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前田参考人 都立大学で
刑事法を三十年間研究しております者で、
刑事法の
立場から、今回の
不祥事に関して若干
意見を述べさせていただきたいと思います。
私のような者にこのような
機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。
簡単な
レジュメをお
手元にお配りさせていただいたのですけれども、私、もちろん
政府・与党の
方々に御
相談を受けるということが多いんですが、最近は野党の方、民主党なんかもそうですね、御
相談を受けることが多くて、まさに政治的な
課題として、
治安をどうするかというのが喫緊の
課題になってきている。
総理府の
調査がはっきり出ていますけれども、
治安のよさが国の誇りだったということが消えていった。
刑法犯の
認知件数、そこにグラフをかいたんですが、戦後のどさくさのもうどうしようもない時期が二千なんですね。この
犯罪率というのは、
犯罪の一番基調になる指標ですけれども、どこにも載っているものなんですが、こうして見て、戦後の最悪の時期を超してしまったという
認識、非常に危機的だという
認識は、ごく最近だと思います。
このような
状況の中で、
先ほどから御
指摘がありましたような
捜査費を含めて、
不正経理問題というのは非常に重い問題だと私も受けとめております。その中で、どう考えていっていただきたいか。私のような者が僣越なことを申し上げるべきではないのかもしれませんけれども、
一言申し上げさせていただきたいということでございます。
一つ、その
前提として、このような非常に厳しい
治安状況、
犯罪がふえてきた、その原因について、
少年犯罪、
外国人犯罪、いろいろありますが、それに加えて、最近は
国際テロとか、
サイバー犯罪とか、
国民の
利益を守るために、
市民の
利益を守るために
警察がやらなければいけないことが非常にふえてきている。その中で起きた問題をどう考えるかということだと思います。
そこに示しました
強盗罪の
検挙率、ほかの
犯罪もそうなんですが、
検挙率が落ちている。これは、
国民が、
体感治安という言葉が最近使われますけれども、不安を感じる、
治安が悪くなったという
一つの象徴だと思いますが、
強盗というのは、八割以上捕まっていたのが、今二件に一件捕まらなくなった。この
状況をどうするか。
一つは、非常に単純なことで、マクロで申し上げますと、
事件数に対して
警察官が足りないから捕まらないんですね、
検挙率というのは。ですから、合理的な、いろいろなものを合理化して、
検挙率を上げようとすれば兆の単位の
お金がかかります、我々試算しますと。そんなことは今の
国家予算でできる
わけがないので、いろいろなところで合理化して、そしてシェープアップして、捜査のためにエネルギーをうまく注ぎ込んでいかないと、日本は非常に厳しいことになる。
二番目に、
警察に期待される
役割として、
一つは、今喫緊の
課題としてまさにここで御
議論いただいている、
不祥事を反省して、
信頼を回復して、
再発防止を図る、これは非常に重要だ。捜査においては、人の数だけではなくて、
国民の
信頼というものが不可欠の
前提になっていると思います。そのために、
先ほど御
指摘がありましたように、事実を明らかにして、情報を公開していく、その視点は決定的に重要だということだと思います。
私は、重ねてそれを申し上げる必要はないかと思いますので、別の角度を、もう
一つの側面を強調しておきたいと思うんですが、今の日本の置かれた
犯罪に関する危機的
状況、これはやはり直視しなければいけない。これにさらに
信頼が失われる。一時期、
警察官の
不祥事が相次いで、
警察法の
改正が行われて、やっと
信頼を取り戻しかけたところでまたその
信頼を失うと、バケツの底が抜けるような事態に陥るということなんだと思います。
ただ、その点をきちっとするということと、
警察批判で、すべて
警察が問題を含んでいるから根本的に直さなければいけないみたいなものは、ちょっと私は違うのではないか。もちろん、情報を出すとか徹底的に真実を
究明するという意味では根本的なんですが、今までやってきた日本の
警察の
仕事、これはやはり
国民から見て、不満は細かいところでありますけれども、
信頼に足るものである。私は、そう受けとめられていると、個人的
意見かもしれませんけれども、考えております。その意味で、極端な
議論をしますと、角を矯めて牛を殺すということになりかねない。
一つ悪いことがあれば、非常に、後は全部疑心暗鬼になります。某私立大学の先生が痴漢行為をした、大学の教師はみんなそんなものである、大学の教師は全部疑うべきであるというような
議論をされては、我々困るんですね。やはり、客観的なデータに基づいて、しかし、正すべきは正すということをきちっとやっていただきたいということでございます。
三番目の、
治安対策の新たな展開ということでございますけれども、
先ほど見ていただいた
犯罪状況のグラフというのは、まさに危機的で、V字形を、ヨーロッパ社会の戦後は、ある意味では物すごい勢いでふえていった。ただ、ある時期、とまっていくんですね。ただ、それにはなりふり構わずの大変な努力をする。今の日本は、ある意味で、イギリスでそうであった、ドイツでそうであった、フランスでそうであった、
一つの危機的な
状況を踏まえたなりふり構わぬ対応をしている時期だと思います。
一ページのグラフをちょっと見ていただくとおわかりなんですが、とまったんですね、去年初めて。これは、私は、捜査の問題だけではないんですけれども、
警察政策が非常に重要なポイント。これがとまっていきますと、今の長官、私は歴史に残る方になっていくと思うんですが、非常に積極的ないろいろな施策を打っていかれた。もちろん、
警察の政策だけで
犯罪の動向が動くものではないですけれども、今まさに剣が峰だということだと思います。
その中で、刑事司法、これはどこもそうです、
警察だけではないです。裁判所も事件がふえて、過労死が出てもおかしくない、いろいろな
状況。刑務所で、私の教え子の
職員なんかは一年間に有給休暇が全然とれていないんですね。それは事件、収容者が多過ぎるから。この中で、どういうふうに国の資源を配分して、
犯罪に対して取り組んでいただけるか。それは、決して官だけではなくて、民の力、地域住民の力、ボランティアの力、これを有効に生かしていただきたいということで、いろいろなところで発言しているんです。
そのような
状況の中で、やはり核となるのは、
一つは二十六万の
警察官なんですね。その
人たちが
不祥事で
信頼を失うと、ボランティア
活動に対しても非常に大きなマイナスを与える。その意味でも、襟を正すということについては、できる限り可能な施策をとっていただきたい。
ただ、そのときに、もう後は
小幡先生のような
専門家にお任せしなければいけないんですけれども、具体的にどういうチェックをかけるのが最も
警察の力を生かしながら
国民の
信頼を得られるか。二者択一ではないと思います。具体的な、どういう施策が最も合理的であるかということなんですね。
我々、刑事の世界では、戦後、
犯罪が減り続けた社会の中では、やはり
警察に対しては厳しいハードルを課していく。被疑者の人権という
観点から、捜査をやりにくくしていけばいくほど人権が守られていいという時代であったと思います、戦後の
刑事法学というのは。しかし、
先ほど見ましたように、一九七五年を転換点に、日本の
治安状況は大きく変化していく
わけです。やっとその危機的な
状況というのに気がつき出して、
政府の行動計画が出てくるのはごく最近です。このような
状況の中で、物の考え方、理論も大きく変わりつつあると思います。
人権侵害がいいなんて言う人はだれもいないです。ただ、片一方で、その人権を大きく一番害されているのは被害者なんですね。被害を受けた人の不
利益もなるべく少なくしていかなければいけない。——失礼しました。もうこれで終わりますけれども、その意味で、非常に抽象的な話で申し
わけないんですが……