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須藤参考人 ただいま御
紹介いただきました
須藤英章でございます。このような
機会を与えてくださいまして、大変ありがとうございます。
倒産法制全般の
見直しは
平成八年の十月から行われたものでございますが、私ども
日本弁護士連合会でも、
平成九年から、
倒産法制検討
委員会を設けまして、どのような
倒産法制が望ましいのか検討してまいりました。私は、その
委員長をしておりますので、そのような
立場から
意見を申し上げさせていただきます。
まず、
総論的に言いまして、この
改正は私どもにとって望ましいものだというふうに考えております。
破産の申し立て件数を比較いたしましても、五十年前に比べますと、現在は約百倍の申し立てがございます。十年前に比べましても、約五倍の申し立てが行われております。このようなことから、
破産手続の
迅速化、
合理化というものは望ましい点でございますが、それに即応した
改正であるということがまず第一でございます。
そのほかに、公正で
実効性のある
制度を実現しようというもの、あるいは現代の
社会経済情勢に適応した権利
関係の調整を図る、このような点でこの
改正法案は大変高く評価されるものでございまして、私どもとしましても、早期にこれが立法化されることを望んでおります。
各論的に申し上げますと、まず第一に、
破産手続のさまざまな
手続が選択できる、多様化されたということによりまして、
手続が柔軟性を持ったということが挙げられます。
破産手続は
対象が非常に多種多様でございまして、
個人もあれば
法人もございます。
債権額、負債総額と言ってもいいんですが、これが数百万程度のもので
債権者数も十人足らずのものもあるかと思えば、負債総額が数百億円、
債権者数も数千人に及ぶというものもございます。これらを画一的な
手続で
処理することは必ずしも妥当ではありませんが、今回の
改正法では、複数の
手続を設けまして、選択ができるようにされております。
先ほど、
青山先生や
綿引さんからも御
紹介がありましたように、
債権者集会を
開催するかあるいは他の
手続で行うかというようなことが認められるようになったということもそうでございますし、あるいは
配当の見込みがないのに
債権の届け出をさせたり、あるいは
債権の
調査に時間をとったりということもむだな点がございますので、
配当の見込みがない場合にはそれらを定めないでおいて、見込みができたときに初めて届け出期間や
調査期間を定めるというようなことも選択できるようになっております。
配当手続につきましても、官報
公告などをする原則的な
配当手続のほかに、簡易な
配当手続なども用意されております。
また、
管轄裁判所が
拡大されまして、
親子会社あるいは主
債務者と保証人の
事件なんかが、片方が先行しているときに同じ
裁判所で
処理ができるようになるということも便利な点かと思います。
第二に、
手続が簡素化、
合理化されて、したがって迅速に
処理が可能になったということが挙げられます。
迅速に
処理するということは
手続が早期に終結するということでございますが、これは
債権者にとっても好ましいことでございます。何年もかかるのでは困るというのが
債権者の偽らざる感想かと思います。しかし、それと同時に、
経済的な
再生を図る
債務者にとっても、これは大変望ましいことでございます。
具体的な例は既に他の
参考人から挙げられておりますので省略いたしますが、例えば、
異議が述べられた
債権について、これを
確定する
手続が査定という簡易迅速な
決定手続で行われるようになったこと、あるいは
管財人が
財産を評価して
配当財源をつくるときに、動産や
債権の場合には、一定の金額以下であれば、
裁判所の
許可を一々得ずにどんどん迅速に進めていくことができるというようなことも
一つでございます。あるいは、
管財人の仕事が終わったときに、任務終了報告のために
債権者集会というものを開くのが今まででございましたが、これも一々
集会を開かずに、書面による報告でかえることができるなどもこのような
手続でございます。
三点目としまして、
労働債権者の
保護が
強化されるということが挙げられます。
会社が
破産した場合に、そこで雇用されている従業員は職を失うことになりますので、その
保護というものが必要でございます。未払い賃金あるいは
退職金といったものが十分に払われるようにということが必要なわけでございますが、
現行法ではこれは
優先的破産債権とされておりますが、これよりもさらに優先するものとして
財団債権というものがございまして、
租税債権はこのような
財団債権に属しております。
したがいまして、財源が乏しい
事件におきましては、この
財団債権としての
租税債権を払うだけで、
労働者の
債権にはお金が回ってこないということもございました。先ほど御
紹介ありましたように、この対策としまして、
租税債権の一部を優先
債権に格下げして、逆に
労働債権の一部を
財団債権に格上げする、こういうことによりまして
労働者の権利が
保護されるように図られたのも
一つでございます。
ただ、
租税債権の一部が
財団債権、他の一部が
優先的破産債権ということになりますと、
実務上その区分けなどが大変難しい点もございますので、これから
裁判所と課税当局との調整によりまして運用上の協議がなされて、これが混乱なく行われることが望ましいものというふうに思われます。
労働債権の
保護としましては、早期弁済の
制度も挙げられるところでございます。
財団債権ではなくて
優先的破産債権にとどまる
労働債権につきましては、これは
配当手続によって弁済されるしかなかったわけでございますが、これも
裁判所の
許可によって
配当を待たずに弁済をすることができるようになる、これも妥当な
改正点であろうというふうに思います。
四点目としまして、
賃貸人、大家さんが
破産した場合の
賃借人、たな子の
保護も挙げられます。
これにつきましては、先ほど
賃貸人、大家さんの
破産管財人が解除をするときに対抗
要件を備えた
賃借人は追い出されずに済むというようなことが挙げられましたが、そのほかに、家賃を前払いしている場合の問題とか、あるいは敷金を預けている場合などについても
賃借人の
保護が図られているのが今回の
改正法の特色でございます。
五点目といたしまして、
破産財団の確保、充実のための
制度が整備されたことが挙げられます。これは、
配当財源をふやして
配当をなるべく多くできるようにという措置でございます。
これにつきまして私どもが注目しておりますのは、
担保権消滅請求
制度でございます。これは、
担保がいっぱいついた
財産を
任意売却の方法によってお金にかえまして、その一部を
破産財団に組み入れていただいて
配当財源を確保するという
手続でございますが、大変巧みな法制がなされております。
否認権の
制度につきましても
要件、効果が
見直しされたわけでございますが、例えば
破産管財人が従前なされた
不動産の売却が安過ぎるということで
否認したような場合に、その
財産を取り戻すということも一方ではございますけれども、そうではなくて、安過ぎたのがいけないんですから、公正な
価格との差額を追加して買い受け人が払うように、こういうような形で是正をする、財源の確保をするという道も開かれるようになりました。
六番目に、
個人債務者の
再生支援策が充実したということが言えます。
先ほども御
紹介ありましたが、これまでは
破産手続とそれから
免責手続とは分けられておりました。
破産手続は限りある
財産を公平に弁済するという
手続でございますが、
債務者にとりましてはそれだけでは足りないわけで、それだけ自分の
財産を全部吐き出したんだから、それ以上の
債務については勘弁してもらうという
免責手続が必要でございます。これが今まで
二つに分かれていたために、その端境期といいましょうか、
手続のすき間をねらいまして
債権者から
給料の差し押さえがなされるというようなことがございました。
これにつきまして、
改正法では
二つの
手続を
一体的なものにして、
破産手続の申し立てがあったときには原則として
免責許可の申し立てもあったものというふうにみなす、そして
免責許可の裁判が
確定するまでは
強制執行などは許さないというふうに
改正がなされております。
また、
自由財産、弁済用に提供しないで持っていてもいい
財産というものが拡充されたということも先ほど御
紹介のとおりでございます。
最後に、
免責不
許可の点について
一言申し上げます。
免責許可決定がなされても
免責されない
債権、これを非
免責債権と呼んでおりますが、例えば
租税債権であるとか、あるいは今回取り上げられました扶養義務に関する
債権、これらが
免責されないということは、これは妥当なことだと思うんですが、
免責されない
債権の中に
一つ、悪意で加えた不法
行為に基づく損害賠償
債権というのがございます。これは、悪意で行った不法
行為ならしようがないだろうというふうに思われるかもしれませんが、運用いかんによっては大変問題のあることもございます。
例えば、多重
債務者は、いろいろなところから借りては返し借りては返しということで、借りかえ借りかえでその場をしのいで、いずれ
破産に至るということがよくあるわけでございますが、これが、終わりごろになりますと、返せないことがわかって借りたんではないか、これはもう詐欺である、悪意による不法
行為であるということで
免責されないという解釈も、これは解釈によってはあり得るわけでございます。そうなりますと、多くの多重
債務者の場合に、ほとんど、
免責をされても
債務が
免責されずに残ってしまう、つまり
免責不
許可、非
免責債権として残ってしまうというおそれがあるわけでございます。
このような点から考えますと、多重
債務者の
経済生活の
再生の
機会を与えるという
破産法の
改正の趣旨、これが十分踏まえられた運用がなされることが望ましい、このように考えております。
そのほか、あえて申しますと、今回、
免責が許されない不
許可事由というものが、先ほど御
紹介のように、過去に
破産、
免責がなされたときから十年たったら再度の
免責は許されるが、それでは長過ぎるんではないかということで七年に短縮された、これは妥当なところでございますが、私どもの方で
一つ気になっておりますのは、
給与所得者等再生手続という
手続で、これは計画どおり弁済がなされた場合でも、後で例えばリストラに遭ったりして再び
破産手続をとらざるを得ない、こんなときに、その
再生計画が認可されてから七年間たっていないと
免責が許されない、こんな点もございまして、これはややそういう
債務者にとって過酷ではないかなというようなことが私どもの
委員会では言われておりました。
そんな
幾つかの点はございますけれども、今回の
破産法の
改正は全体を見て大変望ましい
改正でございまして、一刻も早くこのような
改正が実現されることを望んでおります。
以上、
意見を申し述べさせていただきました。ありがとうございました。(拍手)