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参考人(
斉藤惇君)
斉藤でございます。
私は
産業再生機構の
社長候補ということになりまして、それを受諾いたしました背景からお話をさせていただきたいと存じます。
私自身は、現在の我が国の置かれた
経済状況というのは、もう言うまでもなく極めて深刻な
状況であるというふうに思っております。したがいまして、官民を問わず、挙国一致体制であらゆる
手段を講じて立ち向かわなければならないというふうに日ごろから強く感じております。
某社会主義国の宰相ですらといいますか、が、白い猫でも黒い猫でもネズミを捕る猫はいい猫だと発言されたと聞き及んでおりますが、我が日本こそ今やそのような
考え方や行動を取らなければならないというふうに思っております。特に、長い間、国内外の金融界に身を置いてまいりました経験から、こうした思いを痛切に感じております。
今、正に日本が土台から崩壊しようとしているんではないかというふうに感じております。日ごろから欧米のアナリストたちと日本
経済の
分析も繰り返しておりましたけれ
ども、彼らの日本
経済に対する見方は非常に厳しいものがあります。細かなことにはいろいろな議論の余地というのはあるのかもしれませんけれ
ども、問題の緊急性あるいは世界
経済に占めます我が国
経済の
役割の重さを考えれば、こうしたことを国内で余りあれこれ議論しているような
段階は既に遠くに過ぎ去っている、今や総力を挙げて果敢に実行していく時期であると思っております。
一つ一つの具体的なビジネスの戦線において、フロントにおいて、具体的にだれかが現実に対応するということをしないで微細や経緯にこだわってこれに背を向けてしまうと、本当に我が国の
経済全体が立ち行かなくなる、子供や孫の世代にこの国を安心して引き継ぐということができなくなってしまうんではないかと強く責任を感じております。
私は常々、今現在に生きる一
国民としてこういう思いを強くしておりますけれ
ども、もし自分にこうした何らかの
役割が求められることがあるならば、これに背を向けずに、この与えられた戦線で現実と向かい合う、具体的行動に果敢に取り組んでいくということが日本
国民としての義務であろうと信じております。私自身の四十年間以上の金融界におけます経験が
再生業務に直接役立つかどうかは分かりませんけれ
ども、
事業、
企業の
再生に
関係する業務も幾つか経験的には手掛けてまいりました。こうした業務に対する感覚は一応十分に持っていると思っているつもりであります。
再生業務自体は今や御案内のように
一つの国際的に共有されているテクノロジーでありまして、こうした技能、能力を身に付けている若い
人材が我が国にも増えてきているという現実を見まして、頼もしい限りであると思っております。ただ、残念ながら、この国、自分が身を置きました金融界を中心に、こういう国際的に共有されているテクノロジーに対して非常に鈍感であった、特に
経営者がそういうものを理解しようとしなかったというとがめが今日来ているというふうに思います。
事業再生を迅速に進めていくためには、旧態依然たる金融機関の手法ではなくて、こういうテクノロジーを使って解決を見いだしていくということが不可欠であるというふうに思っております。
もし
社長職をお引受けするということになった場合、私の
仕事は、こうした若い
人材がためらうことなく存分に能力を発揮できるような環境の整備を行うことと
組織を円滑にマネージしていくということにあろうかと思います。そのためにこうした
仕事に関する勘どころといいますか、そういうことは経験的にも承知しているつもりでございます。私は、既に野村証券も
住友ライフ・インベストメントもとっくに退社しておりまして、そういう意味では無色透明の立場であります。公平中立に物事を判断できます。こうした立場から、もし
社長に選ばれるということになれば、
産業再生機構という新たな仕組みを通じて、この不況からの脱出、
経済の
立て直しをいかに早急に図るかということに純粋に集中していこうと思っております。
私と
事業再生とのかかわりは、ちょうど八〇年代の後半からいろいろな欧米の資産の証券化業務に携わったことから始まりました。先日、アメリカのRTCの
社長を務めましたシードマンさんと久しぶりにお会いしまして話題になったんですけれ
ども、もう十数年前ですけれ
ども、シードマンさんのRTCの保有いたします
債権を私は証券化するということによって、実は日本の国の資金でかなりの
部分をファイナンスを付けるということを進めたことがございます。今とは全く逆の
状況でございます。
アメリカでは、八七年から九一年には不動産不況の状態にありました。私は、建設中のビルのキャッシュフローが切れるような
状況において、不動産を証券化することでファイナンスを付けまして、工事を完工するということを可能にするというようなビジネスを何本かやりました。もちろん、現在言われておりますファイナンシャル・ターンアラウンドあるいはビジネス・ターンアラウンドというものとは同じではございませんけれ
ども、その当時はアメリカにおいてまだ
事業再生を進める手法が十分に開発されていなかった状態でありまして、証券化ぐらいしかなかったというのが実情であります。
米国では、
不良債権処理、
事業再生ビジネスが立ち上がるころに米国でこうした
仕事にかかわり、そして今度は我が国で
事業再生ビジネスを本格的に軌道に乗せようとする今、こうした
仕事に携わることになるかもしれないということには感慨深いものがございます。
ところで、
産業再生機構の
役割が議論される際に、こうした
仕事は
民間に任せればいいのではないかという議論があるようでありますが、私は自分の十年近くにわたりますウォールストリートにおける勤務経験などから、ちょっと違った感覚を持っております。
民間が
民間ベースですべてを解決するということを支えている社会的な背景に目を向ける必要があるというふうに思うわけです。
つまり、それは非常に厳しい自由の世界であります。規制はほとんど存在しない、自由にビジネスをやっていいという代わりは、貧富の差や勝ち負けのはっきりする社会を是認しているという社会構造が
国民に受け入れられているという社会であります。
アメリカでは、御案内のように、年齢や人種、性別による
解雇は禁じられておりますけれ
ども、あなたは能力がありませんから辞めてくださいということは堂々と通っている社会であります。そういう意味では、非常に厳しい社会です。
恐らく、こういう社会構造を取り入れているのはアメリカが典型的であると思いますけれ
ども、こうした社会構造の国においては、問題が発生した場合には
民間ベースで解決していくということになろうかと思います。
もちろん、
民間ベースであるということは、効率性を軸に物事を判断し、最大限の利益を求めていくことを意味しております。非効率的な
部分、つまり労働問題や貧富の差といったところにゆがみが生じることは避けられません。原則、
収益の出ない
事業や部門、人員や設備は徹底的に圧縮、
整理することが正義でありますし、そのことが高い社会的倫理として位置付けられております。
一方、我が国やヨーロッパは、こういった社会構造ではなく、非効率的な
部分を残しており、その
部分が公平性を担保していることに
国民は安堵感を持ち、社会的評価をしているのだと思います。もちろん、効率性の追求は重要な要素ですから、効率性と非効率性のバランス、言い換えれば、利益性と公平性や社会的調和性をうまく取っていくことが求められます。
産業再生機構は、こうした我が国の社会構造を背景にかんがみれば、現実的には、選択される実現性のある政策の一環であり、ワーカブルなものであろうと思います。
次に、
産業再生機構の大きな
役割といたしまして、
人材を創出していくことがあると思います。現在の不況の原因は、経営資源が有効に活用されていないということであり、本来
再生されるべき
事業がなかなか
再生されてこないということにあると思います。
こうした
仕事を担っているのが本来は投資
銀行ですけれ
ども、我が国の
銀行や証券
会社には、こうした投資
銀行業務を担える
人材がその業務の発生量に比べますと極めて少ないというのが実態であります。その結果、
経済システムから投資
銀行的な機能が欠落し、
事業再構築、
事業再生が円滑に進んでいないという結果になってしまったのであろうと思います。
成熟
経済の下では、
経済の新陳代謝や経営資源の有効活用が円滑に進むかどうかが極めて重要であり、今後もこうした
事業再構築、
事業再生を担う
人材の活躍が大きく期待されております。
我が国の
経済の活性化を考える上では、こうした
人材を育てていくということは極めて重要であります。外国からいろいろと指摘されるまでもなく、我が国は、自らの国においてこうした
経済のインフラである
人材を十分に育成していくという強い意思を持たねばならないだろうと思っております。もちろん、
産業再生機構だけでできることではありませんが、
再生機構はこうした
人材を育成していく場としても十分に機能することと思います。
再生機構が存在することだけでも、
民間にも大きなインパクトを与えることになるものと考えております。
最後に、先生方への
お願いでございますけれ
ども、今申しましたように、私は、大きな
経済団体や
企業、政党などといった何の後ろ盾もございません。もはや職も離れた、無色透明の
国民一人という立場でございます。純粋に不況からの脱出、
経済の
立て直しに全力を尽くしていく覚悟でございますので、どうか先生方からも
是非御
支援、御鞭撻をいただけますよう
お願い申し上げます。