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参考人(福井俊彦君) 私の基本認識は、
日本の資本主義というものが大きく変わりつつある。従来の
日本の資本主義は、株式持ち合いというものをしっかり組み込んで、それでうまくワークする資本主義である。今変わりつつある資本主義経済というのは、株式持ち合いというものと共存し得ない資本主義に変わってきている。したがって、
企業も金融機関も持ち合っている株式を早く解消をしたいという、そういう動機を強く抱えた資本主義経済になっていると思います。
この場合に、
日本の
金融システムが既にオーバーバンキングあるいは不良債権問題の処理という重い重い課題を背負っておりまして、ずっと株式を持っていても、この株式の値下がりによって更にダメージを受ける、こういうリスクを抱えています。また、その株式を売り出しますと、経済全体が今は非常に厳しい局面でございますから、株価全体を押し下げて、まだ
日本経済はデフレスパイラルに陥っていないと私は思っていますが、そういう基盤が脆弱なぎりぎりのところでバランスを取って動いている経済に、資産
価格の大幅な下落ということが起こりますとショックが大きい、下手をするとデフレスパイラルに陥りかねないリスクがある、こういう厳しい認識を私は持っております。
したがいまして、株式の持ち合い解消そのものは、将来の
日本の資本主義、新しい
日本の資本主義の姿に橋渡しをしていく重要なプロセスなんですけれども、その過程において必要以上に経済とか
金融システムにショックをもたらすことはまた好ましくない、何らかの形でこのショックをアブソーブする必要があると。特に、今の
ようにイラクとの戦いが起こって、いつ何どき予期せざるショックが経済とか
金融システムに及んでくるかもしれないというときには、そのショックアブソーバーのファンクションは十分備えを持って、持っておく必要があると。
日本銀行が、昨年、二兆円という枠で
銀行保有株式の吸収措置を講じましたのは、
銀行は、いわゆる自己資本のうちのコア
部分、ティア1と言われている
部分を超える大きさの株式を持っている場合に、これはある期限までにこの株式の保有を解消したいという強い動機付けを
銀行は与えられていますので、そのプレッシャーが市場に強く及ぶリスクがあるので、そのショックアブソーバーとして
日本銀行はああいう措置を用意いたしました。もちろん、
政府の方の株式保有機構と共同作用としてこれがうまくワークすることを期待して実施したわけでございます。
最近までの
状況を見ますと、
日本銀行が当初予想しましたよりも、
銀行は
日本銀行の買入れ措置に対して株を売り進んできている、こういう
状況でございます。二兆円の枠の既にハーフウエーラインを超えております。一兆円を超える買入れ
残高を既に持っておりまして、残りはもう半分に満たないということになってきております。
政府の方の保有機構と言ってみれば肩を並べて両方で均衡を保って吸収していければ、必ずしも
日本銀行の枠を今ここで増やす必要はないかもしれないんでございますけれども、
政府の方の御用意が整うまでもう少し時間が掛かるかもしれないというふうに思いますと、いつ何どき強いショックが来るかもしれないということであれば、せめてそのティア1を超える
部分の
銀行保有株は、
日本銀行の買入れ措置によってほぼ全部吸収できるというぐらいまでの備えをしいて、今後起こり得べきショックに対応したいと、こういう趣旨でございます。
ただ、
日本銀行は、恐らく
委員御
懸念のとおり、こういう株式の保有
残高を増やすということは、先ほどお示しいただいた
日本銀行のバランスシートの資産のサイドに持つ数字の大きさが大きくなり、しかもその中で
価格変動リスクを抱えてくる、こういうことでございますので、
日本銀行の持っている自己資本との対比で、ある限界がある、あるいはこれからいろいろ新しい施策を展開していきます場合に、
日本銀行の自己資本をどういうふうに割り当てていくかという問題がより厳しくなる、こういう問題を十分認識しながら、今回の措置は必要だという強い
判断の下に今回決定したということでございます。