○
参考人(福井俊彦君)
日本銀行の福井でございます。
日本銀行は先月、
平成十四年度下期の通貨及び
金融の調節に関する
報告書を国会に
提出いたしました。今回、
日本銀行の
金融政策運営について詳しく御説明申し上げる機会をいただき、厚く御礼を申し上げます。
本日は、最近の経済
金融情勢や
金融政策運営につきまして、
日本銀行の
考え方を申し述べさせていただきます。
まず、最近の経済
金融情勢について御説明申し上げます。
我が国の経済は、横ばい圏内の動きを続けております。
個人消費は、厳しい雇用・所得環境の下で弱めの動きを続けておりますが、設備投資は、
企業収益の改善を背景に、振れを伴いつつも緩やかな持ち直し傾向にございます。また、輸出は横ばい圏内で推移しております。
先行きにつきましては、輸出や生産が次第に増加基調に戻り、前向きの循環が働き始めるものと
考えられます。その背景として、イラク情勢や新型肺炎をめぐる不確実性の低下などから、今年の後半には海外経済の成長率が高まるとの見方がございます。
七月初めに公表いたしました
日本銀行の短観を見ましても、
企業収益は増益基調を
維持する見込みでございます。設備投資の持ち直し傾向も確認されたところでございます。もっとも、過剰雇用、過剰債務の調整圧力が根強い中、当面内需の回復は緩やかなものにとどまる可能性が高いと
考えられます。また、輸出環境につきましても、米国経済の回復力などをめぐって、なお不透明感の強い
状況が続いております。
国内面でも、
金融システム情勢や金
融資本市場の動向などについて引き続き注視していく必要があると
考えております。
この間、物価動向を見ますと、消費者物価は、需要の弱さや技術進歩、流通合理化といった要因が引き続き物価を押し下げる方向に働いておりますほか、海外からの安価な消費財の輸入もごく緩やかながらも増加傾向を続けておりますことなどから、当面、現状
程度の小幅下落が続くと見られます。
金融面では、
日本銀行の潤沢な資金供給の下、
金融市場は総じて落ち着いた推移をたどってまいりました。また、資本市場では、このところ、世界的に、
景気や物価の先行きに対する悲観的な見方が若干後退している中で、株価が大幅に上昇し、長期
金利も上昇しております。
企業金融をめぐっては、全体として緩和的な環境が
維持されております。ただ、相対的に信用度の低い
企業の資金調達はなお厳しい
状況にあるものと
認識いたしております。
次に、最近の
金融政策運営について申し述べさせていただきます。
前回御説明させていただいてから約三か月が経過いたしましたが、この間、
日本銀行は、経済の先行き不透明感が高まる中、
金融政策面での対応を機動的に講じてまいりました。
すなわち、四月三十日の
金融政策決定会合では、日銀当座預金残高の
目標額を五兆円引き上げました。この時期、欧米諸国の
景気回復力については依然不確実性が高く、東アジア経済についてもSARSの影響が懸念されておりました。
金融面でも、
銀行株を始めとして、株価が不安定な動きを示しておりました。このような経済
金融情勢に関する不確実性の高まりを踏まえ、
金融市場の安定確保に万全を期し、
景気回復を支援する効果をより確実なものとするために実施したものでございます。
また、五月半ばには、りそな
銀行の問題が生じたのを機会に、
金融面からの対応措置を強化いたしました。
日本銀行は、まず、同行に対して、必要が生じた場合直ちに、
日本銀行法第三十八条に基づく無担保の貸出しを含め、所要の資金を供給する方針を決定いたしました。また、
金融調節の面でも、当座預金残高の
目標を更に三兆円引き上げ、十分な資金を供給することといたしました。このころは、海外経済をめぐる不確実性に加え、株価や為替相場の不安定な動きなどから、
景気の先行き不透明感が強まっていました。それだけに、
金融市場で不安定性が高まるような事態になれば、実体経済活動にも悪影響が及ぶ懸念がございました。このような対応もあって、りそな
銀行の資金繰りには問題が生じず、
金融市場もおおむね安定を
維持しております。
その後の
状況を見ますと、
日本経済をめぐる先行き不透明感は多少後退しているようにうかがえます。
まず、輸出を左右する海外経済については、米国経済の不透明感はやや緩和され、東アジアにおいてもSARSの問題が終息に向かっております。これを受けて、
国内資本市場では、経済や物価に対する悲観的な見方が若干後退し、株価は大きく上昇いたしました。
銀行株価も大幅に反発しております。こうした
状況の下、長期
金利は、〇・四%台の史上最低水準まで低下した後、その後上昇いたしました。
このように、幾分明るい動きも見られますが、
日本経済が引き続き様々な構造問題を抱えていることに変わりはございません。
日本銀行といたしましては、引き続き、海外経済の回復力や
金融システムの
状況、金
融資本市場の動向などに十分
注意を払いながら、機動的な
金融政策の運営に努めてまいりたいと存じます。
この間、
日本銀行は、
金融緩和の効果が経済全体に行き渡るよう、波及メカニズムの強化に取り組んでおります。その一環として、今月二十九日より、
資産担保証券の買入れが可能となるよう鋭意準備を進めています。中央
銀行が民間の信用
リスクを直接負担することは異例ではございますが、我が国の
金融機関の信用仲介機能が万全とは言えない現状においては、
資産担保証券市場の発展を支援することは意義があると
考えております。
具体的な実施の細目を決定する際には、中堅・
中小企業金融の円滑化に資するよう最大限配慮をいたしました。まず、裏付けとなる
資産は、売掛債権や貸付債権、リース債権など幅広い
資産を対象とすることとしました。また、信用力の低い債券に対する投資家が不足していることも市場拡大を阻害する一因となっていることにかんがみ、BB格相当の債券まで買い入れることといたしました。買入れ総額については、当面一兆円に設定しております。
資産担保証券は、将来、
日本の
金融市場にとって非常に重要な市場になると
考えております。
日本銀行の買入れも契機となって、市場が自律的に発展していくことを期待いたしております。
なお、
日本銀行は、株価の変動が
金融機関経営、ひいては
金融システム全般に及ぼす
リスクを緩和する趣旨から、昨年十一月以降、
銀行保有株式の買入れを実施いたしております。本年七月二十日時点の買入れ額は一兆五千五十九億円となっております。
以上申し上げましたとおり、
日本銀行は、厳しい経済情勢に対応するため、必要と
考えられる政策は、中央
銀行としては、異例の対応を含め、果敢に実施してまいりました。同時に、新たな
資産を
保有することに伴う
リスクを適切に把握し、財務の
健全性確保にも努めております。財務の
健全性は、将来にわたる
日本銀行の政策運営能力を
維持し、通貨の信認を支える重要な基盤であると
認識いたしております。
日本経済は、八〇年代後半から生じたグローバル化、情報通信革命、少子高齢化などの大きな潮流変化に対して、新たな経済の
仕組みを構築すべく苦闘を続けております。様々な制約の下で、これは決して容易なことではございませんが、
日本企業の持つ高い技術力や知識創造力を生かしていけば、必ずや実を結ぶものと信じております。
日本銀行といたしましては、こうした民間の努力も踏まえながら、デフレ克服と持続的な成長軌道への復帰に向けて、今後とも全力を挙げて取り組んでまいる所存でございます。
少し長くなって恐縮でございました。
ありがとうございました。