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辻委員 例えば、真犯人は
被告人のAさんだというふうに検事側が立証しようとしていて、それに沿うBさんの供述がある。供述調書が開示されていてBさんの供述はそういうふうに書いてある。しかし、どうもいろんな矛盾きわまりない供述
内容であるから、実際、
公判廷でBさんを反対尋問で崩すことも可能である、崩れることだって可能である。そうすると、被告側からあえて積極反証でアリバイ証人を持ってきて立証しなくても、Aさんを無罪に導くことができる。Bさんの証人尋問を弾劾すれば、それで勝利に向かうわけだから。という判断で、
弁護側がみずからのアリバイを立証できる
可能性があるC証人を、あえて
公判前
整理手続が終了するまで明らかにしなくてもいい、そういう選択肢、そういう場面というのは、
通常いろいろあり得るわけですよ。
ですから、それをしゃくし定規に、Bさんの供述調書が明らかになって、そのBさんの言っている
内容は恐らく想像がつくんだから、それを弾劾することで、使える証拠については全部
公判前
整理手続終了までに明らかにしろというのは、
弁護側に余分な負担と、手持ちのいろいろな証拠というか手持ちの選択肢を全部先に公に明らかにさせるということであって、これはある
意味では、被告、
弁護側の黙秘権を侵害することにもなるし、無罪の推定をその
意味では
制度的に崩すことになるのではないか、このように私は
問題意識を持っております。
これについては、もっともっと突っ込んで
議論したいところでありますが、あと五分でありますので、三百十六条の三十二というのは極めて問題のある
規定であり、やむを得ない事由というのはもっと柔軟に
考えられなきゃならないということを
指摘しておくにとどめたいと思います。
最後に、
裁判員制度の評決であります。
これは、
裁判員法の六条で裁判官及び
裁判員の権限が定められていて、六条の一項で、裁判官及び
裁判員の合議によるということで、事実の認定、
法令の適用、刑の量定、これについては
裁判員はかかわることができる。二項で、
法令の
解釈に係る判断、訴訟
手続に関する判断、その他
裁判員の関与する判断以外の判断、これは構成裁判官の合議による。したがって、これは
裁判員はかかわることができない、このようになっております。
そうすると、
裁判員制度が適用される案件で、恐らく、否認事件で争いになっている場合には、検察官側の開示する証拠についてはかなりの
部分を不同意にして、いろいろ証拠開示の
要求とか、準備
手続についてかなり時間がかかることが予想される。私は、六カ月、場合によっては一年ぐらいかかる案件だって出てくるんじゃないかというふうに思いますが、そこで、証人を何人か特定して、
公判を開きましょうと。それで、
裁判員の方がそれに参加して、
公判審理が三日間、四日間開かれる。しかも、それについても、
制度上では期日間の
整理手続というのがあって、連日開廷が基本とされているけれ
ども、
裁判員が参加した審理が途中で中断をして、また
整理手続に移行して、そこには
裁判員は参加できなくて、それでまた審理が再開される。
つまり、
裁判員がかかわれるプロセスというのは極めて限られており、極めて
部分的であり、ある
意味で極めて限定的であり、時間も連続性がない場面が多々あるわけであります。そういうようなかかわりしか
裁判員はできないというシステムになっている。
しかも、権限からいっても、
法令の
解釈、訴訟
手続に関する各判断、そしてその他
裁判員の関与する判断以外の判断、つまり、その他すべては職業裁判官の判断、合議によるというふうになっているわけであります。
そうだとすると、心証形成の合議というのは、この合議については、裁判官の合議について
裁判員は場合によっては傍聴が認められるというふうになっておりますけれ
ども、仮に傍聴していても、主要な、例えば、これはどのような
法令に当たるんだろうというその
解釈の論議を専門裁判官だけがやっていて、それを傍聴して聞いていて、例えばそれが二時間ぐらいにわたって、次に三十分間ぐらい、きょうの証人尋問のあの証人の証言はどう
評価するだろうか、すべきだろうかということで、そこは
裁判員が意見を言って、しかし、それ以外のまた
手続が、
裁判員のかかわれない
手続が始まれば、今度はまた
裁判員はお客さんでそこに座っているだけであってということで、つまり、評決に至る過程において
裁判員がどれだけ主導権を持って自分の意見を反映させることができるのかということが全く見通せない、そういう
制度になっている。
だから、まさに
裁判員はパートタイムのお客さんであって、しかも、この合議体は裁判長は裁判官の中から選ぶというふうになっておりますし、また、
通常、株主総会なんかでいえば、少数株主権は、株主もそうだし、少数の取締役だったら少数取締役の取締役会の招集権というのはあるわけでありますから、しかし、この
裁判員制度に基づく合議については、
裁判員の側からそういう招集権があるという
規定もない。つまり、徹頭徹尾、
部分的な権限しか与えられていない、
部分的な時間しか関与できない、しかも
部分的な形でしか合議にもかかわれない。
このような中で
裁判員が自分の意見を、裁判官を説得するような形で意見を反映させることなんて、
通常考えたらあり得ないじゃないですか。どうしてこれで
裁判員の意見を反映することが可能なんだと、そういう楽観的なことが言えるんですか。その点について
お答えください。