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参考人(濱
六郎君) 濱でございます。
私は、二十年以上、病院の内科医としまして診療をしてきました。良い薬がなければ
医療は成り立たないということは、したがって非常によく知っております。一方、公衆衛生学を学び、臨床薬理学者としても大学で医学、薬学を教える、大学で学生を指導してきました。薬を
医療の現場で適切に使用するために、
副作用を
監視し、無効、有害な薬を
監視し、
情報を発信してきてまいりました。
一九九七年からは病院を退職して、有益な薬と無効、有害なものを見分けるための
仕事に専念してきております。
製薬企業の援助は一切受けないでやっております。
企業に頼ると
評価が
企業に甘くなり、偏るからであります。このような
仕事をしている医師として、今回の
法案に対する考えを述べさせていただきます。
この
法案の
最大の問題は、薬の
審査や
監視を実際に担当する職員に
製薬企業の社員を大量に投入するという点であります。
今、
高橋さんが述べられたように、
スモンを始めサリドマイド、
薬害エイズ、硬膜のヤコブ病、それから
薬害肝炎、これらの
薬害を、日本の
企業はこういう大規模な
薬害を繰り返し繰り返しやってきました。一部の
企業だけではありません。大多数の
製薬企業が何らかの
薬害に関与してきております。
今度の新
法人は、そのような
企業の人物が大幅に参加してくるわけです。そして、
企業の
意見は取り入れられても、これを
監視する
組織がありません。
理事長が
理事を決め、
理事会が職員を決める。大
企業の意向が大きく人事に影響するわけです。甘い
審査とか危険なものを
医療現場に放置しておくことも可能であります。公正な
審査や
市販後の
監視ができるはずがありません、こういうことでは。
こんなシステムはヨーロッパにももちろん、アメリカにもありません。アメリカは、
費用の半分以上を
企業の資金で賄っておりますけれども、人についてはメーカーには頼っておりません。日本は、お金だけではなくて人まで
企業に頼ろうとしているわけです。後で述べますけれども、
審査や
監視を国の
機関がしていても、アメリカよりもひどい
審査が行われております。今よりも更に悪くなるということは目に見えております。
先日、私
たちが日本にお招きしました国境なき医師団のエレン・トゥーンさんという方にこのシステムのことを話したところ、即座に、これは鶏の番をキツネにさせるようなものだということを言われました。全くそのとおりだと思いました。
国民の命が懸かっているわけです。
アメリカは、以前は
審査が厳しいことで有名でありまして、日本もお手本にしないといけないというふうに言われましたけれども、今やむしろずさんなことで有名になっております。イギリスの医師会雑誌、これがそうですけれども、今年の九月十四日の表紙には、FDAの建物とともに、FDAの持ち主はだれか、
製薬企業か、それとも
国民かというふうな大きな見出しがあります。
重大な害でいったん中止した危険な過敏性腸症候群の新薬を、FDA内部の反対
意見を押し切ってまで再度承認してしまいました。これだけではありません。最近六年半で、アメリカで販売許可されて、アメリカあるいは外国でも危険だということで中止されたものが十三剤もあります。一年あたり二剤ずつ中止になっております。
審査期間を
短縮したためであります。
そのアメリカでも承認しなかった新薬が日本でも承認されました。イレッサであります。
大臣はここにいらっしゃっていますでしょうか。いらっしゃっていませんか。議員の
皆様、
大臣はもっと早く
審査が必要だというふうなことで独立
法人が必要だと言われますけれども、今まで、今でも拙速でいい加減なものがよく承認されております。この典型的なイレッサについて詳しく述べたいと思います。議員の皆さん、よくお聞きいただきたいと思います。
イレッサは、肺がんに用いられる抗がん剤です。この八月三十日に承認されました。十月二十八日には八十人以上が重篤な、死亡の危険もあるような間質性肺炎、重篤な肺炎になりました。その半数は死亡したというふうに考えられます。
よく調べると、これは販売前から危険性が分かっております。動物ではがんに効く用量よりもはるかに少ない数分の一の用量で毒性が出ています。人で使う用量の五分の一で肝臓の壊死まで起こっているのです。だから、動物の
段階でも、臨床に使って良い結果が出るという予測ができるはずがありません。
臨床試験でも実際に毒性が明らかになっています。よく聞いてください。腫瘍が小さくなる率が八%です。イレッサの害による死亡が七%出ています。大部分が間質性肺炎です。死亡しない間質性肺炎はもっとあります。だから、わずかにがんが小さくなる割に、その代わりに同じくらいの人が死ぬということになります。皆さん、こんなものが薬として使える必要がない。
ところが、実は、メーカーは八月十九日に寿命延長効果がなかったということを公表しました。日本の審議会に相当するアメリカの抗腫瘍剤諮問
委員会は八月二十日にイレッサは有用という
評価をしたのですけれども、FDA自身が八月十九日のこの
報告を重視して、迅速
審査の対象なんですけれども、それでも承認を延長しました。日本の
審査センターでも当然この
報告を受け取ったはずですけれども、しかし、日本では承認されたのです。
こういうことが、ここ一日、二日で調べました。これだけの資料、すぐ調べられます。これだけの資料があります。厚さ十センチ余りになりますが、こういう資料を一日ぐらいあればポイントのところは分かります。こういうふうに
専門家であれば分かるんですけれども、それが
審査で承認されてしまった。
このようなことは日常茶飯事です。例えば、血糖を下げるのと同じ用量を動物に使っていると心臓が悪いということが分かっている薬、これはアクトスという糖尿病の薬があります。薬と言えないものですね。発売されて、すぐに私
たちは警告しました、心臓が悪くなると。半年後に心不全が
報告されて、警告が出されました。
ほかにもあります。慢性心不全に用いられるアカルディという強心剤がありますが、短期には効果があるんですけれども、これを長期間使うと死亡率が一・八倍に高まります、使わないよりも。その結果がアメリカでもうすぐ
報告されるというときに、この結果を待たずに、その直前の一九九四年に駆け込みで承認されました。こんな危険な薬を、薬と言えないようなものを売り続けているのは日本だけであります。ところが、このものが標準的な心不全の薬の十倍以上も高い値段で売られております。臨床試験の
評価と承認時の間違った
審査、
市販後の
安全対策が有効にされていなかったという、このために価値
判断が誤って価格にも反映したというふうに考えられます。
本来、新薬の
審査とか
安全対策は、
開発振興とは独立させて、
企業とは資金的、
人材的に完全に独立させた
組織、つまり直接国が実施すべき最重要
業務です。
審査能力のある
人材が国に乏しいということを理由に、
企業に頼らざるを得ないというふうな説明もされています。しかし、
医療の
開発に必要な必須薬というものはほぼ
開発し尽くされています。ここ十年来がそうです。真に画期的な新薬というものは急速に減少してきまして、現在、
国民のためになる本当に意味のある新薬は
一つか
二つであります。あとは新規性のないゾロ新とか先ほどのイレッサのようなものだけです。新規なだけで価値の未定なもの、危険なもの、そういうものがたくさん出てきます。今後も当分このような傾向が続きます。このようなことから、欧米では
審査要員は縮小の傾向で検討されているほどであります。
特殊分野の
専門家というものは、自分自身の専門分野の
審査には甘くなります。その分野の、特殊分野の権威になればなるほど総合
評価の客観的な質が落ちるという
研究さえあります。したがって、特殊な分野の
審査といえども、
安全対策には優秀なむしろ非特殊分野の
医薬専門家がかえって適切であります。そういうものからすれば、こういうふうに検討すればすぐ問題点が分かります。
厚労省では、薬食審への
組織改編を計画し始めたときから、新薬の
審査は細分化して
一つの分野に数人の
専門家を配置するというふうな方式に変えました。今後、
バイオ、
ゲノム関連の特殊分野で
審査するためにもこの数人の中に新
法人で採用する
企業の
人材が入ってくる、こういうことになります。そうなると、どうなると思われます。
企業の思いどおりになるのが目に見えるようであります。
新
法人は
運営の資金面でも
企業からの大幅な資金増が予定されております。アメリカのように五〇%以上が
企業資金で
運営されているのでは、公正な
審査、
監視は不可能であります。昨今アメリカで承認された新薬の中に問題薬が続出しているということはこれをよく物語っております。新薬は薬食審で
審査されるので国のチェックは働くというふうな説明もされておりますけれども、審議会方式で
薬害を防止できてこなかったということは、過去の数々の
薬害が証明しております。しかも、今後ますます細分化されてチェックは難しくなります。
アメリカでは、イレッサの検討の際、
企業の説明、それから抗腫瘍諮問
委員会の説明、それからFDAそのものの説明がありました。FDAが承認延期の
最終決定を下しております。この新
法人はこの三者を
一緒にしてしまうというものです。しかも、実質的に
審査する
人材はすべて新
法人に移行します、国にはおりません。国独自の
判断などできようはずがありません。
組織の健全を保つには、活動内容が開示されて第三者の
監視が必要であります。
監視を受けない
組織は必ず暴走いたします。数々の
薬害の
歴史が示すように、
企業は暴走してまいりました。適切な
監視を受けてこなかったためであります。
医薬品は
専門性の高い分野です。国で
審査したとしても、それを
監視する第三者の
機関が絶対に必要であります。アメリカでも市民
監視組織の
医薬専門家の
意見をしばしば聴取しております。このようにしてもまだ問題薬剤が続出しております。
日本では、審議会
委員に
薬害被害者代表とか推薦する
医薬専門家の正式参加は全くございません。今こそ私
たちが一九九六年に提案した、国の承認とか
安全対策が適切かどうかを
監視する公的な
医薬品監視組織が必要であるということを訴えたいと思います。