に言えば、中国流の計画経済で行くのか、それともグローバリズムで行くのか、その中間で行くのか。これによって、我々は各地にリエゾンオフィスとか現地法人を持っておるわけですが、これの税制の対応とかそういったものが変わるから、ステータス問題に絡まるわけでございますが、これについてよく考えて言ってくださいと申し上げました。でも、なかなか議論は余り沸騰しませんで、多分私の考え方が少し高邁過ぎてなかなか皆さんに通じなかったんじゃないかというような記憶がございます。  そんなことを今思っているわけですが、アジアは、結論的にはアジア危機以来、一九九七年以降は急激に世界の動きに調和した自由貿易体制を築いていこうということになったわけでございます。そんな中で、私は注目すべきことは、やはりこれは両先生もいろいろ異口同音におっしゃっていましたが、米国と中国動き、これは非常に注目に値することだと思います。  レジュメの四枚目ぐらいに、世界の貿易ネットワークというのを簡単に出しておきました。これによって分かりますのは、上段の方が二〇〇二年の世界貿易現状でございます。それから下が一九九五年でございますが、九五年とを比べますと、米国、EUあるいはASEAN等は二、三〇%の輸出入で伸びが出ています。それに対して、日本とそれからNIESですね、この両国はアジアにおける先進国ですが、これの伸びはほとんど止まっておる。東アジア全体で伸びているのは、中国が爆発的に三倍の伸びを、二倍の伸びですか、を示しておるということでございまして、これを見ましても、私ども日本としては行く道は明らかであろうと。やはり東アジアの中でリーダーシップを取りながら、世界第二位の経済力を生かしながらアジアと手を組んでいくという方向は、これはもう避けられないし、マストの道であるというふうに思います。  そういう中国動きに対しまして、米国自体も、これも両先生からお話ございましたが、シンガポールと結び、さらにいろいろとアジアに対するアプローチを、昔に比べれば強硬に進めております。私は、全くこれも私感でございますけれども、アメリカ動きというのは、これはむしろもう諸先生方の方がお詳しいわけでございますが、政治、安全保障面でいくと、国連中心主義から同盟行動主義に移っておると。この経済面では、これは私は当たっていないと思いますが、何やらWTO中心的に来たのからFTAに何か転換しているということで、非常に考え方が、よく言えばプラクティカルというか、悪く言えば手前勝手ということになるのかもしれぬですが、そんなふうな感じが取れるわけです。これは私の正に愚考するところでございますので、その辺についても先生方のお話でもお聞かせいただければ幸いかと思っております。  そんなことでアジアに中心が集まっていると。その中で日本としては、現在、韓国と正式の政府間交渉を十二月末から始めましたので、これは二年間の期限で何とかやっていきたいということでございます。私も一年半付き合いまして、やはりアジアを見ますと、FTA相手国として現在、現実問題として提携が可能なところ、提携してもそれが守り得るというパートナーは、やはりこの二つの国しかないんではないかと思っております。いずれ中国の問題も出てまいりますが、中国については、やはり法治国家として体制を整えるために、我々はやっぱり五年から十年ぐらい掛かるのではないかというふうに思っておりますし、それからその他のアジアの国、インドネシアタイマレーシアフィリピン、これも私は、その時々に私の友人あるいは後輩の各国の店長ともお話をしておりますが、なかなかFTAに一挙に行けるかどうかというのは、種々問題がまだございますですね。  一つ、一口で言えば、やはり経済のレベルというのがやっぱりそこまでまだ行っていないと。言ってみれば、ある国はやはりパーヘッドの年間所得というのが一千ドルにも満たないというようなところもあるわけですし、韓国はやっぱり一万ドル超しています。日本と組むのにはもう格好の相手である。ほかの各国というのはまだまだ所得水準も低いし、それから社会の体制というものが、なかなか自由貿易を維持するような体制になるには少し時間が掛かるかなと、こう思います。  最後のところに、ちょっとそういう非関税障壁についてお話ししようと思うんですが、結局非関税障壁というのは、要するに関税以外の障壁ですね、これが目に見えないところで相当張り巡らされておる。これがちゃんと解消できるところとはFTAも可能だと思いますけれども、なかなかいかない国があり得る。各国の人たちに話聞きますと、一つは、例えば流通の問題あるいは経済民主化の問題について、やはり昔からの利権というものがなかなか切り離せない。その利権というのは、過去は、今は大分各国民主化されてきていますので良くなっていると思いますけれども、ある意味では、例えばファミリーの統率下の利権、あるいは国々によっては華僑の勢力というのが強い。華僑の持っている利権、こういったものがやっぱり地下に張り巡らされている。これをFTAというオフィシャルな契約といいますか、条約の下でどれだけこなし得るかというのは、意外に現実問題となった場合には考えなきゃならない点であるかと私は思います。  ただ、個人的に言えば、何とかそういったことが早く解消されて、我が国と自由貿易協定を結ぶような、結び得るような国になってもらいたいというふうに私は思っております。  若干、個々の国に入って横道にそれたわけですが、レジュメを多少追いまして申し上げますと、次の第二部の、「我が国のアジアとのFTAへの企業経営者としての見方」ということに移りますが、これはマクロ面でのコメントを述べさせていただきますと、第一点は、FTAというのは通商政策の新たな柱と位置付けるためには産官学の提携とか、あるいは皆様方政治に携わる方のリーダーシップというものが必要かと思っております。  私も現実に韓国との討論に一年半参加しましたが、私が今言えますのは、やはり霞が関は非常に外務省を中心に一生懸命やっておりまして、我々も都合八回ぐらいの会議を両国でやりましたが、その準備ももう相当万端でございました。各省、これは外務省の統率の下に、経済産業省、財務省、農水省、その他都合十三省庁が関与しておりますが、日ごろ我々実際の経団連等の打合せというものを非常に綿密にやってもらいまして、私も共同研究会がスタートする前に約一年半ばかり、経団連の中で関係約三十社ですね、大手のところが多いんですが、皆さんの代表に来ていただきまして、十一回ばかりの会議をやりまして、答申案を出しております。その結果でも、日本産業界、特にやっぱり経団連は実際の、何と言っていますかね、農業関係がちょっと外れておるんですけれども、産業界としては進めるという方針の下に皆さんが結束しておりますし、よく具体的な問題についても霞が関とは打合せを進展しております。  特に、先ほど非関税障壁の問題を申し上げましたが、いろいろ議論を重ねていくと、一番の問題は非関税障壁をどうやって乗り越えるかということになるわけでございますが、その中身につきましても、もう韓国側は強力にいろんなことを言ってまいります。私の方からも三百ぐらい日本の要望を出しておりますけれども、そういったことについても霞が関はよく取り上げてくれまして、我々の出る場面を築いてもらったということが言えると思います。  それにつきましても韓国側は、どうなんでしょうか、官尊民卑的なところがあるのか、向こうも全経連とか貿易会とかいろいろあるんですけれども、ちょっと民間が政府に遠慮しがちというところがございまして、官の方が旗を振ると黙って付いていくというか、余り異論を出さない傾向がありますですね。それに対して、やはり日本は相当な民主化が進んでおるのか、我々いろんな意見が出せて幸せであったというふうに思っております。  例えば農業問題なんかも、日韓で交渉しますとなかなか微妙な問題です。ただ、この農業問題については、私の感じでは意外に韓国側は積極的であるということが言えると思います。何ですか、量的にも日本にとっても韓国にとっても農業貿易の比重というものは低いですから、多分結論において、両国とも国益を考えていけば、これは関税でも相当譲っても大丈夫であろうというふうに私は両国が踏んでいると思いますし、私も個人的にはそう思っておりますので、十年タームで漸減する方式とか、あるいは先ほど先生方もおっしゃったような所得補償の問題、いろいろかみ合わせていけば、それに一番重要なのはやはり構造改革の裏打ち、これは日本政府でもそういうふうに言っておりますが、それから農水省もそう言っております。日本は農業問題を入れてFTAを結ぶためには、構造改革が今進展しているので、それを阻害するようなFTAはやれないということははっきり言っております。ただし、一括除外ということはしないというのが、先ほど先生がおっしゃったような状況でございます。  農業問題については、私の感じとしては、どうも韓国側の方がむしろ攻撃的であると、こう思っております。私は、じゃ、工業製品については日本は二・五%、先方は八%の高値でございますが、それをゼロ同士にすれば貿易赤字が増えるだろうということで、韓国側は我々が思っている以上に心配しているのかもしれないと思います。  ただ、多分全体の流れでいきまして、FTAをやるということは私は一番のメリットというのはやっぱり資本の交流というのが第一ですから、資本の交流が起こりますと、それに技術の交流が起こると。技術の交流が起これば、当然それに見合った人の移動が起こるということで、それは結果において両国の国際競争力を増すというふうに私は産業界としては信念を持っておりますので、これがもう自由化の最大のメリットでございますので、最後は理論を突き詰めていけばそこに来ると。このまま閉じこもって世界的な発展から取り残されるよりは、これはやっていこうという結論に私はなると思っておりますし、またそうなるべきではないかというふうに思っております。  余り系統的なお話じゃないんですが、時間が迫ってまいりましたので終わりにいたしますが、非関税障壁の問題について、多分先生方はこういう具体的な問題だのなんかというのは日ごろは当たることはないと思いますけれども、我々の会議の中で、例えば先方はもう細かいところから何か言ってまいります。  我々も向こうに要求を突き付けておりますが、例えば、皆さん御存じのとおり、ノリは日本は物すごい輸入をしておりますけれども、ノリの輸入についても数量割当てはこれは非関税障壁だと、これはもっともっと拡大すべきであるというふうに言っておりますし、それから、家電は韓国も非常に強くなりましたが、家電を日本輸出しようと思うと、日本はリサイクル法なるものを作って、その回収費用というものを大分多額に取り上げていると。韓国が得意の小さな冷蔵庫の引取り賃も日本で売っている大きな冷蔵庫と同じ値段のお金を取っておると、こういうのも非関税障壁ではないかというふうな細かいことまで言われております。  それから、有名な労働法上の問題について、日本企業が向こうに行くのを少し渋りますのは、何といってもやっぱり労働慣習というものが労働者に余りにも良過ぎると。私もソウル支店長をやったときには大変な労使交渉を展開しまして、すさまじいこともございました。こういった労働法上の問題も、是非我々としてはグローバルスタンダードに戻してもらえないかということで、法律上の問題と、それから労務上のプラクティスの問題についても彼らの修正を迫ったわけですよ。退職金なんというものは相当高いものがございます。  それから、先方がよく言う非関税障壁で日本に対する問題というのは、日本産業界というのは韓国品を受け入れないようにでき上がっていると。これはその韓国品の品質が悪いからじゃないと。悪いのではなくて、いいのにそういうのを取り扱わないようにしていると。その理由は、例えばある製品の販売店が日本にあるとすると、日本のメーカーの販売、その人たち韓国品を扱うと日本のメーカーから代理店を奪われるというようなことがあるんじゃないですかと、したがって、本当は韓国の品物を扱いたいのにそれを扱わないで、日本の商社の方いるんですかと。私は韓国三井物産の社長もやっていまして、そんなことを迫られたんですが、全く私はそんなことないんですが、むしろ私はソウルへ行きますと、北朝鮮で作っているテレビまで私は、ソウル・エージェントをよこせと、日本で全部売ってやるからなんというふうに向こうのメーカーと話したぐらいなんですけれども。  なかなか、何か意地悪でやっているんじゃないかとか、日本の国民性が韓国品べっ視の考え方があるんじゃないかというようなことを言うんですね。それについては、やっぱり彼らも彼らなりのキャンペーンで努力をして韓国品の地位を上げるということで頑張ってもらわなくちゃ困るというアドバイスをしまして、例えばアフターサービスのやり方一つについても、やっぱりもっと工夫をしないと駄目ですよというようなアドバイスもしてまいりました。  そんなことで、あと経営思想の違いとかいろいろ韓国日本ではございますけれども、私は、行くところ、どうしてもやっぱり両国はそういう方向で手を結んでいくしかないと。後に続くASEAN諸国とはまた十年以内くらいに是非そういう日本はリーダーシップを持って自由貿易圏を築いていってもらいたいと、こう思っておりますので、また先生方の御支援をよろしくお願いしたいと思います。  以上でございます。
  12. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  これより質疑を行います。  本日は、あらかじめ質疑者を定めず、質疑応答を行います。  質疑を希望される方は、挙手の上、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  できるだけ多くの委員の方々が質疑を行うことができますよう、委員の一回の発言時間は五分程度でお願いをいたします。  また、質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  なお、理事会協議の結果ではございますが、まず大会派順に各会派一人一巡するよう指名をいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  それでは、まず最初に愛知治郎君。
  13. 愛知治郎

    愛知治郎君 自由民主党の愛知治郎と申します。  三参考人におかれましては、本日多忙の中、大変参考になるお話をいただきましてありがとうございます。私自身、ちょっと勉強中なので分からないことたくさんあるんですが、単純にひもといて質問と御意見を、質問をして、あと御意見をいただければ幸いかと思います。  まず、戦略、FTAの戦略に関してなんですが、私自身、さっぱり日本の今考えていることが、政府の考えていることが勉強しても分からない。何でメキシコなのか、何で韓国なのかと。その交渉を始める段階でもどのような戦略があるのか、どうもよく分からないんですが、この点、戦略性が必要だということは間違いないんですが、どのような戦略を立てればいいのか、御意見伺いたいと思います。  といいますのも、全体の形を作った上で交渉を始めるのか、それとも個別的にメリットをまず考えてでも、一国間同士で、とにかくそのFTA交渉を進めるのを急ぐために全体の戦略というよりかは個別具体的なメリットを考えて締結をしていくのか、どういった方法がいいのか。例えば中国、対中国に関して、これは脅威となるのでその周りの国々とまず締結をしようという戦略を持っていくのか、それとも全世界を見渡して日本にとって、二国間においてメリットがある国からまず締結を始めるのかと、そういった戦略性、御意見を伺いたいと思います。  それからあと、これは伊藤先生だと思うんですが、利益と不利益、数字を示していただきましたけれども、これ、金額的なのの算定が難しいのはもちろんなんですけれども、それ以外の法的なメリット、デメリットというのがどれだけ実質的に想定されるのか、具体例で。私自身がちょっと感じたのは、ちょっと違う話なのかもしれないですけれども、先生がおっしゃった中に、ある程度制度的な不備なところを強制的に修正して基準を作らせる強制力が働くんじゃないかというふうにおっしゃられましたけれども、例えばBSEの問題で、日本では全頭検査を行っている、アメリカではそういう基準ではなかった、その調整をどういうふうに図っていくのか、どういうふうに強制力が持てるのか、ちょっと御意見を聞かせていただきたいというふうにお願いを申し上げます。  また、国内の産業界で利益を受ける産業、不利益を受ける産業、その産業間での調整を図ればいいということを教えていただきましたけれども、具体的に他国でどのような方法で、これは方法論なんですけれども、その調整を行っていくかということを、御意見日本版USTRの設立をということがございましたけれども、ちょっと具体的にもう少し分かりやすく教えていただければ幸いかと思います。  最後、いやその前、もう一個なんですが、通貨とか物価の問題があって近い国からまず締結していくという、やりやすい国から締結していくというのは考え方としては自然なんですが、その代わりに圧倒的に発達の後れている国は完全に取り残されて、穴が空いてしまって、穴が空いてしまうんではないかと。それがどのような影響を及ぼすのか、御意見があればお聞かせください。  最後にですけれども、農業の問題なんですが、私自身、地球温暖化の問題、環境問題、一生懸命取り組んでおりますと、これは大きな大きな影響によって、地域によってはそこの食糧事情というか、農業なり第一次産業が壊滅的なダメージを受けてそれを一国では補完できない状態になるかもしれない。それから、それが世界的に起こる可能性があるかもしれない。そのことも想定して、日本の農業、自給力だけは確保しなくちゃいけないという考え方なんですが、参考人のその点について世界的な食糧危機への対応についての認識というか、考え方をお聞かせください。  ちょっと余りにも範囲が多くて、また重なっている部分もあったんで、各先生方、お答えになれる範囲で結構ですので、順番に御意見をいただければ幸いかと思います。  ありがとうございました。
  14. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 愛知先生の御質問は、できましたら、どの問題はどの先生というふうにおっしゃっていただいたらいいので、まず一番、ですから、すべてにオーバーラップしているのは伊藤先生でしたかね、ですから、まず伊藤参考人から御答弁をいただきたいと思います。
  15. 伊藤隆敏

    参考人伊藤隆敏君) 五点御質問があったというか、と思いますが、まずFTAの戦略ということですが、メキシコについてはこれは多分に防御的な戦略でありまして、日本企業は明らかに差別をされていると、アメリカ企業EUに比べてということで、これは経団連からも非常に強い要望があったと思います。  それから、韓国については大貫参考人からも強調されたように、産業構造あるいは所得レベル、それからその地域、地理的な近さという面からいって、恐らくFTAの相手としては非常にお互いになじみやすい相手だというふうに思われるということで、ここは割合むしろ説明しやすいところだと思うんですね。  その次が、どうするのかというところで、なぜタイマレーシアなのかという点は、若干戦略性として考える必要があると思うんですけれども、説明が必要だと思うんですけれども、これは木村さんがおっしゃったように、アジアが地域として重要であると。だから、アジアというのはできるところからやるんだけれども、最終的にはASEANをまとめて、さらに最終的にはASEANプラス3というところで一つ自由貿易地域を作っていくというのが恐らく頭の片隅には多くの人にあると思うんですね。それによってその地域の中で自由に物が移動すると。先ほど、スパゲッティボールにはならないといったようなことを最終形として恐らく考えている人は多いというふうに思います。ただ、そこに行くのにできるところからやろうということで、タイマレーシアという、フィリピンというところが出てきていると思います。  一般論としては、やはりメリットの大きいところからやっていくということが重要で、その全体像としては何となくやっぱりASEANプラス3あるいはアジアというものがあると思うんですが、それを待っているというんではなくて、やっぱりできるところからやっていって、最終的にはそれを全部つなげることによって地域にするということだと思います。それが戦略だと思います。  利益と不利益ということですけれども、もちろん、私が言いたかったのは、金額で見ても十分利益が出ているんだからやればいいじゃないですかということで、金額で計れないものというものは恐らく利益の方がかなり大きい。これは制度的な調和を図ることによる投資活動の促進でありますとか、あるいは人や物の移動が自由になるといったようなことが言えると思います。  それから、BSEの問題が出ましたが、その安全基準あるいはその安全を確認する手段というものについても、私はそれを緩める必要はないと思うんですね。しかし、それが透明な制度であると、ここをこうすれば日本の食品安全をクリアしますよと、そのためにはそれをクリアできるようなお手伝いはしましょうということを日本から持ち掛けていくと。単におたくのものは危ないから駄目ですというんでは通用しないと思います。  そういう意味で、例えばタイからの熱帯フルーツの輸入に関して、検疫の問題があって、虫が、特定の虫が付いていないかどうかを確認しなければいけないんですけれども、それも例えば検査官をタイに派遣することによって事前に向こうで安全であるということを証明するといったようなもの、あるいはそういう虫が入ってこないような温室を作ると、あるいはどこかの島をそういうふうにするといったようなことも、どんどん日本からむしろ技術支援をすることによってそれを促進していくといったぐらいの姿勢を出した方が私はいいと思います。安全基準は重要な点だと思います。  それから、国内の利益産業、不利益産業の間の所得移転を伴うような国内措置ということでありますが、それは必ずしも明示的な、こっちに課税をしてこっちに補助金を出すといったようなことではなくても、必ずしもリンクしていなくても、ある程度不利益産業の調整を、時間を掛けた調整に対して支援をしていくということは今ある制度の中でも十分可能だと思うんですね、日本の補助金の制度で。ただ、それを改革していくインセンティブのあるものに少し中身を変えていくということが必要だと思います。  それから、私の知っている例では、本当は余りいい例ではないんですけれども、EUの中で農業補助金の削減の問題がありまして、その中で、ある一定の年に、二〇〇〇年なら二〇〇〇年の基準で、そのときに農家をやっていた人には今後何年間幾ら付けますよということで、ただし、そこから先に農家を始める、あるいは農家を始めるといった人にはもちろん補助金は出ないんですけれども、ある、法律を通すその前の年とかいうところで農家をやっていた人については、別に農家を続けるか農家をやめるとにかかわらず何年間か年金のように補助金を出しましょうと。農業を続けることを条件にすると農業を続けちゃうわけですから、農業をやめてもいいと、補助金上げますよというぐらいの、これはEUでやったことなんですけれども、そういった形の、農業を続けることがインセンティブにならないようなむしろシステムを導入して、しかし所得は保障するといったようなことが考えられるというふうに思います。  それから、四番目の点、最貧国が、貧しい国ですね、あるいはFTAに乗らないような国が取り残されるんではないかという点ですが、これは恐らく貿易の方ではなくてODAの世界だと思うんですね。ODAのメカニズムをいかにして経済成長、発展あるいは貿易自由化につながるようなものに変えていくのかという形で考えて、なるべく早く発展してそういうFTAの世界に来るようにしていくと。それから、ODAの中身を変えるといったことで対応できるんではないかというふうに思います。  それから、地域規模あるいは地球規模での環境問題、あるいは自給の問題ということですが、これは重要な問題だと思いますが、これは必ずしも農業をやめるということが工業地域あるいは砂漠になるということではありませんから、それは自然に戻すというオプションもあるわけで、これは分けて考える、FTAと分けて考えることができるんではないかと。したがって、農業がある地域で減るということが必ずしもその土地が全く何も使われなくなるということではなくて、環境に役に立つようなものに転用する、あるいはもし何か壊滅的な気候の変化というようなことがあればまた農業に戻せるようなものにしておくということは十分可能なことではないかと思います。  以上です。
  16. 木村福成

    参考人木村福成君) 一点目のFTA全体戦略の話ですけれども、少なくともここのところ一、二年霞が関主導で行われてきたいろんな非公式それから公式の交渉に関して言いますと、その相手国の選択とかその順序とか、それから盛り込むべき内容の大枠とかというところは非常に明確だと思います、もう既に。  やっぱり一番大事なのは東アジアであると。これはASEANプラス3を一応大枠として考えると。メキシコはディフェンシブにやらなきゃいけないということで、まずシンガポールとやったのは、だから、シンガポールとのFTAそのものから大きな経済効果があるとはとても思わないけれども、まずFTAのやり方を勉強しましょうと、大枠をよく作りましょうと。そこを核にだんだん広げていきましょうということだし、メキシコは要するにディフェンシブなものではあるんですけれども、御承知のとおりメキシコはもう三十二か国とFTAを結んでおりますので、言ってみればメジャーリーグプレーヤーなわけですね、FTA交渉に関して言いますと。だから日本は、だからシンガポールとのはまあ言ってみればマイナーリーグの試合でありまして、初めてメジャーリーグに出て行ったら結構大変だったと。日本は結構体は強いんだけれども、体は大きいんだけれども、まだメジャーリーグの球に慣れていなかったと、こういうことだと思うんですけれども、いろいろ勉強になりましたと。  やっぱりそれを使って今度は東アジア、特にASEANの国はASEANウエーとかといって、これはいい意味で使われるときも悪い意味で使われるときもありますけれども、何となくなあなあでやっていこうというところもあるわけですから、それだけじゃなくて、やっぱりFTAの場合にはきちんと筋を通していくと。特に自由化をきちんとやるということはやっぱり大事ですから、それをやっていくと。今では韓国それからタイマレーシアフィリピンと、この辺はだからFTAをやろうと思えば相手国の側にもそれなりのキャパシティーができてきている国だと思いますので、そこでやると。  そこで作った枠組みが、当然その次に中国を入れてやろうということ。これは中国との二国間じゃないかもしれませんけれども、日中韓かもしれないし、ASEANプラス3かもしれませんけれども、中国ともいずれ交渉しなければ東アジア統合になりませんから、それをすると。それはだからそんな遠くないかもしれません。大貫参考人は十年ぐらいとかとおっしゃっていましたけれども、もしかしたらもっと早くやらなきゃいけないかもしれない、二、三年後ぐらいに来てしまうかもしれませんね。  その先は、やっぱり東アジアの外でも経済的な利益が大きければ可能性としてはあると思いますね。例えばインドとかブラジルとかというのもその先はもしかしたら話が出てくるかもしれませんけれども。ですから、そういう順序立てとか、相手国の順序立て、あるいはどんな中身が大枠入っていなきゃいけないかということは割合はっきりしているんじゃないかなというふうに理解しています。  もうちょっと先、FTAというのを日本の外交戦略の中でどんなふうに位置付けていくのかというようなことはもっともっと実は議論する必要が恐らくあって、東アジア共同体にいずれ行くんだよとかっていうのは、ぼんやりとした抽象的なことから始めるのはそれはそれでいいと思うんですけれども、FTAというものをまず経済外交のどういう部分だというふうに考えるのか、それからその経済外交というのを日本全体の外交の中でどういうふうに考えるのか、やっぱりそこはもっともっと議論しなきゃいけないところで、まだ余りはっきりしたイメージをみんな共有できていないと。  ただ、FTAをやることによってやっぱりコミュニケーションというのは物すごく密になるわけですね。これは交渉する段階からそうで、それはやっぱり一つ非常に重要なことであって、特に韓国とか中国との間の関係という意味では重要ですよね。何しろ話題があるときに一緒に話をするというのは非常に重要ですから、そういう意味でもFTAというのは大変意味があるんじゃないかと思っています。  それから、調整費用の話がありましたけれども、EUの例を伊藤参考人はおっしゃいましたが、アメリカの例ですと、ちょっと私、きちんと数字を覚えていないのであれですけれども、例えばNAFTA対策費でやられた基本的な考え方というのは、産業調整を促進するのであればお金を出しましょうということで、必ずしも補償するという発想で始まっていないということはあると思います。ですから、今、例えば何らかの貿易保護なりなんなりが掛かっていて、それをこれから今取り上げるんだから、それの代わりに何かコンペンセーションしましょうという発想というよりは、今保護してあって、そこである意味での既得権益が発生していて、それは消費者なりなんなりが負担して、コストを負担しているんだと。今まで負担してあげたんだから、それはいずれきれいに取らなきゃいけませんねと。だけれども、ほかの産業に移行していこうとか、あるいはほかの事業に移行していこうということを促進するのであれば、その分のその費用はある程度補助しましょうねと。  だから、そのベースが少し違っているというんですかね。今持っている利益をそのまま補償してあげるという発想というよりは、今はだから保護で無駄が生じているんだからそれは取らなきゃいけないと。だけれども、それに当たってほかの産業なりほかの事業に移行するときの調整費用についてはある程度負担しましょうという、基本的な発想がそういうところにあると思いますね。だから、どこをベースにそういうことを考えるかというのはいろんな考え方があるだろうと。  だから、NAFTA対策費で調整に実際使っている費用というのはすごく小さいです。多分、ウルグアイ・ラウンド対策費、あれもどのくらい真水かとかいろんな議論がありますけれども、金額にしたらゼロが一つとか二つとか少ないぐらいの額しかやっていないということだと思いますね。  以上です。
  17. 大貫義昭

    参考人大貫義昭君) 全部はちょっと私もカバーし切れませんが、戦略全体についてどうかと言われてまずおります。  私は、やはり霞が関、その他とお話をして、国としての戦略というのは大体固まっているんじゃないかなと思っております。その中身は、私の自分のプラクティスからいきますと、例えば先進国、ヨーロッパ諸国あるいはアメリカ、北米辺り、こういうところは国としての経済体制というか構造体制ができ上がっておりますので、具体的に言うと、税制の問題、その他についても東南アジアとはちょっと違うと私は思っております。  したがって、逆に言うと、日本の経済活動を進展させるには、そういう先進国のでき上がったところとは割合いろんな経済条約とかそういったものが組みやすいということが言えると思いますので、今後の戦略としてはそちらの方を、もちろん個別な分野について発展させながら、あとはそういうASEAN諸国あるいはアジアに対して、その国の発展度合いに応じてやっていくべきであろうというふうに思っていますし、そういうふうな戦略ができているものと理解しております。  それから、業界ごとで、やった場合にどこが得か、どこがマイナスかというような問題、これも我々経団連ではそういう参加三十社辺りともいろいろやってまいりまして、賛成、反対も一年半ばかりやりました。もちろん一〇〇%どちらに入れるということはないんですが、言ってみると、結論的には大体やはり日本のためには自由貿易協定を結んでやるべきであろうと、それが日本の国にとってはプラスであると、これは両方関税をゼロにすれば絶対プラスだという考え方は強いですね。それに対していささかの反対があったのは繊維業界、それから石化業界、この辺はちょっと考えた方がいいよというようなことを出ておりました。  ですから、業界ごとのデメリットというのは一応、霞が関も含めて一応の評価は終わっているかと思います。  あとはスピードの問題で、なぜ今、韓国メキシコなのか、中国はどのくらいに行くかという問題ですが、これも申し上げたように、やっぱり速度の問題で、どのくらいそういう国が経済構造についてのちゃんとした体制ができ上がるかということを見極めながらやっていくべきであると思いますので、十年が遅ければあるいはもっと早くてもよろしいかと思いますが、必ず諸国は少しずつ民主化に向かい、改善が見られますので、間違いないと思います。  それから、あとは最後にそういう食糧備蓄の問題で安全保障の問題についてちょっとおっしゃっていましたけれども、私もこの辺になるとちょっと何とも言い難いところなんですけれども、原油と同じかどうかという問題もあると思いますが、原油については備蓄機構とかいろんなものを考えておりますけれども、食糧で備蓄というものがあり得るのかどうか、あるいは備蓄のための将来にわたる長期契約というものが、大きな農業国でなおかつ国力がちゃんとしているところと食糧の長期契約というものを国家間で結んでも、一体そういうものは有効に作用するのかどうか。  これはもう安全保障と軍事力の問題とも絡まってくるので、大きな問題と思いますけれども、一概に、我々の仲間ですと、いや、そんなことが起こるときはもう世の中破滅だよと、食糧が来なくなるようなときはどこにいてもしようがないんだから、草でも食べて山の中で生き延びるんですなというようなことを言う人もいますけれども、それじゃ回答になっていないので、ワークするかどうかは別にしても、そういう最大農業国、信頼できるところと何か国家的にそういう供給契約とか、そういうものができればよろしいなと。ワークするかどうかは五年後、十年後を考えて、とにかくやってみるというようなことも必要なのかなと思っております。  回答になっていないと思いますけれども。
  18. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、岩本司君。
  19. 岩本司

    岩本司君 三人の参考人の皆様、本日は貴重なお時間、また御意見、誠にありがとうございます。  自由貿易協定促進の世界の流れの中で、日本がODA援助をしている国々に対してODAの削減を進めていった場合の日本に返ってくるリアクション、なければないというふうにお話しいただきたいんですが、特に中国に対してのODAの削減を進めていった場合に、日本に対するリアクションといいますかデメリットといいますか、その辺も含めて御意見を聞かせていただければと思います。三人の先生方、それぞれよろしくお願いいたします。
  20. 木村福成

    参考人木村福成君) ODAに関しましては、これは私の個人的な意見でどのくらい皆さんとシェアできるか分からないんですけれども、東アジア向けの経済協力と、それからそれ以外の世界の地域へのODAというのはやっぱりかなり性格がもう違ってきているし、はっきりと区別すべきじゃないかなと私は考えています。  世界の中にはもちろん、南アジアの一部の国ですとかサブサハラ・アフリカですとか、何しろ貧困撲滅というのが圧倒的に大きな問題になっている部分があるし、そういうところは世界の援助コミュニティーと協力しながらやっていける部分というのはたくさんあると思うんですね。それはそれで先進国の責務としてやっていけばいいと思うんですけれども、東アジア向けは要するに直接的な貧困削減が必ずしももう政策課題ではありませんし、やっぱりこれから日本がある程度イニシアチブを取って経済統合を進めていこうというのであれば、そういう枠組みでやっぱり経済協力を考え直すべきじゃないかというふうに考えます。  例えば、タイは最近、タクシン首相がもうODAは要らないんだということをおっしゃっていますけれども、タイにしてもマレーシアにしても、所得水準からいうと、DAC基準でいうともうなかなか援助は出せませんねと、こういう話になっているわけですけれども、でも、それは一体だれの顔を見て経済協力しようと思っているんだろうかと。DACに援助だと認めてもらうことがそんなに重要なのかどうかとやっぱりよく考える必要があって、東アジア向けはやっぱり東アジアのある意味では、経済統合を進めていくというのは一つの大きな大目標で、その中にもちろん貧困撲滅も入っていてもいいんですけれども、やっぱりそういうところに集約して、その所得水準と譲許性の縛りとかそういうところをもっともっと自由にやっぱり考えていくのが重要じゃないかなと思うんですね。  だから、極端なことを言うと、東アジア向けはもうODAと呼ぶ必要ももしかしたらないかもしれないし、結果的にODAに予算上分類されるところはそうしてもいいと思うんですけれども、そういうふうに考えられないものだろうかというふうに考えています。  ですから、その予算費目をいろいろ変えてやるとかというとすごく大変かもしれないので、そんなことはすぐできないかもしれませんが、例えば東アジア向けにやっている経済協力、技術協力を、要するに経済統合目的で我々は一貫してその一部としてやるんだよという形で、例えば束ねてしまうと。  そういうことは、かつてアジア危機のときに新宮澤プランということでやった経験があるわけですね。あのときには必ずしも真水の新しいプロジェクトがたくさんできたわけじゃないんですけれども、本当にアジアの田舎のどんなところに行ってもみんな宮澤プランのことを知っているというぐらい、非常に、ある意味では知名度、そういう意味での効果というのはあったわけですよね。  同じようなことがやっぱり経済統合についてもできるはずでね。そういうことからまず始めていくということはできないのだろうか。もちろん、援助コミュニティーでずっと仕事をされている方は美しい人道主義的な援助というのももちろん追求されているわけで、経済統合というのはある意味ではすごく経済利益にかなり密着したところの話をしますから、そういうのを潔しとしないという考え方も当然あると思うんですけれども、ただ、東アジア向けはやっぱりその辺をはっきりもう少し戦略性を持って経済協力をやっていくということが大事なんじゃないかと私は個人的には思っています。  だから、中国に対しても、もうODAという形で、あるいは援助という形で本当に上げる必要があるんだろうかと私はかなり強く思っていて、むしろ経済統合東アジアの経済統合の一環としてその協力もやるんだよというふうに東南アジアと併せて言ってしまった方が実態にも近いし、あるいは日本の戦略としても賢いんじゃないかと。  だから、普通ODAでは、FTA交渉なんかすると、例えばタイとかマレーシアへ行くと、ある場合には、ODAをもらっているというのは彼らはもう既得権益であって、それとFTAはもう別の話だという話になってしまうわけですよ。それはやっぱりすごく無駄なことで、目的を達成するという意味でも無駄だし、それから交渉上もやっぱり本当は切れるカード、もう相手は自分のものだと思っているということになっているわけですから、もう少しそういう発想を変えて、東アジア向けODAとそうでないODAと、貧困撲滅のODAとやっぱり違うんだというふうにできないのかなと素人考えで思っております。  以上です。
  21. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 大貫参考人から、現場での体験も含めて御答弁を。
  22. 大貫義昭

    参考人大貫義昭君) そうですね。現場、私は韓国に駐在していただけで、あとはヨーロッパなもので、ODA供与国には行ったことないんですね。  ただ、私の理解では、どうも私も業務本部長のときの記憶だから大分薄くなっちゃいましたが、ODAは大きく言って今十三か国ですか、円借と多少混乱しておる。今日の新聞だと、中国の円借を減らすというふうに出ていましたね、一面トップに出ていましたけれども。円借供与国とODA供与国は必ずしも同一ではないんじゃないかと。  ただ、私は、ODAはたしか十三か国、あるいはこれは円借の間違いかもしれませんが、私の記憶によれば、約、今はもう一兆円切りましたけれども、日本はすべて八千数百億円のものをODA資金として供与し、その中では円借部分とそれから無償貸与の、無償贈与の分ですね、それから技術供与の分と、それから国際機関を通してやる分と、四つに、四種類あるんですね。  それで、多分、無償の部分は二国間のやっぱり技術交流とか人材教育とか、そういった面に主に使われていると私は理解しております。それで、円借の問題は、これは電気プラントとかあるいは化学プラントを造るために、あるいは道路の建設、港湾の再建、そういったものに使われていると思います。  しからば、中国に対してODAというのは必要かどうかということになってきますと、私の実務では、例えば石化工業とか港湾の実務については円借を使ってそういう仕組みを作っていくということは大分出てまいりました。ということから、中国も力を付けてきましたが、そういったもので、向こうの産業インフラを強化するという面で、ODAの中の円借部分については、やはりドラスティックに減らすのでなく、多少維持してやっていってもできるんじゃないかと。ただし、コマーシャルベースでも多少できる部分でありますので。  減らしてまずいのは、やっぱりそういう人材教育とか技術移転の問題とか、そういった問題についての無償供与の部分について、これは医療問題とかいろいろ絡みますので、そこは日本としては余り減らさない方がよろしいんではないかなというふうに個人的には思います。  以上でございます。
  23. 伊藤隆敏

    参考人伊藤隆敏君) 私のこれも全く個人的な意見ですけれども、例えば中国については、核兵器を持って宇宙飛行をしている国に、人工衛星一つ打ち上げられない国がODAを出しているというのは非常におかしな話ではないかという印象を持つわけですね。  ただ、特定の国が特定の国をねらい撃ちするような形でODAを削減するというのは、それは摩擦、外交的には摩擦を生じるかもしれないと。その心配はよく分かるんです。重要な点は、やはり日本のODAというのは、どういう原則に基づいて、どういう目的のために行っているのかということをはっきりさせる。だから、昔、ODA四原則というのがありましたよね、海部四原則とかいう。いつの間にか忘れられてしまったんですけれども、日本のODAはこういう国に対して出すんですという原則を、透明な原則を作るということが、作り直すということが重要なんではないかと思います。その国の中でその貧富の格差がなかなか是正されないような国、しようとしない国、民主化しない国あるいは軍事予算を拡大している国と、こういう国には日本はODAをしませんよということを言えば、これは世界に対して平等に、日本はこういう国なんですということをはっきりさせれば、それによって予算が増減しても全く摩擦は起きないというふうに思います。  それから、ODAの中身の問題で、円借という形のローンがいいのか、グラントですね、贈与するのがいいのかというのは、これは開発援助の世界で今大変な議論になっておりまして、借金漬けになってしまうということで、結局はまたそれが債務削減という形で、結果的には結局グラントになっているじゃないかということもあるでしょうし、その使われ方の中で、どういったものをどういうふうに出していったのか、がいいのかということをもっと明確にすることは重要で、日本の場合、これまでは割合その使い道とか、そういうことを、要請主義という言葉に表れているように何となく受け身で出していた。あるいは、もうこの国にはこれだけの金額を出しますから、それに見合うだけ要請をしてくださいというような形のものがあったわけですが、もう少し中身に立ち入って改革を推進するだとか、口を出すような金の出し方をしても、私はいいんではないかというふうに思っています。  以上です。
  24. 岩本司

    岩本司君 誠にありがとうございました。
  25. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 続きまして、高野博師君。
  26. 高野博師

    高野博師君 それでは、最初に伊藤先生にお伺いしたいと思うんですが、アメリカがいろんな国とFTAを結ぶ戦略を持っているんですが、本当のねらいというのは何なのかというところなんであります。  アメリカは、自由と民主主義ということで、世界革命なんという言葉も最近ブッシュ大統領は使っておりますが、これと市場原理というのはまた表裏一体を成していると。その市場原理を広めるためにFTAというのは非常に武器になっているのかなと思いますが、安全保障の観点からも、テロ対策等で、あるいは中東なんかでも、中東なんかの国とFTAを結ぶなんということを言っているんですが、こういう形でやっていくアメリカの本当のねらいというのは一体何なのかと。FTAを結ぶことによって、アメリカ自身はマイナス面というのは余り出ていないのかどうか。このグローバル化という中で、貧富の差がこのFTAを結ぶとより拡大するのではないかと。それはアメリカにとってプラスになるのかどうか。テロ対策と言いながら、むしろテロの温床になるものを作っているのではないかなと、そういう印象も受けるんですが。  私は、アメリカの本当のねらいというのはやっぱり石油じゃないかなと、エネルギー資源、それをどうやって世界じゅうから獲得するかというところにあるのかなと思うんですが、中国も同じように物すごい今エネルギー消費量が増えているわけですが、中国も同じように石油が年間もう五百万トンぐらい輸入しなくちゃいけない。世界じゅうの至る所にある資源を求めて動いているのかな、そういう武器にまたこのFTAを使おうとしているのかなという感じがするんですが、私の考えは間違っているかもしれませんが、先生の意見をお伺いしたいと思います。  それから木村先生には、中日、中国韓国日本中国の中に台湾も含めると、この三か国の人と金と物の動きというのは最近物すごい数字になっているわけですが、これはASEANよりもむしろ、この三か国でFTAを結んでいくということは、いろんな難しい面は当然あるんですが、日本はそこのイニシアチブを取っていけないかなと、こう思うんですが。中国は最近日本を再評価しつつある。というのは、経済低迷から若干上向きになりつつある中で、日本が自信を取り戻しているのではないか、日本との関係をもう一回見直そうという考えが中国の指導部にあるとも聞いているんですが、そういう中でこの三か国のFTAというのをどういうふうに見ておられるのか、お伺いしたいと思います。  それから最後に、大貫参考人ですが、企業におられた方の現場の体験として、今、世界じゅうの日本企業駐在事務所、これも閉鎖したり、あるいは人員を削減したりということで、日本の経済低迷に伴って海外進出というのはもうどんどん減っている状況にあるんですが、このFTA戦略日本が取っていけば、またもう一回日本企業の進出は当然促進されるのだろうと思うんですが。アメリカなんかの場合は民間と政府が一体になって戦略を進めているというところがあるんですが、日本は政府と企業の一体化というのは当然あり得ないんですが、そこの共同でこういうものを進めていくというところが非常に欠けているんではないかと思うんですが、企業人としての、政府に対して、国に対して、何か注文といいますか望むところがあればちょっとお伺いしたいなと思います。  以上です。
  27. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) それでは、御質問の順番で御答弁をお願いいたします。
  28. 伊藤隆敏

    参考人伊藤隆敏君) アメリカFTA戦略の本当のねらいは何かということですが、それは分かりません。ただ、ワシントンにいますと、私もワシントンに住んでいたことがありますけれども、政府とそれからシンクタンクと、それから大学、それから企業ですね、彼らが話合いをする、フランクに話合いをする機会というのは物すごくたくさんあるんですね。  シンクタンクで昼食会をやって政府の人に来て話をしてもらって、その研究員や大学の先生や企業の人がどんどん質問して政府の人が話すというようなことで、どこまで本当に話しているかは分かりませんけれども、少なくとも私が日本で参加しているような研究会よりはかなり立ち入ったことをアメリカの政府関係者というのは話しているんですね。そういう中で、あと、人事交流じゃないですけれども、政府の高官が辞めてシンクタンクに来たりということが頻繁に行われています。また逆もあります。逆向きの流れもありますが、かなりそういう中でお互いに何を考えているかということが分かっているんじゃないかな、アメリカの国は。ということで、アメリカの学者と話をしていても結構情報を持っているということがあります。  そういうところで、もちろん守秘義務の問題であるとかリークの問題とかいろいろあるんですけれども、その辺はかなりうまくアメリカという国が戦略的な志向を、何か会議をやって決めているというのではなくて、戦略的なものが何となくワシントンで醸成されていくというようなうまい仕組みになっているんではないかと思います。  石油権益をねらっているのかというのも、私はエネルギーの専門家でもありませんし、ちょっと憶測はそこは避けたいと思います。
  29. 木村福成

    参考人木村福成君) 伊藤参考人への御質問でしたが、私もちょっと全体戦略というのはよく分かりませんけれども、ただ、中東向けのものとそれから南北アメリカ大陸、あるいはシンガポールなんかでやっているものはやっぱりちょっと性格が違うかなとは思います。  アメリカ・イスラエルは論外として、アメリカ・ヨルダンなんかの場合でも、もちろん政治的な安定を助けるための経済援助的な性格というのはやっぱりかなり深くて、あそこの中東がああいう状況にならなければ、ある程度アメリカ企業の進出だとか、あるいはイスラエル企業のヨルダン進出というものを促進するためにアメリカ・ヨルダンFTAが使われる素地はあったんじゃないかなというふうに思っています。だから、それをどういうふうに使うかというのはもう少し全体戦略の中で言われていると。  ただ、それとは違って、アメリカシンガポールとかアメリカチリ、あるいは今交渉中のアメリカ・オーストラリアとかというところは、やっぱりかなりはっきりとピンポイントの経済利益をねらっているところがあって、例えば知的所有権の問題とかサービス部門の進出だとかというところをかなりしっかり入れてくるところがかなり大きな部分になっていって、もちろんそれは、もう少し大きなフレームワークで見れば、特にアメリカ大陸について言えば、政治的な安定だとかアメリカのドミナンスだとかというところにつながってくるのかもしれませんけれども。ですから、いろんなちょっと性格の違うFTAがやっぱり入り込んでいるんじゃないかなというふうに考えております。ですから、私への質問、日中韓のFTAですけれども、大変重要だと思います。  ただ、日本韓国の間は、一つはお互いかなり高い、韓国もかなり高い所得水準になってきて、経済規模も大きいし、隣接しているにもかかわらず例えば直接投資のフローというのは決して大きくないわけですね。だから、日本とほかの東アジアの国、中国も含めてですね、と比べると、韓国との間というのは、物はたくさん貿易されているんだけれども、企業だとかは余り総体的には動いていないしというふうな状況になっていると思います。  それから、対中国ということになると、ただFTAをやるにしても、ただ中国に時限付きの関税撤廃をしてくださいと言うだけでは恐らく日本産業界は満足しないわけでありまして、一番問題なのはやっぱり中国の国内の政策環境であると。そこがやっぱり非常に難しいところで、中国に向かって国内政策をああしろこうしろと言って、中国が分かりましたとやるような、そういう国でないことはみんな先刻承知ですけれども、そこをやっぱりどういうふうに少しでも良くしていってもらうようなことができるかどうかということがやっぱり重要だろうと思うんですね。  だから、物の貿易自由化だけじゃないところにどうやってそこまで踏み込んでいくか。そのためには日韓でやっぱりかなり水準の高いFTAを作らなきゃいけないかもしれないし、あるいは日本ASEANの幾つかの国とやっぱりしっかりしたFTAを作って、それを土台にして中国交渉していくというような枠組みがどうしても必要になってくるんじゃないかなというふうに思います。  ちなみに、中国における日本企業のプレゼンスというのは、もちろん技術的なドミナンスとか、そういう面でいえば非常に大きいわけですけれども、直接投資中国が受けている直接投資全体の比率にすると七、八%しかありません。もちろん、これ、中国人そのもののお金が台湾に出てまた入ってくる部分とかいろんなのがありますけれども、ざっくり言えば三分の二は華人系の直接投資で、日系は七、八%しかないんですね。これはやっぱり東南アジアにおける日系企業のプレゼンスの高さに比べると随分違っている状況にはなっている。だから、中国としても日本をどうしても取り込まなきゃいけないというインセンティブASEANの国よりは小さいという、そういうことは当然あるんじゃないかなと思っています。  以上です。
  30. 大貫義昭

    参考人大貫義昭君) 民間と政府の一体化、非常に重要なテーマなんですが、私もこれについてどういうお話をするかちょっと戸惑っているんですが、形式的に言えば、経団連とか同友会等ございまして、そこが全体的な発言で税制の問題とかなんかを言うわけですが、あと、経済界にインパクトを与える話になりますと、業界ごとの団体がございまして、この業界がそれぞれの関係省庁お話をして、国家予算についても多少お願いすることがあればこういうふうにしようとかというふうな話が出ていると思います。  そういう意味では一応民意が吸い取られていると理解はしているんですが、私は、自分の実務的に言いますと、私も商社の戦略に携わってきたわけですが、そういう実態的な御相談を受けたことって余りありませんですね。もうちょっと具体的に、じゃ、ODAの予算でもってこういうふうに、この国にこういうふうにやるけれどもどうでしょうかというような相談は日本貿易会に来ているのか来ていないのか、余りそういうセンスのある人はいないような気がしますね。  それで、今度、私も海外に長くいましたが、海外の大使館から、じゃこの地区についてはどういう経済的な問題があるのか、いかに日本のお金をどう使ったらいいか、ひとつ諮問を受けたいなんということも聞いたこともございませんですね。ただ、何やらお金はいろいろとお使いになっておるというようなので、まあ本当に高野先生の言われるとおり、やっぱり民間もその辺は、彼らもコーポレートタックスとか、個人の所得税払っているわけですから、少し何か申し上げた方がよろしいかと思っておりますけれども、反省しています。
  31. 高野博師

    高野博師君 ありがとうございました。
  32. 関谷勝嗣

  33. 緒方靖夫

    緒方靖夫君 日本共産党の緒方靖夫です。  三人の先生方、本当にありがとうございました。  FTAそれからグローバル化、これは世界、時代の流れだと。その中で、どう公正さを保って進めるのかということが課題だなと改めて思いました。  それで、一つは、アメリカがこれに力を入れるのは当たり前なんですけれども、中国なんですね。中国のやはりこの間の躍進といいますか台頭というか、これはやっぱり非常に目をみはるもので、北京で中国を見る場合とソウルで見る場合とASEANで見る場合と全く違って見えるというのが印象なんですね。  例えば、ASEANでは本当にこの二、三年間の間に、例えばタイとかマレーシアの観光客の数も、中国日本は並んじゃっているわけですよ。もう中国、があんと追い上げて、これは超すだろうと言われているわけですね。それからまた、それぞれの国の中国に対する考え方も大きくこの間変わってきたということは強く印象付けられるんですね。その中で、結局日本がどういう対応を取るのかと。これは、木村先生への質問ということであれなんですけれども。  それで、例えばタイの話がよく出ましたけれども、僕がちょうど一年前にタイに行ったときに、タイ中国とのFTAはもう進めているわけですね。それで、可能なところから始めると。それで、例えば果物、ロンガンとか、そういうところはもうどんどん調印していくわけですね。もちろん、日本とステータスの違いがありますから、同じく言えるわけではないんですけれども、そういう動きが一方にある。  ところが、タイ人たち日本のことを見るときに、一体何を考えているのか分からない、何を目指しているかがよく分からないという、そういう気持ちになってくるわけですよね。そうすると、タイ日本との関係でFTAというと、タイが積極的にやろうという。もちろん農業の大きな問題があるということを彼らも認識しているようですけれども、そういう中でなかなかうまくいかないという気持ちがあるようですね。ですから、ODAは要らないというその言葉もやっぱりそういうところから、そういう背景があって生まれてきているんじゃないかと思うんですね。  そうすると、タイが一事が万事ということで考えると、ASEAN全体でのやはりそういう日本に対する見方ですね。中国と比較してどうしてもそれが生まれると、やはり日本が劣勢になる。戦略があるかないかという話ならまだ大変高級な話なんですけれども、戦略どころか、結局どういうロードマップでどうするのかということもはっきりしないという、これが現状ではないかと思うんですね。  そこで、先生にお伺いしたいんですけれども、現状でいった場合、経済関係等々で先生が描く東アジアでの将来とその中での日本の地位というのは一体どんなふうに描けるのかと、それをお尋ねしたいと思います。  それから次に、伊藤先生にお伺いしたいんですけれども、FTAの場合、その資金の移動の自由と同時に、撤退の自由ということもあると思うんですね。そうしますと、アジア通貨危機の教訓から見て、資金の移動の有効な規制あるいはそれを促進、移動するということを促進するという、その点についての考え方はどうなのかということ。  それともう一つは、本題ではないわけですけれども、タクシン首相が盛んに提起しているアジア・ボンド構想なんですけれども、車の両輪としてとおっしゃられました。この金融協力ですね、この点についてのFTAとの関連についてお話しいただければ大変有り難いと思います。  それから、大貫先生にお伺いいたしますけれども、マハティールとソロスの香港でのあの激論ですね、これは僕も大変注目して、全文を読んで、結局マハティール、軍配上がったと。これはIMFが自己批判したりしたということから見ても、だれでもそう見えるんだろうと思うんですね。  その際にやはり、先生おっしゃられたように、アジア各国には形があると。僕もその形をきちっと認識して、それぞれのところと関係を持っていくということ、強めていくということが大事だろうと思うんですけれども、こういう教訓に立った上でのFTA促進についてのお考えをお尋ねしたい。  それと、最後にですけれどももう一点ですね、中国はなぜこれだけFTAに積極的な政策を取るのか。それについて、実際、貿易の実務に携わっていたお立場からどんなことを考えられるのか、お尋ねできたらと思っております。  以上です。
  34. 木村福成

    参考人木村福成君) 東アジアにおける日本の地位という大変大きな題ですので、とてもすべてきちんとお答えはできませんけれども、経済規模から言うと、今、ですから日本が四・数兆ドルですか、中国が一・数兆ドルで、大体今三分の一と四分の一の間ぐらいの経済規模の差に、GDPですけれどもね。ASEANが大体五千億ドルぐらい、それから、その他のNIESが合わせて一兆ドルぐらいという、このくらいの感じになっているわけですよね。  これが、経済成長率が違いますから、二〇二〇年の段階で言うと、ざっくり言うと日本中国は同じぐらいの経済規模になりますということですから、国境をまたいで国という単位で見たときには日本東アジアにおける経済の相対的なウエートというのは下がるというのは、これはもういかんともし難いことだと思いますね。  ただ、必ずしも経済の強さというのは国の中でのGDPのサイズで測れるものではなくて、その企業の競争力であるとか技術、経営ノウハウ、こういったものが非常に大きいわけでありまして、そういう意味では、日系企業というのはまだまだ強い面がたくさん残っていると。  競争力が強い企業というのはなるべく自由な環境でその活動をさせるのがベストなわけですね、本来ね。だから、いろんな貿易、金融、いろんな側面を併せて、やっぱりなるべく自由な経済環境に一刻も早くしていくというのが日本企業、あるいは、ひいては日本の、日本に住んでいる日本人の経済利益にもなるし、それがやっぱり東アジアの地位になっていくだろうと。  やっぱり統合の絵を主体的に描いていくというのは日本がやらないと、ほかの国には東アジアではできないことですよね。もしかしたら、アメリカが描いちゃうかもしれないと思っているんですけれども。東アジアの中ではやっぱり日本じゃないとまだ描けないと思いますね。  だから、FTAならFTAにしても、どんな中身をそこに入れていくのか、どんなふうな制度構築だとかどんなふうな貿易投資政策環境を作っていくのか。やっぱりこれ主体的に考えて、それをFTAに盛り込んで、実際にそれを実行していくというのは日本しかできないことでありまして、逆に言うと、だからもうそこで何とか経済外交で頑張って、二十年後に日本の地位がどこかで下げ止まるように頑張るというのが我々のやらなきゃいけないことかなと思います。  中・ASEANFTAですけれども、アーリーハーベストみたいなのができるのは、言ってみればガット二十四条の規律が掛かっていないからでありまして、日本が例えばタイFTAやるときはああいうことはできないわけでありまして、きちんとした中間協定にしなければFTAは始められません。だから、まあある意味ではゆるゆるでやっていると。  中国はかなり規律の高いものにしようというプレッシャーをASEANに掛けていると思うんですが、ASEAN側は相変わらずASEANウエーでやっていますので、実態的にはAFTAと余り変わらないような感じで、ASEAN自由貿易地域ですね、と余り変わらないような形で進んでいるということだと思いますね。経済協力等がくっ付いている部分はありますけれども、基本的には物の貿易自由化を部分的にやっているのみであるということですから、中・ASEAN東アジアの経済統合の青写真を提供するということはないというふうに考えています。  だから、ある意味日本はすごくチャンスに今あるわけで、ここはやっぱりきちんと頑張ることによって二〇二〇年にどのくらい胸を張って日本は、日本アジアの国だよと言えるかどうかが決まるんじゃないかというふうに思っております。  以上です。
  35. 伊藤隆敏

    参考人伊藤隆敏君) 資金移動の話、それからアジア・ボンドの話、それからFTAとの関連ということでありますが、その資金移動をどれくらい自由にするかという点についてはFTAの規定にはない部分。したがって、深い統合の部分ですから、ここは自由に決められる。  日本としては、そういう短期的ないわゆるホットマネーが過大に国の中に入ってくるということは不安定要因であるから必ずしも望ましくない、したがって、それをある程度ブレーキを掛けるようなことはやった方がいいんじゃないかというのが日本の財務省、それから学者の多数意見だと思うんですね。したがって、日本が例えばタイとかフィリピンとかマレーシアFTAを結ぶときに、資金移動も完全に自由にしなきゃいけませんよという要求を突き付けるとは思えない。そういう意味では非常にリーズナブルなものになるんではないかと。ただし、もちろんある程度の、FDIとか、長期直接投資とかあるいは債券の売買といったものは自由化しなさいということにはなると思います。  ちなみに、アメリカシンガポール、それからアメリカチリ自由貿易協定の中には、資本規制をやっちゃいけません、だから、先ほど言った資本の移動も自由にするのみならず、未来永劫そういう、それを邪魔するようなことをしちゃいけませんよということをアメリカが要求して、チリシンガポールがのまされているということがあります。そういう意味で、アメリカの戦略の中にそういう資金移動の自由というものが入っているということが言えるんではないかと思います。  アジア・ボンドについては、これは通貨危機の一つの教訓が、短期的な資金、これが、ドル建ての短期的な資金がタイアジアの国に入ってきて、それが長期的な自国通貨建ての貸出しとなっていったと。したがって、通貨でも満期でもミスマッチが起きていたということが言われています。これを解決する一つの手段は、自国通貨建ての長期国債あるいは長期社債というものを出すことであると。これが基本的なアジア・ボンドの考え方でありまして、そこからいろいろなイニシアチブが始まってきているわけです。  FTAとの関連ですが、私は、物の移動あるいは人の移動が非常に頻繁になることによって、自然に通貨あるいは資本の密接な関係、関連につながってくるんではないかと。非常に輸出、輸入の関係が強い国同士は為替が余り変動するということを好まなくなるわけなんですね。これはヨーロッパの例が一番分かりやすいんですけれども。  したがって、FTAによって、物、人の移動が非常に重要になってきた国同士というのは、通貨協力あるいは金融市場の統合、資本市場の統合といったことに積極的になるはずでありまして、そのメリットが大きくなるわけですからそうなるはずでありまして、それは自然な姿じゃないかなということで、今はむしろASEANプラス3の中でチェンマイ・イニシアチブあるいはアジア・ボンド構想といったことで非常に協力関係がうまくいっているわけですが、むしろFTAの方が後れているといった状況で、順序が逆なんじゃないかな少し、というふうに私は思っています。
  36. 大貫義昭

    参考人大貫義昭君) ジョージ・ソロスとマハティールさん、もうこれ遠大な国家構想のことで、私などが申し上げられようもないのかと思いますが、マハティールさんはかつてルックイーストということで、多分日本を見ろということだったと思います。  そのときの日本はどうかと思いますと、私の記憶では、少なくともプラザ合意に至る前までは統制経済と言った、統制と言うのは行き過ぎですが、資本流出入あるいは技術の流出入、これについても割合国家管理的、霞が関主導の下にやってきて日本はうまくいったと。これを称してルックイーストということで、このジョージ・ソロスとの会談のときに、グローバリズムで、全部もう門戸開放で通貨危機に洗われては国家計画ができないということで、彼は為替管理等もやったわけですね。結果的にはあのときは成功したわけでございます。  ただ、これからその方式でいくのかどうか、彼もずっといくつもりでやっているのかどうか、この辺になるとあれですね、これは緒方先生、とても私の能力の限界を超えておりますけれども、是非、先生方にまたお考えいただきたいと、こう思っております。  ただ、個人的には、多分、先ほどちょっと申し上げた計画経済、中国流の計画経済とグローバリズムの中間ぐらいの体制というものが国ごとに起こるのかなと。これはもうFTA動きを若干ブレーキ掛けるような形での動きというのがあり得るかもしれないという気はいたします。  というのは、各国が全部FTAを結んだ、全部の国が幸せになるかどうか分かりませんので、そこの経済効果の差が、ある国にとってはマイナスの面に動くかもしれませんので、大変大きなテーマだと思います。  それから、中国の問題について、なぜ、ああいうふうに国際化といいますか非常に進めているわけですが、表面的に言えばこれは定型パターンのあれになりますが、結局、現在の中国は工業生産力を外国資本と技術を補って作っていると。輸出産業というのは多いんですが、輸出のうちの半分ぐらいは、多分日本からの投資されたジョイントベンチャーが半分ぐらい寄与していますですね。私どもも中国通の中国人の話を聞いていますと、もうほとんどは、それでもうけたお金はまた日本に、配当で日本に戻っているんじゃないですか、だから日本がやっているようなものだと言う人がいるくらいですが、要は、日本の資本、外国の資本で工業化を進めてこのマーケットを拡充している。したがって、そういう自由貿易というものを推進する方向に行くというのは、経済的な理由がまずあるということが一つ。  それからもう一つは、これは専門家で私はないんですが、安全保障上の問題で、当然のことながら、南方拡大方針、これはそういうふうに大っぴらに言っているのか言っていないか知りませんけれども、当然、国としては考えていると思います。したがって、南方への進出というのを経済的に行くということをまず考えるのは当然かと私は思っているので、そういう二つの理由ではないかなというふうに思っております。  以上でございます。
  37. 緒方靖夫

    緒方靖夫君 ありがとうございました。
  38. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 続きまして、大田昌秀君。
  39. 大田昌秀

    大田昌秀君 木村先生にごく簡単なことを教えていただきたいと思います。  シンガポールと、先ほどお話がございましたけれども、シンガポールFTAを結んでもう一年たったわけなんですが、具体的にその協定を結んだことによって我が国の経済にどのようなメリットが生じているのか。あるいは、この一年の経験を通してどのような教訓が得られているかということを簡潔に教えていただきたいと思います。  それからもう一つは、台湾との関係はどうなっているのか、台湾との関係ですね。FTA関連で将来どういうことになるのか、あるいはその点ですね。  それから、伊藤先生にちょっとお伺いしたいのは、昨年の十二月に日本ASEANとの特別首脳会談で、東アジア共同体の構築に向けて各国が更に協力を強めようという趣旨の東京宣言が出されたわけですが、東アジアに共同体を作り上げていく道筋で、今のFTAというのがどのような効果をもたらし得るのかどうかという点と、FTAというのは、先ほど大貫先生がおっしゃっていた、先進国と開発途上国とがあって、開発途上国ではまだその協定を結ぶ準備が十分にできていない国があるということをおっしゃっていたと思いますが、一つの国の中においても非常に先進的な地域とそうでないところがあるわけですが、FTAというのは、世界で今、ある国の内部におけるある特定の地域と外国とそういう協定を結ぶことが可能なのかどうか。  これは、具体的に申しますと、何年か前に沖縄で全島フリーゾーンということをやって、それで大変な、沖縄の恐らく歴史上初めて本格的な経済論議が巻き起こったわけなんですけれども、成功しなかったわけですが、その点について、地方分権が進んでいって政府の権限が地方に移譲されるようになった場合に、都道府県が主体的にそのようなことを考える余地はないのかどうかという点をお伺いしたいです。  それから、最後に大貫先生にお伺いしたいことは、ごく簡単なことですが、最近、政府が経済特区ということを奨励しておりますけれども、この経済特区というものをこのFTAと関連させて考えた場合にどういう意味を持つのか、そこを教えていただけたら有り難いと思います。  以上です。
  40. 木村福成

    参考人木村福成君) シンガポールとのFTAですけれども、去年の終わりぐらいに、たしかエバリュエーションの何かスタディーみたいなのをされたと聞いていますが、詳しく見ていませんが、ざっくり言えば、経済効果はほとんど限りなくゼロに近いということだと思いますね。なぜかといいますと、シンガポールとの間ではほとんど実質的な自由化はしていないわけですね。  もう既にガットベースの約束で、例えば関税がプラスになっているところを、だけれども実際にはゼロにしていた部分、それをゼロというふうに約束しましたというようなものが非常に多いわけでありまして、新たに自由化した部分というのは非常に小さいわけで、経済効果はどんなふうに計算しても日本のGDPの〇・〇〇〇幾つぐらいしか多分ないということですね。  ただ、これを作った価値はやっぱりいろんな意味であると思う。一つは、日本FTAを結ぶ能力があるということを示したということですね。それから、これはやっぱりこれからFTAを、その後交渉するときのやっぱりひな形になっているわけでありまして、それをベースにしてやっていくことができる。  それから、一回やったことがあるということは、いろんな意味で物すごくいろんな経験を積んでスピーディーになる部分があるんですね。例えば、これ条約でありますから、例えば外務省条約局、内閣法制局、こういうところを通過してくるのに普通の条約ですと半年とか一年とか軽く掛かってしまうわけですけれども、こういうプロセスも、一度条文作ってありますので、はるかに早くできるようになっているということで、第一歩としては、先ほどマイナーリーグの試合とおっしゃいましたが、としては、割合経験が比較的あるシンガポールと、少なくとも条約の中身としてはきちんとしたものができたというのは成果として言えるんではないか。  ただ、これでまた、ではメキシコと本当にできるのかどうかとか、次、タイとかマレーシアフィリピンとできるのかどうかというのは、一つは農業セクターの問題もありますし、もうワンステップやっぱり階段を上らないとできない。そういうものをだんだん積み重ねていくと、日・シンガポールの部分もやっぱりプラスとして経済効果が出てくるということだと思うんですね。東アジアがやっぱりFTAネットワークになってくれば非常に大きく出てくるということですね。  だから、一個一個の二国間FTAを作ったらどのくらい経済効果があるかという、いろんな経済のシミュレーションモデルを作って、私なんかも計算したりしていますけれども、小さいです、物すごく小さいです。それは、計算できる部分がまず一つ非常に限られているということがありますが、関税撤廃そのものから出てくる効果というのは、日本のGDPをワンショットで〇・〇三%上げるとか、せいぜいそんなものですね。それはNAFTAの場合におけるアメリカの場合でも同じようなことになっている。ただ、これがネットワークになってくるとかなり変わってくるということだと思うんですね。それから、直接投資の部分、これがやっぱりうまく測れないのでということですね。  ですから、台湾の話は、台湾側は大変積極的で、何度も働き掛けをしているというふうに伺っています。日本は、もちろん非常に政治的にセンシティブな状況にありますから、民間レベルのスタディーも受けていないというのが今の状況だと思うんですね。  台湾は、去年ですか、パナマか何かと初めてFTAを作りましたね。ただ、そこから先は手詰まりで、シンガポール交渉しようと思ったんですけれども、結局シンガポールが降りちゃって交渉に入れなかったとか、日本も去年はやっぱりちょっと無理ですねという話になって止まっているということですね。  政治的な問題がなければ、純経済的に考えたら、台湾と日本FTAというのはある意味ですごく自然な選択だと思いますね。経済関係も非常に、貿易投資も深いですし、人的交流も多いですし、いろんな面である意味で自然な関係だと思うんですけれども、純政治的な問題として難しいというのが今の状況じゃないかというふうに理解しています。
  41. 伊藤隆敏

    参考人伊藤隆敏君) 一番目の質問がアジア共同体の中でのFTAの意義、効果ということですけれども、これは非常に重要な、必要な第一歩であるというふうに思います。  共同体と言うからには、人、金、物の移動が自由に行われるということで、モデルとしては恐らくEUのようなものが念頭にあると思うんですが、その中でまず物が自由に行き来しない、あるいは関税が障害となっているというふうなことでは到底共同体には発展し得ないわけで、FTAは必要条件ではあるけれども十分条件ではないと、共同体の、そういう位置付けだと思います。  それから、日本の中の一地方公共団体、県あるいは市町村という単位で外国とFTAのようなものを結ぶことができるかという点でありますが、これは効果は非常に限られたものにならざるを得ないんではないかというふうに思います。その一地方、たとえ県単位であったとしても、そこが、もちろん関税交渉権を持っていないわけですから、国から何らかの特別な措置をいただかなくてはいけない。それから、条約に発展するようなものを相手国交渉できるわけではないということで、しかも、日本が既に国として非常に低い関税率になっているわけですから、そこで関税意味で何らか有利なものを提供できるわけではないと。  そうすると、何か規制の面で特別なことができるかと。そうすると特区の考え方に近くなっていって、大貫参考人お話になると思いますけれども、例えば外国人の受入れ、あるいは外国人の看護師の受入れであるとか、介護士の受入れであるとか、弁護士の受入れであるとか、そういうようなところで国とは違う規制を提供できるのかということになってきて、そこは恐らく特区の考え方に行かざるを得ないと。国で何らかの、この地方は特別ですよというお墨付きを与えると。  そうすると、じゃ、その地方公共団体は世界に対してその門戸を開くのか、あるいはFTAのように対象国を限った関係を結ぼうとするのかと。あるいは逆に、交渉を持ち掛けられた相手国が、じゃ沖縄とだけそういう、沖縄だけでも弁護士を送り込みたいという国が現れてくるのかどうかというところになってきて、そうすると、相手国から見ると、やはり沖縄、例えば沖縄というところがどれくらい魅力があって特別な地域であるかということになってくると思いますね。  そうすると、恐らく、関税メリットはほとんどない。そうすると、そこに進出する、あるいはそこに行こうという場合に、どれくらいのメリットがあるのかということで、具体的には恐らく非常に限られた職種、あるいは限られた産業になってきて、沖縄なら沖縄、あるいは北海道なら北海道が、日本にはない、あるいはアジアのほかの国にはない何かを提供するということがないとなかなか入ってこないというふうに思いますね。
  42. 大貫義昭

    参考人大貫義昭君) いわゆる特区が対外的に外国と独自にFTA的なものの条約関係に入り得るかどうかというようなことなんですよね。  今、伊藤先生からお話ございましたとおり、テクニカルにはそれは関税の問題絡まりますから、私は非常に難しいと結論的には思います。  ただ、せっかく特区で、今度は教育、医療、港湾、この辺入っていますね。それから金融も入っていますか。金融も入っていますね。金融については、私、これはまた余談ですが、沖縄で、そう二、三年前に日本・台湾の会議がございましたね、経団連がやっている。私も出まして、そのときに名護市長から、あの辺に金融特区を作りたいというので、私が全体会議で変な提案をしまして、最近少し具体化してきているようでございますね。あれは全然別の、FTAとは違いますけれども、特別な金融特区を作って外国企業を誘致しようと、こういうことなので、大いにこれ進むことを私は望んでおります。  ただ、結論的に、先ほども関税の問題や何かでそれは難しいと、FTAなんかより難しいので、むしろやっぱり文化交流とか人の交流の面で特区の特徴を出していただいて、FTAという形まで持ち込むのは大変だと思いますけれども、是非対外的な発展の柱にしてもらいたい。  なぜそんなことを申し上げるかといいますと、私、NPOで今経営支援NPOクラブというのをやっておりまして、どっちかというと中小企業と地方企業の育成なんですね。ですから、地方公共団体その他とのお話で、地方の国際化というのを進めているんです。その中で私は、話しに行きますと、この特区の問題が、特に強調しておりまして、地方企業の、中小企業の皆さんには是非特区の在り方をよく勉強して、それに対応する新技術とか会社経営形態というものを考えてくださいと、それが必ず皆さんのプラスになりますという、今リコメンデーションをやっておりますものですから、非常に先生の御質問は印象的でございました。  ありがとうございました。
  43. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 以上で各会派一人一巡いたしましたが、もう予定の時刻も近くなっておりまして、本来でございますとこれから自由質疑を行うんですけれども、一人の方だけ私が指名をさせていただいて、本日は終わりたいと思います。  では、広野ただし君。
  44. 広野ただし

    広野ただし君 本当に参考人の皆さんにはお疲れだとは思いますけれども、どうも最後になるようですのでお願いをしたいと思いますが、やはりこのアジアだけではなくて、世界にとって隣の中国というのは非常に、決して看過できない大きな存在としてもう出てきているわけですよね。しかも十三億の民を持って、日本の大体四分の一のGDPを持っているというような状況の中で、中国とどう付き合うかという考え方がしっかりとしていないと、そのFTA戦略全体に対しても大きな影響を持つんではないのかと、こうやっぱり思うんですね。  先ほど伊藤先生がODA削減について、まあ原則が、世界全体に対して原則がしっかりしておれば削減してもいいんじゃないかというお話もありました。私もODAについては、日本はもうこんなに借金国なのになぜ中国に対してODAを続けるんだろうかという考えを持っていまして、もう国交回復三十年、しかも中国は核保有国である。また、軍事予算も日本と正に並んで、物価から見れば何層倍にもなる軍事予算を持ってやっている。しかも、軍事援助までやっている国ですよね。そういう国と、私は何も敵対視するんではなくて、対等の関係で付き合っていけばいいんではないかと。ですから、ODAは正に環境ですとか人道支援にもう限ってしまうということでやればいいんではないかと思っております。  実際、アメリカ中国に対してはODAはもうゼロ。まあ、元々共産圏だからということで出ていませんし、イギリスも数十億円の規模でしか中国には出していない。日本だけがまだ、減らしたと言っていますけれども一千億円も出しておると。こういう状況ですから、中国をどう見るのかということに対して非常に、によっていろんな戦略が違ってくるんではないかと思います。  私は、中国は非常にもうテークオフしちゃっていて、日本の空洞化の一つの大きな要因にもなっているわけで、そこは自然体で備えていけばいいんであって、ODAまですることはなかろうと、こう思っておりますが、その後、前段はちょっと長過ぎましたが、いずれにしても中国が中期的にどうなるのかということはもう本当に大切な見方でありまして、この間、大勲位の中曽根さんがインタビューに答えて言っておられましたけれども、オリンピックと万博、二〇一〇年ぐらいまではもう必ず発展をするだろうと。  しかし、その後、ある発展段階に行ったときに民主主義になり、いろんな情報がいろいろと入ってまいりますし、あるいは経済格差が内地等の間でどうなるのかというようなこともいろいろと出てくるということですから、一五年以降、二〇一五年以降どういうような形になるのか。一党独裁の共産国としてずっとあるのかどうかというようなことも非常に絡んで、そういうものが日本アジアにおけるFTA戦略なんかとも非常に絡むんではないかと、こう思うんですが、中国に対しての御見解をそれぞれ、やはり中長期的な御見解をお伺いをさせていただければと思います。
  45. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 本来、政治家が回答する問題ではあると思うんですが、先生方の私的な御意見をざっくばらんにお聞かせをいただきたいと思います。
  46. 木村福成

    参考人木村福成君) 金融マクロ面とかのある程度のリスクとか、あるいは政治体制の転換がどんなふうに行われるかという、そういうふうなリスクは確かにあるかもしれないと思うんですけれども、実物面の経済発展の状況を見る限り、このまま順調に伸びても全然不思議はないなというふうには思っているし、やっぱりそれを前提にどういうふうに中国と付き合うかをやっぱり考えなきゃいけないんじゃないかなと私は思っております。  やっぱり一番の強みは人的資源ですよね、だと思います。そこがやっぱり圧倒的に強いし、それから指導者層がどんどん若返っているし、それから、やっぱりいろんな面で我々が考える以上にある意味で風通しのいい国になってきているのかもしれないと思います。だから、やっぱり七%成長、二〇一〇年ぐらいまでは当然いくだろうし、その先もまだまだ、七じゃ伸びないかもしれないけれども、二〇二〇年までに日本とGDP規模が同じになるぐらいはいくという前提で考えるべきじゃないかなと、少なくとも経済的には思っております。
  47. 伊藤隆敏

    参考人伊藤隆敏君) 私も木村さんとほぼ同じ意見で、マクロ的に見れば、マクロ及び産業構造的に見ればまだまだ成長余地はある。したがって、これから十年、二十年、七%、八%、九%といったような成長率が続いてもおかしくない。日本の高度成長のころ、五〇年代、六〇年代、七〇年代の初めまで続いたああいった高度成長を今、中国が経験しているということだと思います。  これが政治体制に、もちろん中産階級がどんどん出てきて豊かになってきて、その政治体制がこのままいくのかというのは重要な問題提起だと思いますが、私のちょっと専門からは外れますので、憶測は避けたいと思います。ある時点で民主化の方に行かなくては、行くようになるだろうということは言えますけれども、それがいつなのか、どういう形を取るのかというのはちょっと憶測はできません。  ただ、私が見ている限り、非常に中国としてのその国家的な意思がはっきりしていて、戦略がはっきりしているという点でかなり、そういう経済的な力を政治的に生かそう、あるいは政治的な力を経済に生かそうというところがはっきりしている点、昔の日本とは違うんではないかと。日本は、できるだけ政治的なものを絡ませないようにしよう、日本の意思というものをはっきり見せないようにしようと、むしろ殺していた面があるので、その点が昔の日本と今の中国というものがかなり違うという点だと思います。
  48. 大貫義昭

    参考人大貫義昭君) 非常に重要な問題ですが、経済的には今のままでしばらく私はまいると思います。  あとは、国家統治の形態についてはどうなるのか。これは正に先ほどどなたかおっしゃったように、政治家さんの皆さんの分野でございますが、私は多少の分権的な動きというものは出るのかなと。これは中国人の知恵ですから、アンコントローラブルになったときにはうまく分権してやっていくと。別にそれは分裂ではなく、統率が取れた分権体制ということに何かいくんではないかなというような個人的な見解です。  あと、どうなんでしょうね、それ以上申し上げても蛇足になりますので、以上でございます。
  49. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) どうもありがとうございました。  予定の時刻になりましたので、本日の質疑はこれで終わらせていただきたいと思います。  一言ごあいさつを申し上げます。  お三方の参考人におかれましては、三時間という長時間にわたりまして大変貴重な御意見をお述べいただきまして、おかげで大変有意義な調査を行うことができました。皆様方のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼とさせていただきたいと思います。  また何年か後に、その後の変化にどのようにお三方が対処をされたか、またこの調査会で、私が調査会長でありましたら、またおいでいただいてお話をさせていただきたいと、そのように思っております。  ますますの御活躍をお祈り申し上げまして、お礼のごあいさつにいたします。(拍手)  本日はこれにて散会をいたします。    午後四時二分散会