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山本正和君 そこで、今度は薬学
教育のことでちょっといろいろとお尋ねしていきたいんですけれ
ども、実は、薬学
教育というと
日本人は薬屋さんと、こう思う一般的概念があるんですが、薬学の歴史をずっと、特にヨーロッパの歴史を調べると、薬学というのは実は化学だったと、化学の専門の
人たちが薬も作ったんだと、こういう歴史なんですよね。
もう、皆さん御承知の名前のボイルなんというのは化学の開祖者ですよね。この人が薬剤師なんですよ。薬剤師というかそういうことをやっておるんですね。あるいはシェーレ。これも酸素を発見した人ですよね、酸素を正式に。こういう
人たちが全部ヨーロッパでは薬剤師、薬学士なんですね。
ですから、ヨーロッパの医学というのは、そういう化学から発していろんな薬を作って、そして人間の体にいろんな、どういう影響を与えるかということから出発していく中で、お医者さんの役割というのは診断だったんですよね。診断して、これがこういう病気だと、そのときには薬をどうしようと。したがって、薬剤師になるのに大変な勉強をしていなければなれなかった、昔は。大分、二十世紀になってから軽減されましたけれ
ども、それでも、大変、まず
基礎化学だけはしっかり勉強していなければ、ヨーロッパでは薬剤師の資格取れないんです。
ただ、医学部というのは、そんなに化学や物理学は余りたくさん取らぬでもいいんですよね。割合簡単な、無機化学、有機化学、理論化学、ちょこっとやるぐらいで、お医者さんはもうそれで済みますよね。
ところが、薬剤師になろうとすると、その上に更に製造化学だとか合成化学だとかいろんなのをやらなきゃいかぬ。また、外国の文献も読まなきゃいけない。私らみたいな戦争中のインチキなやつでも、ガッターマンの有機合成化学反応を全部原語で読まされたですよ。そういう、本来からいったら薬剤師というものをきちっと位置付けしなければ、いわゆる西洋医学というものの消化はできないんです、本当からいえば。
そこが、長い歴史の中で、明治以来様々な流れがあるんですけれ
ども、明治時代に、このことについては実は文部省はヨーロッパを学んで医薬分業をすべきだと、そして薬学
教育も十分に高めるべきだと主張しておるんですよね。なかなかそれが、
日本人の観念の中に、お医者さんというのは昔は薬師と言っておったですから、お医者さんから薬をもらった方が安心で、薬屋から買うのは売薬で効くか効かぬか分からないというようなのがあったものですから、なかなかそうはうまくいかなかったんだけれ
ども、もう二十一世紀になって、OECD加盟国で、薬剤師というものの位置付けを、こんな位置付けしている国というのはないんですよ、世界じゅうを見て。OECDの国見たってね。韓国でももう掛かっているんですよ。
私はもう、別に
自分は薬をやったことは一遍もありませんから、免許状はもらったけれ
ども、国家試験を受けてね。だけれ
ども、免許状をもらったけれ
ども一遍もやったことないけれ
ども。そして、私はもう
一つ免許状をもらったんです。これは文部省のあれなんですよ。旧制で言うと
中学校、女
学校、師範
学校免許状というのです。この免許状をもらったらどこの県立へ行ってもナンバー
中学ですよ、いわゆる一中、二中、四中という。そういうところへ行って月給七十五円ですよ。なかなかその免許状もらえないんですよ。
これは、例えばあれですよ、帝国大学を出ても、昔の、それでもこの中免というのは簡単にはもらえないんです。だから大学を出ても代用教員で
小学校へ行ったりね。あるいは旧制
中学校なんかなかなか教員になんかなれなかった。そういう立派な免許状をもらったもんですから、私は高校の教員になっちゃったけれ
ども。
しかし、いずれにしてもそういう、文部省が一番始めに
日本の国を何とか世界の文明の諸国家に負けないように、
教育の問題にしっかり根を据えて、制度も含めて一生懸命取り組んできた歴史の中で、たった
一つ後れておったのが薬学に対する位置付けなんです。
これは、正直に言いますけれ
ども、これは厚生省に言わにゃいかぬ話だけれ
ども、医療費がなぜ高いかといったら、お医者さんが、私はお医者さんの
技術料だとか診断料はうんと高くしたらいいと思うんですよ。ところが、病院経営者というのは、薬をたくさん出さぬことには経営できない、利益が上がらぬと言うんです。これは、ですからうっかり医薬分業したら病院はえらいことになるから困るというようなものが背後にあって、これどんどんどんどん来ている。ですから、
予算委員会での議論でも、なぜこんなに医療費が高いのというような話になってくる。しかし、もう既に進んだお医者さんなどはほとんど処方せんを書いて薬局に回すようにしていますよ。そうすると病院で長い間待たぬでいいし、患者の方は
自分の近所で薬を調剤してもらえばいいわけですからね。そういうふうになっていますけれ
ども。
しかし、それにしても、一番大事なのは、薬剤師の地位が低い、薬剤師の資格を余り簡単に与え過ぎるというところに私は欠陥があると思うんです。本来からいうと、せめてOECDの各国並みに、薬剤師の資格を取るについてもしっかりと勉強をさせるようにしていくべきだろうと。現実に四年制でもって薬剤師の免許状を出しているような国はOECDの中で
一つもない。もっとしっかりとしたものを作らせぬと駄目なんですよ。
ただ、今度はそのお話をしていくと困るということを言うのは、どこが言うかといったら私学の経営者が困ると言うんですよ。四年制を仮に五年制や六年制にした場合、また大変な金が掛かりますから困りますと、こういうふうに。
しかし、そんな経営の問題じゃないんですよ。薬というのは人間の命の問題ですよね。特に、これだけ
社会が複雑化してきて、新しい病気がどんどん出てくる、文明病と言われるような。そうなると、余計医療についてはきちっと理屈の立ったような医療にしていかなきゃいけないと思うんですけれ
ども。
そういう
意味で、薬学
教育の今の状況について、
局長、ひとつお
考えを、これからそういう形でひとつ検討していこうというふうなお
考えがあったら、
是非聞かせてほしいんですが。