○
参考人(
大野健一君) 本日は、国際金融の中でも途上国の為替運営について幾つかお話ししようと思います。
そのように
テーマを限定しても、問題はたくさんあるのですし、三十分ではとても意を尽くせないと思いますから、後で質問などをいただければと思います。
それから、
経済は、何でもそうですけれども、為替問題、途上国の為替問題も非常に論争が多い分野でございます。今から申し上げる部分は、
一般的理解もございますけれども、私の見解、たくさん入っておりますので、そう簡単に納得されないでよく考えていただきたいと思います。十分納得されたら信じてもいいと思いますけれども、非常にコントラバーシャルなことを申します。
まず最初に、「
アジア危機後の政策勧告の多様性」ということで表にしましたけれども、
一つ一つは説明申し上げません。けれども、
アジア危機後、途上国がどういうふうに為替運営をすればいいかということについて、まだまだ議論の収束はないし、恐らくそう簡単には議論の収束はないと思います。
幾つかこの中で、読んでいただければ大体分かると思うんですけれども、幾つか御説明申し上げますと、二番目に書いてある両極論、バイポーラビューとかいうものは、九〇年代初めにこのアイデアというのは非常に、特に欧米で優勢になりました。
どういうことかというと、もう為替が、為替レートではなくて、
資本の移動が非常に民間で大きくなりますと、政府がどんなにコントロールしようとしてもそう簡単には為替はコントロールできないと。そうすると、二十一世紀の為替というのは二種類しかないんじゃないかと。固定するんだったら完全に
EUがやったようにもう単一
通貨にすると。そうするともう投機も何もできませんから、そこまでやるんだったらやると。それができないんだったら、もう自由フロートにするしかないと。中途半端にペッグしたり管理フロートしたり介入しても、必ず民間の
投資に破られるという考え方であります。
そうしますと、
アジアの途上国なんというのは、とてもまだ
EUみたいな
統合というのは大分先の話ですから、結局、自由フロートということになるんですけれども、この見解というのはもう議論が出たときからいろんな反論がありました。そんな極端というのはおかしいと。結局、今ではもうほとんど勢力がなくなったと思います。特に、今ちょうど正に起こっているアルゼンチンの問題とか、ほかにも
アジア危機を通じてでも為替の固定に向かうというやり方で非常に危ないということが分かりましたから。それが両極論という考え方です。
カレンシーボードというのは、その両極論の固い方というか、固定の方の
一つの極の具体的な政策の取り方なんですけれども、これはアルゼンチンがやったものでございます。カレンシーボードというのは結局どういうことかというと、中央銀行が全然信用できないときに、例えばハイパーインフレを起こしたり、あるいはソ連から分離して新しい国ができて、まだ全然中央銀行の金融政策に信用がないときにどうやって信用を取り戻すかというときに、中央銀行に政策をさせないというオプションであります。
政策をするとマネーサプライ増やすから、で、インフレになるから、あるいは財政赤字をファイナンスして赤字垂れ流しになりますから、中央銀行を縛ろうと。つまり、中央銀行でマネーサプライを出す権限を縛って、マネーというのは民間が持ってくる
貿易あるいは
投資、あるいは
資本移動で持ってくる外貨と一対一で比例的に出すと。そうすると中央銀行というのは政策何も考えなくていいと。電話と、
一つ電話と
一つテーブルがあれば、もうそれで貨幣政策はできるという考え方であります。
実際には、それから、ここの表の下に書いてある中央銀行とカレンシーボードの差をバランスシートで書いたものですけれども、違いというのは何かというと、結局、資産側で、カレンシーボードだと国内資産の売り買い、大体国債が多いんですけれども、国債を売ったり買ったりすれば中央銀行の右側にあるマネタリーベースというものが増えたり減ったりして、これでマネーを増やしたり減ったりできる、これで政策できるわけですけれども、いわゆる公開市場オペレーションという、公開市場操作というものですけれども、それをやらせないという、対
外資産だけにすると。さっき申したように、民間が持ってくる外貨だけに比例して
お金を出すと。だから、国債買えないわけですから、赤字の、財政赤字を埋めることはできないというやり方であります。
これをやっている国というのは、香港、エストニア、リトアニア、ブルネイという、こういうような小さい国が主ですけれども、アルゼンチンはずっとやっていました。今、正にやめつつありますけれども。インドネシアにもそういう、やりませんでしたけれども、そういう提言が
アジア危機のときありました。
一対一に
お金を出すんですけれども、実際にはそう一対一に縛らなくて、かなり何というか抜け道というか余裕があるわけで、例えば香港の場合は現金の、キャッシュですね、キャッシュには一対一でリンクするけれども、ここのバランスシートを見ると、商業銀行の預金の部分はリンクさせないから、そこを増やしたり減らしたりできるとか、あと、一対一じゃなくて一対幾らというような形にするとか、必ずしも完全に縛らないものがあるんですけれども。これがこの数年というか、九〇年代から最近に掛けてかなり議論されたシステムであります。
で、ドル化という、ドラライゼーションというのは、これもういろんな
意味があるんですけれども、カレンシーボードを更に極端にして、外貨で稼いだドル札を実際に国内で流通させてしまおうということで、これはもうテーブルも電話も要らないわけで、ドル札が実際に流通するということであります。これは固定制の極端な場合。
あともう
一つ説明するのは、複数
通貨バスケットということで、これはまだ、
アジア危機の後、非常に議論になりまして、今でも賛成の方一杯いらっしゃると思いますけれども、結局、今も
青木先生から話ありました。
アジアの
貿易構造というのは、
日本、ヨーロッパ、
アメリカ、大体同じぐらいの比率で
貿易しているんです。あと、
投資も日米欧から来ます。何でドルだけにペッグするんだというようなことです。ちょうど日米欧と大体同じぐらいの比率であったら、大体一対一対一ぐらい、三分の一ぐらいの比率で
通貨を入れて、それにペッグすればいいんじゃないかという考え方。ここは、これ書きましたように、
日本でも割と賛成する方がいらっしゃいます。ただ、私は反対なんで、後で申し上げます。
次にお話ししたいことは、
アジア危機、今言ったことにも
関係ありますけれども、
アジア途上国というのは危機の後、またドルペッグに戻りました。次のページですけれども、
アジア途上国
通貨というのは大体ドルを基準として運営されてきた。大体というか、ほとんどすべてですけれども。ですけれども、九七年、九八年の間に
アジア危機があって、ペッグができなくなって、フロートに移って暴落したわけですね、コントロールができなくなって。それが一応、一年ぐらいたちますと、一応為替がコントロールできるようになると。そのときどういうふうな体制に戻ったかというと、またドルペッグに戻ったわけです。
御存じのように、
中国、香港は一遍もドルペッグ外さずにドル固定で乗り切りました。
マレーシアはわざわざドルペッグ、ドル固定を九八年、採用しました。そのほかの国というのは、ここは、ベトナムの場合はスライドと言うんですけれども、もうごく目で見て分からないぐらい毎日少しずつスライドしていて、実質的にはアジャスタブルペッグ、時々大きく変えるけれども、階段状に動くという。そのほかに書いている韓国、
タイ、インドネシア、台湾というような国は、一応動いていますけれども、毎日の
動きというものはドルを基準にやっています。
ここのグラフというものは何かというと、毎日の為替の対ドルの、これは韓国と
タイの場合ですけれども、毎日の為替の
動きというものを回帰分析という統計処理をしまして、一体どの
通貨にウエートを置いているかというものを計算したものであります。ちょうどそのグラフが乱れているところの一年間辺りが
アジア危機のところで、その係数が一ということは、ドルにほぼ一対一で対応しているという計算結果になっております。
それで、
アジア危機が終わってからもドルペッグに戻っているわけです。ここで問題なのは、ドルペッグというのは、ドルに固定すると、ドルが上がったとき、下がったときに
一緒につられますから、何でそういうものに戻ったんだということが分からないわけです。
その
一つの解釈は、
アジアの
通貨当局が余り頭が良くないと。つまり、全然
アジア危機の教訓を学んでいないからまた危ないことに戻ったんだという解釈がいろんな
経済学者から出ています。第二の解釈は、頭が悪いのは
経済学者の方であって、実際にやってみるとドルペッグというものはそんなに悪くないし、ちゃんと運営すれば危機を回避できるという解釈であります。
その理由は幾つかあります。ここに
三つ書きましたけれども、
貿易、
投資、金融が大部分ドル建てで行われていると。さっき
貿易は、
アジアの
貿易は三分の一ぐらいが、
先進国相手はドル、
アメリカだと申しましたけれども、実際にドルを使っている部分というのはそれよりもはるかに多いわけであります。まず、
域内ではドルを使います。それで、一次産品
輸出するときもドルを使います。
日本もドルで決済、取引しますから、円の場合もありますけれども、ドルの場合もたくさんあるわけで。あとラテン
アメリカその他の国もドルですから、結局、
貿易に加えて
投資、いわゆるFDIという直接
投資ですね、それから
お金の貸し借り、そういうものはほとんどドルが
中心ですから、どう考えてもドルが一番重要な
通貨であるということ。それから、ドルが一番ニューヨーク市場でも使いで、借り、貸す、貸し借りする、それから借り換える、それからボンドをイシューする、そういうことを非常にやりやすいわけです。
それから、もうちょっと正確に言えば、このグラフで表したものは短期の日々の
動きでありまして、短期でドルペッグしているからといって、五年、十年見たときに完全にドル固定しているかというと、全然そういうことはないわけであります。短期でドルを固定しても毎日少しずつスライドすることもできますし、あと、数年、数か月に一遍大きく変えることもできますし、あるいは、いわゆる管理フロートといって、市場にゆだねてある方向に少しずつ動かすこともできて、何年もたつとかなり何十%も対ドルレートが変わるということができる。それならば完全固定ではないですから、いわゆるオーバーバリュエーションというものを防げる。
この表というものは何を表したいかと、二ページの下の表ですけれども、バスケット制という、先ほど言いました日米欧の三
通貨を混ぜるというやり方というのは、私は不十分だと思うんです。なぜかというと、為替というのはいろんなショックに対応して変えなきゃいけないわけで、そのショックは、例えば日米欧、例えば円高になったとかユーロが下がったとか、そういうものに対応するというのもあります。
そのほかに、自分の国と
世界のインフレ率が違うときは、ほっておくとオーバーバリューというか、競争力を失いますから、調整しないといけない。それから、実物ショックが、例えば
IT不況が起こったとか、あるいはもっと政治危機が起こったとか、いろんなことで変えなきゃいけない。それから、
アジア危機が隣の国で起こったときにも当然ある程度追随しなきゃいけない。
そういうことは、完全には自動ではできないわけで、日米欧のバスケットというものは主要
通貨の変動については自動的に対応しようというものであります。ただ、これだけ対応していたら駄目なんで、結局いろんなことに対して結局手動で変える
タイミングを逸してはいけないと。結局変えていかなければならないんだったら、ドルペッグでも三極ペッグでもあるいはスライドでも安心することはできないわけで、常に変える
タイミングを見ないといけないわけです。だから、結局そんなに変わらないんですね、ドルペッグでも。ドルペッグでも、ちゃんと自分のところの競争力とか周りの国の
状況を見ていれば対応できるということでございます。
次のページも行きますと、カレンシーボードということを申しました。
今、去年から今に掛けてアルゼンチンで危機が起こっております。これは結局どういうことかというと、やっぱりこれは為替政策の失敗の
一つの典型的な例だと思いますが、アルゼンチンというのは固定をやっていたわけです。もう十年ぐらいやっています。ただの固定ではなくて、ドルと一対一の固定だから、一ペソが一ドルというものを十年やってきました。なぜかというと、もう御存じのように、ラテン
アメリカは、ハイパーインフレのあった国ですから、もう
通貨当局に信用がないということで、
通貨当局を縛るためにやったわけですね。それはそれで良かった、インフレはなくなりましたけれども、これを長く続けると固定がオーバーバリューになって競争力を失って、それから出るときに危機を起こさなければ出れないというような
状況になると。だから、このシステムというのはだめだということを私は二年前にある研究会で出ましたけれども、そこの委員全員、もうこれはアルゼンチンこれは駄目だと、もう危機が必ず来るということを言っていましたが、やっぱり危機になりました。
エキシットポリシープロブレムという言葉があるんですけれども、どういうことかというと、今言ったように、そのインフレを止めるために固定レートというのは時々使われるわけです。だけれども、それを長いことやりますと、だんだん競争力なくなってくる。競争力なくなって、インフレはなくなって、今度は競争力が問題になったとき、もう一度動かさなきゃいけないわけですけれども、それを動かすのができなくなるという問題です。
なぜできないかというと、いったんこの為替の安定というのを政府の政策に、
経済政策の根幹に据えてしまうと、それを変えるということは結局政策失敗ということで政治的に動かせなくなるわけですね。あと、憲法とか法律に為替レートは一対一で決めるとか書いてしまいますと、それを審議しないと変えることができないという。それは非常に機動性を欠くことですし、結局、エキシットポリシープロブレム、
日本語で言うと何と言うんだかまだよく分からない、卒業問題というんですか、脱出問題というんですか。それは結局、そういう危機なしに固定レートから出るか、そういう問題であります。
アルゼンチンの危機というのは、さっきも申したように、九一年から対ドルに一対一で固定していて、その成果は上がったわけです。ところが、最近になって、まず九九年の一月に隣の大きい国、ブラジルが切り下げました。フロートダウンしました。そうすると、隣の国が競争力上がると相対的にアルゼンチンが競争力なくなります。それから、財政赤字があるときに、いわゆるインフレに、オーバーバリューになって、それを引き下げないと競争力が出てこない。
輸出がだんだん伸び悩んでくると。明らかに一対一のレートというのは変えなきゃいけないんですけれども、先ほど申したように、政府は一対一にコミットしておりますから、それをやめるということは政権交代覚悟でやらなきゃいけないということになって、去年の終わりぐらいから、結局そのオーバーバリューになって競争力がなくなり、デフレになってきて、国民が不満を、社会的不満を持って、結局政府が倒れて幾つかの政府が、短い政府ができて、今ついに一月に新
経済政策といって、為替の切下げ、フロートダウンをやったわけです。だから、典型的な卒業失敗の例であります。その下に書いてあるグラフのとおりでありますけれども、これは円ドルレートと同じ、数字が大きくなると切下げということで、今やこういう状態になっております。
あと、アルゼンチンの場合は憲法ではないんですけれども、法律に為替を一対一にすると書いていますから、変更するときにやっぱり議会で審議しないと為替変えられないわけですね。ところが、為替を変えるときには、フロートダウンするときには、一挙にやらないといけないわけで、特に、日曜日に発表して月曜日の朝から国民が
動き出す前にフロートするというような早い行動が求められるわけですけれども、為替が法案を通さないといけないということになりますと、それの話が出た瞬間に討議浴びせられてしまうという問題があって、アルゼンチンは大統領に特別の権限を与えることによって乗り切ったようですけれども。とてもこういうのでは機動的なことができないと。
次の話もします。
じゃ、今その
アジア危機以降のこういうような
世界でどういうふうに途上国の為替は運営すればいいかということ、これは私の
意見でございますけれども申し上げます。ページ、四ページです。
環境として、
世界経済は非常に不安定で競争的であると。途上国にとってみれば、国内産業というものは民間は弱く、政府も政策というのはうまくできない。それと、その中で国際
統合圧力というものが高まっています。そういう中でどういうふうに為替を運営すればいいかというのが
一般的な問題であります。
それから、為替レートというのは原則として
一つしかないわけですから、
三つある国もありますけれども、そういうところは早く
統合して
一つにしなければならない。為替は
一つなんですけれども、政策目標はたくさんあるわけで、しかもその複数ある目標は必ずしも整合的でないと。一番大きいのは競争力維持、つまりインフレを起こしてしまえば為替を下げると、競争力を取り戻すというのが重要なんですけれども、もう
一つ重要なのは、物価を安定させるために為替をむやみに動かさないと。それはカレンシーボードの考え方もそうであります。
そうすると、一方では柔軟に動かすというニーズがあって、もう
一つはむやみに動かさないというニーズがありますから、これは両方取ることはできないわけで、やっぱりケース・バイ・ケースで、この国にとってはどちらが大事かということを考えなければいけないわけであります。完全に固定してしまいますと、今度動かさなきゃいけないときに、さっきも言ったように、政治危機が起こると
経済危機も起こりますから、それでは困るわけであります。
このボックスに書いたものが私の
一般的なレコメンデーションであります。「途上国は、対ドル「短期安定」「長期伸縮」を実現すべく、柔軟に為替制度・為替水準を選択せよ」と。だから、ドルペッグでもいいんです。あるいは、スライドというかクローリングペッグというか、毎日〇・何%ずつ下げていくとか、そういうのもいいんです。あるいは、数か月一定にして突然一〇%下げるとかそういうのでもいいんですけれども。あるいはフロートしながら時々介入する。余り名称にこだわってはいけないと思うんですね。実際に
中国なんか、たしかIMFには管理フロートしていますとか言っていますけれども、実際にはもう十年、八年ぐらい固定していますから、非常に固定的なフロートもあるし、非常に柔軟なペッグもあるということです。短期安定、つまり日々のレートはむやみに激しく動かさない、そういう
動きがあるとある程度カットするわけです。長期的には一〇%、二〇%動かさないといけないときがありますから、それは確保すると。長期的に動かすときに、政権が交代しなきゃ動かせないようじゃ困るわけで、そういうようなメカニズムにしておくと。
ここにかいたグラフというのは、これはマウスでかいたんでちょっとうまくかけていませんけれども、アイデアとしてはこういうものいろいろあるわけで、可変スライドというのは毎年何%変えるといって決めて、時々その変化率を変える、アジャスタブルペッグは階段状に変えるので、管理フロートは毎日動かすけれども変な
動きがないように介入を時々すると。このいずれの場合も、長期的に見れば大体同じぐらいに下がっていればいいわけで、必ずしもそのどれでなければいけないということはない。
何で短期のスムージングが必要かというと、まず、毎日の
動きというのはかなり乱高下が多いわけで、ファンダメンタルズに
関係ない、だれかがどういうふうに言ったとかうわさとか、そういうものが一杯あるわけで、それはやっぱりカットしなきゃいけない。それから、何週間も何か月も同じ方向にどんどん振れるというようなのはバブルの
可能性がありますから、そういうものをカットしなきゃいけない。あと、途上国では、日米欧などと違いまして大きな取引があると一挙に振れるという、そういうようなことがありますから、やっぱりそれも中央銀行が相対、反対の取引してスムージングしてやらないといけない。最後に書いたのは、スワップとか先物などがない国もありますから、そういう国では、余り毎週毎月変動するというのでは
貿易取引とかそういうものができないというので、短期の部分では余り変動させない方が安心して
貿易できるということであります。
それから、もう
一つ重要なことは、今言ったのは通常の場合であります。もし、
アジア危機とかあるいはロシアのルーブルが暴落したとかそういうのが周辺国で起こった場合は、通常の為替政策モードと切り替えて危機モードに変えなきゃいけない。
危機のときには、例えば自分が
マレーシアで
タイが落ちたときには、ある程度の為替が下がるのはやむを得ないことであって、これを完全に守ろうとすることはできないわけであります。あるいは、ロシアが暴落したときには隣のカザフスタンとかキルギスタンというのはある程度落ちなきゃいけないわけで、大体二、三割は覚悟、五割以上落ちるというのはちょっと落ち過ぎだと思いますけれども、大体その程度は覚悟して、できるだけ早く速やかに落として、それで早く安定に持っていくというようなことを考えないといけないわけで、フロートダウンの
タイミング、それから一挙にフロートするときの政策パッケージが非常に重要になるわけであります。
ここで書いたカザフスタンの例というのは、お配りした別の
資料に、文章に書いてありますけれども、カザフスタンというのは非常に私はうまくやったと思うんですね。
九七年に
アジア危機でしたけれども、九八年にロシアのルーブル危機でした。やっぱりカザフスタンも切下げ圧力があったわけですけれども、どういうふうにやったかというと、非常に
アジアと違う。まず一挙に落として、もう二、三日で安定しました。数か月たつとほとんど固定みたいに、もうそれ以上落ちなくなったわけですね。これは
アジアと随分違います。
それから、もう
一つ違うのは、
一緒に出したパッケージが、ここに書いてある、消費者、銀行、
企業などが為替リスクを余り負わないように保護を掛けたということです。これは市場メカニズムとは違いますけれども、そういう危機のときには市場メカニズムと違う保護策を出すというのも時限的には構わないと。
あと、もう
一つ重要なことは、カザフスタンは危機の最中に
企業改革とか銀行改革を加速させなかった。これも
アジアと随分違うことで、そういうことは危機の途中にやることではないと。
最後のページに参ります。
最近の円、ドル、元をめぐった
動きについて少しコメントしますと、
日本は
経済停滞、空洞化の状態にあるわけで、一方で
中国は、この数年ですけれども、非常に競争力が伸びたように見えて、
輸出も伸長していると。そういうことになりますと、為替で何とか調整できないかという話が出るわけでして、元については切上げ要求、円については円安、もう実際に今、百三十二、三円、四円ですか、なりました。
これについてどう考えるかということですけれども、まず
中国については、
青木先生もおっしゃいましたけれども、今ちょっと両極端の議論がございますね。
中国は非常に
日本にとって脅威であるというのと、
中国というのはいずれ崩壊する
可能性が高いと。これは両方
可能性はあると思うんですけれども、やはりバランスの取れた、両方に目配りした
中国対応が必要だと思うんで、強いか弱いかどっちかに決めて済むような国じゃないと思います。
それから、特に
ASEANとかインドネシアとか
タイは、ベトナムなんかは
中国に非常に脅威を持つのは当然なので、彼らが
輸出するものは
中国が
輸出するものに似ていますから。ところが、
日本にとっては、ネギとシイタケは競合するかもしれませんけれども、余り
輸出するものが重なっていないわけですね。
それがここにかいてある図で、これは関志雄という香港出身のエコノミスト、
経済産業研究所の方が作ったグラフですけれども、これは何を言いたいかというと、このグラフ、右側にあるほど、これは
アメリカにどれだけのものを売っているかという数量を書いたものですけれども、右に行くほどハイテクのものを
アメリカに売っている、左に行くほどローテクあるいは一次産品を売っていると。
中国が
アメリカに売っている分と
日本の売っている分を計算すると、オーバーラップする部分はありますけれども、そんな大きくないです。
日本と韓国、
日本と
マレーシア、
日本とほかの国の方がずっとオーバーラップが多いので、
中国というのは一番
日本とオーバーラップが少ない国で、何でそんなに心配するんだというような
意見が関志雄さんです。ただ、その
中国の山がだんだん右に来る速度が速いというのはあるんですけれども。あと、
青木先生ももうおっしゃいました、未解決の問題が山積しております。国有
企業、所得格差その他。だから、そういうものを、いろんなものを見た上で、両極端に走らない判断が必要だと思います。
あと、
中国の対外
経済運営について少し申したいことは、
中国はもちろんまだ移行
経済であり、移行がまだ終わっていません。自由な民間
資本移動というのがございませんから、結局、経常黒字を、黒字を出した後、
貿易の面で出したのはどこにたまるかというと、民間にたまるというよりも、むしろ中央銀行の、その大部分が外貨準備になってたまるわけですね。だから、結局、売った黒字というのを、全部じゃないけれども、大部分を国でためているわけです。官でためているわけで、ある
意味では七〇年代までの
日本と同じです。八〇年に自由化、
日本が自由化するまでは大体日銀が黒字をためていましたから。
それから、今、対ドル固定をやっています、
中国、御存じのように。今、
中国が強そうだから切上げしろというのもありますけれども、
中国からしてみると、今からWTOするので、どうなるか非常に不安なところがあるので切上げやりたくない、ちょっとWTOとか競争力がどうなるか見てみたいというのがあるので、むしろ、弱くなれば切下げということになると思いますけれども。だから、どっちに動くかというのは必ずしも決められないと思うんですね。
むしろ大事なことは、これがアルゼンチンのようになってはいけないということが非常に重要なことで、固定というのは、今はいいですけれども永遠にはとてもできないわけで、
中国もいつか、香港も含めて、いつかアルゼンチンみたいに、これはどうしても切下げしなきゃいけないというときが来る、あるいは切上げかもしれませんけれども、そのときに危機を起こさずに動かすには、今からそろそろ、動かしてもだれも驚かないような、そういうようなメカニズムに移行するという、ソフトランディングしておく必要があると思います。
それから、
中国の
貿易構造を見ますと、組立て加工型、
輸入部品・
外資への依存が非常に強い。途上国では当然なんですけれども、
中国というのは非常に大きい国で底の深い国かと思えるんですけれども、人口的には物すごく大きな国ですけれども、
経済構造を見ると普通の途上国と大して変わらない。つまり、
外資にドミネートされているわけですね、その
輸出構造が。
投資もそうです。あと、
輸入部品が多いです。それから、
貿易依存度も、その
輸出と
輸入を足してGDPの四五%ぐらいかと思うんですけれども、これも非常に高い数字ですね。もうちょっとGDPが大きくて
輸出入の分小さいかと思うと、そうではない。これは特に改革・開放してから急上昇で増えました。
だから、ここでパススルーというのは、結局そういうふうに
貿易依存度、
外資依存度が高いときに、為替下げたときに、結局、為替下げた分だけまた
中国でインフレが起こったら、結局実質ではそんなに変わらないわけですから、為替下げた
意味とか上げた
意味とか余りないかもしれない。これはまだもうちょっと研究しないと分かりませんけれども。
あと、日米
貿易摩擦について私は本を書きましたけれども、御存じのように、日米の
関係に見られます、六〇年代から、繊維から始まってずっと
アメリカにその黒字をなくせと言われ続けたわけで、それに対してどういうことが起こったかというと、毎年じゃないんですけれども、数年に一遍、六、七年に一遍ぐらい急激な円高というのが起こりました。それから、激しいその日米通商の交渉というのをやらされました。
結局、それで
アメリカの赤字がなくなったかというと別になくなっていないわけで、それから、
アメリカの
経済が再生したって、九〇年代は再生しましたけれども、それは為替を変えたからじゃなくて、結局まあ
アメリカの中の
IT革命とか資産革命ですよね、資産、今になるとバブルと言う。だから、為替で変えて、今の日中も、
中国が強くなってきたから、元・ドル、元・円レートですか、を変えて、
中国の追随を止められるかって、やっぱり
中国が上がってくるのはリアルな面ですから、競争力の面ですから、余りそういうものは何か問題のすり替えみたいで先送りになるような気がします。
特に、結局
日本の場合でいうと、そういうふうに
アメリカが余り黒字を減らせと言うものだから、東南
アジアとかメキシコとか、あるいは
アメリカ自体にいろんな
投資してそこから
輸出するようにしたから、確かに
日本から
輸出は減りましたけれども、東南
アジアからソニーが
輸出させているわけで、結局為替というものはそういうものなんですよ。本当に強くなっていく国を止めることはできないと思います。
最後に書いたことは、今はずっといろんな方が、為替レートに責任を持つ方あるいは過去に責任を持った方がいろんなことを、円安がいいんじゃないかというようなことをこの数か月おっしゃって、それがもう効いて円安になってしまいましたけれども、私、これは余り健全なことではないと思います。今言ったとおりです。
だから、本当に
中国が怖いと思うんだったら、やっぱりリアルな面で対抗するしかないんで、それは
青木先生がおっしゃったその
自由貿易その他も含めてです。あと、もちろん
企業の対策。為替だけでやるというのは、
日本没落のというか、問題先送りの種になるんじゃないかと、そう思います。
どうもありがとうございました。