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藤井参考人 本日は、こういう機会を設けていただきまして、大変ありがとうございます。ただ、私、今の
菅野先生のように法学の方を研究しているものでも何でもございません。とうとうとお述べすることはできない、かつ、今携わっております
情報公開審査会の方の仕事がこのところ多忙をきわめておりまして、ちょっと
準備不足の点もあるかと思います。お聞きづらいところがあるかと思いますが、御容赦いただきたいと存じます。
二年前まで旧
労働省で
女性局長をやっておりましたので、そのときの経験、それから日ごろ個人的に思っておりますことも含めまして御説明を申し上げたいと思います。
レジュメの最初のところに書いてございますように、まず
憲法の評価といたしましては、雇用の場における
女性の
地位の向上に大変大きな
影響を与えたと申してよろしいかと思います。御
承知のとおり、戦前は、
女性には
参政権が与えられず結婚も戸主の
許可が必要というふうに、
法律上独立した人格ではなかったわけでございますので、
憲法十四条あるいは二十四条で男性と対等な
法律的位置づけを与えられたということは、当時の
女性にとっては目もくらむような福音だったのではないかと思います。
それでは、それが戦後五十数年を経てどういう形で今日実現しているかということについて御紹介をしたいと思います。
昭和二十二年、
労働基準法が
制定されまして、その第四条に
男女同一賃金の原則がうたわれました。これは、
憲法を具体化するための施策の
一つと申し上げてよろしいと思います。
あわせて、二十二年に新設されました
労働省に婦人の
地位向上を図るための組織として婦人少年局という新しい局が設置されました。初代局長は山川菊栄、以来、一人を除いて
女性が務めておりまして、私は十二代目で、
最後の
女性局長でございました。あわせて、四十七都道府県に室というのを設けまして、全国的に
女性の
地位向上のための啓蒙啓発活動に励んだわけでございます。
しかしながら、戦前が先ほど御紹介したような状態であったわけでございますので、
憲法あるいは
法律の条文ができたからといって実態がそんなに急激に変わるものではなく、婦人少年局及び地方の婦人少年室の職員のこの間の悪戦苦闘
ぶりというのは大変なものがあったようでございます。
ただ、
昭和三十年代ごろになりますと、戦後強くなったのは女と靴下という
言葉が言われたようでございまして、婦人少年局はもう必要ないんではないかというような声がほうはいと起きてきていた。したがって、
行政改革、一省一局削減のたびにこの婦人少年局が削減の対象になっておった、それを何とか婦人
団体の外圧で食いとめたというようなことを、私は先輩局長から耳にたこができるほど聞かされたことがございます。そういうことで、
昭和三十年代、
昭和四十年代というのは、なかなか雇用における男女平等
論議が進まなかった
時代だと申し上げてよろしいと思います。
大きな契機となったのは、国連が定めました国際婦人年、一九七五年、
昭和五十年でございます。国連がこの年を国際婦人年と定めまして、世界的規模で
女性の
地位向上のキャンペーンを行い、加盟各国にそのための施策の拡充を要請した、これが大変大きな契機になったわけでございます。
その年、メキシコシティーで第一回の世界
女性会議というのが開かれております。加盟各国から
女性の代表の方々がお集まりになって、
女性向上のために各国が取り組むべき行動計画のようなものが話し合われたわけでございます。
我が国からこの代表団の一員として参加されました森山法務大臣、当時は婦人少年局長でございますが、お帰りになったときのエッセーに、男女平等という
言葉がこの世界
会議では当然のことのように語られているのに大変驚きを感じたというようなことを書かれております。すなわち、日本では男女平等ということを言えなかった
時代であったということでございます。
ただ、この
会議から帰られまして、この
会議でのいろいろな
状況を踏まえて、この年初めて、国内で標語に男女平等という
言葉を婦人少年局が使ったということもございます。
その後、国連は、この動きを継続するために、一九七六年から八五年を婦人の十年ということに定めまして、その十年の中間年あたりで、一九七九年でございますが、あらゆる分野における
女性に対する差別を撤廃するため、各国が施策を講じなければならないということを定めた
女性差別撤廃
条約を採択するわけでございます。これは資料の中に入っているかと思います。
一九八五年に我が国はこれを
批准しておりますが、この
批准の条件は三つほどございましたが、雇用の場における男女平等を法制的に整備すること、それから、国籍で男性
女性平等にすること、子供の国籍取得でございます。それから、高校における家庭科の教科が当時
女性だけが必須になっていたものを
改正することといったような三つがございましたが、そのうちの
一つの雇用の場における平等の実現のために、男女雇用機会均等法の
制定に向けて準備が進められたわけでございます。
その中で、最大の
議論、
法律上の
議論となったのが保護か平等かという問題でございます。
昭和二十二年に
制定されました
労働基準法には、残業については、
女性は
一定以上の残業をさせてはいけないという
制限、あるいは深夜勤務は原則として禁止といったような保護
規定が設けられていたわけでございます。この保護
規定と雇用の場における平等をどういうふうに
調整するか、調和させるかということが最大の
議論になったわけでございます。
これは、労使で
意見が分かれ、
女性の中でも
意見が分かれた問題でございます。保護も平等もという
立場の方は、こういう達成された高い
労働条件であるわけであるから、男性もこの条件まで上げることによって平等を実現させるべきであるという御主張、片や、単に
女性を一般的に弱者と見た合理性のない保護
規定というのは廃止すべきである、かえって平等を実現する阻害要因になっているのではないかといったことで、学界を巻き込んでの大
議論になりました。その
結論というのが、本日
レジュメの次に別紙としてつけてございますが、
昭和五十九年に当時の婦人少年問題審
議会から出されました建議に出てございます。
平等か保護かという
議論に決着をつけたものでございまして、ちょっと紹介いたしますと、「雇用における男女の機会の均等及び待遇の平等を確保するための立法措置を講ずるとともに、
労働基準法の女子保護
規定については女子が妊娠出産機能をもつことに係る母性保護
規定を除き見直すことが必要である。」ということを明確に打ち出しております。以下、ただし、この
検討に当たっては、「現状固定的な
見地ではなく、長期的な展望の上に立って行うことが必要」であるが、ちょっと飛びまして、「しかしながら、
法律の
制定、改廃を行う場合には、その内容は将来を見通しつつも現状から遊離したものであってはならず、」というスタンス、姿勢を明確に打ち出しまして、最初の男女雇用機会均等法というものが成立したわけでございます。
こういうふうに、「現状から遊離したものであってはならず、」という基本スタンスでございましたので、最初の均等法は内容的には不十分なところがあるという御指摘もいろいろなところからいただいたわけでございますが、一応この均等法は、雇用の場における男女が平等であるべきだということを
理論的、法的に整理をした上で、法的な枠組み、社会的な規範として明確に打ち出したということで大変重要な
法律であったかと思います。
この基本的な枠組みを踏まえまして、以後、雇用の場においては各論の段階に入っていったと申し上げてよろしいと思います。
各論といたしまして、そこに並べてございますように、育児休業法というのが
平成三年に成立してございます。それから、パートタイム
労働法というのが
平成五年に成立しております。さらに、育児休業法を
改正する形で介護休業法が
制定されております。これが
平成七年のことでございます。
こういう個別法の
制定を踏まえまして、男女雇用機会均等法、そして
労働基準法の先ほど御紹介しました女子保護
規定がほとんど全面的に解消されるという形の
改正が行われました。これが
平成九年のことでございます。
こういった雇用の場における均等、男女平等というものの流れを受けましてと申し上げてよろしいと思うんですが、
平成十一年に
男女共同参画社会基本法が成立をしているわけでございます。これは、雇用の場のみならず、広く社会のあらゆる分野における活動に男女が共同で参画する機会が確保されるということを目指すものでございまして、先ほど御紹介した
女性差別撤廃
条約の趣旨を踏まえて
制定されたものと申し上げてよろしいと思います。
以上、五十数年の歴史をわずかの時間で御紹介するのも大変無理があったかと思いますが、
昭和二十二年に
憲法が掲げました理念の実現に、
国会はもとより、行政あるいは
国民の
女性の方々がいろいろ努力してこられた結果が、五十数年を経てやっとここまでたどり着いているというのが私の率直な感想でございます。
なお、女子差別撤廃
条約に基づきまして、国連に
女性差別撤廃
委員会というのが設けられてございます。この
委員会では、国別に
条約の遵守
状況の審査を行っております。本年七月は、日本が九年
ぶりに審査の対象になっております。参画法の
制定など、
政府からのレポートには盛り込まれているようでございますが、
委員会にはNGO等からもレポートが出されるということになっておりまして、それらをもとに国別の審査が行われ、国別にコメント、必要であれば勧告が出されるというふうになっていることを申し添えておきたいと思います。
それでは、
女性労働者の現状がどうであるかということについて、ここ一、二年、大変急激な変化といいますか、目覚ましい変化と申し上げてよろしいことがございますので、資料をもとに御紹介させていただきたいと思います。
現在、雇用
労働者の四割を
女性が占めておりまして、高学歴化が急速に進んでおり、勤続年数も伸びているなど、基幹
労働力化が進んでいるところでございます。
資料は四枚目のところをごらんいただければと思います。「高学歴化の進展」ということで、
二つ棒グラフを並べておりますが、下のグラフの方が新規学卒者の就職者の学歴構成でございます。
昭和五十年ごろをごらんいただくと、
女性の新規学卒者の六四・〇%が高卒で、四年生大学卒は八・五%という
状況でございますが、下から二段目の
平成十三年になりますと、高卒が三三・七%、短大卒が二六・六、そして四年生大学卒が三八・五%ということで、
女性の新規学卒、学校を卒業して新しく就職する方々の学歴構成というのが極めて急速に高学歴化している、四年生大学卒が主流になっているというのをお見とりいただけるのではないかと思います。
次の、「主要国の年齢階級別
労働力率」のところでございますが、
女性の
労働力率の形をごらんいただくためにこの表をお示ししてございますが、
二つのことを申し上げたいと思います。
一つは、
女性の
労働力率、年齢別に
労働力率を見たグラフというのが、相変わらずM字型を描いているということでございます。一番上が男性の
労働力率のグラフ、二番目が一九九七年、そして一番下がその約二十年前の一九七五年でございます。
アメリカ、スウェーデン、ドイツ、フランス、ノルウェーとお示ししてございます。これらと比較いたしますと、相変わらず、二十年たってもM字型、他の諸外国がほとんどM字型から山型に変わっているというのと、非常に特徴的な傾向を示しているかと思います。
それからもう
一つは、日本の場合は、男性の
労働力率が九七%、九八%と極めて高く、
女性の
労働力率が六八%、七〇%という状態である。すなわち、相当格差があるというのに対し、
アメリカ、スウェーデン、ドイツ、フランス、ノルウェー、いずれも、男女の
労働力率の格差がそれほど大きくないという
状況。この
二つが特徴として申し上げられると思います。
次のページで特徴を申し上げたいと思いますが、そういう中で、男女を問わず、全体として就業形態が多様化していると言われておりますが、とりわけ
女性の就業形態の多様化が進んでいるということを申し上げたいと思います。
これは、産業別に見ておりますが、特に、卸、小売、飲食店等をごらんいただきますと、
女性のパート
労働者の割合が極めて高い。また、契約社員あるいは臨時的雇用者あるいは派遣
労働者というものも、男性に比べますと相対的に多いということがごらんいただけると思います。しかも、その傾向は、
平成六年と
平成十一年を比較してございますが、最近強まっているということが、この図からごらんいただけるのではないかと思います。
さらに、
女性のライフサイクルといいますか、ライフスタイルの多様化も進んでおるということを申し上げてよろしいと思います。
晩婚化の傾向あるいは未婚率の上昇が顕著であるということで、専業主婦の割合というのがどういうふうになっているかという図をつけさせていただいております。これは、雇用
労働者、サラリーマンの世帯で、奥様が、妻が専業主婦の世帯の割合と、何らかの形で働いている世帯の割合を見たものでございますが、一九九五年までは専業主婦世帯の方が、すなわち、片働き世帯の方が上回っておりましたのが、二〇〇〇年の国勢
調査では、共働き世帯が片働き世帯を上回っているというような形になっておりまして、ここ数年で大きく
女性の働き方、あるいはライフスタイルが変わっているということ。こういうことを念頭に置いて
女性労働対策というようなものも考えていかなければいけないのではないかということで、既に皆様よく御
承知のところかとは存じましたが、あえて御紹介をさせていただいたわけでございます。
今申し上げましたように、高学歴化が進み、意欲、
能力も高い
女性が
労働市場に出てきている、かつ未婚の
女性もふえてきているという中で、それでは、企業における、雇用の場における男女平等、均等というのはどうなっているかということでございますが、残念ながら、女子大生の採用差別の例というのは大変多く聞かれるところでございますし、昇進差別等々もまだまだなくならないという
状況ではないかと思います。
そういう中で、
女性の大卒の優秀な方々が外資系企業あるいは外国へ就職をされていくといったようなことがあるわけでございまして、我が国企業の国際競争力という
観点からしても、もったいないといいますか、せっかく優秀な
女性の
能力を国内企業で活用して国際競争力をつけるという
観点からも、必要なことではないか。そういう点からも、雇用環境の整備というのが非常に必要ではないかと思っております。
そういう問題をとらえまして、
男女共同参画という
視点から、
憲法的なことを何か申し上げられるかなと思いまして、十四条や二十七条を頭に置きまして、提言と申しますか、申し上げられることを、三つほどここに掲げてございます。
一つが、「救済措置の拡充」ということ。
二つ目が、「再就職を希望する
女性のための施策の拡充」ということ。それで三点目が、「育児・介護等との両立が容易となる環境の整備」ということでございます。
第一点目の「救済措置の拡充」ということでございますが、これは、先ほど申し上げましたように、採用差別や昇進差別というのがかなりまだ見られる
状況でございます。そういうものに対して、行政指導、行政が事業場へ行ってそういう違反を摘発して指導するということには限界があると申し上げてよろしいかと思います。
例えば、昇進差別は長年の人事考課の結果であろうと思いますので、事業場を訪問して摘発できるという性格のものではないと思います。やはり、個人が自発的に申告をするという形等が望ましいかと思われるわけでございます。
そういった
観点からしますと、個人の
申し立てなり、あるいは
申し立てを受けて、もう少し強制的に事業主等に改善措置を講じさせるような救済措置の拡充というのが、男女雇用機会均等法あるいは
男女共同参画社会基本法の趣旨を徹底するために必要かと思われるわけでございます。そこで、ここでは例えばということで、英国あるいは米国の例を踏まえまして、強制的な命令権限を有する救済機関の設置、あるいは個人にかわって差別
案件について訴訟を代理して提起する機関の設置といったようなことを盛り込まさせていただいております。
この
考え方というのは、我が国の行政の特徴でございました、事前指導に重点を置いた事前指導型の行政から、自立自助型の個人を救済するという事後救済型の行政への重心の移動という我が国の方向にも沿っているのではないかと思っておるわけでございます。
二点目が、「再就職を希望する
女性のための施策の拡充」でございます。
先ほど、M字型カーブが我が国の
女性の働き方の特徴と申し上げましたように、いわゆる再就職型の働き方を選択する
女性が多いのが現実でございます。しかも、
女性のアンケート
調査等を見ますと、三割前後の方々がやはりこういう形の働き方をしたいというふうに答えておられるという
状況では、こういう再就職を希望する
女性に、再就職の際に良好な雇用機会を提供する環境の整備が極めて重要なことであろうかと思われます。
その際、フルタイムとして働く雇用機会を提供することはもちろん重要なことでございますが、家庭との両立ということを考えると、パートタイムで働きたいという方が多いのも現実でございますので、パートタイム
労働対策の拡充というのはますます必要になってくるかと思います。その他、派遣等々多様な働き方、子育てが終わって再び働きたいと思っておられる
女性の方々が自由に自分の意思で選択できるような環境の整備というものが必要かと思われます。そういった
意味で、税制あるいは社会保険
制度を含め、環境を整備することが必要であろうかと思われます。
また、再就職したいという方々が三十五歳であったり四十歳であったり、大体子供の年齢によって左右されるようでございますが、いろいろでございます。ところが、再就職をしようというときに、多くの求人は三十五歳までとか三十八歳までというふうに年齢
制限を設けているものが多いようでございますので、年齢
制限の撤廃というか解消も必要かと思われます。よく、中高年の再就職に当たって年齢
制限撤廃ということが指摘されるわけでございますけれども、子育て後に再就職をしたいと思っている
女性の方のための年齢
制限の撤廃というのも、どうぞ念頭に置いていただければと思うわけでございます。
最後に、「育児・介護等との両立が容易となる環境の整備」について申し上げたいと思います。
現在、男女の賃金格差は、縮小はしているというものの、大体男性の七割ぐらいのところが
女性の賃金水準だというような
調査結果も出ております。またポストの格差というのも出てございますが、こういった原因の多くが、育児や介護のために退職をする、そのために勤続期間が短い、あるいは家庭的負担が大きいためにどうしても出世できないといいますか、上の方のポストまで行けないといったようなこともあるようでございますので、少子化対策という
観点からだけではなく、雇用の場における均等の実現という
観点からも、育児、介護等と仕事の両立対策の拡充の
必要性というのが非常に強まっていると申し上げたいと思います。
これにつきましては、ありとあらゆることをやっていただいている
状況であるのは間違いないと思いますが、その際、国、地方自治体を含め
公共部門と企業と個人、家庭、この役割分担、責任分担をどうするのかということについて、これからの我が国社会のあり方というものをどういう形に持っていくか、それとの整合性、それから児童や高齢者の方々の人間としての尊厳の維持ということも踏まえながら、十分
議論をして
国民的コンセンサスづくりを行っていくということが必要な
時代になっているのではないかと思うわけでございます。
特に、限られた資源の中で何をどう実現していくかというのが今問われている
時代かと思いますので、選択と集中といいますか、何を選択し、コスト、資源をどこに集中させるかということについて
国民的なコンセンサスづくりというのが必要ではないかと思っているということを申し上げまして、終わりにさせていただきたいと思います。(拍手)