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国務大臣(竹中平蔵君) 先週お約束しましたとおり、我々も力を入れてしっかりと
調査をいたしました。少し長く、十分
程度掛かるかもしれませんが、御容赦をいただけますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、去る七月一日の当
委員会におきまして、民主党の大塚耕平
委員からお示しをいただいた金融庁の高木監督
局長(当時)と東京海上火災保険
株式会社の森副社長(当時)との間のやり取りに関する資料、以下、本件文書というふうに申し上げますが、これについて事実関係を
調査いたしましたので、その結果を御
報告申し上げます。
本件
調査は、金融庁内に設置されましたコンプライアンス対応室の久保利弁護士(同対応室の顧問)と野村教授(同対応室長)の協力を得ながら、私と副
大臣が先頭に立って関係当事者から事実関係を聴取するなどして行ったものであり、高木長官はもちろんのこと、金融庁職員からは完全に独立した形で
調査を実施をいたしました。
ヒアリングを行った関係当事者でございますが、金融庁の高木長官(当時監督
局長)、森前顧問(当時長官、現住宅金融公庫副総裁)、東京海上火災保険
株式会社の石原社長及び森前副社長(現在は日本地震再保険
株式会社常務取締役)の四名でございます。
また、当時、高木監督
局長や森長官が、これは当時の役職で読ませていただきますが、東京海上火災保険
株式会社に対して取った行為が法令に照らして問題がないかどうかについてコンプライアンス対応室の専門家に御
検討もいただきました。
まず第一に、本件文書において、金融庁の高木監督
局長(当時、以下同じ)と東京海上火災保険
株式会社(以下、同社)の森副社長との間でやり取りが行われたとされる日(
平成十四年一月二十一日)に、実際にこの両者が会談を行った事実があるかどうかについて
調査をいたしました。
その結果、当該日にこの両者が会談した事実があることが確認されました。なお、会談は一対一で行われたとのことでありました。
第二に、本件文書の成立の真正について
調査をいたしました。
その結果、当該文書は、同社の森副社長が会談終了後、その日のうちに又はその翌日に、会談の概要を部下に口述することによって文書作成を指示しまして、後に自ら手書きで加筆の上完成させた真正の文書であることが認められました。
第三に、本件文書の
内容の信用性について
調査をいたしました。
まず、森副社長からのヒアリング結果によりますと、本件文書は、高木監督
局長との会談後、先ほど御説明したような
経緯、方法で再現されたものであるため、当日のやり取りが必ずしも正確に表現されたものとは言えない
可能性があるとのことでした。
この点については、高木監督
局長も、本件文書の表現
内容には、森副社長が高木監督
局長の
発言の
趣旨を誤解している箇所や、実際の
発言内容との間に
幾つものそごがあると主張をしております。
また、本件文書は備忘録として作成された
情報文書であり、後日、文書に記載された事実すべてについての高木監督
局長による確認がなされたわけではありません。
このように、本件文書は、全体としての信用性は認められるものの、記憶の不正確性のために、本件会談の
内容を完全かつ正確に再現したものではないというふうに思料されます。
第四に、本件会談において、高木監督
局長から森副社長に対して、
保険業法上の
行政処分の
可能性を示唆することによって同社の
経営判断に行政が過剰に介入するようなことがあったかどうか、また恫喝や強要といったようなことがあったかどうかについての
調査をいたしました。
関係者からのヒアリングの結果等から認められる事実は、以下申し上げるとおりでございます。なお、監督上の個別のやり取りについて、詳細に申し上げることはできないことについて御
理解をいただきたいと思います。
高木監督
局長と森副社長は、
平成十四年一月二十一日午後六時三十分から九時までの間、金融庁内において面談いたしました。面談はディベートのような形で行われましたが、雑談も交え、ぎくしゃくした雰囲気はなかったとのことであります。
本件会談においては、高木監督
局長から森副社長に対し、
保険業法に基づく
行政処分の
可能性が示された上で
議論がなされ、法律の解釈等について両者の間で見解の対立はあったものの、森副社長によれば、高木監督
局長から
経営判断に対する過剰な介入を受けているとか、恫喝、強要を受けているといった認識は受けなかったとのことでありました。
また、本件会談後、同社内において、顧問弁護士等を交えて法的
検討を行った上で、同社の最高
責任者である石原社長は、
保険業法に基づく
行政処分の
可能性に係る高木監督
局長と森副社長とのやり取りは知っていたが、あくまで
会社の
経営判断として高木監督
局長の
意見に影響されることなく最終決定を行ったとのことでありました。
私が副
大臣とともに、コンプライアンス対応室の専門家の協力を得ながら関係当事者にヒアリングを実施するなどして明らかになった事実関係は以上のとおりですが、次にこれら
調査によって認定された事実関係を
前提としまして、当時の高木監督
局長の行為が法令に照らして問題がないかどうかについてコンプライアンス対応室の専門家の先生方に御
検討いただきました。これは久保利弁護士と野村教授であります。
コンプライアンス対応室からは、行政におけるコンプライアンス体制の
整備の在り方等を含め、種々御指摘をいただきましたが、当
委員会で御
議論いただいております高木監督
局長の行為が法令に基づく行政の
観点から問題がなかったかどうかという点についての
検討結果について、以下、御
報告をさせていただきます。
コンプライアンス対応室においては、高木監督
局長の行為が
行政手続法に定められた行政指導のルールに適合的であったかどうかという
観点から評価されなければならないとして、
行政手続法の
規定に基づき、以下の四つの論点に照らして
検討されました。
第一に、高木監督
局長の行為は金融庁の有する監督権限を逸脱していなかったかどうか。
第二に、仮に権限内の行為だとしても、高木
局長はそれに対する協力を相手方の任意にゆだねていたかどうか。
第三に、本件は、
保険業法第百三十二条、第百三十三条に基づく処分権限を行使できない場合又は行使する
意思がない場合に該当するにもかかわらず、それを行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせたものと評価できるかどうか。
ちょっとややこしいかもしれませんが、本当は使えないのに使えるんだぞというようなブラフを掛けたかどうかと、そういうような
観点だということです。
第四に、高木
局長の行為は、その
趣旨や
内容を明確に示したものとなっていたかどうか。
この四つの論点に照らして、法令に照らして問題がないかどうかを
検討をされました。
まず第一点目の、高木監督
局長の行為が金融庁の有する監督権限を逸脱していないかどうかという点についてですけれ
ども、この点については、金融行政は従来型のいわゆる護送船団方式と言われるような事前行政から事後チェック型への転換を目指していくべきであり、金融庁の監督権限の在り方もこうした基本理念を踏まえて
検討する必要があり、何よりもまず、個々の金融機関の自主性を尊重し、その
経営判断に不当に介入することのないよう留意することが大切であると指摘されております。
その一方、金融行政は時々刻々と
変化する金融市場そのものの安定性を
確保する役割を担っていることから、市場の混乱要因に対して適時適切に対処することも期待されており、裁量的な事前指導が一切禁じられるべきものではなく、例えばシステミックリスクの発生が予想される局面において、仮に金融庁がただ手をこまねいていたとするならば、監督当局は不作為のそしりを免れないと考えられるとして、一般論として、金融庁は必要最小限の限定的な場合に限られたものではあるものの、裁量的な事前行政の権限を有しているものと考えられるとの
意見をちょうだいいたしました。その上で、本件がその限定的な
場面に該当するかどうかについては、第三の論点とともに
検討していただきましたので、後ほど御説明を申し上げます。
次に第二点の、仮に高木監督
局長の行為が権限内の行為だったとしても、それに対する協力を相手方の任意にゆだねていたかどうかという点について御
検討をいただきました。
この点については、ヒアリング結果によれば、高木
局長及び森副社長ともに、この日の会談は言わば
議論のような状態、
状況であったと言っており、石原社長も高木
局長の
意見に影響を受けたことはない旨話している。また、石原社長は、損害
保険業界におけるリーディングカンパニーとして金融庁との間に十分な
信頼関係があったものと述べており、最終的な判断は同社に任されていたとの認識を示しており、事実、同社は本件会談後も統合計画の
見直しを貫いたものであり、このことは同社の任意の
経営判断が尊重されていた証左と見ることができるとの御
意見をちょうだいいたしました。
第三点目は、本件は
保険業法第百三十二条及び百三十三条に基づく処分権限を行使できない場合又は行使する
意思がない場合に該当するにもかかわらず、それを行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせたものと評価できるかどうかと、先ほどの第三点でございます。
このヒアリングの結果によりますれば、本件会談の時点で高木
局長が場合によっては
保険業法第百三十二条ないし百三十三条の処分権限を行使しようと考え、部下に
検討を命じていたものと認めることができ、それゆえ、まず処分権限を行使する
意思はあったものと評することができると指摘をしております。
また、本件は処分権限を行使できない場合に該当したのではないかという点については、
保険業法第百三十三条によれば、
保険会社が公益を害する行為を行った場合には金融庁は
行政処分をすることができると
規定しているが、公益に害する行為の意義については、その一般条項的要素もあり、確固たる解釈があるわけではない。この点につき高木
局長は、同社が
平成十三年十一月に発表した同社と個別の
生命保険会社との統合に係る合意を三か月もたたない短期間に撤回することが市場に重大な影響を及ぼすこととなるならば、かかる所業は公益を害する行為として
行政処分の対象になるとの
立場を取ったものと評することができるとしております。同社側に公益侵害行為の典型的場合である不法の目的による業務運営ないし刑罰法令に違反する行為の
継続又は反復等があったとは言えないものの、仮に同社による短期間での合意の撤回が統合発表時における
調査の不十分性に起因しているとすれば、かかる同社の所業を公益を害する行為と認定することもあながち不可能ではないと考えられ、事実関係いかんによっては
行政処分の
可能性があったものとして、本件は処分権限の行為ができない場合には該当しなかったものと考えられるというふうに指摘をしております。
最後に、第四点目、高木監督
局長の行為はその
趣旨や
内容を明確に示したものとなっていたかどうかについてですが、この点については、本件における高木
局長の行為は、
保険業法第百三十二条及び第百三十三条の解釈を
議論する形で行われていたため、表面的には明確性を欠いているかのごとく見えるが、ヒアリング結果によれば、金融庁が同社による統合計画の
見直しについて再
検討を求めていたことは先方に明確に伝わっていたものと考えることができ、意図的にあいまいな指導をしたとの証拠は見付からなかったとの御
意見をちょうだいしております。
以上のとおり、コンプライアンス対応室の専門家の先生方に御
検討いただき、高木監督
局長の行為をただいま申し上げた四つの
観点から評価した結果、その行為には
行政手続法に抵触するような違法性は認められないとの結論をいただきました。
ただし、法令に照らして問題はないとはいうものの、その行為を行うに当たっては、公益概念の解釈や同社の所業の市場に及ぼす影響などについて慎重に十分な
調査を尽くすことが求められるし、また事後においても、将来同種の
状況が発生する場合に備え、フォローアップを行い、ノウハウのマニュアル化に努める必要があったとの御指摘も併せてちょうだいをしております。
そして、事前行政から事後チェック型行政への転換の
観点から、金融庁自身が個々の金融機関の
経営判断を自ら事前にアレンジし、それを強要するような行政手法は否定されるべきであるが、
他方で、金融機関の
破綻等によって市場に混乱が生じ得る
可能性がある場合に手をこまねいて策を講じないこともまた不作為のそしりを免れないのであって、その
意味で監督当局の行動は必ずしも事後的なチェックのみに限定されるものではない。しかしながら、いわゆる護送船団方式からの脱却を旨とする現下の金融行政にあっては、裁量的な事前指導は、金融機関の具体的な
経営判断が金融市場の混乱を招致し、もって、預金者、
保険契約者、投資者等の
利益を侵害する
蓋然性が認められる場合に限って慎重に行使される必要があり、本件は正にこうした限界事例の
一つと考えられるわけであるから、その適法性をフォローアップし、そのノウハウをルール化していく努力が不可欠であるとの御指導をちょうだいいたしました。
なお、本件文書には金融庁の森長官(当時)に関する記載も散見されることから、森長官の高木監督
局長に対する指示や同社に対する
発言において法令に照らして問題がなかったかどうかについても
調査をいたしました。
調査の結果、当時、森長官は、本件について高木
局長より随時
報告、相談を受けていたことが確認されましたが、森長官の指示、
発言には法令に照らして問題があると認められることは特にありませんでした。
ただいま申し上げましたとおり、去る七月一日の当
委員会で示されました本件文書につきまして、事実関係を
調査し、法令に照らして問題がなかったかどうかを
検討いたしました。その結果、
調査において認定された事実を
前提とする限り、金融庁として、東京海上火災保険
株式会社に対して過剰な介入をしたとか恫喝、強要したとかということはなく、法令に照らして問題があると認められるようなこともないとの結論に至りました。なお、今後、新たな事実が判明するなどの場合には更に
調査を行うことといたします。
本件の
調査、
検討を踏まえれば、金融庁としては、
行政手続を含め、可能な限り行政権行使のルール化に努めるとの
必要性を痛感いたしました。コンプライアンス対応室の先生方からの御指摘も踏まえまして、金融行政に対する疑念を払拭するためにも、監督上の各種行為をきちんとフォローアップし、事例を積み上げることによってノウハウのルール化を図ってまいりたいと考えております。今後とも、金融庁といたしましては、より一層のルールの明確化に努め、ルールに基づいた適正な金融監督に取り組んでいく所存でございます。
以上でございます。