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公述人(前田朗君) このような
機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。
私の
意見陳述は原稿の形でお手元に配られていると思いますので、それを読み上げる形で陳述させていただきます。ただし、やや長めですので、あちこち省略をしながら進めさせていただきます。
戦争犯罪論を
研究する者として
意見陳述をさせていただきます。
最初に、米英軍の
イラク占領とは何であるのかを検討いたします。ここでは原則論、特に国際刑法の観点から見た原則論を再考したいということでございます。その後、
イラク特別
事態に対処しようとする本
法案への疑問を述べていくということ、及びアフガニスタン国際戦犯民衆法廷というNGOの試みについて御紹介をした上で、本
法案への疑問点を述べさせていただきます。
一番ですが、本
法案は
イラクに
自衛隊を派遣しようとする
法案ですから、米英の
イラク占領統治の法的性格、その正当性について検討することから始めます。国際法上、他国の領土にその国家の同意なしに軍隊を派遣することは違法な武力行使に該当し、侵略行為を構成することは言うまでもありません。
十行ほど飛ばしますが、さて、
法案二条三項は、国連安保理事会決議一四八三その他政令で定める国連総会又は安保理決議に従って
イラクにおいて施政を行う機関の同意によることができるとして、その国の同意なしに
対応措置を
実施するものと定めています。ここに言う「
イラクにおいて施政を行う機関」としての米英が、その国の同意なしに軍隊を派遣する法的権限を有していたか、侵略行為に当たらないような権限を有しているかが問題になります。
決議一四八三本文パラグラフ四は、当局に対し、国連憲章及びその他の関連国際法に従い、特に安全で安定した状態の回復及び
イラク国民が自らの政治的将来を自由に決定できる状態の創出に向けて努力することを含む領土の実効的な統治を通じて
イラク国民の福祉を増進することを要請するとしています。
決議一四八三前文パラグラフ十三は、統合された司令部の下にある占領国としてのこれらの諸国の関連国際法の下での特定の権限、責任及び義務を認識し、としています。すなわち、決議本文パラグラフ四も、決議前文パラグラフ十三も、米英両国に対して関連国際法の遵守を求めているものです。関連国際法とあるのは、具体的には国連憲章及び国際人道法を構成する国際法が念頭に置かれています。
決議一四八三から明らかなことは、米英両国が事実上の占領国として、既存の関連国際法によって認められた特定の権限、責任、義務を果たす必要があること、つまり占領統治が国際法に従って行われるべきことであります。
決議一四八三は、米英両国に占領を行う権限を与えたものではなく、事実上占領している米英両国に占領国としての既存国際法上の権限、責任、義務を果たすように求めたものです。決議一四八三は新たな権限、責任、義務を米英両国に付与するものではありません。
そもそも現代国際法は
戦争の違法化の歴史の上に成立していますから、国連憲章一条は、国際紛争の平和的手段による解決を国連の最も重要な目的として掲げております。今日、武力行使を行わないという武力行使禁止の原則、これが現代国際法の基本となっております。
もちろん、現実には、今日の
国際社会において、なお各地で多数の武力行使が実際に発生しています。それらの武力行使について合法性の有無が常に的確に判断されているか否か、これにも疑問が残ります。現代国際法が
戦争や武力行使を違法化しているとはいっても、現実に現代国際法が十分遵守されているわけではありません。
そこで、ハーグ条約やジュネーブ条約等の発展の上に国際人道法が形成されてきました。現代国際法は、
戦争や武力行使を違法化しつつ、現実に生じている
戦争や武力行使に
対応して、すべての当事者が遵守しなければならない人道的な規則を発展させてきました。国際的性格の武力紛争であれ、非国際的性格の武力紛争であれ、現実に発生した武力紛争において、捕虜の虐待や民間人に対する攻撃など、いかなる場合にも違法とされるべき行為を禁止することによって、
戦争に伴う残虐性や無用の攻撃を抑制しようとしたものです。したがって、国際人道法は、当該武力行使が合法なものであるか違法なものであるかにかかわりなく、すべての当事者に人道的な規則の遵守を求めたものです。そのような責任、義務が米英両国にあるにすぎません。
三枚目に移ります、若干飛ばして三枚目ですが。
法案一条は、
イラク特別
事態なる
概念を、安保理決議六七八等三決議、これらに基づいた、及びそれに対して引き続き行われている
事態という形で特徴付けております。ここでは少なくとも二つの問題を指摘できます。
最初に、米英による
イラク攻撃がこれら三決議に基づく正当な武力攻撃であったという解釈の問題点です。米英の
イラク攻撃が安保理決議に基づいた行動だという主張には非常に無理があります。この点は、しかし既に何度も
議論されてきたことでありますので繰り返しはいたしません。ただ、二点だけ別途指摘しておきたいと思います。
第一に、これら三決議が米英に武力行使を認めたという解釈をするとすれば、これらの三決議が武力行使の程度や
範囲や時期について何ら言及していない事実に照らすと、そのような解釈をしてしまえば、安保理が米英にほとんど無条件に権限を付与した白紙委任の決議であるということになってしまいます。そのような解釈は到底採用できません。
第二に、安保理における新決議をめぐる経過及びその後の各国の
対応から見ても、これら三決議が
イラク攻撃を授権したという解釈は
国際社会においておよそ共通認識となっていないことであります。このような
事態では、政府が行うべきことは、決議はこう解釈できるとか、このような解釈も可能であると主張することではなく、決議の
意味内容を安保理において直接明白にするように努力すること、及び
イラク復興支援を一刻も早く国連の
枠組みに戻すように努力することであります。このことが最も重要なことであると
考えております。
次に、
法案一条の「これに引き続く」というさりげない表現であります。この文言は、
イラク攻撃のみならず、軍事占領もまた三決議によって正当化されるかのような解釈を取っております。
しかし、ここには大きな飛躍があります。三決議が米英による
イラク攻撃を認めた決議であるという解釈
自体が無理であることをいったん差しおいて、仮に米英の
イラク攻撃が三決議に基づいた行動であったとしても、その場合、その武力行使の目的や程度は三決議から当然に引き出される
範囲のものでなければなりません。したがって、米英による
イラク攻撃は、
大量破壊兵器及び長距離ミサイルの拡散の防止に必要な
範囲に限られなくてはなりません。この目的と程度から必要な
範囲を超えて、
イラクの民主化等の名目で
イラク全土を長期にわたって軍事占領することは明らかに必要な限度を超えていますから、むしろ三決議に違反することになります。三決議が
大量破壊兵器の拡散の防止だけではなく、
イラクの民主化等をも含んで米英に授権しているという解釈はおよそ採用できません。
第一に、三決議にはそのような解釈を許す文言がありません。第二に、そもそも安保理にはそのような授権を行う権限がありません。国連憲章三十九条等には、そのような権限は一切書かれておりません。
三番目として、
戦闘地域と武器使用の部分に移らせていただきます。この部分も既に多く
議論されている部分ですので、私は簡単に述べるにとどめさせていただきます。
本
法案三条三項における
安全確保支援活動とは、具体的には米英軍による
イラク敵対勢力に対する軍事作戦を支援するものです。それは、仮に武器弾薬ではなく水や食料を輸送するものであったとしても、また
自衛隊自身の武力行使を伴わないものであったとしても、米英軍の軍事作戦と地理的にも時間的にも
一体不可分の武力行使に当たることは明白です。
また、
戦闘地域と非
戦闘地域の区別の問題も既に十分御
議論されていると思いますので、ここでは省略いたします。
現在、
イラク国民は、旧政権に反対していた勢力も一致団結して、
イラク国民自身の政権樹立、米英占領軍の早期撤退を要求しています。このような
状況下で
日本が
自衛隊を派遣し、軍事占領
体制に加わることは、
イラク国民に対する侵害であり、結果として挑発行為となってしまいます。これは重大な過ちを犯すものであります。
占領が長引き、
イラク国民の手に政権を返すのが遅れれば、抵抗は更に広範に広がっていく
可能性があります。このような
状況下で
自衛隊を派遣するということは、
自衛隊員が
状況の中で思わず知らず
戦争犯罪を犯してしまいかねない、そのような
状況に送り出されることを
意味しています。そうなれば、
自衛隊員にも犠牲が生じるおそれが高く、
自衛隊員をそのような危険に身をさらす
地域に送るべきではありません。
続きまして、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷というNGOの
活動について若干御紹介いたします。
お手元にブックレット、チラシ等の資料が配付されていると思います。後ほどお読みいただけると幸いです。
私たちは、今月二十一日に東京千代田区の
日本教育会館におきまして、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷第一回公判を開廷いたします。
イギリス、
アメリカ、インド及び
日本から五名の民衆法廷判事、
日本から十一名及び
アメリカから一名の民衆法廷検事が参集します。これは
国際社会において空洞化され、形骸化されつつある武力行使禁止原則、
戦争と武力行使の違法化という現代国際法の基本原則を復権させるために、民衆のイニシアチブによって開催する民衆法廷です。
民衆法廷検事団が作成し、
アメリカ大使館及びホワイトハウスに送付した起訴状によれば、ジョージ・ウォーカー・
ブッシュ米大統領は、アフガニスタン空爆に関して、侵略の罪、人道に対する罪、民間人虐殺、捕虜虐殺、捕虜虐待の
戦争犯罪で訴追されるものとなっております。
民衆法廷の歴史は、ベトナム
戦争におけるラッセル・アインシュタイン法廷、あるいは
湾岸戦争におけるラムゼイ・クラーク法廷、さらには、二〇〇〇年十二月に東京で開催された女性国際戦犯法廷などが知られております。
これらに基づいて私どもも開催いたしますが、民衆法廷には国内法上も国際法上も根拠が与えられてはいません。そのような法廷を開くのは、国家や
国際社会が国際法を守らないときであります。国家や
国際社会に対して国際法をきちんと守るべきであるという提案をしていく、そのようなNGO
活動であるということになります。
次のページに移りますが、私どもは、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷は、これまで六次にわたるアフガニスタン
戦争被害調査団を派遣して、アフガニスタンにおける難民や民間人爆撃の被害者を調査してきました。カブールでも、カラバーでも、クンドゥズやマザリシャリフでも、被害者は一般市民です。一瞬にして二十名もの村人が殺害された現場を訪れ、クラスター爆弾によって足にけがをした少年、失明した少年に会ってきました。破壊されたモスクの跡で、村人は悲痛に耐えながらモスクの再建をしていました。アフガニスタン各地を回ると、
アメリカの
戦争犯罪がよく見えてきます。
私たちは、
日本各地、先週は沖縄でも開催いたしましたが、十二回にわたって公聴会を積み重ねて、アフガニスタンを取材したジャーナリスト、NGO、
国際政治学者、国際法学者に証言をいただき、多数の証拠を積み上げてきました。そのうちの一部は、お手元の公聴会記録集に掲載しております。その成果の上に第一回公判を迎えようとしております。
問答無用で
大量破壊兵器を投下し、破壊を続ける帝国の軍事戦略が世界を混乱させている現状に民衆自身が向き合い、反戦平和の思想と運動を紡ぎ直す取組、
日本国
憲法の平和主義を世界に宣伝をする、そういう取組でもあります。
私どもの法廷は、七月二十一日に続いて、本年十二月にも公判を開き、判決を目指します。
同時に、私たちは現在、
イラク国際戦犯民衆法廷を立ち上げるべく準備を始めております。何の罪もない数千人の
イラク市民を殺害し、劣化ウラン弾をまき散らして国際平和に
脅威をもたらしている
ブッシュ大統領らを被告人とする民衆法廷運動は本年夏には立ち上げたいと思います。
最後に、NGOの
立場としてまとめの
言葉を述べさせていただきます。
私たちは、ペシャワール付近の四つの難民キャンプで、多数のアフガニスタン難民への取材を繰り返してきました。また、アフガニスタン各地で多数の民間人
犠牲者や遺族に取材し、彼らの生活再建のために努力をしてきました。
四半世紀にわたる
戦争や内戦、そして米軍による爆撃によって、アフガニスタンは正に歴史の廃墟と化していました。古くから文明の十字路と呼ばれたアフガニスタンの都市は破壊され、
人々は傷付き、おびえて暮らしています。貴重な文化が破壊され、
一つの世代が丸ごと破壊されてしまった悲劇を目の当たりにしてきました。
いわゆる北部同盟が横滑りした現政権は首都カブールを支配しているだけで、アフガニスタンには責任ある政府が欠落したままです。今なおアフガニスタンには治安が回復していません。米英軍はいまだに軍事作戦を展開し、殺りくを続けています。国連も治安回復には無力です。国際赤十字さえも攻撃の対象とされて虐殺されております。そして、アフガニスタンは再び世界最大の麻薬大国になっています。
国際社会はアフガニスタンをきちんと復興させる努力をまだ十分行っておりません。
〔
委員長退席、理事阿部正俊君着席〕
アフガニスタンには北部同盟という受皿があってもなおこのような有様です。
イラクには北部同盟に比肩すべき受皿もありませんでした。そのために、秩序が回復されず、無法な占領が継続する中で人民の抵抗が続いております。治安が回復する兆しもないままに、
人々は危険や貧困や病気に脅かされ、米英軍の横暴に悩まされております。
欧米諸国による植民地支配に苦しんだ過去を持つ
中東において
日本が果たすべき
役割は、むしろ
イラク人民自身の生活再建、国家の復興に努力することであり、
協力することでありまして、軍事占領に
協力することではございません。
日本が果たすべき
イラク国民への復興の努力というのは、中立、公平性、非武装が原則の復興支援でなければなりません。武装した部隊による、米軍への、復興というのは、これとは全く異なるものであるということであります。
これまでアフガニスタンでも
イラクでも、多くのNGOが懸命になって
活動を続けてきました。私は
イラクでは
活動しておりませんが、アフガニスタンでこれまで多数の
人々の生活再建に努力をしてまいりました。その
立場からはっきり申し上げますと、
自衛隊派遣は、
自衛隊だけではなく、
日本のNGOに対する反感を生み出すおそれがあります。アフガニスタンの民衆の間にも、
日本の
自衛隊が給油をしたことが徐々に知られ始めております。今までは知られておりませんでしたから、私どもはカブールで
活動できますが、このことが知られると、カブールで私どもが
活動すること
自体が危険になっていくということであります。
イラクの人民は既に、
日本が米英による
戦争を
支持したことを十分に承知しております。そして、米英軍が軍事占領を続けているその現場に
自衛隊が派遣されるということは、
自衛隊員が
イラクの民衆から反感を招いてしまう、それだけではなくて、
イラクで活躍をするNGOやジャーナリストなど
日本社会構成員もまた、残念ながら反感と敵意と憎悪の対象にされてしまうということになります。このようなことではNGOの
活動は非常に危険であり、できないことになってしまいます。
自衛隊派遣は、その
意味で、NGOが取り組んでいる復興支援に対する妨害にしかなりません。
大変厳しい言い方で恐縮ですが、NGOの
活動にとっても大変妨げになるおそれが極めて高いという懸念を申し上げて、私の
意見陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。