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高橋参考人 おはようございます。
日本総研の
高橋でございます。
本日は、発言させていただくチャンスをいただきまして、大変ありがとうございます。私からは、主として
経済的観点からということで発言させていただきたいと思います。
まず、足元、その
特区の構想につきまして、私はやはり
地方経済の再生という観点で考えさせていただきたいと思います。
かつて、
地方経済というものは、円高がずっと続く中で
産業の
空洞化を
経験したわけでございますけれども、私、今
地方経済というのは、新たに
三つの観点から
空洞化に再び直面しているという気がいたします。
その第一は、最近になりまして、また
日本企業の
アジア進出の動きが非常に活発化しております。これは、単に円という要因だけではなくて、やはり
アジアにおける分業
構造というのが大きく変わってきているというところに大きな原因があると思います。そういう中で、大
企業の場合には
アジアに
進出してまいりますけれども、中小
企業の場合には、一緒に
アジアについていくか、それとも死かというような選択を迫られるケースが出てきている、これが第一点でございます。
第二点は、
日本全土で交通や通信網の発達、これが進むことによっていろいろなメリットも出ておりますが、同時に、デメリットと申すべきかもしれませんけれども、首都圏あるいは
地方圏の中で一極への集中が進んでいるということでございまして、これが
地方経済が
空洞化していく
二つ目のポイントでございます。
それから
三つ目のポイントは、ここ数年でございますけれども、公共
事業の削減に伴いまして、ある意味では
地方経済にとって最後のよりどころともいうべき
資金源が断たれつつあるということではないかと思います。
この
三つの現象が重なって、今、私は、
地方経済が新たな
空洞化、疲弊の危機に瀕しているというふうに思います。そして、こうした現象というのは、どちらかといえばもう不可逆的でございまして、今後さらに深刻化していくということではないかと思います。こういう中でどうやって
地方経済を疲弊のふちから救うかということが必要だというふうに考えております。
こうした流れをとめるためには、
地方経済が過度の中央への依存を是正していく、そして自立的な
経済圏を
地方自身がつくり上げていくということ以外に答えはないんではないかというふうに思います。
そういう中で、今度出ました
特区構想が、こうした沈滞する
地方経済にとりまして、閉塞状況の打破、あるいは
地方経済だけではなくて
日本経済全体の閉塞状況の打破になる、そういうふうに私は考えておりますが、
特区設置の意義としまして大きくは
二つのことが考えられるんではないかという気がいたします。
まず第一は、
地方経済再生の切り札としての期待でございます。
先ほども、
地方経済が置かれている状況については申し上げましたけれども、これからこの
特区の構想がうまく進んでいけば
地方が自立的な
経済圏を形成することができるわけでございまして、それによって
空洞化の流れというのがようやくとまるんではないかということが期待されます。
地方が自立していくためには、中央依存を排する一方で、
地方の独自性あるいは個性というものをフルに発揮していくということが必要でございます。このことは、
地方経済が再生していくということだけではなくて、その
プロセスでは、
地方の社会そのものが再生していくということにつながるというふうに信じております。
他国の例ではございますけれども、最近、イタリアが非常に
日本で注目されております。スローフードなどと言われておりますけれども、イタリアの持っておりますスローソサエティー的な性格、
地方都市から非常にユニークで
世界的な規模の
企業が立ち上がってくる、生まれてくるというのは、やはりその
地方独自の文化なり風土というものが生かされて、それがその
企業経営の中に生かされて
世界で活躍する、そういう構図なんではないかと思います。これですべてを語れるわけではございませんが、私は、そういった生き方というのはある意味で
日本で必要なのではないかというふうに思います。
特区構想の意義の第二点でございますが、これは、
我が国経済全体で見ましたときのマクロ
経済効果ということでございます。これにつきましては、三点にポイントは集約できるかというふうに思います。
まず第一点でございますが、
特区をつくることで
地方経済の中で選択と集中が起きるわけでございまして、このことは、
地方の中で資源の再配分あるいは
地方の中での
競争あるいは
地方間での
競争、これが促進されるということになりますので、資源の効率的な配分ということにさらに資するのではないかという気がいたします。
二つ目のポイントとしては、
特区の中に限らず
日本全国で見た場合に、
特区の構想が進んでいけば、当然のことながら、どこにいる
民間企業であっても、あそこに
投資してみたいという形で
投資意欲が高まるということでございます。
今、
日本経済にとりまして
最大の
課題というのは、
企業にとって期待成長率が低下してしまって新たな
投資意欲がわいてこないということかと思います。したがいまして、特定の
特区に
投資をしたいということであっても、これはマクロ
経済で考えていきますと、
企業部門全体の
投資意欲を引き上げるということにつながっていくかと思いますので、私は、国全体の
産業の再生、
都市の活発化ということに当然資するという気がいたします。
ポイントの
三つ目でございますけれども、これはよく言われることでございますけれども、
特区が成功すれば、当然のことながら
規制改革、これの突破口になってこれが
全国に波及していく、そういう
効果でございます。私は、この
三つのことがマクロ
経済全体としても言えるんではないかという気がいたします。
それから、こうした
特区の例というのは諸外国にたくさんあるわけでございますが、本日は、私からは
二つの例を申し上げたいと思います。
一つは、最近のアメリカの事例でございます。アメリカは
特区をつくったわけではございませんけれども、九〇年代のアメリカの
経済の再生ということを振り返ってみますと、
地方都市の発展というのが極めて大きな役割を果たしたというふうに思います。八〇年代に非常にアメリカの主要
都市での
コストが上がっていく、そういう中で、
企業が高
コストを逃れて
地方都市に移転していったわけでございますけれども、そういう中でシリコンバレーが余りにも有名でございますが、それ以外にもテキサスですとかいろいろなところで、
地方都市で、例えばITなどが活性化していって、そして
地方都市の
雇用がふえていった、これがアメリカ
経済全体の再生につながっていったということが言えるんではないかと思います。
なぜアメリカで
地方都市が再生したのかという要因を探ってみますと、
一つは明らかに
コスト面の低さということでございますし、もう
一つは、
地域によって産学協同、これが非常にうまくいったというようなことが言われているわけでございますけれども、アメリカの場合には、もともと
特区をつくるまでもなく、
地方で再生のメカニズムが動くような機運があったということが指摘できるんではないかと思います。
例の
二つ目が
中国でございます。
中国の
経済特区でございますけれども、もともと
中国は、七〇年代に社会主義
経済体制、
経済のパラダイムそのものが行き詰まるという中で
特区という手段を活用したわけでございます。当然、今
日本で考えられております
特区と当時この
中国の
経済特区に与えられた優遇
措置、これは異なっておるわけでございますけれども、それにしても、
中国にとりましては
経済体制を変えるという壮大な実験でございました。
まさに今の
中国経済の状況を見てみますとこれに成功したわけでございますけれども、
中国で今何が起きているかということで改めて振り返ってみますと、皆さんもよく御承知のとおりでございますが、
一つは、社会主義
経済から市場
経済への体制移行に成功した、そのきっかけに
特区がなったわけでございます。
第二に、当時は、もともとは広東省でございましたけれども、
地域の特性を顕在化させて広東省が発展する、そういう中でほかの省が我も我もという形で同じような構想を進めていって
地域間の
競争が活発化していったということが挙げられると思います。
そして、もう
一つのポイントとしまして、今や広東は、あるいはシンセン
地区はITで
世界的に
産業の集積した基地というふうに言われておりますが、これなどは、特定
産業の集積がまさにこういうところで進んでいく、そういうきっかけになった。これは
中国の
産業の発展にとりまして極めてエポックメーキングなことであったというふうに理解しております。
今、私、アメリカと
中国の例を申し上げましたけれども、それぞれ国によって違いますので一律のことは申し上げられませんが、私は、今の
日本というのは、まさに
中国の二十年前の状況に匹敵するような、そういうインパクトのある
措置が必要な局面に来ているんではないかというふうに理解しております。
続きまして、大きな三番目のポイントとしまして、今回の
特区法案につきまして私なりに考えているところを申し上げさせていただきたいと思います。大きくは三点ございます。
一つは、今回の
特区の設置に伴います
規制の緩和ということでございます。
総論として申し上げますと、
規制緩和は私はまだまだ進める余地があるんではないかというふうに思います。とりわけその対象となる
規制項目については、さらに
拡大の余地があると思料しております。
先ほど
福井参考人の方からもお話がございましたけれども、私、基本的にこの
規制緩和ということにつきましては、過去十年の間に、
経済的な
規制については、例えば
参入障壁の撤廃であるとかかなり進んだというふうに理解しております。今や、
規制緩和、
改革といったときに大きなポイントとなりますのは、やはり文書に書かれていない
規制、それからもう
一つが社会的な
規制と便宜的に分類されるものではないかというふうに思います。
今回も、
農業、
医療、
教育、こういった
分野で
規制の緩和の是非が議論となって、結果的に
自治体の
要望が十分に生かされていなかった、そういう状況であったと伺っております。
私は、こういう事態を打破するためには、例えば
総合規制改革会議で集中的にこういった
分野について討議をしてみる、あるいは首相の判断でもって突破していくというようなことも含めまして、
特区で適用すべきものとして集中的に検討する、あるいはむしろ
全国一律でこういったことを認めていくという観点から検討する、ある意味でねじの巻き直しが必要なんではないかというふうに考えております。あるいは、全く別の観点になりますが、こういった議論が分かれるものについて、例えば
特区の中で住民の同意が成立するかどうか、そういったことを判断基準にしていくというのも
一つの解決策ではないかという気がいたします。
今、
社会的規制のことについて申し上げましたが、それ以外についても、緩和の対象となった
規制項目が九十三件と伺っておりますので、総論的には、比較的限定的な回答しかまだ出ていないのかな、第二次、第三次の緩和というところに期待させていただきたいところでございます。
それからもう
一つのポイントとしましては、やはり
企業にとって不便であるあるいは煩雑である、そういった
規制を
企業の側から情報を集めて緩和構想の中に盛り込んでいくというのも、そういった観点というのも必要なんではないかということでございます。
それから、私見として申し上げたい
二つ目のポイントが、国の財政支援あるいは国と
地方との関係ということでございます。
従来の
地域振興策と今回大きく変わっておりますことは、やはり国と
地方との関係ということだと思います。私は、
地方自治体の主体的な
取り組みが
特区成功のかぎだというふうに信じておりますので、したがって、中央
政府からの安易な財政支援、あるいは
地方自治体から
申請がない
地域で
特区をつくるというようなことについては、賛成しかねる次第でございます。
それでも、各
自治体で財源の手当てが必要だという場合には、私は、
特区をつくるからということではなくて、むしろ、
地方自治体の自主財源の拡充という形でこれに対処していく、いわば
地方分権の流れの中で検討すべきことなのではないかというふうに思います。ただし、
地方から
要望が上がってきておりますものの中で、国として
全国的視野で実施できるようなものもあるのではないか、こういうものについては、私は、国の予算を積極的につけていくということも一法ではないかというふうに考えております。
最後の、私見のポイント、
三つ目でございますけれども、
特区を設置することの
効果の
評価ということについてでございます。
法案では、
特区実施後の定期調査、これにつきまして、これが関係行政機関にゆだねられているということでございますけれども、やはり、各
規制項目についてもともと
省庁の
見解によってかなりばらつきがあるということを考えてみますと、こういった
効果の
評価ということについても、各
省庁がやった場合に、私は、調査結果にバイアスがかかるおそれがあるのではないかという気がいたします。
したがいまして、
規制緩和効果の計測であるとか、あるいは
特区の設置
効果、こういったことにつきましては、当然慎重な
評価というものが必要になるわけでございますが、私は、第三者機関を設置して
評価をするというのも
一つの方法なのではないかというふうに考えておる次第でございます。
以上三点、私見ということで私なりの考えを申し上げました。以上でございます。ありがとうございました。(拍手)