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田近公述人 ただいま御紹介にあずかりました一橋大学の
田近と申します。
本日は、
平成十六
年度の
予算について申し述べさせていただきたいと思います。基本的には
賛成の立場に立ちながら、日ごろ
財政学を研究している者として、
日本の
財政について、根本にある問題は何かということについて
お話ししたいと思います。
お手元に資料を用意させていただきましたので、ほぼそれに沿って
お話しさせていただきます。「
日本の
財政規律をどのようにして高めることができるか」そうした中で、本
年度予算についての
評価も加えていきたいと思います。余り時間もありませんので、論点は三つです。
まず、
日本の
社会保障、その中でも介護
保険にやや的を絞って、何が問題なんだと。具体的に言いますと、
日本の社会
保険はどれだけ
保険なんだというようなことを
お話ししたい。
第二点は、今、前の
公述人の方がお触れになりましたけれども、
地方財政です。やや立場の違う態度から、どのようにして
交付税
改革をしていったらいいのか。キャッチフレーズ的に申し上げると、困ったら助けてあげるでは
地方も自立ができないという
観点から申し述べたい。
第三点は、
歳入の面で、本日は基本的には
歳出の面を申し述べようと思いますけれども、
歳入の面で一言申し述べるならば、所得税
改革がいかに今重要なのかということを、幾つか
数字をお示ししながら話したいと思います。
まず、一ページ、
社会保障の面ですけれども、
保険というのは何なんだと。いろいろな
保険があります。
年金、医療
保険、介護
保険とあります。でも、結局、いろいろなリスクに対して、例えば、長生きして所得がなくなってしまうんじゃないか、健康を損なって稼得
能力がなくなるんじゃないか、あるいは高齢になって身体を損ねて日常生活に支障を来す、そういうリスクに対して備えることが
保険なわけです。
その
原則は何なのか。
原則というのは、
保険に加入する人々の間でみんなでリスクをしょうんだ、長生きする人もいれば早く死ぬ人もいる、健康な人もいるし病気の人もいる、みんながそういうリスクを背負うことなんだ、それをみんなで
負担し合うことなんだと。
したがって、ここで
負担に見合わない
給付を行い続ければ、結局は、
財政の破綻を招き、人々を不安にする。そして、
負担に見合わない過大な
給付を行っていると、人々に
保険の乱用を誘発して、
財政を悪化させる。結局、そのツケは、現世代であろうと将来世代であろうと、どこかに行ってしまうわけです。その点が、我々は皆理解しているわけですけれども、重要なんだと。
そして後は、余りページを繰っていただくのもあれなので、四ページをごらんになってください。基本的には図を見ていただきながら話したいと思います。
では、
日本の
保険の特色は何なんだと。これは、二〇〇二
年度予算ベースで
社会保障費を見たわけです。厚生労働省の資料ですけれども、八十二兆円使っている。
年金ですと、四十三兆円
給付して国庫
負担が七兆円。医療が、二十六兆円に対して九兆円。介護は、五兆円に対して三兆円、これは初
年度で、
制度立ち上げでやや国庫
負担が高いと思われますけれども、こうなっている。
つまり、八十二兆円
社会保障している。基本的には、福祉の一部は、あるいは介護
保険を除く部分は措置ですけれども、ほかは
保険です。ざっくり言って、八十兆円のうち二十兆円近くは、社会
保険だというけれども、国が面倒を見ているというわけです。
それが何なんだということで、介護
保険について、具体的に論点を絞っていきたいと思います。
次のページをごらんになってください。五ページです。これを見ながら御一緒に考えたいんですけれども、介護
保険というのは、全部の費用を一〇〇とすると、そのうち一〇%は、利用する人が払う自己
負担です。残りの九〇%を
給付費といいますけれども、それは半分ずつ公費と
保険料で割ろうじゃないかと。公費のうちさらに半分は国だ、残りの半分は都道府県と市
町村が半分ずつだと。ただ、この都道府県、市
町村の部分は、
地方財政措置というか基準
財政需要に入っていますから、これは市
町村は保障される。
ちなみに、
保険自身は市
町村が管理する、
保険者です。
保険料部分の五〇%のうち、三二%は四十歳から六十五歳の現役サラリーマンが払う。したがって、ある意味で、それぞれの市
町村に自動的に
お金が入ってくるわけですね。そうすると、一八%は、それぞれの市
町村のお年寄り、第一号被
保険者、六十五歳以上の人が
保険料として払う。
これをごらんになっていただくと、どういうふうにこの
制度が働くんだろう。利用すれば御本人は一〇%だと。そして、第一号被
保険者の
保険料は、全国平均で大体三千二百円。
制度改革されて三千二百円。まあ三千円
程度でしょう。そうすると、利用される人は一〇%の
負担、そして、第一号被
保険者は三千円
程度の毎月の
保険料の
負担。これを管理する
保険者の方、市
町村は、
給付費の一八%を集めるか集めないかがすべてなわけです。そこにまた問題が生じているわけです。
そうすると、この
制度を適用していくとどういうことが起きるんだろう。つまり、全部の費用の一〇%を払ってください、それぞれの介護度で上限はありますけれども払ってください、そして月々三千円払ってください、後は上限までお使いくださいということです。
その次のページをごらんになっていただきたいと思います。少し急いで資料をつくったもので、出典は厚生労働省の資料です。これは私がつくったものではありません。
そうすると、介護
保険で起きたことは、非常に興味深い、重要なことが起きたわけです。これは、
平成十二年、十四
年度における
給付費がどう変わったか。
給付費ですが、先ほど一〇%引いたものです。全体で三〇%伸びたことはわかる。そうすると、施設の方は、大きな額ですけれども、伸びが比較的少ないというのは、ベッド数が限られているからです。居宅の方は伸びた。つまり、施設の方で利用できない部分が、ちょうど火山のマグマが噴出するところを探していくようにして居宅の方に、在宅
サービスに流れていった。
私は、決して利用することがいいとか悪いということではなくて、やはりさっき言ったメカニズムがあって、自宅にベッドを入れても一〇%でいい、そして、訪問介護してもらっても一〇%でいい、その仕組みがだんだん定着してきた。それが思った以上に介護
保険を膨らませた。我々も眺めていましたけれども、当初、こんなに早くこの
保険が大きくなると思わなかった。ざっくり言うと、医療が三十兆円です。介護
保険はもう五兆円の
保険に育っているわけです。
したがって、我々は、いい
保険をつくりたい、
国民に利用してもらいたい。しかし、やはり
保険の
原則というのは貫かなければいけないんじゃないのか。それは、基本的には
負担に見合った
給付なんだということを私は申し上げたいと思います。ただ、生活力に応じた適切な救済も必要なわけです。ここでもし一点だけ申し述べろと言われたら、やはり
負担に関しては生涯の視点が大切だ。生きているときに、お年寄りで所得の少ない方もいらっしゃいます。その人
たちに
負担しろ、それはできないわけですけれども、では、死んだときはどうなんだ。まくら元に
年金の使っていない分があるかもしれない。
だから、みんなが利用するもので、やはりみんなが支えなきゃならないわけですから、死んだときに残っている財産、真っ先に故人が社会に対して支払うべきものは、やはり生きているときに所得がなくて十分払えなかった
保険料、それから利用した自己
負担部分、それを真っ先に払うべきなんじゃないか、そうすることでみんなが支え合っていくべきだ。
したがって、具体的な
改革案を申し述べれば、とりあえず今やるべきことは、私は、自己
負担をふやすことだ、そして、生活力に見合った
負担というのを、人々の生涯の視点で
負担してもらうんだというようなことだと思います。あわせて、この
保険を全国三千の市
町村がマネージする、管理するということですけれども、それも可能なんだろうかというようなことで、時間がありませんから、これ以上申し上げられませんけれども、基本的な
観点から見直すべきだ、みんなが支え合うものである以上、その仕組みを
国民にも訴えてつくっていくべきだと思います。
続けて、
地方財政について
お話ししたいと思います。時間がありませんから、八ページ、図四だけを見ていただきたいと思います。
日本の
地方財政の根本問題は何なのか。私は、
財政規律がきいていないことだと思います。図四は、来
年度予算の本当の骨格を示したものです。ステップワンということで
交付税総額が決まりますけれども、
地方歳出総額が八十四・六兆円というふうに計画されるわけです。それに対して、
地方税収とか
補助金とか
地方債が幾らなんだ。それが六十三・五兆円。では、残りの二十一・一兆円は
歳入不足になるわけです。
歳入不足は何かというと、これが
交付税で
地方に措置されるわけです。
幾つか
制度改革があって、その
歳入不足のうち、
地方交付税は十六・九兆円、残りが
地方の臨時
財政対策債ですけれども、この臨時
財政対策債は、基本的には、後
年度、一〇〇%
地方交付税化されます。したがって、今までこの二十一・一兆円を
交付税、
交付税と言っていたわけですけれども、
地方の臨時
財政対策債部分が減って十六・九兆円。ただし、
地方のその対策債部分は後
年度交付税で措置されますから、実質的には二十一・一兆円が
交付税だという理解で正しいと思います。
そうすると、足りないものは払ってあげる。では、足りないものをどうやって払うんだというのがステップ二です。
地方交付税に基準
財政収入額というのを足したものを基準
財政需要額だというわけです。そうすると、この数式を見ていただくと、基準
財政需要額から収入額を引くと
地方交付税額にぴったり合う、ここにマジックがあるわけです。基準
財政需要額は、基準
財政需要額から収入額を引くと
地方交付税になるようにつくられるということです。それが、私は、
日本の
地方財政の最も根幹にある問題だと思います。
つまり、そのじゃんけんのゲームは後出しなわけです。
予算が決まった、そしてそれを使うように、基準
財政需要額を使うんだ。そうすると、じゃんけんで、終わった後にグーを出したりチョキを出したり、相手がグーならパーを出そうというようなことで、やはりじゃんけんは
最初にルールを決めなきゃいけない。
具体的に、では今
年度の
予算についてどのような
評価があるか。もう少し申し述べさせていただくと、済みません、最後です、十二ページ、図五をごらんになっていただきたいと思います。そのような
財政措置をした結果、どうなってきたかということですけれども、八五年を一〇〇としたときに、国の
歳出と
地方の
歳出を比べていただくと、
地方が圧倒的に大きくなってきた。これ自身、大変な問題もあります。景気回復の中で、公共投資等を
地方が引き受けたというのもあります。ただ、根っこの問題は私の言っているとおりで、結局、じゃんけんの後出しのゲームの結果、
歳出が膨らんでいったというわけです。
そうした中で、どのような
改革をしていくべきなのかということの視点を幾つか申し述べたいと思います。
第一点は、差し伸ばす手は、それぞれの個人に差し伸べるのか、
地方に差し伸べるのか。つまり、貧しい人もいる、困った地域もある等々はわかります。ただ、我々は、ソーシャルセキュリティーということで、いろいろなセーフティー
ネットを張っているわけです。そのときに、
社会保障という
制度を活用してやっているわけですから、その
制度と
地方を救済するということは混同されてはいけないだろう。
それから、具体的な
補助金の問題ですけれども、今
年度の
予算で私が一番興味深く思った点は一括
交付金です。義務教育費
国庫負担金を総額裁量
制度にした、たったそれだけの文章ですけれども、これは、今後の
改革において非常に興味あるものだと思います。義務教育費を一括して全部
地方の税源で措置するんだという
議論もあるかと思いますけれども、重要なことは、義務教育という
日本の
国民にとって最も基本的な
サービスを国がどうやって保障するかだと思います。ただ、それを実際に運営するのは市
町村であって、いい教育をしたり特色のある教育をすることは
地方がやればいい。
では、国の責任はないんだろうか。全部
お金を
地方に税源で上げてしまって、後は知らないよと。その結果、教育にいろいろな差がついても、国は、それは市
町村の責任なんだからね、都道府県の責任なんだからねと言えるのかと思います。その意味では、まずやるべきことは、いわゆる
補助金を
交付金化することだ。そして、義務教育であったならば、総額これだけは義務教育で使ってください、しかしその中身は細かなことは問いません、いい教育をしてください、ただこれだけは使ってくださいねという考え方なんだろうと思います。
とすると、そのようにきちんと
補助金を整理していくと、現在ある基準
財政需要額というのはかなり整理されてくると思います。基準
財政需要額で膨らんだものを、それを今言った形のひものつかない
交付金という形で置きかえていく、そうすると、基準
財政需要額というのは減っていきます。先ほど申し上げた
交付税の問題から我々はだんだん脱却できるんじゃないか。まさにそこが
日本の
財政のこれからかなめになるところだと私は思います。
最後に、
歳入について一言申し述べたいと思います。済みません、先ほど最後と申しましたけれども、本当の最後です。十四ページをごらんになってください。
歳入で多くの問題があることは私も理解しているつもりです。しかし、所得税の問題がどれほど深刻な問題なのかということをぜひ御理解いただきたいと思って、これを持ってきました。簡単な表です。これは、二〇〇二
年度予算ベースで、一体、いろいろな控除によってどのぐらい減収しているんだろう、
税収が失われているんだろうというものです。この年の所得税見込み額が十五・八、まあ十六兆円ぐらいです。そうすると、基礎控除で二・一兆円ロスですけれども、これで問題なんだと言う人はだれもいないだろうと思います。そして、上の方ですけれども、配偶者控除の方では、特別控除が
廃止になってきました。
ごらんになっていただくと、
日本の所得控除の大きな問題は、やはり給与所得控除、それから社会
保険料が全額控除されていること、公的
年金等控除、これです。その結果、控除による
税収ロスというのが非常に大きな額に及んでいる。そして一番下に、これは控除ではありませんけれども、一九九九年の定率減税で大体毎年三兆円ぐらいの減収になっているということです。
したがって、取るだけではだめだ。先ほど言ったように、
歳出の部分の抜本的な
改革を伴うとしても、いろいろな問題があるにせよ、まず
議論すべきものは、やはり
日本の所得税を基本的には立ち直らせる、きちんと取る、そして
負担を広く、公平に取るということだと思います。
以上です。ありがとうございました。(拍手)