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参考人(小川和久君) 小川でございます。
本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。
私は、これまで草野
参考人、森本
参考人がお述べになったとおり、これまで国家
国民の安全を図るための
法律や制度が
整備されてこなかったことが異常であると。ですから、大変オーバーなことを申し上げますと、私が
総理大臣であれば、
国民からなぜ今かと聞かれれば、ないから
整備するということを申し上げるだろうと。そういう問題として、今回の与党、そして野党のかなりな
部分の賛成による大きな前進というものを高く評価したいと思っております。
しかしながら、私は今評論家稼業でございますが、実際には
政府の幅広い
意味での危機管理、これ
外交・
安全保障を含みますが、そこに当事者として、末席ではありますけれどもお手伝いをしている
立場でございます。そこから申し上げますと、いかに優れた
法律や制度ができても、あるいはどのような政権によってそれが行われたとしても、
日本的な発想から一歩抜け出ないことには機能しないという問題がある。絵にかいたもちに終わる
可能性がある。その辺についての専門家の一員としての危惧を若干述べさせていただきたいと
思います。
お話は、時間が限られておりますので、お手元の一枚紙のレジュメを基に進めてまいりたいと
思います。
私自身は、
法制度そのものが内包する問題点、それから
法制度を取り巻く問題点についてきちんと
議論をし、詰めていかなければ
法律や制度は機能しないということをもう一度御
議論いただきたいと思っているわけであります。
一番目の、
法制度が内包する問題点としては、大ざっぱに三点ございます。
一つは、
国民の
保護法制、特に住民の避難誘導が含まれた
部分を同時進行で
整備しなければ
自衛隊は円滑に活動できないという問題でございます。
それから二番目には、「司令塔」というかぎ括弧付きの表現を取っておりますが、
日本版FEMAのような組織、これは今、森本
参考人が危機管理庁についてお述べになりましたが、そのような組織と考えていただきたい。そういったものがなければ、
国民を現実に
保護することはできないという問題があるということでございます。
三番目には、
武力攻撃事態のみならず、大災害や大事故を含む、かぎ括弧付きの表現で、仮の表現でございますが、「緊急
事態」として位置付けなければ、こういう危機における
国民の、
国民的な合意を形成しにくいのではないかなという問題点を感じざるを得ないわけであります。
まず、一番目の
国民保護法制を同時進行しなければいけないという問題でございますけれども、現在考えられている、あるいは語られてきた
有事法制の言わば原点に当たるのが昭和五十二年当時にささやかれたいわゆる北方
脅威論でございます。これは、ソ連軍が北海道に上陸してくるぞというお話でございます。
もちろん、何十個師団も来るなんというのはこれは政治的なデマゴギーでございまして、非常に輸送能力から限られた戦力しか北海道北部に上陸させることはできませんでしたけれども、アメリカとソビエトが全面戦争に入る
状況の下には、宗谷海峡の通峡権の
確保のために北海道北部に限られた軍事力を上陸させてくる
可能性があり、その能力をソ連軍は当時持っておりました。それを迎え撃つために我が陸上
自衛隊は、名寄の北方の音威子府という村がございますが、ここを中心に
防衛計画を
整備してきたわけであります。
御存じのとおり、近代軍隊の地上部隊は大規模な物量を必要といたします。また、それを運搬するための多数の車両を有しております。そういったこともありまして、必ず前進する場合には幹線道路を使うことになります。ですから、我が陸上
自衛隊としても、当時は稚内から旭川に抜ける国道四十号線を中心に
防衛計画を作っておった。ところが、その音威子府を中心に国道四十号線でソ連軍を阻止しようと考えても、
一つの大きな問題があるということが明らかになるわけであります。
それは、南下してくるソ連軍の前を、何万人とも知れない北海道北部の住民がマイカーに家族と家財道具を乗せて南下してくる。ソ連軍は
日本人が盾になるから、これは都合がいい。しかし、陸上
自衛隊はソ連軍を阻止するための戦闘行動ができないわけであります。だから、そこにおいては、まず明確な避難の計画があり、安全地帯に
国民を避難誘導しておくことが
前提になるだろうと。そういったことについて
議論が始まるわけであります。
しかしながら、当時、どこを見ても、警察、消防、
自治体、あるいは
自衛隊の中を見ても避難誘導に関する具体的な
議論というのはなかった。そういったことから、この
有事法制の
議論は始まっているんです。だから、やっぱり、
国民の
保護法制の中に避難誘導ということを含めるんであれば、同時進行で
整備しなきゃ駄目だということを言わざるを得ない。
また、今回の提案されているものには陣地の構築や物資の
確保が可能になったという
部分はございます。確かに、その面では
自衛隊の活動は円滑になったんでしょう。しかし、陣地を構築する場所に行くアクセスが避難民で詰まったら前進できない。物資を
確保するための場所に行くためにも、道路が
確保できなければ前進できない。何が
自衛隊の活動が円滑になるのかということを申し上げざるを得ないわけであります。これが第一点であります。
第二点は、司令塔がなければ
国民を
保護できないと申し上げました。この
有事法制が必要だという
議論が始まった当時から出ておったんでありますが、
自衛隊は外敵と戦うのが役割分担であります。ただ、その
状況下において
国民を
保護する役割分担は警察、消防、
自治体なんです。
ところが、この役割分担が明確になっていない。言わば危機管理に関する思想、哲学が存在しない結果、
自衛隊側もそのプレゼンテーション能力がないということもあるんですが、
自衛隊は
国民を守るんじゃない、国を守るんだとか言って、舌足らずなことを言うから誤解をされる。あるいは、消防や警察とどうすり合わせるんだという
議論にならないから、意思の疎通もないというのが実は現状なんです。警察と消防すら意思の疎通がないんですよ、現場にいますと。その辺の問題が実はあります。やはり、これは消防、警察、
自治体が縦割りにならないようにきちんと調整をし、束ねる司令塔がなければ
国民の
保護はできないという問題なんです。そして、この司令塔は
自衛隊との調整も行う役割を持つということなんですね。
ただ、そういう中で、やはり
自治体などが具体的に避難計画を策定できるかということは、なかなか難しい。しかし、こういう、
自治体が地の利を踏まえた避難計画を策定するに当たって助言をするための専門組織として、この司令塔に当たる組織が機能する、また、
自衛隊とそういった問題を調整する上でも機能するということで不可欠な組織だと
思います。
ただ、そういう中で、若干整理をしなければいけない
議論が残っているというのは、その新しい組織を作るというのは行政改革に逆行するという言い方があるということなんです。これは内部的な話を申し上げますと、こういう危機管理庁のような組織が
自衛隊まで全部指揮するかのように誤解されているという話なんですね。そうじゃないということなんです。これは、警察、消防、
自治体を束ねるということが基本的な任務である組織だとお考えいただきたい。
そして、行政改革というのは、要らないものは削る、廃止をする、必要なものは増強する、また新設をするということではないですか。スクラップ・アンド・ビルドなんです。ところが、何か新しい組織を作れば行革に逆行するというのは、惰性で行政をやっていると言わざるを得ない。その辺は、若干、御
議論を整理していただきたいと思うわけであります。
ただ、そういう中で、
有事法制という言葉については私が抵抗があるのは、やっぱり
国民が身近な危機としてリアリティーを持って受け止めているのは、大災害、大事故であり、大規模
テロなんです。そして、長期的に国が備えなきゃいけない問題として
武力攻撃事態がある。だから、短期的、中期的にリアリティーを持つ大災害などと同時に、
武力攻撃事態にも
対処する
法律や制度を
整備すべきだと。この辺をきちっとしなければ
国民的な合意を形成しにくいだろうと思うわけであります。
やはり、
武力攻撃事態について
議論が非常に空論に陥りがちの問題としては私権の
制限の問題がございます。私の権利。しかし、大災害、大事故において、人命救助のために緊急自動車が走らなきゃいけない道路を
確保するために
自治体の首長が外出禁止命令を出すなどというのはアメリカの地方
自治体においては当然あるわけであります。ここにおいてはコンセンサスできている。しかし、アメリカの
国民的な合意としてもう
一つの合意があるのは、これはマーシャルロー、戒厳令についてはほとんど発動できないぐらい厳しい合意もあるわけであります。
これは身近な危機をどう克服するかという、言わば基礎問題に当たるところからずっと積み上げていってでき上がった合意なんです。こういったことで合意を形成しておれば、究極の危機である
武力攻撃事態においても、ここまでの私権の
制限はやむを得ないだろうということがはっきり
国民の側から出てくる。しかし、これ以上は譲れないということもはっきり出てくる。具体的な話になるということです。そういったことも含めて、やはり司令塔に当たる組織を作り、緊急
事態という
一つ幅を広げた取組というものをやっていただきたいと私は思うわけであります。
災害、あるいは大事故、あるいは交通事故や医療事故も含む基礎問題について取り組むのは非常に取り組みやすい、
国民の合意も作りやすい。しかし、
外交・
安全保障ということになりますと、
自衛隊をどのレベルで
整備するかということについても、やはり賛成も反対も分かれますし、
議論は百出する。まとめるのは難しい。まあ
安全保障というのは言わば高度な応用問題なんです。基礎問題ができずに応用問題できるわけないじゃないですか。どこを見ても基礎問題ができていないんですよ、
日本は。そういった
意味も込めて、やはり緊急
事態という幅を持たせていただきたいと思っているわけであります。
二番目に、
法制度そのものを
議論すると同時に、
法制度を取り巻く問題点についても
議論していただきたいと思っております。
私自身は
内閣官房などでこういった作業を末端の方でお手伝いしておりますけれども、
法律や制度が幾ら完璧なものになったとしても、
日本の現状じゃ機能しないんですよ。
例えば、一例は道路なんです。道路は、昨年、
日本の
国土交通省のトップ官僚たちと勉強会をやった中でも向こう側が認めておりましたけれども、国家建設における道路
整備の位置付けが今まで語られたことがないんだそうです。国家建設の目的というのは何ですか。
国民に安全を保障すること、そして自由を保障すること、繁栄を保障することでしょう。それに向けて国家建設があり、道路の
整備がなきゃいけない。ところが、どこから切ってもこういったことが
議論されたことがないんだそうであります。何をやっていたかというと、極端言うと、路面を掘りくり返しておりましたという話なんですね。ただ、非常に優秀な官僚だから正直にそれを言うわけですよ。だから、そこのところをきちんとやらなきゃ、
法律や制度が
整備されたって駄目だということなんです。
例えば、道路について申し上げますと、これ危機管理上の問題でいいますと、国防、防災、救急救命などありますよ。でも、例えば国防でいいましても、
防衛計画と住民避難路の整合性について
議論されたことはない。
あるいは、ハイウエーストリップなんてありますが、これは西側先進国では高速道路を飛行場にするというのは当たり前ですよね。
韓国だって八か所あるし、北朝鮮だって十三か所ある。航空地図に載っていますよ。
韓国なんかは高速道路を目をつぶっていたって、走っていてゴーっと音が変わるから見ると、長さ四キロぐらいの直線区間、中央分離帯もない、照明灯もない、強化コンクリートになっている。戦闘機が発着できるようになっている。これは当たり前なんです。そういった道路は一切ありません。
あるいは、軍用車両の通行に耐える設計で造られた道路もありません。例えば、高速道路でも、東名高速の東京バリアほか数か所以外は、戦車も装甲車も通れないんですよ、あの料金所の幅が狭くて。例えば、九〇式戦車は幅が三・四メートルある。今度、バグダッドに入っていったアメリカのM1戦車は幅が三・六三メートルもあるんですよ。だから、料金所を踏みつぶしていかなきゃしようがない。まあむちゃくちゃ、何にも考えていないということです。大型バスは幅二・五メートルですけれども、全然大きいんですよ、戦車とか装甲車は。
あるいは、敵が上陸してきそうな場所というのは大体限られるわけであります。これは、軍事技術上それがはっきり言えるわけでありますが、そういったところに、国防のための道路があり、例えばトンネルなどを利用した戦闘機の格納庫がありといったようなことを全部考えていくというのが、これは
国民の安全を考える道路
整備であろう。こんなもの、何にもありません。
あるいは、防災上もそうであります。防災計画と住民避難の整合性が考えられたことはない。
それで、一番問題になってくるのは、これ、下から二番目のところでありますが、巨大災害、大規模
テロと幹線道路網の関係でございます。こういった危機が発生した直後に、救助、救援のために緊急自動車等を向かわせる。あるいは住民を避難させるための循環という
考え方がなきゃいけないんです。
阪神・淡路大震災でいいますと、海側の国道四十三号線、これを西行き一方通行にする、山側の国道二号線を東行き一方通行にするといったような計画が事前にあり、ぐるっと回していけば、これはやじ馬につかまって緊急自動車が走れないなんという問題も相当緩和される。もちろん、交通の流入点には、ヘリコプターから警察の白バイを下ろしていって、赤色灯をつけるだけで止まるわけであります。こういったものが循環なんです。こういったものがないのに、何で防災なんだと。
第二東名は防災上は役に立つなんて、後知恵みたいなことを言うけれども、とんでもないと自民党の道路部会の先生方と話をしたことあります。向こうも認めていましたよ。大体、防災考えるんだったら、同じ
地域に高速道路を通すばかはいないだろうと。これは
国土交通省道路局だって、そのとおりだと。少なくとも中央高速の方を通す、あるいは北陸道の方を循環として考えなきゃいけない。第二東名というのは、設計強度は上がっていますから、結果としていえば東海地震にも耐えるかもしれないけれども、あれは元々、拡幅の発想であの
地域に通したんですから、やっぱりその辺はもう一回整理した方がいいだろうと。
あるいは、防災都市計画だって、東京だって大阪だって、どこにもないわけですよ。これはきちっとやるんです。
国民の命を守るための公共事業をやるぐらいの発想がなきゃ駄目なんですよ。要らぬところは全部削っていきゃいいんです。そういったことをやるということが大事であります。
それから、最後の方になりますが、救急救命につきましても、私は、ドクターヘリを実現する
委員会でずっと作業をしてきた。ところが、ヘリコプターが飛ぶようになって、お医者さん下ろせるようになっても、
日本の高速道路で事故現場に下りられるということは限られるんですよ。全部スズラン型の照明灯が出ちゃっていて、ヘリは下りられない。何を考えているのかという話ですよ。戦争のことを語るのは十年早い。その辺のことをやっぱりきちっと積み上げていくということが大事だろうと
思います。
私は、三番目に、
有事法制を健全に機能させるためにと書いておりますが、やっぱり二点のことを是非この
参議院で御
議論をいただきたい。
一つは、
日本の場合、どこの問題を取っても縦割り行政に陥って、個々にむちゃくちゃな税金の食い散らしが行われている。だからこれ、国家としてのイニシアチブを明確にしていく、そこに
有事法制の問題を集約させていくということが大事だろう。
第二点目といたしましては、
日本の陥りやすい通弊、陥穽でございますが、
法制度の制定が自己目的化して、
法律や制度ができたら一丁上がり、もう完璧なものだと思っちゃって、機能しないものであっても、棚の上に載せて、ほこりかぶって終わり。マニュアルもそうでございます。とにかく、
法律や制度なんというのは、どんなにできのいいものができたとしても、完成度を高めるために、改正の手続を絶えることなくやらなきゃいけません。
そういったことをやはりこの
有事法制をモデルとして是非お進めいただき、我々の子孫が安全で豊かな国を生きていけるように計らっていただきたいと
思います。
以上でございます。ありがとうございました。