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参考人(
大西正悟君) 今、御紹介いただきました
弁理士の
大西正悟と申します。
まず、
参考人として
意見を述べる機会を与えていただいたことにお礼をいたしたいと思います。
私は、大学を卒業した後約十年間余り
企業に勤務した経験を持っております。その間、機械メーカーでして、変速機の設計業務に従事して、数件ですけれ
ども発明提案を行って、
発明者としていわゆる
従業者の
立場に立った経験がございます。この
企業勤務の後、
弁理士業界に転職いたしまして現在に至っておりまして、
職務発明を含む種々の
発明、それに対する
特許出願等の代理業務を行っております。また昨年来、
産業構造
審議会の
特許制度小委員会のメンバーとして今回の
特許法改正の審議に参加させていただいております。このような経歴を踏まえまして、今回の法
改正における三十五条の
改正について
参考人の一人として
意見を述べさせていただきたいと思います。
お手元に四枚つづりの資料を配付させていただいておりますけれ
ども、これに沿って説明させていただきます。
まず、
特許法は、第一条において、
発明の保護、利用を図ることにより、
発明を奨励し、
産業の発達に寄与するという法目的を有しております。当然ながら三十五条についてもこの法目的の下で
規定されておりまして、三十五条第一項において、
職務発明については使用者に法定の通常実施権を与える、認める。さらに、第二項において、あらかじめ
職務発明に係る権利を承継することを認めるという、いわゆる
使用者側に一定の権利を与えるということを認めまして、
発明奨励
意識を高めているんではないかと考えております。一方、第三項におきまして、
職務発明を承継させた場合、使用者に承継させた場合に
従業者に対しては
相当の
対価を受ける権利、
対価請求権を認めまして、
従業者の
発明奨励
意識を高める、こういう
規定ぶりになっております。なお、第四項においては
相当の
対価に関する考慮事項を
規定しておりまして、
現行の
規定では、
発明により使用者が受ける
利益及び
発明がされるについての使用者の
貢献度、この二点を考慮して
対価を算定するという
規定になっております。
こういう
現行の
特許法第三十五条、
職務発明制度の
問題点を幾つか考えてみたいと思います。
まず、
現行第三十五条の
規定は、強行
規定であるという解釈が最高裁
判決でなされております。このため、例えば
職務発明に関する
特許製品が実際に市場に出てヒットして非常に
使用者側がもうかったような場合、この場合に、既に払われた実際の
対価、それが実際の
企業の
利益を考慮して少ないというような
判断がなされますと、後で事後的に不足分を請求するという
訴訟が可能なような
規定ぶりになっております。このため、
使用者側にとって
対価の
予測可能性、承継した時点で
対価を決めるということに対する
予測可能性が低いという問題があります。また一方、
従業者にとっては、
自分の
発明が非常にヒットして
使用者側がもうかっているのに、それに対する、
対価に対する
評価が低いといいますか、十分な
評価がなされていないということで
対価に対する納得感の不足があるということが
指摘されております。これは、いずれも第四項の
対価の
決定に際しての考慮すべき事項が若干あいまいな
規定になっているというところに問題があるのではないかと考えられます。
二枚目に移りたいと思います。
現行三十五条はこういった問題がありますので、三十五条は廃止してもいいんじゃないか、そうすればこういう問題がなくなるんではないかという
指摘もされております。そこで、幾つか、廃止、全廃する論と部分廃止論について考察してみたいと思います。
まず、すべて、三十五条すべてを廃止する場合、この場合、先ほど説明しましたけれ
ども、第一項の法定通常実施権及び予約承継を認めるという
使用者側にとって一定の与えられる権利、これもなくなります。法文上なくなります。ということは、新たに
職務発明すべてについて譲渡
契約等を
使用者側は
従業者と結ぶ必要がある。結ばないと
発明は原始的には
発明者である
従業者に帰属するという考えですので、何も
契約がないと
職務発明の
発明者である
従業者に
発明が帰属するということになります。つまり、三十五条がなくなるとすべて
契約至上主義的な考えが必要になると思います。
しかしながら、現在の
日本で米国におけるような
契約がすべてであるという考え方が成り立つかどうか、やっぱり若干疑問と思っております。特に、
中小企業におきましてそういう細かな規程、
契約規程が十分に担保できるか、そこはかなり問題があるのではないかと思います。特に、
契約による
対価を定める場合の
立場の強弱がありますので、例えば
従業者に
不満な
契約となって、
発明創作意欲がそがれて法目的に合致しなくなるという問題も考えられますので、全廃論に関しましては少なくとも現時点では賛成できないと考えております。
次に、部分廃止論、第一項、第二項はそのまま残しまして三項、四項を廃止するという考え方もあります。
一項、二項は、使用者に一定の権利、通常実施権及び予約承継の権利を認めるものです。一方、三項及び四項は、
職務発明の承継に対して
対価請求権を認めるという、
従業者にとっての一定の権利を認めるものです。この
状況の下で第三項及び四項のみを廃止しますと、
従業者に一方的に不利になる
改正と考えられます。このため
従業者の
発明奨励意欲をそぐような
規定となるおそれがありますので、やはり部分廃止論についても賛成し難いと考えます。
続きまして、次のページ、今般の法
改正について
意見を述べさせていただきます。
現行第一項—三項と同一
内容の
規定を新しく
改正されました新第一項から三項に
規定しております。これは、使用者に通常実施権を付与する、さらには
職務発明については予約承継を認める、さらに
従業者には権利承継に対する
相当の
対価を、
対価請求権を認めるという
規定で、使用者、
従業者両者の
発明奨励
意識を担保する現在の法の
趣旨をそのまま踏襲しております。
現行の第四項、
対価請求権の考慮事項なんですけれ
ども、それを新しい第四項、第五項として
改正規定されるようになっております。
新しい、新第四項におきましては、
契約、勤務規則による
対価を定める場合には、これが不合理であってはならないという
規定になっております。この
規定から見ますと、まず、
対価は当事者同士の取決めが原則であると考えられます。これによって使用者による一方的な
対価取決めに対する抑止効果が図られまして、使用者及び
従業者双方が納得できるような取決めになると考えております。この結果、双方の納得のいく取決めで
対価が決まりますので、使用者にとって
対価予測性が低いという問題が解消できると考えます。さらに、
従業者側にとっても
自分が納得して決まった
対価ですので納得感の得られる
対価設定という効果が得られ、現在のような
職務発明に関する
対価の
訴訟、そういうケースも少なくなるんではないかと考えております。
続きまして、新第五項、これは、
対価の定めがない場合、若しくは
対価の定めが不合理であるというふうに
判断された場合の
対価の算定についての
規定です。これによって、
対価の定めがまるっきりないような場合、これでも
対価を受ける権利を有するということを
規定しているのではないかと考えます。
さらに、新第五項におきましては、
対価決定の考慮すべき事項を従前の
現行法第四項に比べまして詳しく
規定しております。特に、
現行法では、
発明がされるについての使用者の
貢献度を考慮ということですけれ
ども、今回は
発明に関連した使用者の負担及び
貢献度ということになりまして、以前は
発明されるまでの
貢献度とも読み取れたんですけれ
ども、今後は、新第五項におきましては、
発明がされるまでの
貢献度のみならず、
発明承継後の使用者が
特許権利化を図る
努力、それから
特許製品を実施化する
努力、さらには販売、営業等の
努力、その辺の
貢献度も十分
評価された
対価が期待できて、実情に即した使用者、
従業者ともに双方納得できる額の
判断がなされるんではないかと期待できると考えております。
次のページに移らせていただきます。
改正法に対する幾つか私なりの見解を書かせていただきました。
まず、
特許制度小委員会におきましては、
対価の
決定が不合理でなければその
対価を尊重し、不
合理性の
判断は手続面を重視という提言がなされております。今回の法
改正はこれに沿ったものであると考えております。特に
合理性の
判断においては手続面を重視ということで、
対価決定に至る協議
状況、
対価決定基準の開示
状況、それから
従業者等からの
意見聴取
状況等をかんがみて不合理かどうかを
判断するという
規定になっております。
ただし、この手続面
規定だけ、表現から分かりますように、やはりまだまだ
判断基準はあいまいじゃないかと考えております。これに関しては
特許制度小委員会において
特許庁のコメントも出されておりますけれ
ども、
参考となる手続例をまとめた事例集により基準明確化を図るということでございます。このため、こういう基準事例集をできる限り早期に作成して公表が求められていると考えます。
二番目といたしまして、新第五項における
対価の設定についての
規定ですけれ
ども、
現行と同じ、使用者の受ける
利益を考慮する、これは同じなのですけれ
ども、その次に、
発明に関連した使用者の負担及び
貢献度を考慮する、それから
従業者の
処遇その他の事情を考慮するというふうに、
現行法よりかなり詳しく
規定されております。これによって、先ほど来説明しましたけれ
ども、使用者及び
従業者双方の種々の事情を考慮した、実情に即した双方に納得のしやすい
対価判断ができると期待しております。
最後に、若干私見になるのですけれ
ども、
現行第四項の
規定があいまいであるという
指摘がいろいろなされております。
今回の新五項は
現行第四項を受ける形で
改正されておりますけれ
ども、その
改正内容は
現行四項の
内容に加えて新しい事項を追加したという解釈ではなくて、
現行第四項の若干あいまい性の残る
規定をより詳しく明確に
規定したというふうに解釈できるのではないかと思います。これによって、
改正第三十五条は遡及適用はないということですけれ
ども、
現行三十五条の下での
職務発明の
対価請求が、
対価訴訟があった場合の算定に際しまして、新第五項の
趣旨、
精神が反映されまして、使用者及び
従業者双方の納得できる
判断が
現行の
職務発明についても期待できるようになるのではないかと期待しております。
以上です。
弁理士会といたしましてもこの今回の三十五条の
改正法には賛成するということを付け加えまして、私の
意見とさせていただきます。
ありがとうございました。