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中村参考人 今御
紹介いただきました、
日本労働組合総連合会で
雇用関係の政策を担当しております
中村でございます。
本日は、このような貴重な機会をお与えいただきまして、本当にありがとうございます。
現在勤労者が置かれている厳しい
雇用状況という立場から、
雇用保険法改正案、
内閣提出分につきまして、意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、現在の五%半ばに達する厳しい
雇用失業状況、それも特に中高年を中心に
労働者の責めによらないリストラ等の失業が増大しているという、現在失業構造において進んでいる質的な変化、さらに、現在の状況で申し上げますと、不良債権処理の加速化を含む今後の構造調整策を背景とした
雇用失業動向の見通し、さらには厚生年金の
支給開始年齢が引き上げられるという勤労者の置かれている状況ということから考えましたとき、改正案につきましては、
雇用保険がこのような状況で最もそのセーフティーネットとしての役割が発揮されると期待をされているということのもとで、不幸にして
前回の大幅な削減から数年ならずして重ねて大幅削減がなされるというものでございます。この点につきまして、
雇用保険制度自身に対する勤労者の信頼や期待を失わせかねないという大きな問題点があるのではないかと思っております。
特に、基本
給付率あるいは日額上限の引き下げ並びに高年齢
雇用継続
給付の
見直しにつきましては、
雇用状況の実態というのを十分に見きわめた上で慎重に検討されるべきものと考えておりますけれども、
早期再
就職の促進でありますとか、再
就職時の
賃金との逆転現象の解消といったようなことが言われております。このこと自身は、抽象的に取り出すと正しい考え方であるというふうには私どもも思っておりますが、現実の
雇用状況ということから見たときに、かなり現実から遊離をした極めて表面的な理屈で、このようなことを前面に立てて、セーフティーネットとしての根幹部分の大幅削減を行うことにつきましては、私どもとしてはこれは極めて問題であることであるというふうに思っております。
以上が、基本的な私どもの考え方でございます。
思いますに、今回の改正案につきましてどのように評価、考えるかということの
ポイントは、やはりひとえに現在それから今後の
雇用失業状況の深刻さをどのように認識しておるかということの一点にかかっているのではないか、そこから
判断が分かれてくるのではないかと思っております。
雇用保険制度の維持というものにつきまして、こういう厳しい状況のもとで、
受給者の増加ということを前提にして
財政的バランスを重視して見ていくのか、それとも、
雇用失業構造の変化を前提にした上で、セーフティーネットの機能、役割の維持ということについて重視して見ていくかということなのではないかと思っております。
焦点の
給付率の引き下げの問題について引き直して申し上げますと、いわゆる比較的高い
給付をもらっている人々、こういう人たちの増につきまして、相対的に恵まれているのだから全体が厳しい中で我慢してもらうべき者なのだというように考えるか、それとも、現在の失業実態から見て支援の必要性の高い人たちの層であると考えるかということにもなるのではないかと思います。
もちろん、現実には比較的優雅な方もいらっしゃるだろうと私どもも思っております。また、本当に大変な人もいるだろうというふうに、個別にはそれぞれあると思っておりますが、
制度として考えるときに、量的な現実の問題、それから今後の動向を含めて
雇用失業状況並びに失業の質というものがどうなっていくかということについての
政府あるいは国としての政策
判断が、まさしくこの問題では問われているのではないかというふうに
ポイントとしては考えております。
連合の見解は、今回の改正案の主要点は、中高年の離職者等に対する
給付の大幅な削減ということでございまして、現在の
雇用失業状況あるいは将来の動向からして、最も支援の必要な層に対するセーフティーネットとしての機能を著しく損なうのではないかというように懸念をしております。
お手元に、参考資料ということで、ちょっと大部になりますが、私どもが行った調査も含めまして、現在の
雇用失業状況の深刻さを示す資料をお配りしております。時間的な制約もございまして、細かく御
説明できませんが、ぜひお読み取りいただければ幸いでございます。
一言で申し上げますと、現在の
雇用失業状況というのは、失業率が高いこと自体問題でありますが、質的にも極めて深刻化の傾向にあるということなのではないかと思います。特に、中高年の方を中心に、倒産、解雇等の理由による失業が急増していること、それから
二つ目に、これらの人々は再
就職が容易でないことに加えて生計維持面で中心であった人々が多く、まさしく
生活問題に直結をしているということであると思います。
一ページ目のところに
労働力調査の資料をお示ししていますけれども、現在の状況は、もう先生方御存じのように、非自発的
失業者が百五十三万人、いわゆる自発的
失業者の一・五倍の数に達しているわけでございます。下の方に年齢階層ごとの分布が出ておりますけれども、これはやはり中高年層に実態としても集中しているわけでございますし、特に勤め先都合ということの
失業者数で見ますると、四十五歳から五十四歳層が二十八万人と一番トップを占めるわけでございまして、定年等が含まれます五十五歳から六十四歳層においても、いわゆる会社都合等が定年等を大幅に上回っているというのが非常に厳しい構造的な実態であると思います。
二ページ目以降には、私どもの方で傘下の個別組合に
実施いたしました
雇用動向の調査もあわせておつけをさせていただいておりますが、二ページ、三ページの概要のところで簡単に触れさせていただいておりますけれども、現在の在職者の
雇用、職場状況ということにおきましても、いわゆる倒産、解雇等のリストラによる失業がここ数年急速にふえているというのが明らかでございます。
希望退職を中心に大幅に
雇用調整が在職者ベースでも進行しておりまして、ございますように、この一年間でも半数近くの企業で何らかの
雇用調整が、とりわけ比較的大企業において、私ども傘下の組合ベースでございますが、進展をしておりますし、特にその中でも、人員削減、失業に結びつく解雇でありますとか希望退職といったものは一割を超える企業で
実施をされておる。希望退職をとりましても、規模的に見ましても、従業員数の一割を超える、このような大規模な希望退職が行われておることが報告されておるわけであります。
また、こちらのお手元の九ページのところに、若干字が細かくて恐縮ですが、表をつけ加えさせていただいておりますけれども、現在の
雇用調整の大幅な
実施というのが、やはり不良債権処理の問題に絡んで、とりわけ金融機関との関係の動きの中で、解雇、希望退職等が現実に進行しているという傾向が直近特に見てとられるということでありまして、このような動きを見ますると、倒産あるいは解雇、リストラによる中高年の失業ということがこれからの失業問題の中心的な問題ではないかというふうに考えざるを得ないというふうに思っております。
しかも、中高年を中心に、リストラ等で離職をせざるを得ない人々の再
就職というのは、もう先生方御存じのように、非常に厳しいものがございます。
私ども連合の方では、この二年間で三回にわたりまして、全国の主要ハローワーク前で、
失業者、
求職者の方々にじかに聞き取りをして声を聞こうという取り組みを行いまして、直近の三度目の結果というのをお手元の資料の十ページ以降につけさせていただいております。
ここでも出ておるのは、やはり六カ月以上の
失業者が四割以上を占めている。連合、三回やったわけですが、
短期的にも
失業期間の長期化というのが顕著に進行している。特に四十代、五十代の中高年者のところでは、平均で八カ月程度という長期の失業状態の実態にあります。また、
失業期間の長い者ほど、解雇や希望退職などいわゆるリストラで失業した
ケースが多く、これらの人々の再
就職は非常に厳しいという実態がこれらの調査で明らかになっているのだろうと私どもは思っております。
再
就職ができない理由につきましては、
賃金など
労働条件というよりも、むしろいわゆる募集における年齢制限の壁というのが主要要因というふうになっておりまして、そもそも職がないということが実態なのではないかというふうに思います。現在必要なのは、このような
雇用失業実態を踏まえた上で、
雇用保険というセーフティーネットの機能を強化していくことなのではないかというふうに考えております。
今回の
基本手当の
給付削減案につきましては、いわゆる
賃金の高い
受給者を重点に削減するということで、低所得者への影響は比較的少な目にするという御配慮があったのでしょう。一〇%以上
現行給付から削減となる
受給資格者の比率というのは二割程度であるというような御
説明、試算が出されておりますけれども、今私どもが申し上げた
観点で、最も厳しい、支援すべき層になっている人々、再
就職が厳しくて、量的にも失業が多く出ている中高年者の部分ということを見てまいりますと、実は四十五—五十九歳層では
受給資格者の四分の一、二五%が一〇%以上の
給付削減になる。また、二〇%以上の
給付の削減になるという人々も一割強存在するということでございまして、これが恐らく、この改正の現実の痛みと申しましょうか、そういうところに当たる姿なのではないかと危惧をいたしております。
最後に、
基本手当の水準自体が決して
賃金が高くて楽であるということとはほど遠い実態にあるということにつきまして改めて注意をして、先生方の御配慮をいただきたいと思います。
さまざまな試算が出されておりますが、一番平均的に、平成十三年のいわゆる全
労働者の中心の
賃金センサスという
賃金統計のデータがございますが、企業規模計で、男女込みで、当然、いわゆる四十歳から五十四歳層の
賃金の中位数、要するに一番真ん中、一番スタンダードな方たちと統計的には見てよろしいかと思いますが、水準では大体月額三十五万円程度でございます。日額換算すると大体一万一千八百円とかその程度になると思いますけれども、今回の改正案を当てはめますと、
給付率は五二%前後というところになるだろうと思います。そういたしますと、
手当額というのは大体日額六千円ぐらい、月額で約十八万ということに改正をされるということでございまして、
現行との比較では、
手当日額ではおよそ千円、月額では三万、率的には一四%、大部分の人たち、中位のところは一四%の削減ということでございます。
政府によるさまざまな試算が出されておりますが、当然、
受給資格者等の実態データをもとに
財政試算したものというふうに思われますが、現在の失業リスクの高まりを考え、いわゆる平均的な部分で考えると、このような水準と姿が現在の
雇用保険法改正案の
中身ではないのかというふうに思っております。
失業者の置かれました厳しい実態、また、決して明るくない状況下で不安にさらされておる在職勤労者の立場もあわせまして、先生方の御検討、御配慮を賜りたいということをこの場をかりてお願いいたしたいと思う次第でございます。
このような場をお与えいただきましてどうもありがとうございました。(拍手)