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岩田参考人 本日は、私に
所信表明の
機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。
一九九〇年代半ば以降の
日本経済を顧みてみますと、
経済には、
デフレと
不良債権という
二つの頭を持った竜がすみついてしまったというふうに認識しております。そのために、
日本の
経済活動は
活力を失って、そして衰退への道をたどっているのではないかというふうに恐れております。この
双頭の竜、
二つの頭を持った竜を早期に退治することなくして、力強い
景気回復、これは
国民の皆さんが切望しておられることだと思いますが、力強い
景気回復というのはあり得ない、そして
経済の
再生というのもあり得ないというふうに考えております。私は、
福井総裁のもとで、
執行部の一員として、この
デフレ克服のために
全力を傾注したいというふうに考えております。
私が、この
二つの頭の竜、
双頭の竜と申しましたのは、仮に
不良債権の問題を処理しようということで、これに
全力を注いでしまいますと、
デフレの方が悪化してくる、もう
一つの頭が攻撃してくるということでありまして、
反対に、今度は
デフレを克服しようとしますと、
不良債権の問題が立ちはだかるということで、まことに困難な
状況に直面しているというふうに思います。
ですけれども、幸いなことに、
デフレにつきましては、我々は、一九三〇年代に、
デフレよりももっと度合いの激しい
デフレスパイラルの
状況にあったわけでありますが、これを克服した
経験を持っております。私は、この戦前におきます一九三〇年代の
経験というものをよくかみしめて、今回、
日本が
デフレを克服するということに当たりましても、しっかり学ぶべきではないかというふうに思っております。
学ぶべき
教訓というのは何か、私、三つあるというふうに考えております。
一つは、
スウェーデン銀行が
金本位制を離脱いたしました一九三一年の九月、
金本位制から、
物価水準を
一定にする
目標を立てまして、それに基づいて、
物価水準安定化目標政策というのを実行いたしました。この
政策を実行することによりまして、三%ぐらいの
デフレの
状況でありましたけれども、これを見事に克服したということでありまして、私は、
金融政策の
枠組みとして極めて有用なものであるというふうに考えております。
二つ目の
教訓というのは、
アメリカの
ルーズベルト大統領のもとでとられた
金融政策であります。
ルーズベルト大統領は、一九三三年、
ニューディール政策というのをとりましたけれども、
金融面ではどういう
政策をとったかといいますと、
長期金利を
一定水準に維持するという
政策をとりました。
このとき、実は、直前の三二年には、
アメリカの
短期金利を見てみますと、〇・〇四%という、今の
日本と極めて似たような
状況、しかも
デフレは一〇%以上の
マイナス、
消費者物価ではかっても一〇・四%の
マイナスということでありまして、極めて大幅な
デフレでありました。
デフレスパイラルだったわけであります。
ところが、この
ルーズベルト大統領のもとで、
長期金利を
一定に維持する、このために、必要なら
国債を
幾らでも買うという
政策をとりまして、その結果、
デフレを克服した。私は、この
政策というのは、
政策手段として
日本は学ぶべき点があるというふうに考えております。
三番目の
教訓とは何かといいますと、
日本の
高橋是清大蔵大臣のもとで、
国債標準価格制度というのを一九三二年七月に採用いたしました。これはどういう
政策かといいますと、
国債の消化を促進するために、つまり
国債の
価格を安定化するために、商法に
特別規定を設けまして、時価でなくて
簿価でもって評価する、つまり
評価損というのを計上しなくてもいい、こういう特別の
規定を置きました。この結果、
金融機関を初めとしまして
国債を保有する人は安心して
国債を保有できるということがございました。この
三つ目の
政策も、私は、
デフレを克服する
過程では非常に重要な
教訓を与えてくれているのではないかというふうに考えております。
まず、この中で、
物価の
安定数値目標ということを考えてみますと、これは多くの
先進国で、一九八八年末以来採用されております。
日本でも、この
政策の
枠組みを採用するということによりまして、
日本銀行の
国民に対する
説明責任というのを明確化することができる。これは、
日本銀行の
金融政策の目的は
物価の安定にある。
物価の安定といっても、それは何%の
物価上昇率なのか、あるいは
下落率なのか、あるいはゼロ%なのか、こういうことを
国民にはっきり
数値で示す必要があるというふうに考えております。
そういう
物価安定数値目標ということを掲げることによって、同時に
政策決定過程の
透明性を一層高めることができるというふうに考えております。
現在、
日本銀行は、ゼロ以上の
物価上昇率になるまで
量的緩和政策を続けるということをおっしゃっておられまして、広い意味での
物価安定目標を掲げているというふうに考えております。ですけれども、私はこの
政策をさらに発展させて、
物価上昇率に
上限を設ける、例えば二%、ゼロ以上といっても
幾らでも上がってもいいということではない、
上限をやはり設けるべきだ。ゼロ以上になることが必要でありますけれども、これが高くなり過ぎては困るということであります。さらに、その
目標を達成する期限をやはり明示すべきだというふうに考えております。そういうことによって、
市場参加者の
予測可能性を高めることができるというふうに考えております。
この
枠組みを採用した場合の問題は何かといいますと、この
政策の
枠組みを採用しますと、
市場参加者の中には、今は
デフレがずっと続くだろう、一%、二%の
デフレが続くと考えている人が、ゼロになるかもしれない、そういう
期待を抱くようになるとしますと、その人は
国債を売ろうとする。そうしますと、
長期金利が、
上昇圧力が加わるということになります。この
長期金利高騰の
リスクということに対しては、
二つの方策を講ずるべきだというふうに考えております。
一つが、
アメリカの
ルーズベルト大統領のもとでとられた
金融政策であります。
長期金利を
一定に維持するということでありまして、そのために必要なら
国債の買い切りオペの増額をするということであります。現在、
市場参加者の
期待デフレ率は、
GDPデフレーターで見ると二・三%ある。仮に
長期の
名目金利が一%であっても、
実質の
金利は三・三%だということであります。仮に、
人々のこの
期待デフレ率が、今二%なのがゼロ%になるということになりますと、
実質の
長期金利が実は一%まで下がる。三から一%に下がるということであります。そういうことが可能になるというのが一番目であります。
二番目は、高橋大蔵
大臣が行った
政策の
措置であります。例えば
国債をいつでも
物価連動債に交換しますというような
政策措置をとるとしますと、これは
国債を持っている人が、
物価上昇率が上がっても、いつでも価値の安定した債券に取りかえることができるという安心感を持つことができます。そういうことで、
長期金利の安定化を図ることが同時に可能になるということであります。
こういったような
金融面での
政策対応をとりますと、
名目金利は
一定のままだ、仮に一%のままだということであっても、
長期金利は三%から一%に下がる。こういうことがありますと、もちろんこれは
民間投資を回復させる
要因になります。同時に、新規事業の開始でありますとか新規参入によって、資源をより効率的に配分するということがより容易に行うことができるわけであります。そういうことで、このことこそ実は
不良債権の最終処理を意味しているわけであります。ということで、これが
金融面でできることであります。
ですけれども、
デフレを本当に退治するためには、
金融面だけではなくて実物面での対応というのも同時に必要だと私は思っております。大胆な
税制改革と規制改革の実行、それから、銀行を含めました企業、産業の事業再構築を図るということで、実物資産に対する収益率を高める。今企業の収益率というのは非常に低いわけでありまして、実物資産に対する収益率が低過ぎる、つまり、
長期の
実質金利に比べて低過ぎるということが
デフレの根本原因だというふうに私は考えております。この意味でも、
政府と
日銀が一体となりまして
デフレを退治するということが大事だというふうに思っております。
御清聴ありがとうございました。(拍手)