○平野達男君 私は、
国会改革連絡会(自由党・無所属の会)を代表しまして、ただいま
議題となりました
イラク特措
法案に関連して
質問いたします。
自衛隊という、有事においては
武力の
行使という最も重大な
任務を与えられる国の組織を動かすに当たっては、明確な基本理念と行動
原則の下、慎重の上にも慎重な
判断が必要であります。しかるに、
政府は、
国会会期末に
法案を
提出、しかも衆議院においては政局を絡め十分な審査をしないまま採決、参議院に送られてきたことは、
国会の機能不全を示唆するものであり、強い
懸念を表明するものであります。
かかる上は、参議院において十分な
審議が行われ、正しい
判断が行われるよう切に願うものであります。
冒頭、
イラクの大量殺りく兵器に関してお聞きします。
イラクへの
米英軍の侵攻は、
イラクが大量殺りく兵器、いわゆるWMDを製造、保有していることを前提として
実施されたものであります。しかし、その事実、証拠はいまだに確認されていません。WMDが発見されるか否かは、今後の
イラク復興あるいは中東情勢に大きな影響を与えます。なぜWMDの確認にこれほど手間取っているのか、侵攻
決定に至る
米英の
状況の
判断にどこに問題があったのか、
総理の
見解を伺うものであります。
次に、
法案の中身に入りますが、まず、極めて重大な点を
指摘しておきます。
自衛隊の
派遣については、国連の平和維持
活動としての国連の決議と要請があれば、仮にそれが
武力行使を伴うものであっても
我が国は全面的に
協力すべきであると考えます。このことは、当然、
我が国憲法が定めている方向に沿うものであります。
しかしながら、
政府が本
法案の根拠としている
国連安保理決議一四八三号は、
人道支援については国連及びその他国際機関の
任務、
治安維持
活動は
占領国の
役割と明記しており、この枠組みの下で
自衛隊を
派遣することは
占領という軍政への
協力をすることになり、これこそ
憲法違反になるおそれがあることを申し上げておきます。
なお、国連などを通じた
人道支援については、
イラクがどういう
状態にあろうと現行法で
対応可能であります。決議一四八三で明確な要請がされていることからも、積極的な
実施を早急に行う必要があります。
イラクは
民族間や宗派間の根強い対立という、平和に慣れた
日本人の
理解を大きく超えるかもしれない複雑な問題を抱えている国ととらえる必要があります。
アラブ人、クルド人、トルクメン人が居住し、特にもクルド人が
フセインによる大量殺りく兵器
使用によって虐殺されたことは動かし難い事実となっています。また、
国民の六〇%を占めるシーア派と、一七%と少数派ながら、かつて英国によって
イラク統治の権限と特権が与えられ、その体制を維持してきたスンニー派との宗派的かつ国の覇権をめぐる政治的な対立。
その一方で、国内では互いに対立しても、かつてはシーア派が多数を占めるイランとの
戦争においては、
イラクは宗派の対立を超えて一致して戦ったこともありまして、外からの脅威に対するアラブ
民族の団結の強さを
指摘する向きもあります。また、イスラム対キリストといった文明の衝突の
可能性についても考慮に入れる必要があります。
これらはいずれも
占領軍が行う統治や駐留を困難なものになることを予想させる要素であり、ブッシュ大統領が主たる戦闘の終結宣言を行った以降の
イラクの
状況はこのことを示すものにほかなりません。ちなみに、先週号の
米国週刊誌タイムの
イラク関連記事の見出しは、決して終わっていない
戦争でした。
米国においてこそ
イラクの
状況は客観的にとらえられているように思えます。
早急に実現されなければならない
イラク人による
暫定政権の樹立も、その形、手続を間違えば大きな混乱を招くおそれがあります。
こうした
状況を踏まえれば、
イラクにおいては、一つの
地域の偶発的な事件が広い範囲や国全体の騒乱へと発展するおそれを常に内在しているとともに、
イラク国民の反感が高まり、
占領軍はもとより、外国の軍隊は
占領軍と同一とみなされ、
自衛隊もどこで
活動しようが標的にされる
可能性を常にはらんでいると考える必要があります。
こうした
イラクの事情に関して
総理はどのように考えているのでしょうか。
見解をお聞きします。
また、本
法案では、周辺
事態法やテロ特措法と同じ考え方に立ち、
戦闘地域と非
戦闘地域との
地域区分をしております。また、テロなどであっても、組織的、継続的なものでないものは
戦闘行為とはみなさないという立場を取っています。この区分は、
政府の解釈
判断するところの
憲法上の
意味は持つかもしれませんが、現実と懸け離れた考え方であり、実態的な
意味を持ちません。
どうしても
法案の枠組みで
自衛隊を派兵するというのであれば、
戦闘行為に関するプロの
判断に従った、
自衛隊の
安全確保を最優先した十分な
装備を持たせることを絶対条件とすべきであると
思いますが、
総理の考えはどうでしょうか。
自衛権の発動はもとより、
自衛隊を
海外に派兵するに際しては、明確な基本理念と行動
原則を確立し、その下で個別の事案を慎重に
判断する必要があることは自由党がかねてから主張してきたところであり、自由党としての
法案を既に
提出しているところであります。
一方、小泉政権は、テロ特措法の制定によって
自衛隊の派兵を
決定、アフガニスタンで
軍事行動を展開する
米軍へのいわゆる後方
支援を
実施してきました。今回、新たに
イラク復興支援法によって
自衛隊を
イラクに派兵し、事実上、
占領軍の
指揮下で
安全確保支援活動を
実施しようとしております。この間、国連ではアフガンへの国際平和維持
活動参加への決議がされたにもかかわらず、
自衛隊は
派遣しておりません。
米軍によるアフガン侵攻は、
米国による
自衛権の発動でありました。テロ特措法は、集団的
自衛権を
行使しないと言っている
我が国が
自衛権を
行使する
米国を
支援する
法律であります。その一方で、国連中心主義を掲げていながら、アフガンへの国際平和維持
活動へは不参加ということであります。
法案による
自衛隊の派兵は、
暫定政権さえ樹立されていない
占領軍が統治する国への派兵を認めること、したがって、
イラク国民への
支援と言いながら、
米英を主体とした
占領軍への
協力になること、
政府の言うところの
戦闘地域と非
戦闘地域という区分の下での他国の領土内での
活動であることなど、新たな先例をつくることになります。
小泉内閣は、二つの個別法によって
海外派兵という既成事実をつくろうとしています。しかし、
自衛隊派遣をめぐる小泉内閣の
対応には、
基本原則はおろか、一貫した方針らしきものは何も見えてきません。
自衛隊の最高
指揮監督者でもある
総理は、
自衛隊の
活動に関し、いかなる基本理念を持って取り組んでいるのか、
総理の肉声でお聞かせ願いたい。
総理は、さきの
武力攻撃事態特別委員会における私の
質問に答え、
憲法の理念に合致する平和の定着のために
自衛隊が
海外で
活動するためには、平素から基本理念の下に、一定の
法律をつくるべきとの
議論は
理解できる旨
答弁しておられます。我が党が主張する基本法制定に向けた前向きの
姿勢と評価いたします。しかし、その一方、それを制定するかどうかは
国民の
議論を見守りたいとの
発言でした。
我が国の
安全保障や
国際社会の平和維持に関する事項は、政治がまず
判断をして方針を示し、それを
国民に提示し、広く
議論を聞くのが本来の姿であり、政治の責任であります。
武力の
行使と一体となる行為は行わず、
憲法には抵触しないから問題はないとの主張かもしれません。しかし、
自衛隊の
海外派兵を、
基本原則を固めないまま、結果としてなし崩し的に拡大していく
過程と、多くの犠牲の上に敗戦に至ったかつてこの国がたどった不幸な道との間に、何かしらの共通点を見いだすことに危惧を抱く政治家は少なくないはずであります。漠然としているかもしれませんが、私もそうした危惧を抱いている一人であると思っております。
テロ特措法に続き、本
法案によって新たに
自衛隊の
派遣を決めようとしている小泉内閣には、
我が国の
安全保障の基本理念とそれに基づく
自衛隊の行動
原則などを定めた基本法、すなわち
憲法と個別法をつなぐ法の制定をする責務があります。
総理の決意をお伺いします。
自衛隊の
派遣に関し、個別法だけを積み上げることは、言わば一個一個の卵を積み上げるようなもので、正に累卵の危うきという
事態をつくり上げていると言えます。このことに気付かない、気付いていても何もしない、歴史観なき場当たり的政治はこの国を危うくすると強く申し上げ、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小泉純一郎君
登壇、
拍手〕