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深尾参考人 慶應義塾大学の
深尾でございます。
本日は、いわゆる
破綻前の
予定利率引き下げ問題について
意見を申し述べたいと思います。
お手元に資料をお配りしておりますので、それを見ながらお聞きいただければと思います。
本年三月の
決算を見ましても、実質純資産が大幅に
減少している。特に、格付の低い
保険会社では五割以上低下した先も見られるというように、非常に厳しい
決算でありまして、悪化傾向にあるというふうに思います。特に、一部の
生命保険会社では、実質純資産の金額を上回る繰り延べ税金資産を計上してやっと
決算をつくっているというところもありまして、この前公的資金の注入二兆円を申請したりそな銀行と同じような
状況に既に陥っている
保険会社があるということになります。
このように、複数の
生命保険会社につきまして、現状のような
状況では
予定利率の
引き下げを避けることは難しい、つまり
予定利率の
引き下げは必要だというふうに考えておりますが、同時に、今回提案されております
法案については、私は反対でございます。
予定利率の
引き下げというものは実質的な
破綻でございます。つまり、
保険契約書を見ていただきますと、何年後には幾ら解約返戻金があります、満期幾らになりますというのが全部数字で書いてあるわけであります。この
契約を事情が変わったから変えたいというわけでして、それはとりもなおさず債務不履行でありまして、
経営の
破綻と言うことができます。それを、
破綻前の
予定利率引き下げということをそもそも言うこと自身が言葉の矛盾であるというふうに思います。
そういうふうに考えますと、既に制定済みの更生特例法を使って公正に処理をすべきだというのが私の考えであります。
低
金利が続いて株価が低下している。確かに、事情が変わったというのはそのとおりでありますが、その場合に、条件を
変更する場合には、全体のバランスをとった
条件変更が必要なわけです。そのときに、最も優先されるべき
保険契約者の権利をカットして、それ以外の債務、特に資本に当たる基金や劣後債務の強制的なカットができない、こういう法律は非常に大きな片手落ちになっているというふうに思います。
先ほど、
アクチュアリー会の方から簡保の話が出てきました。私も、簡保の
経営について、民間
生保と比較する上で分析を行って、ことしの三月に本を出しましたけれども、それによりますと、簡保も民保も同じような
予定利率を設定しておりました。しかし、
簡易保険と民保と比べますと、
簡易保険の場合は、リスク管理が民間
保険よりもしっかりできていた。つまり、
長期の
契約はなるべく売らないようにして、かつ、
長期の
契約に見合う分だけ
長期の資産を持つという形でバランスをとってきた。この結果として、現在、簡保は民間
生保を上回る
健全性を
維持している。もちろん税金の上でのメリットがあったということはありますけれども、それをカウントしても、やはりリスク管理がしっかりしていたということが大きな違いであります。
また、民間
生保につきましても、外資系の
生保を見ますと、日本の
生命保険会社と同じような
長期保険を売っていた
会社でもしっかりやっているところがあります。こういった
会社では、
長期の国債を組み入れることによって、株の運用をやめることによって、バランスをとった資産、負債を
維持することでリスク管理をしてきた。これができていなかったというところが大きな問題だというふうに思います。
ある
一つの
生保、A社をとりまして、これを現時点で
破綻処理を行うということを考えてみます。
現時点で、ある
会社について
予定利率のカットをしなきゃいかぬ、この場合に、本法による
破綻前の
予定利率引き下げと更生特例法による
破綻処理を比較しますと、私はどう考えても、更生特例法による処理の方が
保険契約者には有利になると考えられます。逆に、今回提案されている法律で有利になるのは、出資者である基金や劣後債務を出した主に金融機関、ほかの銀行が有利になるだけであって、
契約者はむしろ不利になるはずだというふうに考えております。
更生特例法を使いますと、基金、劣後債務は一〇〇%償却されます。現在、格付が非常に低い大手
生保について見ましても、三千億から四千億という大きな基金、劣後債務を持っております。更生特例法を適用する場合は、これが全部
契約者の
保護に使えるわけであります。
これに対して、今回提案されている法律では、この基金、劣後債務を償却することについては関係者間の協議ということになりまして、任意で債権放棄を受けるというような形になります。三千億というような金額を放棄してくれる人が出てくるというのは非常に考えにくいわけでありまして、本法による
破綻前の
予定利率引き下げをやりますと、むしろ
契約者保護に使えるお金は小さくなる。ですから、先ほどお話のあった、この法律によって
契約者保護を
充実するということは、私は詭弁のように思われます。
実際、金融庁による数字例を見ましても、同じ
生保を同じ時点で
破綻処理した場合の比較にはとても見えないわけでありまして、まだ純資産が残っている
会社をこの法律で処理した場合は、当然
予定利率の
引き下げだけでやっていけると思いますけれども、それと比較されている
破綻生保の場合については、もう相当程度の債務超過になった場合の数値例を出しているわけであって、二つの比較できないものを無理やり比較しているというふうに思われます。
また、更生特例法の場合には、裁判所が関与することによって、厳正な資産のチェックあるいはハイリスク資産の入れかえといったことが行われます。これによって二次
破綻のリスクは非常に小さくなるわけです。
今回の法律のように、みずから申請する形での
破綻処理をやりますと、相当程度甘いものになることになり、一部のゼネコンのように何回も債権放棄を受けるといったことをむしろつくりかねないということが言えます。
過去の
破綻事例について見ますと、更生特例法の処理で
責任準備金が一割カットされてきた例が多かったということは、資産内容が劣化した後でようやく
破綻処理が行われたわけであります。
例えば、実際に
破綻処理が行われた千代田、協栄生命の例を見ましても、あの年の
破綻前の三月時点、日経平均が二万円の時点で、既に、
開示されているバランスシート、
開示されている情報だけで
計算しても、含み損をカウントすると債務超過になっている、こういう
状況に陥っていたわけであります。それを株価が下がってから処理すれば当然債務超過が大きくなるわけでして、実際に
計算してみますと、
破綻後の千代田、協栄の債務超過率は二割、三割といった相当大幅なものになってしまったということが言えます。
この原因は、現在の日本の監督基準である
ソルベンシーマージン比率あるいは実質純資産基準といったものが非常に甘いわけでございまして、現在でも多額の繰り延べ税金資産を実質純資産に含めることができるという問題がございます。早期是正の発動基準や実質純資産基準というものを厳しくして、早期に更生特例法によって厳正な処理を行う方が、私は一人の
保険契約者としても安心だというふうに思います。
さらに、本法が制定されて、それを用いてある
一つの
会社が処理をしたとしましょう。そうしますと、
一つの
会社が基金や劣後債務を一〇〇%償却することなく
保険契約をカットしたということになりますと、いわば基金や劣後債務は見せ金であったということがだれの目にも明らかになります。つまり、基金、劣後債務を使うことなく優先債権である
保険契約をカットするわけですから、だれから見ても基金、劣後債務の大半は見せ金であったということになります。
そうなりますと、格付機関やアナリストなどの金融市場関係者は、基金や劣後債務は本当の
自己資本ではないと
判断して、これを除いた形で
ソルベンシーマージンや実質純資産を
計算し始めるに違いありません。そうしますと、先ほどお話しされた住友生命、第一生命といった比較的格付の健全な
会社であっても、仮に、弱い
会社が基金、劣後債務を残したまま
契約をカットするということになりますと、そういったものを外した形で結局自分の
自己資本が
判断されてしまう。これは、基金や劣後債務で
健全性を
維持しているほかの相対的に健全な
生命保険会社にとっても、大幅な格付低下に見舞われる可能性があります。これは、日本における
契約の法的
安定性が疑われるという重大な結果をもたらしかねないわけであります。
本来、
破綻処理においては、資本、株式
会社であれば株式、劣後債務、
相互会社であれば基金、劣後債務、内部留保といったものは、全額カットした上で、それでも処理できない部分を
契約者に
条件変更としてお願いしてカットしてもらうというのが当然でありまして、この
順序をひっくり返すということは問題があるというふうに思います。
以上、
結論しますと、本法は不要であり、金融庁は、
ソルベンシーマージンの定義や早期是正措置の発動基準、将来
収支分析の実務基準を見直すことによって、
責任準備金のカットや大幅な早期解約控除の設定が不要な時点で
破綻処理を行うべきだというふうに考えております。
以上です。(
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