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吉野公述人 おはようございます。よろしくお願いいたします。
お手元に二枚ほど
レジュメがございますので、これを中心にお話しさせていただきたいと思います。
私は、
予算案に関しましては、いろいろこれから問題はあるとは思いますが、賛成でございます。ただ、今後、
日本を
考える場合には、この一番目にございます国際競争力という点から、先生方も含めて、
考えていただければと思います。
一つエピソードを申し上げたいと思いますが、昨年の秋に中国で会議がございました。中国の北京は今、上海から何とか金融
市場を自分の
地域に持ってきたい、こういう動きがございます。その会議にイリノイ州の議員の方が来られておりました。
日本からは私一人でありまして、
アメリカから十人ぐらい来ておりました。そのイリノイ州の議員の方は、北京にそういう国際金融
市場をつくるのであれば、我々イリノイ州のシカゴが中心になって助けてあげると。そこに一緒に来られている方が、シカゴの先物取引所の前会長と現会長、それからシカゴの弁護士、シカゴの会計事務所、こういう方たちと、それから
学者が全部集まって、九人がそこに来ておりました。私一人が
日本からでありました。
それで、どういうことかといいますと、中国の北京は上海に随分金融
市場が負けているものですから、何とか北京にもつくりたい、それを
アメリカは支援するんだ、こういう形で、イリノイ州の先生は、自分のところのシカゴの人たちの経済活動を発展させるために中国に行きます。
日本は今、金融業が非常に弱いですから、そういうところになかなかインフラの整備ができません。そうしますと、
アメリカは、自分たち流の
やり方の法律や会計
制度で北京の金融
市場を全部整備する、そこで
アメリカの金融業が稼げる、その金融業がまたシカゴに収益をもたらし、その先生にとってもいい、こういうことであります。
私は、今後、
日本の先生方を含めて、やはりいかに海外から稼げるか、それから、政治家の先生方が、国際競争力を持って海外で負けないような形で
日本全体を引き上げていくかということがまず重要だと思います。
それから二番目は、そればかりじゃないんですが、官僚の国際競争力もあると思います。これは先生方も御存じだと思うんですが、国際会議に出ますと、フランス人というのは、英語はうまくないんですが、必ずいちゃもんをつけるわけです。最近ですと、中国人も必ず
アメリカの言うとおりには言わないわけです。ところが、
日本の多くの官僚の方は、黙って座ってうんうんと、極端な例ですけれども、こういう形で帰ってこられる。そうしますと、やはり、国際的なルール、いろいろなものが
日本に不利になって決まってきてしまうと思います。ですから、そういう
意味では、官僚の方もやはり海外のいろいろな会議で
日本のために国際競争力を発揮していただくということだと思います。
それから、我々
学者も、民間、特に、これからお話しする民間の金融業もそうだと思います。金融業に関しましては、現在、不良債権を抱えてしまっておりますので、その処理のこと、処理のことという面が
一つあると思います。ただ、
日本の金融業を再生させるためにはどうやって収益を将来上げたらいいか、こういう前向きの
考え方も見ていきませんと、後ろ向きばかりになってしまうと思います。その中で、やはり
日本の金融業も国際競争力だと思います。
アメリカとかイギリスの金融業を見てみますと、彼らの場合には、やはり世界的なネットの中から、どこで運用したら一番もうかるか、こういうことを見ながら運用収益をどんどん上げようとしております。
下の方に図がございますが、この図を見ていただきますと、縦軸が貸し出しからの
収入でございます。横軸が手数料
収入でございます。
日本の銀行を見ていただきますと、全部左に寄っております。つまり、ほとんどが貸し出しだけから
収入をもうけている。右の手数料というのは、海外に情報を提供したり、いろいろなものをつくることによって情報から
収入を得る、こういうものが
アメリカの金融機関はほとんどであります。ところが、
日本は、これだけ
日本がゼロ
金利であるところで
国内でほぼ貸し出し、その中から収益を稼ごうとしても、うまくいくはずがないわけです。
そうすると、では、どういう形で右の方向に
日本の金融業を持っていけるかということだと思います。それはまさに、
日本の金融業のやはり国際競争力の強化だと思います。国際競争力の強化のためには四つか五つあると思いますが、
一つは、世界的な情報ネットをつくることだと思います。では、いろいろな金融をどこで運用したら一番いいんだろうか、これはやはり欧米の金融機関は非常に持っております。
それから二番目は、
地域のプロフェッショナルをつくるということだと思います。これは、
日本はいろいろな職業全部ですが、ゼネラリストという方が皆さん出世されまして、プロフェッショナルという方は、どちらかというと、これまでは冷遇されたところがあると思います。しかし、今後アジアに
日本の金融機関がいろいろ協力していくためには、それぞれの国の
専門家をつくる。ですから、大学のときにその国に留学し、そこの言語がしゃべれる、そこの産業も知り、それから政治家の方あるいは
学者とのネットワークもある、そういう方がまず各
地域にいることだと思います。
それから三番目は、金融業の研究開発あるいはRアンドD、こういうものだと思います。よく科学技術の研究開発といいますと、製造業中心であります。ところが、御承知のように、
日本の製造業は一九六〇年代は大体三五%の付加価値を持っておりましたが、現在では二五%しか付加価値がございません。つまり、製造業の都合のいいところは外に出ていく、そのために製造業全体のシェアが三五%から二五%へ減ってきているわけです。
ところが、
日本はその製造業の減少を補う産業がないわけです。イギリスの場合は、製造業が下がってくるところを金融サービス業で稼ぐことによって彼らはイギリスの再生を図ったわけですが、
日本はそれがないわけです。ですから、私は、その中の
一つは、やはり金融業が国際競争力を持つ、そういうことによって、さらには内部組織がインセンティブをもっと行員の方に与える、こういう内部の
改革も必要だと思います。
今度はアジアのお話を少しさせていただきたいと思います。先ほどアジアの中国のお話をさせていただきましたが、私は二十年ぐらいアジアを、留学生も含めて回っておりますが、二十年前は、アジアの国には
日本は絶対負けないなというふうに思いました。
そこは二つか三つ理由がございまして、まず、あの国は暑いわけであります。ですから、私があちらへ行きますと、大体
日本と同じペースで仕事をしようとすると疲れます。だから、まあこれは大丈夫だろうと。それから二番目は、本とかいろいろな研究の書類がなかったものですから、この二つがあれば、幾ら
日本の学生がぐうたらになっても負けないだろう、こう思っていたわけです。
ところが、最近行きますと、まず、冷房を使っております。マハティール首相などは、
日本に負けないようにがんがん冷房を使って暑さを克服しろ、こういうわけですから、すべて冷房です。それから、では、本は要るかといいますと、最近はインターネットがありますので、本がなくても英語さえできれば海外の情報というのは全部入るわけです。
それでいて、例えば中国なんかへ行きますと、人民大学で講義しますと、これぐらいの広いところでしたけれども、五十人の学生が真剣になって聞くわけですね。彼らの質問は、なぜ
日本はあんなに強かったのに今は悪くなっているのか、それを教えてくれ、こういうわけです。私なりにいろいろ答えを言うわけですが、そうすると、目を輝かせて聞いているわけです。
日本に帰ってきますと、慶応大学ですが、半分ぐらいが寝ている、こういうことでありまして、やはりやる気が全然違うわけですね。(発言する者あり)半分起きていると。私が授業の
最初に、私の授業は海外でやるとみんな非常に喜んでやってくれるんだよと言うんですけれども、何言ってやがるんだいという形で学生にはばかにされます。そういう
意味では、教育における国際競争力ということもぜひ必要だと思います。
教育に関して少し忘れられているところは、
日本の場合には、落ちこぼれがいるということを前提とした教育じゃありません。ですから、
日本の場合には、
制度が今まで、いい子供が多かったわけですけれども、社会が違ってくれば、落ちこぼれを前提としてどういうふうに教育したらいいかということがまず必要だと思います。
それから、教育はやはり超長期的な社会資本でありますので、
予算をカットする中でも、義務教育を含めた教育というのは絶対に必要だと私は思います。
特に、もう
一つは、現在の小中学校というのは八時から三時の教育です。昔は夫婦共稼ぎではありませんでしたから、女性が家庭にいるわけです。あるいはおじいさん、おばあさんがいるわけです。そのために、三時から夜まではだれか家庭で見る人がいたわけです。
ところが、夫婦共稼ぎになれば、三時から夜の七時までをだれかが見なくちゃいけないわけです。それが小学校、中学校の教育にないわけです。そうすれば、塾とかどこかに通わせなければ子供たちがうまく育てられないわけです。ですから、やはりそこも発想の転換で、社会が変わった場合には教育
制度をどう変えるかということもぜひ
考えていただいて、三時から七時の教育をどうするのかと。それを、塾が悪い、それから予備校が悪いと言っても仕方がないわけですから、そういう形でやっていただきたいと思います。
それから、
アメリカの教育は伸ばす教育ということです。私もそうだったんですけれども、おまえはここがいいんだ、こういうわけです。
日本は、おまえのここはできない、こういう形で、
日本の場合にはディスカレッジといいますか、そういう形ですが、
アメリカは、励ます、インカレッジする性格があるんですね。だから、そういう面でも、ぜひ教育に関しましても、国際競争力をつけることによって、子供たちがアジアの子供たちに負けない、そういうようなインセンティブをつけていただければというふうに思います。
それから次に、郵便貯金のお話と、
あと大量
国債の問題に関してお話しさせていただきたいと思います。
最初に
貝塚先生からもお話がございましたが、一九九〇年には、
日本の
財政赤字のGDP比率は六〇%でございました。当時はイタリアが一〇〇%を超えておりまして、私が授業でよく学生に、イタリア人は怠け者なんでこんなに
財政赤字が大きい、
日本はこういうことになることはないでしょう、こう言ったわけでありますが、現在を見ますと、イタリアは一〇〇%そこそこで、
日本は一五〇%を超えております。この話を私、イタリア人がいると思わないでマレーシアでしましたら、イタリア人がちょうど一人参加者にいまして、
日本の方がもっとひどいじゃないか、こういうふうに後で言われました。
では、どうやれば、国際競争力とか大量赤字の問題を防げるかということだと思いますが、やはりそれは
税収をふやすこと。
税収をふやすためには、
日本の産業が強くなり、それから一人一人の国民が強くなることによって生産性を上げて、それが
税収に返ってくるということだと思います。
そういう
意味では、私が
最初に申し上げました、いろいろな分野での国際競争力をつけることによって
日本経済をもう一度再構築する、それによって、成長率を上げることによって
税収をふやしていく、こういうことが一番いい
やり方で、それが
予算の赤字を減らしていくということではないかと私は思います。
実は、
国債の大量発行の問題も、私はアジアで使っていける問題だと思います。アジアの金融危機が一九九七年に起こりました。アジアでなぜ金融危機が起こったかといいますと、
一つは為替の問題、それから
国内が銀行中心であります。
国内の金融
市場が銀行中心であるというところが多いと思いますが、そこの銀行セクターがうまく働かなくなりましたので、アジアではお金がうまく回らなくなり、アジアの金融危機後に各国が低迷したわけであります。
そこで、
日本あるいはタイ、韓国を中心にしながら、アジアの銀行中心の
市場から債券
市場をもう少し発達させよう、こういう形で、
日本を中心にいろいろ皆さんが努力されてこられました。それで最近、アジアの債券
市場が大分育ってきたわけですが、ここでまた欧米系の金融機関が早速入ってまいっております。その債券
市場を通じながら自分たちが商売をしようというわけです。
一番危険なのは、せっかくテニスコートを
日本人とかタイ人、アジア人がつくった、ところが今度は、それができた途端にプレーをするのは欧米系の金融機関で、
日本は全然そこから稼げない。こうなりますと、何のためにいろいろ
日本がアジアと一緒になって発達させたのかということになります。
では、このアジアの債券
市場を
日本の金融業なり
日本の方々が利用するにはどうしたらいいかということです。
一つは、
日本は現在、債券
市場が非常にふえておりまして、
国債もそうですし、
地方債もふえております。このことから、
日本の債券
市場は、諸
外国と比べますと、相当発達してきております。例えば個人向け
国債を発行いたしましたり、
国債の種類も随分多様にしております。
こういうことが、本当はアジア各国に対して技術援助として協力できるわけです。そうすると、アジア各国の債券
市場も
日本に非常に近い形で発展させてあげることができます。そういうふうにやりますと、今度は、アジアのネットワークも
日本の金融業なり
日本の業界がやりやすい形で債券を扱える、こういうことになります。ですから、そういう
意味では、せっかく使える
市場を、欧米系だけではなくて、
日本の金融機関もそこで稼げるようにする、こういうことが重要ではないかと思います。
関連いたしますが、郵便貯金を今後どうするかという問題も、実は私は
日本の金融業を強める方向に使えるというふうに思います。現在、郵便貯金は、約二百三十兆円という預金を独自で集めながら、
国債中心に運用いたしております。ところが、これに対してはいろいろ賛否両論がございまして、国民の利便性があるからいいではないか、そういう議論と、民間ができることは民間にやらせなくてはいけないじゃないか、こういうことがございます。
私は、それを両方うまく融合させるにはどうしたらいいかと
考えておりました。
一つは、郵便局のネットワークを通じながら民間の金融商品を販売する、こういうことだと思います。つまり、郵便局の窓口を通じて、民間の預金、貯金、
保険、それから債券、投資信託、株式あるいは個人向け
国債、こういうものをすべて販売する。そういたしますと、これまで貯蓄中心であった国民が、郵便局に行くといろいろな商品が買えるわけであります。郵便局はそこから手数料を取れる。こういうことになりますので、一番いいのは、ネットワークを利用しながら民間の金融商品が販売できるということだと思います。
これを実は新聞に書かせていただきましたら、まず電話がかかってきたのは外資系の
保険会社です。
吉野さんの
意見はいい、何とか自分の商品をこういうネットワークを使って売りたい、そうすると、これまた外資系をもうけさせてしまうかなと。やはり、こういういろいろな
やり方を、
日本の金融機関の方々がどういう形で使えるかということだと思います。
私は、
日本の金融業はこれまで、集めるところと運用するところと両方に精力を注いでこられたと思います。やはり
日本の金融業を再構築するのには、どうやっていい運用をしたらいいか、こういうことにもっと精力を注いでいただいて、それを、海外の情報を使いながら、世界全体での運用を
考えていただく。例えば、極端な
ケースですけれども、集める方は郵便局のネットワークにお願いする、こういう
やり方だってあると思います。そうすることによって、分業をしながら自分の金融業を引き上げていくということではないかと思います。
最後に、公共投資と
地方の問題をお話しさせていただきたいと思います。
二ページ目に図がございますので、ちょっとこれを見ていただければと思います。英語で書かせていただいて恐縮なんですが、縦軸がそれぞれの社会資本の限界生産性を挙げております。横軸は民間の資本ストックを社会資本ストックで割ったものでございます。横軸に、一のところに、恐縮ですが縦線をちょっと引いていただきますと、議論がこれからしやすいと思いますが、この一よりも右にある
地域は、それぞれの
地域の民間の資本ストックの方が社会資本ストックよりも大きい、こういう
地域であります。左の
地域は、民間資本ストックの方が社会資本ストックよりも少ない。
つまり、左の
地域は、幾ら公共投資をしても民間の投資が来ない
地域です。それから、一より右の
地域は、公共投資をすることによって、民間がそこでいろいろな業務をすることによって、民間の資本が入ってくるということです。民間の資本が入ることによって、生産性が上がるわけです。
つまり、公共投資で今後、先生方に
考えていただきたいのは、左にある
地域をどうすれば右に持っていけるか、こういうことです。公共投資がどうすれば民間の産業なり民間の人々を呼べるか、そういうことを
考えていただいて、
日本が全部左から右に来れば、公共投資の効率性も上がりますし、それから社会資本よりも民間資本がふえるわけですから、自律経済ができると思います。
当初に申し上げましたイリノイ州の議員の方のように、やはり海外から物を持ってくる、あるいは海外からも稼げるものを持ってくる、こういうようなことも通じながら、ぜひいいインフラを各
地域につくっていただきまして、左の
地域を右に持っていく公共投資、インフラをつくるということを
考えていただければと思います。
それからもう
一つは、
地方の経済の問題でありますが、最近、
地方債がふえております。
一ページ目に戻っていただきますと、一番最後の五というところでございます。
地域発展のための
歳入債券、これは英語ではレベニューボンドというのがございます。これを少し使えるのではないかと私は思います。これからちょっと説明させていただきますが、このレベニューボンドは、それぞれの事業別にこの債券を発行いたします。例えば、空港をつくるために空港のための債券を発行いたします。もしこの空港が非常にうまくいけば、百万円投資された方は百二十万円で収益が返ってまいります。ところが、この空港が非常に悪くなったとしますと、百万円が八十万円しか返ってこない。こういうのがこの
歳入債券、
収入債券です。
つまり、これを使いますと、地元にとって本当に必要であれば、住民の方は少しぐらい損をしてもその空港をつくればいい。あるいは、いい事業であれば、どんな事業であってもそこにお金が来るわけです。さらに、その事業に関しましては、外部効果というのがありますので、そこの
税収を後で投資家に入れてあげるということもできると思います。
アメリカでは、デンバーの空港というのはこれでできました。それから、ウェストミンスター市という隣の市がございますが、ここも私、ヒアリングいたしましたが、地元のゴルフ場でございますね、こういうのも、こういう債券でつくっております。
ですから、ナショナルミニマムのところまでは、
地方税あるいは
地方交付税、こういうもので見ていく。しかし、それ以上の事業に関しては、こういう
歳入債。それぞれいいものであれば、その県が幾ら
状況が悪くてもこういうものがつくれます。そういう
意味では、いろいろなことを各
地域で
考えれば、いい事業であれば必ずその債券が売れますし、そういうものがつくれる、しかも、余り変なものであればそれにブレーキがかかるということではないかと思います。
以上、私は、今後、
日本に関しましては、すべての分野で国際競争力を
考え、それからいろいろな
制度を直すことによってインセンティブが働くようにいたしまして、
日本経済がさらにまた再生できればというふうに願っております。
きょうはありがとうございました。(拍手)