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市川参考人 本日は、お招きいただきありがとうございます。私、日弁連の
市川と申します。
私は、日弁連人権擁護
委員会では、
難民の問題を含む
在日外国人の人権にかかわる分野を主に担当しております。また、
東京の三つの弁護士会が行っております
在日外国人の
法律相談の運営、相談の担当等も十年来かかわっております。
本日は、
難民認定手続の
改正の問題を
中心として、
参考人の
意見を申し上げたいと思います。
我が国の
難民認定制度の現状について若干ふれさせていただきます。
衆議院
調査局の資料で十六ページ以下にもございましたが、我が国の昨年の
難民認定数が十名でありまして、イギリスが二万四千人、フランスが九千七百人、ドイツの五千七百人にはるかに及ばないということは、既に御存じのとおりでございます。
難民認定率という点におきましても、
認定率が三%、人道的配慮による
保護を含めても一一%という数字は、欧米諸国に置きかえますと、最も低いグループに位置づけられます。
また、ことしに入ってきょうまでの五カ月足らずの間に、
難民不
認定の結論の取り消しを求めたという訴訟が、合計七件、不
認定を取り消すという形で判決が出ております。これは
東京だけではなく、大阪、名古屋などの各地の裁判所で出ておりまして、この七件という数字は、昨年の
認定者数の十名の半数を超えるという数字でございます。これらの裁判のほとんどは、
法務大臣に対する不服申し立て
手続を経た上で裁判になったものでありまして、
難民認定の問題点は、不服申し立て
制度にも同様に当てはまるものではないかと考えております。
これらの現状を踏まえて、私どもは、
難民認定手続は、
制度改正を通じて、
認定の
内容、中身についても、質的にも量的にも向上させなければならないと考えております。
この現状の問題の
一つの原因として日弁連が指摘をしておりますことは、
認定行政が専ら
法務省の
入国管理局によって所管されてきたということでございます。
このことは、
入国管理という国境
管理、
治安維持を主たる目的とする部局が、庇護を求める者を
保護するということを目的とする
難民認定実務を行っているということを意味します。
難民審査をする者が、同時に
入国管理の視点から
難民を見ているのではないか、あるいは、
難民の
認定そのものに
入国管理の要請が優先する事態が起きていないかということが外形的にも疑われることとなっております。
一九八二年に
日本は
難民条約に加入するという大きな決断をし、
難民の受け入れを条約上の義務として認めております。欧米諸国は、
難民条約を誠実に守ろうとして多くの
難民を受け入れ、またその結果として、受け入れた
難民が自国に定着することができるように、多くの負担をしております。
日本が、
難民条約に加入しながら、
他方で外交であるとか国境
管理などの面からの危惧、配慮から
難民認定の基準を厳しくしたり、あるいは緩めたりということは、法的には認められないことであると考えております。
次に問題点を指摘させていただければ、
難民認定機関の専門性の不足ということでございます。
先ほど御指摘もありましたとおり、
難民の定義は、
難民条約一条のAに
規定されておりまして、この
規定だけでは必ずしも基準が明確ではございませんので、その解釈を補充するものとして、国連の
難民高等弁務官事務所執行
委員会の結論、あるいは同事務所の基準ハンドブック、あるいは
難民法のデータベース、こういったものが蓄積されております。
また、
難民は着のみ着のままで逃げてくるというものでございますので、先ほどもございましたとおり、供述の評価というものが
難民認定の核心を占めるということになります。そこで、その
申請者をインタビューする方法であるとか、供述の評価方法、こういったものが極めて大事なスキルということになってまいります。
難民認定の
背景には人道的な思想があることは間違いございませんが、
難民認定は、人道的に
保護に値するかという裸の価値判断をすることではなくて、その人が
難民の定義に当たる者かどうかという事実の
認定、それから
法律の適用、解釈ということに本質がございます。
現在の
難民調査官は、
入管のほかの部門で仕事をしていた
入国審査官が数年間だけ
難民調査官に任ぜられて仕事をし、また数年後にもとの仕事に戻っていく、こういう中で専門性はなかなか育っていないのではないかというふうに考えております。
以上を踏まえまして、日弁連の
難民不
認定に対する不服申し立て
制度に対する提言は、
出入国管理を所管する
入国管理局から切り離した、独立した第三者機関によって、しかも専門性を持った者によって再度の
審査をすべきではないかということでございます。
今回の政府の
改正案は、
難民審査参与員の
制度を導入するということで、
入管内部で終始した
手続に第三者が入るという意味では
一定の前進ではないかというふうに見ております。しかし、一次
認定と同じく
法務大臣が判断をするという枠組みを残したまま、
法務大臣は参与員の
意見を聞くということでありますので、また
法務大臣自身が参与員を選任するというものですから、第三者性、独立性は甚だ不十分であって、今回の参与員
制度は、本来あるべき不服申し立て
制度としては十分ではないのではないかと指摘せざるを得ません。
しかし、現状から一歩進めたものとして今回の政府御提案のような
難民審査参与員制度が導入されるとすれば、日弁連は、次のような点にぜひ御留意いただきたいと思っております。
まず、何よりも大切なのは参与員の人選でございます。先ほど申し上げた
難民認定の特殊性を考えた場合に、
難民法に対する専門的
法律知識、
難民該当性についての事実
認定の方法を身につけた人こそが参与員にふさわしいと考えております。
また、第三者性を少しでも導入するという観点からいうならば、
難民の
調査を担当する
入管関係者や外交官の出身者等が参与員になることは避けるべきではないかと考えております。
これらの
条件を満たすものとして、日弁連は、第三者性、専門性の担保された団体からの推薦に基づいて参与員を選任するということを提言しております。具体的には、国連
難民高等弁務官事務所からの推薦ということが挙げられますし、また、
難民認定法や事実
認定に精通する実務家を擁する当連合会も挙げることができるかと思います。合議体で行う審議であるとすれば、例えば、これらの団体の推薦を経た参与員が三分の二以上を占めるという形で第三者性を確保し、参与員
制度を充実させる必要があると考えます。
時間の関係で、参与員についてその他の提言の詳細は、お配りしております
意見書を御参照いただければと思いますが、参与員の丁寧な
認定のために、十分な参与員の人数、事務局の設置、徹底した合議制などを配慮していただきたいと思います。
続いて、仮
滞在制度でございます。
難民申請者の多くは、本国での迫害を逃れてくる
人たちでございますので、正規パスポートを持っていない、あるいは
申請の時点では
在留資格がないということが多々ございます。現状においては、そういった
方々に
申請者であるからといって
在留資格が付与されることはございませんので、これらの者も
不法滞在などの容疑による
収容の危険に絶えずさらされております。
現状では、
退去強制手続を開始しても、仮放免という
入管側の裁量による
手続によって
収容を回避するという
運用がございますが、近時、
不法滞在者の摘発ということの
強化の流れの中で、まだ
収容される事例が存在しております。
この点、お手元の衆議院の
調査局の資料十三にございますとおり、UNHCRは、
難民申請者については原則として拘禁をすべきではないというガイドラインを九九年の二月に発表しております。この点を考慮して、今回の政府の
改正案も、仮
滞在許可という
制度を創設したことは評価すべきことと考えております。
しかし、
改正案の
規定をよく見ますと、
運用によっては現状の
運用よりも厳しくなる余地があるのではないかという危惧を持っております。
まず、上陸後六カ月を経過した後に
申請された場合を仮
滞在の対象から除外している点でございますが、これは、仮
滞在許可の
濫用を防止しようという観点によるものと思われますが、上陸後六カ月以内に
申請がなされなかったとしても、
認定制度の存在やその
手続を知らなかった、あるいは本国との絶縁という大変重大な結果をもたらす
難民申請をためらったりすることから
期間が経過してしまうことも十分に考えられるところであります。六カ月の
規定の要件を残すとすれば、そのただし書きにありますやむを得ない事由による救済、これを広く考えることが必要かと考えます。
これにつきましては、従前の六十日ルールでも
規定されておりましたやむを得ない事由について
東京高裁が
平成十五年二月十八日に出しました判決で、やむを得ない事由、
事情を広く解しまして、
申請者がどの程度言葉を理解していたか、
難民認定制度への理解や信頼がどのようなものであったかの
事情を考慮して判断すべきであるとしたことを想起すべきであろうと思っております。
次に、直接
日本に
入国したものでない場合を仮
滞在許可から除外している点でございますが、これについても合理性がないものと考えております。
実際に、アフガニスタンからの
難民申請者の多くはパキスタンなどに出国した後に
日本に
入国しておりますし、北朝鮮から
中国に脱出したいわゆる脱北者の方が、
中国での安全も保障されませんので、来日して
保護を求めるということも予想されます。これらの人を仮
滞在の対象から外す
理由はないと考えます。UNHCRのデータでは、直接性の要件を厳格に適用した場合には、過去十年間に
日本で
難民認定を受けた者のうち、八割から九割が仮
滞在から除外されることになったであろうという推定をしております。
また、この
規定は
難民条約三十一条の「直接来た
難民」という
規定をヒントにしていると思われますが、この
規定については、UNHCRは、先ほどお配りした見解の十一項、十三項で、
第三国を短
期間経由した者や、迫害から逃れて
最初に行った国において有効な
保護が得られなかった者を除外するものではないと解釈しております。短
期間経由したというときも、何日ということを確定的に限定することはできないとしております。ですから、
改正案のこの
規定は、削除されるか、今申し上げたUNHCRの
難民条約三十一条の解釈に従って
運用されるべきであると考えます。
以上申し上げた二つの
条件の厳格な
運用は、
難民申請の
濫用者の排除のために必要であるという方もございますが、仮に
濫用者排除の必要性を認めるとしても、その手段のために真の
難民が
難民申請をすることをためらわせることになってはならないと考えます。また、
濫用者かどうかは、
申請までの期限や直接
日本に来たかということによって一義的に決まるというものではございませんので、私たちは、迅速かつ正確に供述の信憑性を評価して
難民認定を行うということこそが
濫用者の防止の唯一の手段であると考えております。
以上申し上げた点を
参考にしていただき、今回の
改正に当たって十分な御審議をしていただければと思います。
ありがとうございました。(拍手)