○保坂三蔵君 二院制と参議院の在り方に関する小
委員会の経過について御報告申し上げます。
本小
委員会は、平成十六年二月十八日に設置され、三月十二日、四月十四日、五月十九日にそれぞれ
参考人質疑をした後、小
委員間で
意見交換を行いました。その主な内容は以下のとおりであります。
三月十二日の第一回小
委員会では、国立国会図書館
調査及び立法考査局政治議会
調査室主任・北海道大学名誉教授高見勝利氏から、二院制と参議院の在り方をめぐる論点について
意見を聴取いたしました。
高見
参考人からは、一院制についての問題点、参議院の意義・役割・権能・組織等についての
憲法にかかわる問題点が述べられました。
まず、一院制については、効率性を重視する観点から支持する
意見もあるが、一院制を
制度化する場合、少数派の権利を第二院において治癒・保障する可能性が奪われるという問題点、また、全議員の
地位を奪う解散権の濫用を抑制する
必要性等が指摘されました。また、「一・五院制」と言われるノルウェーの例を引かれ、強力な立法権を抑制する手段として立法府内で権限の分割を図る意義が示されました。なお、二院制と一院制との間の移行について、一院制への動きは北欧等
歴史的背景がある国や新興の独立
国家を中心とする話であり、
民主制への移行、連邦制の導入に伴い、ロシア、フィリピン等、一院制から二院制へ移行する動きがあり、第二院の機能・役割が強くなってきているとのことでした。
次に、参議院を強化し対等な両院制を採用した場合の問題点として、両院間の意思が不一致である場合の解決策に窮する点、一院のみが内閣不信任決議を行った場合の他院の解散可能性、信任
関係等、両院と内閣との三者
関係が複雑になる点が指摘されました。
さらに、本年一月の最高裁大法廷判決を引きつつ、参議院の地域代表性は
憲法上の要請ではないこと、もし地域を代表する院として構成するなら、同じ
憲法の平面上で少なからず投票価値の平等との調整が求められることになるとの指摘がありました。
今後の解決策としては、選挙
制度については政党単位ではなく個人を選ぶ
制度を工夫すること、
法律案再議決要件を緩和し停止的拒否権や遅延権にとどめること、両院協議会の実質化等が提示されました。なお、党議拘束の緩和については法的規制になじむものか難しいとのことでした。
小
委員からは、効率性の観点のみからの一院制の採用に対する疑問、
地方議会と国会を同一視した一院制の
議論に対する疑問が呈され、また、参議院の独自性の発揮を阻害するものとして、
衆議院と行うことが同じであること、衆参をまたがる党議拘束の
存在等の問題点が指摘されました。また、衆参は対等であるが役割と権限は別にすべきである、衆参のめり張りを付けるべき等の見解が示され、さらに、この点について、参議院は必ず修正案や附帯決議を出すようにし、修正案提出のルールを整備し
意見が結集するようにすべきであるという
意見、首班指名・予算・条約等は参議院の
議論で変わる要素がないことから審議の意義に疑問を呈する
意見、参議院は予算審査を簡便にし政策評価、決算審査、条約審査を重視すべき、中長期的な視点に立つ
調査会を重視する
意見等が出されました。さらに、参議院選挙については、政党ではなく人を選べるものとすべき、参議院が政党化し
衆議院と同じような選挙
制度を取っているところが問題であるとの指摘がありました。
四月十四日の第二回小
委員会では、
日本大学法学部教授岩井奉信氏、京都大学大学院法学研究科教授大石眞氏及び東京大学大学院法学政治学研究科教授蒲島郁夫氏から、参議院改革を中心に
意見を聴取いたしました。
岩井
参考人からは、先進国で大国である国は安定性が高い二院制が主流でありこれを生かすには機能分担により参議院が独自の
存在意義を
国民に認められることが重要、政権の帰趨を左右するものには、政権創出・決定の院である
衆議院の優越を広く認め、参議院は長期的な問題、政策の評価、
調査、監視、決算等、チェックに重点を置く監視の院として
権威を高めることが重要ではないか、両院にまたがる事前の党議拘束が
日本の立法過程の最大の問題である、国会改革では無用論の危機感がある参議院の方が先進性を示してきたとの
意見が出されました。また、個人の識見を生かすには全国的に優れた人材を集める旧全国区型と
地方の識見を集めるドイツの連邦参議院型が
考えられる、個人中心、地域代表の、各県二名、小規模でスタッフ・予算が充実した
権威ある院を提案する、と述べられました。
大石
参考人からは、我が国では一億人を超える有権者の多様な意思を一院で集約できるか疑問、両院制、会期等マクロ的問題は両院が合同審査会等で
議論しそれぞれ独自性を発揮できる体制を作る必要がある、国会法は各院の自律権を保障した
憲法五十八条の趣旨に反し両院制採用の趣旨を損なう嫌いもあるため原則的に廃止すべき、会期
制度・会期不継続の原則を改めて立法期・議会期
制度を採用すべき、参議院改革は両院制の在り方の問題であり、五十九条を改正し
衆議院による
法律再議決要件を単純多数決に改める、総理指名にかかわる六十七条の改正も視野に入れるなど、一院制型両院制の
考え方を推し進めることが望ましい、との
意見が出されました。また、各国に共通する上院の組織原理はないが、両院選挙が類似していることは両院制の趣旨を損なう深刻な問題である、長期的展望に立つものは参議院に重心を置くことが望ましく、そのためには任期延長も一つの選択肢である、識見を持つ個人が当選し得る選挙
制度が必要で、定数削減の方向には反対である、
地方分権理念にのっとる地域代表院もあり得る、と述べられました。
蒲島
参考人からは、今日、強くなり過ぎた参議院が批判されるが、活性化は
日本には良いことでありもっと弱くなれとはおかしい、両院の役割分担は政党内の運営により可能である、参議院議員の若年化・女性比率の増加・高学歴化はプラスの方向である、審議時間、党議拘束等に弾力性の確保が大事、与野党協調が信頼できれば党議拘束をある程度緩和することも可能である、との
意見が出されました。また、参議院選挙は業績選挙、争点選挙になりやすく、有権者に選択肢を与える意義がある、全国完全比例代表なら一票が完全に平等となる、間接選挙制については結果は大差がなく、直接選挙の方がすっきりする、と述べられ、むしろアメリカ上院のような強く賢い参議院を目指してはどうか、との提案がありました。
小
委員からは、一院制について、
現行の
憲法改正手続が前提ならいわば自己否定する参議院議員が三分の二に達することはあり得ず一院制の論議は無
意味、一院制は冷静な
議論ができる
国民性でないと混乱を招く、参議院の
存在意義・果たしてきた役割については、党の部会では参議院議員のリードもあるが議事堂外の活動は
国民に伝わっていない、国論を二分する問題で参議院が大きな役割を果たしてきている、参議院議員には女性が多く、多様な民意を反映する意義がある、等の
意見が出されました。
衆参の役割・機能分担として、参議院の決定にかかわらず
衆議院が優越する条約も予算と同様に
衆議院先議として
憲法上の規定で自然成立させればよい、長期的テーマは参議院、短期的なものは
衆議院という役割分担も
考えられる、また、法案審議等の在り方として、参議院で部分的な修正をより活発に行ってもよいのではないか、議院内閣制下では議員立法は難しいが修正協議に対する弾力化、柔軟化が実質的審議活性化の突破口になる、フランス、ドイツ等の報告者制を導入し、法案の修正協議を実質的にしやすい
制度を取り入れてはどうか、現場からの修正に柔軟に対応できる体制を作るべき、さらに、政党との
関係について、衆参にまたがる党議拘束が参議院の独自性を阻害している、衆参の定数の較差により党派内の決定において参議院従属となる現状をどうするかの
議論が必要、政党を
憲法附属法としての議事法令でフォーマルに
位置付ける必要がある、日程政治からの脱却にはより充実した
議論とその結果が法案・予算に反映される
制度的担保が必要である、等の
意見が表明されました。
選挙
制度については、参議院らしい人材を選出するための個人本位、脱政党の選挙
制度の採用に関する様々な
意見が出され、また、年金問題等では若い世代に代表者が出せない問題があり、比例代表で世代別クオータを
考えられないか等の提案もありました。
これからの参議院のあるべき姿として、選挙で何十万人もの支持を得ており、政策形成において各政党内で重要な役割を果たしていること、並びに、官のポストを求めず一家言持つ議員の集まりというところに参議院の
権威を求めるべき、また、参議院改革のキーワードである弾力性、熟慮、再考を反映して与野党の壁を超え改革を打ち出せないか、等の
意見が表明されました。
五月十九日の第三回小
委員会では、政策研究大学院大学教授飯尾潤氏、駒澤大学法学部教授大山礼子氏、元
日本経済新聞社論説顧問金指正雄氏から、選挙
制度の在り方を中心に
意見を聴取し、その後、第一回から第三回の小
委員会の総括として
委員間の自由討議を行いました。
飯尾
参考人からは、二院制が奥行きある政治をもたらすには第二院が政権から距離を置くことが前提であり、政権の帰趨にかかるものについては
衆議院を尊重し、参議院は与野党対立・
権力争いの場では抑制し、決定
事項は
衆議院に任せ、党派対立になじまぬ政策課題を処理することで国政に寄与できる、決算も含めた行政監視、人事、外交案件、さらに
憲法改正を伴うが司法部との
関係を
考え直すのも一案である、両院協議会が機能しないのは残念であり、その使い方を工夫すべき、党議拘束は参議院では再考の余地がある、一方、再選されるためには政党の力が必要なので再選を制限するとともに、任期を長くするのも一案、との
意見が述べられました。
選挙
制度については、これは最善という
制度はない、
衆議院は多数者の、参議院は少数者の
意見が表れるのが望ましく、そのため、
衆議院では
国民の意思が
一体となる単純な選挙
制度が良いが、参議院は多様な民意を得られるような組み合わせを
考えてもよい、任命制等については現に公選制であるものを非公選とするのは難しいし
国民の理解が得にくい、一票の較差問題については
憲法が
国民代表とする以上は
地方代表性よりも一人一票原則が優先する、選挙をすれば必ず政党の力が強くなるので緑風会の再来は難しい、とのことでした。
大山
参考人からは、理論的には二院制は自明のものではなく、多様化する社会の中で一院制とどう違いを発揮するかが重要、参議院
調査会の立法などの成果は、女性議員の比率が高いなど
衆議院では十分に代表されていない多様な
意見が反映されていることや非党派的・客観的
議論が
存在していることを
背景に実現したものであり、これらを強化する方向の改革を提言したい、北欧の一院制は、完全比例代表で少数者や女性も出やすいが人口規模はいずれの国も三百万人程度で
国民と国会の距離が
日本とは異なる、衆参の機能を分離するとしても法案審査まで否定しては枢密院になってしまい適当でない、
委員会でより客観的、非党派的
議論を行い立派な報告書を出すことと、修正案提出を活性化することを期待する、公聴会の
議論を報告書にし
国民に提供するなど、国会の情報発信を期待する、どの議員でも政府へ口頭質問できる時間を設けてはどうか、との
意見が述べられました。
選挙
制度については、
衆議院が小選挙区なら参議院はそれと違う比例代表制が良く、多様な民意を反映するため全国規模か大きな選挙区単位の拘束名簿式比例代表制も一案である、非拘束名簿式は個人本位のようだが実際には選挙に強い人が勝ち、
衆議院と同様の人が当選する結果となる、拘束名簿式であれば政党が見識ある人を上位にしたり男女交互に掲載することも可能となる、議員定数を極端に減らせば
権威は上がりそれなりの人が出るかもしれないが各県選挙ごとに一人では小選挙区と同じになってしまう、女性議員はまだまだ少ないからといってクオータ制を強制することは適当でなく、ドイツ基本法のように
憲法により男女同権を全体的に促進していくのも一案である、との
意見がありました。
金指
参考人からは、政治記者時代に参議院に接し、論客の見識に触れて感銘を受け、また二院制は良いと実感した、
衆議院は
権力に密着し、参議院は冷静に眺めるのが基本でいい、
衆議院は同じ国益を踏まえても現実処理に追われるから、参議院の役割は再考の府として長期の任期を生かし社会益、人類益まで
考えることであり、六年間を使い違った物差しで見えなかったものが見えてくることに値打ちがある、二院制は国の成り立ちにより異なり選挙
制度はその
象徴だが
制度に手を入れても政治・政党の力が常に
制度を超えようとするので
制度変更ばかりしても仕方ない、参議院選挙は多党化や政党離れなど世の中の流れを先取りしており一種の先行指標となっている、かつての全国区は少数
意見を反映していた、二票制は分割投票が可能であり有権者が政党に引きずられずに主体的に選択できる意義がある、との
意見が述べられました。
小
委員からは、二院制について、
最初に二院制ありきということではなく
国民にとって一院制と二院制のどちらが望ましいかという立場からの
議論が大事、一院制には効率性と円滑な政権交代が可能というメリットが、二院制にはダブルチェックと多様な意思の反映というメリットがあり、自己防御のため独自性論を主張するのではなく良識の府としての立場から
考えるべき、二院制は
民主制にとって必要でありこれまで十分に機能している、等の
意見が出されました。
参議院の
存在意義・果たしてきた役割について、参議院の活動を見て
国民が面白いと思うことが大事である、参議院は
衆議院と違う長期、
国家基本の問題を
議論してはどうか、六年間の任期を生かし、DV防止法等ができるなど
調査会活動の成果が上がっている、会派構成の異なる参議院が後に控えていることによって、「荷崩れ」を起こさないよう
衆議院が修正するなどの意義もある、
委員会では
参考人を多く招くなど独自の専門性を出すよう努力している、等の
意見がありました。
衆参の機能分担については、一般的な法案は
衆議院のみで成立させ、特別の法案や条約は参議院まで回してはどうか、参議院に違憲立法審査権的機能を持たせ、これが
権威の根源になるようにしたい、いかに賢い熟慮の院にするか、
衆議院との割り振りやルール作りが必要である、法案審議では成否の判断は
衆議院に任せるとしても運営や修正の工夫によって参議院の独自性を発揮してはどうか、等の
意見がありました。
選挙
制度については、上院として敬意を集めるには議員数を少なくし直接選挙で選出すべきで、全国単位と
地方ブロックを併用し、定数是正はブロックごとに行えばよい、同じような選挙
制度の二院制は混乱のもとであり、
法律で候補者推薦審議会を作るなど、かなり思い切った改革が糸口になる、参議院選挙は定期的に行われバランスが保たれている、参議院議員は県又は全国の支持がある、任命制・推薦制については、今日の
日本ではだれが有識者か選びにくく、選挙によるのが最も良い、参議院の投票価値の較差是正は喫緊の課題である、一票の較差の点からは比例代表制が最も優れているのではないか、等の
意見がありました。
これからの参議院の在り方については、任期延長、再選・三選禁止も一考に値する、参議院議員は行政に入らず議員としての職務に専念し、
国民の側に立ち監視することで独自性が発揮できる、さらに、仮に一院制とするなら元老院を作るか、ノルウェーのように一回の選挙で小選挙区選出議員は
衆議院に比例選出は参議院とすることも一考である、等の
意見が出されました。
以上、御報告申し上げます。