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参考人(
宮入興一君) 愛知大学の
宮入でございます。
それでは、早速ですが、本
法案に対するところの私の御
意見を申し述べたいと思います。
私のレジュメはそこにございます。
社会資本整備重点
法案、以下これは
法案というふうに略したいと思いますが、
社会資本整備に関するこれまでの
事業分野別の
長期計画が
予算獲得の
手段化したり、あるいは縦割り
行政の弊害や、それから緊急
措置法の恒久化などの
問題点を生み出しているとしまして、
社会資本整備事業を重点的かつ効果的かつ
効率的に
推進することを
目的に
重点計画等を
策定すると、こういうふうにしているわけでございます。
確かに、従来の
事業別の分野の
長期計画、現在十五本ございますが、その実施に問題があったということは間違いのないところでございます。それは当然、
法案で言うように、是正される必要があるわけでありますが、問題は今日の
社会資本整備の
在り方、すなわち
公共事業の
問題点を一体どう認識するか、その上でどのような改革の
方向を構想するか、それに照らして
法案をどう評価するかということではないかというふうに思います。
そこで、以下、第一のところでは今日の
社会資本整備の
在り方の
問題点、そして第二のところではそういったものの改革の
方向と本
法案の評価について申し述べたいと思います。
今日の
社会資本整備の
在り方の
問題点は、そこにまとめておきましたような形で五点にわたって整理をしております。
一つは、
日本の
公共事業費というふうなものが、これはもう御存じのように、相対的にも絶対的にも突出して大きい、言わば
公共事業大国
日本と言われるような状況になっており、そこに様々な弊害があるということでございます。
一般政府ベースの
公共投資額は、対GDP比で五、六%前後ということがこの二、三十年以来の
傾向でございますが、これは他の先進国の、例えば英米の一%台、それからドイツ、フランスの二、三%台と比べても二、三倍以上の、相対的には大きいと。それに加えて、絶対額でも、例えばピーク時の一九九五年に至りましては
日本一国で三千二百七十九億ドルということで、これは他のG7のうち、
アメリカを含めてなんですが、
日本を除くG6の合計二千六百八十二億ドルよりもはるかに大きいという、言わば世界一の
公共事業大国ということにもなっていたわけであります。
このことがまた世界一の実は公共債務大国
日本の原因にもなっているということで、御案内のように、今年度末で約七百兆円と言われているところの公的債務はGDPの一四〇%ですし、このうちの大体ほぼ六割近くが
公共事業関係であると、こういうふうに言われております。こういったことが言わば
公共事業依存病とでも言ってもいいような、そういった、例えば
環境の破壊の問題ですとか、あるいは
地域経済構造のゆがみでありますとか、あるいは政治
社会的な病理とでも言っていいような政官業の癒着の問題とか、いろいろ様々な問題を起こしているもとにあるということでございます。
そういった
公共事業の中では、無駄で
環境破壊的な大規模
事業も少なくございません。それらを精査すると同時に、こういうふうにして肥大化した
公共事業費を量的に削減していくような、そういった中
長期的な
計画の作成が実は一方では不可欠になっているというふうに言っていいと思います。
第二番目の
問題点でございますが、
社会資本整備計画の決定において国会によるチェック機能というふうなものに問題があるのではないかというふうに思います。
従来、いわゆる
国土総合
開発法、一九五〇年に作られた、これに基づいて、御案内のように、全国総合
開発計画、いわゆる全総と言われているものが一九六二年の第一次から今日の第五次まで作られております。これに基づいて実は
長期計画が
策定されるということになっていたわけです。
現在では第五次の、これはもう全総とは言っておりませんで、二十一世紀の
国土のグランドデザインというふうに言っているようでございますが、一九九八年に閣議決定をされて、
目標年次は二〇一〇年から二〇一五年までと、こういうことになっておりますが、この五全総におきましては、四全総で一千兆円、これは膨大な額でございますが、
程度というふうにしたような
目標額は明示しないで、投資額の積算というふうなものが困難であるとか、それから
環境が非常に激変している中ではそういった積算は難しいというふうなことのようでございますが、しかし、実際に中身を見ますと、非常に大規模な
国土開発構想がそこでは構想されております。
特に、多軸型
国土ということで、従来のような太平洋ベルト地帯のところの一軸というだけではなしに、そこを太平洋新
国土軸というふうに称しまして、あと、北東
国土軸ですとか、あるいは
日本海
国土軸とか西
日本、つまり背骨をこれまでの一本から四本にし、そして更にそれに肋骨をつなげると、こういうふうな非常に巨大なものになっているわけであります。
問題は、その全総にいたしましても
社会資本整備計画にいたしましても、実は、国会で審議することはあるかもしれませんが、議決する必要はない。閣議決定で行われるんです。この点が重要であります。
それからさらに、各年度の
予算過程におきましても、
個別事業名や箇所付けというふうなものは実は
予算書には明記されて出てまいりません。その
意味では、国会あるいは国会の議員さんたちによるところのチェック機能の行使というのは非常に不十分ではないかというのが第二点目でございます。
第三点目は、
公共事業の事前、それから中間、事後の評価システム、それから
情報公開や
住民参加というふうなものが従来は必ずしも十分徹底されていなかったということでございます。
政策評価とか
事業評価という問題は近年非常に活発になってまいりましたが、これはこの
法案におけます
公共事業の効果や
効率を図る上でも極めて重要であります。一九九八年に、時の橋本内閣のときに、いわゆる再評価、時のアセスメントを活用した再評価の
施行がございまして、二〇〇〇年には、
行政再評価法によるところの再評価の法的義務付け等によって評価システムは従来と比べるとかなり格段に進歩したというふうに言っていいと思います。しかし、そういったものにはまだ不十分な点もありますし、それから事後評価に至ってはまだ極めて不十分であると、こういうふうに言っていいと思います。
問題の
一つは、評価の
主体が各省庁の内部あるいは総務省などの官庁内部で実施されておりまして、外部の第三者機関による評価というふうなものは実は欠落しているという点であります。その点は公平性とか客観性とか
透明性の
確保という点では非常に不十分であるというふうに言っていいだろうと思います。それから、事前の評価にいたしましても、政策評価や
環境アセスメントなどのほかに
社会経済アセスメント、文化アセスメントなど、多様な評価と
情報公開や
住民参加が必要だというふうになっているというふうにも思います。
それから第四点目ですが、
社会資本整備としての
国民から要請されるところのニーズがこのところ非常に大きく変化している、これに対する対応というふうなものが従来必ずしも十分ではなく、これに対する困難があったということだと思います。
特に、
高度成長期以来では、
経済開発や
成長優先型の
社会資本整備、
高速道路とか、あるいは新幹線とか空港、
港湾あるいはダムとか都市の再
開発に代表されるような、そういった
社会資本整備というふうなものが重点的に行われているということには一定の
意義もあったと思いますが、しかし、今日においては、福祉とか
環境とか、
生活優先型の
社会資本整備というふうなことが非常に重要な側面になってきている。とりわけ、少子高齢化に対応するところの、例えば保育とか老人介護とか、あるいは医療、保健、それから文化、教育あるいは安全とか防災とか、それから
環境の保全、
環境再生、アメニティー、こういうふうなものが非常に重要な実は
社会資本整備の
内容にますますなってきている。
その背後にありますのは、産業構造が従来の工業
社会あるいは産業
社会から知識あるいは情報
社会へと大きく転換し、それに伴って
国民の価値観もまたかつての物質的、金銭的な豊かさというふうなものに加えて、あるいはそれよりもむしろ精神的、人間的な豊かさ、こういったものを評価する
方向へと転換をしてきているということがあるのだと思います。
第五番目に、そういうことでありますと、
社会整備、
社会資本整備についても国が決めて、そして
地方に下ろすというふうな従来の国、
地方の中央集権的、縦割りの、あるいは画一的な行財政システムというふうな下においては、
環境破壊というふうな問題とかあるいは不要不急の
事業というふうなものが今日においても、例えば諫早湾の干拓
事業ですとか川辺川のダムですとか、いろいろ問題になっておりますが、そういったことを起こしやすい。それから、
地域経済の
公共事業の
依存体質ですとか、あるいは政官業の癒着の深まりとか、あるいはそしてその結果として起こる
地方財政の破綻、こういったような負の影響を
拡大するということにもなってきたのではないかというふうに思います。
財政の方でいうと、いわゆる
補助金財政、
補助金行政、これと結び付いた
地方債の起債、そしてそれを元利償還する場合の交付税、この言わば三点セットが同時に機能するというふうなことの中で大きな問題も起こしてきたのではないかというふうに考えております。
そういたしますと、では
社会資本整備の改革の
方向と、それからそうした点から見ましたところの今回の
法案の評価はどうすればいいかと、こういうことでございますが、先ほどの一から五までの点に対応して、次のように整理しております。
一つは、
公共事業費の総額を中
長期的に削減していくための
計画が不可欠だということでございます。
法案では、
社会資本整備事業を重点的、効果的かつ
効率的に
推進するために、
社会資本整備重点計画の
策定等の
措置を講ずる、第一条、
目的でございますが、そこに書いてございます。しかし、これは
社会資本整備の
在り方の改革を
課題としておりまして、必ずしも
公共事業費の総額の縮小を担保するものではございません。したがって、
法案の
重点計画を
事業費の削減
計画と両立させる施策が更に加えられるべきではないかというふうに考えます。
第二点目に、
法案にいうところの
重点計画に対する国会のチェック機能の回復でございます。
法案では、
重点計画は閣議決定のみで最高決定が行われる、第四条第二項でございますが、しかしこれは従来の
長期計画の決定における最大の
問題点の
一つでもあったわけでありまして、
国民の代表であられますところの国会あるいは議員の
方々が
重点計画について十分審議し、責任を持って決定するということは何よりも民主主義の中においては重大な事柄ではないかというふうに考えます。
これとかかわりまして、
重点計画は全総と調和が保たれなければならないというふうにしております。第六条でございます。しかし、全総自体が国会の議決ではなくて閣議決定のみで最終決定がされておりまして、その
意味で全総は廃止をするか、あるいは少なくとも全総決定を国会での審議や議決事項とすべきではないかというのが第二番目でございます。
第三点目は、
重点計画の政策評価への外部の第三者機関によるところの評価の
必要性でございます。
重点計画には、
行政機関政策評価法に基づきまして政策評価等を行うことになっております。第七条でございますが、これに対しては、
重点計画の
重要性ということにかんがみて、外部の第三者機関によるところの評価が求められるのではないかというふうに考えます。
第四番目ですが、
社会資本整備事業の中身の拡充の必要でございます。
法案では、この
法律でいうところの
社会資本整備事業というのは、
道路とか鉄道、空港、
港湾あるいは都市公園、下水道、河川等々、十三の分野に特定しております。これは第二条、定義でございますが、しかしこれらは主として
国土交通省の所管いたします
産業基盤や
国土保全の
事業にかかわるものでございまして、
環境保全やあるいは
生活基盤整備にかかわる
事業というのはほとんど含まれていないか、あるいは住宅
整備のように別建てになっております。また、
ハードな
施設中心で、
ソフトな
事業やサービスとの関連には乏しいのではないかというふうに思われます。
とりわけ、少子高齢化を前提といたしますと、
道路や公共
施設のバリアフリー化というふうなこともうたわれているようでございますが、もちろんそれは大切でございます。しかし、それに加えまして、保育所や保育サービスの
整備ですとか、あるいは高齢者
施設や介護
施設あるいはサービス、それからさらには
民間のNPOやNGOやあるいはボランティアとの共同システムですとか、あるいは公共の交通機関に対するところのもっと
ソフトな支援、こういうふうなものによって総合的なまちづくりというふうなものが行えるようなシステムというふうなものがその中に盛り込まれる必要があるのではないかというのが四点目でございます。
第五点目に、そういたしますと、
社会資本整備をめぐります国と
地方との
関係でございますが、国と
地方との分権型事務再配分、それから
財源の再配分の必要があるのではないかというふうに思います。
少子高齢化社会や知識情報
社会に合わせまして
住民ニーズに即応していくためには、
社会資本整備をめぐって国と
地方との担当事務というふうなものを再配分して、これに合わせて税
財源の改革を行うことが必要ではないか。
例えば、国は、言わば成田とか羽田のような拠点空港、あるいは最も、神戸とかあるいは横浜、名古屋といったような最重要
港湾、あるいは主要国道、主要河川、こういう国家的な重要プロジェクトというふうなものは当然これは国が行わざるを得ないので、これはこういったものに言わば集中をし、その他
地域的なものは都道府県や市町村に権限や
財源を含めて基本的に移譲して、
社会資本の
整備やそれからさらに管理運営を総合的に実施するような、可能にできるような、そういう
仕組みに改革すると、こういうことでありますと、自治体は
地域の実情に合った
事業を安上がりに、民主的に決定し、実施できる
可能性が高まるのではないか。こういったことは既に先進的な各県におけるところの取組や自治体においても行われているというふうに
理解をしております。
最後に、まとめて結論でございますが、
法案は一部に従来の分野別の
長期計画と比べて
改善された点も見られるというふうに私はその
意味では評価しております。しかしながら、
社会資本整備の改革の
在り方といたしましては、今も述べましたように、
事業費の削減、議会のチェック機能、それから外部評価、
社会資本整備の中身、それから国と
地方との分担
関係、それから、先ほどちょっと申し上げませんでしたが、特定
財源の
在り方等につきまして、なお重大な
問題点を抱えており、より抜本的な
改善あるいは改革がなされるべきであると、こう考えております。
以上でございます。