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公述人(廣瀬幸一君) 廣瀬です。
私は、いわゆる研究者でもなく、テーブル上でいろんな
数字を並べて計算したりするそういうたぐいの人間ではなく、実務をしております。特に中小零細企業を相手としまして、社会保険や労働保険、それから
個人の
年金相談等も日々行っている、全く実務を行っている者であります。その観点から
お話ししたいと思います。
今回のこの
改正案、私は
改革という名前はちょっと使いたくない気持ちでありまして、この
改正案を見まして、一体どこまでこの
年金制度を複雑にするんだという思いがまず立ったわけであります。現在の
年金の仕組みを理解することは、通常の素人、一般市民ではまず不可能です。これを確実に理解するのは専門家以外にはありません。
厚生労働省の官僚の一部、それから役所、特に
社会保険事務所の一部、それから社会保険労務士のこの我々それを仕事としている者、こういった、それから学者、研究している学者、その辺りかなと考えております。
それを踏んまえまして、まず
一つ事例を申し上げます。
例えば、昨日、五月三十日にある会社を退職したとします。今日、別の会社に面接に行き、めでたく、あしたから来てくれよということになったとします。この場合、この方は昨日付けで退職、今日一日空きまして、あした別の会社に入ったとします。この場合、
国民年金はどうなるでしょうか。一か月は
未納になります。まずここのところ、これが、今回いろいろ
未納、一か月
未納だとかいろいろ、二か月、三か月
未納の人もたくさん出ましたけれども、こういったことになるんです。一万三千三百円を持って市役所に、
社会保険事務所が徴収ですけれども、市役所が手続を今しているんですけれども、出向けばそれは一か月は埋まりますけれども、果たしてするでしょうか。まずこれが具体的な最近起こった
未納問題の
一つの事例であります。
これは別に複雑な、この
国民年金だけの相談というのは私どもは決して複雑ではない。これが複雑だと言われるのならば、もう一歩も前に進めないほど
年金制度は複雑になっております。
というのは、
昭和六十一年にこの基本構造、今のができたんですけれども、全然変わらずに、継ぎはぎを当てて、あたかもパッチワークのように、中がもう全然、どういう色をしていたのか、どんな材質で中が使われているのか、もう全く見えないくらいの状態になっているのが
現状であると認識しております。
もう
一つ、今いろんなことが起こっているのは、モラルハザードということを非常に感じております。これは事業所もそうですが、一般の
国民、
未納、大変多い状態でありますが、これは後ほどまたちょっと御
説明、時間があればしたいと思います。
それで、現在の
年金のこの
改正案を見ますと、百年持続させるということをうたわれております。
法案にも書いてあって、非常に私は百年というこの年数を、一九〇四年に百年後の現在こうなるということを予測できた人はちょっといないんじゃないかなと。今後百年間も、やはりこの間に何が起こるか分からない。いかなる
制度であろうとも、百年もたすということを宣言してしまうというのは余りにも度胸がいいんじゃないかと。ここにいる人はだれも生きていないはずであります。責任の取りようがありません。これは
制度だけではなく、いかなる文物も百年後はどうなっているか分かりません。まず、そこが非常に私は違和感を持ったわけであります。
それから、非常に無理な計画も、これは
法案には盛り込まれていないので、また後ほどこれは御
説明しますが、短時間
労働者への適用だとか、いろんな問題があります。
そこで、
保険料徴収の問題というのがございまして、今、
国民年金、この場合は払うのは一号被
保険者と言われている人たちですが、大変に多くの
未納者、滞納者を出しております。今、強制的に徴収をするということを始めておりますが、これは私はちょっと無理なんじゃないかなと、単なるこれはポーズなんじゃないか、そのように考えております。
独裁国家でもないこの日本が、おしなべて今の三十数%と言われる滞納者をそこから取り立てるということが果たして可能なのかどうか。それじゃ今まで、数%ぐらい
未納の時代というのがありました。
昭和三十六年に
国民年金が発足して以後、かなりの率で支払っていた時代があります。それから徐々に増えて今になっている。特にこの数年間がひどいんですが、今まで
未納者が増えたときに、じゃ何をしていたんだと。確かに、市役所の人が人を使って巡回して徴収するというようなことは確かに見受けられましたが、取立ての仕組みとしてそういうことをしていたわけではないということであります。
もう
一つ、
厚生年金でありますが、これは不思議なことに、今、
厚生年金の適用事業所というのは毎年減っております。これは実は、会社の数がどんどんどんどん減る。会社ももちろんなくなるんですけれども、本当になくなった会社は、それはそれで確かに社会保険もなくなるというのは当たり前ですが、存在しているのに脱退をしているという事実が広く知られております。これに目をつぶっていろいろな新しい
法案を作り出すというのはいかがなものかと。
実際、
厚生年金というのは法人であるならばすべて強制であるはずでありますが、会社で適用していない会社というのはもうそこらじゅうにある、それが現実であります。
国民年金のこの
未納者の中には実はそういう会社に勤めている方が数百万人私はいると見ています。例えば、そういう人たちに事後払いなさいといって、もし、私は会社に勤めているんだから本来
厚生年金だよ、会社に言ってくれよと言われた場合にどのような返事をされますでしょうか。
厚生年金は会社が手続を行うのが義務です。最近、総理
大臣がいろんな過去の
厚生年金のことでやられていますけれども、あれ
法律的には実際は
事業主が義務ですからね、入るやめるというのは。本人に果たしてそれを言うというのはいかがなものかなという感じはしております。
もう
一つ、
国民年金にとって面白い話というか興味深いのは、会社を辞めて例えば
国民年金、これは自営業になるか無職になるかは別として、
国民年金の一号になるわけですけれども、その際、医療は
国民健康保険というのに入るのが原則です。若干違う場合もあるんですけれどもね、その前の会社の任意継続の保険を使うとか。原則的には
国民健康保険に入るのが普通です。したがいまして、
国民健康保険に入って保険証をもらって
国民年金の手続をするというのがオーソドックスな形であります。ところが、保険証だけ持っているけれども
国民年金には入っていない人がたくさんいます。これ一体どういうことでしょうか。本来、
国民年金に入らなければならないはずであります。
国民健康保険だけに入ることが、これは
地方自治体のやり方によっても違いますけれども、別の手続ですね、
厚生年金と
健康保険というのは
一つの一元的に手続するんですけれども、
国民健康保険と
国民年金とは全く別にやりますから、医療だけに入って
年金には入らないという人が実は非常に多いのであります。
これは非常に不思議な話でありまして、
国民健康保険の方でも徴収率は八割、つまり二割は
未納であります。
国民健康保険はちょっと厳しくて、
未納を続けますとその人は保険証を取り上げられるんですね。したがって医者に掛かれなくなるということで厳しいんですが、それでも二割の滞納があります。
国民年金はどうでしょうか。そういう人たちが果たして払うかあるいは払えるか。そういう問題もまずお考えいただいて、その辺をクリアにしないで新しい
方向に進むというのは、全くこれは何かを置いてきぼりにしているんじゃないかということであります。
もう
一つ、この今の社会保険の適用という問題でありますが、特に最近よく起こるので、時間がないので余りたくさんはしゃべりませんが、六十代前半の方、これは会社に働きますと
年金が削られる、あるいは全くもらえない場合もある、そういう
状況になっております。これはやはり、手続は
事業主が行いますから、手続をしませんと社会保険に入らずして
年金は全部もらい続けることができ、現在そういう人いるんです、たくさん。途中で、特に会計検査院というのが時々検査に入りまして発見しまして、これは駄目だと、あなたは会社に勤めているじゃないか、社会保険、
厚生年金に入りなさいと、さかのぼって、最大二年まではさかのぼれますから、入って適用します、その人を入らせます。二年間に受けた
年金を全部召し上げという、こういう事件といったらいいか、そういうことがしばしば起こっております。その場合本人は、最初に述べましたように、
年金等の知識については全くないという場合も決して少なくないのでありまして、本人だけのせいにするのもこれはどうかなと。会社がこれをやらなかったというのが逆に今悪いということにはなるんですけれども。それにしても、本人も非常に怒ってみたり、あるいは人によっては罪悪感みたいなものまでまじめな人は持つ、そうだったのかということで、大変な問題というのがしばしば今起きているんでございます。
私のこの一枚の紙なんですが、その下に、半分よりちょっと下に「複雑な多様な働き方 六十代前半」ということでいろんな、クモの巣みたいになっていますが、いろんな
状況が発生するんであります。特に、今、賞与からも
保険料を引くということになってからますます複雑怪奇なものになりまして、その人の
年金が月々増えたり減ったりするという、そういう
状況が起きております。こういう複雑な
制度はどこかで清算しないといけない時期に来ている。
したがって、私は今回の構造の全く
変化のないこの
改正には到底納得ができないということであります。
以上です。