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参考人(
片方信也君) 御指名を受けました
日本福祉大学情報社会科学部の
片方です。
本日はこの
委員会に
参考人として
出席する機会を与えられまして、大変光栄に思っております。私は、主として
建築都市計画分野の
集団規定の問題について
意見陳述を申し上げたいと思います。
私の
専門は
都市計画学、
居住地計画論です。
一般に人々は
土地に基礎を置いて
生活空間を作り生活しておりますが、これを
地域生活空間として把握できます。私は、
地域生活空間の
計画は、このような人々の生活をより良く発展させるために人類の社会が必要としている基本的な
仕事であると思っております。今、その視点から
地域生活空間の特徴を挙げてみると、次の三点に集約されます。
第一に、
地域生活空間は、そこに住む人々の共同の場であり、共有の財産であるということです。ところが、この共有財産はそれぞれの独自の目的やもくろみを持って人々が行う
建築や開発の行為によって日々作り変えられていくものです。それゆえ、個々の行為は可能な限り互いに阻害し合わず、各々の目指す効果が互いにプラスになるように、もろもろのもくろみ、個別の企図を互いに調整していかねばなりません。
第二に、個々の
建築や開発は、過去のそれらの蓄積を変えつつストックとして形成され、このストックが人々の生活基盤になっていくということです。そのため、
地域生活空間は過去と未来をつなぐ持続性を持たねばなりません。そのため、
地域生活空間は、持続性を持たねばなりません。困ったから、間違ったからといって直ちにやり直しができるというものでなく、
一般に困難です。したがって、もろもろのもくろみは長期的な展望を備えていなければなりません。
第三に、
地域生活空間は、そこに存在するものただ
一つであること、つまり掛け替えのない固有の存在であるということです。ですから、その空間で行われるもろもろのもくろみは、
生活空間という場でフィジカルな側面で
一つに統合されていなければなりません。つまり、これらのもくろみを調整する
地域生活空間の
計画は、全体として
整合性を持ち、統一されたものでなければならないということです。
ところで、日本の
都市、殊に大
都市の空間は人々にとって大変住みにくい
環境に変わりつつあり、かつその問題は深刻化しています。都心やその周辺の
一般的な居住地では大規模な再開発プロジェクトのための
土地利用変化や高層マンションの建設による
環境変化で住み続けることが困難となり、一方では
住民の流出が続いております。
〔
理事藤井俊男君退席、
委員長着席〕
二〇〇二年二月に行われた
社会資本整備審議会都市計画分科会の中間取りまとめによりますと、現在、東京二十三区内で進行中の
容積率制限にかかわる
特例制度を活用した
建築の延べ床面積は約一千六百ヘクタールで、一年間に新たに
建築される
建築物の延べ床面積約一千九百ヘクタールに匹敵すると報告されています。このまま推移すると、東京のスカイラインは一変するほどの驚異的な開発圧力が掛かっていると言えます。
近年のマンション建設には超高層化とともに巨大化の傾向が見られます。数値の上では人々の都心回帰のように言われておりますが、周辺の既存住宅への影響の大きさや町並みへの悪影響などで多くの問題点を
地域生活空間にもたらしております。また、それぞれの
都市の歴史的風格ともなじまない住戸とその集合の形を取っているため、より良い居住空間をストックしているとは言い難い面があります。
私を含む
研究チームは、二〇〇〇年までの二年間にわたって、日本で歴史的に最も古い街区構成の伝統を有する京都の都心
地域に立地する高層マンションの居住者の意向調査を行いました。その詳細は二〇〇一年の
都市住宅学会の学術論文報告集に掲載されております。この調査では、居住者は間取りの便利さや都心立地の利便性などを強く選好する傾向があり、必ずしも高層住宅を好んでいるのではないことが分かっております。
したがって、都心
地域で中低層の集合形式の住宅が実現できれば、居住者とともに周辺の
住民にとってもより望ましい形態が作り出せる条件があるのです。
なお、近年の都心
地域へのマンション建設の件数が増え、かつ大規模化しているのは、これまでの商業
地域で四〇〇%、これは京都の場合でありますが、という過大な
容積率指定による影響とともに、
容積率算定の際の共用
部分の控除などの
規制緩和によることは明白です。
今回の
建築基準法等の
改正案には、商業
地域を始め住居系
地域での
容積率、建ぺい率緩和及び
総合設計制度での
容積率等の許可なしの緩和措置などの
内容が含まれております。ところが、全国的には、商業
地域でも居住地を内蔵した複合的な性格を有しています。京都では、
地域住民にはダウンゾーニングの実施を求める声があり、かつ緊急性があると言えます。また、この場合、商業
地域を縮小する、いわゆる市街化区域、調整区域の線引きの際に用いられた言葉、逆線引きという言葉がありますが、逆線引きも
意味のある
検討課題です。このような現実の要請とは今回の
改正案は基本的に食い違いを見せているのではないかと思います。
京都の都心
地域での
総合設計制度の適用などによる高層
建築物の容認は、既に九〇年代の初めに乱杭景観、乱雑の乱に杭という字ですね、乱杭景観の出現につながるとして厳しく批判されてきました。これは、京都盆地のトータルな景観ビジョンの確立を
行政側に強く求める重要な見解でした。また、この制度の適用自体が歴史
都市の景観保全の障害となると
指摘されてきた経過があります。
地域生活空間は固有性をその本質とすることは前に述べましたが、これを
定型化してチェックを緩めることはそのような固有性を損なう危険があり、重大です。むしろ、許可
手続の際に様々な
意見が寄せられ、市民の間で
議論されてこのような問題についての認識が深まるようなプロセスを重視すべきです。
このような経過に立って今回の
規制緩和等の
法改正の
趣旨を見るとき、最も重要と言えるのは、提示されている緩和措置がどのような市街地像を実現するためのものかを明示していない点です。
さきに引用した中間まとめには、現行の
都市計画、
建築規制の運用が自由な
民間活動の制約要因となっているとの
指摘があり、
法改正はその
趣旨を受けたものと推測されます。そして、資料にある
法律案の概要には、
選択肢の拡充と述べられているだけで、市街地のビジョンを先行させる
考え方はうかがえません。
大
都市の都心について言えば、まず、大規模な再開発プロジェクトやタワーと呼ばれるような複合超高層ビルなどの
建築計画などはダウンゾーニング等の手段でいったん凍結する必要があるでしょう。市民の一定数の要請があるときは法の上でもその是非について市民に問い掛ける
手続義務を
自治体に負わせることも重要な
課題であると言えます。その上で都心
再生について市民参加のビジョンを策定することが緊急に求められます。その
内容に沿って
容積率等の
規制の
在り方を抜本的に見直す必要があります。この場合、高齢化社会に対応して多世代の家族が居住できる福祉型の住
環境を創造することが緊急の
課題です。このような市民参加のビジョンの策定は、
一般の市街地でも必要な取組です。
私は、
住民が提案できる
都市計画の制度として、一九九九年にメキシコで開かれたICOMOS、これは国際記念物遺跡
会議の略称でございますが、の総会でのシンポジウム以来、近隣
計画の導入の
必要性を主張してきました。これは、一定の区域で
土地や
建物所有者のほとんど全員の合意で高層マンション建設問題などを契機に
居住環境を維持するために
住民が自主的に
まちづくり憲章や
まちづくり宣言を結び、その幾つかが
建築協定や地区
計画として制度上も位置付けられる例が全国的にも見られることを根拠にしたものです。特に京都の都心
地域ではこの例が多いという実態があります。
この例は、前段の憲章や宣言の取決めに基本的な特徴があり、
建築協定、地区
計画はその
内容を制度上明記する形になっております。
住民が本来は初めからこうした制度の適用を求めたのに対して、むしろ
行政側がこれに消極的であったというのが経過にありますが、こうした不要と言える障害を取り除いて、
住民自身の意思を近隣
計画として制度上も明確にするべきであるというのがICOMOSでの私の主張の
趣旨です。
今回の
まちづくりに関する
都市計画の
提案制度には、そのような
意味で積極的な側面があり、評価できます。この制度が生かされることを期待したいのですが、そのためには、条件として幾つかの
検討事項があると思います。
まず第一に、
住民の提案があったとき、
都市計画決定とする
判断の
基準が問題となるでしょう。日本では、例えば
建築協定は、住宅地の
環境を高度に維持増進し、
土地の
環境を改善するために必要なときに決められることになっておりますので、この仕組みに沿って、その目的と
規定内容が一致すれば
都市計画の変更ができるようにすることが望ましいと言えます。こうした
一般的な目的とともに、その
地域の歴史的な特徴などを
まちづくりに生かすような個別的な
規定を付加できるようにすることも
住民主体を促す上で重要な点です。既定の
都市計画との適合性を義務付けるようなことがあるとすれば、その
趣旨を全く損なうおそれがあり、そのような義務付けは避けるべきです。
第二に、市町村の
都市計画マスタープランとその詳細な
計画は、
住民の提案を受け、いつでも変更可能なフレキシビリティーを持たねばならないでしょう。多くの場合、実際には法定
都市計画が
地域の生活
環境に重大な影響を及ぼしている例が全国的に枚挙にいとまがありません。いったん取り決めた
計画はてこでも動かせないという現実があります。これは、これまでの策定過程が必ずしも
住民の
意見を十分に反映し、人々の利益にかなうようなものではなかったことに原因していると思われます。こうした現実を既定
都市計画の限界と認め、
住民提案を機会に全体の
計画を一歩ずつ改善することを市町村に義務付けることが必要であると思います。
中長期的には、
建築協定、地区
計画制度の運用にも
住民の
提案制度が影響を及ぼしていくと
考えられます。また、そうあらねばならないと
考えております。地区
計画の運用を地区
住民の生活の質の向上というような本来の
趣旨に立って、似たような種類の煩雑さを避け、分かりやすくするためには、
建築協定も含めて、将来この
提案制度に一本化する
方向も
考えられるところです。
以上で私の
意見陳述を終わります。ありがとうございました。