○
民部参考人 御
紹介にあずかりました
民部佳代です。
私は、四年前に結婚式を挙げ、夫とともに暮らしていますが、
婚姻届を出していない、いわゆる事実婚、内縁の状態にあります。きょうは、町議
会議員としてではなく、
法改正を待つ一人の女性として、なぜ
夫婦別氏
制度が必要なのかをお話しさせていただきたいと思います。
結婚のときに改姓を望まない
理由は人それぞれあります。例えば、
自分の
名前に愛着がある、
仕事の都合上、家名の存続、手続の問題、それらがよく言われています。具体的にどういう不都合があるのか、プライベートな話で大変恐縮ですが、私自身の例を挙げて
紹介させていただきたいと思います。
まずは、
名前への愛着。これは、多かれ少なかれだれもが持っているものだと思います。すべての女性が、結婚して
名前が変わることをうれしいと感じるわけではない、
名前が変わると
違和感を覚える、そういう女性がいること、それをわかっていただきたいと思います。
次に、
仕事の都合という点です。
私は、ことしの五月から町議
会議員を務めていますが、同時に、ある民間企業の社員としての
仕事も持っています。議員という
仕事は余り一般的ではありませんので、会社員の
立場としてお話しさせていただきたいと思います。
私は、入社以来十四年間、営業を担当してきました。営業という
仕事ですので、外部の方とお会いする
機会は多く、今まで恐らく五、六百人の方と名刺の交換をさせていただいていると思います。
もし仮に私が
名前を変えた場合、取引先すべてに私の結婚と改姓を連絡することはまず不可能でしょう。現在おつき合いある取引先にだけ連絡することでしたら可能かもしれません。ただ、今取引がなくても、数年たってから私あてに問い合わせが来ることもしばしばあります。問い合わせの電話を受けたのが、私の旧姓を知る
人間であれば問題はないのかもしれません。ところが、異動や新入社員などで、私の旧姓を知らない、新しい姓しか知らない、そういう人であれば、そのような者はおりません、そう答えるかもしれません。そうなれば、私自身の営業成績にかかわるだけでなく、取引先にも会社にも迷惑をかけてしまいます。
実際に、そのような不都合を解消するために、社内では、数年前から
通称使用が可能になりました。ただ、扱う製品によっては、薬剤師や危険物の取り扱いなど資格が必要なものがあり、資格が
戸籍名になっているために、ダブルネームを使い分けているという人も現にいます。また、
社会保障や税金、財形貯蓄、保険といった書類はすべて
戸籍名になっています。そのため、社内で、書類が届かない、違う方の
名前で書いてしまった、そういうトラブルも起きています。まだ
通称使用をする人が少ないうちはいいのですが、これから女性が結婚して働き続けていくことが多くなって、女性が
名前を途中で変えたり、
通称使用したり、いろいろな人が混在すれば、社内はますます混乱することになると思います。
社内外に混乱を起こさない最も簡単な方法が、結婚後も
戸籍の
名前を変えない、つまり、
名前に関しては何もしないという
選択でした。
次に、家名の存続という点についてお話しさせていただきます。
私の姓は大変珍しく、両親の住む岡山県にも、近い親戚以外、その名を名乗る者はいません。ただ、家名を守らなければならないというほどの旧家でもないようです。
大正生まれの父は、数年前まで居酒屋を営んでいました。私には一人、兄がおりましたが、結婚後、
子供はいませんでした。その兄が、おやじも年だからおれが後を継ぐと言い出して、居酒屋の手伝いを始めるようになりました。その数カ月後のこと、兄にがんが見つかり、その一年後、兄は四十歳で亡くなってしまいました。気を落とした父は、店をしまい、ふさぎがちになり、娘の私から見ても気の毒なぐらいでした。うちにはもう娘しかいない、そういう声をしばしば聞くこともありました。
そのしばらく後に、私の結婚が決まりました。私が、
名前を変えたくないので
婚姻届は出さない、そう申し出たところ、さすがに、
法律で保護されていない結婚というのに父は心配したようではありました。ただ、後から母に聞いたところ、親戚に、娘が
名前を継いでくれる、そううれしそうに報告して回った、そういう話を聞きました。
家名の存続というほどの立派な
理由にならないかもしれません。少子化が進む中で、家がお寺だからとか旧家だからなどという
理由で結婚できない人もたくさんいます。しかし、私のような普通の家でも、できれば
子供に
名前を残してほしいという思いを持つ親は多いようです。
最後に、改姓の手続についてお話しさせていただきます。
改姓の手続が面倒だと言えば、何を甘えたことをと
考える方もいらっしゃるかもしれません。それは、余り女性が財産らしい財産を持っていなかったときの話じゃないでしょうか。
今では、独身のときに複数の銀行や証券会社の口座を持つことは珍しくありません。運転免許証、パスポートは多くの独身女性が持っています。複数のクレジットカード、バイクや自家用車の登録、生命保険、傷害保険、印鑑登録などの手続も必要です。
さらに、これは私もそうなのですが、独身のときにマンションを購入する女性もいます。そうすれば、マンションの登記だけでなく、住宅金融公庫や民間のローンの名義、それらに設定される抵当権、団体信用保険、火災保険、すべて改姓の手続が必要になってきます。
マンションを購入したときは、営業マンが目の前に書類をそろえてくれ、それでも気が遠くなるほど署名をして捺印しました。結婚して
名前を変える場合は、だれかが書類をそろえてくれるわけではありません。
自分でやれば大変な労力もかかりますし、お金を払って司法書士にお願いしなければならない手続もあります。
仕事を持つ身で、平日に銀行や役所を回ってこれらの手続をすることを
考えていただきたいと思います。
ここまでお話しすると、では、夫に
名前を変えてもらえばいい、そういう
意見もあろうかと思います。しかし、男性で喜んで
名前を変える人はまずいません。
幸い、私は理解ある夫に恵まれ、
自分が
名前を変えてもいい、そう申し出てくれました。ただ、夫は幼いころ父を亡くし、母と妹の三人
家族でした。幾ら夫が
名前を変えてもいいと言ったところで、夫の母の心情として、
自分の息子が
名前を変えて、しかも妻のマンションに引っ越す、どうしても、息子をとられた、寂しいという心情がわくのではないかと思います。夫自身が本心から
名前を変わりたい、そう
考えているならともかく、夫の母に寂しい思いをさせてまで、こちらの一方的な都合を押しつけるわけにはいきませんでした。
よく、
別姓を認めると離婚がふえる、そういう声を耳にします。姓が同じでなければうまくいかないという
夫婦であれば同姓にしたらいいのです。しかし、私
たちのような
夫婦の場合、どちらか一方が気の進まないまま改姓する方が、二人や周囲との
関係をぎくしゃくさせてしまいます。そもそも、
夫婦はこうでなければうまくいかないなどと
法律で決めること自体、無理があるかと思います。
日本人でも、相手が国際結婚の場合は、同姓にするか
別姓にするかを
選択できます。離婚するときに、もとの姓に戻すか、
婚姻時のままの姓でいるかを
選択することもできます。なぜ
日本人の結婚のときだけ、どちらかが必ず
名前を変えなきゃいけない、そういうハードルを設けなければ離婚がふえるなどと、そんなおかしな
考えが出てくるのか、私には全く理解できません。
事実婚という結婚の形で今まで問題なく過ごしてきましたが、法的な
夫婦でないことについての不安はあります。
私は、ごらんのとおり、秋に出産の予定です。出産前に夫にもしものことがあったら、
子供の
法律的な
立場はどうなるのか、遺族年金は受けられるのか、相続はどうなるのか、非常に心配しています。夫がもし転勤してしまえば、私は町議
会議員ですから、引っ越しはまずできません。恐らく単身赴任になるでしょう。そうなると、私
たち夫婦の
関係は、内縁とは言えなくなってしまいます。別居の手当も出ませんし、内縁でも保障されているような
制度を受けることもできません。
まだ私
たちは
子供に恵まれたのでいいんです。実際に、不妊で治療を受けたい、でも事実婚だから治療してくれる病院がない、そう悩んでいる女性もいます。また、
子供のことが心配で
法律が
改正されるまで
子供をつくるのを待つ、そういうカップルもたくさんいます。
私
たちはリスクを承知の上で事実婚という形をとっていますが、このまま
法改正されなければ、リスクをよく理解しないまま
婚姻届を出さない、そういう
夫婦がふえてくるのではないかと思います。実際、ここ数年、事実婚にしたという知人がふえました。いわゆる内縁の
夫婦や非嫡出の子がふえる前に、早期に
法改正を行って、姓を変えなくても
夫婦として認める
制度に改めるべきだと思います。
以上で私の陳述を終わらせていただきたいと思います。(
拍手)