運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

2003-02-12 第156回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十五年二月十二日(水曜日)    午後一時開会     ─────────────    委員氏名     会 長         関谷 勝嗣君     理 事         加納 時男君     理 事         世耕 弘成君     理 事         山本 一太君     理 事         今泉  昭君     理 事         沢 たまき君     理 事         緒方 靖夫君     理 事         田村 秀昭君                 入澤  肇君                 小林  温君                 椎名 一保君                 西銘順志郎君                 野上浩太郎君                 舛添 要一君                 森元 恒雄君                 吉田 博美君                 海野  徹君                 大塚 耕平君                 佐藤 雄平君                 榛葉賀津也君                 藤原 正司君                 藁科 滿治君                 高野 博師君                 井上 哲士君                 大田 昌秀君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         関谷 勝嗣君     理 事                 加納 時男君                 世耕 弘成君                 山本 一太君                 今泉  昭君                 沢 たまき君                 緒方 靖夫君                 田村 秀昭君     委 員                 小林  温君                 椎名 一保君                 西銘順志郎君                 野上浩太郎君                 森元 恒雄君                 吉田 博美君                 海野  徹君                 大塚 耕平君                 佐藤 雄平君                 榛葉賀津也君                 藤原 正司君                 藁科 滿治君                 高野 博師君                 井上 哲士君                 大田 昌秀君    事務局側        第一特別調査室        長        渋川 文隆君    参考人        独立行政法人経        済産業研究所上        席研究員     関  志雄君        松下電器産業株        式会社代表取締        役常務海外担        当        少徳 敬雄君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○国際問題に関する調査  (「新しい共存時代における日本役割」の  うち、東アジア経済現状展望中国WT  O加盟等市場経済化国内外への影響)につい  て)     ─────────────
  2. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  委員の異動について御報告いたします。  去る十二月十三日、桜井新君が委員を辞任され、その補欠として椎名一保君が選任をされました。     ─────────────
  3. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国際問題に関する調査のため、今期国会中、必要に応じ参考人出席を求め、その意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 御異議ないと認めます。  なお、その日時及び人選等につきましては、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  6. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会調査テーマである「新しい共存時代における日本役割」のうち、東アジア経済現状展望に関し、中国WTO加盟等市場経済化国内外への影響について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、独立行政法人経済産業研究所上席研究員関志雄参考人及び松下電器産業株式会社代表取締役常務海外担当徳敬雄参考人、御両者に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多忙中のところ本調査会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございました。  本調査会では、東アジア経済現状展望について重点的かつ多角的な調査を進めておりますが、本日は、中国WTO加盟等市場経済化国内外への影響についてお二方から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願いをいたします。  本日の議事の進め方でございますが、まず関参考人、少徳参考人の順でお一人三十分程度で御意見をお述べいただいた後、午後四時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力方をよろしくお願いをいたします。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、関参考人から御意見をお述べいただきたいと思います。関参考人
  7. 関志雄

    参考人関志雄君) 御紹介にあずかりました経済産業研究所の関でございます。  今日は、この場をおかりして、中国の台頭とWTO加盟を背景とする最近の日本と中国の経済関係について報告させていただきます。  議論は多岐にわたりますので、冒頭で要約しておきたいと思います。  私は、日本と中国の間では、経済発展という意味でまだ四十年間ほどの格差が残っていると見ています。  これを反映して、日中関係がマスコミでよく報道されているように、既に競合関係になっているとは見ておりません。むしろ、当分の間は日中関係補完関係と見るべきだと思っています。もし競合関係がゼロサムゲームの世界であるとしたら、補完関係はプラスサムゲーム、ウイン・ウイン・ゲームであるはずです。日中協力して、お互いに得するはずということになります。  日中間に問題があるとしたら、お互いに競合しているではなく、むしろ、せっかく補完性が高いにもかかわらず、これが十分に発揮されていないというところこそ問題だと見ています。  日本経済を活性化させるためには、私は、衰退産業の海外への移転と新しい産業の育成という組合せで空洞化なき高度化政策を推進すべきだと考えています。  この話は、実は二年前までは世の中の常識に非常に近くて、それ以上説明する必要もなかったんですが、ただ、御存じのように、今、中国脅威論が猛威を振るっています。これはむしろ私の考え方少数派の意見に転落しているわけなんですね。  九七年以降のアジア通貨危機以来数年間にわたって、中国の実力を非常に過小評価した、悲観論が支配的であった時期もありましたが、二年前ぐらいからその正反対の方に変わってきたんじゃないかと思います。中国脅威論といえば従来あることでして、ただ、中国は弱いから脅威だという考え方でしたが、ここまで来て、むしろ中国は強いから、しかも軍事とかの問題ではなく、経済的に見ても強くなっているから日本の脅威になっているという議論に変わってきています。  もう少し冷静に、まず中国の実力を評価しておく必要があるかなと思いまして、ここでは経済発展を示す指標を幾つか並べてみました。非常に標準的なものです。  平均寿命、これは経済発展すればするほど国民の寿命が長くなるということになります。乳児死亡率、これは衛生状況を表す指標ですので、経済発展すれば下がっていく数字です。一次産業、主に農業なんですが、そのGDP比、これも工業化とかサービス化が進めば下がってくる数字です。都市部エンゲル係数、これは家計の消費の中で食料費が何%なのかを示す指標でして、経済発展すれば下がっていく傾向が見られます。最後に、一人当たり電力消費量、これも工業力の指標にもなりますし、国民の消費のレベルの指標にもなります。したがって、これは経済発展とともに上がっていく数字です。  上がってくる数字と下がってくる数字もあるんですが、真ん中にはそれぞれの中国の一番新しい数字をまとめて、次の作業として、日本の統計をさかのぼって、それぞれそれに対応するのはいつなのかを調べてみますと、ほとんど例外なく中国の今の状況が一九六〇年前後の日本に対応しているという結論に至っています。これをもって私は日中間経済格差は四十年と申し上げているつもりです。  ここではあえて一人当たりGDPとか名目の数字は一切使っていません。なぜならば、四十年前の一ドルと今の一ドルと、とても購買力の比較はできないということからです。これは正にうそのつかない数字だけまとめたわけなんですね。  実は、先生方は、別に数字を見るまでもなく、四十年前の日本の状況を思い出せば、高度成長期だとか建設ラッシュだとか農村部から都市部への大規模の労働力の移動だとか、悪い面では非常に深刻な環境問題とかも、今の中国へ行けばもう一回体験することができるわけなんですね。  この中国脅威論を考えるときにもう一つのポイントは、世界の工場という言葉に表現されるように、中国の工業力が非常に高く評価されるようになりました。客観的に数字を見てみますと、世界のトップ製品輸出国のランキングでは、実はまだ中国が、二〇〇〇年の数字では第六位、金額としては二千二百億ドル前後で、日本の約半分の規模に来ています。アメリカの三分の一。面白いことに、第七位のイタリアの数字とほとんど変わらないですね。ここで聞きたいのは、なぜ中国が世界の工場と呼ばれ、イタリアが世界の工場と呼ばれないのかというところがやや不思議に思います。しかも、ここで表しているのは製品輸出でして、いろいろな意味で多くの水分が実は入っています。それを除かなければなりません。  一つ目は、御存じのように、中国の場合は日本企業を始め大きく外国企業からの投資に依存しています。実際、中国の輸出、輸入ともに、その約半分、五〇%が外国企業の手によって行われてきました。したがって、中国の輸出の中で、輸出の金額はそのまま中国の国民所得に計上されるわけではありません。外国企業には、技術の使用料だとか配当金だとか利息とか、いろいろな形で引かなければならないんですが、しかも、中国が加工貿易が中心ですので、輸出が増えればそれに合わせる形で必ず輸入も増えます。中国の輸入の約半分は輸出のための部品とか機械類になっていると理解していいかと思います。もちろん、輸入の分に関しては、いわゆる輸入コンテンツに関しては中国のGNPにもGDPにも計上されることはありません。  したがって、以上の話をまとめて考えますと、ふだん貿易の、輸出の数字で表しているメード・イン・チャイナの概念と、本当に中国の国民の所得に計上されるいわゆるメード・バイ・チャイニーズの間には非常に大きいギャップがまだ存在しているということです。  この話は、経営学のいわゆるスマイルカーブに沿って言えばこういうことになります。皆さん、頭の中に一台、こういうパソコン製造過程を念頭に置けば分かりやすいかと思うんですが、まず、いわゆるRアンドDとかキーパーツの製作に関してはそれぞれ付加価値が非常に高い。企業の立場にしますと、これは非常にもうかる工程であると。しかし真ん中の、従来の組立てに象徴される製造業の過程に関しては既にもうからなくなってきています。この川下の販売、アフターサービスに行きますと付加価値はまた上がっていきます。これは、英語のVの形が人間の顔ということに似ているということで、スマイルカーブと呼ばれるようになっています。  中国の強みといえば、この中の正に一番もうからないあごの部分に当たります。日本を始めとする先進国の強みはむしろこの川上と川下の両端というところに当たります。これは恐らく、これから中国とどういう形で分業するのかを考えるときには、いろいろな示唆がここから得られるんじゃないかと考えています。  実際、一台、中国ブランドパソコンをばらばらにしてみたところ、CPUはアメリカのインテル、マザーボードは台湾、ディスプレーも台湾、ハードディスクはアメリカのように、本当に中国で作った主な部品は残念ながら今のところは一つもありません。あくまでも、あらゆるところから部品を調達して、付加価値の一番低い工程だけは中国に立地しているわけなんですね。  これと関連して、日本の企業がよく、中国の賃金が安いから中国の産業の競争力が強いんだと、極端に言えば一種の自暴自棄の心理状態に陥っているわけなんですね。頑張っても中国に勝てるわけはないという発想なんですが、経済学の論理に沿って言えば、賃金が安いということは、あくまでも中国の労働集約型製品、若しくは労働集約型の、さっきのスマイルカーブに沿って言えば、工程においては競争力は強いんですが、産業全体で考えると、むしろ原因と結果が逆さまになります。つまり、中国の生産性競争力がないからこそ賃金が安いんだと理解すべきなんですね。  ここに示しているように、右に行くほど労働生産性が高い国を表しています。いわゆる先進国ですね。アメリカ、日本、アジアの国々ではNIES、シンガポール、韓国辺りなんですが、それらの生産性の高い国では賃金率も高い。左に行くほど中国のようにまだまだ労働生産性、言い換えれば競争力と言ってもいいんですが、低いところではむしろ賃金が安いと。冷静に考えると非常に当たり前のことでして、どういうわけかみんな因果関係は逆に読んでいるからおかしくなっているんですね。本当に中国が日本にとって脅威になるのは、賃金が安い間ではなく、むしろ生産性が上がってこれから賃金が上がってくるときこそ日本にとって脅威であると理解した方がむしろいいと思います。  日中間の格差が四十年間、中国の工業力も過大評価してはいけませんと、メード・イン・チャイナメード・バイ・チャイニーズの間には非常に大きいギャップが存在しますよということを前提に、次に、日本と中国が競合関係ではなく補完関係ですよということに参りたいと思います。  ここでは、このグラフに沿って言えば、右に行くほど付加価値の高い製品、ハイテク製品を並べます。右に行くほどハイテク製品、左に行くほどローテク製品になります。例えばの話ですが、半導体はハイテク製品、靴下はローテク製品テレビ組立てならばミドルテクという感じになります。例として三つ挙げているんですが、実際の計算では、後で説明しますように、一万品目、できるだけ一番細かい品目を調べてみました。  縦の軸では金額と書いて、それぞれの品目の輸出金額を書いています。したがって、この山の大きさは、日本と書いている場合は日本の輸出規模を表しています。それとは別に、中国、Aと書いているところは中国の輸出規模を表すことになります。今のところ、さっきも確認しましたように、製品ベースではまだ日本の方が倍ぐらい大きいということで、Aの山がBの山より大きいということになっています。  もう一つは、さっきの分類をもう一回思い出していただければ、この山全体が右に偏っているほどその中身がハイテク製品のウエートが高いということですので、全体的に見ればこの国の産業が進んでいるということになります。今のところ、中国は急ピッチに追い上げてきたとはいえ、既に逆転していると思う方は恐らくこの場でいらっしゃらないだろうと。したがって、日本の山は中国の山の右側にあるということです。  ここで注目すべきところは、この二つの山が重なっているCのところでして、もしこのCの面積が日本の輸出全体のBに対して大きければ、正に競合関係になっているということになります。もし小さければ、競合関係が低く、裏返して言うと補完関係の方が強いという話になります。  今まではあくまでも一つの概念図なんですが、具体的に数字を当ててみますと、こうなります。  実際、アメリカの中国と日本からの輸入統計一万品目にわたって調べたところ、こういう結論になっています。御参考まで、一番新しい二〇〇〇年だけではなく、九〇年、九五年の数字もここにまとめております。  重なっているところを見ていただきますと、九〇年当時、非常に小さかったと。具体の数字を申し上げると、日本の対米輸出の中で中国と競合しているのはわずか全体の三%程度しかなかった。この三%は五年後には八%になり、一番新しい数字では一六%まで上昇しています。  このグラフは、中国脅威論を理解するには非常にいいと私は思っています。中国脅威論というのは、この中国の山が少しずつ大きくなって、しかも右の方にシフトして、そう遠くない将来、日本の山が完全に中国の山の裏に隠れてしまうんじゃないかと。皆さんの頭の中には何となくこういう絵が描かれているんじゃないのかなと思います。将来どうなるのかというのはいろいろな条件を考えなければならないんですが、もちろん日本の山が、従来、この十年間みたいに止まったままで、なかなか一歩先には行かない場合は、五年後、十年後、間違いなくこの重なっている部分も多くなってくるでしょうということになります。  ただ、今言えるのは、一六%しか重なっているということは非常に低い数字であると。なぜ一六%は低いと言えるかといったら、御参考まで、私は、日本と中国に重ねてみただけじゃなく、ほかのアジアの国々もさっきと同じやり方で中国の山に重ねてみて、彼らの立場から見てどのくらい中国と競合しているのか。その典型はインドネシアの場合でして、既に八〇%以上、中国の山の裏に隠れてしまっているわけなんですね。それは典型的競合関係でして、インドネシアから見て中国は既に手ごわい競争の相手になっているということになります。  この表からも分かるように、一般論として、中国と発展段階の近い国ほど重なっている部分が大きくて競合性が強い。ASEANの国々はおおむねそれに当たります。しかし、日本みたいにまだ中国より四十年もリードしている国では、基本、作っているものが全然中身が違う。同じ世界工場といっても規模も違いますし中身も違うから、重なっている部分は増えているとはいえ今のところまだまだ小さい、まだまだ競合関係とは言えない、むしろ補完関係に当たるという理解でいいと思います。  しかも、今申し上げました一六%重なっているところは、実は非常に中国に甘く採点した結果でして、それを次の二つの要因を考えると、実は競合度は一六%より更に小さい可能性は非常に大きいと。一つは、さっきは同じ製品であれば、貿易統計で同じ製品と分類されるものであれば全く同じ、付加価値の高さが同じだとみなしました。  しかし、例えば同じテレビでも、日本のハイビジョン、一台十万円割ったところは非常に少ないですね。しかし、中国は汎用品を中心に作っているので、一台二、三万円のものがほとんどです。そうなりますと、正確に測ったら、中国の山はむしろさっきの左側に後退するということになります。実際、重なっている部分はその分だけ少ないということになりますし、もう一つは、輸入コンテンツに関しては調整していないんですね。日本の輸出の中では輸入コンテンツは相対的に少ない。中国の場合は、既に最初強調しましたように組立てが中心ですので、多くの中国の輸出の中には多くの輸入の部品が実は含まれている。この二つを調整してしまうと、日中間競合度は、さっき申し上げました一六%よりも実際は一〇%程度にとどまっていると認識しています。  日中関係補完関係であるということがなぜウイン・ウイン・ゲームなのかということについて説明したいと思います。  そのためには、この過去二十数年間、中国が取ってきた、いわゆる改革・開放政策をどう理解するのかということが議論の出発点になるわけなんですが、一言で言ってしまえば、改革・開放というのは中国が自らの比較優位に沿った形で世界経済に組み込まれつつある過程なんです。ここで強調したいのは、単に貿易とか直接投資が非常に増えているという側面だけではなく、中国の比較優位に沿ったというところを強調したいと思います。  中国の比較優位といえば、今の、最近の新聞を見る限り、もうハイテク製品でしょうと誤解している人が非常に多いんですが、冷静に見ると、中国の比較優位が実は当分の間はまだ労働集約型製品にあるということになります。  したがって、過去二十数年間何が起こっているかといったら、計画経済、当時中国は、効率は無視しても何でも国内で、フルセットで自分で作ってしまった。しかし、それ以降はできるだけマーケットに任せるということになりますと、効率の悪い重厚長大とかハイテク製品とかはむしろ自分で作らないで、もっと安い値段で国際市場から調達するようになったと。しかし、それを支払うためには自分の得意分野である労働集約型製品にますます特化してきたということになります。  中国は世界から見ても大きい国であるということを考えれば、中国の得意分野である労働集約型製品の供給がどんどん増え、その代わりハイテク製品に対する需要も増えるということは、世界のマーケットにおいて相対価格が変化するという力として働きます。  中国自らの交易条件といえば、言うまでもなく、輸出価格輸入価格の比率なんですが、中国が輸出しているのは労働集約財ですので、輸入しているのは資本・技術集約型財ということで、中国の交易条件はこういう形で定義されます。労働集約型製品の価格を技術・資本集約型製品の価格で割ると。さっきの需給関係の変化は中国の交易条件にどういう影響を与えるかといったら、自分で輸出する部分が増えれば増えるほどその値段が下がっていくんですね。  今議論しているのは工業製品ですが、農業部門でよく議論される豊作貧乏の現象と非常に近いんですね。豊作なんです。中国は、工業部門においてどんどん量的には増えるんですが、しかしその輸出が増えれば増えるほど値段が下がってしまうという意味では、一種の豊作貧乏の状態に陥っていると。具体の表現としては、中国の輸出価格が自分の輸入価格に対して傾向的には下がってきていると。これはある意味では、中国というまだ所得水準の非常に低い国から、日本を始めとする先進国に一種の所得移転が行われていると理解してもいいかと思います。  この相対価格の変化は周辺の国々にどういう影響を与えるかということを考えるときには、やはり中国と補完関係にあるのか、競合関係にあるのかによって結論は違います。例えば、ASEANの国々の場合、中国と同じように労働集約型製品を輸出して技術・資本集約型製品を輸入している国では、中国の交易条件が悪化するということは直ちに彼らの交易条件も悪化するということを意味します。これは正に典型的競合関係なんですね。  しかし、日本は違います。なぜならば、日本の交易条件の定義はちょうど中国とは逆さまになるからなんです。日本と中国は補完関係にあるということは、日本が技術・資本集約型製品を輸入しているのではなく輸出して、その代わりに中国から労働集約型製品を輸入しているから、中国の交易条件が悪化するという裏には実は日本の交易条件が改善していると。中国から実質的に日本に所得を移転してきているわけなんですね。この現象は、実は石油価格が下がってくると何ら変わらないですね。石油価格が下がれば、OPECの国々から日本に、日本の消費者に所得移転していると全く同じように、中国からの輸入が安くなってくるということは、日本にとってはその一件見ても非常に望ましいことなんです。  最近、また日本のデフレの原因が中国にあるんじゃないかとよく言われるんですが、客観的に見て、中国からの輸入はまだわずか日本のGDP全体の一・五%程度であるということを考えれば、その影響は限定的じゃないかと思います。仮に影響があるとしたら、皆さんが心配しているこの悪いデフレよりも、実は良いデフレの面も忘れてはいけません。  悪いデフレというのは、中国の製品がどんどん安くなって、日本の国内だけじゃなく世界の市場のどこでも日本の商品、製品を買わないで、その代わりに中国の製品にシフトしてしまうと。その場合は日本の価格も下がるし、雇用も奪われることになります。  しかし、さっきの二つの山の重なり方をもう一回思い出していただきますと、実は競合している部分は非常に小さいんですね。そうなりますと、影響を受けるところが日本の輸出全体の一〇%程度じゃないかと私は見ています。その代わりに、多くの日本企業が中国から部品とか中間財を調達していると。彼らにとって中国からの輸入が安くなるということは、直ちに生産コストが下がっていくということですので、非常に望ましいことであると。ユニクロはその一つの好例じゃないかと思います。ユニクロに聞いて、中国から輸入が安い方がいいんですか、高い方がいいですかと言ったら、間違いなく安い方がいいだろうと。  今の話はあくまでも日本の企業の、生産者の立場に立って得られた結論なんですが、消費者の立場に立ちますと、そういう区別さえ要らないんですね。すべて良いデフレであるということになります。中国発のデフレが困るということは、あくまでも日中関係競合関係にあるという間違った前提に立って得られる結論です。  時間の関係でそろそろまとめに入らなければなりませんが、中国の台頭に対して日本はどうすべきなのか。大きく分けて、良い中国脅威論と悪い中国脅威論の二通りがあるかと思います。  良い中国脅威論というのは、普通の言葉で言うと、中国が頑張れば日本ももっと頑張るということになります、負けないように。できるだけ古い産業を切り捨てて、その代わりに新しい産業を育成します。この十年間、日本は百数十兆円の景気対策の名目でお金を使ってしまいました。しかし、私から見ると、あくまでも過去に投資するために使ったお金でして、これからはむしろ未来のためにこれを使ったらどうかと提案したいと思います。さっきの二つの山の関係でいうと、百四十兆円のほとんどは、この衰退産業の、中国と重なっているCの部分に投資してしまっているんですね。本来は、日本の山はますます右の方にシフトしなければならないと。ある程度、政府のお金もそのために使ったらいかがでしょうと。  残念ながら、今、世の中の主流はむしろ悪い中国脅威論でして、ここで申し上げるのもつらいんですが、多くの政治家と経営者が自分の過失を隠すために、何か悪いことがあったらこれは中国のせいだと。それぞれの立場に立ったら非常に合理的なんですが、国全体の立場を取ると非常にまずいことだと思います。  特に悪いのは、輸入制限とかという形で衰退産業を保護するということです。言うまでもないことですが、今、小泉首相が推し進めているいわゆる聖域なき構造改革の目的は、資源、土地、人材、資金を衰退部門からこれからの成長部門に持っていくというのがこの構造改革の基本の精神だと私は理解しています。しかし、保護主義というのはそれと全く逆行して、お金を付けても、衰退産業でもっと頑張りなさいというためにお金を使っちゃいけないと私は思っています。  そもそも、この空洞化の問題を中国とくっ付けて議論するには、私は違和感を非常に感じています。一番新しい数字では、二〇〇一年度の日本の対中投資はわずか千八百億円しかありません。最近のいろいろな企業に対する支援の帳消しでも、よくこれを上回る数字が新聞に出ているわけなんですね。これは、実は日本の対外投資全体の四・六%、つまり残りの九十数%はほとんど欧米に投資しているんですね。なぜ欧米への投資は空洞化の原因にはならずに、対中投資だけは、金額はわずかですが、それが空洞化の理由になるのか私も分かりませんし、千八百億円というのは日本の五百兆円のGDP規模のわずか〇・〇四%にすぎません。  そうはいっても、直接投資が、良い直接投資と悪い直接投資、二通りあります。衰退産業を海外に持っていくということは、資源の配分の改善につながるということではむしろどんどん進めるべきだと思います。しかし、悪い直接投資というのはいろいろな海外の貿易障壁があるため、無理して海外生産しないとなかなか売れないという場合は、大体、比較優位には沿わないんですね。これこそ空洞化の原因じゃないかと思います。  その一つの典型例は自動車です。最近、中国のWTO加盟後、多くの日本の自動車会社が中国に進出しようとしています。その大義名分は中国のマーケットにアクセスするためだということになっているんですが、本来、WTO加盟後、中国の輸入関税が、自動車に関しては従来の八〇%ないし一〇〇%から二五%まで下がってきます。その一件に限って言うと、現地生産するよりも、ますます日本で作って現地に輸出する形のマーケットアクセスの方が有利になってくるということになります。しかし、どういうわけか、今、自動車会社が取ろうとしている政策は全く逆になっています。  その理由は、建前上は中国のマーケットをねらいたい、しかも自動車というものは現地で作るべきだというんですが、しかし、まず、中国の賃金が安いからといって、日本より安く、いい自動車を作れるわけではありません。まず、規模の経済性から考えても、一つの工場で中国ではまだ数万台単位しか作っていなくて日本は数十万台ですから、いろいろなインフラとか合わせると、当分の間はまだ日本で作って方が品質が良く、価格が安いということになります。  中国の消費者にとって自動車は非常にぜいたく品なんです。やはり舶来志向が強いんですね。メード・イン・チャイナのトヨタとメード・イン・ジャパンのトヨタと同じ値段であればどっちを買うかといったら、間違いなくメード・イン・ジャパンのトヨタを買いたいだろうと。日本の場合でも、ヨーロッパの自動車、例えばBMWとか、別に日本では工場は一切持たないでヨーロッパで作って輸出した方が結構いい商売になっているんですね。  したがって、本当に中国のマーケットへアクセスするためには、必ずしも現地生産に踏み切る必要は全然ないと私は考えています。みんな赤信号一緒に渡ったら怖くないという状況であれば、今の東京のオフィスビルの二〇〇三年問題と同じように、少し遅れて中国の自動車市場においても過剰の状況が生じるんじゃないかと思います。  せっかく、日本が自動車生産に関しては比較優位を持っている。比較優位を持っているということは、安くていい物を作れるのに、品質が悪く、コストの高い中国に持っていくという意味では、これは比較優位に反しているんですね。それこそ空洞化だと私は理解しています。  世の中の空洞化に対する認識は実は全く逆さまで、古い産業の工場を畳んで持っていくと目の前に失業者が出てくる、これは弱者だと言ってこれを空洞化だと騒ぐんですが、しかし自動車みたいに、日本にとって本来基幹産業なのに、向こうで新規で市場を開拓するからみんな拍手して送るというのは非常におかしいんじゃないかと私は思います。仮に、百万台の自動車が中国で現地生産するのと、日本の国内にとどめて生産して中国に輸出するのと、どのくらいの雇用創出効果が違ってくるのかということを考えれば、いかに私、言っていることが正しいかと理解していただけるかと思います。  最近、FTAの議論が盛んになっているんですが、何でFTAが必要なのかというのは必ずしもはっきりなっていない。みんなFTA作っているから日本も作ってみようかと言うしかないんですが、今の議論に沿って言えば、FTAは実は日本の基幹産業を守るためなんだと。何で自動車が本当に中国に投資するのという本音ベースの議論だと、実は中国は、これから関税が下がってくるとはいえ、まだ二五%は最終的には残るでしょうと。しかも、それ以外も非関税障壁がいろいろ残るんじゃないかと心配しているから、貿易摩擦を避けるためにまあそれならしようがないかと。現地で作ろうという話が本音ベースの話なんですが。  FTAがあれば、さきの二五%の関税もなくなり、ほかの非関税障壁もなければ、日本が国内で自動車を作っても自由に中国で売れるということになれば、これこそ日本にとって最も重要な空洞化対策じゃないかと思います。  ちょっと時間が超過しましたので、この辺で私の話を終わらせていただきます。  御清聴ありがとうございました。
  8. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 大変ありがとうございました。  次に、少徳参考人から御意見をお述べいただきます。少徳参考人
  9. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) ただいま御紹介をいただきました、松下電器産業で海外部門を担当いたしております少徳でございます。  本日の私のテーマは、中国WTO加盟など、市場経済化と国内外への影響ということで事前にレジュメをお配りいたしておると思います。基本的にはその流れに沿って御説明いたしますが、一部データなどでより分かりやすく見ていただくためにパワーポイントを使わせていただきたいと思います。  なお、私のスタンスの方は、実務の現場から見てこの中国の最近の動きをどう感じているかということでございまして、論理的な分析に欠けてはおりますけれども、具体的な実例をもって率直な意見も含めて御説明申し上げたいと思います。  本日は五つのパートに分けてお話しさせていただきます。  まず、私ども松下電器の中国事業の概要について簡単に述べさせていただき、そして二番目に、中国WTO加盟に伴う市場経済化と製造競争力の拡大に関連して、事業環境の変化に対応しながら私どもがどういう考え方中国での事業を展開しようとしているのかにつきまして御報告申し上げます。そして三番目に、中国の製造力強化がどう国内外影響しているかということについて具体的なデータでもって御紹介いたします。そして、そういう中国の躍進の中で日本の物づくりの事業環境が直面している課題について、政治に対する要望も含めて御報告申し上げます。  これは松下の連結売上げのデータでございまして、二〇〇一年度の連結売上高が約六兆八千八百億円でございまして、そのうち五一%が海外での売上げで、中国及びアジアが最も多く、四〇%となっております。  これは我が国の電機メーカーが海外展開をしてきた経緯について概略をまとめたものでございまして、これは皆さんがよく御高承のとおりでございますので割愛をさせていただきます。  当社は、中国事業展開の開始が、一九七〇年代の後半に当社の創業者松下幸之助が訪中をいたしておりまして、以後、一九八七年にブラウン管合弁会社BMCCを皮切りに展開をいたしておりまして、特に九〇年代、製品別事業部単位での中国への工場展開が加速化されております。  現在、中国各地に分散して約四十二の製造拠点を持っておりまして、四十二社の内訳が、完成品製造会社が二十二社、部品・デバイス製造会社が二十社でございます。これら四十二の会社は、それぞれ製品別事業部ごとの展開でございまして、四十二社のうち三十三社が合弁会社でございまして、合弁パートナーは全部で三十七社ございます。  松下の中国での事業規模でございますが、二〇〇一年度で約三千億円の生産販売でございまして、本年二〇〇二年度は約四千三百億円の見通しでございます。利益は、一九九七年から黒字転換いたしておりまして、二〇〇二年度は四・四%の営業利益を出す見込みでございます。  次に、中国事業について、中国国内での販売と輸出という観点で見てみますと、ごらんのとおり、年々輸出比率が高くなっておりまして、中国での生産がグローバル拠点化をいたしておることがお分かりいただけると思います。一方、中国事業の当初は、部品・デバイス関連の生産比率が高かったのでございますけれども、近年、完成品生産の中国シフトが進んでおり、二〇〇二年度からは完成品の比率が半分を超えるまでになっております。  それでは次に、WTO加盟に関連して、中国の変化、特に市場経済化と製造競争力の拡大という点に焦点を当てて御報告申し上げます。  中国での競合関係の分析は、地場系、欧米系、台湾・韓国系、そして日系といった分類で見てみますと、中国の地場系のメーカーは九〇年代より急速に競争力を高めておりますが、WTO加盟を機会に外資共々熾烈なグローバル競争にさらされており、それに対応するためにも、外資との提携戦略で商品開発力の強化を図ったり、海外への展開を進めるなどの戦略を取っております。その中でも、急速に地場系メーカーの中での企業の淘汰が進んでおります。  一方、外資系メーカーにつきましては、欧米企業が戦略的な集中投資や国のサポートを得た事業拡大を進めており、特に今日、目を離せないのが、欧米企業に次いで韓国メーカーの急速な中国との結び付きの強化であります。日本も確かに中国シフトが加速してはおりますが、その規模や動きの素早さ、国を挙げての支援などは他の国々に劣っておるのではないかと思います。  中国での製造業競争力は、単に人件費が安いという部分に目を奪われがちでありますが、世界じゅうの企業は決して人件費だけにメリットを感じて展開しておるわけではありません。これは後ほど詳しく述べますが、中国企業にとって魅力ある事業環境を持っておると言えるのではないかなと思います。  中国は、今日まで徹底した規制緩和を行い、外資などの企業誘致に熱心で、かつ社会の仕組みに競争原理を強力に導入してきました。その結果、中国では事業インフラが改善し、産業のすそ野も広がり、また経営面では信賞必罰を徹底した人材活用、そして豊富で安価で、良質、勤勉な労働力の存在、そして競争原理で自らの事業を起こそうとする大学の教授陣等々の努力、こうした結果として中国が非常に大きな市場を生み出してきておるわけでありまして、これらのエネルギーを最大効率で経済発展に生かす産業政策を徹底し、スピード、コスト、人材の点で強力な競争力を拡大させてきたわけであります。  中国は、強い産業を伸ばして国家発展を目指す、戦略的な資本主義の徹底とも、ある面では言えるのではないでしょうか。一方、日本はまだ弱い産業を保護し、これが両国の社会、国家の活力の差となっておる印象を受けます。  この中国が一昨年の十二月に正式にWTOに加盟いたしました。当初、この影響に関しましてはいろいろな見方がありました。  これは通商白書で分析されたものをまとめたものであります。中長期的には必ずや中国産業競争力は更に強化され、そのことによってアジア全体の産業地図が更に大きく変化すると予測されておりました。  そして、一年経過した今、実態はどうであったかと申し上げますと、短期的な影響として予想された経済環境の変化による社会混乱は顕在化せず、一方、目覚ましい経済発展スピードは御高承のとおりでございます。つまり、中長期で予想された影響が実際一年で現実のものとなり、中国競争力が加速する中で東アジア全体の産業地図は大きく変化し、日本製造業空洞化問題はますます深刻になってきたと言わざるを得ません。  WTO加盟一年を経て、今や中国市場は既にメガマーケットとしての存在感をますます高め、中国を収益源とする事業展開なしには企業経営が成り立たなくなってきております。  一方、競争相手としての中国のパワーの拡大は、日本経済そのものを揺さぶるところまでなってきております。  WTO加盟後の事業環境の変化を考えてみますと、私どもとしては、今後、更に中国競争力が拡大することから、日本国内生産の空洞化日本企業アジアでの製造事業との競合は避けられないものとして経営戦略を立てております。つまり、確固とした中国事業戦略なしにグローバル事業戦略が成り立ち得ないという認識でございます。  しかし、競争力だけに目を奪われ、すべて中国へ製造拠点を展開いたしますと、一方では日本から製造事業がなくなってしまいますし、事業リスクも高いと考えます。中国には競争力という大きなメリットがありますが、一方、政治安定上のリスクや通商摩擦が起こり得るリスク、そして知財権上のリスクを考えた場合、私どもとしましては、中国一辺倒の事業戦略でなく、日本も含めた広域アジア視点での分業戦略が大変重要になってくるわけで、その戦略の中で日本が物づくりで生き残る領域を考えていかなければならないと考えております。  一例を申し上げます。エアコン用のコンプレッサーでございまして、中国でグローバル量産拠点として一般的なエアコン用コンプレッサーの量産を更に加速化させますが、一方でマレーシアは当社が二十年来生産活動をしておる拠点でございまして、この強い拠点を使って新興市場への攻略基地として活用する一方、日本は新技術商品の輸出拠点として滋賀県の草津、山梨県の甲府に製造拠点を引き続き持って展開をいたしております。  私どもは、中国を単に脅威としてとらえるのではなく、いかに中国競争力をグローバル事業戦略に生かすかという視点が大事であると考えております。そして、それを実現する切り口が、現地化、集約化、協業化というキーワードに集約できると思います。  具体的には、現地化につきましては、開発、設計から生産、販売サービスまで現地で完結し、現地の優秀な人材を活用し、また徹底した部品、材料、生産設備、金型、外注先の活用を図っていくということであります。集約化でございますが、四十二あります製造拠点の統合や、世界工場として生産の集約を図り、事業単位を拡大し、スケールメリットを追求するということであります。協業化につきましては、政府機関や大学等の共同開発、ODMやEMSの活用などを考えております。また、現地有力メーカーとの販売面も含めた協業などもこの路線の延長にあります。  以上、WTO加盟中国の変化、そしてそれを見据えた当社の中国事業戦略の考え方について御説明申し上げました。  では次に、この中国競争力拡大が具体的にどのような影響国内外に及ぼしておるかということにつき、データを中心に紹介させていただきます。  まず、主要家電製品世界生産に占める中国産品の比率であります。中国世界工場化している実態がうかがえると思います。  ちなみに、北米市場に対する輸出を国別に分析してみます。二〇〇〇年と二〇〇一年のカラーテレビでありますが、輸出国としてはマレーシアとタイが中心でありますが、着実に中国がその構成比を上げてきております。DVD、デジタルビデオディスク・プレーヤーでは断トツの生産占有率となっております。ポータブルCDプレーヤーも中国が七割を占めております。一般電化製品につきましても、恐らく二〇〇二年度は中国が韓国を抜いて北米市場で輸出第一位となっておるものと思われます。エアコンについても同様であり、総数が伸びていない中で中国シフトが進んでおります。  一方、日本市場に対してどうかという点でございますが、カラーテレビ日本国内におきます総販売台数が一千万台を割り込んで低迷しておる中で、台数では中国産品比率が着実に増えており、今や三台に一台は中国製であります。電子レンジのグラフでございます。当然、これは当社を含む日系企業中国からの持ち帰り輸入が含まれておりますが、中国シフトが進んでおることがお分かりいただけると思います。エアコンもここに来て一気に中国からの輸入比率が上がっております。洗濯機も同様であります。  中国シフトがデフレを加速させているという見方をされる方もおられますが、我々のメーカーの立場になってみますと、中国シフトしなければ、シェアを落とし、競争から脱落してしまう。企業として成長するためにやむを得ないという面があります。  欧米や日本市場に対する中国産品の比率は着実に上がってきている一方、高関税に守られていたアジア各国でも徐々に中国製品の浸透が進んでいる様子がうかがえます。日本メーカーが分業戦略に従って中国拠点からアジア輸出するというのはまだまだ少ない段階でありますけれども、今後、増加傾向にあるということは否めません。  中国事業戦略の重要性は、中国でいかに事業を拡大するかということもさることながら、日本を含む中国以外への影響が深刻であり、中国をいかにうまく活用した事業戦略を立て、推進するかということが日本企業の成長戦略の生命線となってまいります。  消費地立脚型で展開した欧米での製造事業はもとより、欧米市場向けを中心としていたアジアでの製造事業も中国との競争が急速に激化する傾向にあり、海外事業全体の構造改革に迫られているところであります。  こういったグローバル供給基地化が進む中国競争力を確保するためにも、既に欧米企業や台湾・香港系企業の大型・積極投資によるRアンドDを含む事業本体機能が集結してきており、今までの中国展開の考え方を根本的に考えていかなければならないと思います。つまり、拡大する市場としての中国だけでなく、グローバル供給拠点としての中国として今後の発展が更に加速化することを考えた場合、中国を活用する事業選択がますます加速していくものと思われます。  このような影響に立ちすくみ、政府に頼った保護政策を求めるのではなく、いかにグローバル化の中で勝ち抜く戦略を実践していくかということが製造業の重要なミッションと考えております。  最近、日本空洞化への懸念がしばしば指摘されます。日本製造業の国際力が失われているのではないかとの指摘があります。今後、日本競争力を維持発展させていくためには、外的要因として中国影響を考えざるを得ませんが、別の見方をすれば、中国とは関係なく、日本自身の課題というものがより顕著になってきていることを痛切に感じております。  初めに、製造業の雇用者数推移を見てまいりますと、九三年に一千五百万人であったものが二〇〇二年には約一千二百万人と、三百万近く減少しております。製造業中国からの輸入急増の打撃を受けて縮小しているのではないか、製造業が縮小することにより雇用の受皿がなくなってしまうのではないか、今後の経済成長の基盤が失われてしまうのではないか等々、深刻な問題としてディスカッションがされております。  では、なぜこのような事態になったのでしょうか。一つ考えられますのは、国際競争が激化する中で、日本が物づくりに適しにくい国になりつつあるということであります。  これは事業インフラコストの比較でありますが、電力・輸送・通信料金の社会インフラにおいても高コスト構造が顕著に見られます。通信料金はディレギュレーションの結果、大幅に下がっておりますけれども、このデータはジェトロからいただいたものでございまして、据付け、それから基本料金等々を加味いたしますと、まだ国際競争力のレベルに達していないということでございます。電力料金は香港を除くアジア諸国の二倍、運輸・通信は欧米の先進国と比べても著しく高くなっております。空港・港湾使用料アジア諸国の三倍以上であります。こうして高コスト体質を放置しては、よく言われる日本で最先端のハイテク・高付加価値商品を作り、付加価値の低いローテク商品は中国などへシフトするというすみ分け構造も難しくなってまいります。  日本の高コスト体質は日本経済の二重構造の帰結と言っていいでしょう。日本産業労働生産性を見ても、輸出主導型製造業、一般機械、電器機械、輸送機械、精密機械でありますけれども、米国全体の生産性を一〇〇とした場合、日本は一二〇と高い数値を示しておりますが、一方、サービス産業においてはその生産性は約六〇%と低いレベルにとどまっております。これは、やや乱暴に言えば、多くの産業が国際競争にさらされず、規制に守られてきた結果ではないでしょうか。  日本産業競争力強化、空洞化阻止という観点から高コスト構造をとらえると、輸出主導型製造業が国際競争で勝ち抜けるようにするためには、生産性の低い産業への競争原理導入、すなわち規制改革が不可欠と考えます。また、縦割り行政もビジネスの効率化を阻害する要因となっておると言えます。  例えば貿易手続でありますが、円滑化するための電子化が進められているのは大変いいことでありますが、経済産業省、国土交通省、財務省の三つのEDIシステムには互換性がありません。荷主、船会社、運送会社などはそれぞれの立場では情報化に取り組んでおりますが、ネットワークという意味ではつながっておりません。現金化されない、つながっておりません。これではタイムリーな輸出入サービスや迅速な輸出代金の現金化ができません。また、先進国では当たり前の常時二十四時間オープンの税関及び船積みも是非早期に実現すべき課題と考えております。  続いて、法人税を見てみたいと思います。  実効税率という点では、アジアはおろか欧米と比べても高くなっております。企業が国を選ぶ時代にふさわしい、国際的に通用する法人税制の再構築を望んでおります。多くの国が、自国産業競争力を高め、あるいは海外からの直接投資を誘引するために、引き続き法人税負担の軽減を進めております。また、中国の経済特区における二免三半、二年間は法人税ゼロ、三年間法人税二分の一と、二免三半制度を始め、多くの国々から、外国からの企業進出を促すために経済特区を設け、大幅な税制優遇措置を講じております。日本でも、このような国際的な動きを考慮し、法人所得の実効税率は少なくとも欧米主要国並みの水準まで引き下げていく必要があるのではないでしょうか。  改めて先生方に御認識をいただきたいのは、経済のグローバル化において、企業は簡単に国境を乗り越えていくということであります。事業競争をしていく上で、経営資源の最も有利なところ、税制の最も有利なところに企業活動の拠点を移していくのはむしろ当然であります。グローバル企業にとっては、国籍がどこかというのはもはや意味がないと言っても過言ではない時代になってきておると思います。規制に守られている産業を保護することは、国家として成長戦略が描けないと思います。  また、人材の質とコストのバランスということでいえば、表にありますように、エンジニアではアジア諸国の七倍から十六倍、工場のワーカーになりますと十倍から三十倍という開きがあります。海外の多様なレベルでの豊富かつ良質な労働力を活用するという視点がグローバル経営には欠かせません。また、日本においても、少子高齢化による人材不足を補い、世界じゅうから優秀な人材を集めるようにすべきであります。このためにも、企業や学校において、外国人を受け入れる制度や環境の整備が必要となってまいります。  また、外国人労働者の問題は、これまで外国人にはできるだけ来てほしくないというスタンスを取ってきた結果、優秀な人は来なくて不法入国者だけが来るという非常に危機的な状況にあるのではないでしょうか。  次に、FTA、自由貿易協定実現の重要性についてでございます。  締結国間の関税や非関税障壁を撤廃して貿易を拡大しようとするFTAは、九〇年代以降、世界じゅうに急速に拡大しております。EUは自ら中東欧へ拡大し、来年には現在の十五か国が二十五か国になる予定でありますし、一方、中近東やアフリカほか、メキシコともEUはFTAを締結しております。さらに、南米とアジアともFTA締結を目指しております。米国も、これまでカナダ、メキシコとのNAFTAが中心でありましたが、北米、中南米全域を含むFTAA、米州自由貿易圏の形成に向けて活発に動いております。また、シンガポールなど、ASEANともFTAを検討中であります。  御高承のごとく、日本はシンガポールとFTAを締結いたしました。しかし、メキシコとのFTAは、産業界からの強い要望にもかかわらずまだ締結されておりません。このために、関税ハンディのためにメキシコでの販売の機会が日本のメーカーから北米や欧州へシフトすることで、メキシコの輸入に占める日本のシェアが、九四年の六・一から二〇〇〇年には三・七と大きく減らしております。経済産業省の研究報告書によれば、九九年の販売逸失は約四千億円、九四年からの累計では一・六兆円になるということでございます。  アジアはどうでしょうか。日本は対ASEANにおいて過去四十年にわたる日系企業のオペレーション経験による人材の厚みや産業集積があり、輸出拠点として基盤も確立されていることから、ASEANを重要戦略地域としてASEANとの包括的経済連携構想の具体化に向けて動いております。また韓国とも検討中であります。  しかし、中国の動きは素早く、ASEANとの自由貿易協定に合意し、二〇〇四年度から二〇一〇年までに両者間に具体的に自由化を実施いたします。日本ASEANのFTAより一歩早く、二〇一〇年には巨大な自由貿易圏が実現する方向であります。中国ASEANのFTAが実現した場合、日本企業は両国の拠点間で製品やサービスの調達を増やすことで、これでは日本空洞化回避策にはならず、完全に蚊帳の外に置かれた結果となります。  ジェトロの報告によりますと、日本を除く形で中国ASEAN諸国に自由貿易圏が誕生すると日本GDPはマイナス影響が生じると予測されております。FTAには域内の競争を推進し、日本国内の経済構造改革を促す効果があります。FTAによって、貿易、投資、サービス、人の移動の自由化や相手国との規制、制度の調和が進めば、日本国内における諸規制の撤廃、緩和、高コスト要因が是正され、国内産業の活性化、効率化、競争力強化につながるに違いありません。東アジアに自由貿易圏が誕生すると、人口二十億人、GDP六兆ドルという巨大な成長が期待できる単一マーケットが実現いたします。供給、需要両面におけるダイナミズムを今後の成長の源泉として活用していく以外に日本の再生はあり得ないのではないでしょうか。  しかし、これらFTAの取組を妨げているのは規制による保護政策であります。特に農業に対する政治決断が重要であります。私どもは中国から学ばなければならないことがあります。むしろ中国の方が農業に対して深刻な問題を抱えております。にもかかわらず、政治の指導力により、国として発展すべく、WTOの加盟と先端技術の導入のための外資誘致を積極果敢にする一方、国家戦略として東アジア自由貿易体制を確立するリーダーを目指し、日本を取り残してFTAの取組を進めております。農業や既成産業を守ることに主眼を置いた政治を続ける限り、国家として成長戦略は望めない、グローバル企業はことごとく日本を逃れ、景気回復はほど遠くなるのではないかと心配をいたしております。  確かに農業問題は食糧安保や環境保全という面で重要な点はありますけれども、農林水産業GDPに占める割合は一・六でありますし、就業者も全体で約五%であります。推計しますと約三百万人以上になり、先ほど説明いたしました全製造業の就業人口が千二百万人まで減少したことを考えますと、国として競争していくために何を決断すべきかは明らかだと思います。  最後に、中国中心に変貌する当社のグローバル戦略の考え方について簡単に御報告を申し上げます。  既にマスコミを通じて御高承のとおりでございますが、当社はグループの五社の子会社を完全子会社化いたしまして、事業ドメインを再編成をいたしまして、それぞれの新しい十四の事業ドメイン会社がグローバルに連結して経営する体制を取りつつあります。社内的には、ダブりをなくし、経営資源の効率化、集中化を図ることに主眼を置いていますが、今までは日本に利益をいかに還元させるかという単独決算中心の経営体制から、グローバルに最適の経営、連結経営に構造を変えていくことに大きな意味があります。  別の言い方をすれば、どこで売上げを上げ、どこで収益を出しても構わない。連結でどれだけ経営成果を出すか、キャッシュフローを生み出すかということに価値があります。つまり、キャッシュフローを生み出す上でベストな経営環境での事業経営に主体を移していくことにこれから注力をしてまいります。  新しい事業ドメインによる事業再編の体制で、中国事業はその根幹を成しております。私ども松下電器では、中国事業戦略がグローバル事業の勝敗を決める、中国市場で勝つことが世界で勝つための必要条件という認識を持っており、先ほど申し上げましたように、中国での事業を現地化、集約化、協業化という三点でもって進めております。  WTO加盟後、大きく変化をし、ますます競争力を強化される中国とどう対峙し、それを活用していくかが今後の企業の重要な課題であると同時に、国家としても同じく重要な課題であろうかと思っております。  以上をもちまして御説明を終わらせていただきます。  御清聴ありがとうございました。
  10. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 大変ありがとうございました。  御両人とも、本当にすばらしい御意見をいただきまして、今日の論議は二時間、時間を取っておりますが、希望者が多いと思いまして、これは大変なことになったと思っておりますが、本当にすばらしいお話を伺いました。  それでは、これより質疑に入りますが、本日も、委員先生方御存じのように、あらかじめ質疑者を定めず、質疑応答を行いたいと思います。  質疑を希望される方は、挙手の上、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと思います。  できるだけ多くの委員の方々が質疑を行うことができますよう、委員の一回の発言時間は五分程度お願いをいたします。  また、質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  なお、これも今までの流れではございますが、理事会協議の結果でございますが、まず大会派順に各会派一人一巡するよう指名をいたしたいと存じますので、御協力のほどよろしくお願いをいたします。  それでは、まず最初に小林温君。
  11. 小林温

    小林温君 自民党の小林温でございます。  お二人の参考人には、本日は大変貴重な御意見をちょうだいいたしまして、誠にありがとうございました。  まず、関参考人に少しお伺いしたいんですが、私自身も中国脅威論には必ずしもくみしない立場でございます。そういう意味では、参考人のおっしゃった競合よりも補完的な関係というのが日中にあるんだと、こういう御意見もある意味ではもっともなものだというふうにも思うわけでございますが。  ただ、私自身も年に何度か中国にお邪魔をさせていただいて、特に大都市部に行きますと、例えばここで数字を挙げられております四十年間の日本中国の間のタイムラグがあると、あるいはこれを二十年、二十五年と言う方もいらっしゃるわけですが、特に大都市に行ったときにはそういう差はほとんど関係ないんですね。例えば上海の浦東地区等をお邪魔したときには、もうこれはもしかするとあしたにでも日本は抜かれてしまうんじゃないかという気もするわけです。  これは、例えば非常に抽象的な言い方をすると、中国のエネルギーを現地に行って感じることが、あるいは、中国で例えばいろんな方々とお会いすると、個人個人のエネルギーも含めて国としてのエネルギーを非常に感じる。その辺が、中国のプレゼンスが現実よりも大きくとらえられて中国脅威論というものを拡大されている雰囲気があるんじゃないかと、こう私自身思うわけでございます。  この雰囲気に、やはり、これは少徳参考人の方からもお話がありましたが、グローバル戦略の中で、じゃ対中戦略をどうするかというしっかりとした明確な指針を持たない企業もこの雰囲気に引っ張られる形で余り戦略的じゃない進出をしてしまったりするようなことも実はあるんじゃないかなと。これは過去の、この十数年の対中進出の成功例が余り見られないというところにもあるのかなとも思うわけですが、この辺のところを率直に、多分、関参考人のお立場というのは、この現実とある意味では雰囲気の問題を、ギャップを埋めていただけるというお仕事をいつもしていただいているんだろうと思うんですが、その辺についてもう少し詳しい御意見をいただければと思うのと、あともう一つは、自動車を一つ現実的な例として、投資の際の悪い投資の例として挙げられているんですが、ちょっと自動車というのは特殊だと思うんですね。これは、物が大きいということもありますし、それからアーキテクチャーでいってもかなり物づくりが必要な部分もある、長い経験も必要な部分もある分野だということで、ここの部分で、じゃ中国に直接行くことがどうなのかという意見はあると思うんですが、例えばハイテクの分野においては、その点について、例えば現地に出ていって現地生産するということが参考人から見たときにどういうふうに映っているのかということについて御意見をいただければと思います。  それから、少徳参考人にお伺いしたいのは、私、マレーシアの松下電器の下請工場で三か月間、工場労働をしたことがありまして、松下政経塾におったときにそういうプログラムがありまして、参考人にもそのとき少しお会いをさせていただいたことが実はあるわけでございます。  それとは別に、例えばマレーシアを見ると、ルックイーストもあって日本企業の進出が非常にうまくいった例だと思うんですね。これを、中国を今見たときに、例えば華人ネットワークの中に日本が入っていくというのが大変困難であると。これは、中国だけに限らずグレーターチャイナに入ることの難しさということがある。  例えば、アメリカ日本を比べますと、中国の外資の合弁企業のトップに、中国出身で例えばアメリカから帰化された方とか、戻ってこられた方とか、アメリカでPhDを取られてきた方なんかが就く例があるわけで、そうすると、血のつながり、あるいはそういったものでどうしてもいろんな契約等がアメリカ企業に流れてしまうというようなことも言われていると思うんですが。  一例を、例えば現実的な例で言うと、その辺も御説明いただければと思うんですが、携帯電話のシェアが中国で、これは世代の問題も、標準の問題もあるんですが、まだまだ欧米に比べてシェアを獲得するに至っていないということとか、あるいは、例えば一部のハイテク機器の中でも、アメリカは中に入り込んでしまっているのに日本はなかなか入れないというところもあるわけですが、この辺の、ある意味で言うと一つの非関税障壁の人的ネットワークの問題、日本というのは本当に中国の中に入り込むことが可能なのかどうかということについて少し御意見を賜れればというふうに思います。
  12. 関志雄

    参考人関志雄君) まず、私が実態に沿った形で申し上げた数字皆さんの頭の中で描いている中国の間にはまだギャップが大きいんじゃないかという質問に関して。  一つは、時系列で追ってみますと、九七、八年辺りから約三、四年間、日本のマスコミを読む限り、中国という国はほとんど存在しなかったと。存在するとしたら、人民元の切下げがあるのか、不良債権の問題はどうなるのか、正に悲観色ばっかりでした。しかし、いつの間にか、世界経済が低迷している中で一種中国の独り勝ちという状況が確認すると、今度はマスコミの論調が正反対に走ったと。久しぶりに数年ぶりに中国に訪問すると、非常に変わったというときに、ひょっとしたらこの変化が一夜明けたら起こった変化だという感じを受けるんですね。  中国の経済改革は、繰り返しになると思いますが、一九七八年から始まって二十五年間たっているんですね。中国自身もこの経済改革は漸進的改革という、ロシアみたいなビッグバン方式ではなく、一歩一歩前進しているという形で進んできて、実際成長率を追ってみたら、九七年辺りを境目にむしろ中国の成長率は下がってきたんですね。それまでの一〇%近いところから、今は元気なときは八%、元気ないときは六%前後という形で下がってきて、客観的にとらえると、むしろ中国高度成長期が少し元気がなくなってきているという印象さえ受けるんです。それは、時系列を追ってみるとこういう結論になります。  もう一つは、地域で見ると、皆さん中国に訪問するときには、上海、北京、場合によっては華南地域、いわゆる中国の最も進んでいる地域以外はほとんど行かないんですね。世界工場といいながら、中国は実は人口の七〇%はまだ農村部に住んでいる農業大国なんですね、工業大国の前に。それは皆さん忘れていると。  よくこういう質問をいただくんですが、内陸部とかは農業部門はいいから、中国は十三億人で、一番進んでいる一〇%だけ日本と比較したらもうとんとんまで来ているんじゃないかという話あるんですね。私も実際計算してみましたが、中国の一番進んでいる一〇%の地域の一人当たりGDPは、いまだ二千ドルです。全国平均は千ドル前後なんですが、一番進んでいる一億三千万人は二千ドルです。  その次に出てくる質問は、購買力平価が違うんじゃないかと。人民元が割安になって、二千ドルとまた実感と非常にギャップ大きいんですよと。その分も修正して、国全体で修正すると、大体中国GDPが、生の数字と比べたらPPPの方が五倍近く大きくなります。そのまま修正しますと二千ドルじゃなく一万前後ぐらいまで、一番進んでいる一〇%の人口の話なんですが、に来ているのかなという気がします。日本はもう三万ドル以上ですので、それと比べてもまだ沿海地域は頑張って、新興工業国、NIEぐらいのレベルなのかなという気がします。  その元気さの秘訣は何ですかといったら、さっき少徳さんも少し触れましたように、やはり中国は看板だけは社会主義で、やっているのは徹底した市場経済であるというところを認識すべきじゃないのかなと。中国は、自称社会主義市場経済若しくは社会主義の初期段階と言っているんですね。本音ベースで言うと、これは社会主義の初期段階ではなく、どう見ても資本主義の初期段階と理解した方が分かりやすいじゃないかと思います。  マルクス経済学で言う原始資本主義なんですね。労働者階級と資本家階級が今同時に創出され、所得分配も二極化する段階にあります。皆さんが一番見ているのが進んでいるところばっかりなんですが、ただ、初期資本主義といっても日本みたいに成熟した資本主義、一応看板はそうなっているんですが、との間にはまだギャップあるんですね。何が足りないかといったら、成熟した資本主義にはまず人治社会ではなく、法治社会でなければならない。  次に、資本主義である以上、国有企業中心とする公有制ではなく、私有財産を保護しなければならない。それもまだ中国はそこまで至っていないんですね。弱者も保護しなければならないんですね。いわゆる社会保障制度の確立もしなければならない。その辺りに関しては、まだ中国はいろいろやらなければならないところがたくさんあるんじゃないかと思います。  産業の話に関して、自動車は特殊じゃないかと。ある意味は特殊です。特殊だからこそ日本の国内で残してもやっていけると思います。家電の場合はいわゆるモジュール化した産業でして、部品さえ調達したらどこでもやっていけるんですが、車の場合はある程度の集積効果が必要でして、中国はまだそういう段階には至っていない。  アジア国々全体で見ても、それぞれの国はみんな国民車を作ろうという計画を立てて、日本以外にある程度成功しているのは実はまだ韓国しかないんですね。中国マーケットが大きいですので、成功する確率はほかのところと比べたら高いんですが、今のレベルではまだ全然日本には勝てないと。実際、同じ自動車の価格を比較しますと、いまだ中国の方が日本と比べたら倍ぐらいの値段が付いているということを考えれば分かるように、国際競争力を持つにはまだまだ先のことじゃないのかなと思います。  中国産業は、明日でも日本を抜くということは、従来のいわゆる雁行形態とは別のものでして、雁行形態というのは正に一歩一歩前進して、日本は古い産業を切り捨てながら、もう一方では新しい産業を育てると。古い産業は新興工業国、次から来る国にとってはまた新しい産業として生まれ変わってくるというプロセスは戦後アジア全体でやってきて、地域全体の活力を維持するには非常に役に立ったと。  これは崩れたという議論は二年前の通商白書にはそういう記述がありまして、私は個人的には必ずしも賛成してはいないんですが、その代わりに出てきた議論は、いわゆるカエル跳びの議論ですね。  中国は二年前まではデジタルデバイドという話があって、中国みたいな途上国はいつまでも付いていけないからどんどん南北格差が広がってくるんじゃないかと心配して、日本が九州・沖縄サミットのときにデジタルデバイドという概念を提唱し、何とか助けてあげようかという話でした。しかし、今はその正反対で、中国はIT技術を生かして、それをてこにいきなり先進国になるんだという正反対の話に変わるんですね。  中国経済が本当にカエル跳びができるのかといったら、私は非常に慎重な見方を持っています。実際、中国は五〇年代の大躍進も一つのカエル跳びの試みでしたし、七〇年代、トウ小平が復活する前に華国鋒主席の下で洋躍進運動が行われました。海外から一番進んでいるプラントを導入して、結局それも生かされなかったと。つまり、中国はこれまで二回にわたってカエル跳びを試みてみましたが、いずれも見事に失敗したという経験から、本当にハイテクであるほどいいのかということを考えると、慎重にならざるを得ません。  ハイテクであるほどいいという概念は、恐らく日本みたいな先進国の場合に関しては当てはまるんですが、発展途上国の中国にとっては有害無益なんですね。みんなハイテクに走らないと明日はないですよと、国としても企業としてもというんですが、ハイテクでもうかるんですか。中国は、ハイテクに関しては、一部はあっても全体的に見たら全然まだ比較優位を持っていません。無理してやると借金だけは残ると。  なぜ韓国はアジア通貨危機に見舞われたかという一つの原因は、ああいう財閥系企業は、無理して自分の力に合わずに宇宙開発までやってしまうと。その場合は、赤字だけ残って、債務だけ残って経済危機を招いたという経緯もあると。  中国はやはり一歩一歩前進して、従来の雁行形態の発想で進めていくしかないじゃないのかなと。一点豪華主義でやろうと思ったら、例えばロケットを飛ばして、その精度は日本よりもいいんじゃないかと言われるんですが、幾らコスト掛かったのかという発想は必要になってくるんですね。同じ大金を使ってもっと中国国民を幸せにさせる方法はないのか。  今の更に現実の問題として、北京と上海の間に新幹線を造ろうという話になっています。日本技術を使うのか、ドイツの技術を使うのかというときに、一部の指導者がハイテクであるほどいいという発想で、ドイツのがいいと言っているんですね。コストが高くて安全性も確認されていないにもかかわらずのことです。  私は、ドイツがいいというか、日本技術がいいと言う前に、千四百キロにもわたるこの長い距離で新幹線で採算性取れるのかという心配は私は持っています。大阪と東京の間くらいで三時間なら乗りますけれども、それ以上は普通はもう飛行機に代わります。同じように、千四百キロで新幹線を造ってしまえば、できた段階では日本の青函トンネル、若しくは本州四国大橋みたいな運命にならないのかという心配もあります。だから、国の使えるお金が中国はまだまだ発展途上国ですので、日本ほど豊かではない。このお金を、その資金をもっと大事にして、有効に運用しないと非常に困るんだなと私は思っています。
  13. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) 小林先生、私も一九八七年から九三年までマレーシアにおりまして、マレーシアでエアコンとか、エアコン用コンプレッサーとかモーターを作る会社の社長をしておったんですけれども、御指摘のとおり、マレーシアはルック・イースト・ポリシーがありまして、非常に親日的な国でありますし、それから私の経験では恐らく世界じゅうで最も親日的な国で、この国に嫌われたら、あとでは好かれる国がないんじゃないかなと思うぐらいに非常にいい国だったと思っております。  華人ネットワークの話でございますけれども、確かに欧米系の会社は、アメリカで生まれた例えば中国人、また東南アジアで使った経営者、これを中国シフトして、中国で社長として、経営責任者として仕事をしてもらって、そしてその人が新しくインサイダー化してネットワークを作っていくと、こういう形で非常に成功されている企業があります。モトローラがしかりだと思いますけれども。  日本の大会社は、この点がまだ非常に後れておりまして、結局、例えば台湾とか東南アジアで優れた自社の子会社の経営者を思い切って中国の会社の経営者に登用するというケースは、大会社では私の知る範囲では余りないんであります。中小企業中国事業展開の場合は、例えば台湾とか香港とか、こういったものを人材を思い切って中国での事業の責任者に登用するということはやっていらっしゃって、成功されている会社も随分あると思うんでありますが、私どもの方もこの面では、先生おっしゃったとおり、大変後れておりますが、間もなく、四十二社ほどあるわけですけれども、二、三の会社から現地で採用して現地で育てた人を総経理、社長にできるんじゃないかなと。十年たってまいりますと、そういう会社が出てこないかぬかなと思っております。  それから、携帯電話が成功していない。これは、他メーカーの方の、同業他社のことを申し上げるわけにいきませんので、当社のことを申し上げますと、やはりNTTドコモさんの、日本にぴったりくっ付いて仕事をさせていただいておったから、グローバルで非常に強い実力を持っていなかったと。日本、NTTドコモさんがおっしゃるとおりに作って、薄く、軽く、安く、魅力的なデザインと、こういうようにしていけばよかったんでありますが、世の中の流れが、ヨーロッパのGSM方式とアメリカのTDMA方式とか、こういったものが出てまいりまして、それと特許でクロスライセンスできないから、ヨーロッパに売るもの、中国に売るもの、これはGSMの携帯通信方式なんですが、かなりの部分の特許使用料、売上げに対して五から一〇ぐらい払っていると。もうちょっと払っているかも分かりません。  これは、ハンディを背負ってやっているわけで、モトローラがアメリカ方式で、シーメンス、ノキアがヨーロッパ方式なんですが、相互に特許をクロスしていますから特許料の負担がコストの中に入っていないんですよ。日本は、日本だけでしか使えない携帯電話のシステムをやってまいりましたから、結局、アメリカで売る場合もヨーロッパで売る場合も中国で売る場合もかなりの特許料の負担になっておって、そして展開が後れておると。第三世代でワイドバンドCDMA、これを欧州と日本が共同の方式を採用し、中国でもこれも一つのフォーマットとして採用してくると思いますので、ここら辺りでしっかり捲土重来というところかなと思います。  ハイテクが中国に入り切れていないんじゃないかと。  一般的に言えば、労働集約的な部門を中国にシフトし、またアジアから高度に労働集約的なものを中国にシフトしていますが、非常に付加価値の高い基幹部品、デバイスと言っておりますけれども、先ほど関先生がおっしゃいましたスマイルカーブの左手のところでありますが、ここに特許、知財、ブラックボックス化したもの、まねができないもの、ばらしても再組立てができないもの、こういったノウハウを持って、ここで、日本で作ってそれを中国輸出して、中国がそれを使って完成品を国内向け、輸出向けにやるという形で、できるだけこれは残しておきたいという、社内でブラックボックス化した技術と言っておりますけれども、これを何とか残しておきたいと。  ただ、これも非常に高度に装置産業でありまして、組立て部分中国へシフトした余剰人員を吸収できるほどこっちのデバイス、ハイテク部品ではできないんで、ここが非常に悩ましいところなんでありますけれども、しかし、収益という面ではここをしっかり残しておくという意味で、日本のメーカーのこの分野への中国展開が入り切れていないというお話でございましたが、ある程度は意図した戦略かなと思うんでありますが。しかし、中国側が、日本はローテクしか持ってこない、持ってこないと言って非常にいろんなところで批判をしますので、これは先ほどの関先生のお話ですと悪い投資になるのか分かりませんけれども、プラズマディスプレーパネル、PDPを上海で前工程から後ろ工程までいよいよ生産を今年の中ごろからいたしますので、こういった形で中国にもある程度ハイテク持っていっていますというあかしを示しておるというところですが、投資に対して、リターンという意味では悪い投資かなという心配はしています。  以上であります。
  14. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、海野徹君。
  15. 海野徹

    海野徹君 民主党・新緑風会の海野徹であります。  何点かお二人の参考人の方にお聞きしたいんですが、関参考人にまずお聞きしたいんですけれども、人民元の問題、ちょっと割安感があるんではないかなという思いがあるんですが、それはまたどなたか聞かれると思いますから、私は不良債権処理の問題に限定してお聞かせ願いたいなと思うんですが。  大変、四大商業銀行にも二四・五%ぐらい、中国政府の発表だと不良債権があると。しかしながら、要するに諸外国のいろんな分析だと四〇%、五〇%不良債権化しているんじゃないかという指摘もあるんですよね。不良債権処理と国有企業改革というのはこれは表裏一体のものだと私は理解しているんですが、これをやっていきますと、大変、いろんな意味で社会全体にマイナスの影響が出てくるんじゃないかな。その辺の見通しをどう持っておられるのか。それと、私、成長が続けばこの問題というのはずっと不良債権処理も進んでいくんでしょうが、もし経済が減速下に入ったら、金融面から私はこれは大変な破綻状況を来すんではないかなということもあるものですから、不良債権処理の問題と国有企業改革の問題、この辺の見通しをお聞かせいただきたいということを思います。  それから、少徳参考人には細かな問題で誠に恐縮なんですが、模造品の問題がありますね。コピー商品の問題というか。先ほど知的財産権のディスクの問題という話があったんですが、これは八千五百億ほど日本企業は非常に被害を受けているという話だったんですね。非常にこれ、特許審査が長期化されているとか特許料の不払とか模造品が横行しているとか、いろんな要素があると思うんですが、松下電器産業グループとしては、その辺の対策というのは要するに私企業としてどういうふうになさっていらっしゃるのか。それがある種の日本のこれからの政府間の交渉の中でモデルとなり得るのかどうか。ちょっと参考でお話をお聞かせいただきたいなと思います。  それと、FTAの問題。これは私ももう数年前からFTAの問題ずっと勉強してきて、これは進めるべきだと思っています。ただ、先ほど農業問題云々という話がありましたけれども、私も農家なものですから、ただ、農家の現状から見ますと、私は生産の現場にいるものですから見ますと、やっぱり量的拡大からコスト競争の中で勝っていくということは、今、人的にも、自然環境からも、投下資本の制約からも、もうできないんですよね、個々の農家にしてみれば。だから、ある意味ではニッチな部分で勝負していくという方向に今ほとんどの農家は行くんではないかと私は思うんです。  そういうことがありますから、私は、農業の生産の現場からというか、個々の現場からこのFTAの問題に対する、認識の問題もあるかもしれませんが、抵抗というものは余りないと思うんですが、どうも省益の問題じゃないかな、あるいはその上部団体と言われるところが壁になっているんではないかなと思うんですが、その辺の認識と。  それともう一つは、やっぱりグローバリゼーションの進展の中で法人がどういうようなビヘービアを取るかということのお話がありました。今、沖縄で金融特区という構想が進められているんです。私は、キャプティブとかあるいはグローバル・キャッシュ・マネジメントというような観点から、沖縄に国際金融情報センターというようなものを作って、ダブリンのようなものにできないかなという思いがあるんですが、その辺の可能性をもし言及いただければと。  その点、お伺いします。
  16. 関志雄

    参考人関志雄君) じゃ、人民元と不良債権、この順でお答えいたします。  人民元に関しては、お手元の資料の二十八ページに要点を簡単にまとめているんですが、為替レート、特に中国の場合はまだ外貨管理もやっていますので、基本、対外収支によって為替レートの上昇圧力なのか下落圧力なのかを決めると理解していいと思います。  実際、WTOに入ってから、最初の予想に反してむしろ貿易も順調に拡大していますし、直接投資もどんどん入ってきているので、その結果として、昨年の外貨準備は何と七百四十億くらい一年で増えています。七百四十億というのは、実は中国GDPの六%にも相当する非常に大きい金額です。これはフローの数字でして、ストック、年末の数字ではもう二千八百六十四億にも達して、日本に次いで世界二番目に当たりますし、中国輸入の一年分にも対応しています。  だから、中国の外貨準備がこういう非常に速いペースで増えているということからも分かるように、実際、人民元が上昇圧力にさらされているというのは今の現状です。  御存じのように、中国は、公式的には管理変動為替レートといいながら、九七年のアジア通貨危機以降は、基本、為替レートは変更していません。毎日ほとんど動きはないと、ドルに対して。一種のドルペッグのシステムを取っているんですね。もし、政府が余っているドルを外為市場から吸い上げるという作業を取らなければ、既に人民元は今の水準より高いレベルに達していると理解しています。  じゃ、そのまま頑張って上げないということは中国にとっていいかといったら、次の二十九ページに簡単にまとめているんですが、外貨準備を持つというのは機会費用を伴うんですね。つまり、多ければ多いほどいいものではない。特に中国の場合は、海外で借金するときには高い金利を払わなければならないですね。日本の場合はジャパン・プレミアムというんですが、中国は発展途上国ですので、その上乗せられるプレミアムは更に高いんですよね。  アメリカの国債を買って外貨準備を運用すると、今、短期の方は一%ちょっとしかもらえないと。いわゆる逆ざやという現象が起こっています。つまり、外貨準備たまればたまるほど、中国アメリカに補てんしているみたいな感じになっています。アメリカの国債を買うということは、ある意味ではアメリカに融資しているということですから、非常に不思議な現象が起こっているんですね。  本来、まだ発展途上国の中国海外から資金を導入するのは分かるんだけれども、先進国アメリカに融資しなければならないのは、そもそもこの資金が有効に利用されていないということを意味します。また、バブルの時代日本と同じように、外貨準備が増えると、その裏には貨幣供給、マネーサプライも増えて、今の中国の不動産のバブルを助長しているんじゃないかと私は見ています。しかも、貿易に限ってみても、各国の対中貿易赤字が拡大していますので、そのままいくと、やはり貿易摩擦が起こるんじゃないかと私は心配しています。  こういう状況の中で、日本を始め先進国から人民元に対して切上げの要求が出ているわけなんですが、残念ながら、政治の日程を考えると、三月に人民代表大会が開催され次期の総理が決めるということですので、それまではなかなか思い切った政策の変更はできないんじゃないのかなと。しかも、新しい総理になっても、外国の圧力に屈する形で人民元を切り上げるという、こういうシナリオは新しい指導部は是非とも避けたいということもありまして、この意味において日本の当局者の最近の発言は、人民元の切上げを遅らせることがあっても早めることはないだろうという、一種の逆効果じゃないかと私は見ています。むしろ、これから国際協調の場としてのG7にも中国に来てもらって、もう少しお互いに緊密に対話した方がいいんじゃないのかなと私は思っています。  不良債権の問題に関しては、やはりまだまだ解決のめどは立っていないというのは実感です。  九九年当時、日本でいう産業再生機構に当たるAMC、アセットマネジメントカンパニーを設立して、既に不良債権のいわゆる不良債権比率、当時も二五%程度と言われるんですが、その中の一五%に当たる分が簿価でAMCに移ったんですね。  その一件考えると、不良債権比率は一〇%まで下がったということになるんですが、二、三年もたたないうちに公表の数字はまた元の二五%に戻ってきているということは何を意味するかといったら、不良債権、これは日本にも参考になるんですが、不良債権の処理というのは単に今までの分を処理しても意味がない。幾ら処理しても新しいのはまた出てくると。それを止めないと問題の解決にはならないですね。  中国の場合は、そもそも何でいつまでも増えるかといったら、金融部門の、銀行部門の七〇%くらいは四大国有銀行が押さえていると。しかし、実体経済、例えば鉱工業生産から見ると、国有企業の割合はもう既に下がってきて三割割っているんですが、残りの七〇%は外資企業若しくは民間企業になります。しかし、国有企業の融資先の大半はいまだ効率の悪い国有企業に集中しているというのは全然変わっていないですね。  こう考えると、新たに不良債権の発生を止めるためにはどうしたらいいかといったら、おっしゃるように、まず国有企業そのものもコーポレートガバナンスを確立しなければならないし、今度融資している国有銀行そのものも自分のコーポレートガバナンスを確立しなければならないと。いずれも、まだまだこれだという処方せんは出てきていないんですね。  実体部門に関しては、いわゆる毛沢東戦略といって、国有企業改革しなくても、周辺には外資系企業は入ってきているし民間企業も成長していますから、二十年前は八〇%のところを今三割もう割っていて、いずれ自己消滅になるんじゃないかというシナリオは描けるんですが、同じようなやり方で国有銀行に対してもできるのか。民間企業をこれから育てて、外資系銀行もどんどん導入して、その結果、四大国有銀行のウエートが下がっていきますので、最終的にはまた自然消滅の道は考えられるのかといったら、残念ながら、実体経済と金融部門と全然違いまして、特に金融の場合は信用に懸かっていますから、何か四大銀行危ないですよということになりますと、金の流れが非常に短期間でキャピタルフライトという形で外に流れたりする可能性もありますので、このソフトランディングをどう考えるのか、経済・金融危機を避けながら模索しなければなりません。  政府の考え方としては、国有企業も相当株式上場とかという形で、民営化という言葉こそ使われていないんですが、実質上民営化し始めているんですね。国有銀行に関しても、まず株式化して、次の段階では上場させたいということを言っています。しかし、今の実態では債務超過ということですから、上場しても値段は付きません。  したがって、上場させるためには、九九年と同じように、もう一回思い切って不良債権を分離させるという作業をやらなければならない。ただ、それを繰り返すことによって、ますますいわゆるモラルハザードの問題が発生するので、これはもう一回やるべきかどうかというところはまだ最終の決定はなされていないですね。特に、WTOに入ってからは金の出入りが激しくなって、いわゆる資本取引が実質上自由化が進んでいるという状況の中で、もし銀行部門の問題がいつまでも解決しないと、一種の金融危機が発生する可能性が高まってくるということになります。  ただ、さっき言ったように、外貨準備は三千億ドルくらいあるので、タイとかアルゼンチンみたいな危機よりも、私は心配しているのは日本型の危機の可能性はあるんじゃないかと。つまり、資本取引の自由化が進んだら、わっとお金が入って一回大きいバブルになる可能性がある。これが今度バブルがはじける段階で更に不良債権が一気に増えるという段階で、中国の金融部門が経済成長の全体の足を引っ張るという可能性は見ておいた方がいいと私は思っています。
  17. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) 知的財産権の件でございますけれども、一九九〇年代は中国の地場メーカーがどんどんどんどん偽物を作ってまいりました。ブランドをそのままもう全く盗用する形から、パナソニックじゃなくてパナトミックとか、パナソーミックとか、ちょっと外から見たら分からないような形で使うことから、それから意匠も全くのデッドコピーから、いろいろ出てまいりまして、結局この間は、一つ助けてくれたのはアメリカでありまして、アメリカ中国との間で毎年最恵国待遇の延長交渉をやっていまして、これのときに使うアメリカ側のレバレッジが、知的財産権がしっかり保護されていないじゃないか、守られていないじゃないかということを常に言ってくれたので、これは一つ助かった。あとは、九〇年代はもう企業が自ら中国の公安とか政府のOBを雇って、そしてこれの対策をする、また香港等にコンサルティングファームもあります。こういった会社を使って、そして自らやると。  しかし、中国の方も、国家行政管理局といいまして、この分野の役所でありますが、ここが大分やってくれるようになりまして、そこと一緒に偽物を作っておる工場に急襲をする、現場に踏み込むということまでやってまいりましたが、それでもきっちりやってくれるところと、助けてやろうと言って、工商行政管理局の方から偽物を作っておる工場の方に先に連絡が行っておって、行ってみたら何もなかったというケースもありますので。  この間は一つアメリカに助けてもらったのと、もう一つ企業の自助の努力でありますけれども、九〇年代の後半から業界全体で動こうと。経団連もしかり、日中経済協会、日中投資促進機構、いろんな業界団体がございますが、これが一体となって中国に働き掛けよう、また調査をしよう、被害の実態を訴えよう、こういったことで動き始め、さらにここ二、三年は政府間ベースで取り上げていただいて、経済産業省、特許庁等々で政府間交渉が始まっておりまして、官それから業界団体、それから民間の法人等々がやっと一体になってぐっと動き出したという感じでありますのと、もう一つの追い風は、中国が一昨年の十二月にWTOに入りまして、WTOの加盟に伴ういろんな遵守義務がありますから、その中の知的財産権の保護、これを法の整備と同時に法の実行、それも地域によって差をなくす、こういった方向に取り組んできていますので、まずまずいい方向に行っているんじゃないかなと思いますけれども、気を抜くとまた必ず出てくるというとらえ方であります。  FTA、海野先生の御出身の静岡の農業皆さんにはどうも誠に申し訳ない発言をいたしたわけでありますけれども、グローバルということと、それから競争力ということからして、そして日本GDPに対する貢献度、今後の発展性ということになりますと、どうしてもああいった言い方になりまして非常に気分を害されたんじゃないかなという心配をいたしておりますけれども、農業皆さん方も私どもの大変なお客さんでございますので、心が痛む思いで申し上げておりましたことを御理解いただければと思います。  経済特区、これはFTAを一方どんどん進めていくことによって日本の構造改革それから規制緩和が進められると思います。もう一つは、突破口としてはいろんな形の経済特区を思い切って作って、しかも省庁ごとに作った経済特区じゃなくて省間を横断した経済特区じゃないと、特に外国から入ってきてそこで仕事をしようかという気にならないと思いますので、省益に基づいた経済特区じゃなくて国全体の益に基づいた、国益に基づいた経済特区というのは非常に大事だと思います。  沖縄に金融がいいかどうかはちょっと分かりません。しかし、沖縄は中国アジアに非常に近いわけですから、経済特区としては一番いい候補地じゃないかなという認識でございます。  以上でございます。
  18. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、沢たまき君。
  19. 沢たまき

    ○沢たまき君 公明党の沢でございます。両参考人には、本当に分かりやすく説明していただいて、本当にありがとうございました。  一つは、中国のキャッチアップについて両参考人に伺いたいんですが、現段階で中国日本に四十年ぐらい後れている、また競合する部分も本当は一〇%ぐらいというふうにお話がありました。しかし、少徳参考人のお話からは、中国は外国から製造とか開発とか品質の管理の技術を積極的に取り入れて、驚くほど速いスピードで市場経済への対応を進めているというお話でございました。そうしますと、数字の上では四十年という開きがあっても、かつて我が国がアメリカの後を追ったように、中国が物すごいスピードで日本を追い上げているように思えてなりません。あくまで印象でございますが、実際にはその格差はもっとずっとずっと短いのではないかと思いました。その点について、両参考人の御意見を聞かせていただきたいと思います。  もう一つは、産業空洞化についてでございますが、御説明にありましたように、日中の経済関係というのが補完関係にあるということ、そういうふうに思います。したがいまして、日本国内の空洞化というのは日本自身が解決すべき問題であって、空洞化の原因に中国の台頭を挙げるべきではない、そういうふうに関参考人はおっしゃったんだろうと思います。  また、御指摘のように、日本としては衰退産業海外移転しながら、その一方で新しい産業を育成するという、いわゆる空洞化なき高度化政策を考える以外にないのかなと思っております。ところが、御指摘のように、この十年間、百兆円以上のお金を景気対策という名目で主として衰退産業を守る、保護の方に力を入れてきたとおっしゃっていらっしゃいました。その意味で、日本の国家戦略として、少徳参考人は最後の方におっしゃいましたが、産業の政策ができていないというふうに思いますが、この点について、どういう国家戦略としての産業政策がいいのか、両参考人に伺わせていただきたいと思います。  それから、コストのこともおっしゃいました。御指摘のように日本の高コスト構造、ここで打破するためには企業自身の努力もさることでございますが、政府の政策も公規制から基本的に自由競争に転換していくべきではないかなと思いましたけれども、この点に関して少徳参考人企業人としての御意見を伺いたいと思っております。  最後になんですが、なかなか構造改革ができないというと、日産の社長のカルロス・ゴーンさんのように外国人にお願いしないとなかなかできないのかなという気がしてまいりましたが、日本人が日本のことを改革できないんだとすると、これも少徳参考人にお伺いしたいんですが、また外国人である関参考人でございますが、日本人にできないとすると外国人に頼んだ方がいいのか悪いのか、そこら辺を御意見を伺わせていただきたいと思います。  済みません。以上です。
  20. 関志雄

    参考人関志雄君) 最初の質問は少し小林さんの質問に似ているので、若干補足する程度なんですが、やはり皆さんの頭の中のイメージと私が、客観的に信じておられる中にはギャップがあると。そのときにやはりレベルで見るのか変化率で見るのか、皆さんは恐らく変化率のところに非常に注目しているんじゃないかと思うんですね。  六〇年代、日本も毎年一〇%成長して、そのまま伸ばしますと今の日本の経済規模アメリカの三倍も四倍もなったはずなんですね。しかし、それは起こらなかったと。やはり国というのは人間みたいに若いときの成長力は非常に強いんですよね。中国は正に今高度成長期に入っている。しかも出発点のレベルは非常に低かったということもあって、日本は二十年で高度成長期は終わったんですが、中国は二十年、二十五年たってからもまだ全然終わっていないと。ただ、やはりある程度先進国のレベルに近づくとこの成長率が下がってくるというのは日本の経験でもありますし、韓国、台湾辺りの経験でもあるんですね。  私は個人的には、中国の今の七%の成長率はうまくいけば二〇二〇年ぐらいまでは続くかなと見ています。しかし、一人っ子政策を八〇年から取り始めて、二〇二〇年前後になると人口の構成が逆さまになるピラミッドみたいな形になって高齢化が急速に進んでくるということですので、よく言えば、うまくいけばあと十数年ですよと、悪く言えばこれからの十数年間は中国経済の発展のラストチャンス、最後の機会であると私は見ています。  今は四十年だけれども、日本に追い上げるまでは四十年掛からないじゃないのというときに、やはり日本はどういうスピードで先に行くのかというところをまず議論しなければならないんですが、後発性のメリットというものがありますので、自分技術開発するよりは、特許を買ったり、場合によって特許料も払わずにまねしたりコピーしたりするという、コストが非常に安いから、後ろから追い上げてくる国は経済発展の時期を短縮できるという優位があるというのは中国も恐らく当てはまると思います。  ただ、四十年後は日本に抜くという意味はなりません。むしろ今の日本経済発展の段階に到達するには四十年間は掛からないだろうということは言えるんじゃないのかなと思います。要するに、日本企業とかに対するアドバイスになるんですが、別に皆さん中国は全然後れているから昼寝して大丈夫ですよということを申し上げるつもりは一切ございません。むしろ、まだ四十年もあるから慌てて窓を開けて飛び降りする必要はないんじゃないのということを言っているだけなんですね。  空洞化の問題を考えるときに、私は、数年前アメリカの著名な経済学者のポール・クルーグマンの議論を思い出します。彼は、アメリカとメキシコの関係を念頭に、NAFTAが一緒になればアメリカにとって大変だと、一種のメキシコ脅威論がありました。その当時彼は何を言ったかといったら、アメリカみたいな、国が非常に大きいですので対外取引が国全体に占める割合が小さいんですね、貿易GDP比とか。だから、自分国民の生活水準はどういう要因によって決められるかといったら、競争力という概念はやめた方がいいと。つまり、相手国は何に有利かというのではなく、自分の国の生産性はどうなっているのかというところに注目すべきだと言っています。  つまり、今の話に置き換えると、日本人の生活水準が、中国人が頑張るかどうかはほとんど関係なく、むしろ日本人が頑張るかどうかのみに掛かっているということになります。さっき少徳さんの話を聞いても、やはり企業立場に立っても同じ結論になっているのかなと、聞いて安心しました。
  21. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) 沢先生の御指摘の、関先生と私が中国競争力のとらえ方がちょっと違うじゃないかということでありますが、関先生の方は非常にマクロ的に分析的にとらえておられて、そして客観的な見方をされています。  私の場合はややミクロ的でありまして、昨年の末、昨年のアメリカの年末商戦で、例えばDVDのプレーヤーが四十ドルを切ってアメリカ中国製のものが売り出されたと。日本のメーカーは中国で一生懸命に作ってアメリカへ持っていって売っているんですが、辛うじて百ドル切れるぐらいというぐらいなケースがアメリカの市場、日本の市場、ヨーロッパ、たくさんあるわけです。私どもの商品が特に幅広くいろんな地域で中国競争しておる。その分、ここの、先ほどの関先生の、組立ての分野が多いからでしょう。うちはもう少し前のブラックボックス、部品、デバイスで付加価値、まねができないもので利益を上げよう、そして後はハードとソフトをパッケージにしてソリューションビジネスで商売を伸ばしていこうと、こういう形を取っていますが、この分野でやはり中国と市場で、しかもホットな状況競争してまいりますと、ここで感じ方が、統計的にとらえた、マクロ的にとらえた場合と大分変わってくるわけです。これは大変だなと、えらいこっちゃという感じになるわけなんです。  だから、きっちりとらえれば、マクロ的にとらえれば、先生おっしゃるとおりですが、たちまち、アメリカで非常に熱いものを触ってきましたから、これは大変だということ、形の方のベースのプレゼンになっておったということで、私が関先生と中国の製造力のとらえ方が大きく認識が差があると私は思っておりません。  二番目、日本として国家の成長選択、いかにあるべきかということでありますが、これは非常に大きなサブジェクトでありますが、もう簡単に申し上げれば、外国の企業日本に来て、そして投資をして事業を拡大できるようなハードとソフト、インフラ、これを作れば日本が非常に強い国家成長戦略がかけるんじゃないかと。税の面がしかりであります、インフラの面がしかりであります、省庁間のいろいろな問題、それから規制緩和等々あるわけでありますから、ここが、外国の企業日本に来て投資をして製造業でやったってノン製造業でやったって同じですけれども、どんどん仕事をしようと、そういうインフラを日本が作ると、ここが日本の成長戦略じゃないかなと思います。  企業人としての決意表明をしろと、こういうお話があったと思うんでありますけれども、日本にたくさん税金を納めます、雇用をたくさん維持します等々申し上げたいんでありますけれども、やはり今一番大事なことは会社の株主さんに対して一番報いることが大事だと思います。株主さんに一番報いる方法は株価の時価総額を上げることだと思っております。  したがって、グローバルに見て、グローバルな投資家、また投資家をアシストするアナリスト等からやはり評価をいただける成長と収益、そしてグローバルに最も有利な資源配分をしていく企業、これが今後生き残る形かなと思っておりまして、雇用を維持します、輸出を伸ばしますなんとかって言うのは、ちょっと決意表明としては申し上げにくいのであります。  それから、外国人の経営者、これはもう日本人であったって外国人であったって、いい人はどんどん来てもらってやったらいいわけでありまして、外国人だからどうだという議論をやっておるのはまだ日本がグローバル化できていないからでありまして、ゴーンさんのような方が来ていただいて、立派に経営を立て直していただける方がいらっしゃったらどんどん受け入れたらいいと思いますし、しかし日本の中でもゴーンさんを待たずにきっちり会社の経営をやっていける経営者もたくさんいると思いますし、私もその一人になりたいと思っておりますので、何とかよろしくお願いをしたいと思います。
  22. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、緒方靖夫君。
  23. 緒方靖夫

    緒方靖夫君 日本共産党の緒方靖夫です。  両参考人には大変ありがとうございました。  最初に、少徳参考人にお伺いいたします。  日本の対応の遅れの心配、私も大変共有いたします。それで、日中関係で見ていての遅れというよりも、私は、もっとグローバルな視点で例えばアジアからそれを見たとき、もっと深刻だということを痛感するわけですね。例えば、インドに対する投資ですね。中印関係が悪かったにもかかわらず、この間行きましたら、投資額が中国の方が日本の十倍あるわけですよね、既に。ASEANではもっと大変なことが起こっていると思っております。  マレーシアで社長を務められたという経験があって、実感おありだと思うんですけれども、やはり中国ASEAN諸国とそれぞれにFTAを結ぼうということで、中国のやり方は日本と全く違って、もう個別分野でどんどん可能なことを進めていくわけですね。ですから、タイとの間で果物の分野でもう結んでしまう、残っている部分は後で交渉という、そういうやり方で、日本は包括だから何も進まない、交渉をやっても進まない。しかし、中国はそういう形でどんどん進めていく。具体的かつ戦略を持っているわけですね。ですから、そういうことを見ていったときに、私は、やはり中国の今の勢いというか、それが非常に大きく、アジアなんかで見たときに日本よりもっと大きくそれは映るわけですね。  私は、グローバル化については、グローバル化が進むのは当然だと。しかし、そのときに国家主権をどう守っていくのかということが一つあるわけですけれども、マルクスが百五十年前に資本が国境を越えるという話はもう既にしているわけで、これは当然の成り行きだと思うんですね。ですから、そこをどういうふうに利益を守るようにやっていくのか。  ですから、私たちは、シンガポールとのFTAも日韓投資協定も賛成しているわけですけれども、そういう点から非常に実感をお持ちだと思うんですけれども、WTOに中国が加盟した後の中国のその点でのダイナミズムといいますか、スケールの大きな手を打っていくものとか、きめの細かさとか、その辺について実感をお持ちでしたらお話しいただきたいと。それが一点です。  それから、関参考人にお伺いしたいんですけれども、この委員会で、いつだったか、ちょうど去年の暮れだったと思いますけれども、私が中国とのITの発展について経済産業省の政務官に質問をいたしました。そうすると、今のままで日本側が何も手を打たなければ、日本のITの水準は中国にあと四、五年で追い越されると断言したんですね、この委員会で。それについて、四十年の遅れとか、いろんな話がありましたけれども、その辺についてのコメントをいただけたらと思います。  私は、実は中国の大きくなっていく状況というのは、ちょうど何でもこの間、日本アジアのナンバーワンだと言ってそれになれてきたわけですね。しかも、おごりがあった。バブルの時代には、日本は欧米から学ぶことは何もないと断言したこともあったわけです、日本の外交官が。ですから、そういうことを考えていったときに、中国の学者の中でも、日本がこれからナンバーツー、ナンバースリーになっていく心理調整期が今始まりつつあるんだという説もあるわけですね。それについてどう考えられるのか。  最後に、WTO加盟によって、ちょうど西部大開発という号令も掛かっていますけれども、結局、海外からの投資というのは沿岸部に集中しているわけですね、九割以上。これを放置したら大変なことになるということも言われていると思いますし、貧富の格差ということも言われております。ですから、その辺についての見通しと対策、もしそれについてお話がありましたらお伺いしたいと思います。  以上です。
  24. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) 中国WTO加盟、一昨年の十二月でございました。一年ほど本当は遅れたわけでありますが、中国が加盟したらこういうことが起こるだろう、中国が加盟したら政府の動きがこう変わるだろうと、だれもが予測をしたわけでありますが、中国の加盟が実現をして、そして一年ちょっとたったわけでありますけれども、非常に中国の政府の方と話をしておりますと、WTOの加盟に伴ういろんな遵守の条件を実行しようと、できれば前倒しでやっていきたいなというような感じが取られます。  これは非常に驚きでありまして、アメリカ等が、例えば中国WTO加盟に伴ういろいろな遵守条件を守っていないという指摘をして中国に交渉しておりますけれども、中国の政府の幹部の方から受ける印象というのは、前倒しでも実行していきたいなというぐらいの強い自信を持っていらっしゃるかなという感じを受けております。  中身が伴っておるかどうかというのは、アメリカがあんな指摘をしておるわけでありまして、まだまだ不十分だということでありますので、現実と政府の、特に中央政府の意気込みとの乖離はあるかなとは思うのでありますけれども、これは私の印象であります。  二番目、やはりWTOに入って自信が付いて国内の混乱が思ったより少なくて、むしろ輸出の機会が安定的に確保できたという意味で、続いてASEANとのFTAをやろうという自信まできたんじゃないかなと思っておりまして、やはりWTOの加盟、それ以後の中国経済の引き続き順調な運営、そこから出てくる中央政府でのリーダーシップの強いコンフィデンスと、これがFTAにいっておるわけでありまして、恐らくFTAの場合ですと、相当いろいろ中国で抵抗があるわけでありまして、先ほど関先生もおっしゃっていました人口の七割が農民、その中国農業は非常に低生産性でありますので、ここらが非常に大きく影響されることは承知の上、FTAを結んでいこうというこのリーダーシップは非常に敬服するところであります。  日本がシンガポールと結んだFTAでありますけれども、農業分野を避けてほかの分野で結ぼうとしたがために、ほかのASEANの国が日本とのFTAを、彼らは輸出の機会は農業なのでありまして、農業製品でありまして、したがって中国が一方は思い切って農業分野の開放もやっていこうとしておる中で、日本がシンガポールとのFTAで結んだ動き等を見ておりますと、この格差がもっともっと付いてきて遅れないかな、遅れてしまわないかなという心配を非常にいたしております。  以上であります。
  25. 関志雄

    参考人関志雄君) まず、ITに関しては四年後、五年後ぐらい、もう日本を抜くんじゃないかという話なんですが、そもそもITの定義が非常に広くて、何指しているのか、はっきり分からないんですが、汎用品に関しては、五年後は大差はないという話は少徳さんの話からもうかがえると思うんですが、しかし、このスマイルカーブの両端の部分、ブラックボックス化された部分に関しては、四年、五年でこのギャップはとても埋められないと私は思っています。  今でも中国金額的に輸出が非常に増えているんですが、ITを代表する企業といえば、ブランドとしてみんな知っているのがほとんどないんですよね。ハイアールはIT企業と言っていいかどうかは、まだ家電が中心ですので、まだ分からないというような状況だと思います。自前の技術も一切持っていないと言っていいほどですよね。ゼロから出発して、四年、五年で先進国とのギャップが埋められるとはとても思わない。  最近、中国のITといえば、話題になっているのは携帯電話で、普及率も高くなっているし、台数も二億を超えるとかそういう議論になっているんですが、このトップメーカーはノキア、モトローラ、エリクソン、サムスン、全部結局外資系企業なんですね。先進国を抜いたといったら、何をもって抜いたのかといったら、結局外国企業の力をもって抜いたということだけで、中国企業はどこからも顔はまだ出していないという状況です。  外交面で、中国日本が経済力のコンバージョンスに関してはどういうインプリケーションがあるのかと。振り返ってみると、非常に面白いことに、千年以上の付き合いの中で、日中間が対等の立場で付き合うという時期はほとんどなかったんですね。アヘン戦争若しくは明治維新までは、中国が上で日本が下でした。非常に短期間で逆転して、日本の経済力ははるかに中国を超えて、中国は下の方になったと。やっと少しずつ収れんするかなという兆しが見え始めて、だからいろいろな摩擦が起こるんじゃないかと、こう言われているんですね。私は、短期的には摩擦は避けられないですが、中長期的にはむしろ対等な立場になった方が仲良くできるんじゃないのかなと。  一つの事例は、実は日韓関係を見れば分かりますように、今、韓国は日本に対して非常に冷静なんですよね。従来と比べていわゆる反日感情が収まってきたと、サッカーのワールドカップ一緒にやったりして。ある意味では、これは韓国から見て、日本とはもう差がなくなってきているんだと、だから平等で議論できるようになったと、こういう土俵ができるようになったというのが大きいと思います。  だから、これからは、中国日本の関係を考えるときには、短期的には摩擦はあるんでしょうが、中長期的には、むしろコンバージョンスが進んだことによって日中関係がうまくいくんじゃないのかなと私は非常に楽観しています。  三番目は、地域格差に関して、東部だけは進んでいて、西部はいつまでも後れる、この状況をどうするのかというときに、私は短期的には労働力の移動、つまり今でも一億人くらいのいわゆる農民ですね、ふるさとを離れて都市部に行って仕事をしているという形で、表ではますます生産が沿海地域に集中するんだけれども、彼らが稼いだお金は結局四川省とか内陸部に送金するので、その裏で、所得という面では、労働の移動が所得を平準化させる力としては働いているんですね。だから、日本のマスコミではよく労働力の移動をマイナスの目で見ているんですが、むしろこの経済格差を是正させるためにはもっとこれを促進しなければならない。  今、一つのネックになっているのが、中国ではまだ戸籍の制度があって、日本よりはずっときついんですが、農村で生まれた人がなかなか都心には行けないということですので、それを改定してもっと自由に人が動けば、結果的に、生産は沿海地域に集中するんですけれども、所得は平準化するというのは考えられます。  中長期的には、アジアにおけるいわゆる雁行形態、日本の直接投資アジアNIESに行って、それがアジアNIESの発展のきっかけになったと。その後は、NIESの国々ASEAN中国投資するようになるのと同じような形で、今度は東部にある中国企業、外資系も含めて、例えば上海の労賃が高くなったら、次の選択はASEANに行くのか、内陸部に行くのか、こういうことに変わるんですね。  だから、今の中国政府ができることは、中国企業が早い時期にベトナムとか行かないで内陸部に行くように、内陸部のそれなりのインフラを整備しておかなければならないというのが一番大事な仕事じゃないのかなと。黙っていても来るんじゃなく、やはり今度は西部とベトナムとかインドネシアとかは競合関係になるということになります。これも時間は掛かるんだけれども、それほど悲観的になる必要はないのかなと思います。
  26. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  大田昌秀君。
  27. 大田昌秀

    大田昌秀君 社民党の大田でございます。  関参考人に一点だけお伺いします。  二〇〇一年九月号の通商ジャーナルに「中国経済の台頭と日本」と題するレポートをお書きになっておりますが、その中で日本企業中国投資について述べておられます。つまり、うまくいっていないのではないかと、中国側のインフラの整備が十分でないとかおっしゃっておりますが、また日本特有の問題として教科書問題や首相の靖国神社への参拝の問題を挙げておられます。  財務省の対中統計資料を見ますと、日本企業中国への投資は一九九五年度の四十四億八千ドルをピークにして一九九九年度は七億五千百万ドルまで減少しています。比率からいいますと、八・七%から一・一%まで落ち込んでいますけれども、これをどういうふうに、その理由は一体何とお考えですか。それと、先ほど申し上げました日本特有の問題が経済問題において支障を来すような、直接間接に支障を来すようなことがあるのですか。これが私の質問でございます。  それから、少徳参考人には簡単に二点だけお伺いしたいんですが、積極的に中国市場に参加されて活動されておられるわけですが、現地の人たちの人材教育についてどのようになさっておられるか、教えてください。  それから、昨年は沖縄の復帰三十周年の節目の年でした。また、日中国交正常化三十周年の節目の年でしたが、その間に政府の公的資金、中国に投下された公的資金はODAなんか含めますと約七兆円くらいになりますが、また一方、沖縄に対して政府が投下した資金は六兆数千億円になって、ほぼ同じなんです。ところが、中国の場合は、もちろん沖縄と中国を比較するということは到底できませんが、中国が先ほど来お話がありますようにすばらしい経済発展を遂げたのに、沖縄はほぼ中国に投下したと同じ額のお金をもらいながら、物づくり、つまり製造業がこの三十年間に一つも育っていない、一体これはどうしてかと。つまり、物づくりの基本的な条件とでも申しますか、それを教えていただけたら有り難いと思います。  よろしくお願いします。
  28. 関志雄

    参考人関志雄君) なぜ日本企業中国でうまくいかないのかと。特に、欧米と比べて、本来、中国投資環境が良くないとかよく言われるんですが、その分に関しては欧米企業にとっても全く同じですので、むしろ欧米企業と比べたら日系企業はどの辺はいけないのかということを中心にお答えいたします。  一言で言うと、やはり日本の人事制度が国内では通用しても中国に持っていくと通用しないというところが一番大きいんじゃないかなと。中国人から見る日本企業は正に昔の中国の国有企業みたいなものでして、終身雇用、年功序列、それは中国にはもはや存在しない懐かしいシステムではあるんですが、若い人は余りこういうところには行きたくないと。ある意味では悪平等といいますか、みんないい人だから別に区別して待遇を与える必要はないというのは日本的発想ですが、中国の場合はむしろ能力主義、実際多くの企業は既にそういう制度を導入して、従業員もむしろそういう企業を選ぶという傾向は非常に強いですね。  そのときに、欧米と比べたら更に問題になるのが、現地化の進み具合は非常に後れているんですね。日本の場合は、さっきも話ありましたが、特に大企業に関しては現地の人に社長まで任せるという事例はほとんどないんですね。アメリカ企業とかヨーロッパ企業の場合は非常に多いんです。  細かい話になるんですが、中国企業家から何回も聞いた話、一つ紹介しますと、欧米企業と商談するときにテーブルの向こう側に、全員中国語をしゃべってくれるんです。白人とは限らないで、海外から帰ってくる中国人とか華僑も非常に多いとは思うんですが、日本企業と商談するときにテーブルの向こう側に中国語をしゃべる人は一人しかいません、それは通訳の人ですと、こういう事例は何回も聞かせられたことがあります。  要するに、現地社員が幾ら頑張っても責任を持つような仕事は任せられないと。さっき少徳さんもおっしゃったように、これ、変えないといけないという認識は前からあったかと思うんですが、しかし、なかなか変えれないですね。なぜかといったら、一種の悪循環だと思うんです。実績がないから優秀な人は集まってこないんですね。アメリカ企業とかは実績があるから、頑張れば私は社長になれるという確信を持てるんですね。日本の場合は、じゃいずれ任せますと言いながら、隣のアメリカ企業はすぐ任せるということになると、なかなか優秀な人材は日本企業に集まってこないんじゃないのかなと。  もう一つの事例を申し上げます。  マイクロソフト、北京の中関村にマイクロソフトの研究所がありまして、訪問して、どうやって優秀な人材を集めるのと聞いたら、彼らは、青田買いというか、一つの人材のピラミッドがあると。最初は清華大学、北京大学の学生にただで、ワンフロアにコンピューターだけ置いていて、暇なときに遊びに来てくださいと、アカウントだけ与えて好きなように使ってくださいと。その中からインターンを与えたりスカラシップを与えたり留学させたりして研究員を絞るんですね。最終的には所長も、アメリカで仕事の経験を積んだ人を連れて帰ってきて所長をさせると。しかも、所長をさせるだけじゃなく、その所長の次の仕事は本社の役員になると。既に何年前からそういう実績があるから、清華大学、北京大学の学生に聞いて、これからどこに就職したいんですかといったら、マイクロソフトに就職したいという人が非常に多くなってきています。同じ調査では、日本企業に入りたいですというのはなかなか出てこないんですね。  この悪循環をいかに断ち切るのかということを考えるときには、やはり非常に早い段階で成功例を作らなければ、人事面で、日本企業で社長になって経営もうまくやってお互いにハッピーだという状況を作らなければならないのじゃないのかなと。一部の話では、実際、中国人に任せたんだけれどもまただまされたという話はよく聞くんですが、何で欧米企業中国人に任せてだまされないのに日本企業だけはいつまでもだまされるのかということを考えるときに、やはり日本の国内のいわゆる性善説のシステムをそのまま中国に持ち込んでもだまされるだけで終わるんだなという気がします。  アメリカの場合は、最初はABC、アメリカン・ボーン・チャイニーズアメリカで生まれた中国人を使って、今はABCよりも、実際、大陸出身の人でアメリカでMBAとかPhDを取った人を送り返すという形になるんですが、彼らは第一線で活躍しているんですね。私みたいに日本に来て勉強する、私はNECと呼んでいるんですが、ニッポン・エデュケーテッド・チャイニーズ日本で教育を受けた中国人もそれなりの人数にはなっているんですが、第一線で活躍している人はほとんどいない。この差を埋めないと中国での展開はなかなか難しいのではないかと思います。
  29. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) 関先生から非常に厳しいお話で、松下電器のことをおっしゃっているんじゃないかなという認識でございまして。  一九九三年に松下電器中国有限公司という会社を作りまして、九五年に人材育成センターを作っておりまして、中国の役員クラスそれから部長クラス、課長クラスにマネジメント教育と。それから、当社の場合、松下幸之助の経営理念というのを非常に大事にしておりますので、経営理念研修とか、こういったことと併せて、一番上の幹部職は日本への研修プログラムを併せて作っておりますけれども。それから、この研修センターで職能別の訓練といいまして、人事、法務、広報、知的財産、生産技術改善等々、いろんな職能別の訓練をやっておりまして、今まで訓練した人数といいますと何千人になると思うんでありますけれども。  やはり今の関先生のお話で、人材育成は一生懸命にやる一方、思い切った登用とそれから業績、個人の貢献、業績に結び付いた高い賃金の幅ですね。日本は非常に狭い範囲で業績と収入が連動するわけでありますが、中国の場合は日本の幅よりも十倍ぐらいしてほしいという。だから、この制度を思い切って導入しないとできない、いい人材が集められないなということと、もう一つは人材の登用でありますけれども、人材の登用につきましては、今年の中ごろにどんな発表をするかひとつ見ていただきたいと思いますのと、それからもう一つは、やはり松下電器中国有限公司で、本社で採用をして、松下電器中国有限公司の本社採用にして、そしてその人たちを独資合弁事業等へアサインをして、そしてその中でいろんな経験を積んで、コアの要員として育てていくという制度を取らないと、それぞれの会社単位で雇っておってもなかなかいい人が取れないということでありますので、既に活動を開始しておりますけれども、中国の本社で人材をまとめて本社採用にして、そこで育てていこうというプログラムを実施済みであります。  いずれにしても、残念ながら日本企業中国の優秀な人材の就職人気ランキングの中に、上の方には入ってきませんので、正に今の関先生がおっしゃったように、思い切った登用の面、それから業績、貢献と収入を大きくリンクさせたコンペンセーションプログラムといいましょうか、こういったものと併せて実施をしないといい人材が取れないなという感じがしますけれども。  最後のところは、やはり日本の本社、またそれを支える日本の分社、関係会社がいかにこちらのマネジメントが国際化できるかということでありまして、相変わらず透明性の低い、また仲間だけでどういう決定をしているか分からないような会社運用をしておると、中国の経営幹部からいきますと、どういう形でどういう背景でこの決定がなされたかということが分からないわけでありますから、高度の、どう言いますか、決定プロセスに対する透明性の高さ、そして納得性の高さというのが日本側の経営で要るのじゃないかなと。これができないと、海外だけで登用したって、その登用した優秀な人材が日本のグローバルの戦略を決める中に入ってこれない、結局阻害されてしまって辞めてしまうという形になりますので、こっちの親の方がしっかりせにゃいかぬなという感じであります。これは、言われておりますということじゃなくて、やろうと努力しますということでございます。  二番目の、中国のODA七兆円と沖縄の六兆数千億のこの差がどうして出たのかなと。  これはちょっと私、分かりませんけれども、すぐに思い付くところは、やはり日本が高度に規制がなされておる国でありまして、思い切った事業活動がやりにくい、そして外国の企業が沖縄に来てどんどん投資もし、思い切った事業展開をやろうにもやはり日本の高度に規制された制度、仕組みの中で仕事ができないと。それから、日本投資インフラが、これはハード面、ソフト面でグローバルに競争できてないという、これが私はすぐ思い付く理由でありますが、これだけではないと思いますが、私が思い付く範囲は今のその分野でございますが、それでお許しをいただけますでしょうか、大田先生。
  30. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  以上で各会派の一人ずつの一巡は終わりまして、これから自由に質疑を行っていただくわけでございますが、当初、私が心配いたしましたようにお二人のすばらしいお話でございまして、今登録されております方が四名いらっしゃいます。あと二十分でございますから、四名というのは不可能なわけでございますが、そういうようなことで質問されます先生方はお二人、一人に一問ずつでひとつ質問をしていただければ、四時十分ぐらいまでには終わると思いますが、参考人の御了解をいただくことができましたら、十分間延長いたしまして、四時十分に終わりたいと思いますが、いいでしょうか。──では、御了解をいただきましたので、四時十分、今から約三十分の間に四名の方の質問を行いたいと思います。
  31. 森元恒雄

    森元恒雄君 私はもうそんなに時間いただかなくてもいいんで、簡潔に一点だけ、少徳参考人にお聞きしたいと思います。  今の大田先生の御質問の中にもあったんですけれども、この規制が日本の場合にはまだ相当いろんな面で残っている、あるいは厳しいためにこの高コスト体質がなかなか変換できないと、こういうお話でございますが、私もかねがねそういう問題意識を持って、じゃ何が残っているのかというのをできるだけ聞いているんですけれども、具体的に製造業とか、あるいは先生の資料にありますサービス業の分野でまだ解決していかないと、緩和していかないといかぬ部分というのは例えばどんなものがあるのか。  といいますのも、今の内閣がやっているのは、その産業本体というよりもむしろ周辺の部分で、教育とか医療、福祉の分野での規制を緩和しようという作業をやっていますね。というのは何かというと、本体部分はもうほとんど終わったと、少なくとも大所は終わったという認識からそういう作業になっているんじゃないかと私は理解しているんですが、いやいやそうじゃないですよと、まだまだこんな点が残っているよという点をあれば、あるいは今すぐでは難しければ後日教えていただきたい、これだけでございます。
  32. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) 私どもの事業ですぐにこの規制とこの規制とこの規制が国際競争力を高めるのに困っていますというのはちょっとすぐには思い付きませんが、先ほど私の御説明のところで申し上げておりますように、インフラコストが高いというのが一つであります。これは通信にしても随分安くなりましたけれども、まだ高い。運輸、港湾、それからそれを支えるいろんなサービス事業、こういった分野は非常に高いわけでありまして、こちらの方での規制緩和はまだまだ十分でなく、競争原理が働いていない分野の一部かと思います。  あとお許しをいただけますならば、別途書類にてお届けをいたします。
  33. 大塚耕平

    大塚耕平君 民主党の大塚でございます。  関参考人一つだけお伺いしたいと思います。為替相場について、ドルペッグで今ですと一ドル八・二七元に抑えていらっしゃるというお話があったんですが、上海の外国為替市場の実情を漏れ伝え聞くところによると、中国に入っているドルのうち人民銀行が買い上げられているのは全体の二、三割にすぎないという話もあって、実はドルが滞留しているという話もあります。  したがって、これ何を申し上げているかというと、中国人民銀行がきちっと外貨を買い上げて、輸出企業からいえば外貨を売って元を買うという行為をすれば、実は人民元というのはもう少し上昇圧力がもっと掛かるはずではないかという気がするんですが、その中国に入ってきているドルが、実は人民銀行が完全に吸収し切れてないんではないかという点について、もし何か御存じのことがあれば教えていただきたいなと、その点だけでございます。
  34. 関志雄

    参考人関志雄君) 今の為替管理の制度の下では、強制的に輸入輸出代金に関しては銀行に預けなければならないということにはなっています。しかし、外資系企業とか一部に関しては外貨口座という形で持つことはできることはあるんですが、その金額は相対的に小さいと見ています。外貨準備はもう三千億ぐらいなる中で、その外貨口座、別の形の分に関しては千五百億ドル程度と言われています。だから、今、中国全体持っている外貨は四千五百億ドルくらいと見ていいのかなと。  ただ、把握できない部分は、よくキャピタルフライトとか、入る分よりもどのくらい外に出てくるのかというところはなかなか把握できていないですね。アジア通貨危機当時みたいに、人民元切り下げられるんじゃないかと思うときには金は外に流れるんですね。今のところでは切下げの確率は非常に低くて、むしろ上がるんじゃないかというときにお金は戻ってくると。戻ってきた分は一部は外貨預金という形で取っている場合もありますし、最終的にはもう中央銀行の外貨準備に吸い上げられた部分もあるかと思います。実際、最近一年間で七百八十億ドルも外貨準備が増えたという数字が、公式の貿易統計とか直接投資統計から見てそこまでは伸びないはずですね。その誤差は何かといったらやはりキャピタルフライトとは逆に、お金は、中国人のお金は実は逆流しているんじゃないかと、これを反映していると考えています。
  35. 高野博師

    高野博師君 FTAについてお二人に一つだけお伺いしたいと思うんですが、実は今日チリの大統領が来るんですが、主な目的は日本とFTAを結びたいということなんですが、日本は結べませんというこういう結論なんですね。そこで、例えばチリの場合だとサケが日本輸出しているんですが、元々あのサケは日本がODAで養殖を何年も掛けて、輸出できるようにまでしてあげたんですね。それが今度は日本がその製品によって影響を受けるからできません、FTAはと、ちょっと皮肉な結果になっているんですが。  そこで、先ほど政治的決断ということが言及されましたが、政治的決断ができないままずるずると孤立化していくのではないかと、日本は。私はそういう懸念を持っているんですが、そこで最大の問題は農業と水産業。特に農業分野ですが、日本は、政府は自給率のアップ、自給率を確保するという目標を掲げておりますので、水産資源、水産物も同じように自給率を上げようと、両方の分野には補助金も相当出している。こういう現実があるんですが、そもそもFTAというのは国際分業を進めるということですから、こういう自給率云々というのは意味があるのかどうかということと、東アジアのFTA圏ができたときに、農業というのは、日本農業はどういうふうになるのかというか、どういうふうに構造改革を持っていったらいいのか。  お二人にその何かアイデアがあれば是非お伺いしたいんですが、例えば農業分野で株式会社制度を取り入れるとか、若干のアイデアはいろいろあるんです、我々も。しかし、根本的にもう日本農業、このままではFTAは結べないと思うんですが、どうしたらいいか、アイデアがあったら是非お伺いしたいと思います。
  36. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 鋭い御質問でございますが、お二人の方、どうぞ忌憚のない御意見をおっしゃってください。先ほど少徳参考人はちょっと気を遣われたような御意見をおっしゃっていらっしゃいましたが、どうぞ素直にお気持ちを述べていただいて、どうぞよろしくお願いします。  それでは、関参考人からお願いします。
  37. 関志雄

    参考人関志雄君) 結局、日本の場合は、農村部の人口がどんどん減って高齢化が進んでいて後継者もいないというような状況で、無理して守ろうといっても、これはなかなか従来どおりの自給率まで戻すことは非常に無理があるんですよね。  そうなりますと、これを前提に日本はどうすべきかということになるかと思うんですが、やはり食糧の安全保障という意味では、国内で確保できない分をいかに海外から確保するという話に変わるんですね。その場合はやはり輸入の市場の分散化という形で工夫すべきじゃないのかなと思うんですね。
  38. 少徳敬雄

    参考人(少徳敬雄君) 競争原理が農業の分野で働いていない、したがって保護が要ると。そうすると、その保護に甘えて更に競争社会から、原理から更に離れていった形になって、結果的には、最も投資効率の悪い分野に政府が保護を加えて、そして国民全体にサービスをしていないという姿かと思いますので、農業分野、漁業分野ともに市場経済の原則、市場競争の原則を導入するというのが答えだと思います。  一つ一つの小さい単位で競争できなければ法人化していくとか、手はあると思うのでありますけれども、一番大事なところは、保護は一番結果的には農業に対しても漁業に対してもいいことをしていないと、結果的には、そう思います。これに尽きるんじゃないかなと思います。
  39. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  それでは、最後になりましたが、吉田博美君。
  40. 吉田博美

    吉田博美君 最後でございますから、簡潔に関参考人に一点のみお聞きいたしたいと思います。  先ほど少徳参考人の方から、日本の今の産業空洞化の原因として保護政策あるいは規制あるいは税制の問題点があるということを指摘されたわけでありますが、中国におきまして、家電関係につきましては保護政策は取られずにフリーにかなりされたということが急速な成長をされたのではないかと。ところが、自動車産業についてはかなり保護政策をされている、そうしたことがかなり遅れているんではないかということで、やはり自由競争の中での一つの在り方について関参考人にお聞きしたいと思います。
  41. 関志雄

    参考人関志雄君) 正におっしゃるとおりです。  例えば、私は、日本の自動車会社が中国投資すべきではないと言うときに、日本側からも中国側からも非常に批判をいただいているんですね。日本のトヨタを始め、もう構えていくから今更やめられないというのもあるんですが。中国の場合はまだ、WTOに入ったとはいえ、何らかの産業政策で、自分のプラントじゃなくてもメードインチャイナメードバイチャイニーズではないんですがメードインチャイナの自動車を自分で作りたいという気持ちがあると。私、さっき申し上げているのは、むしろこういう政策をやめなさいと。自動車はできませんかもしれないけれども、やはり競争の環境によって中国自身にとって非常にいいことですよと。消費者にとってもいいし、最終的には中国経済発展につながるんじゃないかと。おっしゃることに関しては私は全く同感です。  過去十年間振り返ってみて、中国経済が高成長し日本経済が低迷したと。一言で言うと何が、どういう辺で差が出てくるかといったら、私は、中国は脱社会主義には非常に急ピッチに進んでいるのに対して、日本に関してはいまだ社会主義にこだわりつつあるという点にあると見ています。
  42. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 先生方、そしてまたお二人の参考人の御協力をいただきまして、五分前に終了することができました。ありがとうございました。  一言お礼のごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、長時間にわたり本当に貴重な御意見をお述べいただき、おかげさまで大変有意義な調査を行うことができました。  お二方のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十五分散会