○緒方
参考人 参考人の緒方靖夫です。
私は、本院の赤嶺政賢議員と一緒に調査に参りまして、ちょうど十日前に戻ってきたところです。ここに報告書を提出しておりますけれども、これを参照していただきながら、私の報告をさせていただきたいと思います。
まず、
イラクの国民生活の現状と、どんな
援助が必要かという問題です。
フセイン政権の中枢の建物の爆撃とかあるいは破壊、これは
バグダッドでは大変目立ちましたけれども、同時に、店も開き、そして正常な生活に近づきつつあるという、一見そう見えるんですね。しかし、一歩奥に入るとそれが全く違う、これが私たちにとって非常に大きな印象でした。
一つは、やはり何といっても、誇り高い
イラクの国民が外国の占領下に置かれているという屈辱感、また、占領軍があるという重圧、このことは、私は昨年の十月に、やはり重苦しい雰囲気のフセイン政権のもとで
状況を見てまいりましたけれども、やはりその点が際立っていると思いました。
それから、暮らしの問題でいうと、まず第一に
治安の問題、それから電気、電話、医療、飲料水の不足、食糧、雇用、
教育、こうした問題が本当に山積みになっている、そういう
状況でした。
治安の回復はその中の特に第一の問題で、市民にとっても、それから国際機関が
支援をするにも、これがなければ十分にできない、そういう問題でした。それと同時に、電気がうまく通じない、これが
治安にさらに輪をかける、そういう
状況があったと思います。
ですから、占領軍がその
治安の責任を第一に果たすべきだ、そういう声があると同時に、やはり、この問題をどうやって
イラク人自身の
組織によって果たしていくのか。自主的な警察
組織が次第に
組織されるという
状況を見てまいりましたけれども、そういう
状況がありました。
それから電気の問題、これはしょっちゅう停電する、大変な問題ですね。これはやはり、発電所の爆撃等々によって起こっている問題であって、休止の発電所であっても、その修理が進み、さらにそのインフラが進めば対応できるだろうという見通しがありました。この点では、
日本政府が進めている
援助、これが非常に高く
評価され、それをぜひ継続してほしいという話が、
現地でもあるいは国連機関からもありました。
医療では、かつては
バグダッド、
イラクの中では
バグダッドは圧倒的に高い水準の医療の設備を持っていたわけですけれども、そこでは設備が動かない、もちろん圧倒的に医薬品が足りない、そういう
状況があって、これを
補給する、そして設備を改修、修繕していく、使えるようにしていく、このことが本当に大きな問題、課題でありまして、この点でも、
日本政府が既に進めている
援助、これが
評価されていたことも印象的でした。もちろん、NGOも大変頑張っておりました。
それから水の問題ですけれども、飲料に不適切な水、
イラクというのは表面水から水をとるわけですね、湖沼、川から。それが汚染されているわけですよ。ですから、それで一遍に子供たちがやられてしまう。そうすると下痢になる、そして、それが悪循環になって栄養失調等々になっていくという大変大きな問題があって、水の問題は非常に大きな問題でした。そして、これも飲料水が配給されれば解決する、そういう
状況でした。私たちが聞いたところでは、タンカーで百隻水を運ぶとか、そういう国際
支援も行われておりました。
その中で生活用水について言うと、これは以前とは変わりなく
補給されている、そういう
状況も聞きました。私たちは、
バグダッド南東の二百十キロにあるクートという町を訪問して、そこでちょうど浄水場を見ましたけれども、まさに自治
組織が頑張ってそういう復旧をして、あるいは、その
場所を守って水を供給しているという大変感動的な場面も見ましたけれども、まさにそういう問題もありますね。
それから食糧については、三カ月配給を受けていない、そういう市民の声も聞きましたけれども、大変深刻です。特に乳幼児の栄養失調、これをどうするかというのは本当に緊急課題です。
今後は、経済制裁解除に伴って、オイル・フォー・フードが打ち切られます。そして十月末までには、WFP、この代表とも会いましたけれども、WFPの緊急
援助計画があるわけですけれども、その後は展望がないんですね。ですから、食糧をどう解決するか、これは大きな問題だと思います。特に、
イラクでは国営セクターが非常に大きくて、六割の方が公務員。それが失業状態。そして、大体それに照応した数だけの人たちが食糧の国際
支援を受けていた。これをどうするのかということが課題だと思います。
教育。一言で言うと、心の再建だと思います。フセイン礼賛から価値観が一転、百八十度変わっている。それにどう対応するのか。子供たちがそれになかなかついていけない。ちょうど戦争直後の
日本と似たような
状況じゃないかと想像いたしました。
新しい教科書づくり。これも、もちろんフセインの写真を消すのは当然なんですけれども、USAID、
アメリカの海外
支援局は、
アメリカで
イラクの教科書をつくるという
計画を持っているんですね。大変
現地には衝撃を与えております。何で
イラクの教科書を
アメリカがつくるのか。そして、誇り高き
イラク人の誇りを一層傷つけているという感じがいたしました。イスラム、
イラクの習慣をしっかり守っていく、彼らの習慣を、また心情をしっかりとらえた、理解した対応、これが重要であるということを痛感いたしました。
次に、それでは
人道復興支援、これについてどうかというと、一言で言うと、これは国連
関係者が述べたんですけれども、巨大な
援助が必要だと、巨大な
援助が。大変印象的でした。
イラクの国民の暮らしがよくなった、安定した、そういう実感の持てる施策、これが一番求められている。これが、
イラク国民の今ある不満、これをおさめていくという上でも一番
効果がある。緊急かつ最優先される課題だということが、だれもが強調されていたことでした。そして、今後の
イラクの情勢を決めていく重要なファクターにもなろう、そう強調されていました。
そして、
人道支援は非武装が大前提です。
軍隊でこの分野を行うということは想定されていないんですね。もうこれは常識中の常識です。人道
援助の中心に据えているのが、まさに国連だと思います。
イラクでこんな話を聞きました。フセイン政権は
イラク国民から遊離していました。当然ですね、政権の動きが皆目わからなかった。現在、CPAはもとの宮殿の中にいて、戦車と鉄条網で囲まれている。私たちも行きましたが、大変厳重でした、警戒が。そして、これもやはり
イラクの国民からはるかに遊離している
存在である。まさにそのことに国民は違和感を持っている。そうしたときに、
イラクの国民の心情に合った最善の
支援、これは国連の
支援だと。国連は国民の中にどんどん入っていくんです。そうしなければ仕事ができません。NGOも一緒に行く。これこそがまさに最適だ、
イラクの国民の気持ちともぴったりだ。このことも、大変よくわかる話でした。
それから、
イラクの特性に合った
援助。これは痛感したんですけれども、
イラクの人たちといううのは非常に
中東の中では勤勉であって、高い労働力を持っている、そして民度が大変高い、技術、ノウハウを持った、つまり一言で言うと、マンパワーが大変豊富なわけです。どんな
援助が一番
効果的かといえば、要するに、そういうマンパワーを
組織化する、その
支援の一押し、
イラク人の背中をぽんと
一つ押してほしい、そう言っておりましたけれども、そういう
援助が欲しいんだということを強調していた。これも、よくわかる話でした。
ですから、
イラクでは、プロジェクトを丸々下さいとは言わないんです。設計図をもらえば自分たちでできる、そういうことが技術者からも特徴的な話として伝えられました。
ですから、そういうことで、
人道復興支援についてはそのことが言えると思います。
次に、
安全確保支援の問題では二つの側面があると思いました。
一つは、
イラクの国民の
安全確保の
任務です。占領軍が責任を果たすということは当然なわけですけれども、そのほかの外国軍の
役割、これは
イラクからは、
イラク人からは
期待されていない、そう思いました。その点で一番の、もう断トツ一番の課題というのは、
イラクの警察の再建です。
これは、要するに、
治安に責任を持つ警察が解体され、その後対応がとられていないために、
治安初め交通、もう本当にそれができないわけですね。今やっと一部自主的にそれを行っているという、そんな
状況はありますけれども、到底間に合わない。そして、私たち、クート、それから、南東部の百キロの、バビロンのあるヒッラというところに行きましたけれども、そこでは確かに自主的な
組織がやっているんですが、追いつかないんですね。
国連の
方々が言うには、警察で一番大事なのは、地元の人たちを知って、地元の地理を知って、もちろん
言葉も知っている、そういう人たちによる警察
活動なんだ、
軍隊では代行できない、このことが大変印象的でした。
そして、
治安の回復のためには、やはり何といっても警察の再建なんですけれども、CPAの方と会ったときには、警察学校を準備している、三カ月、六カ月のコースを準備している、そういう話がありましたけれども、では、いつをめどに、どのぐらいの人たちを養成するのかということについては答えがなかった。やはりその点で、急務ということはわかりながらも、しかしそれが追いついていない、そのことを痛感いたしました。
二つ目に、もう
一つの側面というのは、占領軍の
治安、軍事
活動への
協力という問題です。
治安は、もちろん戦争終了直後の
略奪、放火、今はそのときと比べればよくなっているでしょうけれども、しかし、その後から比べるとやはり
治安は
悪化している、これは共通した感想でした。
そして、そうした今国民の不満が高まっているという、その不満に乗じて一部
勢力が占領軍に対する攻撃を強めているという
状況があるわけです。
我々の滞在した十八日には、大きなデモ、集会があって、車で動くとそれに出会いました。仕事よこせ、賃金よこせ、そういうデモ、集会でしたけれども、そういう不満の高まりの中で、結局、国民の中には、
武器の放出の呼びかけにもかかわらずそれに応じず、相当の重火器をみんな持っているわけです。クートに、ある事務所に行きましたら、カラシニコフが三丁立てかけられている。みんなそれをぱっぱっと手にとれるようになっている。これは当たり前なわけですね。民間の
レベルでそうなわけです。
そして同時に、そういう国民の不満に乗じて、それを背景にして
アメリカに対して攻撃をする、そういう分子、一
部分子、今のところそうかもしれませんけれども、それが国民から孤立しない、そういう大きな問題があると思うんですね。その分子の捕捉のために
アメリカは掃討作戦をする、それに対してまた国民の不満が高まる。それはなぜかというと、やたらに検束して、例えば女性を
アメリカの男性兵士がボディーチェックする、あるいは、家宅捜索と称して家に入って、そこで片っ端から戸をあけて、子供、女性の部屋にも入り込む。これがどんなにスキャンダルになることかは明白で、そうしたことからますますそういう動きが、掃討作戦を強めれば強めるほどそういう離反が起こる、矛盾が起こる、そういう
状況です。
そして、私たちは、その
アメリカに対する動きというのは、一
部分子なのか、恨みとかそういうのを持っている個人の
行動なのか、それともある程度
組織化され始めているのか、その辺、関心を持って聞きましたけれども、民兵
組織がもとに戻りつつあるとかそんな形で、それがさらに
組織化される見通しもある、そういう動きもある、そういうことが述べられていたことも大変印象的なことでした。
ですから、結局、
アメリカが掃討作戦を強化していく、それによる国民の反発が強まる、その悪循環が拡大しかねない、そういう
状況が見てとれました。
それから、米英軍への反発が強まる背景には、明確に、
一つは暮らしの
悪化。二つ目にはイスラムのおきてを無視した
行動、これは大変怒りを呼んでいます。それから三つ目に、明るく豊かな社会が来るという
アメリカの約束、違うじゃないか、どうなったんだ、そういう不満、怒り。これが背景にあるということも
現地で感じてまいりました。
そして、そもそも米英軍によって
イラク全土が軍事
行動の対象にされている、このことも大変明らかなことでした。つまり、
米軍が移動する、移動したところは、そこは安全であっても、そこが新たにねらわれる、そうしたことになるわけですね、今の
状況から。
私は、そのことは非常に重要なことであって、要するに、
最初は歓迎されたんですよ、ごくごく平均的な
イラク人にとってみては、フセインを倒してくれた
アメリカはウエルカムだったわけですね。ところが、一カ月たったらおかしいなと思い始め、そしてもう少したってみたら不満、怒り、これが強まっていく、これがどんどん大きくなりかねないという
状況が今の
状況だと思うんですね。
そうすると何が起こるかというと、安全だと言っているところも、
米軍が移動すればそこは攻撃の対象になりかねない、攻撃が起これば危険なところ。そして、その
米軍に
協力して
日本の
自衛隊が出ていけばどうなるのか、このこともはっきりしていると思います。
本当に
イラクというのは、
日本が大好きな国だったんですよ。ところが、
日本政府がこの戦争に賛成、これを表明したから、本当に様子がおかしくなりました。まだいいんですよ、まだ国民全体はそうなっていない、一部の知識人だけだと思います。ヨルダンではかなりそのあれが激しくなっていました。
イラクはまだいい。しかし、これが、
米軍と一緒に
協力してこんなことを進めていったときにどうなるのか。
米軍が憎しみの的になっている、その
米軍と一緒に
行動する
自衛隊がどう見られ、しかも、何らかのことで
イラク人を殺傷することになったときには一体どうなっていくのか、このことは非常に明確ではないか、そんな感じがした次第です。
最後になりますけれども、
イラク人道支援でも
安全確保の問題でも、
自衛隊を
派遣する必要は全くない、これが私の
現地で見た感想でした。そして、
自衛隊が
派遣されるならば、今後の
日本の
支援活動にもNGOの
活動にも支障を来すだろう、そう思いました。
イラクや
中東での
日本がこれまで持ってきた本当にいいポジション、
日本の外交では大変珍しい、そのいいポジションが今後どうなっていくのか、このことを感じました。
そして
最後に、繰り返しますけれども、
イラクの
支援というのは、
イラクの
人々の現実に根差して、その心情、文明、習慣、これに根差したものが求められていると思います。そして、このことが
国際社会全体に要請されていると思います。したがいまして、
現地で、国際機関からも国連からも、そして
現地の
イラク人からも
日本の
支援が高く高く
評価された、これを続けてほしい、これをもっと大きくしてほしい、そういう声が聞かれましたけれども、私は、こういう声にこたえていくことこそがまさに今の
日本に求められている、このことを述べまして、私からの発言といたします。
ありがとうございました。(
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