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中山参考人 奈良女子大学の
中山です。
時間の
関係もありますので、
社会資本整備重点計画法案に即しながら私の
意見を申します。
まず一点目ですけれども、
社会資本の整備を考える場合、その
法案の目的、そして現状の
公共事業の
問題点をどう認識しているか、この点が
法案を考える上では非常に重要になると思います。
この
法案では、第一条に、「
社会資本整備事業を
重点的、効果的かつ
効率的に推進するため、」と、これがこの
法案の目的として書かれています。また、なぜそれが今までできてこなかったかということなんですが、いただいた参考資料等を見てみますと、
長期計画が
縦割りであったため、それが十分進まなかったというふうに書かれています。
確かに、
長期計画が
縦割りであったという点はそのとおりであって、それを改正していくということは必要だと思います。しかし、
日本の
公共事業の将来的なあり方を考える場合、この点を
公共事業改革の入り口として
議論することが果たして望ましいのかどうか、その点をまず考える必要があると思います。
私
自身、
日本の
公共事業の持っている
最大の
問題点は、先ほど
五十嵐参考人も発言しておりましたように、
日本の
公共事業費の総額が極めて大きいというところにあると思います。
日本の
公共事業費の総額が大きいということは、この
法案の参考資料にも出ておりますように、例えば対GDP比を見ましても、
日本の
公共事業費の総額は対GDP比五・一%。それに対して、アメリカは一・九%、イギリスは一・三%になっています。これだけの膨大な
公共事業費を長年使い続けているということが、国から
自治体までの財政
状況の悪化、また、ほかの
施策へのしわ寄せ、膨大なむだの発生、環境問題、そういったものの
根源にあると思います。これについては、
政府でも、橋本
内閣そして今の
小泉内閣でも、
公共事業費の総額をどう
計画的に削減していくのかということが
議論されていると思います。
まず、
日本の
公共事業について、この
法案で言うように、
長期計画を立てる場合、第一に明確にすべきことは、
公共事業費の総額をどの
程度削減していくのかという国の
方針を明確に示すことが、
公共事業の
長期計画にとっては最も重要なことではないかと思います。
公共事業費の総額をどのように削減していくかというのは、先ほど申しましたように、他の国の水準もしくは
日本の財政
状況、
社会資本の整備
状況、そういったものを総合的に
判断すればいいんですが、いずれにせよ、
長期計画のもとで、
日本の
公共事業費の総額をどのようなスケジュールで削減していくのか、それを
国民に明確に示すことがまずもって重要なことではないかと思います。
今回の
法案では
長期計画を立てるというふうになっていますが、その
目標は、
事業量ではなく、アウトカムで示すとしています。それも
一つの考え方かもしれませんが、むしろ、
公共事業費の総額を削減していくということを
前提にするのならば、その削減の
目標を明確な数値で
国民に示した方がわかりやすいと思います。
そういう
意味では、
公共事業費の総額をどのように削減していくのか、どのようなスケジュールで
段階的に削減を図っていくのか、そういった
長期計画を
公共事業の場合はまずもって考えなければならないのではないかと思います。
二点目ですが、そのような
長期計画を仮につくるとすれば、むしろ、この
法案で言う
重点計画が生きてくるのではないかと思います。というのは、
公共事業費を大幅に削減するにもかかわらず、
国民が求める
公共事業をどのように進めるのか、それを
国民に明確に示す必要があるからです。
その場合、この
法案が
対象としていますように、国の
直轄事業に限定されずに
補助事業や
単独事業まで含めて広い
社会資本整備を考えるのであれば、
公共事業、この
法案で扱う
社会資本整備の定義をもう少し広くとった方が望ましいのではないかと思われます。
社会資本整備重点計画法の第二条では、この
法律が扱う
分野を、道路、鉄道、空港、港湾、都市公園、下水道など十四の
分野にしています。一方、
公共事業基本法案の方ではもう少し広く
公共事業をとらえておられるようで、それはそれで望ましいと思うんですけれども、ただし、
国民がイメージする
公共事業はもう少し広いのではないかなと思います。
例えば、今の
小泉内閣は待機児ゼロ作戦を非常に重視しています。保育所の待機児をなくしていくということは非常に結構なことなので、もっと積極的に推進していただきたいんですが、例えば保育所を整備していく場合、この整備費の大半は税金から捻出されるわけです。ところが、保育所の整備費というのは、この
社会資本整備重点計画法の中には入ってきません。
また、これから高齢化社会が進んでいきます。この
法案では、
長期計画の
目標の中で、例えば道路や公共施設のバリアフリー化が掲げられています。それはそれで非常に重要なんですが、同時に、高齢者施設をどのように整備していくのかというような点も非常に重要になってきます。しかし、高齢者施設の整備については、この
法案の定義の中には入ってきません。
また、御承知のように、この四月から障害者に対する支援費
制度がスタートします。今、
地域では、支援費
制度がスタートするけれども、十分なサービスが供給されるのか、非常に大きな問題になっています。障害者施設を整備していくことが非常に重要ですが、しかし、そういった障害者施設の整備についても、この
法案の定義の中には入ってこないということになります。
むしろ、
公共事業費を全体的に削減しながら、
国民が求めるような
公共事業を全般的にどうやって進めることができるのか、そういったことを考えるのであれば、この
法案の第二条で定めている
社会資本整備の範囲をもう少し広くとらえた方がいいと思います。
もしこのような定義の中で
公共事業の
重点化を図っていくというのであれば、道路がいいのか鉄道がいいのか港湾がいいのか空港がいいのか、そういう中で
重点化を図れというのであれば、少し無理があるように思います。むしろこれでは、従来、
地方向けに行ってきた
公共事業を削減し、都市再生のような
公共事業に
重点化を図るというような考え方しか出てこないではないか、そのような危惧が持たれます。
公共事業費の総額を削減するということは、必ずしも
公共事業をなくせということではありません。むしろ、必要な
公共事業をどうすれば
重点的、
効率的に進めていけるかということが重要になります。そのためには、包括的な
社会資本整備計画、
長期計画を考えるのであれば、従来の
長期計画の
枠組みに縛られずに、もう少し
社会資本の定義を広くとり、その中でどこに
重点化を図っていくことが
国民にとって最も望ましいのか、それを
国民的に
議論していけるような
長期計画、
法案にすべきではないかと思います。
第三点目ですが、この
法案の第三条で基本理念が書かれています。その中では、
重点計画を作成する場合、「
地方公共団体の自主性及び自立性を尊重」するということが書かれています。また、第四条では、
重点計画を作成する場合、「
国民の
意見を反映させるために必要な措置を講ずる」ということが書かれています。この点は非常に結構なことなので、こういったことをきちっとすべきだと思います。ただし、
国民の
意見をきちっと反映する場合、
公共事業基本法案では、
閣議決定ではなく、
国会の承認というふうに書かれています。むしろそのようにした方が望ましいのではないかと思われます。
ただし、同時に重要なことは、実際の
社会資本整備を進めていく場合、
地方公共団体の自主性や自立性、
国民の
意見が個々の
社会資本整備にどういう形で反映されるようになっているか、その点が今後は重要になってくると思います。
この
法案の第四条で、
社会資本整備について
重点計画の
内容が書かれています。
重点計画の
内容についてはさまざまなことが書かれていますが、その中心は、どちらかというと
社会資本整備の
目標に係るものが多くなっているように思われます。しかし、同時に、
長期計画が仮に五年であれば、どのようなスケジュールで
地方公共団体の自主性や自立性を確立していくのか、また、どのような方法で
国民の
意見を反映させていくのか、そういった
計画も
重点計画の中に入れるべきではないかと思われます。
その点で重要なのは二つあると思います。
一つ目は、
公共事業に係る権限及び財源を
地方公共団体にどのような形で移譲していくかということです。とりわけ重要なのは財源だと思います。
先ほど例に挙げた保育所でいいますと、保育所というのは非常に身近な公共施設です。ところが、保育所整備費の二分の一は国の
補助金というふうになっています。本来であれば、そういった財源措置も含めて、
地方自治体が自立的に
判断できるような
仕組みに変えていくべきではないかと思います。
また、もう
一つ重要なことは、
公共事業政策を他の政策の誘導手段に使わないということではないかと思います。
この間、景気対策で
公共事業がかなり進められました。それが
地方自治体の
財政危機を大きく進めました。
今問題になっていることは、例えば市町村合併です。市町村合併の是非についてはここで述べませんが、市町村合併を進めるために
地方債を特別に認めるというような
制度があります。こういった市町村合併という政策を進めるために
公共事業を誘導に使うような
施策は改めるべきではないかと思います。
社会資本整備というのは、本来、
国民の生活の向上にとって最も何が必要かという視点で進めるべきです。そのためには、他の政策の誘導手段に使うのではなく、
地方の
自治体が自立性と主体性を持って
判断できるような
システムへと変えていくことが重要です。そういった
内容を
長期計画の中にも位置づけるべきではないか、そのように考えております。
以上です。(拍手)