○船越
参考人 全国借地借家人組合連合会の船越
康亘でございます。本日は、本
委員会にお招きをいただき、
短期賃貸借制度に関する借地借家人の
立場からの
意見を述べさせていただく機会を与えてくださいまして、まことにありがとうございます。
今回の
短期賃貸借制度の廃止の
民法改正法案に当たっては、基本的には、同
改正法案に対し、善良な賃借権者の救済措置が極めて不十分であり、
抵当権設定後の賃借権の
対抗力を最小限保障することを強く
要請する
立場から
意見を述べさせていただきます。
その理由は、以下のとおりです。
その第一は、今日の借地借家人を取り巻く住宅事情からであります。
住宅貧困者層は、生活不安と居住不安の二重の不安を抱えて深刻な状況にあります。
昨年三月、国土交通省の外郭団体でつくられた住宅市場研究会の報告書によりますと、今日の借地借家人の住宅事情は、我が国の高齢社会が進行する中で、民間借家の高齢者世帯は二〇〇〇年で約百七十九万世帯であり、二〇一五年では約三百三十万世帯に急増すると報告されています。また、民間借家住まいの高齢者の平均年収所得は一九九九年で三百二十八万九千円であり、その四六・五%の世帯が生活が苦しいと訴えています。
しかも、高齢者世帯が安心して住み続けられる住まいの
確保は、依然として入居差別が横行し大変困難であります。
とりわけ、大都市の借家人は、かつての戦前長屋や木賃住宅が主たる住まいでありましたが、地上げ屋の標的になり長年住みなれた地域から追い立てられ、住み続けられる権利が奪われていきました。地上げのその跡地は
土地の高度
利用が進み、
建物は高層化し、その大半の
建物は投資対象となり、
金融機関の
融資によって供給されたものです。その供給された建築物は、完工直後に
抵当権が設定され、その後賃借権が設定されています。
一九九八年度の
土地住宅統計調査によりますと、全国の約四千四百万世帯のうち、民間借家は一千二百万世帯であり、そのうち九百二十八万世帯が集合賃貸住宅、いわゆる賃貸マンションの居住世帯であります。それは、国民の約二一%が賃貸マンション居住者であることが推計されます。借家住まいの約七八%の世帯が賃貸マンションに居住していることも明らかです。
今回の
民法改正法案は、これらの賃貸マンション居住者の居住の安定に少なからず大きな影響を及ぼすものとなります。
第二に述べたいことは、賃借権の設定を前提にした
建物に対する
抵当権設定には、賃借権の
対抗力を保障することの正当性についてであります。
先週私は、大阪のある賃貸マンション居住者から相談を受けました。その一つは、九十戸の賃貸マンションの居住者から、従来の家主からこれまで月額八万円の家賃を月額二万円に値下げし、保証金はこれまで四十万円を六十万円に引き上げる新規契約を結びたいというものでした。事情を聞くと、その賃貸マンションは、既に
競売手続がとられ、
裁判所から事前調査が完了し、近々中に
競売になる予定でした。相談者は、入居十八年がたち、
抵当権設定以前の賃借権者であり、契約の更新に応じませんでした。
二つ目の事例は、ことし四月に仲介業者の
紹介で賃貸マンションの契約を行った居住者から、仲介業者から受け取った重要事項説明書についての相談でした。同説明書は、
不動産業団体が発行した様式でした。そこには
権利関係について記載する欄がありましたが、無記載で説明も受けていませんでした。また、家屋所有者欄にも空欄のままで、貸し主不明の説明書でありました。その後、私たちが調べますと、その仲介業者は貸し主が依頼した仲介業者とは別人で、
登記簿謄本の提示もなければ貸し主も不明であるという物件を仲介したことがわかりました。
この二つの相談事例は、今日の賃貸住宅市場の中で起きている相談事例としてはまれなものではありません。
賃貸マンションは八〇年代前半から急増しましたが、その大半は住宅金融公庫などの公的資金の
融資を受けて供給されています。そして、バブル前後には、地上げ跡地に
土地の高度
利用と投資を
目的に
金融機関が湯水のごとく莫大な資金を
不動産へ投資し、地価の暴騰を招いたことは御承知のとおりであります。そして、それまで公的資金の
融資に依存して供給されていた賃貸マンションの建設資金の
確保は民間
金融機関に依存し、一九八八年から一九九八年の十年間で賃貸マンションの供給はおおむね倍増しました。このように急増した賃貸マンションは、
建物が完工された直後に
抵当権が設定され、その後に賃借権が設定されることになります。いわゆる賃借権の設定があらかじめ確定している
融資であり、そこに
抵当権が設定されているのです。
そこで、賃借権者は、
抵当権設定後の賃借権は、競落後の新所有者に対する賃借権の
対抗力が消滅することについてほとんど無意識のまま
賃貸借契約が締結されていることが通例であります。
宅地
建物取引業法は、仲介業者が
賃貸借契約の仲介をするに当たって、あらかじめ重要事項説明書に
権利関係について説明する義務があります。しかし、同説明書には
権利関係も記載せず、説明もしない状況であります。記載されていたとしても、
抵当権設定後の賃借権は、競落後の新所有者に
対抗力がないことまで説明していません。仮に、借り手側は、仲介業者から、賃借権が新所有者に
対抗力がなく契約が解消されることを知ったならば、通常の場合、
賃貸借契約は締結しないでしょう。また、仲介業者側は、そのような
権利関係を借り手側が知り得たならば、
事業活動に少なからず影響するため、説明も消極的にならざるを得なくなります。
また、大多数の借り手側は、
抵当権と賃借権との関連については全くの無知であり、仮に仲介業者が説明したとしても、将来にわたって居住不安が起き得ることを予測せず、理解しないまま契約を締結している場合がほとんどです。
私は、
担保抵当権制度を否定するつもりはありません。
債権者が
債務者の債務不
履行の際生じた債権
確保として、
抵当権の設定は有効な措置と
考えています。
同時に、
現行民法が
制定された当時は、金銭貸借や商取引で生じた債務不
履行の際の債権
確保の予備的手段として施行されたものであって、今日のように投資
目的とした
融資の金銭貸借の
担保としては
考えられていないと思われます。
なぜならば、
不動産投資に対する経済活動は当時は皆無であったからです。住宅金融公庫法の
成立後、賃貸住宅建設資金の公的
融資制度が拡充し、住宅投資が経済活動の中に一定のウエートが置かれる中で、賃借権設定前の
抵当権設定の
建物が大半となったと
考えられます。その上、賃借権の設定された
担保価値は、賃借権が付与されていない
担保価値よりも当然下落することは
抵当権者は自明のことです。
三つ目の
意見は、私は、少なくとも、賃借権設定を
目的にした
建物の
抵当権設定後の賃借権は、善良な賃借権者に限って
対抗力を付与し、救済措置を求めるものです。
善良な賃借権者は、安全で安心して住み続けられることを求めて
賃貸借契約を締結しています。そして、そこに住み続けてこそ、地域社会の一員として生活者となり得るのです。善良な
賃借人は、
賃貸借契約の最も基礎的条件である信頼関係を尊重し、日常生活を送っています。人間の尊厳を守り、生活の基礎的基盤である住まいがある日突然破壊される
事態となると、それははかり知れない苦痛と不安の生活が始まります。
かつてバブル経済の中で、地上げ行為が、人権問題となり地域崩壊につながり大きな社会問題となりました。今回の
民法改正法案は、地上げ行為の合法化をさらに強めることになりかねません。既に、地上げ屋は、
競売物件の買いあさりを始めていると言われています。
今回の
改正法案は、競落後三カ月後には契約の解消を余儀なくされ、再契約するとしても新所有者の一方的な契約条件に応じない限り、借地借家人には選択の余地もありません。その上に、
賃貸借契約締結時に預けた
敷金、保証金が返済されないということになれば、賃借権者の住みかえや
事業の再建すら奪うことになります。
私は、善良な賃借権者の救済措置がない中で今回の民
法改正が行われますと、国家賠償請求訴訟が全国各地で起こることも懸念しています。
最後に、一九九五年六月、トルコのイスタンブールで第二回国連人間居住
会議が日本政府も参加し開かれました。この
会議は、居住の権利という新しい概念を独立した基本的人権として位置づけることを世界各国が承認した画期的な国際
会議でした。そして、居住の権利として適正な住まいを七項目にまとめ、居住の権利宣言として採択されました。その一つの事項に、
強制立ち退きやプライバシーの侵害がないことが挙げられています。
今回の
民法改正法案は、善良な賃借権者の居住の権利を無条件で剥奪するものです。第二回国連人間居住
会議で採択された居住の権利宣言に照らし合わせても矛盾することであり、国会で拙速に採択せず、慎重な
審議をお願いし、善良な賃借権者の正当な居住の権利を
保護されるよう切にお願いし、私の
意見陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(
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