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参考人(糟谷正彦君) 糟谷と申します。
私は、平成二年七月から平成六年七月末まで満四年一か月間、
大阪大学事務局長として勤務しておりました。その間、二人の
総長にお仕えをいたしました。その
経験を踏まえまして、事務の側面ですね、
教育、学術
研究をサポートする事務局、そういうふうな観点から、お手元にお配りしております資料に沿いまして
意見を申し上げたいと思います。
まず
最初に申し上げておきたいのは、
国立大学に対するイメージでございます。
予算をただ執行しているだけで何もしない旧態依然とした
大学という誤ったイメージが一部にございます。これを正確に正していかなきゃいけない、そういうように思っております。そういう
意味で私は
国立大学擁護論者である、そういうことをまず明らかにしておきます。それは資料のAをごらんいただければお分かりいただけると思います。
私は、
大学を卒業いたしまして
文部省に入りまして、四十年間生活をしておるわけで、いろんな職場を
経験してまいりました。
文部省、それから県の
教育委員会に二度、違った県ですが、出向いたしております。それから大阪
大学、それから特殊
法人、それから現在、民間企業に勤めておるわけでございますけれども、この四十年間の中で大阪
大学という職場ほど
人材がそろっていた、
人材の宝庫、そういうところは今までなかったと思っております。
私は、熊谷
総長、それから金森
総長のお二人にお仕えいたしました。いずれも理系の一流の科学者でございますけれども、語学力もおありだし、バランス感覚もある、経営マインドも持っていらっしゃいますし、確固としたリーダーシップもある
方々で、選ばれるべくして選ばれている、やっぱりそういう
総長だと思いました。やわな民間の
経営者など足下にも及ばない、そういう
方々であったと思います。現在の岸本
総長も立派な方であると、そういうように伺っております。
その他、評議会の
メンバー、副
学長、その他
先生方といろいろ四年間お付き合いさせていただきました。すべて学識、これは学識はもう
大学の先生ですからもちろんでございますが、人物もすばらしい、バランス感覚もある
先生方ばかりでございまして、数人の
方々とは現在も御交誼をいただいております。これはどこの
国立大学でもほぼ同じであると、そういうふうに思います。
このように
人材が豊富で非常にバラエティーに富んだ方がいらっしゃる中へなぜ民間の役員とか民間の経営協議会の
委員を入れてひっかき回す必要があるのか、これが私の疑問点でございます。角を矯めて牛を殺すという言葉がございます。そのような愚、愚挙だけは避けてほしい。
もう少しイメージを持っていただくために、具体的に二、三の例を挙げて御説明申し上げます。
大阪
大学は、地域に生き世界に伸びるというのをモットーに先見性のある
改革を進めてきております。
昭和三十六年四月に、理学部と
工学部を融合する基礎
工学部ができております。昭和五十一年四月には、
人間とは何かというわけで
人間科学部ができております。これはその後、いろんな私立
大学とかほかのところが追随をして四文字学部というのはたくさん出てきておりますけれども、それのはしりでございます。
それから、平成六年の四月、これは私の在任中でございますが、医療技術短期
大学部、医療技術短期
大学部というのがあるんですが、それを四年制の医学部の保健学科に変えておりますけれども、これは全国の医療技術短期
大学部のトップを切ってやっております。それで、ずっと
計画的にやって、今年ですべての
国立大学の医療技術短期
大学部の変換が終わったと思いますけれども。それから、同じく平成六年四月には、国際公共政策
研究科という
大学院を仕立てております。こういうようなところは、それぞれ後、県立の看護
大学がたくさん出てくるとか、すべて先見性のあるわけで、一歩先を進んでやっておりまして、後、ほかの
大学がまねをしていると、そういうところでございます。
それからまた、最近、
大学発ベンチャーというようなことが事新しく言い始めておられますけれども、それで阪大でももちろん若い先生がナノテクとかバイオの
分野で新しい試みをやり始めつつありますけれども、もう阪大の場合は既に戦前、昭和九年でございますが、昭和六年に大阪帝国
大学ができておりますけれども、昭和九年に微生物病
研究所という附置研ができまして、そこに財団
法人の阪大の微生物病
研究会ですね、財団
法人阪大微生物病
研究会というのが昭和九年にできましてワクチンの製造を始めておりまして、今もやっております。それで、現に四国の観音寺に工場を持っておりますけれども、BIKENというワクチンのかなり有名なブランドを持っておるわけでございますが、ここも
研究費を
大学に入れてくれております。
ただ、申し上げておきたいのは、
法人化して外部資金を集めるとか、あるいはベンチャーで金もうけをすればいいんだというような
意見が軽々しく言われるわけでございますけれども、例えばこの阪大微研、大体七十億から八十億の収支でやっておりますけれども、毎年大阪
大学に
研究費を入れていただきますのはやはり一億円程度でございます。それは費用が掛かるからやむを得ないわけなんでございまして、そう企業やったからってたくさん外部からお金が入ってくるというわけではないということを申し上げたいと思いますし、それから、感染症というようなのは、ずっと人気がなくなっているときは忘れられているんですけれども、病原性大腸菌O157のときにも急に阪大微研の名前が出てきましたし、今度のSARSのようなのが出てきますと、また出てくる。要するに、忘れられたころに、ずっとその間もしっかりと
研究をして応用的なことをやっておりますからそれにすぐ対処できる、そういう面があるということをお
考えいただきたいと思います。
それからまた、地域との
関係でございますけれども、平成六年四月、これも私の在任中でございますけれども、アサヒビール株式会社から三億円をいただきまして、大阪
大学の出版会を立ち上げております。これは熊谷
総長がアサヒビールからもらってきていただいたんですけれども、出版会というのはもちろん東大が一番初めにできてちゃんとやっておりますし、後れて名古屋
大学ができておりますけれども、名古屋
大学は物すごく出版会は発展しておりましていい書物を出していらっしゃいますけれども、阪大は後れておりますけれども、いい書物を出しながら現在も続いております。
このように、
国立大学というのは、その地域
社会、地元産業界とも連携を取ってちゃんとした
大学運営をやってきております。それで、今後もやれると、そういうふうに確信をしております。
したがいまして、下手にいじり回す必要はない、
大学をもっと信頼すべきである、そういう観点から、今回の
法案に対して具体的な疑問点を六点ほど申し上げます。
お手元の資料にございます。まず第一点、屋上屋を架す
会議。役員会、それから経営協議会、
教育研究評議会、この三つが重複をいたしておりまして、これでは機動力は欠けるわけでございます。
イギリスの
大学とかフランスの
大学を見ましても、イギリスもカウンシルとセネトとコートというような、似たようなのが三つありますけれども、コートなどというのは株主総会と同じように一回しか開かれない、そういうなのが三つ並んでいるわけです。今度は、
国立大学法人法案は、これを対等に月に三回ずつやらせるつもりなのかどうか、非常に機動性が欠けることになると思います。
第二点、教授会自治の消滅でございます。
非公務員型にしましたために、国立学校設置法、それから
教育公務員特例法中から、もう一切教授会に関する権限の規定が消えました。ただ、学校
教育法五十九条には教授会の規定がございますので、私立
大学と同じように
内部規定で決めると、そういうことになるんだと思いますけれども、ここには重大な
国立大学教授の身分保障に関する問題が潜んでおります。
私立
大学でも
大学の自治ということを言われておるわけでございますが、仮に憲法の規定というのは私人対私人の
関係には適用がないんだという最高裁の判例に従って、そこは私的自治に任されているという説を取ったといたしましても、今回でき上がります
国立大学法人というのは、改正後の学校
教育法第二条及び第四条の規定によりますと、設置認可というのは必要としない従来の
国立大学と同様でございまして、それから、
国立大学法人法第三十七条をごらんいただきますと、
教育基本法などの法令については
国立大学法人を国とみなしてこれらの法令を準用すると。国なんです、
国立大学法人は。
したがいまして、単に私
人間相互の私的契約
関係と同視するわけにはまいりませんので、教授会の規定を置いていないということは
大学の自治、憲法二十三条違反という問題さえ出てくると思います。
で、これに対しましては、教授会自治なんていうのは大体古典的な
大学の残滓であると、ユニバーサル
段階を迎えた高等
教育ではもう通用しないんだ、
大学運営の硬直化をもたらすだけと、そういう
議論が有力で、大体そういう
議論に裏打ちされてこの
法案もできておると思うんでございますが、ここがおかしい。
私も大阪
大学に四年間在職しておりましたけれども、大阪
大学は教授会自治がうまく機能していたと
考えております。
具体的に申し上げますと、例えば、定年退職する教授の後任人事につきましては、当該教授の影響力を排しまして、あるいはその退任しました教授がいなくなってからちょっと期間を空けて後任者を選定をいたしまして、講座名は変らなくても新しい学問
分野をこちらへ引っ張っていこうと思うと、それにふさわしい人を連れてまいりまして、講座名は同じでも学問
分野は結局新しい
方向へ、新しい
方向へ移るようにちゃんとした配慮がなされております。
したがいまして、大阪
大学のインブリーディング率ですね、要するに自校、
自分の
大学を出た人の数というのは非常に少ない。特に理学部につきましては、少なくとも教授は他
大学出身の教授の方が多いんです。これは現在も変わっておらないと思います。
こういうふうにうまく自治が働かないと判断できない。最先端の学問
分野というのは、その仲間内でしか判断できないんです。幾ら民間の
経営者が入ってきても、最先端の学問
分野というのは判断できない。
それで、ユニバーサル
段階になったからとか、エリートからマスの
段階になったからとか、すべて高等
教育は変われ、管理形態まで変われという説をなす人はございますけれども、やはりエリート型あるいはマス型の高等
教育機関というのは残らなきゃいけない。そこには理念型の教授会自治、そういうものがなければ
大学というのは成り立ってまいりません。
それから、第三番目、会計監査の重複でございます。
新
法人には監事二名が置かれて、企業会計原則を適用して公認会計士、監査
法人の監査を受ける。しかも国費が入っておりますから、今までどおり会計検査院が検査する。今までの三倍の手間と書類が必要でございます。
それで何かいいことが分かる、良くなるというんならいいんですけれども、
国立大学というのは消費経済でございまして、企業会計原則を入れて良くなる部分はありません。企業会計原則というのは投資する人、株主のためにその資産
状況を明確にする、そのための原則でございまして、しかも、その中の時価会計というのは、今、時価会計が問題になっておりますけれども、単なる会計の問題ですけれども、これは実体経済に影響を与える、そういう大きな問題を抱えておるわけですが、それを単純に導入させる。
それから、第四点、不明確な
評価基準。
評価が
国立大学法人評価委員会と
独立行政法人大学評価・学位授与機構、二重の
評価をやります。理屈の上では分かれておりましても、具体的なことを判断するのは結局両方の
評価をしなきゃいけない。さらに、法科
大学院だともう
一つまた、日弁連法務
研究財団なんかの
評価を受けなきゃいけない。
それで、
評価の問題につきましては、もちろん
研究業績につきましては
評価をしなきゃいけない、できる、現に厳正にやっておると思います。だけれども、
組織を
評価する、
組織の業務をどうやって
評価するのか、そんなことはできるはずがないんでございまして、それは資料のBと資料Cを参照していただきたいんですけれども、高等
教育機関の目的による、要するに
組織を
評価するわけでございますから、
組織の種別化があいまいなまま
評価しても
評価のしようがないんです。例えて言いますと、平泳ぎとバタフライと背泳ぎを同時に泳がせてタイムを競わせる、そういう無
意味な
評価になるわけでございます。
それで、膨大な書類が必要とします。それで、これは単に事務職員だけがやれるんではございませんで、
先生方に頼まないと出てこない。先生の
教育研究のための時間やエネルギーが非常に浪費されます。
もしもこの
評価をちゃんとやるというんであれば、高等
教育のマスタープランあるいはグランドデザインというのをはっきりさせていただかなきゃいけない。それはこの最終
報告「新しい「
国立大学法人」像について」の中にも、ちゃんと
文部省の文書にも明記しているんです、四十四ページに。国がそういうグランドデザインを明らかにするのは責務であると
自分で言っているんです。だけれども、それをやらないでこんなものが出てきたって、それは無理でございます。
それから、第五は、非常に細かなこと……