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2003-07-18 第156回国会 参議院 外交防衛委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十五年七月十八日(金曜日)    午後一時三十分開会     ─────────────    委員異動  七月十七日     辞任         補欠選任      桜井  新君     山下 善彦君      榛葉賀津也君     松井 孝治君      小池  晃君     吉川 春子君  七月十八日     辞任         補欠選任      後藤 博子君     森元 恒雄君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         松村 龍二君     理 事                 阿部 正俊君                 山本 一太君                 広中和歌子君                 山本  保君                 小泉 親司君     委 員                 月原 茂皓君                 舛添 要一君                 森元 恒雄君                 矢野 哲朗君                 山下 善彦君                 佐藤 道夫君                 齋藤  勁君                 松井 孝治君                 若林 秀樹君                 遠山 清彦君                 吉川 春子君                 広野ただし君                 大田 昌秀君    事務局側        常任委員会専門        員        田中 信明君    公述人        財団法人ディフ        ェンスリサーチ        センター専務理        事        上田 愛彦君        東京大学名誉教        授        板垣 雄三君        国際政治・軍事        アナリスト    小川 和久君        千葉大学文学部        助教授      栗田 禎子君        東京造形大学造        形学部教授    前田  朗君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保  支援活動実施に関する特別措置法案内閣提  出、衆議院送付)     ─────────────
  2. 松村龍二

    委員長松村龍二君) ただいまから外交防衛委員会公聴会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  昨十七日、桜井新君、榛葉賀津也君及び小池晃君が委員辞任され、その補欠として山下善彦君、松井孝治君及び吉川春子君が選任されました。  また、本日、後藤博子君が委員辞任され、その補欠として森元恒雄君が選任されました。     ─────────────
  3. 松村龍二

    委員長松村龍二君) 本日は、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動実施に関する特別措置法案につきまして、五名の公述人方々から御意見を伺います。  この際、公述人方々一言ごあいさつを申し上げます。  皆様には、御多忙中のところ御出席をいただき、誠にありがとうございました。  皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の法案審査の参考にしたいと存じております。  次に、会議進め方について申し上げます。  まず、公述人方々からお一人十五分以内で順次御意見をお述べいただき、その後、委員質疑にお答えをいただきたいと存じます。  また、意見の陳述、委員質疑及び公述人の答弁のいずれも発言は着席のままで結構でございます。  それでは、まず上田公述人にお願いいたします。上田公述人
  4. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) トップバッター意見を述べさせていただく機会をいただきました上田でございます。  レジュメが一枚ございますが、最初にちょっと自分のことを申し上げるのは大変どうかと思っておりますが、現在やっていることと今日申し上げることが関係がありますので、お聞き苦しいかと思いますが、ちょっとあえて申し上げます。  平成元年陸上自衛隊を定年退官いたしました。十四年たっております。七十でございます。今日まで、ここに書いてありますように、財団法人ディフェンスリサーチセンターというところの専務理事をやっておりまして、そこには私と同じように陸海空の辞めた者が三十人おります。  何をしているかといいますと、日本のために、いろんな外国へ参りまして、安全保障防衛、このディスカッションを忌憚なくやっているものでございます。現在までに七十六回やっておりますが、一回は五人で参ります。一人で行くともうやり込められてしまうので、陸海空五人で行きまして、直接英語でやりますけれども。外国へ行きまして、その国の国防省あるいは民間の研究機関あるいは辞めた方、戦略研究所、そういうところとはばかりのない意見交換をしておりますが、日本のことももちろん説明をしております。ほとんど日本のことは分かっておりません、普通の場合ですね。  それで、一年に七回ぐらい行っておりますから、過去十年でちょうど今七十六回終わったところでございます。二十一か国、百三十か所ぐらいのところへ行っております。その後、行かなくてもいいところもありますけれども。そうして、帰りには例えばゴラン高原であるとか東ティモールであるとか、そういうところへ寄ってまいりまして、どういうふうにやっているのかなということも一つ研究の糧にしているものであります。  基本的な運営の資金、これは全く防衛庁からは出ておりません。いただいておりません、おかしいんですけれども。もちろん、防衛産業その他からもいただいておりません。経済団体連合会の一%運動の一環としてやらせていただいております。ほんのわずかでございます。ですから、三十人は私も含めて全員ボランティアであります。ですけれども、行くときの資金まで出せ、これはないですから、それに全部充てていると、そういう団体でございます。  十年間の成果を一言で簡単に申し上げると、こういうことになります。  防衛の実務を三十五、六年やってまいりました。そして、そういう国際的ないろんな意見を聞いております。その中で、大変残念なことなんですけれども、現在の我が国の、どなたが悪いと、そういうことじゃありませんけれども、現在の我が国安全保障あるいは防衛、そういうものの考え方といいますか、あるいは国民的な支持といいますか、それから対応の基盤といいますか、そういうものはどうも、ほかの日本と同じような国々フランスとかドイツとかオーストラリアとか、そういうところと比べてかなり低いのではないかと、そういう考えを持っております。  今日もそういうことでお話をさせていただきたいと思っておりますが、これはだれが悪いとかそういうことではございません。日本全体の問題だろうというふうに思っておりますが、防衛庁だけしっかりやれと言われても多分全くこれは歯が立たない問題ではないかなというふうに思っているところでございます。  それで、三点申し上げたいと思いますが、レジュメの方に入らせていただきます。一枚のものがございますけれども。  三点ございますが、日本が今回イラク自衛隊を派遣するその意義、それから二番目が、行った場合、じゃどうなるんですかということですね、三番目はこういう問題が次から次に起こってくる、それに対してどういうことが考えられるのかなと。もちろん先生方もお考えだと思いますけれども、私見を述べさせていただきます。  日本が今回イラク自衛隊を派遣するその意義でありますが、当然のことでありますが、戦争によって破壊されたイラクへの人道的見地からの復興支援活動、これは日本として積極的に参加をして、国連あるいは国際社会の普通、常識的に考えている期待にはこたえるべきであろうと。そして、非戦闘地域、これが難しいと思いますけれども、これを定めて取りあえず自衛隊を派遣することが最も理にかなっているなというふうに思っております。  残存勢力による不測事態はなお続いております、散発的にですね。戦争というものではないと思いますけれども。安全確保支援活動、これは自分を含めて大変大事であります。最悪の事態考え対応していかなければいけないなと、そういうふうにしていただきたいなと思っております。  これらの活動につきまして、日本が、外国から見れば、自分だけの事情によって非常に消極的な態度を取っている、取り続けるということは、日本人の国際的な信用はもう地に落ちております、もう既に。それは普通いろんなことで外交的なお話なんかで余り出ないと思いますけれども、向こうへ行ってもう十回も会った人に聞きますと、日本人一体どうなったのと、一体、別に軍国主義になれとかそういうことを言っているわけじゃありませんけれども、そういうことを言って、非常に我々はもう悔しい思いをしております。何とか日本もやっているんだよということを取り繕って言っているわけですけれども、本当はじくじたるものがあるわけであります。それから、日本経済の再生、これは今申し上げましたそういう日本の国際的な信用と実は相当関係があるのではないかなと、ちょっと証明はできませんけれども、急には、そういうふうに考えているものであります。  内外における自らの安全、これは自分自分のことは確保しなければならないわけでございますけれども、その余力をもって、後れているあるいは困っているところの国に貢献する、これは今の国際社会で強く求められていることでありますが、その意味で、今度は同盟国であるアメリカ、米国です、これに対しても日本独自の判断に基づいて協力体制を敷いていくということは、日本安全保障の今日の現状から見てそれは大変大きな意義を持っているというふうに思うところであります。これが、一であります。  それから、二でございますが、派遣される自衛隊、そして他の集団に関してはどうか。  万一危なくなったら逃げろ、これはないと思いますね。そういうことはできません。後ろ向ければまた完全にやられてしまいますから。ですから、自力で自分の目の前の急迫な危険には対応するだけの武器あるいは装備、これは絶対必要であります。そして、その使用方法ですけれども、ある一定の枠を決めておいて、余り細かくこれは言ってもその都度違うわけです、状況が。決めることはできないと思います。ある範囲で現場に任せるしかないと。いや、それがいけないんだという御議論もあるかもしれませんけれども、任せるしかないだろうと思います。  日本の国益のためにいざとなったら命を投げ出す覚悟で行くわけですから、そういう貢献をする人に国民あるいはこの国会の先生方、もう全面的な支持をいただいて実行する体制が必要だろうと思います。  それから、その三番目ですけれども、これらの集団あるいはその個人、自衛隊だけとは限りませんけれども、それは世界的な平均的な水準から見て、ある名誉を与える必要があるだろうと思います。自衛隊自身自分に名誉を下さいと、そういうことは絶対言わないと思いますけれども、普通の国でやっているようなことは考えていただかないとこれはもうおかしくなってしまうという気がしておりますが。さらに、何かあったときの補償でございますね。これは十分に考える必要があるというふうに思います。  それから三番目でございますが、今後ともこういうことはどんどん起こる、起こり得るというふうに思っておりますが、世界的に、御承知のとおり、ハイテクの兵器あるいはそれを使った戦争概念というのはどんどん拡大しております。非常に狭く考えると、宣戦布告をして戦争というのはこういうものだという法制的な考え方は当然あると思いますが、そうではなくて、いわゆる戦いというものの概念テロまで含めてかなり拡大されております。  それからさらに、嫌なことですけれども、大量破壊兵器あるいは非対称の争いですね、脅威。これは戦車戦車、船は船という、そういう対称ではなくて非対称です。戦車が来たと思ったら急に化学兵器が使われたというような場合ですね。そういう脅威は増大し、情勢は大きく変わっております。ですから、速やかな対応が常に求められていると思います。  それから、ちょっと変わりますが、国内外の危険あるいは危機、そういうものに際しては、警察庁あるいは海上保安庁、あるいは防衛庁その他、麻薬とかいろいろあるわけでございますけれども、その役割は当然これまでの規定された役割以外のものが入ってまいります。あるいは重複して、相互に重複しているものが相当出てくるかと思います。よって、そういうような情報につきましては、縦割りで、いや後でとかそういうことを言っていないで、すべて一元的に流すという、そういう体制。そして、主たる担当の部署があるわけですから、それがこれでは間に合わないから変わるよというようなときは、やはりはっきりこれは明示をして、いち早く転換していくというような管理体制がないと、いろんなことに対応できないのではないかなというふうに思っております。  今後ともそうした国際貢献あるいは安全確保、そういうことにできるだけ速やかに対応するためには、今お考えいただいていると思いますが、包括的あるいは恒久的な法制の確立は絶対必要だと思います。そして、それなりにまた訓練なり装備の充実なり、ふだんからやっておかなければ、急に行くからといっても何もそろっていないという状態では大変困ることになるかなと思っています。今回の場合は、たまたまそれが急に行かなくてもいい、あるいは難しいという状況がありますけれども、場合によったら一日も早く行かなくちゃいけないというときに、どうも日本対応は遅いねというのが多くの国の、多くの識者の、もし行くんなら、多くの識者の我々に言っていることであります。  そして、国際情勢はますます複雑化しているわけでございますが、それぞれの地域があります。今回はイラクならイラク、それをふだんからずっと考え研究している人たちが少なくとも本当は、世界を相手にするわけですから、百人ぐらいいなくちゃいけないんじゃないかなと思いますけれども、あるいはおやりになっているかもしれませんけれども、そういう常続的な研究体制日本のどこかで戦略研究所として、あるいはシンクタンクとして持つべきであろうというふうに思っておりますが、それを官だけでやろうとするととかくうまくいかない。じゃ、民だけでやったらどうか、これもうまくいかないです。だから、官と民が一緒になって知恵を出し合って、日本のためにこれからやっていく必要があるのではないかなということが最後に申し上げたいことでございます。  ありがとうございました。
  5. 松村龍二

    委員長松村龍二君) ありがとうございました。  次に、板垣公述人にお願いいたします。板垣公述人
  6. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) ここで公述を行う機会を与えられましてありがとうございました。  私は、長らく国際関係というような次元で中東研究イスラーム研究をやってまいりました。そういうことから、どういう方角の方からも意見、助言を求められる場合には、私の方から積極的に私の考えるところを申し述べてきたつもりであります。今回、このような形で非常に公の場でその機会を与えられましたことをうれしく思っております。  本日、私がお話ししたいと思っておりますのは、この法案、私はこれまで、このイラク特殊事態と申しますか、イラク戦争に関しましていろいろな意見を申し述べておりますが、本日はこの特措法案に問題を集中して考えてみたいと思っております。  私が本日問題にしたいと思いますのは、この「主体的かつ積極的」という、そこの点であります。この主体的、また積極的という、そういうことについて私が考えるところを述べるに当たりまして、七〇年代以降、一九七〇年代以降、私はしばしば覚悟ということを申してまいりました。その前においては、日本社会中東イスラームの問題についての勉強が必要であるということで、勉強ということを盛んに言っておったのでありますけれども、ある段階から覚悟という言葉を意図的に日本社会に向かって発信するように努めました。  先ほど、上田公述人お話にも覚悟という言葉が出ましたけれども、この覚悟というそういう問題で、私は湾岸戦争の直後に、クウェート解放のその直後でありますが、ある出版社から本を出すように言われて急いで本を作ったのですが、その題名は「日本人よ、覚悟はできているか」という、何かそれは出版社が決めてくれたので非常にどぎつい題でありましたが、そのような本も既に出したことがございます。  私は、この法案が、特措法が実際に行われるというそういう場合、そして厳密に言えば、この法案審議が行われるという、そういうそれ自体が、そのこと自体がもう既に、すべての日本人と申しますか、日本国民への覚悟を問う、そういうふうな意味を持っていると思います。  これは、言うまでもなく、政治家方々、ローメーカーズといいますか、立法機関方々もそのことについて、このことについて覚悟を固めておられるわけだと思いますが、あらゆる立場において、それぞれ。しかし、この法に基づいて派遣されることになるとすれば、その自衛隊員も、それからまたイラクで働いている日本人のNGOの関係者も、すべて直面すべき様々な考えられ得る事態というものに対しての覚悟を固めなければならないというふうに思っております。  この法案が可決成立するといたしまして、私がこの法案に関して評価したいと思います点は、全体として血を流すまいというそういう決意、つまり戦闘行為にかかわらないという、こういう決意であります。それは、憲法の定めるところといいますか、憲法上の要請として、そのことが非常に重大なこの法案を支える決意として言わば貫かれているという、そういう点であります。  戦闘行為にかかわらないというこの問題は、明らかに、私の見るところ、アメリカの例えばブッシュ・ドクトリンと言われているような国家安全保障戦略考えられている問題、あるいは現実に九・一一の事件後展開され、今日に至り、また今後も引き続き展開するであろう対テロ戦争というそういう状況の中で、アメリカ考えております新しい戦争といいましょうか、そういう物の考え方に対しては、これは、この法案は明らかにある重要な一線を画す、それとは違う立場というものを前提にしているという、そういうところがあると思います。  したがいまして、その覚悟ということのある局面においては、今後、アメリカの対テロ戦争というものの進め方というものに対して我が国がしかるべき我が国の独自の主体的な立場に立ってそれに対応していかなければならないという、そういう問題にもつながっていくわけであります。  この主体的という、そういうことの、この法案に盛られている主体的ということの意味合いを、こちらのこの委員会での御審議を通じて日本国民全体にもそういうことの意味を明らかにしていくという、そういうことが大事ではないかと思いますし、さらには、この法案において考えられている日本の主体性という、そういうものがいかなるものであるか、我が国立場というものがどういうものであるかということをアジアの近隣諸国に対しても、そしてまた中東の、広く中東国々国民に対してもそのことを明らかに説明していくという、そういうことが必要であると思います。  イラクという国でありますけれども、我が国イラクという国の枠組みを決めるところで非常に重要な主体的役割、かかわりを持っておりました。そのことは、今回、日本全体の中で、我が国のこの問題に関しての議論全体の中で必ずしも十分に顧みられていないと思います。  一九二〇年のサンレモ会議という第一次大戦における連合国会議において、イラクという国の枠組みが定められました。そして、それは同時に、パレスチナという範囲イギリス政府がシス・ジョルダンという、ヨルダン川の西側という形で定めていく。そういう中東の国分けのシステムを定める一環としてイラクという国もつくられたわけであります。  非常に人工的につくられたことは確かでありますけれども、そのサンレモ会議日本は参加しておりました。当時、我が国南洋群島、ミクロネシアにおける国際連盟委任統治という、そういうものを実現していくという、そういう企てにおいても、このサンレモ会議においてある役割を演じたわけでありますけれども、イギリスフランス中東の国分けのシステムを作るという、そのことに協力したわけであります。  したがいまして、その後、イラクという国、非常に人工的な、もろい、もろさを持ったそういう国というものの一体性というものをいかにして確保するかということが国際政治の中で問題になってきたところで、例えば湾岸戦争の過程におきましても、お父さんの方のブッシュ大統領でありますが、が踏みとどまった、バグダッドの攻撃などは踏みとどまったというようなところにもイラクという非常にフラジャイルな国というものの一体性をいかに守るか、そしてそのことによって中東諸国体制全体への影響が及ぶことをいかに食い止めるかという、そういう考慮が強く働いていたわけでありますけれども、このイラク一体性というものを守るということにおいては、我が国は一九二〇年のサンレモ会議以来の言わば責任を負っているという、そういう面があると思います。  したがいまして、主体的かつ積極的という、そういう寄与というものを考える場合に、我が国としては、ただ単に安全な場所を探すというそういうことだけでよいのかという、そういう問題が出てくると思います。  つまり、イラクという国を一つのものとして枠を崩さない、そしてその影響が周辺に及ばないようにする、そういう中東の安定ということを考える上で、またイラク国民というものの将来を考えていく上で一体どこでどういうふうに働くのかという、そういうことが主体的かつ積極的に考えられるべきであります。  つまり、ここでまた改めて覚悟ということが問われるということになると思います。他の国々との調整も必要でありますし、そしてまた安全という基準だけで働く場所が決まるというようなことではない。  そして今、非常に明らかなことは、ここではイラクの国内の状況というものを詳しく御説明することはできませんけれども、日本はやはりバグダードというそういう場所にかかわる協力をするという、そういうことがイラクという国の一体性を守り、中東諸国体制というものを崩していかない、そういうところで国際的にも貢献する、その主体的かつ積極的な寄与ということを追求すべきでありまして、ただ単に犠牲者を出さないというような、そういうふうな姿勢だけでよろしいのかということが国際的に問われることになるだろうというふうに思います。  さて、そこで、このイラクの中の情勢でありますけれども、私の見るところでは、これは決してバース党の残党とかサダム・フセインの手足になっているような人間が、これが今なお蠢動しているという、そういうようなことではなく、現在、この五月以降でありますけれども、イラクの中の様々な要素人々、つまりそれがイラクというものの一体性もろさということを構成している要因でもあるわけですけれども、その様々な要素人々自分たちイラク人だというそういう意識をこの段階で選び取りつつあるという、そういう状況があると思います。  つまり、今起こりつつある状況というのは、これから先を見通しますと、イラク人の占領に対する抵抗という、そういうふうなことが起こってくるという、そういう可能性があるということを我々としては覚悟を決めて観察し、それに対応していかなければならないということであります。決して、物取りとか泥棒とか野盗とかいう、そういうような人々や、それからかつて日本中国東北などで言っておりましたような馬賊だとか匪賊だとか、そういうような要素人々が今うごめいているということではないということです。そして、湾岸戦争後、アメリカがこのイラク人というそういう意識をむしろ強めてきた、そういう結果を生んできているという、そういうことを考えてみる必要があると思います。  そこで、安全な場所を見付ける、そういうことについての判断が可能であるということですけれども、その判断を確実なものにするためには、先ほどの上田公述人お話にありましたような、このイラクないしは中東に関する研究というものが、そこでの地域研究というものの知識が有効に働かされなければならないと思います。政府が様々な調査団を派遣しておりますけれども、もっと地に着いた日本における知識というものを有効に活用すべきであると考えます。  これで終わります。
  7. 松村龍二

    委員長松村龍二君) ありがとうございました。  次に、小川公述人にお願いいたします。小川公述人
  8. 小川和久

    公述人(小川和久君) 本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。  私は、どこの組織にも属していない軍事専門家として、日本国政府のセキュリティーと名の付く分野のほとんどすべてに末端からかかわり、お手伝いをさせていただいている立場でございます。もちろん、与野党を超えて、政党ともあるいは政治家個人とも勉強をしていこうという形でかかわりを持っている立場でございます。  そういう立場から、本日は、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動実施に関して、自衛隊をきちんとした形で派遣すべきという立場から、若干の意見を述べさせていただきたいと思っております。  お手元の一枚紙の順序でお話を申し上げていきたいと思うわけでございますが、まず、現在の議論というのは、日本の原理原則に基づいたイラクの復興支援というものに集約されていない、議論されていないという点で大いに疑問があるということを申し上げざるを得ない。  これまで議論されてきたのは、大部分が自衛隊の派遣に関する事柄であった。当然ながら、目の前にあるテーマというのは自衛隊の派遣でございますけれども、やはり我々は考えなければならないのは、やはりイラクの復興支援、もっと言いますとイラクの国づくりをどう日本が原理原則に基づいてお手伝いをするかという話でなければなりません。その中における自衛隊の派遣の位置付けが明確ではないという、議論としても大きな欠点を持ったものだと言わざるを得ない。  その辺をやはり踏まえまして、日本国が掲げてきた平和主義と国連中心主義にのっとったものであるということをまず明確にする必要があるのではないかなと私は思います。  提出されている法案も、一応は、もってイラク国家の再建を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資するとはあります。しかし、やはり日本が掲げてきた平和主義が、日本が、できることとできないことはありますが、できることを精一杯やって国際社会の平和の実現に努力をし、その日本の姿に対して世界の評価と信頼が生まれてくる、それが日本の安全や繁栄の基盤として戻ってくるという意味で平和主義を掲げていること。また、国際社会の平和の実現のための一つシステムとして国連を使おうという考え方が国連中心主義であるということがより明確に示されるべきではないかと私は思います。  また、法案では、一応は、国連安保理決議六七八、六八七、一四四一、一四八三号に基づくとはしているけれども、やはりそういった我々が掲げてきた原理原則の中の国連中心主義というものに沿ってもっと明確な位置付けがなされるべきではないかと思います。  そういったことを考えますと、日本が担うべきはイラク国家の再建全般への支援でなければならないはずです。必要であれば、あるいは可能であるなら、国連の新たな決議を求めて、そこに取り組んでいくということも考えなければいけない状態にあるのではないかなと思います。  そういう中で、自衛隊の派遣というものでございますけれども、例えば大災害の直後に消防、警察あるいは軍事組織である自衛隊を投入しなければならないという時期がやはり大災害においてもあるわけでありますが、それと同じように、戦争の直後にも軍事組織が中心とならなければ様々な役割を果たせない時期があるということを意識しながら自衛隊を派遣すべきだろうと思います。ですから、自衛隊の派遣は、イラクの復興初期の治安が回復するまでの避け難い、不可避の、しかも期間が一定程度限定された任務だと位置付けるべきではないかと私は思っております。  そういうことからいいますと、自衛隊につきましては、この不可避かつ期間限定の任務を達成できるだけの能力を備えさせて派遣しなければ、派遣をする意味がないとすら言えるのではないかなと私は思っております。  ただ、私自身、そういった議論をする上で、皆さん方と一緒に考えていきたいと思っているのは、この黒丸の二番目の点でございます。とにかく、特に軍事問題に関する日本議論は、自ら掲げてきた専守防衛を理解していない点で極めて無責任な空理空論に終わっているような印象がしてなりません。  例えば、反対する立場の方は、特に国際貢献任務を突破口に自衛隊の海外派兵が本格化するということをおっしゃるわけでございます。  しかし、軍事専門家の末席を汚す者として申し上げますと、自衛隊、そして現在のドイツ軍、あるいは旧西ドイツ国防軍は海を渡って外国を侵攻できない構造になっているということを知らなければ、この問題を語ったことにはならないわけであります。自衛隊も、それから旧西ドイツ国防軍も発足のとき、言葉を換えますと、再軍備のときに米国が日独両国の軍事的自立を阻止するために規制した結果でございます。  ですから、アメリカとの同盟関係においてのみ一定の高い能力を発揮し得るけれども、自ら自立した形で海を渡って外国を席巻するような構造にまずなっていない。これは税金の使い道を普通にチェックしている国であれば一目瞭然のはずなのに、我が国の国会はそういった議論に踏み込んだことがほとんどないような印象を持っております。現在の構造である限り、例えば百倍の防衛費を投入しても外国を侵攻することは不可能なんです。それは世界の先進国の軍事専門家であれば常識であります。そういった常識の議論がなぜできないのか。これがまず私が不思議に思っている点でございます。  この外国を侵攻できない構造に自衛隊を維持することこそ、専守防衛という言葉で表現されている日本のポリシーの具体的な姿であるということも言えるのではないか。そういったことを踏まえながら、例えばアメリカとの関係もきちんと維持していかなければいけないわけであります。日本がこの専守防衛の構造を捨てることを特に米国は望んでいない。これは日本の軍事的自立の問題につながるからでございます。この専守防衛というのは、当然ながら日本の原理原則である平和主義に含まれてくるものと理解されるべきではないか。そういった日本の専守防衛の構造の自衛隊であります。  この自衛隊国際貢献への派遣は憲法の精神とも矛盾しないものだと考えて、このイラクの復興支援あるいは安全確保支援活動への派遣というものを明確に打ち出すべきである。単なるその海外派兵といった幼稚な表現は避けるべきだと私は思っております。  そういう中で、今衆議院でも、今日かなり活発な論戦が行われているのをラジオで聞きましたけれども、まず、イラク戦争への日本国としての支持日本の原理原則を根拠にすべきであったろうと。あるいは、イラク戦争への支持を打ち出す前に、私自身は、日本の原理原則から支持をするかしないかということを明確にすべきだということを言ってきた立場であります。  これについては若干考え方について整理をし、御説明を申し上げなければならないんですが、私は、一昨年九月十一日の同時多発テロの直後の日本の政府、つまり対米協力あるいは対米支援というものが先行している状態について、修正すべきだという意見を述べ、また一昨年十月十三日のテロ特別委員会においても、与党側の参考人としてそういう修正を求める発言をしたわけであります。  当時の日本としての立場考えれば、同時多発テロ日本の平和主義への重大な挑戦と位置付けて対テロ戦争に参加すべきという選択肢が目の前にあったということが言えるわけであります。反対する立場であればまた反対すればいいと。そういう立場を明らかにすれば、日本は、テロの容疑者や容疑組織が国際的な裁きの場に立たされるまで国際共同行動を取るべき立場であるということが明確になったわけであります。  そういう立場に立てば、自衛隊の派遣にしても、憲法の枠内という制約は当然伴いますけれども、地球上のどこへでも派遣できなければならない立場であった。また、それを実行しなければ、自ら掲げてきた平和主義とか国連中心主義を否定することになりかねない自家撞着に陥るような立場であったわけであります。こういった形で議論を整理して、対テロ戦争に参加をすれば、望んでもいない集団的自衛権の議論に頭を突っ込むこともなく自らの国際的な役割を果たすことはできるだろうという話を、当時、テロ特別委員会でしたわけであります。  これと同じように、イラク戦争への支持についても、大量破壊兵器の有無を根拠にすべきではないということを私は申し上げた。それは、アメリカイギリス大量破壊兵器があるということを理由に開戦に踏み切ったとしても、日本はそれを検証する能力がないわけですから、ただそれに引きずられて開戦を支持するというのは自ら墓穴を掘る行動になりかねないという危惧があったからであります。  日本は、やはりこれは小泉総理も言ってこられたことではありますけれども、大量破壊兵器開発疑惑国とテロ支援国家、あるいはテロリストの結合を世界平和への脅威考えなければならない立場だと。これは平和主義の問題であります。そして、これは同時に日本の国家安全保障上の問題、すなわち個別的自衛権の問題として考えなければならない立場だということを当時も申し上げていた。  とにかく、日本は、大量破壊兵器開発疑惑国とテロリストを結合した場合、三つの立場からテロの標的となることを考えなければいけない国である。それは、サミットを構成する主要国の一つである、あるいは米国の最大の同盟国である、又は対テロ戦争を遂行している国であるという立場からテロのターゲットになりかねない。  そういう日本は、イラク大量破壊兵器開発の疑惑を晴らすように働き掛けたけれども拒否された立場である。イラクは国連の査察を妨害したなどのかどで国際的な軍事制裁の対象となった面があるわけであります。そういったことを前提とした場合、日本は自国の原理原則と国家安全保障上の理由から軍事制裁を支持するという選択をしたのだということを言えばそれなりの筋は通る。もちろんこれに反対するという立場を打ち出しても構わなかったわけであります。  場合によっては、軍事制裁を支持するというだけじゃなくて、個別的自衛権の問題から自衛隊を、これは当然ながら補助的な作戦に限定されるわけでありますが、参戦させられる立場であるということも明らかにしてよかったわけであります。これは理屈の上では成り立つわけであります。この考え方であれば、大量破壊兵器の有無と開戦を支持した日本政府の立場関係付けられることはなかったと。この考え方を示しておくことは、同様に、北朝鮮に核兵器の開発や保有を断念させる上でも有効な圧力となったであろうと私は考えております。  そういったことをきちっと明確にした上で、軍事組織、具体的には自衛隊でありますが、その派遣についての位置付けは、治安が回復されるまでの期間限定の復興支援とすべきであるということで送り出していくことが必要だろうと思ったわけであります。  とにかく、送り出していく場合、担当地域にかかわらず、当初は治安維持能力が必要になります。ほかの地域を担当しているほかの国の組織に対する応援もあり得るわけであります。そんなことを考えますと、例えば武器弾薬の輸送についても、これはこん包そのものが外見で実は判別できるわけでありますが、輸送任務はきちっと果たすべきである。こういったことを考えないと、やはり治安維持の回復までの任務を全うすることはできないだろうという話なんです。  そういう流れの中で、持たせてやる武器というものは、普通科連隊、つまり歩兵連隊の部隊が元々装備している重迫撃砲以下の部隊装備火器の範囲内で選ぶ。そして、本当に先進国の軍隊同士が戦うために編成を組み直すことが、実はRCT、連隊戦闘団という考え方があるんですが、これは絶対にやらない。これはいわゆる憲法が禁じている武力行使に当たりますので、これはやらないということで一線を画さなきゃいけない。  しかも、どんな武器を持っていくかということよりも重要となるのは、部隊行動基準、ROEを事細かに任務を遂行できる内容に定めることであろうと。どんな破壊力の大きな重装備を持っていたとしても、先に攻撃されるようなROEであれば何ら意味をなさないからであります。そういった議論をきちんと整理していただきたい。  それから、安全についていろいろ議論がありますけれども、イラクにおいてはやはり基本的に米国だけが、米軍だけが攻撃されている。イギリスは慣習を無視した結果、トラブルを起こして六人亡くなりましたが、若干違うとらえ方をしなきゃいけない。また、ほかの国の部隊が余り攻撃されていない理由については早急に調査をする必要があるだろう。  最も重要となるのは、イラク国民とひざ詰めでニーズの発掘を行わなきゃいけない。各階層の指導者たちと話をし、本当にアラビア語の堪能な人間をそこに投入をしてニーズを掘り出していく。そのニーズに合った形で自衛隊活動をすれば、当然ながらその地域イラクの住民が自衛隊の安全を守ってくれるぐらいの立場になることは可能である。自ら安全を確保することがここで可能になってくるという話なんです。  そういったニーズの発掘を基に、日本は、CPA、暫定占領当局と調整した上、任務を遂行する。どんな服装をして行った方がいいかなという選択も、そのニーズがはっきりした上で決めていくということが大事であります。  そして、日本がやらなきゃいけないのは、単なる米国の下部組織ではなく、自国の原理原則で行動していることを現地の言葉イラク国民に伝える努力が必要だろう。そして、日本が担うべきは、日本の戦後復興のノウハウなどによるイラクの国家建設を手助けすることだということを忘れてはならない。その辺のことをもう一回整理をして自衛隊の派遣を議論していただきたい、決めていただきたいというのが私の立場であります。  どうもありがとうございました。
  9. 松村龍二

    委員長松村龍二君) ありがとうございました。  次に、栗田公述人にお願いいたします。栗田公述人
  10. 栗田禎子

    公述人(栗田禎子君) 栗田と申します。中東の近現代史を勉強しております。  最初に資料を御確認ください。A4の資料がありまして、三枚目に大きいB4のが付いております。この資料であります。  まず最初に、今審議されておりますいわゆるイラク特措法、審議するに当たって我々が検討すべき問題が大きく言って二つほどあると考えられます。一つは、自衛隊という武装部隊、武装集団を海外に派遣するということ自体が、それ自体がそもそも憲法の平和主義の原則と矛盾するのではないかという問題です。第二点として、実際に自衛隊イラクに派遣するということがイラク状況考えたときにどのような意味を持つのか、あるいは、これがまた更に重要なことですが、イラクのみならず、日本中東関係全般にどういう影響を与えるかという問題がございます。  この間、この法案を推進される立場方々からも、イラクの復興に貢献することは中東の安定に寄与することであると、なので日本は復興に参加しなければいけないという御議論がありました。正にそれはそのとおりであります。イラク対応することは中東全体に対応することであります。ですので、単に自衛隊の海外派遣それ自体憲法に矛盾するということ以外に、それが日本中東関係全体にどういう影響を及ぼすのかということを是非考える必要がある。  以下では、その問題について主にお話ししていきたいと思います。  第一番目ですが、一番目はイラク戦争の正当性をめぐる問題であります。  この法案の第一条では、イラクに対する米国等の武力行使は一連の国連決議に基づくものであったということが明記されております。ところが、この戦争を国連決議に基づく戦争だったという理解は実は必ずしも国際社会の一致を見ていないという現実がございます。  御承知のように、戦争に至る前、多くの国が問題を国連中心で平和的に解決することを求め、戦争に反対してまいりました。戦争が始まった後も、あるいは戦争が一段落した後も、戦争が国連決議に基づくものではなかったという立場を取っております。実はこの中に中東諸国の大半が含まれるのであります。記憶をたどっていただければ、戦争に至る、戦争前の時期に、イスラム諸国会議、あるいはアラブ連盟、あるいは中東諸国のほとんどが加入しております非同盟諸国がいずれも戦争に対して反対の姿勢を示したということは御記憶に新しいことと思います。  ですので、イラク戦争が国際的に正当な戦争だったということについて国際社会の一致が見られていない、その状況戦争は正当だったという前提に立つ、しかもそれを第一条に明記した法案を通すということの問題性をよくお考えいただきたいと思います。  第二点目です。これは戦争の結果成立した現在のイラクの米英占領体制の正当性をめぐる問題であります。  本法案は、国連決議一四八三は占領体制を正当化しているという理解に基づいて作られております。ところが、実は、この国連決議一四八三が占領体制を正当化しているか否かについても実は多くの議論、疑義が出されております。例えば、一四八三は確かに全会一致で通ったわけですが、それは占領を正当化するものではないんだと、占領が存在すると事実を確認し、米英は占領軍なので占領軍としての義務を果たすよう求めたものにすぎないという理解がございます。  さらにまた、その一四八三の適切性自体についても、これは戦争が終わった後いつまでもイラク人々を何の国際的枠組みもなしに米英の占領下にほっておくわけにはいかないので、一応一四八三という決議を国連の場で通したけれども、しかしその一四八三の決議が完全に、内容が完全に適切あるいは公正ではないだろうと、そういう議論もございます。  例えば、現在の体制イラクにおける占領体制というのはあくまで米英占領軍中心で取り仕切っていく体制であって、そこでは復興プロセスあるいは今後のイラクの国づくりのプロセスから、そこに国連やイラク人が果たす役割を極力排除していこうとするような構図に実はなっているんだと、その意味で一四八三の内容というのは実は完全に適切あるいは公正なものではないので、ある段階に至ったらば、今後、国連やイラク国民が中心的役割を果たすべき体制に作り直していくべきだという議論がございます。  これは、御承知のように、フランス等はこういう議論を最近しきりに行っておりますし、あるいはアジアの大国でも、インドは例えばやはり同じような理解に立って、国連決議に基づいては、国連決議の一四八三の枠内では派兵ができないという考え方に基づいて、軍隊派遣を見送るといった決定を行っております。実は、中東諸国の多くもこれと同じ理解を取っているということが重要であります。  こうなってきますと、一四八三は占領体制を正当化しているという理解に基づき、かつ米英占領体制への協力を中心に据えた法案日本が成立させるということの重要な問題点が明らかになると思います。これが三番目につながっていきます。  と申しますのは、本法案の内容は、イラクに対する人道支援もうたわれておりますが、あくまで主眼は米英占領軍が行うイラク国内の安全・安定確保活動を支援することであることは明白であります。ところが、その米英占領軍がイラクで行う安全・安定確保活動というのは何かというと、結局はこれは占領体制に対するイラク国民の抵抗を弾圧する、あるいは抵抗を排除するための軍事行動であるというところがあからさまな真実であろうと考えられます。  その際に、イラク国民の抵抗、米英軍に対して抵抗を行う人々の、これは多様、様々であり得ます。先ほど板垣公述人からのお話にも触れられましたが、中には確かに旧体制支持者、旧サダム・フセイン政権支持者によるものもあると思いますが、一方には、一般の市民が、当初は抵抗していなかったのが、占領体制下で生活状況が一向に改善されない、むしろ悪化していく、あるいは米英占領軍がいかにも外国占領軍であることを丸出しにするような非常に横暴な行動を取るといったことに対して抗議をして、それに対して、その結果衝突が起きると。場合によっては、非暴力の抵抗であったものに対して米英軍が武力で対処して流血の事態に至ってしまう、そういったこともございます。  要は、米英軍に対するイラク国民の抵抗、様々なイデオロギーに基づく様々な立場の人が行うかもしれませんが、基本は米英占領軍がいるということによって起きている問題ですね。外国占領が存在するということによってもたらされる占領軍とイラク国民の間に生じる矛盾の問題であるということでございます。  そこに、米英占領軍とイラク国民の激しい矛盾が存在するイラクに占領軍の側に完全に立つということを明らかにした形で自衛隊が出ていくということの問題点が考えられます。占領体制の国際的疑義が出されている状況下で、占領軍の側に完全に身を置き、占領軍の安全・安定確保活動、具体的に軍事行動であるわけですが、それを間接的にせよ支援するということの重要な問題点が明らかになると思います。  まとめに入りますが、最初に述べましたように、イラク問題は中東全体にとって重要な、大変な重要性を持つ問題であります。文字どおりイラクの復興にかかわることは中東全体の安定に寄与することであります。ですので、長い目線で日本中東関係を見据えてイラクに関与していくというならば、イラクに関与するに当たっては是非とも中東諸国、中東人々意見を踏まえるべきであると考えられます。  中東の多くの国々国民によってイラク戦争が国際法上の根拠を欠いたものと考えられ、かつその後の占領体制の正当性も疑われている状況で占領軍の軍事行動への協力を中心に据えた法案を成立させることには大きな問題があると考えられます。  欧米諸国が中東に対して軍事侵略や植民地支配の過去を持つのに対して、日本は幸いに、これまでは中東に対して直接的には軍隊を送ったことも占領したこともないという幸運に恵まれております。もちろん、先ほど板垣公述人がおっしゃったように、実際は第一次大戦後の中東分割にかかわった過去は実はありますが、直接軍隊を送っただの植民地支配をしたということは幸いにもなかったんですね。そのために、日本中東では非常に良いイメージを享受してきたと言うことができます。今後、日本がすべきことは、このイメージを大切にして、中東人々が望むような形の支援を考えていくべきだということだと思います。  ここで、中東の諸国、中東人々意見を踏まえるべきだということに関連して資料を紹介させていただきたいのですが、中東人々は具体的に日本に何を望んでいるか。これは通り一辺倒の調査ではもちろん済みません。草の根の民衆から聞き取り調査をする、あるいは実際にイラクに行って一般の市民とお話をするといったことも必要で、NGOの方々などは実際もうかなりそういう作業を進めておられると思います。  そこまでは私今回できなかったのですが、それに代わり得る一番手っ取り早いといいますか、無味乾燥かもしれませんが、簡単な方法として、在京中東諸国の大使館にアンケートを送って、中東日本に何してほしいですかと聞くということがあり得ます。  添付した資料の二番目がそのアンケート原文になっておりまして、それを簡単にまとめたものが三枚目の資料になっております。  これは後でお時間があるときに見ていただきたいんですが、基本的に四点聞きました。法案自体への意見は聞かないということを前提にした上で、日本中東関係に関して以下の四点について一般的参考意見を伺う。一、イラク戦争に対する貴国政府の立場はどのようなものでしたか。二、戦争の結果、イラクにもたらされた現在の状況に対する貴国政府の立場はどのようなものでしたか。三点目、イラク復興に関して、日本に最もふさわしく、期待される支援の在り方はどのようなものと考えますか。四番、日本中東で一般にどのような役割を期待されているのでしょうか。  これは実は、おとつい、昨日と二日間で全アラブ諸国とイラン、トルコ、それからイスラエル、それから中東ではありませんが関係深いということでパキスタンの諸国に、大使館にメールとファクスでお送りしまして、二日間で、火曜日に送って水曜の午後までに返事を返せという大変乱暴なことをやったわけですが、その中でも、文書回答、トルコ、シリア、スーダン、パキスタン、カタールですね、大使が直接、大使若しくは一等書記官に直接面接いただいたのがチュニジア、ヨルダン、サウジアラビア、三国、計八か国からの回答がありまして、大変な関心の強さを逆にうかがわせました。  詳しい内容の検討は省きますが、これを読みますと、後で見ていただきますと、中東人々日本に望んでいる支援は圧倒的に医療、人道及びインフラ再建等の平和的支援であるということが確認できると思います。  本国会がイラク支援の在り方を決定されるに当たりましては、是非とも中東諸国、中東人々意見を踏まえる形で、中東人々の感情を決して踏みにじるようなことがない形で決定を下されることを切に希望いたします。  ありがとうございました。
  11. 松村龍二

    委員長松村龍二君) ありがとうございました。  次に、前田公述人にお願いいたします。前田公述人
  12. 前田朗

    公述人(前田朗君) このような機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。  私の意見陳述は原稿の形でお手元に配られていると思いますので、それを読み上げる形で陳述させていただきます。ただし、やや長めですので、あちこち省略をしながら進めさせていただきます。  戦争犯罪論を研究する者として意見陳述をさせていただきます。  最初に、米英軍のイラク占領とは何であるのかを検討いたします。ここでは原則論、特に国際刑法の観点から見た原則論を再考したいということでございます。その後、イラク特別事態に対処しようとする本法案への疑問を述べていくということ、及びアフガニスタン国際戦犯民衆法廷というNGOの試みについて御紹介をした上で、本法案への疑問点を述べさせていただきます。  一番ですが、本法案イラク自衛隊を派遣しようとする法案ですから、米英のイラク占領統治の法的性格、その正当性について検討することから始めます。国際法上、他国の領土にその国家の同意なしに軍隊を派遣することは違法な武力行使に該当し、侵略行為を構成することは言うまでもありません。  十行ほど飛ばしますが、さて、法案二条三項は、国連安保理事会決議一四八三その他政令で定める国連総会又は安保理決議に従ってイラクにおいて施政を行う機関の同意によることができるとして、その国の同意なしに対応措置を実施するものと定めています。ここに言う「イラクにおいて施政を行う機関」としての米英が、その国の同意なしに軍隊を派遣する法的権限を有していたか、侵略行為に当たらないような権限を有しているかが問題になります。  決議一四八三本文パラグラフ四は、当局に対し、国連憲章及びその他の関連国際法に従い、特に安全で安定した状態の回復及びイラク国民が自らの政治的将来を自由に決定できる状態の創出に向けて努力することを含む領土の実効的な統治を通じてイラク国民の福祉を増進することを要請するとしています。  決議一四八三前文パラグラフ十三は、統合された司令部の下にある占領国としてのこれらの諸国の関連国際法の下での特定の権限、責任及び義務を認識し、としています。すなわち、決議本文パラグラフ四も、決議前文パラグラフ十三も、米英両国に対して関連国際法の遵守を求めているものです。関連国際法とあるのは、具体的には国連憲章及び国際人道法を構成する国際法が念頭に置かれています。  決議一四八三から明らかなことは、米英両国が事実上の占領国として、既存の関連国際法によって認められた特定の権限、責任、義務を果たす必要があること、つまり占領統治が国際法に従って行われるべきことであります。  決議一四八三は、米英両国に占領を行う権限を与えたものではなく、事実上占領している米英両国に占領国としての既存国際法上の権限、責任、義務を果たすように求めたものです。決議一四八三は新たな権限、責任、義務を米英両国に付与するものではありません。  そもそも現代国際法は戦争の違法化の歴史の上に成立していますから、国連憲章一条は、国際紛争の平和的手段による解決を国連の最も重要な目的として掲げております。今日、武力行使を行わないという武力行使禁止の原則、これが現代国際法の基本となっております。  もちろん、現実には、今日の国際社会において、なお各地で多数の武力行使が実際に発生しています。それらの武力行使について合法性の有無が常に的確に判断されているか否か、これにも疑問が残ります。現代国際法が戦争や武力行使を違法化しているとはいっても、現実に現代国際法が十分遵守されているわけではありません。  そこで、ハーグ条約やジュネーブ条約等の発展の上に国際人道法が形成されてきました。現代国際法は、戦争や武力行使を違法化しつつ、現実に生じている戦争や武力行使に対応して、すべての当事者が遵守しなければならない人道的な規則を発展させてきました。国際的性格の武力紛争であれ、非国際的性格の武力紛争であれ、現実に発生した武力紛争において、捕虜の虐待や民間人に対する攻撃など、いかなる場合にも違法とされるべき行為を禁止することによって、戦争に伴う残虐性や無用の攻撃を抑制しようとしたものです。したがって、国際人道法は、当該武力行使が合法なものであるか違法なものであるかにかかわりなく、すべての当事者に人道的な規則の遵守を求めたものです。そのような責任、義務が米英両国にあるにすぎません。  三枚目に移ります、若干飛ばして三枚目ですが。  法案一条は、イラク特別事態なる概念を、安保理決議六七八等三決議、これらに基づいた、及びそれに対して引き続き行われている事態という形で特徴付けております。ここでは少なくとも二つの問題を指摘できます。  最初に、米英によるイラク攻撃がこれら三決議に基づく正当な武力攻撃であったという解釈の問題点です。米英のイラク攻撃が安保理決議に基づいた行動だという主張には非常に無理があります。この点は、しかし既に何度も議論されてきたことでありますので繰り返しはいたしません。ただ、二点だけ別途指摘しておきたいと思います。  第一に、これら三決議が米英に武力行使を認めたという解釈をするとすれば、これらの三決議が武力行使の程度や範囲や時期について何ら言及していない事実に照らすと、そのような解釈をしてしまえば、安保理が米英にほとんど無条件に権限を付与した白紙委任の決議であるということになってしまいます。そのような解釈は到底採用できません。  第二に、安保理における新決議をめぐる経過及びその後の各国の対応から見ても、これら三決議がイラク攻撃を授権したという解釈は国際社会においておよそ共通認識となっていないことであります。このような事態では、政府が行うべきことは、決議はこう解釈できるとか、このような解釈も可能であると主張することではなく、決議の意味内容を安保理において直接明白にするように努力すること、及びイラク復興支援を一刻も早く国連の枠組みに戻すように努力することであります。このことが最も重要なことであると考えております。  次に、法案一条の「これに引き続く」というさりげない表現であります。この文言は、イラク攻撃のみならず、軍事占領もまた三決議によって正当化されるかのような解釈を取っております。  しかし、ここには大きな飛躍があります。三決議が米英によるイラク攻撃を認めた決議であるという解釈自体が無理であることをいったん差しおいて、仮に米英のイラク攻撃が三決議に基づいた行動であったとしても、その場合、その武力行使の目的や程度は三決議から当然に引き出される範囲のものでなければなりません。したがって、米英によるイラク攻撃は、大量破壊兵器及び長距離ミサイルの拡散の防止に必要な範囲に限られなくてはなりません。この目的と程度から必要な範囲を超えて、イラクの民主化等の名目でイラク全土を長期にわたって軍事占領することは明らかに必要な限度を超えていますから、むしろ三決議に違反することになります。三決議が大量破壊兵器の拡散の防止だけではなく、イラクの民主化等をも含んで米英に授権しているという解釈はおよそ採用できません。  第一に、三決議にはそのような解釈を許す文言がありません。第二に、そもそも安保理にはそのような授権を行う権限がありません。国連憲章三十九条等には、そのような権限は一切書かれておりません。  三番目として、戦闘地域と武器使用の部分に移らせていただきます。この部分も既に多く議論されている部分ですので、私は簡単に述べるにとどめさせていただきます。  本法案三条三項における安全確保支援活動とは、具体的には米英軍によるイラク敵対勢力に対する軍事作戦を支援するものです。それは、仮に武器弾薬ではなく水や食料を輸送するものであったとしても、また自衛隊自身の武力行使を伴わないものであったとしても、米英軍の軍事作戦と地理的にも時間的にも一体不可分の武力行使に当たることは明白です。  また、戦闘地域と非戦闘地域の区別の問題も既に十分御議論されていると思いますので、ここでは省略いたします。  現在、イラク国民は、旧政権に反対していた勢力も一致団結して、イラク国民自身の政権樹立、米英占領軍の早期撤退を要求しています。このような状況下で日本自衛隊を派遣し、軍事占領体制に加わることは、イラク国民に対する侵害であり、結果として挑発行為となってしまいます。これは重大な過ちを犯すものであります。  占領が長引き、イラク国民の手に政権を返すのが遅れれば、抵抗は更に広範に広がっていく可能性があります。このような状況下で自衛隊を派遣するということは、自衛隊員状況の中で思わず知らず戦争犯罪を犯してしまいかねない、そのような状況に送り出されることを意味しています。そうなれば、自衛隊員にも犠牲が生じるおそれが高く、自衛隊員をそのような危険に身をさらす地域に送るべきではありません。  続きまして、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷というNGOの活動について若干御紹介いたします。  お手元にブックレット、チラシ等の資料が配付されていると思います。後ほどお読みいただけると幸いです。  私たちは、今月二十一日に東京千代田区の日本教育会館におきまして、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷第一回公判を開廷いたします。イギリスアメリカ、インド及び日本から五名の民衆法廷判事、日本から十一名及びアメリカから一名の民衆法廷検事が参集します。これは国際社会において空洞化され、形骸化されつつある武力行使禁止原則、戦争と武力行使の違法化という現代国際法の基本原則を復権させるために、民衆のイニシアチブによって開催する民衆法廷です。  民衆法廷検事団が作成し、アメリカ大使館及びホワイトハウスに送付した起訴状によれば、ジョージ・ウォーカー・ブッシュ米大統領は、アフガニスタン空爆に関して、侵略の罪、人道に対する罪、民間人虐殺、捕虜虐殺、捕虜虐待の戦争犯罪で訴追されるものとなっております。  民衆法廷の歴史は、ベトナム戦争におけるラッセル・アインシュタイン法廷、あるいは湾岸戦争におけるラムゼイ・クラーク法廷、さらには、二〇〇〇年十二月に東京で開催された女性国際戦犯法廷などが知られております。  これらに基づいて私どもも開催いたしますが、民衆法廷には国内法上も国際法上も根拠が与えられてはいません。そのような法廷を開くのは、国家や国際社会が国際法を守らないときであります。国家や国際社会に対して国際法をきちんと守るべきであるという提案をしていく、そのようなNGO活動であるということになります。  次のページに移りますが、私どもは、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷は、これまで六次にわたるアフガニスタン戦争被害調査団を派遣して、アフガニスタンにおける難民や民間人爆撃の被害者を調査してきました。カブールでも、カラバーでも、クンドゥズやマザリシャリフでも、被害者は一般市民です。一瞬にして二十名もの村人が殺害された現場を訪れ、クラスター爆弾によって足にけがをした少年、失明した少年に会ってきました。破壊されたモスクの跡で、村人は悲痛に耐えながらモスクの再建をしていました。アフガニスタン各地を回ると、アメリカ戦争犯罪がよく見えてきます。  私たちは、日本各地、先週は沖縄でも開催いたしましたが、十二回にわたって公聴会を積み重ねて、アフガニスタンを取材したジャーナリスト、NGO、国際政治学者、国際法学者に証言をいただき、多数の証拠を積み上げてきました。そのうちの一部は、お手元の公聴会記録集に掲載しております。その成果の上に第一回公判を迎えようとしております。  問答無用で大量破壊兵器を投下し、破壊を続ける帝国の軍事戦略が世界を混乱させている現状に民衆自身が向き合い、反戦平和の思想と運動を紡ぎ直す取組、日本憲法の平和主義を世界に宣伝をする、そういう取組でもあります。  私どもの法廷は、七月二十一日に続いて、本年十二月にも公判を開き、判決を目指します。  同時に、私たちは現在、イラク国際戦犯民衆法廷を立ち上げるべく準備を始めております。何の罪もない数千人のイラク市民を殺害し、劣化ウラン弾をまき散らして国際平和に脅威をもたらしているブッシュ大統領らを被告人とする民衆法廷運動は本年夏には立ち上げたいと思います。  最後に、NGOの立場としてまとめの言葉を述べさせていただきます。  私たちは、ペシャワール付近の四つの難民キャンプで、多数のアフガニスタン難民への取材を繰り返してきました。また、アフガニスタン各地で多数の民間人犠牲者や遺族に取材し、彼らの生活再建のために努力をしてきました。  四半世紀にわたる戦争や内戦、そして米軍による爆撃によって、アフガニスタンは正に歴史の廃墟と化していました。古くから文明の十字路と呼ばれたアフガニスタンの都市は破壊され、人々は傷付き、おびえて暮らしています。貴重な文化が破壊され、一つの世代が丸ごと破壊されてしまった悲劇を目の当たりにしてきました。  いわゆる北部同盟が横滑りした現政権は首都カブールを支配しているだけで、アフガニスタンには責任ある政府が欠落したままです。今なおアフガニスタンには治安が回復していません。米英軍はいまだに軍事作戦を展開し、殺りくを続けています。国連も治安回復には無力です。国際赤十字さえも攻撃の対象とされて虐殺されております。そして、アフガニスタンは再び世界最大の麻薬大国になっています。国際社会はアフガニスタンをきちんと復興させる努力をまだ十分行っておりません。    〔委員長退席、理事阿部正俊君着席〕  アフガニスタンには北部同盟という受皿があってもなおこのような有様です。イラクには北部同盟に比肩すべき受皿もありませんでした。そのために、秩序が回復されず、無法な占領が継続する中で人民の抵抗が続いております。治安が回復する兆しもないままに、人々は危険や貧困や病気に脅かされ、米英軍の横暴に悩まされております。  欧米諸国による植民地支配に苦しんだ過去を持つ中東において日本が果たすべき役割は、むしろイラク人民自身の生活再建、国家の復興に努力することであり、協力することでありまして、軍事占領に協力することではございません。日本が果たすべきイラク国民への復興の努力というのは、中立、公平性、非武装が原則の復興支援でなければなりません。武装した部隊による、米軍への、復興というのは、これとは全く異なるものであるということであります。  これまでアフガニスタンでもイラクでも、多くのNGOが懸命になって活動を続けてきました。私はイラクでは活動しておりませんが、アフガニスタンでこれまで多数の人々の生活再建に努力をしてまいりました。その立場からはっきり申し上げますと、自衛隊派遣は、自衛隊だけではなく、日本のNGOに対する反感を生み出すおそれがあります。アフガニスタンの民衆の間にも、日本自衛隊が給油をしたことが徐々に知られ始めております。今までは知られておりませんでしたから、私どもはカブールで活動できますが、このことが知られると、カブールで私どもが活動すること自体が危険になっていくということであります。  イラクの人民は既に、日本が米英による戦争支持したことを十分に承知しております。そして、米英軍が軍事占領を続けているその現場に自衛隊が派遣されるということは、自衛隊員イラクの民衆から反感を招いてしまう、それだけではなくて、イラクで活躍をするNGOやジャーナリストなど日本社会構成員もまた、残念ながら反感と敵意と憎悪の対象にされてしまうということになります。このようなことではNGOの活動は非常に危険であり、できないことになってしまいます。自衛隊派遣は、その意味で、NGOが取り組んでいる復興支援に対する妨害にしかなりません。  大変厳しい言い方で恐縮ですが、NGOの活動にとっても大変妨げになるおそれが極めて高いという懸念を申し上げて、私の意見陳述を終わらせていただきます。  どうもありがとうございました。
  13. 阿部正俊

    ○理事(阿部正俊君) ありがとうございました。  以上で公述人各位の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これから公述人に対します質疑に入らせていただきます。  なお、公述人方々にお願い申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得ていただくようにお願い申し上げます。また、各委員質疑時間が大変限られておるものですから、御答弁はひとつ簡潔にお願い申し上げます。  それでは、質疑のある方は順次御発言願います。
  14. 森元恒雄

    森元恒雄君 自由民主党の森元恒雄でございます。  公述人方々には、大変有意義お話を今日はお聞かせいただきまして、ありがとうございました。  私は、石油エネルギーを始め中東地域において大変重要なポジションを占めておりますイラク復興支援活動日本が積極的に、その持てる権限、権能、力の範囲内ではありますけれども、参画していくということは、国際的な責任を果たすという意味でも、またあるいは日本の国益にかなうという観点からも大変望ましいことであるというふうに思っております。  ただ、非戦闘地域での活動といえ、身の危険が全くないわけではない地域でありますし、また気象条件も日本とは全く違う非常に過酷な地域でございます。そういうところで活動される、国のあるいは国民の期待を担って活動される方々に対して、やっぱり国会がこぞって賛意を示し、この法案を通していただくということを是非願っておるものでございます。  そういう観点から数点お聞きしたいと思いますが、まず上田公述人にお聞きしますが、先ほどのお話の中で、いわゆるこういう復興支援事業などに対する日本の国内と国外の意識に相当のギャップがあるというお話がございました。そしてまた、このレジュメにも、今回の派遣は国際的な常識的期待に沿うものだと、こういうように書かれておるわけですけれども、その辺のところについて、もう少し詳しくお話をいただければと思います。
  15. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) 申し上げます。  私たちが今まで接触している人は、どちらかというと賛成の方に近い人だろうと思いますけれども、自分考えてですね。反対の人もたくさんいらっしゃいますけれども。内外の差が相当あるというのは、これは避けられないことで、日本がこの五十年間、だれが悪いわけではありませんけれども、そういう安全保障、広がってしまった今の安全保障防衛、そういうものについて、だれが悪いわけではありません、国会が悪いわけではありませんけれども、余り真剣に考えてこなかった結果、そういう差が生じているなというふうに思っております、ほかの国とですね。  ですけれども、ほかの国にももちろん反対の方もたくさんいらっしゃいますしですね。だけれども、その平均的な、我々が接触した範囲で平均的なことを申し上げれば、どうも日本はそういうところから並外れて後れているのではないかなという気がしております。どの国とは申し上げません、ほとんどの国ですね。
  16. 森元恒雄

    森元恒雄君 そういう現状の中で、今回の特措法が成立して従来の枠から一歩前に踏み込むということを行った場合に、そのギャップがどの程度埋まるのか。あるいはまた、こちらのレジュメ三番目に書いておられますように、将来に向かっては恒久的な法整備を図るべきだと書かれておりますが、しかしその際も、憲法を始めとした様々な制約が現存しておるわけで、そういう状況の中で恒久的措置を講じたとしても完璧にはこのギャップ差というものは解消しないおそれがあるんではないかという気もするんですけれども、その辺についての御見解をお聞かせいただければと思います。    〔理事阿部正俊君退席、委員長着席〕
  17. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) これはもちろん憲法の制約がありますから、無限にそれが伸びていくということはもちろんありませんし、現在は憲法のもうぎりぎりのところに来ているのではございませんか。いろいろ苦労しながら、いろんな方がおやりになっていらっしゃいますけれども、じゃ憲法を直すにはどうすりゃいいかという別の問題になってまいりますけれども。憲法の許される範囲でぎりぎりのところで知恵を絞っていくと、それが今日の状況。  それからさらに、もし十年あるいは二十年、長い目で見るんであれば、憲法を全然触らずにずっとやっているというのは非常にまたおかしいのではないかと思っております。ドイツなど、基本法は四十何回か直しておりますですね。日本だけがそういうずっと、情勢が相当変わっているのにそれでいいということはないというふうに思っております。
  18. 森元恒雄

    森元恒雄君 この二番目のところで、万一危うくなったら、危なくなったらそのとき逃げろは全く成り立たないと、こう書いておられる。それは具体的なケース、その現場のケースがそういう事態に立ち至ったときというふうなことを前提として理解すればこれはそのとおりかと思いますが、しかし、日本政府が今回自衛隊を派遣するのは非戦闘地域、極力安全であるということを見極めた上でということを前提としているわけですし、情勢はいつどういうふうに地域的にも時期的にも変わるか分からないと。そうしたときに、しばらく前まではその地域全体が比較的安全だと思われたところも急に事態が変わる、変わりますよね。そういうときでもこういう、おっしゃっている逃げろは成り立たないということであれば、そもそも非戦闘地域ではなくて、そういうことの地域の限定をしないで派遣するということにつながるのではないかというふうにも読めるんですけれども、この辺のお考えはいかがでございましょうか。
  19. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) これは最悪の場合を言っているのでございまして、それ以前に尽くせる手は全部尽くしていくと。つまり、今でいえば戦闘地域には行かない。ですけれども、日本自身もそうなんでございますよ、どこでどういうことが起こるかなんてことはあらかじめだれも保証できないわけです。戦闘地域じゃないと思っても、ある日あるとき突然、戦闘という言葉がいいかどうか分かりませんけれども、そういう悪い人間が現れてくることは当然あり得ますから、その最悪の事態のことを申し上げたつもりでございます。
  20. 森元恒雄

    森元恒雄君 もう一点、お聞きしたいと思いますが、世界の平均的水準並みの名誉を与えるべきではないかと、こういうふうにおっしゃったわけですけれども、この名誉ですね、具体的にもう少しその中身をお話しいただければと思います。
  21. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) 現在、日本にはそういう意味の栄典制度というものはないと思っております、公務員全部同じですから。ですから、そういうものから基本的にバランスを取って考えなければいけないことではございますけれども、具体的に申し上げれば、そういうところへ参加した全員には、勲章という言葉がいいかどうか分かりませんけれども、例えばそういうものです。旧ソ連などでは、平和が維持されたんだから全員に勲章をやろうよと、そういうようなことも言われていた時代がありましたけれども、勲章をもらってうれしいかどうか、それは分かりませんけれども、国民全体に支持されたというあかしでございます。
  22. 森元恒雄

    森元恒雄君 次に、板垣公述人にお聞きしたいと思いますが、先ほどお話しいただいた中で、イラクの復興、平和の維持あるいは一体性の確保、こういう事柄について、一九二八年のサンレモ会議日本も加わっておるわけだから主体的な立場で関与するにしても積極的な役割を果たす責務を、責任の一端を日本自体が負っているというお話だったかと思いますが、その上で、単に安全な場所であるかどうかというふうな観点から行動するのではなくて、より積極的な役割を果たすべきではなかったのか。例えば、バグダッド周辺で活動を展開するということが日本のそういう責任を果たすことにつながるのではないか、こういうお話であったように私は理解をしたわけでございますが、もう少しここのところをかみ砕いてお話しいただければ大変有り難いと思います。
  23. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) ただいまのお話の中で、サンレモ会議は二八年というふうに言われましたけれども、一九二〇年でありますので。  私の方で申しましたことは、安全な場所というものを探すという、そういうところで、私の公述の最後のところでは十分な地域研究上の知識というものの裏付けにおいて調査が行われるべきであるという、そういうことも申しましたけれども、私の見るところでは、今、イラクの中で安全な場所はないと思います。  それは別の、公述の別の場所で申しましたように、イラクの中の住民の様々な要素、この人々がそれぞれ自分自身のアイデンティティーというものについて様々な在り方というものを持っておりますが、そういう人々が、期せずして今、次第に自分たちイラク人だという、そういう意識を固めつつある。この意識は、実は一九九一年以降、湾岸戦争後、次第に強められてきたところであると私は見ておりますが、そのためにサダム・フセイン政権も言わば生き延びることになったという、そういうことがありますけれども、現実にこのたびのイラク戦争を経まして、占領の下でイラク人という意識が広がり、そして、殊にアメリカの占領に対する抵抗運動というものが広がっている。これは、先ほど申しましたように、旧バース党の残存分子の活動というようなものでは必ずしもない、そういうものも確かにありますでしょうが、むしろ新しい局面を迎えている。  そういう状況を見ますと、安全という場所探しではなしに、むしろ自ら安全を作り出していく努力というものが必要である。そしてまた、イラク一体性というものを考えていく上では、今やその新しい局面の中でバグダードという地域のその都市と、その周辺の地域というものの意味が一層重要なものになってきている。したがって、北のクルド人が多く住んでいる地域とか南の方のシーア派の人々が多く住んでいる地域とか、そういうところで個別の問題に対処するというよりは、イラク全体というものをつかんでいくような、そういう主体的なアプローチと認識の深化という、深める深化というものが必要であるということを申したつもりであります。
  24. 森元恒雄

    森元恒雄君 そうしますと、確認の意味でお聞きするんですけれども、先生の御見解ですと、安全ということを第一に行動基準を考えるんではなくて、あえて言えば、少々リスクがあっても、何が日本として果たすべき役割かということを第一に置いて具体的な行動方針、行動場所等を考えるべきであると、こういう理解でよろしいんでしょうか。
  25. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) 私が言っておりますのは、身の危険を冒してでも何でもやれというそういう意味ではございません。安全を自ら作り出していくということが必要であるという、そういうことを申しました。  そして、さらに、私の公述の中で強調したつもりでありますけれども、この言わば武装活動と申しますか戦闘行為にかかわらないというこの原則といいますか、この点は、アメリカ考えている今やテロとの戦いというそういうところでは、至るところで対テロ戦争を展開する、言わば至るところに戦闘行為があり得るんだというそういう前提に立っている、それとは明らかに我が国立場が違うのだということを明確にしていく必要があるという、そういうことも言いたいわけであります。
  26. 森元恒雄

    森元恒雄君 それでは、次に小川公述人にお聞きしたいと思いますが、先ほどのお話の中で国会の議論始め、まだ専守防衛ということが十分理解されないままに議論が行われているというお話がございまして、その点でちょっとお聞きしていて私自身が理解がまだ十分いかないものですから、そこをもう少し具体的に、細かく、詳しくお話しいただきたいんですけれども、先生は、専守防衛の構造と、構造という言葉を使っておられますけれども、ここで言わんとしておられるこの構造というのはどういう意味なのかというのをまずお話しいただきたいと思います。
  27. 小川和久

    公述人(小川和久君) 大変重要な御質問、ありがとうございました。  実は、それを説明するためにはパワーポイントの仕掛けを持ってきたりなんかしないと、多分、日本国民の大部分が軍事組織に所属したことがないから、理解なかなかされにくいんだと思います。  ただ、私は、専守防衛の構造という表現ではなくて、自衛隊の構造という言い方を取ったんですが、海を渡って外国を席巻をするというのは、陸海空の、これは具体的に言いますと軍事力でありますが、それが可能なような組立てになっていなきゃ無理なんですね。単に航続距離が長い飛行機を何機か持ったから侵略になるというのは、これは幼稚園の議論であります。やっぱり海を渡ってどこかの国を攻めてその国の軍隊と戦って占領するためには、最終的には百万単位の地上戦力を送り込むことができるような構造になっていなきゃいけない。  ところが、我が国とそれから旧西ドイツ、あるいは現在のドイツの軍事力というのは、再軍備の過程でとにかく自立できない形に規制をされました。特に海軍力が規制をされ、その流れの中で空軍あるいは陸軍についても、日本の場合、陸海空自衛隊でありますが、規制をされ、海を渡って外国を攻撃するようなことはできない格好になったんですね。  だから、旧西ドイツの場合は、例えばUボートの悪夢が第一次大戦、第二次大戦、アメリカにとってあるものですから、自国が使う潜水艦については五百トン未満しか認められない、そういった格好に規制された。その代わり、今、ソ連軍と対峙させるために、ドイツ人の非常に得意とする戦車部隊を中心とする陸軍などは突出した戦力を保有させる。  あるいは我が海上自衛隊についても、帝国海軍の再現というのは絶対に認められないというのがアメリカのポリシーであります。ですから、アメリカと同盟関係を組みながら、その中で特に旧ソ連の潜水艦部隊を押さえ込んでいくためのASW、アンタイ・サブマリン・ウオーフェア、対潜水艦戦能力だけを突出させる、一部、機雷を取り除く能力をある程度持たせる、そういった格好にしてきたわけであります。  この海上自衛隊の構造そのものを見ても、例えば海を渡って外国に百万単位の地上部隊を送り込むための揚陸艦艇があるのか、あるいはそのための、拠点を築くための例えば空挺部隊を、七万人とか十万人の単位で落としていくための輸送機の部隊、あるいはそれに見合う空挺部隊があるのか。全然ないに等しいわけであります。  そういったことをきちっと一つ一つ押さえながら、我々は自らそのような構造の軍事力を持っているんだと、そのことを逆に世界にアピールし、これが日本の専守防衛の姿だということを言いながら、それを日本の原理原則である平和主義を実現するための一つのてこに使っていくような考え方があってもいいのかな、その中での議論というものをイラクの問題についても進めていただきたい、そういうことで申し上げたわけでございます。  ちょっと舌足らずでございまして、御理解いただけたかどうか分かりませんが、重要な御質問、ありがとうございました。
  28. 森元恒雄

    森元恒雄君 時間が来ましたので、終わります。
  29. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 民主党・新緑風会の若林と申します。  民主党は、米国のイラク攻撃の正当性については疑義があるというふうに思っておりますけれども、イラク復興支援については積極的に参画すべきだという立場から、幾つかお伺いしたいなというふうに思っているところでございます。  まず、上田公述人にお伺いしたいと思います。  公述人が書かれましたセキュリタリアンの「自衛隊を斬る」というやつですね、この雑誌のコピーを見させていただきまして、これからの陸自の在り方を示唆されたのではないかなというふうに思いますが、私はここで読んでいても、この時点で海外で陸自が活躍するということまでは私は想定していなかったんではないかという、ちょっと読まさせていただいた感想なんですけれどもね。  空とか海は、既に海外に行くということに対する接点を考えながらやっぱり行動していますけれども、陸自というのは、あくまで侵攻に対して自国の中で守るということがこれまで主務としてやっていたというときに、今回の対イラク復興支援で海外に行って、どれだけ能力があるのかということについてお伺いしたいなと思います。  武器一つ取っても、あるいはコミュニケーション能力、コミュニケーション能力が単なる言葉だけではなくて、現地の風土、文化、様々なことをやっぱり理解した上で活動する等々を考えますと、非常に私は、まだまだ今の状況を見ると無理があるんではないか。やはり海外に貢献するというのはもちろん必要ですが、まずはやっぱり自らの能力をわきまえるということも重要ですから、今この時点で行って、あとは、じゃ、二、三か月で本当にそういうことは対応可能なのかどうかということについて、上田公述人にちょっとお伺いしたいと思います、まず。
  30. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) ありがとうございます。私の前のあれを読んでいただきまして感銘しておりますけれども。  確かに陸自は、陸上自衛隊というものは、外へ出ていくことは全く考えておりませんでした。それは、旧陸軍が満州とか中国を考えたのと全く逆であります。日本の国内でやればいい、日本の国土、地形、日本人の体力と、それから温度差とか、そういうのに合えばいいという開発をしてきております、装備につきましてもですね。  ですけれども、もし今度、じゃイラクへ行ったらどうなるのかと、ちょっと考えただけでも、じゃ砂嵐が来たらどうかな、使えなくなるんじゃないのかなとか、いろいろあると思います。現在、そういうことは詰めていると思いますけれども。  これらは、ほかの国の今までの例を見ても少しは分かるんでございますね。アメリカ湾岸戦争、どうだったかとかですね。そういう研究はほんの少しですがやっておりますが、こういうことを契機に相当やらないと、これ、行けと言われても、全然、出ていったら全部駄目になっちゃうと。御指摘のとおりでありますから、これを契機にやる必要あると思います。  それから、今回、今すぐ行けと言われれば、若干時間が要るかなと思いますけれども、一か月とか二か月は。そのくらいで今度の場合にはできるかなという気がしております。  以上です。
  31. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 御認識としては、一、二か月準備期間があればと。行ってみないとまた分からないし、そういう能力もまた備わらないということだと思いますが、せっかくですから、小川公述人もこの辺は専門家だと思いますんで、ちょっと御認識を伺いたいなと思います。
  32. 小川和久

    公述人(小川和久君) 大変重要な御質問ありがとうございました。  今、上田公述人は私の自衛隊の十一年ほど大先輩でございますが、本当に自衛隊のトップまで行かれた方の正直な発言がありまして、そのとおりでございます。海を渡って陸上自衛隊活動させるということは基本的に考えてこなかった。ですから、一九九二年のカンボジアPKO初参加の議論のときにも、もう本当に基礎の基礎から議論をしなければいけなかった。そういう実情でございます。  ただ、そういう中で、私は、国連の平和維持活動の中の中心であるPKF、国連平和維持軍にしても、今回のような、戦争の後の治安を回復したりすることを支援する任務にしても、明確な位置付けというものを持たせれば、現在の陸上自衛隊であっても一定の能力を目的に向けて発揮し得るだろうと考えております。  例えば、PKFにしても、今回の復興支援の中での安全の確保の活動にしても、例えば骨折をした場合、跡が癒着をしたりしないように一定期間必ずギプスをはめますね。そのような役割だと考えなければいけないと思います。そうであればこそ、イラクに対する戦争に反対した国も含めて軍事組織を持っていっているという側面がある。そこのところは、国益を意識して持っていっているかどうかの議論はその角度からすればいいんですが、やはり一つのギプスとしての役割は、これは軍事組織しかできないんだと。  それは、通常の正規軍同士が直接対決をする、私のレジュメの中では連隊戦闘団、RCT、レジメンタル・コンバット・チームでありますが、そのような編成をしない状態、つまりレジメンタル・コンバット・チームは、歩兵連隊、普通科連隊に対して、戦車中隊、特科大隊、これは砲兵の大隊、それから対戦車ミサイル隊、対戦車ヘリコプター隊を付けて、リーチの長い打撃力を付けて、そういったものを三つないし四つ一個師団当たり作り替えて、そういったものを持った相手とぶつかるわけであります。こういったことは一切必要ない。とにかく、部隊装備火器の範囲内で武器を選びながら治安維持能力を持っているということを前提に、治安の回復をギプスとして果たしていく、そういった役割というのはどのぐらいの準備期間があればどうかというのは私もよく分からないところはありますけれども、今の陸上自衛隊でも十分に能力は持っているということを申し上げてよろしいのではないかと思います。  どうもありがとうございました。
  33. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 今のお答えに関連してなんですが、上田公述人にお伺いしたいんですけれども、その上で、武器の使用基準について、今回提案されている内容で十分なのかどうか、これまでの御経験を踏まえてお聞かせいただければと思います。
  34. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) 現在までも議論されております武器の使用基準、ROEでございますね、普通の国で言っている。ですけれども、もっとやるべきことはあるのではないかなと私は思っておりますけれども、真剣に考えますと。  それから、そういう経験がないために考えも出てこないという逆のこともありますから、いろんな経験を積みながらどの国もそういうことを考えているわけでございますね。日本はゼロからですから、いきなり理想的なものが急にできるとは思いませんけれども、最大限の努力はしているところであります、私の聞いている範囲では。  ただ、今行ってすぐどうかなというと、いろんなことが出るのではないかなと思いますですね、実際に行けば。
  35. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 はい、分かりました。ありがとうございます。それ以上はもうお伺いしません。  次に、板垣公述人にお伺いしたいなというふうに思います。  まず、先ほど御発言の中で、イラク人の抵抗という言葉に少し自分自身は引っ掛かったところでございます。CPAが今、占領統治機構としてやって、これから暫定統治機構どんどん作られるわけですけれども、かつてのGHQのように日本がそれに乗っかって国が発展して、日本は親米にどちらかと言えばなっていったのではないか。  今の御発言の趣旨を理解して聞きますと、やはり、じゃ今度新しい政権ができたからといって必ずしも親米にならない、必ずしも民主政権になるかどうかは分からない。今のやっぱりイラクという国の成り立ち、これまでの歴史的経緯からいえば、やっぱりちょっと違うんじゃないかというような部分があったと思うんですけれども、その辺はどんなふうにお考えでしょうか。これからの国づくりというところで。
  36. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) ただいまのお話で、既に統治機構なるものが、マジュリス・アルフクムという、そういうものが成立したことになっておりますけれども、イラク人々の間ではその正統性については非常に強い疑問が抱かれていると思います。したがって、このたび立ち上げられた組織がそのまま言わば自動的に発展し、あるいは進化してイラク人自身の政府というものへつながっていくという、そういうふうな可能性というものは簡単に考えることができません。  むしろ、先ほど私が申しましたように、現在新たに起こってきているイラク国民というそういう意識、これは明らかに今度設定されたような機構に対する反発というものとつながり合っております。したがいまして、今後の国づくりというのは決して一筋道では進まない、非常に紆余曲折のある困難な道のりということになると思います。
  37. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 その上で再度お伺いしたいんですが、じゃ、今を前提としたときに、本格的な国づくりへのやっぱり成功のかぎというんでしょうか、取りあえず今、現時点でCPA、暫定統治機構がいるという現実において、どういうことに配慮をしていったらいいのかということについてお伺いしたいと思います。
  38. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) これは、本日、私の公述の中で繰り返し申しましたように、日本の主体的かつ積極的な寄与、そして法案第一条にあります「イラク国民による自主的な努力を支援し、及び促進しようとする」、この後の「国際社会」という、これはいかなる国際社会であるかはまた解釈がいろいろあり得るかと思いますけれども、少なくとも我が国立場として、このイラク国民による自主的な努力を支援し促進するという、こういう立場を明確に追求するという、そういうことだと思っております。
  39. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 ありがとうございました。  それでは、小川公述人にお伺いしたいなというふうに思っております。  先ほど来の御説明の中で、日本の原理原則に基づいたイラク復興支援というお話がありまして、途中ちょっと自分自身も分からなかったのは、前半では国連中心主義とおっしゃられながらも、最後はやっぱり日本の原理原則と国家安全保障上の理由から選択すべきということに対する、ややそのギャップがあるんではないかという感じがします。  国連主義というのはもちろん大事にすべきですが、一方、そういう選択を取ったときに必ずしも国連と同じような方向性には私はならないんではないかという意味では、私は両方の選択の中でやっぱり日本の取るべき道があるのかなというふうに思いますけれども、その辺についてもうちょっと分かりやすくお話しいただきたい。
  40. 小川和久

    公述人(小川和久君) 大変重要な御質問をありがとうございます。  私が日本の原理原則と言ったのは、平和主義と並んで国連中心主義、これも入っております。別に、国連に従うといったようなことよりも、むしろ国連を自らの平和、国際平和実現のためのシステムとして使いこなしていくんだというのが日本の国連中心主義の基本的な考え方であろうと私は思います。  日本では、例えば平和主義ということについても、平和主義の中身をあなたはどういうふうに考えていますかと言うと、まずそういったことを議論しないですから、欧米人だったらすぐ答えるかもしれませんが、何でしょうか、ちょっと考えて、いや戦争しないことですとか言ってね、そんなのは当たり前だという話ですよね。  やはり世界平和を実現するということは自らの安全と繁栄に直結することであるという考え方の下に平和主義を掲げる、そのために努力をする、そのための仕掛けとして国連を使っていくというのが国連中心主義であります。だから、その二つの原理原則に沿う形に国連を動かしていって、日本イラクの復興支援、そういったものにかかわっていくというのが一番理想的な姿であり、それが日本の主体性だと思うんですね。  ですから、その国連の今まで取ってきた行動とギャップがあるからといって、それはそのままそれを受け入れるか、そこから外れるかという議論ではなくて、自らその国連をもっと機能させるような働き掛けをしていくべき事柄ではないかなと思って、そういうお話をいたしました。  どうも御質問ありがとうございました。
  41. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 関連でもう一回お伺いしたいと思いますけれども、その上で、専守防衛のための日本国際貢献として自衛隊を派遣することは憲法に違反しないというお話がありまして、そのときに、やはりここは国連中心主義なのかというふうには思いますけれども、今の状況考えますと、今回もそうですけれども、やっぱり米国を中心とした多国籍軍、一方、やっぱり国連を中心としたそういう勢力なり考えますと、これからの日本集団安全保障のかかわり方ということで、常に国連だけじゃない場合があったときに、こちらの米国との関係において、これは両方やはり憲法の精神に違反しないというふうにお考えでしょうか、そのときの派遣として。
  42. 小川和久

    公述人(小川和久君) 御質問ありがとうございます。  私は国連中心主義というものを、国連を一つシステムとして機能させるべきだということを先ほど申し上げましたが、同時に、日本でややもすると動物行動学の刷り込みのような格好で、自動的にアメリカ協力する、アメリカを支援するという言葉が出てくるということを整理するということが日本の主体性の問題ではないかと思うんですね。  ですから、やはり国連というものが絡むかどうかということは、そのときそのときで随分議論が分かれるかもしれません。しかし、アメリカとの同盟関係があるから自衛隊国際貢献に出すという議論は絶対避けなきゃいけない。それは、アメリカとの同盟関係は大事だし重視しなきゃいけないけれども、まず自らの考えでどうやって自衛隊国際貢献させるのかと、あるいはさせないのかという議論がまずなきゃいけないという話なんですね。そこのところをやはり今回のイラク自衛隊を出す議論においてもきちんと整理をしていただきたいという思いが実はあるわけであります。  どうもありがとうございます。
  43. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 全くそのとおりでございまして、そのためにやっぱりある意味での基本法、恒久法的な原理原則をきちっとやったものがやっぱり必要なのかなと。まずそっちをやっておいた上でやっぱりイラク特措法みたいなものが、支援法みたいなのがあるのかなという感じはしているわけで、我々としても、今の枠組みの中ではちょっとやっぱり無理があるのかなというのが民主党全体の意見ではないかなという感じはしているところでございます。  次に、栗田公述人と前田公述人にちょっと簡単にお伺いしたいんですけれども、おっしゃっている意味合いは非常によく分かります。  民主党としても、そこまでの、一四八三までの、六八七、六七八、一四四一までのものを取って攻撃が妥当だったというふうには立っておりません。ただし、現実問題として、一四八三というものが先ほど問題だとおっしゃいましたけれども、国際社会の現実として皆がやはりそこは一致団結して投票に投じたわけですね、一か国棄権したというのはありますけれども。その現実を基に置いたときに、日本としては何をしなきゃいけないかということについて積極的に関与するというのが私は必要なことではないかなというふうに思いますので。  お伺いしたいのは、一四八三、適切ではないといっても、これは国際社会の現実ですから、その現実と、今治安維持というものが現実的にこれは求められている、これはイラク復興支援、イラク人そのものもやっぱり求めているわけですよね。だけれども、先ほど来、医療とか、何ですか、インフラ云々というのがありましたけれども、それはもちろん大事ですけれども、治安維持がまずなければそこにも達し得ないという状況から考えれば、この国際社会の現実、そして国づくりの現実に対してやっぱりどう対応していくかという視点が抜けているんじゃないかなという感じがしていますけれども、それについてのお答えがあれば、ちょっと簡潔にお聞かせください。
  44. 栗田禎子

    公述人(栗田禎子君) まず、一四八三決議については、これは安保理決議で、安保理で全会一致で採決されていますので当然有効です。ただ、確認したいことは、単に占領を正当化しているのではなくて、占領が存在する事実を述べ、占領軍の義務を果たすよう米英に求めているものにすぎないということです。  二番目の、しかし実際にイラクの現状に対して国際社会が支援していくべきではないか、特に治安というお話をされました。  治安については、これを二通りに分ける必要があると思います。つまり、一つは、本当に強盗が出るとか、武器が何か流出してどこに行ってもホールドアップになってしまって夜歩けないとか、そういう治安が乱れているといういわゆる治安の問題があります。これは、イラク人は本当に庶民が困っていることだと思うんですね。  ところが、今イラクで一番問題になっている安全、安定確保の問題としきりに国際社会で喧伝されるのは、これはイラクの市民の間に泥棒が出るとか強盗が出るという話ではなくて、米英占領軍とそれに対する市民の抵抗、あるいは米英占領軍による市民の弾圧なんですね。この二つのレベルの治安というのは分けるべきだと思います。  前者の問題については、基本的にはそれはイラク人の手による行政が始まって、政府のレジティマシーというものが強まっていく中で回復されていくものだと思いますが、後半の占領軍と、占領軍が存在するがゆえの占領軍と国民イラク国民の間の矛盾から起きる衝突というものは、これは占領軍が撤退しない限り基本的には解決しないものだというふうに思っております。  以上です。
  45. 前田朗

    公述人(前田朗君) ありがとうございます。  私は決議一四八三が問題だという趣旨を申し述べたのではなくて、決議一四八三の解釈が、日本国内で議論されている解釈が正当ではないということを申し上げたわけです。  それから二点目は、今、栗田公述人が述べたこととほとんど同じですけれども、それに付け加えて申し上げますならば、日本政府こそがアメリカ政府に提案をして、そして安保理事会に提案をして、国連の枠組みでのイラクの復興支援、そのシステムを作っていく積極的な役割を果たしていただきたいというふうに考えております。
  46. 若林秀樹

    ○若林秀樹君 時間になりましたので、終わります。
  47. 山本保

    山本保君 公明党の山本保でございます。  短い時間ですので、すべての先生、公述人の方にお聞きすることはできないかもしれませんが、その辺はお許しください。  最初に、板垣先生にお伺いいたします。  大変、私伺っておりまして、私もこの前、実は与党の一員としまして初めてイラクへ行ってまいりました。こういう国、日本と比べて全く違うこの国にどういう形で貢献ができるんだろうかということを感じまして、今、先生のお話を伺いながら、なるほど、これはきちんとした文化的な、また幅広い研究、そしてそういう知見をもってこれから進まなくちゃいけないんだなという気がいたしました。与党でございますので、法案成立後と言っちゃ失礼かもしれませんが、今後も是非アドバイスをいただきたいと思っております。  それで、今日お話しの中で二、三お聞きいたします。  最初は、今現在ですか、イラク人としての自覚というんですか、自覚という言い方ではなく意識でございますか、というのが出てきたんだというお話でしたが、この辺は、例えば先生、宗教とか相当の差があるとか、また少数民族というのもございますよね。そうしますと、このいわゆる外圧があるがゆえに一時的に固まっているだけではないのだろうか。  先生おっしゃいましたように、確かに国自体をつくるのが、正に合理的な理由といいますか、そういうものではない、人工的なものだと。私も初めて行きまして、あのクウェートの、最後、クウェートまで走ったわけですが、あの国との、何というか、経済的な生活の格差、無理やりつくってしまった、なるほどフセインがクウェートを欲しがったというか、元々自分の国だと言うのも、なるほどな、まあ納得してしまったわけでありますけれども。  そういう中にありまして、片方でそういう大変な人工的なものであったのが、今、イラク人としての民族意識というんですか、ナショナリティーというようなものが出てきているというお話だったんですが、ちょっと論争的に申し上げますと、それは外圧に対して一時的なものではないのだろうか、なぜならば文化も宗教も違うじゃないかと。こういうことについてはどういうふうに御説明いただけますでしょう。
  48. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) ありがとうございました。  このイラク人意識というものが今新たに強まっていく、そういう新たな局面に入ったということを申しましたのは、それは一時のものではないかというのは、あるいはそうかもしれません。しかし、これはもうかねてから、長い私自身のもう半世紀にわたる研究者としての仕事の中で一生懸命取り組んできたことですけれども、中東人々考える場合、また中東社会なり文化なりを考える場合に、そのアイデンティティー複合という、そういう言葉で私呼んでおりますが、一人の人間が自分は何者であるかということについて、一つの在り方しかないというのではなくて、もう非常に、気も遠くなるほどのたくさんの選択肢というものを持っている。例えばということで申しますと、様々な肩書の違う名刺というのを持っていて、そして、ある状況の中でどの肩書の名刺を自分は出そうかと、この状況の中ではですね、ということを絶えず考えている。これはもう、何といいましょうか、社会の中でどういう地位にある人間かとかいうようなこととは無関係にあらゆる人がそういう考え方を持っているという、そういうアイデンティティー選択という、そういうもののダイナミックな動きというものを考えなければならないと思います。  イラク人々が、今、イラク人だというそういう選択肢を選ぶ方向に大きく動いている、しかも、それは明らかにアメリカに対する抵抗という、そういう方向と結び付く格好でそれが進んでいるという、こういう状況について、これは一時かもしれませんけれども、現在、非常に注目すべき局面、状況であるということです。そういう意味で、イラクの中で、ある人間は、自分は十二イマーム派のシーア派の人間だというような形で自分自身の宗教的立場というものを強く意識する、そういう場面はもうそれは十分にあり得ます。スンナ派のイスラム教徒だという認識を持つ人もおりますでしょう。あるいはクルド人だというそういう意識でそれを大きく打ち出す人もおりますでしょう。しかし、そういう人々が、今、それぞれに違うような条件の下で違う動機付けもあるかもしれないけれども、ある一つの方向に向き始めたという、こういうことは非常に重要な特徴的な問題であります。  元々イラク人という意識がなかったかといえば、そうではなくて、むしろこれは、以前におきましては上から植え付けるものだったわけです。一生懸命、そういうふうには思わない人々に、おまえたちはイラク人だというそういう教育を施してきた。そういうことが今度は、今や違う局面になっているという、そういうことであります。
  49. 山本保

    山本保君 ありがとうございます。  なかなか難しい内容であって、すぐに理解できたわけではありませんけれども、また勉強したいと思いますが。  その中で、今日お聞きしておりまして、私どもといいますか政府が出したあの法案が、言わばアメリカ型とは違う、日本的な、憲法に基づく支援というものをぎりぎり出したというふうに読めるのではないかというような御評価をいただいたのではないかなと思っておるんですけれども、ただ、それだけでは我々としてもまずいわけでございまして、今おっしゃったように、外から作られたものにせよ、できていく。この中で、アメリカとは違う、ちょっとこれ、話が観念的になって申し訳ございませんが、是非お聞きしたいんでございますが、覚悟ということをおっしゃいました。  最初お聞きしたとき、覚悟というのは何かする覚悟かな、何かをそれで、何か表に出す又は派手なことをする覚悟かなと思ってお聞きしておりましたが、そうではなくて、血を流さないのも覚悟だというふうに、私、取ったわけでございまして、正にそういうものが日本として必要だというふうに、私も同感といいますか、そんな気がしましたので、ここで、アメリカのドクトリンとは違う、日本のものというのを持っていったときにイラクの人に受け入れられるものかどうか。私は楽観的に見たいと思っておるんですけれども、先生はその辺はどのようにお考えでございますか。
  50. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) ありがとうございます。  私が、アメリカの新しい戦略概念として出してきている、そこでの戦争なり戦闘行為というものについての考え方、大ざっぱに言えばブッシュ・ドクトリンと言ってしまっても結構ですが、それとこの法案は違うという、そういうことを言っておりますのは、この第二条三項の戦闘行為に関する定義、「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。」という、これは明らかにアメリカとは違う立場ですね。こういうところで恐らくこれからアメリカとの摩擦も生じると私は思います。そういう意味での覚悟ということを言っていたわけでありますが。  現地のイラク人々との間の関係の問題として、今の御質問の中心がそこにあるとしまして申しますと、これはイラク人ばかりではなくて、アラブあるいはもっと広くイスラム教徒一般、これはもう、東南アジアからインド亜大陸から中央アジアからアフリカから、すべての地域におけるイスラム教徒と付き合う場合の一番重要なことでありますけれども、あいさつとして、アッサラーム・アライクムというあいさつをする。これは、クルアーン、コーランの中で、言わば神様が人間に向かって、あいさつをするときにはこう言いなさいと教えてくれているという、そういうことになっている言葉でありますけれども、あなたの上に平和があるようにと。この軍隊風の敬礼ですね、手のひらを見せて、そして胸にその後手を当てる、アッサラームというところで、これは平和をという意味ですが、そこで敬礼をして、そしてアライクムというところで胸に手を当てる。そう言われたら、今度はワ・アライクム・アッサラームという返事を返す、あなたの上にも平和があるように。  この敬礼というのは、これはイスラム世界から始まって、何とかしてイスラム世界のような文明国になりたいと考えたかつてのヨーロッパ諸国がこれを軍隊に取り入れたわけです。それが今日、日本でも、自衛隊を始め、消防署でも警察でも駅員さんでも、みんなこれをやっているわけです、この敬礼をやっているわけです。これは、私は武器を持っていない、あなたに対して危害を加える意図が全くないというそういうことで、あなたの上に平和があるようにという、そういうことですね。  ですから、私は、仮に自衛隊が行かれるとすれば、それは非常に、そのこと自体大変な覚悟日本の国として要ることでありますけれども、さらには、非武装でこのアッサラーム・アライクムという、こういう形で安全を作り出していく、そういう覚悟を持たなければ、この法案に盛られたこの精神、それは生きていかないというふうに思っております。
  51. 山本保

    山本保君 大変興味深いお話を伺いました。ありがとうございました。  それでは、小川公述人にお伺いいたします。  ちょっと話が、今度は具体的なことをお聞きしますが、今日のお話の中で、これも本当に、私も全くこういう経験がありませんのでお聞きしますが、普通科連隊の部隊装備火器の範囲内というふうにおっしゃいましたけれども、具体的には、武器というのはいずれにしましても相手を殺傷するものであり、同時にそれは自分を守るものでありますけれども、何か相手を、攻撃型の武器とか守る武器というようなものが何か定義若しくは実際上に、今までの運用上に明確になった上でこういうことになっているのかなという気もしたんですけれども、この辺はどういうふうに理解すればよろしいのか。
  52. 小川和久

    公述人(小川和久君) 大変、私が若干御説明したい部分を御質問いただきましてありがとうございます。  実は、武器は例えば何であっても人を殺傷する能力があれば駄目だという考え方に立てば、それは割りばし一本だって駄目なわけですね、目に突き刺せば死ぬわけですから。ただ、やはり軍事組織というものがそれなりの役割を、平和の維持であろうと実現であろうと果たすということを前提に国際社会は動いている面がある。  その中でいいますと、やはり軍事組織を、いわゆる正規軍同士の戦闘に参加させるために必要な備えなければいけない武器と、元々、例えば平和維持活動のようなギプスとしての一定の強制力を発揮するだけの目的のために装備すべき武器あるいは装備している武器、あるいはその部隊そのものが自らを守るために装備している武器と本格的な戦闘を行うときに用いる武器、これはおのずと線引きができるというのが国際的な専門家の常識であります。  ですから、普通科連隊、これは歩兵連隊でありますし、現地のニーズによっては別に施設科部隊、工兵とか通信科の部隊とか、いろんなものを出していけばいいんです。あるいは衛生科の部隊ですね、医療支援ですね。でも、基本的には一定の強制力がないと治安維持活動はできませんので、その普通科連隊を持っている武器を、元々部隊装備火器として備えているものを持っていき、その範囲でそれを使用するという部隊行動基準、ROEを定めるべきだというのが私の意見なんです。  これは盾と矛の例えで言いますと、普通科連隊が備えているものは防御用の盾の性格が非常に強い。そして、それに対して、先ほど申し上げましたように、連隊戦闘団、RCT、レジメンタル・コンバット・チームを組む場合には、それでは敵を攻撃できない、撃破できないから、リーチの長い、つまり射程距離などが長いしかも打撃力を持った部隊をそこに配属をして、普通科連隊を中心に強力なチームを一個師団当たり三個あるいは四個作ってぶつけていくわけであります。  今回も、イラク戦争において、アメリカの軍あるいはイギリスの軍は基本的にそういった能力を持った部隊を投入して、戦争終結宣言といいますか、そういったところまでは戦ってきた。ただ、その後の治安維持任務においてはそういったものは必要ないわけですから、イラクのサダム・フセイン政権の残党の掃討作戦などの場合を除いては、基本的には部隊装備火器的な装備活動しているという面があるということは我々も忘れちゃいけないと思います。  我々が憲法範囲内で海外に自衛隊を派遣し得るのは、その部隊装備火器の範囲内であると。それを超えるRCTは、いかなる立場であろうとも、憲法をきちんと改正するといったような営みなしには現行憲法には抵触するだろうと考えるのが私の立場でございます。  どうも御質問ありがとうございました。
  53. 山本保

    山本保君 ありがとうございます。  もう一問、小川公述人にお伺いしますが、今日のお話の中で、今必要なのはイラクについての国家の再建全般への支援であると。  この前、実は私も、テレビにもなっているんですが、小泉総理に国づくり支援ではないかと言いましたら、小泉さんも正にイラクの国づくり支援だと、こういうふうに答えてくださいまして、私自身も大変そういう点では意を強くしたんですが、そこの中で、自衛隊というのは、ここにありますように治安回復までの不可避の期間限定の任務だと、こういうふうにおっしゃっておられますが、これを、私もこのとおりで分かるんですが、もっとより積極的に、中身論で、ついて言いますと、自衛隊の仕事というのはどんなものなのかということについては、もう少し展開していただけますか。
  54. 小川和久

    公述人(小川和久君) 御質問ありがとうございます。  治安維持能力を持った軍事組織でなければ国づくりの最初の段階の任務を全うできないということを先ほど申し上げましたが、その能力を持った軍事組織が自衛隊であろうと各国の軍隊であろうと、同時に、その派遣される地域の、イラク国民からニーズをくみ上げて、その治安維持能力とは別に任務を果たしていくということが相当程度可能であろうと思うんですね。  これは、治安維持能力については、軍事組織でなければいけない段階が一年とか二年とか、長い場合には四年ぐらい掛かるかもしれないけれども、それぐらい経過して、その次は武装警察隊のような組織で治安維持をし、その期間が終わったら普通の警察で治安維持ができるようになっていくという流れだろうと思います。  ただ、その中で、現状から見ても、例えば現地のニーズがインフラの整備といったようなことで出てきますと、そのインフラが何なのか。例えば、道造りなのか、橋を架けることなのか、あるいはダムの補修をすることなのか。これであれば、自衛隊の施設科部隊を投入すれば相当能力を持っている。あるいは、通信インフラが全然駄目であれば、やはり日本の通信職種の部隊を持っていく。あるいは、医療支援につきましては、やはり手術用の巨大な天幕まで持った衛生科の部隊を持っていく。あるいは、輸送の問題でいいますと航空自衛隊のC130持っていきましたけれども、同時に、我が陸上自衛隊の航空科部隊は五百機余りのヘリコプターを持っている。まあ、世界で三番目ぐらいの陸軍航空部隊であります。これをきちっとUNのマークの下に白く塗って活動させるような考え方も、これ、国連絡みの問題を整理しなきゃいけないですが、可能であろうと。これは幾らでも出てくるわけであります。  ただ、あくまでも、軍事組織が行くのは、本当に軍事組織がそこにいなければ治安の維持ができない、それは安全な地域、そうでない地域とかいう分け方を現状でできるわけでありますが、やっぱり安全な地域であってもある期間はそういう能力を見せ付けないと、実際には、工兵部隊であれ通信科部隊であれ危機に直面する。あるいは、サダム・フセイン政権とは違う立場を取っているイラク国民を守ることすらできない。そういったものとして治安維持能力を持ったものがまずあり、その中で同時にできる自衛隊の任務というものをやはり現地のニーズに合わせて発揮していくという考え方を進めるべきではないかなと私は思っております。  どうも御質問ありがとうございました。
  55. 山本保

    山本保君 ありがとうございます。  じゃ、終わります。
  56. 吉川春子

    吉川春子君 日本共産党の吉川春子でございます。  今日は、五人の公述人の皆さん、本当にありがとうございます。時間の範囲で順次質問をさせていただきたいと思います。  まず、栗田公述人にお伺いいたします。  現在イラクにいる米英軍は、占領軍として中東人々イラク人々の反感を買っているということが伝えられておりますけれども、その背景について少しお話をしていただきたいと思います。
  57. 栗田禎子

    公述人(栗田禎子君) 一番基本的には、これまで御説明しましたように、国際法に基づいた戦争というのはそもそもなかった。国際法のらち外で行われた戦争ということなので、イラク中東人々にとってみれば侵略です。なので、侵略軍に対して反感を持つのは当たり前ということがあるかと思います。  ただ、それに加えてもう一つ重要なことを指摘したいと思いますのは、戦争が進められ、終わっていく過程で、だんだん大量破壊兵器疑惑というのが何かおかしく、怪しくなってきて、それに代わってイラクの民主化のためだったとブッシュ大統領言い始めましたが、だけれども、余り民主化も熱心に進めている様子がなくてと。そういうことが見えてくる中で、次第に、イラクの人にとっても中東の人にとっても、やっぱりこの戦争は正に石油目当てだったんではないかと、あるいは米国の石油産業のための戦争、あるいは戦争でいったん壊したインフラストラクチャーを米国等の企業が復興のために入札する、そういう何かゼネコンのための戦争だったんではないかと、そういうふうなことも、思惑、判断も出てきて、その中で、結局、その民主化のための戦争でもなく、大量破壊兵器の除去のための戦争でもなくて、結局、ある意味で植民地主義的な戦争だったんではないかという認識が中東には広く広がっております。  御存じのように、中東というのは、十九世紀から二十世紀にかけてヨーロッパにとって非常に軍事的、地政学的に重要だということもありましたし、また二十世紀に入ると石油ですね、世界の埋蔵原油量の三分の二が中東に産するということもありまして、集中的に欧米による侵略と植民地化の対象になってきた国々です。なので、その中東人々にとっては、また植民地主義が戻ってきたかと、これは一種の植民地主義の再来ではないかという認識が非常に強いということを押さえておくべきだと思います。  植民地主義の長い歴史ゆえに、イラク中東では外国占領に対する反感、外国占領に対する警戒心、センシティビティーというものが非常に強い、そのことを念頭に置いていただきたいと思います。
  58. 吉川春子

    吉川春子君 今も大分お話が出たんですけれども、戦闘地域、非戦闘地域の区別について、栗田参考人はどのようにお考えでしょうか。
  59. 栗田禎子

    公述人(栗田禎子君) 法案審議の過程でしきりに戦闘地域、非戦闘地域という区分が出てまいりまして、これは、素朴に日本国民の一員として見ていますと非常に、本当にそんな区別ができるんだろうかという印象を持つわけですね。戦闘地域、非戦闘地域の定義、いろいろあると思うんですが、一般に言われていることで、もし戦闘を行っているのが戦闘地域で、戦闘が行われていなくて比較的安全なのが非戦闘地域という分け方をするとすると、それはもうほとんど今のイラクでは分けられないんじゃないかと。昨日、戦闘なかったところも今日は戦闘が起きている、そういう状態なので、いつでもどこでも戦闘地域になり得るので、この区分はあり得ないのではないかという一般的な、常識的なことが言えると思います。  二つ目の定義としまして、最近国会での審議等を伺っておりますと、別の定義があるようで、そこで出されますのは、戦闘地域、非戦闘地域というのは即物的に戦闘をやっているかどうかという定義の問題ではないと、その戦闘の質の問題であって、政府若しくは政府に、国家若しくは国家に準ずる組織を対象とする戦闘がある場合は戦闘地域で、それ以外の非組織的な戦闘がある場合には戦闘があっても戦闘地域ではないという、それは非戦闘地域だと、こういう判断があるように思うんですね。  そうすると、素人判断で考えますと、ある意味では、正規軍とは戦っては駄目だけれども、民衆がデモをしたり、民衆が反乱しているのを鎮圧するのは構わないということになりまして、ある意味で非常にひきょうな議論なんではないかという気もいたすわけですね。  さらに、中東の歴史ということで、専門が歴史ですので振り返って考えてみますと、ヨーロッパの先進国同士の戦闘、戦争というのは十八世紀ごろまでは正規軍同士の戦争だったと思うんですが、十九世紀以降、中東を含めるアジア、アフリカの圧倒的な地域が経験してきた植民地戦争においては、正規軍対正規軍ではないんですね。基本的には先進国の正規軍が現地の民衆、非政府的な組織の何か抵抗を押しつぶしていくと。先ほど上田公述人お話の中で、対テロ戦争の中で非対称的な戦争になってきているとおっしゃいましたけれども、まさしく植民地主義の戦争って元々非対称的な戦争、正規軍対民衆の戦争であって、その場合には、その民衆を弾圧する側は、民衆のことをテロリストとか匪賊とか馬賊とか呼んできたわけですね。  今、国会の審議でなさっておられます戦闘地域、非戦闘地域という分け方をやっていきますと、結局、今後先進資本主義諸国が何かアジア、アフリカ諸国に、こういうかつての植民地戦争に似たような戦争を行っていく場合の戦争には自衛隊はいつでもどこでも参加できるということになってしまいかねなくて、非常に危ういという印象を持っております。
  60. 吉川春子

    吉川春子君 栗田公述人に三つ目の質問なんですけれども、先ほど在日の中東諸国の大使館にアンケート調査をされたと、興味深いお話を伺いましたけれども、中東諸国の中にもイラクに軍隊を派遣している国があるようですけれども、その実情についてお話しいただきたいと思います。
  61. 栗田禎子

    公述人(栗田禎子君) この点についてですが、結論から申しますと、確かに政府の方で御用意いただいています参考資料ですね、例えば「イラク人道復興支援等に関わる各国軍隊派遣の状況」という資料が各議員の皆さんのお手元にもあると思いますので後で確認していただきたいと思いますが、その中では、七月十一日判明分で軍隊派遣をしている国が十四か国挙げます。その中に確かにサウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦の三国が含まれているんですね。ところが、この間調査して判明したことは、少なくともその三国は、アラブ三国の側はこれを軍隊派遣とはとらえていないということであります。  その点に対しましては、そのアンケート調査の三枚目をごらんいただきたいと思いますが、三枚目の「アンケート調査結果要約」というものの右側のページ、三のところの真ん中のところに「参考」として、「中東諸国自体によるイラクへの支援」というところをごらんください。  ここでまず、昨日サウジの大使館で一等書記官の方とお話ししたんですが、サウジは、私がこの表を示してサウジは軍隊を派遣していますねというふうに伺ったらば、医療援助をしていると。それはたまたま国防省の中の医療部門のスタッフが出向いてはいるが、基本的に非武装であるということをおっしゃいました。で、ゆえに軍隊派遣ではないということをおっしゃったんですね。  私は、ただ、文民ではなくて軍人の身分である方が行かれる以上やはり武器は持っていかれるんでしょうということを確認したんですが、自分の知る限りそういうことはないと。むしろ向こうから問い返されまして、これは人道援助で病院をやっているのでそれを襲撃するイラク人なんていないと。人道援助なので襲撃されるおそれはないので非武装で行っているということをおっしゃいました。同時に、この援助はサウジが全く独立でやっておりまして、CPAの管轄下にはないということをおっしゃいました。  より強く強調されていましたのはヨルダンでありまして、その下はヨルダンになりますが、国連の枠組みがなければ軍隊を派遣しないという立場から軍隊は派遣していないと。ファルージャというところに野戦病院を設営したけれども、これは機動性に優れているから野戦病院を送るということをいろんなところでやっていて、パレスチナとかシエラレオネとか東ティモールにも設営したが、その一環であると。緊急時に、急に文民のおじさんを何か呼び集めて、さあ行ってくれというわけにいかないので、野戦病院が行くだけだと。スタッフは基本的にやはり非武装であると。  私は、やっぱり武装はしていらっしゃるんでしょうかということを確認したんですが、大使は、恐らくガードマンは略奪に備えるためにピストルぐらい持っているかもしれないけれども、基本的には医療スタッフは非武装であると。同時に、CPAの管轄下にないということをおっしゃいました。私が、しかし軍隊派遣というリストの十四か国に入っていますねということを申しましたらば、それは何かの間違いだろうと。我々の派遣は軍隊の派遣というカテゴリーには入らないということをおっしゃいました。  以上です。
  62. 吉川春子

    吉川春子君 どうもありがとうございました。  板垣雄三公述人にお伺いいたします。公述人中東の歴史を大変詳しく研究されておりまして、この法案の見方についても非常に私としては大変触発される面がありました。  それで、お伺いしたいんですけれども、私たち学校時代には、世界四大文明発祥の地、チグリス・ユーフラテス川の地ということで一生懸命教えられたわけなんですけれども、この地域でおよそ文明とは逆行するような事態が起こっているということについて、文化遺産も遺跡も失われるということについて本当に心が痛む思いがいたします。  日本はこれまで中東に石油を依存してきたわけですけれども、今回、中東自衛隊を派遣するということによってどういう意味を持つのか、日本の軍隊が中東に行くということはどういう意味を持つのか、今後の日本中東諸国、イラクを含めてですね、そういう諸国との間にどういうことが起こるのかという点について御意見を伺いたいと思います。
  63. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) ただいまの御質問で言われたとおり、イラクという国に関しまして日本社会でのイメージというのは何となく後進国という、そういうイメージかもしれませんけれども、人類の文明の発祥の地であり、そして、例えばユダヤ教、キリスト教、イスラム教、そのすべてにとって非常に、最も重要な人物であるアブラハムというのは、まあ今風に言えばイラク人です。ですから、日本社会におけるまずイラクという国に対するイメージという、そういうものをまず我々として考え直さなければならないと思いますが、同時に、ただいまお話にありましたように、我が国のエネルギーの問題として、殊に湾岸の地域イラクを含む湾岸の地域というのは言わば死活的な場であることは言うまでもありません。  そして、これまで、これは公共放送で「プロジェクトX」とかなんとかいうようなことで言われてきたような、この間の、第二次世界大戦後の日本人中東における活動という、そういうものを通じても、例えばスエズ運河がイスラエル軍の爆撃下にあったときに、日本の会社が文字どおり命懸けでその爆撃の下でスエズ運河の拡幅工事というのをやったとか、あるいはイランが石油を国有化して、そして国際的な石油大資本によって痛め付けられている、そこへまた日本の石油会社が単独でその油を運び出す船を、日章丸という船でしたけれども、差し向けるとか、こういうたぐいのことが、この広島、長崎という、そういう経験とも重なり合って、中東人々にとって日本に対する非常に重要な親愛の感情という、また共感の気持ちというものをはぐくんできたと思います。しかし、残念ながらこのところ、私が指摘しておりますのは、言わばこの数か月という、そういうことかもしれませんけれども、中東人々日本に対する見方というものはかなり大きく変わってしまいました。  したがって、これもまた今日、私の話のキーワードである覚悟ということとつながりますけれども、日本の国としては、これから将来の日本というものの安全、安心というものを実現していくためには、中東人々のそういう日本観というものの変化というものに対して、非常にこのことについて敏感に、また、かつ適切に対処していく、そういうことが必要だと思います。そういう意味で、情報能力というものが非常に重要だと思っております。
  64. 吉川春子

    吉川春子君 ありがとうございました。  前田公述人にお伺いいたします。  公述人は、日本のかつての侵略戦争の戦後処理問題にも取り組まれておりまして、国連の人権委員会でのロビー活動も活発におやりになっていらっしゃいますし、今お話にもありましたように、ブッシュ大統領戦争犯罪を問うアフガニスタンの国際戦犯民衆法廷の活動もされているわけです。慰安婦制度を裁く女性戦犯法廷なども東京、そしてハーグで開かれて、私はこういう活動を大変重要な活動だと思っているわけですけれども、国際政治上、こういうNGOの戦争犯罪人を裁くといいますか、女性法廷のときは天皇も裁かれたわけですけれども、こういう活動にどういう意味があるとお考えでしょうか。  それは、やっぱり日本戦争に、反省して、九条を持って、しかしその九条がなし崩しにされて、今度、イラクにまで行くと交戦権も行使するのかという時点に立たされたときに、やっぱり非常に私はこのことを強く思うわけですけれども、公述人の御意見を伺いたいと思います。
  65. 前田朗

    公述人(前田朗君) ありがとうございます。  今御指摘いただいた日本の戦後補償問題に関しましては、私も国連の人権委員会及び人権促進保護小委員会におきまして十年ほどいわゆるNGOのロビー活動を続けてまいりました。本年の春にも行きましたし、この夏にも行く予定であります。  その中で痛感いたしますのは、日本のNGOあるいは国際的なNGO、そして人権を尊重するということを表明している幾つもの国々が十分御理解いただけているにもかかわらず、私どもの主張が日本政府にはなかなか通らないという、いつも痛感することなんですけれども、そのときにNGOが、例えば国連の中でどのような活動をするのかとか、あるいはそういう活動を通じて自分たちの国の更なる教育の発展とか民主化の発展とか権利の擁護とか、そういうことをやることの意味がなかなか御理解いただけていないのではないかというふうに痛感してまいりました。  戦後補償問題においても、いわゆる日本軍慰安婦の問題につきまして、日本が何をやったのかという事実自体が問われているのに、それを様々な形で問題点をずらすということが行われてきて、当時の国際法あるいは今日の国際法から見てどのような評価であるのかということがいつも見忘れてしまう、そういうことが起きてまいります。その中でNGOの活動が空回りしていくということが起きてきたのかなというふうに思っております。  私どもがやっている民衆法廷につきましても、NGOが、あるいは市民がという言い方になりますけれども、国家が国際法を守らないときに、NGOや市民がこのように守るべきであるということを提案をしていく、あるいは新しい国際法の在り方を提案をしていく、そういう努力をNGO自身が、まあ私も長年やってまいりましたけれども、まだまだ力不足でありまして、この部分をもっと強力に発展をさせて、政府や国際機関が担っている役割に対してどのようにNGOが協力し、あるいは補完し、あるいは提言をできていくのか、そのことが私たち自身にも問われているし、また政府の側にもNGOの役割について更に十分な御理解をいただきたいというふうに考えております。
  66. 吉川春子

    吉川春子君 済みません、ほとんど時間がなくなったんですが、一言上田公述人にお伺いしたいんですが、ほかの論文で、ドイツとの比較で日本自衛隊、軍隊を考えるということをされておりますが、私は、ドイツはやっぱりあの戦争についての反省をきっちりとしていると、それでEUの中でもああいう地位を占めていると思うんですが、その点、日本はなかなかやっていないという批判を受けています。  そのことについて、今度のイラク支援との関係でどうお考えでしょうか。済みません、時間が短くて。
  67. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) ドイツには何回も行っておりますが、私は法律学者ではありませんからそれほど詳しくは分からないんですけれども、いろんな軍人辞めた人、そういうあれをお聞きしますと、この過去十年間に、湾岸戦争以降ですね、相当ドイツはいろんなことを考えて、だけれども、まだ縛りは相当あります、反省もしております。ですけれども、日本とは比較にならないほど変わったんだよということを言ってくれるんですね。  そうすると、逆に言うと、日本はもう全然、考えないと言うとおかしいですけれども、そのままでいて、その都度議論をしていることでいいのかなという思いがあるんですけれども、それはドイツ人自身が非常に合理的に考える民族ですから、もう自分たちのやれる範囲で最大のことをやるように、国内で変えるものはどんどん変える、基本法をどんどん変えているということを相当目の前で認識をしております。
  68. 吉川春子

    吉川春子君 時間なので、委員長、終わります。
  69. 広野ただし

    広野ただし君 国会改革連絡会(自由党・無所属の会)の広野ただしです。  今日は本当に、五人の公述人皆様に本当に参考になる御意見をいただきまして、ありがとうございます。もう二時間以上たっていますから大変お疲れだとは思いますが、是非、重要なことですので、よろしくお願いをしたいと思います。  まず、板垣先生にお伺いしたいんですが、非常に歴史的な経緯ですとか文化的な観点からすばらしい参考になる御意見をいただいたんですが、私は特に、日本人覚悟ができているのかという、私も正にそういう思いでおります。覚悟のないところで、ただお付き合いでとか、それこそアメリカとの関係イギリスとの関係というのは非常に大切だとは思っておりますが、そういう覚悟のないところでふらっと出ていきますと、どういう被害、どういう犠牲が出るかも分かりませんし、また相手国民に対しても、どういう犠牲あるいは被害を及ぼすかも分からない。  特に、言語も違いますし、民族も宗教も歴史も風土も全く違うところでありますから、そういうところをよく分かって行くならば、本当に大変な準備の下に行かなきゃ、出ていかなきゃいけないし、先ほどおっしゃいました地域研究あるいはそういう専門家の御意見を本当に大切にしながらやらなきゃいけないんじゃないかと、こう思っておるわけですが、実際、私も昨年、イラク周辺国ということで、トルコ、シリア、レバノン、エジプトへ参りまして、本当に戦争になるかどうかというそういうことも視察に行ったわけですが、そしてゴラン高原へ行きまして、UNの旗の下に兵力引き離しのことをやっているところもつぶさに見てまいりましたけれども、やはりこれからはもう灼熱のところでやるわけで、しかも今度は十一月ですか、十月の二十六日からはラマダンに入るということですね。そしてまた、イラク国民は、特にアラブの中でも非常にプライドが高くて、ちょっとチップですとかお礼をするときでも、今度は大変な侮辱をしたふうに思われることだってあるというふうに伺っておりますし、やはり昼寝といいますか、シエスタというんですか、そういうようなことも全くそれはもう日本と違うわけですね。  そういう中で出ていくと、特に陸上自衛隊ということになりますと、これは国民との、イラク国民との間の接触というものがいろいろと出てくると思いますので、そういうときに誤解とか、理解が十分ではなくて思わぬことが起こるんではないかということを懸念をしておるんですが、その点もう少し何かいろんな具体例がありましたらお教えいただきたいなと思いまして。
  70. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) 広野議員のお尋ねにどれだけ短い時間でうまくお答えできるか自信がありませんが、確かにお話のとおり、これからどういう形にせよ日本イラクの復興のために貢献する、協力するということのためには、その土地の文化について十分な理解を持たなければならない。まず何よりもアラビア語ができなければ全然話にもならないという、そういうことです。通訳を介して、それは確かにコミュニケーションは成り立つでしょう。しかし、心が通うそういうコミュニケーションにはなりません。  そして、お話のとおり、宗教というものについての認識も非常に重要であります。例えば、後ろから車で追突しておいて、追突した人がマレーシュと、気にするなという、そういうことを言う、そういう文化、これは実は宗教に非常に深く根差しているものであります。そういうもう片々たることから誤解という、そういうものが生じる危険性がある。  それから、先ほどは非武装というのが最も理想的なんだということを申しましたけれども、そういうことともどこかでつながるかもしれませんが、やはり女性というものの役割が非常に重要です。ジェンダーという視点がなければ人道復興支援も安全確保も十分できません。男は入っていくことのできる範囲が非常に限られております。女はどこへでも入っていくことができます。そういう意味で、活動範囲からして全く女性の方がより広い効果的な活動をすることもできるという、そういう問題もあります。  そういう式の、その土地についての認識、先ほど情報能力ということを申しましたけれども、それは非常に重要です。私は、一九七〇年代の半ば以降、レバノン内戦のときにしばしばレバノンにも参りましたが、ベイルートの町でもう非常に激しい市街戦をやっている、そのワンブロック隣の通りではお茶を飲んで冗談を言ってゲームをやって楽しんでいるという、そういうふうな状況、これはその土地の人々としっかりと結び付いたそういう知識、そしてその文化に対する理解、それに支えられた情報能力という、こういうことがなければどこが安全かということも見極めることはできないという、そういうことです。  一九七八年に、日本の総理として初めて、当時、福田総理が中東諸国訪問をされましたときに、その後、梅棹忠夫さんが団長になりまして、私もそれに加わって、あと京都大学に当時おられた上田さんという、上田篤さんという方ですが、その三人が政府派遣の中東文化ミッションということで、ちょうど福田総理の訪ねられた跡をたどる形で訪問いたしました。  そして、帰ってきて、官邸に、日本として、国として中東研究研究所を持つべきであるということを申し上げた、そういう文書をお届けしたわけですが、そのときにはもう既に大平内閣に替わることにちょうどなっちゃっていたということもありましたが、そういう式で、もう既に四半世紀前からもうこの課題というのはずっと持ち越してきているわけです。それを今ここで何とかしなければならないという、かなりせっぱ詰まったぎりぎりの状況に来ているのではないかと思っております。
  71. 広野ただし

    広野ただし君 私も、七八年ですか、レバノンに参りまして同じ経験をしたことがございます。ですから、市街戦なんですが、ビルごとに取り合いをするわけなんですが、全くこちらは安全なところという場所があるわけですね。そういう経験があるわけですが、そういうことで全くの同感であります。  ところで、国連はある意味でいろんな欠陥も持っておりますけれども、やはり人類の歴史の中で国連というものをしっかりとやっていきませんと、これはもう紛争解決をすることにもいろいろと問題が出てきて、アメリカ一国主義の平和維持ということでは大変な問題が起こると私は思っております。ですから、国連中心主義というのは、もちろん国連改革ですとか安保理改革をしっかりとやっていくということがまずあって、しかる後に国連の下にいろんなことをやるということが非常に大切だと思っておりますが。  小川参考人にお伺いしたいんですが、やはり日本が主体的に、主体性を持ってイラクの復興等に協力をすると、これは正にそうだと思うんですね。そのときに私は国連の旗の下に行くと。国連が明確に、例えば治安に対する協力、あるいは人道支援ですとか復興支援についてはオールメンバーにもう明確にコール・アポンしているんですね。ところが、治安については、占領軍、連合占領軍の方には任せる、それに対して出てくるのにウエルカムだというような表現を使っていまして、必ずしもUNの旗の下に行くということにちょっとなっていないんじゃないかなと思うんですね。  そこのところは、ちょっと見解の相違はあるかもしれませんが、そういうところで、治安のところで日本が入ってまいりますと、占領軍への協力をしているんじゃないかというように受け止められて反感を買うというおそれがやっぱりあるんじゃないかなと思うんですが、その点はいかがでしょうか。
  72. 小川和久

    公述人(小川和久君) 大変重要な御質問、ありがとうございました。  私もその辺は大変懸念しておりまして、CPAともきちんと話をしながら、やはり占領軍の指揮下にあるのではないと。日本独自の原理原則の下に、戦後の治安維持の段階では、その能力を持った自衛隊を出すのだということをきちんとイラク国民に伝えていくことがまず大事だろうと。ですから、アラビア語で新聞を毎日出す、これはタブロイド判でもいいんですが、あるいはラジオの放送をする、テレビを使う場合もあるだろう、そういったことを特に任務が与えられた地域でやっていくことが日本の意図を伝える意味では重要であろうということをずっと言ってきたわけであります。  ただ、同時に、押さえておかなきゃいけないのは、今お話の中にもありましたように、日本はやはり、より国連を機能させ、国連のやはり旗の下に戦後復興を手伝うということを明確にすべきだと。これは、もういろんな国がいろんな意見を言う中で、アメリカ自身もやはり国連の新しい決議を少し考えてもいいという方向に動き始めていますから、やはり日本はそれをもっと強く打ち出すべきだと思います。  ただ、同時に、治安維持という話とか、あるいは戦争犯罪の話、大変勉強になるお話がこれまで出ておりましたけれども、同時に私たち視野に入れなきゃいけないのは、例えばイラクだってサダム・フセイン政権の残党もいます。この人たちがいわゆるゲリラ戦闘をやっているという現状なんですが、同時にその人たちからねらわれているイラク国民もやはりたくさんいるということです。恐らく半分はいる。だから、自衛隊の任務区域はどこであろうとも、そこの地域イラク国民をやはり守る能力を持ったものがまず治安維持ということで、あるいは治安の回復ということで能力を持っていかないことには、やはりこれは絵にかいたもちになるということなんですね。  あるいは、戦争犯罪ということでいいますと、同時にやはり我々が議論しなきゃいけないのは、常にアメリカが悪者になっている、これはアメリカが大変専横という格好で目に映ることは事実なんですが、同時に、じゃサダム・フセインの犯罪はどうなったのか、あるいはタリバンの犯罪はどうなったのか、そういった問題も視野に入れながら我々は独自の理想を実現すべく行動すべきじゃないかと思うんですね。  治安維持能力の中で部隊装備火器などの話が、先ほど来御質問の中で御説明申し上げたんですが、例えばその地域の住民、イラク国民を守らなければいけない場合、二つの行動を可能とする武器、あるいはその武器の使用を可能とするようなROE、部隊行動基準というのは最低必要になるだろうと。  その行動の一つは遅滞行動です。つまり、学校に遅刻するの遅に、税金の滞納の滞。つまり、押し寄せてくる敵、これは正規軍、米軍のような部隊が来たら自衛隊が持っていく能力では対処できませんが、ゲリラ戦闘などしかできないようなレベルの、サダム・フセインの残党や何かがこちらに迫っているといったような情報があったとき、彼らに足止めを食わせながら、イラク国民も同時に守って退避するだけの武器は持っていかなきゃいけないだろう、そのための部隊行動基準も必要だろう。  あるいは、それはあるとき、向こうのホームグラウンドで活動するわけですから、かなり近いところで攻撃が掛けられる場合もある。そのときはこちらも防御する態勢にはなきゃいけないし、一定の陣地は築いてその拠点の中には入らなきゃいけないんですが、やはり、突撃破砕射撃というんですが、一定の方向に向けて各小銃であるとか機関銃であるとか、そういったものの射手が撃ちまくりながら、十字砲火を浴びせながら敵の突撃を防ぐという、一番ベーシックなやり方がどこの国でもあるわけですね。そういったことが可能なだけの武器あるいは部隊行動基準というものをやはり与えなければ、これは現地の人の生命も守ることができないということになってしまいかねない、そういう感じがいたしております。  どうもありがとうございました。
  73. 広野ただし

    広野ただし君 そういうことの中で、上田公述人にお伺いしますけれども、私も、単なる積み上げ方式とか特別措置法でやっていくということではなくて、基本法というものをしっかりと定めて、私たち自由党では、国連中心、国連の旗の下に、極めて抑制的ではあるけれども、安全保障基本法というものを作って、そういう中で国際協力をするという考え方を持っておりますが、積み上げ方式ですと、どういう事態に発展、予想せざることになるおそれがあって、私はやはりまず基本法を作ってからと、こう思っておりますが、その点について、先ほどもおっしゃいましたが、再度お伺いしたいと思います。
  74. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) 今までは積み上げざるを得なかったのではないかなというふうに思っております。そういう基本法を作るのはもちろん大事なことで、やらなくちゃいけないことだと思っておりますけれども、従来まで何回かそういうことがありまして、先生がおっしゃったように。それを同時にやる時期が必要なのではございませんか。つまり今のことですね。イラクの方どうするのという、そのことをやりながら、そういう経験を踏まえながら基本的なことをこれから五年なり十年なり考えていかなくちゃいけないという気がしておりますけれども、つまり、二つの路線で走るという時期が必ず必要になってまいりますですね。  そのときに、実は世界情勢なりそういう軍事的なこともどんどん変わっているわけです。もう私も古い人間かもしれませんけれども、そういうことをある程度研究しながらいかないと、古いやり方だけでいいのかよというふうになってしまいますから、それは先ほど申し上げました軍事に関する、軍事という言葉がいいかどうか分かりませんけれども、そういうことに関するシンクタンクなり戦略研究機関でございますね、これはもういち早く立ち上げて、相当長くやりませんと、くるくる替わってしまう、人が替わったんじゃもう駄目ですね、これ。十年ぐらいやらないと、一人の人が、駄目なのではないかなという気がしております。そして、できればそのときに、辞めた人間、私みたいな、私という意味ではありませんけれども、私のような人間も何%か入っていなければ、現実の問題は全くこれは出てこないということを申し上げたいと思います。
  75. 広野ただし

    広野ただし君 最後に小川公述人、もう一度お伺いしたいんですが、今度の場合、タイム誌も、ザ・ポストウオー・ウオーというようなこととかザ・ウオー・ザット・ネバー・エンズということで、終わりのない戦争というようなことが言われておって、私どももその懸念を非常に強く持っているんですね。本当にどれくらいたてば治安が維持されるのか、また、非戦闘地域と言っておりますが、そういうようなところというのは想定されることになるのか、最後にお伺いしたいと思います。
  76. 小川和久

    公述人(小川和久君) これは、具体的に何年ぐらいたてば治安が回復するかとかいう話は、私どもこれは予測すらできませんし、恐らくアメリカだってイギリスだって、あるいはイラク国民だってその辺は予測できないんでしょう。  ただ、テロとの戦いというのが同時に今行われておりますね、日本も参加しておりますが。ただ、テロとの戦いにつきましては、私はよく医学に例えて話をする。つまり、三段構えをちゃんとやっていかないとテロを根絶することはできないだろうということを言っております。  まず、それは医学に例えると、公衆衛生学的なアプローチがまず必要だ。これはエンドレスである。千年単位、二千年単位の話である。つまり、テロはどこから生まれてくるのか。貧困であり、差別であり、民族対立であり、宗教対立である。そういったものをなくすために、例えば、そのときそのときで、世界の平和に責任を持たなきゃいけない国がどうやってかかわっていくかということがずっと行われなきゃいけない。その上で予防医学的アプローチであり、対症療法的アプローチがなければいけない。  予防医学的アプローチということは、個別の地域において、テロであり、それの温床である問題は何なのか、あるいはその組織はどういったものなのか、それに対する一つの特効薬的な対策はあるのか、そういったものを調査研究をし、講じていくというプロセスであります。  そして同時に、目の前にあるテロ、これは個別のテロの問題、そういったものに対してどうやって封じ込めていって実際に無辜の民の命が失われないようにしていくのか、そういったことをやっていく。そういった考え方でやらないとテロはなくならないわけですよ。  そういう発想をやっぱり個別、イラクの問題についても導入しながら、やはり軍事力というむき出しの、対症療法的なアプローチができるだけ早く終わるように、そういった努力をする以外に処方せんというのはないのではないか。  ですから、時間を明確にお示しすることが私どもはできないわけでありますが、まず日本人は、やはり一番苦手とする目に見えないような息の長い営み、公衆衛生学的アプローチからやらなければイラクの問題についても我々は答えを出したことにならないんだということを自覚をすることがまず必要ではないかなということを考えております。  どうもありがとうございました。
  77. 広野ただし

    広野ただし君 どうもありがとうございました。
  78. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 社民党・護憲連合の大田でございます。  先生方には大変お疲れだと思いますが、最後でございますので、いましばらく御辛抱いただきたいと思います。  まず、前田公述人にお伺いしますけれども、国際戦犯民衆法廷で何らかの結論が出たとしますね。そうすると、その後、その結論をどうなさるおつもりですか。どのような、例えば国連に持っていくとか、そういうお考えですか。そして、もし国連に持っていかれたときに、何らかの効果を上げ得るという、これまでの御経験から、ありましたらお聞かせいただきたいと思います。
  79. 前田朗

    公述人(前田朗君) ありがとうございます。  これは私が決めることではないんですけれども、私たちの法廷運動の中で議論している内容を申し上げますと、もちろん民衆法廷運動というのは実際に刑罰を科すことはできませんから、刑罰という形で考えているのではなくて、このような実際に行われた戦争とその下における犯罪をいかに解決するべきなのかという問題提起を国際社会にしていくということであります。  それは、一つには、戦争犯罪の解釈論、法解釈、国際法の解釈の在り方を具体的に事実と論理に基づいて提示をする。それからもう一つは、被害者救済のための補償の論理を明確に出していく。それからさらに、新たな国際法の内容作りを問題提起をしていく。例えば侵略の罪の定義というのは今日国際社会に存在しませんので、侵略の罪の定義を作る。あるいは、個別の問題でいいますと、例えば劣化ウラン弾の問題が今日も問題になっておりますけれども、劣化ウラン弾の製造、所有、使用について一定の規制を掛けるような国際条約の提案をするとか、そういうもろもろの判決を書き上げて、それを国際社会に提案をするということを考えております。  二〇〇〇年十二月に行われた女性国際戦犯法廷の判決も、国連の人権委員会及び人権小委員会に持っていきまして委員に配付をするということをこれまで行ってきております。同じように、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷についても、国際社会に問題提起をしていこうというふうに考えております。
  80. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 先ほども似たような御質問がありましたけれども、日本の現状を踏まえまして、今後我々が取るべき何か具体的な最善の方法といいますか、望ましい方法というのはどのようにお考えでございますか。
  81. 前田朗

    公述人(前田朗君) かなり抽象的な御質問になりましたのでなかなか難しいんですが、私は、基本的には軍隊による平和という考え方は採用できないと考えております。したがって、表現を変えますと、例えば、治安維持能力を持った軍事組織というのはかなり限られた限定的な範囲でのみ採用し得る考え方であって、基本的には採用できないというふうに考えております。もちろん、全面否定するわけではございません。一定の局面において有効な場合があり得るであろうという限度付きです。  したがいまして、軍事力による平和でありますとか軍事組織による治安維持ということを最初に考えるのではなくて、そのようなことが必要のない手だてを考えていかなければいけない。もちろん、今のイラクの現状からいきますと、そのようなことが全く不要であるということは言えませんので、そのようなことが必要であるとすれば、実際に必要視されているわけですけれども、そのようなことが必要であるならば、やはり国連、少なくとも今日の国際社会を規律している国連による、国連の名の下における対処でなければいけないであろうと。それ以外の形で行うということは、まず当初から行うべきことではない。それがまず第一歩であろうというふうに考えております。
  82. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 栗田公述人にお願いいたします。  今回のイラク特措法が成立して自衛隊イラクに派遣されるようになりますと、イラクを始め中東諸国に対して具体的にどのような影響があるとお考えでしょうか。
  83. 栗田禎子

    公述人(栗田禎子君) イラク及び中東諸国に対して具体的な影響があるというよりも、日本中東における国益が長期的に見て損なわれることになると思います。  つまり、これまでは、経済大国であるけれども一切軍事的手段を用いない、植民地主義の経験もなくて、非常に不偏不党の立場中東にかかわってきてくれたということでいいイメージを持っていた中東諸国が、今回、米英占領軍とほとんど一体化するような形でイラクに行くということになれば決定的に日本に対するイメージを変えるでしょうから、これからは昔の旧宗主国と同じような、旧植民地主義国と同じような目で見られるようになると。あるいは経済パートナーなんか選ぶ場合にも、イラク中東に対する戦争を支援しなかった国の方、例えばフランスを選ぶかもしれませんし、ドイツを選ぶかもしれませんし、ほかの国の方にシフトしていくということだってあり得ますので、中東イラクにどういう影響を及ぼすかというより、日本に対する影響を心配した方がいいんではないかと思います。
  84. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 板垣先生にお伺いします。  御専門の立場から、自衛隊イラクに派遣して得られる国益と自衛隊を派遣することによって失う点と比較してみますと、先生はどちらの方が大きいと御判断なさいますか。
  85. 板垣雄三

    公述人板垣雄三君) この問題は、余り一律に比較してこちらの方がいいというふうなことを、抽象的な議論としては簡単にできますけれども、現在の現実的なある社会的また国際的状況の中で簡単に一律の議論がしにくいと思います。  しかし、私としては、先ほど申しましたように、確かに自衛隊を派遣することによって生じるであろう様々なマイナス要因という、そういうものは十分に考えられますので、それをいかにして小さくするかという、あるいはその問題をもっと積極的なものに変えて転換していくことができるかという、そういう考え方をしたいというふうに思っております。  そういう点から、私は、アメリカの最近の世界戦略といいましょうか、そういうセキュリティーストラテジーという、そういうものとはそのまま一致しない、日本には日本の自主的な立場があるという、そういうこと、そのことはこの法案の中に私は、これは運用の仕方にもよると思いますけれども、あり得るというふうに今日は公述の中で述べさせていただいたわけですけれども、そのことを何とかして実現し、確保していくということが必要ではないかと。  そして、この安全確保の支援というようなところでも、実際には今、今日の、最近のイラクの中の状況というものについての様々な情報を解析いたしますと、かなり非常に顕著に地区ごとの自衛組織といいますか、住民が自ら秩序を回復し、維持するという、そういう活動を自主的にそういう組織を作ってやっている。これは、実はイラクもそうでありますけれども、中東の各地でもう歴史を通じてずっと言わばそういう地区の自治という、そういうふうなことを作り出してきた、そういう伝統というものがあり、それが今生きている、そういう面があるわけです。  簡単に言ってしまえば、自警団というものがどんどんどんどんできている。そういうところで、何か外側から行って、そして治安を作り出そうというか、何か我々がそういうものを、そういう状況を作り出してやろうという、そういう考え方が果たして正しいのかと。むしろ、そういう住民自身の自主的な努力という、そういうものを支援する、これこそがこの安全確保支援活動であるという、そういうふうな精神もこの際、大いに見直す必要があると思います。  したがって、御質問をちょっとずれた格好になってしまったかもしれませんけれども、機械的に数字でどっちが何%、より、何といいますか、利益が大きいかとかいう、そういうふうな計算はちょっとできませんが、今申しましたような形で、いずれの場合でもその進むべき道筋を何とか積極的に発見していくべきではないかというふうに言いたいと存じます。
  86. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 ありがとうございます。  小川公述人にお願いいたします。  先ほど、元々、陸上自衛隊を海外に派遣することは考えていなかったという趣旨の御発言がありました。自衛隊法、よく御承知のように、自衛隊法三条は、「自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする。」とあります。  それから、第三十九条に服務宣誓がありますけれども、服務の宣誓がありますが、その服務の宣誓でも、「私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。」とあります。  そうしますと、この規定が今回のように国外に自衛隊が派遣された場合にどのように合理的に適用されるのか、お聞かせください。
  87. 小川和久

    公述人(小川和久君) 大変重要な御質問ありがとうございました。  私も、昭和三十六年、十五歳で陸上自衛隊に生徒として入りまして、自衛官宣誓をやった立場でございます。その翌年には、キューバ危機のときに、訓練名目であったけれども、三日間、完全武装で待機した人間でございます。ですから、この自衛官宣誓でうたわれている中身というのは、任務地域がどこであろうとも、恐らく文言をほとんど変えることなく適用され得るものだと思います。  ただ、自衛隊法七十六条については、やはりそのものを国際貢献任務に当てはめるということが可能であるかどうか、それは恐らく国を挙げて議論をしなきゃいけない話ですね。ただ、カンボジアPKOから始まった、日本自衛隊国際貢献活動に出していくという動きの中では、それなりの整合性を持つものとして認めているという議論も、国会で半分を超える皆さん方の考え方になっていると。  その中で、今回のイラクに対する自衛隊の派遣というものがあるわけでありますから、その辺は、不十分なところは一杯あると思いますが、よりその辺を厳密に詰めていく中で、やはり日本が、先ほどの板垣公述人に対する御質問にもあったように、自衛隊を派遣することによってメリットがどれぐらいあるのか、デメリットがどれぐらいあるのか、どっちが大きいのかというような話まで視野に入れながら、デメリットができるだけなくなるような格好で審議あるいは議論を進めなきゃいけないものだと思います。  それから、自衛隊中東に派遣することによって、中東諸国のイメージというのは随分変わるだろうと。これはもう既にイラク戦争が始まる前に、イラクの当時のラマダン副大統領が民主党の首藤さんに対して、アメリカイギリスに次いで第三の敵国だなんて言っているわけですから、それなりのイメージの変化はあったんでしょう。ただ、これは日本側がやはりどれぐらい自分たちの理想を実現するためにやっているのか、つまり、イラクの国のために、中東のためにやっているのかということをきちっと発信していくという努力の中で相当緩和されるものだと思うんですよ。  例えば、今回のイラク戦争に反対したフランスにしても、サダム・フセイン大統領が核の開発をやった原子炉を、ほかの国と比べて十倍の値段で売っているということは世界じゅうがよく知っているわけであります。中東諸国もよく知っている。あるいは、生物化学兵器の製造プラントについてはドイツがかなりの部分を出しているというのはみんな知っているわけであります。  だから、今回、戦争に反対したから手が汚れていないとか、そういった議論というのは、ちゃんと整理をすれば理解してもらえる話だと思いますので、やはり我々が独自の立場で世界平和の実現のために本当に努力しているということを発信していく努力がまず一番問われるのではないかなという感じがしております。  どうもありがとうございました。
  88. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 ありがとうございました。  上田公述人にお願いいたします。  先ほど読ませていただいた自衛隊の任務ですね、それは国を守るということを規定していて、国民の生命、財産を守るとはなっていないんですね。自衛隊のOBの偉い方が、自衛隊の任務というのは国家の独立と安全を守ることであって、国民の生命、財産を守るのは二の次だということをお書きになっている方がおられるわけですが、戦争の御専門家としてどういうふうにお考えでしょうか。
  89. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) 大変ありがとうございます。  これは、我々は国民支持の上にすべてをやっているというふうに思っております、今は。  ところが、昔、それも半世紀以上昔ですけれども、それは全然違いますですね、大田委員御承知のように。今のもうほとんど一〇〇%の人は、国民支持なくして何やっているんだろうかという気持ちが多いわけです。国の何かを守るとか、そういうことは考えておりませんから、そういう御心配は今のものには要らないと思いますけれども、ただ、それをどういうふうに言っていくか、やっていくかということになりますと、いろんな制約なりまだまだ直さなくちゃいけない点はもうたくさん無限にあると思うんでございますね、あの法律は。
  90. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 端的な質問で失礼でございますが、参考人は国というのをどういうふうにお考えですか。ごく簡単で結構ですから。
  91. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) 国はやはり国民の上に成り立っているんじゃございませんか。国民があって、それから国と思っております。
  92. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 この間、有事法制を作るときに人権の保護ということを殊更に言っているわけですが、戦争になった場合に人権が保護されるとお考えですか。
  93. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) 戦争という非常事態になれば、人権の一部は制限がありまして、それで全体の利益のために一番いいポイントに持っていくと、そういう考えを持っておりますから、すべて何でも人権人権では成り立たないと思っております。
  94. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 最後の質問になりますけれども、自衛隊のOBの方々がお書きになったものの中に、いざ有事になった場合、つまり戦争状態になった場合に超法規的にならざるを得ないと。つまり、法律を守っていて戦争に勝てるかという、そういう意見がありますけれども、この点についてどうお考えですか。  つまり、戦争になった場合には超法規的にならざるを得ないというふうにお考えですか。それとも、法律を守って戦争ができるとお考えですか。
  95. 上田愛彦

    公述人上田愛彦君) これは、超法規という言葉は大分前に出た言葉なんでございますが、良くないと思っています、我々は。  決めていないから超法規になってしまうと、そういう逆の面もあります。それから、できればそれをはっきり決めていただきたいわけですけれども、決めるといっても最後のところはどうしても幅がありますですね、この軍事というのは。相手が来て何をやるか分からないわけですから、一々それを法律で決めるなんてことは到底不可能なんです。  その小さい部分につきましては、それを超法規と言うかは別なんですけれども、許される範囲があって、それで後でそれはちゃんと、まずければ下がるなりなんなりやらないといけないと。軍事なり危機管理というのはそういうものではないかと思っております。
  96. 大田昌秀

    ○大田昌秀君 ありがとうございました。  終わります。
  97. 松村龍二

    委員長松村龍二君) 以上をもちまして公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、一言御礼を申し上げます。  公述人方々には、長時間にわたり大変有益な御意見をお述べいただきまして誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)  これをもって公聴会を散会いたします。    午後四時四十四分散会