○
参考人(
蟻塚亮二君) 話の中身というのは大体書いておきましたので、これ、棒読みするのではつまらないので、幾つかキーワードごとにお話ししたいと思います。
「はじめに」というところは飛ばしまして、そもそも、私、疑問に思うんですけれ
ども、今の
精神保健福祉法そのものが実態としては
入院手続法でしかない。
精神衛生法という昔の
法律がありましたけれ
ども、その中身というのは
入院の
手続でしかなくて、どこに衛生があるんだということです。その骨格をずっと今の
法律も引きずっているわけで、今の
精神保健福祉法も
入院手続法でしかないわけです。
私、
精神保健法できるときに非常に
期待したんですよ。というのは、
精神保健法に衣替えするからには、例えば欧米でやっているような、人口三十万に対して、をキャッチメントエリアというふうに決めて、その中で救急からリハビリまでを全部
システムとして整備するというふうな政策的なものが入るんだろうと思っていたら、全然入らなかった。たかだか三種類の
社会復帰施設が規定されただけでしかない。がっかりしました。
そういう点でいうと、今のこの
法案に、今国際的な潮流になっている
地域ケア、
精神科地域ケア、これが全然担保されていない、そういうことが非常に問題で、だとすると、今回の
法律を作ったとしても、
地域に帰るということがないわけだから、やっぱり
入院手続法になっちゃうんだろう。結局、この
対象になる方は
長期入院を繰り返す、悪循環を繰り返すことになってしまうんじゃないかというふうに思います。
それから、(3)のところですけれ
ども、これ、
日本の
政府の非常に
犯罪的な問題だと思いますけれ
ども、
日本の
精神科のベッドというのは三十三万あるわけですね、人口一億二千万で。イギリスは人口五千五百万に対して二万五千しかない。仮に、イギリスの人口を倍にすると、
精神科のベッド数というのは五万ベッドあればいいわけですね、
日本は。ということは、三十三引く五だから二十八万の人
たちが理由もなく
精神病院に抑留されているわけですよ。この
責任はやっぱり
政府が取らなきゃいけない。
ハンセン氏病の問題と同じです。
何でそうなったかというと、世界じゅうの国の中で
精神医療を民間が主体となってやっているというのは
日本しかないんです。かのサッチャーですらも、イギリスの民営化路線を一生懸命やったサッチャーですらも、精神と高齢者だけは民営化しちゃいかぬというふうにして絶対手を付けなかった。そこのところをずっと延々と民間にやらせてきたのが
日本政府の歴史的な
誤りだと思います。そのことが
長期入院者を生み出してきた。
民間
病院というのは、私も民間
病院ですけれ
ども、一生懸命
患者さんを、難しい
患者さんを
退院させようとするとベッドががら空きになりますね。がら空きになった分、収入は減るんですよ。そうすると人件費出せない、そういう仕組みになっています。だから、精神というものは民間でやっちゃいかぬのです。
つまり、消防とか警察を民間にやらせたらどうなりますか。消防が人件費賄うために自分が火付けて走り回ればもうかる、それと同じですよ。そんなばかなことをずっとやってきたわけだ、
日本の
政府は。そういう民間依存体質ということを何としても変えなきゃいけない。
それから、外来診療だけで食っていける診療報酬を保障せよというふうに六八年のクラーク勧告の中で指摘されています。これを厚生省が無視したわけですね。クラークさんというのは、私、彼が四冊書いた本の中の二冊翻訳して出版していますけれ
ども、今でもメールのやり取りして友達なんですけれ
ども、
日本においてそのクラークさんが外来診療だけで食っていける
精神医療を作れと言ったにもかかわらず、作られなかった。
したがって、外来というのは
地域ケアを視野に置いた最前線なんですよね、それが不十分だ。そうすると、ますます、更にそうすると
地域で
精神障害を抱えて
生活している人
たちに対する
福祉的なサービスなんというものも全く進歩していない。全国でいわゆる
社会復帰施設のある市町村というのは一割しかないわけですね。そこのところにどうやっていわゆる触法と言われる人
たちを帰していけるのか。絶対無理ですね。
ということは、今の
精神保健福祉法というのは、例えてみると穴の空いたバケツですね。穴の空いたバケツから水が漏れるものだから、仕方なくてま
たちょっと小さめの穴の空いたバケツで補おうというのが今回の
法律だろうと思うんですよ。何やっておるのかと思いますね。
高木先生も言われましたけれ
ども、
地域のサービスを充実させれば、コミュニティーケアを充実させれば初犯は減ります。
保健婦さんが地をはうような
努力でもって
病院にかかわらない人を一生懸命説得して
病院に連れてきてというケースを私、何回も経験しています。そういうふうな
地域ケアを充実させることによって初犯を減らすことができる。
再犯については
高木先生が言われたように低いわけですから、何らこの
法律は必要ないというふうに思います。
結局、そうなってくると、この
法律の目指すところというのは、相も変わらず安上がりの収容を続けることだろうかというふうに勘ぐりたくなりますね。
それから、今度の
法案では、これは坂口大臣が言うには、
一つの県に
一つか二つの特殊な
施設を作るということなんですけれ
ども、いろんな問題がある。
一つは、手厚い
医療をやるんだと言うけれ
ども、医者が足りない。
日本の
精神科の医者というのは全医師数の中の四%でしかない。
精神病床が三十三万あるわけですから、大体、全
医療病床の中の二五%ぐらいですね。二五%のベッドを四%の
精神科医がカバーしている。これが無理なんです、そもそも。
何でそうなるのかというと、医学教育の中で精神医学に割かれる時間数というのが四%ぐらいしかないんですね。医師の国家試験の中でも、産科、婦人科、内科、外科、小児科、公衆衛生、そこに
精神科は入っていないんです。
精神科はメジャー科目でなくて、マイナー科目になっている。だから、
精神科医になろうという人が少ない。そこの文部
行政から直さなきゃいけない。それから、何とかして
精神科の医者の数を一〇%から一二%ぐらいまで増やしてほしいというふうに思っています。
それからもう
一つ、そういう特殊な
システムを作りますと、私は恐らく、多分その
対象になる人
たちは暴力と
長期入院の悪循環をらせん状に下っていくような
関係が生まれるんだろうと思います。というのは、慢性、
長期に
入院している方
たちがそうなんですけれ
ども、いわゆるシックロールというのがあるんですね、
患者としての役割というのが。──あと五分ですか。
例えば、私
たちが熱出して風邪引いたときには、早く帰って休んでもいいよと言われるのがシックロール、
患者としての役割なんですね。これは急性の
病気のときには非常にメリットになります、
本人にとっては。ところが、慢性
長期の人にとってはこのシックロール、
患者としての役割というのはデメリットになるんですね。
つまり、帰るべき家持たない、仕事もないという人
たちが、
精神病院に
長期に
入院しておられる方がたくさんいます。そのときに、もし治れば
病院出ていかなきゃいけない、
看護してもらえない、御飯食べれない。そうすると、彼らがやらなきゃいけないのは、より
精神病らしく振る舞うことしかできないんですよ。私は、その辺見抜いて、何か問題起こしたときには直ちに強制
退院にして、
責任取れと言っています。
今の
精神病院の悪いところは、
患者さんに対する
責任とか自由とか権利とか、そういう人間としての尊厳の基本にかかわるものを、
患者だということの名前でもって剥奪してしまっている、これが問題だというふうに思っています。同じようなことが、今回のこのいわゆる心神喪失云々の
対象者に関しても言えるんではないか。
つまり、
社会的なよりどころがない
精神科の
患者さんに対して、新たに
犯罪者というアイデンティティーが加わるわけです。そうすると彼らはどう思うか。おれはどっちみち
犯罪者なんだから、多少暴力を犯したっていいやというふうに思っちゃう。そうすると、暴力と
長期入院と、そして暴力と
長期入院が悪循環を繰り返すだけですよ。そういう
犯罪者の役割といいますか、オフェンダーロールという、そういうものを生み出すんではないかということを危惧しています。
それから、いわゆる保安
病院、イギリスで言うところの保安
病院の問題ですけれ
ども、イギリスにしてもノルウェーにしても、私、どっちも行きましたけれ
ども、どこもかしこも保安
病院というのは
スタッフが先に沈殿して駄目になっちゃっている。いわゆる名古屋刑務所でこの前
事件起きましたけれ
ども、あれと同じようなことが保安
病院の
スタッフが犯しているわけですね。
クラークさん
たちが、かつてイギリスのいろんな優れた
病院から医者と
看護婦のチームを保安
病院に派遣させて、国策として派遣させて、そして
調査させて、自分
たちの
病院に何人かずつ連れて帰った。それで、自分
たちの
病院で
治療して
退院させたということがあります。
そういうふうにして、別に保安
病院、新しい
施設も作らなくても、作ることの弊害の方が大きいわけであって、むしろ
地域を中心にした
医療に
日本全体の
精神医療を再編成し直すことの方が大事だ、そのことしか今回の問題というのは解決しないだろうというふうに思っています。
それから、
最後に、私の配付した
資料の、「
精神障害を持つ
犯罪者のリハビリテーション」という、これ私、訳した本ですけれ
ども、その百八十八ページのところの八行目のところを見てほしいんですけれ
ども、「ある場合には二十人以上の担当ワーカーが彼女のケアに動員されることも珍しくなかった。」とあるんですね。一人のいわゆる
犯罪を犯した
患者さんのために、イギリスでは必死になって
地域で頑張ってケアしているわけです。そのときに、二十人以上も寄ってたかって一生懸命やって走り回ってケアするということですよ。
そのことが果たして
日本でできるのか。できないですね、
日本では、到底そんな
システムないんだから。まして、法務省の
一般犯罪者の更生を目的にする保護観察所が今でさえも手一杯なのに、そこが拠点になるなんということはまず絶対無理だと思います。
以上、足りない、まだ言いたいこと一杯ありますけれ
ども、時間なので終わります。
ありがとうございました。