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荒木参考人 このような場をお与えいただきまして、ありがとうございます。
特定失踪者問題調査会の
代表をいたしております
荒木でございます。
今、
小此木先生の方から大
状況については御説明がありましたので、私は、この
拉致問題に特化して
お話をさせていただきたいというふうに思います。
私が現在
代表をしております
特定失踪者問題調査会と申しますのは、一昨年の
小泉総理の訪朝によりまして、
曽我ひとみさんという政府が認定していなかった
拉致被害者が出てまいりました、それをきっかけといたしまして、当時、私は救う会の
事務局長をやっておりましたが、救う会の方に、非常に多数の御
家族から、
自分のところの
子供の
失踪も
拉致をされたのではないかというようなお
問い合わせがありまして、調べているうちに、これはどうも私
たち自身が
拉致の全体像を見誤っていた
可能性があるということで、この
失踪者の問題を専門的に取り扱う
団体をつくろうということで、昨年の一月十日に発足しました全く純粋な
民間団体でございます。
お
手元の資料について簡単に御説明いたしますと、お
手元に
二つポスターがございます。その
一つ、この青い
ポスターが現在、四月にできております一番新しい
ポスターです。この中に、百九十八人の
失踪者の方が載っかっております。それからもう
一つ、
黄土色の地の
ポスターは、これはその前の
ポスターでございます。
二つ入れましたのは、実は、一番新しい
ポスターが、人数が百九十八人になりまして、もうデータが書き込めなくなったもので、
失踪の時期ぐらいしか入っていない。その前の
ポスターは、百八十人のときの
ポスターですので、簡単ですが、大体
失踪の
状況が入っております。御
参考までに
両方を入れさせていただきました。
現在まで我々のところにございます
失踪者のリストというのは、御
家族からのお届けがありました約三百五十人を合わせまして四百人ほどになります。そのうち二百人の方について
公開をいたしました。
二百人を
公開して、これまで、
拉致ではない、
日本国内にいるということがわかった方が、
公開の方の中で三人でございます。この青い
ポスターに出ている方でも、お一人、
ポスターが出た直後に
日本国内にいたことがわかった方がございます。この左側の下から三段目の一番右の方ですが、
山本晃之さんという方、この方は
拉致と
関係なく
日本国内にいたということがわかっておりますが、
公開した方でこれまでにわかった方は合計三人、
非公開の方でお二人。
ですから、これまで四百人についてやってまいりまして、わずか五人でしかないということに、我々として、正直言いましてかなりの
衝撃を受けております。問題が非常に深刻なのではないだろうかというふうに考えている次第でございます。
この四百人の中で、現在、我々は、二十八人の方につきまして、
拉致の疑いが濃いということで五回に分けて発表をいたしました。今のところ二十八人ですが、私がこの
ポスターをずらっと見て、この人はそうじゃないかなと思うようなものを数えていくだけでも、あと五十人ぐらいはおります。ですから、恐らく相当な数に上るのではないだろうかというふうに考えております。
非公開の方にも当然そういう方はおられます。
そしてまた、私どものところにお
問い合わせのない御
家族というのは、もちろん相当数おられます。
自分の
子供が
拉致だろうというふうに考えておられても、マスコミに出て騒がれたくないとか、
自分のプライバシーを明かしたくないとかいうようなことで、我々のところにお届けがない方がこれは相当数いることが大体想定されます。
また、現在の政府の認定しております
拉致被害者の中で申しますと、原敕晁さんとか久米裕さんのように、身寄りがほとんどない方について
拉致をしているケースが相当ある。これは逆に、身寄りのない方をねらってその人たちを
拉致するということによって、
家族はもちろん名乗り出ることはないわけですから、そういうものを目当てとしてやった方については、もちろん私どものところにも警察にもそういう
調査あるいは捜索の依頼は来ないということでございます。
ですから、私どもは、今、どんなに少なくても百人以上の
日本人が
拉致をされているというふうに申しておりますが、実数は恐らくそんな生易しいものではないであろうというふうに認識をいたしております。場所は、北海道から沖縄まで、
日本海側も太平洋側も内陸も全く
関係なく起きております。そういうお届けのない県が一県か二県しかないというような状態でございまして、全国至るところでやられているというふうに認識をいたしております。
そういうことから考えますと、現在の政府でやっております認定の十件十五人というのは一体どういうことかということになります。結論から申しますと、現在の政府の認定している十件十五人というのは、全くと言っていいほど
意味のない認定でございます。十件十五人の中で、これを政府、警察と言っていいんでしょうか、政府の方で調べて、だれも知らないときに、これが
北朝鮮による
拉致であるということを真っ先に公表した例というのは、実は一件もございません。
これまでのケースの中で、アベック
拉致の三件六人、横田めぐみさんについては、ジャーナリストが調べて明らかにしたものでございます。そして、辛光洙、原敕晁さんの
事件、あるいは田口八重子さんの
事件は、工作員が捕まって自白したことによってわかりました。ヨーロッパ
拉致の三人につきましては、その中のお一人であります石岡亨さんが人づてに札幌の実家に出した手紙によってわかった。曽我さんに至っては、誘拐犯である
北朝鮮の方が明らかにしたことによって政府が認定をしたということでございまして、政府の方から積極的に認定をしたケースというのは、今までただの一件もございません。
現在、いろいろマスコミ等で問題になっている方で、我々が
拉致の
可能性が高いというふうに言っている方に、松本京子さんとおっしゃいます、昭和五十二年の十月二十一日に鳥取県米子市で
失踪した女性がおられます。
松本京子さんにつきましては、私どもは、この
調査会ができる前、救う会の時点から
拉致の
可能性があるということで
調査をいたしてまいりまして、平成十二年の十一月一日に、当時民主党の衆議院議員でございました金子善次郎議員から院に対しまして質問主意書を提出し、そこで聞いていただいております。
この
事件について、「本件について、政府は朝鮮民主主義人民共和国との関連をどう認識しているか。」という質問主意書を提出いたしました。これに対しまして、平成十二年の十二月五日に答弁書がありました。これに、「本事案については、鳥取県警察において、家出人捜索願を受理し、所要の
調査を実施したが、
北朝鮮に
拉致されたと疑わせる
状況等はなかったものと承知している。」というふうに書いてございます。
しかし、一昨年十月末のクアラルンプールで行われました
日朝交渉で、政府は、水面下でございますが、この松本京子さんにつきまして、他の政府未認定
拉致被害者お二人、田中実さんと小住健蔵さんと合わせまして、三人につきまして
北朝鮮側に安否の確認をいたしております。
また、先般、細田官房長官は、地元のマスコミの取材に
答えまして、この松本京子さんの件について、あとの今まだ身元不明の政府認定被害者十人に準ずるような扱いをするというようなことをおっしゃっております。
このギャップは一体どこにあるのかということを考えますと、結局、
拉致と疑わせる事案をかなりの数、警察は持っているにもかかわらず、情報を
公開していないということではないかと疑わせるものがあるわけでございます。
さらに、もう
一つ、お
手元にお配りいただきました「山本美保さんに関する中間報告」というのがございます。
これはどういうことかと申しますと、昭和五十九年の六月四日に甲府市で
失踪いたしました当時二十歳の山本美保さんという女性に関しまして、私どもは
拉致の
可能性が高いということで発表しておるわけでございますが、ことしの三月四日に御
家族のところに警察から突然電話がございまして、
失踪十七日後、昭和五十九年の六月二十一日に山形県遊佐町の海岸に漂着した遺体と双子の妹さんのDNA鑑定が一致をしたという電話が入ってまいりました。翌日、その書類を御
家族が見たわけでございます。警察の発表では、この遺体は山本美保さんに間違いがないという発表をいたしておりました。
その後、我々はこれをいろいろな形で調べましたところ、その中間報告がここに書いてあることでございますが、現在、我々の
調査では、この遺体が山本美保さんであるというふうに疑わせるものは警察の発表したDNA鑑定以外には全く存在していないということでございます。
というのは、遺体のつけていた着衣等々が全く本人のものと異なること、あるいは、
失踪して四日後にバッグの見つかった柏崎市の海岸から遊佐町まで、十三日の間に、この間を遺体が流れて着くということはまず九九・九九%考えられない。考えられるとすれば何かの船にひっかけられて引っ張られた場合なんですが、そのような損傷の跡は見られないというようなこと等々がございまして、我々は現在、この警察の発表に疑義を感じて
調査を続けているところでございます。
そのようなこと等々を考えますと、残念ながら、現在、
日本政府がこの
拉致問題についてどこまで真剣に対応しようとしているのかということに対して、私どもといたしましては疑問を感じざるを得ません。十件十五人というのは、この十件十五人を守るためではなくて、十件十五人で
拉致問題を食いとめるためではないだろうかというような疑問すら持っているわけでございます。
ある外国系のマスコミの方は、
日本の警察の方から、数年前の話ですが、四十何人のそういうリストを見せられたということを
お話ししておられた方もございましたし、実際、警察の方にお聞きをしても、この十件十五人以外に
拉致を疑わせる
失踪事件は存在するということをおっしゃっているわけですが、これがそれ以上に、十五人以上に広がらないということは非常に大きな問題でございます。
というのは、現在、
日本では、警察を基礎とした認定によってしか基本的には
外交交渉に出さない。先ほど申しました松本京子さんあるいは田中実さん、小住健蔵さんの例というのは極めて特殊なケースでございまして、もちろんこれも表には出していないということですから、そうすると、国民の方が、
拉致というのは十件十五人だけではないだろうかというふうな、極めて危険な誤解を生みやすいということでございます。その危険な誤解をもとにして、先般、五人の御
家族がお帰りになったから前進だというふうに考えるのは、やはり若干時期尚早ではないだろうか。
百人以上の
日本人が
拉致をされていて、現在のところ、それを取り返す手段が、今、
日本政府がとっておりますのは
外交交渉しかない。そして、その
外交交渉でのカードを
家族五人を帰すところで切ってしまったということは、我々としては非常に危険であるというふうに思うと同時に、さらに、この問題について、恐らく多数の
日本人がやられているということを認識しているにもかかわらずこれを明らかにしていないということは、後から考えれば、これは大変な不作為ということになる
可能性があるのではないだろうかなということを私どもは考えております。
ですから、この十件十五人という枠にとらわれず、相当の数の
拉致がされているという前提で、特にこの
解決のために御尽力をいただきたいとお願いしたい次第でございます。
もともとこの
拉致の問題は、昭和六十三年の三月に参議院の予算
委員会で共産党の橋本敦議員が御質問をされまして、この中で主権侵害の問題も含めて質問をされております。当時の梶山静六国家公安
委員長は、これが事実であれば断固とした措置をとるという答弁をされているわけですが、現実にはその後も政府は動いてきておりません。
逆に、第一次の
日朝交渉のときに田口八重子さんの問題が出てきているわけですが、これに対しても十分な対応ができなかった。また、その第一次
日朝交渉のときには既にわかっていたはずのほかのアベック
拉致等々につきましても一切出していないということでございまして、これは国民の生命財産を守るという
立場からいたしますと非常に問題があるのではないだろうかという認識をいたしております。
そしてまた、もう
一つ、この国の機構の中の問題でございますが、先生方おわかりだと思いますけれども、
曽我ひとみさんが
拉致であることを
北朝鮮側が発表したときに、警察であれ、だれであれ、我が国の政府機関の中で、
曽我ひとみさんの
拉致に二十四年間気がついていなかったということに対しまして、謝罪をした人はただの一人もおりません。これはどういうことかといいますと、この国の国家機関の中に、
拉致をされた人がだれであるかということを捜す責任を持った機関が存在していないということでございます。
私自身も、
民間団体とはいえ、救う会の
事務局長をやっておりましたわけで、この曽我さんのことについて、佐渡の看護婦さんがいなくなっているという話までは知っておりましたが、それ以上のことをしなかったということは
自分自身にも責任を感じておりますが、警察は、当時、新潟県警も曽我さんの
事件については
拉致とは見ていなかったということでございまして、そういう曽我さんが明らかになったということはやはり重視をしていただかなければいけないであろうというふうに思います。
曽我さんのときの
状況を、この
ポスターにございます百九十八人の中に例えば入れてみたとしても、我々は決して曽我さんを
可能性が高い方の中には入れていないと思います。曽我さん以上にこれは怪しいと思われるケースというのはもっとたくさんございますので、そういう
意味からいいますと、この
拉致問題全体が一体どれくらい進んでいるのかということは、もちろん我々
民間団体がやっても限りがございますので、やはり国としてこれに正しい対応をしていただかなければいけない。
そして、
北朝鮮という国は、これから先も
拉致をやる
可能性はあるというふうに私は思っております。現在のこの国の海岸の
状況等々を見れば、私どもは簡単に侵入することはできると思いますし、また、
拉致をやろうと思えば、これは
拉致というのを海岸線で袋でも持って待ち構えてやるというふうに考えれば特別なことになるんですが、実際には
拉致というのは、
自分の意思で行くところから極めてシームレスにつながった犯罪行為でございます。
一番いいのは、本人が
自分の意思で
北朝鮮に渡る。これは、よど号の妻たちがまさにこの例でございます。しかし、よど号の妻たちも、彼女たちがずっと向こうにいるというふうには思っていなかったわけで、無理やり結婚させられた。あのときに彼女たちが、
自分はそんなつもりじゃなかった、
日本に帰ると言って騒ぎ出せば、これも
拉致になると思います。
そこからだんだんに、
自分の意思ではないけれども、だまされてどこかに行って、そこから暴力的に連れていかれた、どうしようもない場合は最初から暴力的に連れていくというふうにつながって、
拉致が相当の数行われているということでございます。
言うまでもなく、あの有本恵子さんらヨーロッパの
拉致の場合は、
北朝鮮に行くところまでは御
自分の意思でございました。
ですから、そういう
意味で言いますと、
拉致の件数というのは極めて大きいのではないか、そして、それに対して我が国は十分な対応をしてこなかったのではないだろうかということを感じております。
どうかこの
委員会の場でも御理解いただき、国会の中で反映させていただければとお願い申し上げまして、私の
発言を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)