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参考人(
吉村英祐君) まず、私は、
専門は
都市防災ではありません。元々は
建築の避難、安全のことをやっております。例えば、
火災に強い
建物は、
階段を
二つ以上取る、できるだけお互いを離すというのが原則です。そうしないと、
火災が発生したときに
二つの
階段が同時にやられますと避難できなくなるというのがあります。そういうことをずっと研究しておりましたところ、
平成七年に
阪神・
淡路大震災が起きまして、私の家は大したことなかったんですが、
神戸は大
被害を受けたということで、それ以来、
火災だけでなく、もっと広い
視点で安全というものを考えるべきだというふうに思いました。
その中で、特に関心がありましたのが
東京であります。
東京は我々の
専門から見ますと
一つの巨大な
システムであると。しかし、余りにも大きくなり過ぎて
ブラックボックスになっていると。例えば、
災害も、
関東大震災が起きたころはまだラジオもなかった、地下鉄もなかった、ガスも余りなかったと、そういう時代ですが、今は一体大きな
地震が来たときにどういうことが起きるか、いろいろ
専門家が
シナリオを書いていますが、恐らくまだまだ想像が付かない
シナリオがいっぱいあるだろうということであります。
東京を
震災が襲ったらどうなるかという
観点から
首都移転という議論が、これも昔から行われていますが、それに関して、たまたま「人と国土」という雑誌に寄稿を申し込まれましたので、いい機会だと思って整理したのが今日のペーパーであります。主に二十分はこれを
中心に
説明させていただいて、
質疑の中で更に付け加えさせていただくということにしたいと思います。
もう御承知のように、
東京圏は一極
集中がますます進んでおります。
東京圏人口三千万超というのは世界的に見ても恐らく
最大の
人口集中であろうと。しかし、それが
地震多発地域にあるというところが私は問題であろうと思います。にもかかわらず、
日本の
人口があと数年、二〇〇六年から減ろうと言われているときに、
東京圏だけはそれ以降もしばらくは増え続けるだろうという予想があります。これは
東京の
震災リスクを正しく認識していないからであるというふうに私は思っているわけであります。それはある
意味で当然でして、先ほど言いましたように巨大な
ブラックボックスになっておりますから、一体どんな
リスクがあるのか、またそれはどの
程度の
規模なのかということをだれも正しく認識できない、
専門家でも分からないわけですから、
一般の人はもちろん分からないということであります。
そもそも物の大きさというものはすべて
上限があります。生物などはこの辺は非常にはっきりしておりまして、主に重力の
影響で大きさが決まると。鯨は海に潜ったために
浮力が付いたためあれだけ大きくなりましたが、いったん砂浜に打ち上げられますと呼吸ができなくなって死ぬ、あるいは
浮力という守られた中で生存できるということであります。豆腐も水の中に入れてあるからこそ何段も積めるわけで、上に上げるとつぶれてしまうということで、
都市も普通にしておけば
上限があると。それは、過去の歴史を見ますと百万人というのが
一つの目安であります。
百万人を超えた
都市は昔はなかったんですが、近代以降、
交通の発達とか、特に
交通の便が良くなったということもありまして、一千万を超えるような
人口ができたと。それは
日本の、先ほど言いましたように
地震国であるというところに大きな問題があるということであります。
東京は、
関東大震災、空襲と二度にわたって壊滅的な
被害を受けましたが、その都度よみがえってきた。
東京の魅力は何かということはもうこれも数多く語られていますので、今日は省略させていただきます。
私の小
学校のころは、
東京・
大阪二
眼レフ構想なんというのを習った覚えがあります。まだ
大阪は相対的に力があって、相場で
東京の七掛け、実質はもっと下だったと思いますが、それで
東京、
大阪二つの
中心があるということで、そのときは多分、
震災という
視点はなかったと思います。しかし、その後
大阪がどんどん衰退していった。これは
交通の便が発達すると
東京が
独り勝ちになるという
構造があるんですが、そうしますと、いつの間にか
大阪は
東京の
バックアップ機能というのを言われなくなった、もう能力もないというようになってしまったわけです。しかし、
災害が起きたときの
リスクはどんどんどんどん高まっていっているわけであります。
ここで、まず、どんな
リスクがあるかということを整理してみました。まず、物は大型化しますと、特に
タンカーのようなものですね、大型化しますと
輸送効率が大変上がりますが、いったん
油漏れ事故などが起きますと大変な
災害になります。今朝の新聞でも、スペインの沖で
タンカーが座礁したというのがありますが、たくさん積むと便利ですが、いったん
油漏れを起こしますともう保険でもカバーし切れないとんでもない
被害が起きるということです。あるいは、ジェット機もジャンボになるほどいったん落ちたときは大きな
災害になるということがありますが、そういう
災害が起きたときのことを余り考えずに、とにかく大きくすればいいというのが
実態ではないかと思います。
次に、例の二としまして、
拠点の
集中化による
リスクというのがあります。これは産業の
分野でよく言われるんですが、大体、
生産拠点は一か所で巨大な
工場を造るのが一番
効率がいいと言われていますが、それがたまたま世界的なシェアが非常に高いというときには、もしその
工場が止まりますと大きな
影響を及ぼすということで、本来その
企業が何らかの
バックアップを考えるべきなのですが、しかし
企業というのは利益を追求するものでありますから、なかなかそういうことまで対応できないというところがあります。
もう五年ほど前になりますが、
トヨタの
子会社の
アイシン精機の
ブレーキ工場で
火災が起きました。
アイシン精機というのは
トヨタの
ブレーキ部品を一〇〇%作っておりますが、
トヨタは
在庫ゼロというのでやっておりますので、
部品が一個欠けますと
日本じゅうの
ラインが止まってしまうということで、一
工場の火事で
トヨタの
全国の
工場ラインが止まった。
被害は二百億とか数百億と言われておりますが、しかし
トヨタにとっては二百億払って済むならということで、じゃ
工場を分散しようかという、調達を分散しようかということになかなかならないようでありますが。
一方で、
ソニーの
子会社の
ソニー・エナジー・テックという
パソコンの
電池などを作っているところがありますが、ここは
震災の後、第二
工場を造らにゃいかぬと思って造った直後に第一
工場で
火災があったということで、
パソコンも
電池がなかったら動きませんから、出荷が止まるところだったんですが、かろうじて
在庫でしのいだというふうなことがあります。
拠点を
集中するということはそれだけ社会的に責任が伴うのですが、
実態はなかなかそこまで
意識が行っていないということではないかと思います。
もう
一つは、
経路の
集中というのがあります。
阪神・
淡路大震災では
神戸—大阪間の
交通機関が切れましたが、ふだんは
JR、
阪神、
阪急、それからその他
新幹線、
道路網がありますが、非常に幅の狭いところに
集中していますから、そこが切れますとすべて切れてしまうということです。しかし、そこを通すのが一番
効率がいいわけです。これは一見複数の
ルートを用意しているようですが、
JR一本が止まったときは
代わりに例えば
阪急に乗るというのはいいんですが、
災害が起きたときはほとんど無力であります。これは
東京—横浜間も多分同じ状況だろうと思います。
少し古い話ですが、
日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落したときも、
尾翼の
制御系統は三
系統に分けてあるんですが、
尾翼のところでどうしても
最後は一本に、一か所に集まってくると。そこをたまたまやられたということで
システムが働かなかった、
バックアップが働かなかったというようなことで、
バックアップという言葉はよく知られているんですが、
実態は必ずしもうまく設計されていないというのが私の感想であります。
それに対して、じゃそういう
リスクをどういうふうに回避していくかということがあります。これはもう既に
専門の
分野でよく言われていることですが、まず今申し上げました
バックアップ機能を備えるということであります。
新幹線の
総合運転指令所もようやく新
大阪駅にもできましたので、一応、
東京の
指令所がダウンしても対応できるというようになりました。それに、
拠点を分散して相互に
バックアップをするというのはもう
危機管理の基本であるということです。
阪神・
淡路大震災で
神戸新聞社というのが被災しましたが、たまたま京都新聞社と
災害時の
印刷協力協定を結んでおりましたので
震災の日の夕刊も発行できたというように、ふだんから備えておくと最低限のことは対応できるということです。
これは
銀行の
システムもそうでありまして、世田谷の
ケーブル火災というのがありましたが、このときにたまたまその近くに
センターのあった
銀行の
オンラインがほぼ
全国で使えなくなったと。しかし一方で、
大阪系の
銀行、
関西系の
銀行は元々
大阪、
関西が
拠点でしたから、
大阪にちゃんと
コンピューターの
センターを持っている。
東京に進出したときに新たに
東京に作るというようなことで結果的に
二つを持っているということがありまして、ダウンしても西
日本だけとか東
日本だけとかいうことで、
コストは掛かるんですが
災害が起きたときの
被害を最小限に食い止めることができる。これをもっともっと細かくしていけばいいんですが、そうしますと
コストが上がるということがあります。
二つ目が、
経路を多重化するということであります。
東名の
日本坂トンネル火災があったときには
中央高速道が
代わりになりました。ふだんから
経路を多重化しておく、しかもそれはお互い離しておかないといけないわけですが、そうしますと
災害時には非常に有効であるということがあります。
神戸の
ポートアイランドという人工島がありますが、そこに
神戸の
中央市民病院というのが新
神戸駅の近くから引っ越してきたんですが、
災害時には
拠点病院になるはずだったんですが、
ポートアイランドに橋が一本しか架かっていなくて、そこが通れなくなったということで、せっかく造った
病院がうまく初期は
機能しなかったというようなことがあります。
要するに、ここは
災害時の
拠点になるといいながら
実態はそうなっていなかったということですが、そういう
意味で
東京を見ますといろいろまだまだ盲点があるんではないかということです。
三つ目が、分割をするということです。
これは、
建築で言いますと
防火区画というのがありまして、これを細かくしますと
火災が発生してもその
区画内で食い止めることができる。
都市で言いますと、大きな
道路で市街地を分断して、
火災が発生してもその区域で食い止めるというようなことがあります。
しかし、この
構想は
関東大震災、それから戦災の後、一部実現しましたが、結局うまく
最後まで実現しなかったり廃止になった案もたくさんあったようです。
四つ目が
分散化を徹底する。
これが非常に、やりやすいようでなかなか人間にとって苦手なところであります。
アメリカの大リーグは
主力打者を絶対同じ飛行機に乗せないというのがあります。墜落したときにチームがつぶれてしまうからということですが、一回で運ぶ方が本当はいいわけです。
O157という
集団食中毒が
大阪の堺でありましたが、このときも食材一括発注しますと
コストダウンが図れますが、いったんそこが汚染されますと
被害が拡大する。昔は
学校単位で給食を作っていましたから、
食中毒が起きてもその
学校だけにとどまっていた。ついには
感染源もよく分からないというようなことになってしまうわけです。
こういう
視点で
東京を見てみますと、たまたま
東京は、戦後、
地震の
静穏期と
高度成長期がぴったり一致してしまった。これは幸と言うべきか不幸と言うべきか、そのうちに
リスクに対する
意識が低下したといいますか麻痺してしまって、メリットの方ばかり享受しているように見えるわけです。
地震が起きたらという
被害想定もたくさん出ていますが、なぜか余り注目されないわけです。しかし、もし今本当に
東京が
災害に遭えばもはや一国だけで済まない。
関東大震災のときとは全然違います。まず
国家機能がかなりの期間停止する
可能性がある。
神戸のときは
神戸でしたからよかったですが、
東京がなるとどうなるかということであります。
そうしますと、最悪の
シナリオですと、
国家予算の破綻とか
国際金融市場への
連鎖的波及等があるということですが、これは
リスク軽減のための十分な
投資を
日本は怠ってきたというふうに国際的に非難されても仕方ないです。
もう
一つは、
神戸での
地震で八年分の
廃棄物が一挙に出た、一日で出たといいますが、
東京でそのような大きな
地震がありますと、一体その
廃棄物をどこに捨てるのか、どう処分するのかという問題ですね。産廃の
残りが一年分ぐらいしか捨てる
場所がないとか言っているときにそういうことが起きたらどうなるのかとか、いろいろ心配することがあります。
そうしますと、今すべきことは何かといいますと、例えば
耐震改修をすると。今あるものをどう守るかということで、どんどん華やかなプロジェクトを進めるのもいいんですが、例えば
地震で一番
被害に遭うのは
一般の方々であります。その
人たちを守る、財産を守るということにもう少し
投資をすべきではないかということで、時間が来ましたので、
残りは
質疑の方で受けたいと思います。