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大橋参考人 私、
労働組合の連合、
日本労働組合総連合会の方から参りました
大橋太郎と申します。
本日は、
職務発明に関する件につきまして、
労働組合の
立場から御
意見の方、述べさせていただきたいというふうに思っております。
初めに、まず、結論と申しますか、連合としての基本的なスタンスについて表明をさせていただきたいと思います。
連合といたしましては、本件について検討を行ってまいりました
審議会であります、産業構造
審議会知的財産政策部会の
特許制度小委員会の方に
委員を出させていただき、その中で議論の方に参加をさせていただいたというようなことを前提にいたしまして、
労働者であります
発明者の
立場に立つのはもちろんのことでありますけれども、そのことのみならず、
労働者の
立場から見た
企業の持続的
発展、ひいては
日本経済、産業の
発展をも視野に入れた中で検討させていただいた結果、本
改正案につきましては、この
方向で
改正されることに基本的に賛成をしているという次第でございます。
私の前に専門家の先生方からいろいろな角度からるるお話をされてきましたので、私の方からは、ポイントを絞って数点お話をさせていただきたいというふうに思っております。
近年、
職務発明に関します
訴訟というものが頻発しておりますが、このことがすべてを物語っていると言えますが、
現行制度につきましては、労使双方にとって問題があるのではないかというふうに考えております。
御理解いただいていると思いますので詳細については割愛をさせていただきますけれども、
労働者にとってみてみますと、自己の
発明、すなわち、一生懸命取り組んでいい結果を出した、その仕事の成果に対する評価が適切にされていないんじゃないかと
納得感が得られない場合があるというようなことが問題だというふうに考えております。その評価の
一つが、
相当の
対価ということになるわけでございますけれども、その
納得感の低さが
訴訟となって現実にあらわれてきているというふうに認識しております。
しかし、それらの
不満というのは、すべて
訴訟という形であらわれているわけではないというふうに考えております。氷山の一角なのではないでしょうか。その裏には、
企業の
従業員でありながらみずからの
企業を訴えることは難しい、または忍びないという一般的な感覚を持った
従業員たちの
不満も、氷山の水面下の部分として、現在の
訴訟件数とは比較にならないほど潜在的に存在しているというふうに我々は認識しておるところでございます。
よりまして、まず、先生方におかれましては、
訴訟が頻発していること、それ以上に、この潜在的に
不満を持っている
研究者たちが多く存在していること、この点について御理解いただきたいというふうに考えております。
審議会の
報告書におきまして、これらの
不満でございますけれども、
相当の
対価の決め方を経営者側が一方的に決めている、そのことに起因しているというふうな認識がされておりますけれども、この点につきましても、連合としては、正しい認識がされているというふうに評価しておるところでございます。
このことに関連してでございますけれども、
研究者は一体どんな意識で
研究をし、また
発明に従事しているのか。一獲千金をねらっている、これだけだとお思いでしょうか。
特許庁の方で行われました
発明者アンケートの方にも出ておりましたし、私たちも、組合員である
研究者数名の方から直接ヒアリングをいたしました。
研究に対するインセンティブとして一体何をとらえているのかと申しますと、まず第一には
企業業績への
貢献が挙げられております。次に、報酬という意味ではない、
研究者としての評価を求めています。その次、三番目でございますが、やっと報酬というのが出てくるという順番になっております。
このように、単に報酬というのではなく、純粋な気持ちで
発明という業務に精励しているにもかかわらず、某社の例では、
出願時一万円、登録時一万円、計二万円というような評価が
現行制度のもとでは行われてしまうということなのでございます。これでは、いい
発明をした後に、よし、次もやってやろうというような気持ちになれるでしょうか。また、隣で頑張っている人がいて、その人が正当に評価をされていないというようなものを目の当たりにしたときに、よし、おれもやってやろうというふうに思えるでしょうか。それらは難しいことだと思います。
研究者の
方々はそもそも
研究するのが好きなのだというふうに考えております。そして、その
研究を通じて
会社に
貢献をし、そして
社会にも
貢献をしたい。同時に、そのことをきちんと評価されること、それだけを望んでいるだけだというふうに考えております。そんな
研究者でございますけれども、莫大な費用と時間、また労力をかけ、また好きな
研究をする場さえも失うようなこと、すなわち
訴訟するために簡単に退職する、そんなことをするでしょうか。そんなことはありません。できれば
訴訟などは避けたいというふうに考えているのです。
私たち
労働組合が二点目として申し上げたいことといたしましては、
労働者側も好きこのんで
訴訟をしているわけではない、いわば、
研究者としての存在を主張するために
訴訟をするしか手段がないというようなことなのです。この点は、我々としては非常に重要な点だと考えておりますので、正しく御理解いただければというふうに思うところでございます。
したがいまして、
改正案が、
相当の
対価の決め方の過程におきまして、
従業者の関与が必要であるというふうに提起をしているということとともに、その関与の
状況が不合理であってはならないというふうにしていることは、
現行制度と比べまして
相当納得感の高い
対価の
決定が可能になってくるものではないかというふうに考えております。
このことによりまして、
研究者の皆さんの働きがいというものも高まっていくでしょう。また、
生産性も上がると思います。同時に、経営者側の持たれている問題意識であります予見
可能性の低さ、そのようなものも解消されると考えますし、当然、
訴訟というものも大幅に減少するのではないかと考えています。ひいては、知的財産を創出する
環境が
我が国日本においても
整備される、そのことによって、
我が国にとっての知財の活性化、
研究者の海外流出防止、そういうようなことにもつながってくるのではないかというふうに考えておるところでございます。
一部に、このような個別
企業における自主的な取り決めにゆだねるのではなくて、ガイドラインなんかを設けるのがいいんじゃないかというような御
意見もあるようなのでございますけれども、この点については、
職務発明の多様性ということについて申し上げさせていただきたいというふうに思います。
一つの
発明がそのまま新商品になるというようなケースもあろうかと思いますけれども、例えば、自動車のようにアセンブル商品の場合は、その一部部品の改良というような、前者と比較いたしますと比較的小さい
発明というのもあると思われます。細かく言ってしまえば、
発明ごとに異なってくるということになってくるんですが、大きく見れば、業界ごとの特徴というようなものもあるのではないかというふうに考えております。業界ごとの多様性でございます。
また、
発明の行われている形態でございますけれども、これも
企業ごとによって異なるものがあるというふうに認識しております。
発明の現場、その実態でございますが、一人で
研究開発を行っているというようなことはほとんどないと思います。ほとんどのケースが、チームを組んで
研究、実験を重ねているというふうに認識しています。
特許庁のアンケートの方にもありましたけれども、一人で
研究開発を行っている人というのは九・三%、一割にも満たないというような数字がございました。
このように、チームプレーがベースである上に、
企業ごとに異なる形態の中でやっている、
研究をしている。その中で、個人の
貢献というものをガイドラインの中ではかるというのは難しいのではないでしょうか。また、
技術というものは日進月歩、ガイドラインでは
判断し切れないような
発明が生まれるということも想定されないでしょうか。
そもそも、我々が
問題点として認識している
一つとして、評価の
納得感が低いということがあります。
従業員であるみずからが策定に関与できないガイドラインより、
従業者として関与できる自主的な取り決めの方が
納得感を高めるという、現状の
問題点を解決するという観点からすると有効なのではないでしょうか。我々はそのように考えておる次第でございます。
最後に、
相当の
対価の定め方について一点申し上げさせていただきたいと思います。
定める過程におきまして
従業者等の関与が必要である、また、その関与も形式的ではならないというように
改正案ではしていただいておるわけでございますけれども、
労働組合のある
企業、特に過半数
労働組合、過半数以上の
従業員が加入している
労働組合がある
企業におきましては、きちんと労使協議を行い、労使自治のもと、労使双方が
研究職場の
意見を聴取、把握をし、最終的には
労働協約など労使で合意をするというようなことによって、
決定過程の
合理性を担保するということが一般的であろうと考えます。
改正案の
方向で
改正された場合、
労働組合のある
企業におきましては、その点について十分普及、機能していくというようなことは、我々としては想像しておるところでございます。
しかし、我々
労働組合が言うのもなんなんですが、
労働組合のない
企業というのもございます。また、株式公開をしていて
市場から監視をされているというような
企業ならまだしも、未上場の
中小企業などにおいては、組合がない場合、特に留意する必要があるのではないかというふうに考えております。
労働組合もないとなると、当然
労働協約の方も存在をいたしません。その場合、
使用者側のみの意思で決められる
就業規則などで定めるしか手段がないわけですけれども、そのような
状況だとしても、
改正案においては、
従業者の関与の
状況は不合理であってはならないというふうにしているわけですから、そもそも、
就業規則を管理している総務課の若手
社員を形式的に
従業員代表として、本当に形だけの
意見聴取をしたことにするという
通常行われていると思われる
就業規則の改定作業では、今回の場合、不合理と
判断されるということになってしまうと思います。
あくまでも最低限の話として申し上げさせていただきますが、不合理と言われないようにするためには、
労働組合がない場合についても
労働基準法における過半数
従業員代表制というものを実質的に確立し、この点が重要なのですが、労使協議と同等の
プロセスを踏んで、その上で
就業規則の中に盛り込む、また
報償規程を制定する。このようなことをしなくてはならないということを、しっかり
中小企業の経営者の皆さんにも御理解していただかなくてはならないというふうに考えておるところでございます。仮に
法改正が行われた場合、この点につきましては、行政を中心にしっかりとした普及活動等々の対応を求めたいというふうに考えておるところでございます。
以上、ちょっと短目でしたけれども、連合の
特許法、
職務発明に関する
意見でございます。
どうもありがとうございました。(拍手)