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酒井参考人 アジア
経済研究所の
酒井でございます。本日は、この
委員会にお招きいただきましてありがとうございました。
私は、本日、
イラク支援に対して
日本が一体どういう形で
支援ができるかということをメーンにお話しさせていただきたいと存じます。
その前に一点だけ、この
委員会の名称ともかかわることでございますけれども、テロと現在の
イラクに対する
支援というものについての関連性について、一言だけ申し上げておきたいと存じます。
私は、今、
アメリカを中心として昨年行われました
イラク戦争が、テロに対する闘い、九・一一の
アメリカでの
同時多発テロ事件以降進められているテロに対する闘いの一環であるというふうに位置づけられておりますけれども、この位置づけ方に対してそろそろ見直していく必要があるのではないかということを一言申し上げておきたいと思います。
これは、九・一一の首謀者と言われておりますビンラディンやその他アルカイダといった、いわゆるアフガニスタンを拠点にしてその当時
活動していた国際テロ集団がああいった事件を起こしたということで、いわゆるアルカイダを中心とした国際テロ組織の
掃討作戦に
アメリカがその後乗り出していったんだと。そういう
意味では、アフガニスタン戦争までは比較的、直接的な連関性のある
行動であったというふうに考えられますけれども、それ以降、
イラク戦争、フセイン政権の打倒、そしてその後の戦後統治ということは、これは必ずしも、いわゆるアルカイダあるいはビンラディンと直接つながりのあるものではない、国際テロ組織を壊滅するために有効な手段として
イラク戦争が機能したわけではないということがあろうかと思います。
これは繰り返しになりますけれども、御存じのように、
大量破壊兵器の問題、あるいはビンラディンとフセインのつながりといったような、戦前に
アメリカがしばしば引用していたような証拠というものが見つかっていないというようなことがあろうかと思いますけれども、いずれにいたしましても、ここで対
イラク支援とテロに対する闘いというものを切り分けて考えていくということは、大変必要なことになってくるのではないかと思います。
すなわち、テロに対する闘いということであれば、
イラク支援とはまた別の形で、本来、しっかり警察等々を起用して、国際的なテロ組織を撲滅するというような方向は別の方途で考えなければいけないわけでありまして、
イラクに
支援をすればテロが根絶されるというのは極めて短絡的な発想ではないかというところだけ、
一つ申し上げておきたいと存じます。
それを踏まえまして、それでは、
イラク支援ということに限って何が今求められているかということをお話しさせていただきます。
お配りいたしました資料、大変読みにくい資料になっておりまして恐縮でございますけれども、三枚ございます。一枚目は英語の表が二つついたもの、二と三は、これは
イラクの今一番発行部数の多いアルザマーンという新聞の国際版と地方版、
イラク国内バグダッド版と、
三つございますけれども、そのうちからとってきたものでございます。
まず、その資料一のところ、資料一をつけさせていただいた理由は、この表は、これは実は著作権の許可を得ずに勝手に引用させていただいておりますので若干問題になるかもしれませんけれども、NHKさんを中心としてオックスフォード・リサーチ・インターナショナルという
調査会社がこの二月から三月にかけて行われた
イラク国内での世論
調査の結果の一部でございます。
この設問はちょっと順番が逆になっておりますけれども、問いの十一、下の方でございますけれども、表の下の方では、
イラクの復興においてどの国が最もリーダーシップをとってほしいか、主導権をとって
イラクの復興を進めてほしいかというポジティブな問いでございます。上の方の表はそれと逆でございまして、どの国にとってほしくないか、どの国には積極的に関与してほしくないかという表が上の表でございます。
これを見ますと明らかなように、積極的に復興に協力してほしいというふうに挙げられている国は、まず
アメリカがございます。これは、まず第一番目に協力、リーダーシップをとってほしいという、ファーストカントリーというところを見ていただくと明らかなんですけれども、まず第一に
アメリカにその中心になってほしいという回答が最も多い。そして、さらに注目すべきは、それに続いて一番リーダーシップをとってほしいのは実は
日本なんだという
答えが大変数字的には近接した形で
アメリカに続いております。
この質問から何を読み取るかということで、
日本がそれだけ大変期待が大きく持たれているということが読み取れるわけなんですが、重要な点は、両方ともまず第一の国として中心になってほしいという回答なわけです。すなわち、
アメリカが第一で、二番目に
日本に手伝ってほしいという順番ではないわけなんです。つまり、ある
意味では、
アメリカがいいか
日本がいいかという、一種、代替のような形で
イラクの人たちが
日本と
アメリカを選んでいるという形になります。
ちなみに、
参考までに申し上げておきますと、そうした一番リーダーシップをとってほしい国に続いてどの国に、二番目にはどの国に頼りたいかというところでは、数字として高いのはフランスとイギリスということになります。
そういったことを全体に考えると、今
イラクを占領しているイギリスと
アメリカに依存せざるを得ないと考えてイギリス、
アメリカを支持する人々と、それと違った形で、
日本やフランスなどのように、少なくとも戦争に加担していない国に期待したいという声が高いというふうに理解するのがここで読み取れるのではないかと思います。
次に、資料の二と三をごらんいただきたいと思います。
これは、先ほど言いましたように、
イラク国内のアラビア語の新聞でございますけれども、ここをなぜ挙げたかといいますと、一面で
日本のことが載った日を挙げております。三月のみに限っております。これは、一月、二月は
自衛隊の派遣云々で、国際ニュースとして
日本が一面に載ったことは多いんですけれども、三月、今現在
自衛隊が
サマワにいる中で、その
活動を含めて
日本が
現地のアラビア語新聞の一面を飾った二つのケースです。
一番目は、資料二の方は、これは名前がちょっと不明確なんですけれども、
自衛隊の佐藤隊長が
現地の
発言として、社会労働省と合意に至ったというタイトル、ヘッドラインが躍っております。
これは、実は中身を見ますと、先ほど外務省の御
説明にもありましたように、
自衛隊が
給水活動を行うとか病院の修復を行うとか、常に言われているような
自衛隊の
活動内容の
説明をしたという記事内容でございますけれども、その中でもとりわけヘッドラインとして取り上げられているのは、社会労働省と失業対策について
自衛隊がアグリーした、合意したというヘッドラインが躍っているということで、ここから、要するに、
イラク人が
自衛隊に、よく言われているように、失業を何とかしてほしいというような期待が非常に強く出ているということをこの新聞報道ぶりで見ていただけるのではないかと思って掲載した次第です。
そして、さらにつけ加えて言えば、今月二回目に
日本が第一面に躍ったのは、私もこれは存じ上げないんですけれども、静岡で今度開催される青年フェスティバルというものがある、それに
サマワの青年が招聘されていますということが、これはバスラ版、地方版でございますけれども、それが第一面に躍るというような報道ぶりでございます。
すなわち、何を申し上げたいかというと、
日本での
自衛隊が
サマワで何をしているかという報道ぶりと
現地での
日本に対する報道ぶりは
かなり違うということを申し上げたい。すなわち、同じ
自衛隊を取り上げるにしても、
自衛隊の
給水活動云々ということよりも、まず失業対策で何とかしてほしいというような期待が前面に出た報道になっているということを申し上げたかったわけです。
そうしたことを踏まえまして、あと五分で、では具体的に
日本がどういう
支援策を行うことが最も有効かという点に移らせていただきたいと思います。
その
意味では、今申し上げましたように、失業対策等々というようなことに対する期待からもおわかりのように、
日本が最も求められていることは、
イラク全体の
経済活性化ということであります。これは
サマワだけに限らず、
イラク全体の復興、産業活性化というようなことに
日本がもっと積極的に関与していってほしいということであります。
これに対して、具体的に、ではどういう
活動が今の
イラクの
経済復興、
経済活性化に一番効果的かというと、これは恐らくバスラという町、都市、
地域での
活動が一番有効であろうと私は考えております。
イラク国内では、発電所、製油所あるいは石油コンビナート、港湾施設等々、これはもう社会主義体制をとっておりましたころから、バスラの周辺というのは油田地帯でもありますし、一大産業集積地になっております。この産業集積地が港湾施設も含めて復興することが可能になれば、
イラクの
経済復興はほとんど、三分の一から半分は終わったものというぐらいに極めて効果的な事業でございます。
こうした南部バスラの計画的な、総合的な開発というものがまず求められている。そして、そうした産業集積地の多くがかつて
日本の企業が携わったことのある事業であるということを考えると、何とかしてこうしたバスラを中心とした
経済施設の復興に関与していくということが非常に有効ではないかと思います。
二番目の有効策としては、そうはいいましても、まだなかなか
イラク国内に
日本人が入って事業を展開するということが難しいということがよく論点として指摘されますけれども、それに代替する案といたしましては、国外での
イラク人の
技術者あるいは医師あるいは知識人に対する研修、
技術協力といったようなものをもっと積極的に進めることが可能ではないかと思います。
とりわけ、この点に関しては、最近発表されましたような
イラク通信網の改善計画、これに
日本が積極的に乗り出すという発表が総務省の方からなされた、あるいはその前に、電力回復について外務省が積極的に乗り出すというような案が出されておりますので、そうした方向で進めることは十分可能だ。特にヨルダンへの文民派遣というような、そういった方向での事業をもっと大きな形で進めていくことは可能ではないかと思います。
とりわけ、これは
政府だけではなく、民間企業が協力して行うことも十分可能なプロジェクトではないかと思います。といいますのは、いずれの民間企業とお話をさせていただいても、どこも今
イラク国内に入ることができない以上、
イラクでの事業展開をローカルスタッフに任せなければいけない、
イラク人のスタッフに任せていかざるを得ない、あるいは、今後事業を展開する上で
イラクのどういう、だれにアドバイスを求めればいいのかということを非常に皆さん切望されております。
そういう
意味では、逆に、そうした、だれが知識を持っていて、
イラク人のだれに頼るべきかということを探るということもさることながら、むしろ積極的にこれから育成していく。今後
日本企業が国内に入っていったときに右腕になって働いてくれるような
イラク人の知識人、あるいは
政府の役人ということで考えてもよろしいかと思います。
例えば、地方行政の立て直し、
イラクの今後の暫定政権の立ち上げ、あるいは
選挙の
実施というようなことを考えれば、必ずしも
技術者や医師といったようなところだけではなく、中堅官僚、あるいは
選挙実施のノウハウといったようなものを、民間レベルあるいは
政府レベルで両方ともにいろいろな形で
技術協力をして、それが有効に実るだけの今後の余地というのは大変大きなものがある。より
イラク国外での
技術協力というものを考えていくことができるのではないかと思います。
それから、
最後になりますけれども、三番目に、繰り返し申し上げてきたことですけれども、対
イラク復興
支援は、やはり最終的には民間企業あるいは民間ベースの協力につないでいくという必要があるのではないかと私は考えております。
これはもちろん、先ほど申し上げましたように、かつて
日本の民間企業は
イラクの高度成長にさまざまな形で寄与してきたという点もございますけれども、さらに言えば、
イラクが産油国であるということを忘れてはいけない。すなわち、
イラクが自力で
イラクの石油を輸出して、財政を自律的に取り扱うようになれる日が来れば、そのときには、ある
意味では、いわゆる援助とか
支援とかいうような、一種、施し、施されるというような関係によってしか成り立ち得ないような国ではないということであります。
つまり、
イラクが現在、主権移譲あるいは今後の戦後復興ということで一番強く求めているのは、そうした一人前の国家として、昔のように石油を売って、堂々とその石油収入によっていいものを
日本から買うという、一種の対等な関係を最終的に目指しているということを忘れてはならないのだろうと思います。
つまり、よく言われるように、
支援支援という、いわゆる援助というようなことを中心に考えるがゆえに、余りにも援助漬けの体制に、国の方向性を間違った方向に導いてしまうということだけはやはり避けなければいけないわけでありまして、その
意味では、極力、最終目標としての民間ベースの平等な商取引に基づいた二国間関係ということを構築するために、どのような
支援が今必要かということを考えていく必要があるのではないかというふうに考えております。
以上で私の方の御報告を終わらせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)