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2002-02-06 第154回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十四年二月六日(水曜日)    午後一時開会     ─────────────    委員氏名     会 長         関谷 勝嗣君     理 事         世耕 弘成君     理 事         山崎  力君     理 事         山本 一太君     理 事         藁科 滿治君     理 事         沢 たまき君     理 事         緒方 靖夫君                 入澤  肇君                 小林  温君                 桜井  新君                 西銘順志郎君                 野上浩太郎君                 舛添 要一君                 森元 恒雄君                 吉田 博美君                 今井  澄君                 小川 勝也君                 木俣 佳丈君                 佐藤 雄平君                 山根 隆治君                 若林 秀樹君                 高野 博師君                 井上 哲士君                 田村 秀昭君                 大田 昌秀君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         関谷 勝嗣君     理 事                 世耕 弘成君                 山崎  力君                 山本 一太君                 藁科 滿治君                 沢 たまき君                 緒方 靖夫君                 田村 秀昭君     委 員                 入澤  肇君                 小林  温君                 桜井  新君                 西銘順志郎君                 野上浩太郎君                 舛添 要一君                 森元 恒雄君                 吉田 博美君                 今井  澄君                 小川 勝也君                 佐藤 雄平君                 山根 隆治君                 若林 秀樹君                 高野 博師君                 井上 哲士君                 大田 昌秀君    事務局側        第一特別調査室        長        鴫谷  潤君    参考人        杏林大学社会科        学部教授     青木  健君        政策研究大学院        大学教授     大野 健一君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事選任の件 ○参考人出席要求に関する件 ○国際問題に関する調査  (「新しい共存時代における日本役割」の  うち、東アジア経済現状展望について)     ─────────────
  2. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  理事選任についてお諮りいたします。  本調査会理事の数は今国会より六名から七名に増えておりますので、その一名の理事選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、会長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事田村秀昭君を指名いたします。     ─────────────
  4. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国際問題に関する調査のため、今期国会中、必要に応じ参考人出席を求め、その意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 御異議ないと認めます。  なお、その日時及び人選等につきましては、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  7. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 国際問題に関する調査を議題といたします。  本調査会では、三年間を通じた調査テーマ、「新しい共存時代における日本役割」の下、具体的調査項目として、一年目はイスラム世界日本の対応、東アジア経済現状展望などについて調査を進めていくことといたしておりますが、本日は、東アジア経済現状展望について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、杏林大学社会科学部教授青木健参考人及び政策研究大学院大学教授大野健一参考人に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多忙中のところ本調査会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。  本日は、青木参考人からは東アジア貿易地域統合中心に、大野参考人からは通貨・金融を中心に忌憚のない御意見を賜りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じます。何とぞよろしくお願いを申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず青木参考人大野参考人の順でお一人三十分程度で御意見をお述べいただいた後、午後四時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いいたします。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、青木参考人から御意見をお述べいただきます。青木参考人
  8. 青木健

    参考人青木健君) ただいま御紹介にあずかりました青木です。よろしくお願いいたします。  今日、私のテーマ東アジア経済の展望と可能性ということで、事前にレジュメをお配りしてあると思います、それに沿って御説明させていただきたいと思います。  東アジア可能性ですけれども、私は、第一点として、アジア通貨危機、一九九七年に発生いたしましたアジア通貨危機高度成長は終わったんじゃないかということです。  じゃ、どういう成長率でいくのかということなんですけれども、私が命名しているんですけれども、歴史的長期経済成長率、これが大体四%前後ということです。これからの課題というのは、その歴史的長期経済成長率四%プラスアルファ、これに沿って経済運営をしていくべきじゃないかということです。  このプラスアルファというのは、技術革新に支えられた経済成長率ということで、技術革新に支えられた経済成長率というのは持続性があるということで、これからは大きな課題になるんじゃないかと思います。  これからアジア経済を展望する場合、この持続的な成長技術革新に支えられた技術成長に対して三つのチャンスがあるんじゃないかということです。  一つは、生産効率の改善をしていく、生産効率の改善を不断にしていくということです。二番目はIT革命です。三番目が地域統合ということです。これらの三つのファクターを見まして、組み合わせていろいろ展望いたしますと、実のところ、楽観、悲観、両方のシナリオを書けるわけです。しかし、これはチャンスの到来であるということは間違いないということで、これからは東アジア経済、そして、これは日本も含めてですけれども、東アジア経済持続的成長に向けて様々な政策努力をやっていくべきじゃないかというのが今日の趣旨でございます。  では、そういうふうに考えるに至りましたアジア経済の展望について、レジュメに沿って御説明させていただきたいと思います。  一九九七年、アジア通貨危機が発生するまで、それまでの十年間、東アジア経済は非常に高い経済成長率高度成長を達成したわけです。かつて一九六〇年代に日本高度成長所得倍増高度成長を達成したわけです。それが東アジアにおいて再現されたような、こういうような感じがいたします。  東アジア経済は、成長率が高かったのみならず、同時に不平等の低下を同時達成した。これが、世界銀行が東アジアの奇跡の内実であるというふうに言ったわけです。その成長を支えた要因といたしましては、節度ある優れたマクロ経済運営、それから、輸出志向性の強い外資を導入したということによって輸出志向工業化を達成したということでございます。  しかし、一九九七年にアジア通貨危機が発生して、その後、皆様御承知のとおり、アジア経済は現在に至るまで、V字型を回復したとか、あるいはIT不況ですか、アメリカからの、そういうことでちょっと現在に至っているということです。  これからのアジア経済を見た場合、高度成長は無理だと今申しましたけれども、依然として貧困層が多いということですね。例えば、一日一ドル以下の支出しかしない、絶対的貧困層と言うわけですけれども、これが依然として三億数千万人いるということです。アジア通貨危機以後また絶対貧困層が増えたということで、依然として東アジア経済成長を必要としているということは、これは間違いないということです。  しかし、アジア通貨危機で明らかになったアジア成長パターンはどういうものかと申しますと、要素投入型であったということです。  物を生産する場合、基本的には資本と労働を投下しないといけないわけですけれども、その資本の源泉になるのは高い貯蓄率あるいは外国からの直接投資があったらそれが支えだということで、つまり、その生産要素を、お金とそして労働力ですけれども、それによって高い経済成長率が維持されてきたということ。そういう経済成長パターンというのは、そういうお金が入らなくなるというと急速に低下してしまうということで、こういう成長パターンというのを要素投入型と申します。東アジアはそういう成長パターンであったということです。  それからもう一つは、一回限りの、そういう成長パターンは一回限りの成長であるということです。  これはどういう意味かと申しますと、一九八五年のG5で、円高ドル安為替レート調整日本企業は猛烈な勢いで東アジアに進出していったわけです。当時、東アジア諸国世界不況であえいでいたわけなんですけれども、日本企業は大量かつ継続的に進出することによって日本経済、当時超大国と呼ばれていたわけですけれども、その経済超大国のダイナミズムが波及してきている、投資だとか技術、あるいは貿易、あるいは資本、人の往来、そういうチャネルを通して日本経済超大国のダイナミズムが自国に波及してきていると。  特にマレーシアなんかは、そういった現象というのは百年に一度あるかないかだ、千載一遇である、今こそその経済超大国のダイナミズムを導入して自国経済工業化近代化をやるべきだということで、マレーシアを始めタイその他アジア諸国日本企業、規模だとか業種あるいは技術のレベルに関係なく、大量に導入したということで、冒頭に申しましたように、高い経済成長率を過去十年間にわたって維持してきた、こういうことになったわけです。  こういったことは、これから東アジアを考えた場合、ちょっと近い将来、あるいはかなり遠くを見た場合、そういう経済超大国の出現はちょっと期待できないということで、日本経済東アジアにもたらした高度成長というのは、これは一回限りだというふうな感じがいたします。  にもかかわらず、東アジア経済を見た場合、冒頭に申しましたように、技術革新に支えられた経済成長を維持していく、あるいは実現していく潜在力を持っているんじゃないかという感じがいたします。  その一つといたしましては、生産効率の改善ということです。この生産効率の改善という意味は、これはもう目新しいことでも何でもないわけです、企業が日々毎日やっていることなんですけれども。にもかかわらず、生産効率を改善して持続的な成長を維持する潜在能力を持っているということ。これは、投資率が三〇%以上あると二けた、これは理論でも何でもないわけですけれども、経験的に二けた成長が可能になると、こういう現象が見られる。かつて、一九六〇年代後半、日本高度成長をやったときに、その投資率が三〇%以上、投資率というのはGNPに占める投資の割合ですけれども、やはり二けた成長があったということですね。  それから、今日お配りいたしましたちょっと資料を見ていただきます。右側の一番下なんですけれども、タイのケースがあるわけです。タイは、投資率ずっと三〇%、九〇年代に入りまして四〇%以上、高いと。成長率、これは経済成長率ですけれども、二けた成長が見られるのは、八八年、八九、九〇年、三か年で、その後、投資率は四〇%以上にもかかわらず経済成長率は高まっていないということは、投資効率が悪化しているということですね。もし投資効率を改善していくならば、計算上、実際計算すると簡単に出るんですけれども、二けた成長は可能である。それを支えているのが、これから恐らくアジア諸国に普及していくであろうIT革命です。  二番目の、これからの潜在能力をリアライズしていくツールとして、IT革命の到来です。これは、IT革命アメリカ発IT不況で実態が分かってしまったわけですけれども、やはり効果的に活用していくべきツールだと思います。  ただし、この場合留意していかなければいけないことは、IT革命はある意味では時代状況でありまして、東アジアにおいて日本企業における直接投資のですね、それによって、そういった特定の主体が高度成長をもたらしたということでなくて、主体が特定できないということでございます。つまり、そのIT革命世界共通チャンスでありまして、だれも独り占めすることはできないということですね。東アジア高度成長をやったとき、発展途上国に向かった投資の、直接投資の七割ぐらい、最高七割から八割ぐらいアジアは独り占めしてしまったということですけど、今度の場合そういうことはできないということですね。これは東アジア諸国にとっては日本企業中心とした直接投資が押し寄せてきた第二の僥幸と言っているわけですけれども、これは独り占めできないということですね。  それからもう一つは、世界全体が競争相手であるということですね。新聞でもいろんな雑誌でも報道されていますように、アメリカ日本先進国IT技術者を取り合うということで、すべての国がライバルということで、これも東アジアが独占することはできないということです。チャンスであることは事実でありますけれども、やはり東アジアが独り占めすることはできないということです。  三番目の大きなチャンスといたしましては地域統合。これはアジア経済の発展のてことなり得るかということなんですけれども、恐らくこれから十年間、向こう十年間見た場合、この東アジアにめぐる経済統合ですか、輪郭が明らかになって、経済成長あるいは経済発展にどれだけ貢献できるかということが明らかになるんじゃないかと思います。  ついては、その東アジアにおける地域統合ですね、めぐる説明をさせていただきたいと思います。  一九八〇年代後半以降から世界的に地域統合だとか地域経済協力という動きが活発化しているわけですけれども、これは一般に第二次地域統合というふうに称されております。第一次は、一九五八年、EECが発足いたしまして、その後、先進国発展途上国に相次いで経済協力体あるいは地域統合体があったわけですけれども、八〇年代後半以降、九〇年代、最近に至ってますます盛んになってきているということです。  この第二次経済統合については四つの特徴があると考えられます。  一つは、これから説明いたしますFTA、フリー・トレード・エリア、自由貿易地域の俗称ですね。現在、地域協定ですか、二百十四件あるそうです。そのうち、もう実際に動いているのが百二十件ということ。それから二番目の特徴といたしましては、不均質の統合あるいは垂直的な統合というふうに言われます。これはこういう意味です。  EEC、一九五八年に発足いたしましたEEC先進国同士だ、それに呼応して発展途上国でも地域統合あったわけですけれども、発展途上国同士であったということです。第二次経済統合の場合は先進国発展途上国が一緒になって地域統合あるいは経済協力をやろうということで、これは不均質の統合というふうな言い方をします。三番目の特徴といたしまして、EU、米国、日本が全部参加している、あるいは参加しようとしているということですね。四番目は、版図の拡大。これは、EUの場合は東ヨーロッパの方に向けて加盟国を増やそうとしている。米国は、NAFTA中心に北極圏からフエゴ島、南米の一番南端までということで版図の拡大しようとしていると。東アジアにおいては、恐らくこれから実現するであろうと思われる日本中心とした東アジア経済圏ですか、そういうようないわゆる特徴が見られるかと思います。  この東アジアにおいては、AFTAASEAN中心としたAFTAという地域統合あるいは地域経済協力体があるわけですけれども、最近、相次いで新しい地域統合をめぐる胎動が見られているわけですね。それは、皆様御存じのとおり、昨年の十一月ですか、中国ASEANが二〇一〇年をめどにFTAを創設しようということ。それにきびすを合わせるかのように、日本シンガポールと二国間FTAを締結したわけです。さらに、小泉総理大臣ASEANを訪問したとき、日本ASEAN包括的経済連携協定ですか、これを提案したわけです。  この背景ですけれども、中国の場合は、自国経済の躍進、それからもう一つ東アジア地域に対する影響力の行使、それから、日本シンガポールと二国間FTA協定を締結したとき、日本がその国内農産物市場開放を排除したという、こういうのが動機になって中国ASEANFTA協定を締結しようという動きになったんじゃないかというふうな感じがしております。  ASEANサイドといたしましては、中国脅威論から、経済活力、むしろ中国経済活力を活用しようという経済政策の転換があったんじゃないかと。それから二番目は、中国熱帯性農産物を拡大を認めたということですね。それから三番目の理由といたしましては、ASEAN中国外資導入をするために魅力の地にあるというふうにねらったんじゃないかと。  日本といたしましては、世界的な環境変化に、日本は今まで、自由、多角的な、ガットを舞台として自由貿易を主張してきたわけですけれども、世界的に二国間FTA中心とした経済協力協定ですかが非常に流行しているということで対外通商政策の展開にしたんじゃないかということです。それから中国の台頭、それから、ASEANアジア通貨危機で挫折して、その後復調の状況にあるわけですけれども、引き続き支援しようということで、日本ASEANFTA協定を締結、提案したんじゃないかというふうな感じがいたします。  ASEAN中国FTA、それから日本ASEAN包括経済連携構想の関係ですけれども、ASEANちょうつがいとして中国、それからASEAN日本があるわけですけれども、この間に日本中国の関係がないわけですね、直接的な関係がないという。そういう意味で、日本中国FTAという観点から見ると、失われた、ミッシングリンクでないかということで、私としては恐らく、諸般の国際的なあるいはアジアをめぐる情勢から日本が参加するであろうというふうに考えております。  その可能性といたしましては、日本ASEAN包括経済連携構想ですか、それを発表した後いろんな部会が開かれまして、二〇一〇年までにそれを実現しようということが報道されております。恐らくなるんじゃないか。事実、また小泉首相は、今までの積み重ねを大事にしながら幅広い分野で協力していくべきだというふうに答えておる。ASEANサイド中国に対する対抗ができなくなるということで、日本も入ってもらった方がいいんじゃないかと、事実こういう意見が内部にあるそうですので、恐らく日本は、二〇一〇年をめどに東アジアASEAN中国日本、さらに韓国を含めた自由貿易圏が、あるいはFTAが形成されるんじゃないかというような感じがいたします。  もしそうなった場合、どういうふうなFTAができるかということなんですけれども、今日お配りいたしました資料をちょっと見ていただきたいと思います。  左側の方の表1というのがあります。表1というのが「域内貿易比率」、表2というのが「域内貿易比率貿易依存度」というのがあります。域内貿易比率というのは、例えばFTAを形成した場合、FTAを形成した諸国間の貿易比率域内貿易というふうに申します。それを総輸出の割合で見たり、あるいは総輸入の割合で見た場合、高いとその地域協力体あるいはFTAというのは、ロブストという言い方をするんですけれども、頑健であると。一つの指標になるわけです。  東アジア経済圏がもし形成された場合、その場合、NAFTAとEUを比較した場合、域内貿易比率が一番低いのは東アジアになるわけですね。全商品見ていただきますと、四六・五%、これはNAFTA、EUよりも明らかに低い。それから、工業品においては一番低い。一般機械、それからIT完成品を見ていただきたいんですけれども、一般機械というと、これはいわゆる資本をたくさん使って集約度の高い商品、こういうふうな言い方をいたします。あるいは、ITは技術を非常に使っているということで技術集約度の高い商品、こういうふうに見ます。これを見ていただきますと、集約度とか、資本集約度あるいは技術集約度が高い商品ほど域内輸出比率が低いということになっているわけです。こういう構造を持つ経済協力体あるいはFTAというのは非常に脆弱性を内包しているというふうに見ます。  もう一つ経済協力あるいはFTAを形成した場合、その頑健であるかというもう一つの指標といたしまして対外貿易依存度というのがあります。これはGNPに占める輸出の割合、GNPに占める輸入の割合、とりわけGNPに占める輸出の割合が重要な指標になる。それを併せてみたのが表2でございます。現在、東アジアにおいてはASEANという経済協力体があるわけですけれども、域内貿易比率輸出が二〇・六、それから対外依存度輸出の場合六一・八。対外依存度が六一・八ということは、これは外部の、域内じゃなくて域外からの影響力を受ける構造を持っているということで、脆弱的な構造を持っているというような言い方をします。  もし中国ASEANFTAを形成した場合は、域内貿易比率が七・二%、対外依存度が三三・五、輸出依存度が。日本ASEANが一緒になった場合、それから東アジア、この場合、東アジア日本中国、NIES、ASEANを含めますけれども、さらにその下、東アジアオセアニアというのがあります。EU、NAFTAというのがある。今言った二つの指標から見まして、一番頑健な経済協力体というのは、FTAというのはNAFTAということになるわけです。次がEUじゃないかということ。さらに、それに相当するような頑健なる経済協力体としては東アジア・プラス・オセアニア。これはオセアニアは、豪州とニュージーランドは、小泉首相シンガポールを訪問したとき東アジア共同体ということを提唱いたしましたが、その中に豪州、ニュージーランドが入っていると、そういう意味でこれを計算したものです。  そういう意味で、この恐らく中国ASEANFTA形成に対して日本が参加するならばより強硬な経済協力体が、FTAができるんじゃないかということを、これを示唆しているものでございます。  恐らく、私といたしましては、二〇一〇年までにはASEAN中国東アジアを、三者が一体となってこの東アジアにおいて新しいFTAが形成されるんじゃないかというふうに思います。しかし、十年間先を見ますと、やはりいろんな問題が発生するんじゃないかと。いろんな問題がある、発生すると思うんですけれども、大きな私が考える問題といたしましては、中国が挫折するかどうかということですね。  この要因といたしましては、地域的な所得格差ですか、沿海部といわゆる内陸部の所得格差が非常に激しいということ。沿海部の方は所得水準は四千ドルぐらいあると、中国全体の平均の所得水準は、一人当たり所得は九百ドルぐらいなんですが、沿海部は四千ドル、内陸部の一番低いところは三百ドルだということで非常に格差がある。失業率が、これからWTO加盟で失業率が上昇するんじゃないかということで、その失業者というのが沿海部に向かって、混乱が起こるかというシナリオも可能になるわけです。  二番目の問題といたしましては、ASEAN、これは誤植で、ASEAN内部の分極化ですね。  これからASEAN諸国においてはちょっと分極化の傾向が出るんじゃないかと。今までは東アジアあるいはNIES、ASEANといった一体で高度成長国家群、群としてとらえたわけですけれども、これからは一国一国かなり違った成長、発展のコースをたどるんじゃないかと。  その要因といたしましては、経済的には外資が選別あるいは国内の構造改革のいろんな差が出てきて、経済的にその格差がASEAN内部で出てくるんじゃないかということですね。それから、地理的近接性が重要になるんじゃないか。一つ中国に近いところ、あるいは中国から離れているところ。  その関連でもう一つ考えなきゃいけないのはインドの台頭ということで、インドがもし出てきた場合、中国との引っ張り合い、あるいはASEAN内部でどちらに付くかということが出てくるんじゃないか。それから、人種的な親和性ですね。例えばマレーシアの場合は、マレー人が五〇%で、中国人が四〇%ぐらい、残り一〇%がインド人あるいはマイノリティーということで、そういう多人種国家があるということで、どちらに付くかということでいろんな問題が出てくる可能性がなきにしもあらずということです。  それから、冒頭の方でIT革命チャンスであると申しましたけれども、ITの振興によって、いわゆるITデバイド、それを活用して経済発展ができる国できない国の差が出てくるんじゃないかというようなこと。  そういうことで、ASEAN諸国内部の分極化が発生するんじゃないかということが考えられます。恐らく分裂はしないと、対外的なバーゲニングを維持するということで分裂はしないというように、かなり結束が弱くなるんじゃないかという可能性がある。  それから、三番目といたしましては、少子高齢化に対する不安です。  つい先ごろ、日本でも二〇〇七年ぐらいから人口が減るんじゃないかということが、それは一年ぐらい前の二〇〇六年までの静止人口から、それから絶対的な減少、少子高齢化になるということは最近発表されたわけですけれども、二〇一〇年から一五年、その前後に掛けてNIES諸国、例えば台湾ですね、それから香港あるいはその他の諸国も、それからASEAN日本と同じように少子高齢化が進むというふうに見られています。それにとってまたいろんな国民が不安を持つということで、日本が、現在、国民が考えているようなことが発生するかもしれません。  それから、四番目といたしましては集約度、先ほど域内貿易比率のことで御説明させていただきましたけれども、集約度、資本だとか技術ですね、の高い財ほど対米輸出比率が高いということです。これも、今日お配りいたしました資料の表3をちょっと見ていただきたいと思います。表3というのは「東アジアの対米輸出構造」です。  東アジア全体、これは中国、NIES、ASEANですけれども、東アジア全体の総輸出に占める対米輸出アメリカ輸出の割合が二五・八%ということ、それから機械のうちの一般機械というのがこれが二六・二%、東アジア全体ですね、それからITのうちの完成品というのが二八・六%ということで、高度技術になればなるほどアメリカ向け輸出比率が高いということになるわけです。  これを今度はアメリカサイドから見たものが表4でございます。  これもやはり東アジア全体で見ていただきたいんですけれども、二〇〇〇年、アメリカの総輸入に占める東アジアの割合は二〇・六%ですけれども、機械は二三・九%、それから一般機械は三〇・三%、それからIT機械が四五・一%、それから部品は五一・二%ということで、いわゆる高級の機械になればなるほどアメリカ東アジアに対する依存度は非常に高いということ。  日本を含めますと、合計のところ、一番下の欄がEUですけれども、そのすぐ上が合計で、これは日本を含めた場合です。日本を含めた場合、例えば総輸入では三二・三、三分の一ぐらい東アジアに依存しているわけですけれども、ITは六三%と三分の二ぐらいですね。  つまり、東アジアの場合は、高級輸出財になればなるほどアメリカ向け輸出が高い。アメリカにとって、高級財の輸入においては東アジアに対する依存度が高いということになる。これが、今回のアメリカ発IT不況東アジアを直撃したわけです。EUの場合はほとんど一けた台ですので打撃が少なかった、こういう構造になっているわけです。  つまり、ここで言いたいのは、先ほど東アジアあるいは東アジア・プラス・オセアニアになると、域内貿易比率、特に輸出比率が高くなる、それから対外依存度が低くなるということで、頑健なる地域構造あるいは経済協力体になると言ったわけですけれども、こういうふうに財別構造から見てみた場合、高級財になるほど外部依存度、域外依存度、とりわけアメリカ依存度が、そこから対外的な影響力はもろに受けるんじゃないかということです。  東アジアの場合、日本企業が大量に円高以降進出していって、日本企業中心に、それから子会社あるいは地場企業を中心に国際生産ネットワークを形成して、それが事実上東アジア経済のインフラストラクチャーになって統合を形成したわけですけれども、今言いましたように、IT財が登場したことによってその構造が崩れつつあるんじゃないか、その証拠が、アメリカ発IT不況東アジアを直撃したんじゃないかということになるわけです。  つまり、東アジアにおいて、中国ASEAN日本ASEANということで、いわゆる法的なあるいは協定に基づいてFTA経済協力体を形成しようとしているわけですけれども、実態はそれを裏切るようなことが進行しているということを言っているわけです。  そういうような状況の中で、日本の対応を最後に若干述べさせていただきたいと思います。  再三再四申し上げているわけですけれども、中国ASEANそれからASEAN日本という二つのFTAが相次いで発表されたわけですけれども、動こうとしているわけですけれども、日本は早い時期に韓国を含めて三者一体になるということを表明したらいかがかなということです。それは、同時にASEAN一般を支援していくということになるわけです。  先ほど、ASEANは内部において分極化傾向が生じるんじゃないかという懸念を申しましたわけですけれども、やはりASEAN一つのバーゲニングパワーの組織として日本は積極的にサポートしていくべきじゃないかということでございます。そのためには、日本経済の空洞化を回避して歴史的長期経済成長率に復帰していくべきだということです。  ちょっと冒頭の方で歴史的長期経済成長率を四%台と申しましたけれども、この意味はこういうことです、最後になってしまったわけですけれども。  一九六〇年代高度成長を挟みまして、一九五〇年代、戦後復興期、そして一九七三年の第一次石油危機まで日本は二けた成長をやったわけですね、一〇%前後。それ以後四%台になってというふうになったわけです。実は、この四%台という成長率というのは、戦前、とりわけ明治維新直後からの平均成長率に一致しているわけです。これを私は歴史的長期経済成長率だというふうに申しているわけです。最近、日本は失われた十年ということを言われているわけですけれども、日本は早急に歴史的長期経済成長率に復帰して、更にそれにプラスアルファ成長軌道に戻るべきじゃないかということです。  もう一つ日本経済が対応する場合は、実は先ほど申しましたように、日本シンガポール、二国間FTAを締結した場合、農産物を外してしまったわけですね。これは、皆様御承知のとおり、品目の数としては二千ぐらいあるんだそうですけれども、金額ベースだと九四%ぐらい無税化したと、シンガポールは完全に無税化したということになるわけですけれども。そういう意味では、ガットなりWTOが規定していることには違反しているわけじゃないわけですけれども、実際、規定においては、例えば二国間FTAの場合、関税を引き下げるわけですけれども、実質、バーチャリーオールということで、九四%、九五%以上無税化すれば違反にならないという規定があるんですけれども、日本シンガポールFTAの場合は、そういう意味では全然背馳していないわけですけれども、実際にはかなりの品目、農産物を残しているわけです。  そういう意味で、ある人が言ったわけですけれども、サブスタンシャリーオールじゃなくてバーチャリーオールだという。つまりバーチャル、仮想ですね、こういうことはもう私は、もし東アジア日本がイニシアチブ、リーダーシップを取ってイニシアチブを発揮していくためには、これはそろそろ、政治的な決断ですが、必要じゃないかというふうな感じがいたします。  というのは、中国ASEANとのFTAを協定した場合、中国は香港とマカオ、あるいは台湾も参加を呼び掛けているわけですね。もし中国がそれにうまく成功したらば、韓国もそっちへなびくんじゃないかと。そうすると日本が取り残される可能性があるという。日本はやはりまだ切り札を持っている。その切り札は農産物の自由化ですから、それが切り札です。それをいつ抜くか。一番高く売れるときにそれを切ったらいいんじゃないかというのが私の意見でございます。  それからもう一つ中国が先行して日本が後から入れてくださいと言いますと中国のルールに従わざるを得ないんじゃないかという危険性があるということで、日本はまだまだ潜在能力、人的にも技術的にも潜在能力があると思いますけれども、いろんな切り札を国際的に最も高く売れるような時期に切るべきじゃないかというふうな感じです。  以上、終わります。
  9. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  次に、大野参考人から御意見をお述べいただきます。大野参考人
  10. 大野健一

    参考人大野健一君) 本日は、国際金融の中でも途上国の為替運営について幾つかお話ししようと思います。  そのようにテーマを限定しても、問題はたくさんあるのですし、三十分ではとても意を尽くせないと思いますから、後で質問などをいただければと思います。  それから、経済は、何でもそうですけれども、為替問題、途上国の為替問題も非常に論争が多い分野でございます。今から申し上げる部分は、一般的理解もございますけれども、私の見解、たくさん入っておりますので、そう簡単に納得されないでよく考えていただきたいと思います。十分納得されたら信じてもいいと思いますけれども、非常にコントラバーシャルなことを申します。  まず最初に、「アジア危機後の政策勧告の多様性」ということで表にしましたけれども、一つ一つは説明申し上げません。けれども、アジア危機後、途上国がどういうふうに為替運営をすればいいかということについて、まだまだ議論の収束はないし、恐らくそう簡単には議論の収束はないと思います。  幾つかこの中で、読んでいただければ大体分かると思うんですけれども、幾つか御説明申し上げますと、二番目に書いてある両極論、バイポーラビューとかいうものは、九〇年代初めにこのアイデアというのは非常に、特に欧米で優勢になりました。  どういうことかというと、もう為替が、為替レートではなくて、資本の移動が非常に民間で大きくなりますと、政府がどんなにコントロールしようとしてもそう簡単には為替はコントロールできないと。そうすると、二十一世紀の為替というのは二種類しかないんじゃないかと。固定するんだったら完全にEUがやったようにもう単一通貨にすると。そうするともう投機も何もできませんから、そこまでやるんだったらやると。それができないんだったら、もう自由フロートにするしかないと。中途半端にペッグしたり管理フロートしたり介入しても、必ず民間の投資に破られるという考え方であります。  そうしますと、アジアの途上国なんというのは、とてもまだEUみたいな統合というのは大分先の話ですから、結局、自由フロートということになるんですけれども、この見解というのはもう議論が出たときからいろんな反論がありました。そんな極端というのはおかしいと。結局、今ではもうほとんど勢力がなくなったと思います。特に、今ちょうど正に起こっているアルゼンチンの問題とか、ほかにもアジア危機を通じてでも為替の固定に向かうというやり方で非常に危ないということが分かりましたから。それが両極論という考え方です。  カレンシーボードというのは、その両極論の固い方というか、固定の方の一つの極の具体的な政策の取り方なんですけれども、これはアルゼンチンがやったものでございます。カレンシーボードというのは結局どういうことかというと、中央銀行が全然信用できないときに、例えばハイパーインフレを起こしたり、あるいはソ連から分離して新しい国ができて、まだ全然中央銀行の金融政策に信用がないときにどうやって信用を取り戻すかというときに、中央銀行に政策をさせないというオプションであります。  政策をするとマネーサプライ増やすから、で、インフレになるから、あるいは財政赤字をファイナンスして赤字垂れ流しになりますから、中央銀行を縛ろうと。つまり、中央銀行でマネーサプライを出す権限を縛って、マネーというのは民間が持ってくる貿易あるいは投資、あるいは資本移動で持ってくる外貨と一対一で比例的に出すと。そうすると中央銀行というのは政策何も考えなくていいと。電話と、一つ電話と一つテーブルがあれば、もうそれで貨幣政策はできるという考え方であります。  実際には、それから、ここの表の下に書いてある中央銀行とカレンシーボードの差をバランスシートで書いたものですけれども、違いというのは何かというと、結局、資産側で、カレンシーボードだと国内資産の売り買い、大体国債が多いんですけれども、国債を売ったり買ったりすれば中央銀行の右側にあるマネタリーベースというものが増えたり減ったりして、これでマネーを増やしたり減ったりできる、これで政策できるわけですけれども、いわゆる公開市場オペレーションという、公開市場操作というものですけれども、それをやらせないという、対外資産だけにすると。さっき申したように、民間が持ってくる外貨だけに比例してお金を出すと。だから、国債買えないわけですから、赤字の、財政赤字を埋めることはできないというやり方であります。  これをやっている国というのは、香港、エストニア、リトアニア、ブルネイという、こういうような小さい国が主ですけれども、アルゼンチンはずっとやっていました。今、正にやめつつありますけれども。インドネシアにもそういう、やりませんでしたけれども、そういう提言がアジア危機のときありました。  一対一にお金を出すんですけれども、実際にはそう一対一に縛らなくて、かなり何というか抜け道というか余裕があるわけで、例えば香港の場合は現金の、キャッシュですね、キャッシュには一対一でリンクするけれども、ここのバランスシートを見ると、商業銀行の預金の部分はリンクさせないから、そこを増やしたり減らしたりできるとか、あと、一対一じゃなくて一対幾らというような形にするとか、必ずしも完全に縛らないものがあるんですけれども。これがこの数年というか、九〇年代から最近に掛けてかなり議論されたシステムであります。  で、ドル化という、ドラライゼーションというのは、これもういろんな意味があるんですけれども、カレンシーボードを更に極端にして、外貨で稼いだドル札を実際に国内で流通させてしまおうということで、これはもうテーブルも電話も要らないわけで、ドル札が実際に流通するということであります。これは固定制の極端な場合。  あともう一つ説明するのは、複数通貨バスケットということで、これはまだ、アジア危機の後、非常に議論になりまして、今でも賛成の方一杯いらっしゃると思いますけれども、結局、今も青木先生から話ありました。アジア貿易構造というのは、日本、ヨーロッパ、アメリカ、大体同じぐらいの比率で貿易しているんです。あと、投資も日米欧から来ます。何でドルだけにペッグするんだというようなことです。ちょうど日米欧と大体同じぐらいの比率であったら、大体一対一対一ぐらい、三分の一ぐらいの比率で通貨を入れて、それにペッグすればいいんじゃないかという考え方。ここは、これ書きましたように、日本でも割と賛成する方がいらっしゃいます。ただ、私は反対なんで、後で申し上げます。  次にお話ししたいことは、アジア危機、今言ったことにも関係ありますけれども、アジア途上国というのは危機の後、またドルペッグに戻りました。次のページですけれども、アジア途上国通貨というのは大体ドルを基準として運営されてきた。大体というか、ほとんどすべてですけれども。ですけれども、九七年、九八年の間にアジア危機があって、ペッグができなくなって、フロートに移って暴落したわけですね、コントロールができなくなって。それが一応、一年ぐらいたちますと、一応為替がコントロールできるようになると。そのときどういうふうな体制に戻ったかというと、またドルペッグに戻ったわけです。  御存じのように、中国、香港は一遍もドルペッグ外さずにドル固定で乗り切りました。マレーシアはわざわざドルペッグ、ドル固定を九八年、採用しました。そのほかの国というのは、ここは、ベトナムの場合はスライドと言うんですけれども、もうごく目で見て分からないぐらい毎日少しずつスライドしていて、実質的にはアジャスタブルペッグ、時々大きく変えるけれども、階段状に動くという。そのほかに書いている韓国、タイ、インドネシア、台湾というような国は、一応動いていますけれども、毎日の動きというものはドルを基準にやっています。  ここのグラフというものは何かというと、毎日の為替の対ドルの、これは韓国とタイの場合ですけれども、毎日の為替の動きというものを回帰分析という統計処理をしまして、一体どの通貨にウエートを置いているかというものを計算したものであります。ちょうどそのグラフが乱れているところの一年間辺りがアジア危機のところで、その係数が一ということは、ドルにほぼ一対一で対応しているという計算結果になっております。  それで、アジア危機が終わってからもドルペッグに戻っているわけです。ここで問題なのは、ドルペッグというのは、ドルに固定すると、ドルが上がったとき、下がったときに一緒につられますから、何でそういうものに戻ったんだということが分からないわけです。  その一つの解釈は、アジア通貨当局が余り頭が良くないと。つまり、全然アジア危機の教訓を学んでいないからまた危ないことに戻ったんだという解釈がいろんな経済学者から出ています。第二の解釈は、頭が悪いのは経済学者の方であって、実際にやってみるとドルペッグというものはそんなに悪くないし、ちゃんと運営すれば危機を回避できるという解釈であります。  その理由は幾つかあります。ここに三つ書きましたけれども、貿易投資、金融が大部分ドル建てで行われていると。さっき貿易は、アジア貿易は三分の一ぐらいが、先進国相手はドル、アメリカだと申しましたけれども、実際にドルを使っている部分というのはそれよりもはるかに多いわけであります。まず、域内ではドルを使います。それで、一次産品輸出するときもドルを使います。日本もドルで決済、取引しますから、円の場合もありますけれども、ドルの場合もたくさんあるわけで。あとラテンアメリカその他の国もドルですから、結局、貿易に加えて投資、いわゆるFDIという直接投資ですね、それからお金の貸し借り、そういうものはほとんどドルが中心ですから、どう考えてもドルが一番重要な通貨であるということ。それから、ドルが一番ニューヨーク市場でも使いで、借り、貸す、貸し借りする、それから借り換える、それからボンドをイシューする、そういうことを非常にやりやすいわけです。  それから、もうちょっと正確に言えば、このグラフで表したものは短期の日々の動きでありまして、短期でドルペッグしているからといって、五年、十年見たときに完全にドル固定しているかというと、全然そういうことはないわけであります。短期でドルを固定しても毎日少しずつスライドすることもできますし、あと、数年、数か月に一遍大きく変えることもできますし、あるいは、いわゆる管理フロートといって、市場にゆだねてある方向に少しずつ動かすこともできて、何年もたつとかなり何十%も対ドルレートが変わるということができる。それならば完全固定ではないですから、いわゆるオーバーバリュエーションというものを防げる。  この表というものは何を表したいかと、二ページの下の表ですけれども、バスケット制という、先ほど言いました日米欧の三通貨を混ぜるというやり方というのは、私は不十分だと思うんです。なぜかというと、為替というのはいろんなショックに対応して変えなきゃいけないわけで、そのショックは、例えば日米欧、例えば円高になったとかユーロが下がったとか、そういうものに対応するというのもあります。  そのほかに、自分の国と世界のインフレ率が違うときは、ほっておくとオーバーバリューというか、競争力を失いますから、調整しないといけない。それから、実物ショックが、例えばIT不況が起こったとか、あるいはもっと政治危機が起こったとか、いろんなことで変えなきゃいけない。それから、アジア危機が隣の国で起こったときにも当然ある程度追随しなきゃいけない。  そういうことは、完全には自動ではできないわけで、日米欧のバスケットというものは主要通貨の変動については自動的に対応しようというものであります。ただ、これだけ対応していたら駄目なんで、結局いろんなことに対して結局手動で変えるタイミングを逸してはいけないと。結局変えていかなければならないんだったら、ドルペッグでも三極ペッグでもあるいはスライドでも安心することはできないわけで、常に変えるタイミングを見ないといけないわけです。だから、結局そんなに変わらないんですね、ドルペッグでも。ドルペッグでも、ちゃんと自分のところの競争力とか周りの国の状況を見ていれば対応できるということでございます。  次のページも行きますと、カレンシーボードということを申しました。  今、去年から今に掛けてアルゼンチンで危機が起こっております。これは結局どういうことかというと、やっぱりこれは為替政策の失敗の一つの典型的な例だと思いますが、アルゼンチンというのは固定をやっていたわけです。もう十年ぐらいやっています。ただの固定ではなくて、ドルと一対一の固定だから、一ペソが一ドルというものを十年やってきました。なぜかというと、もう御存じのように、ラテンアメリカは、ハイパーインフレのあった国ですから、もう通貨当局に信用がないということで、通貨当局を縛るためにやったわけですね。それはそれで良かった、インフレはなくなりましたけれども、これを長く続けると固定がオーバーバリューになって競争力を失って、それから出るときに危機を起こさなければ出れないというような状況になると。だから、このシステムというのはだめだということを私は二年前にある研究会で出ましたけれども、そこの委員全員、もうこれはアルゼンチンこれは駄目だと、もう危機が必ず来るということを言っていましたが、やっぱり危機になりました。  エキシットポリシープロブレムという言葉があるんですけれども、どういうことかというと、今言ったように、そのインフレを止めるために固定レートというのは時々使われるわけです。だけれども、それを長いことやりますと、だんだん競争力なくなってくる。競争力なくなって、インフレはなくなって、今度は競争力が問題になったとき、もう一度動かさなきゃいけないわけですけれども、それを動かすのができなくなるという問題です。  なぜできないかというと、いったんこの為替の安定というのを政府の政策に、経済政策の根幹に据えてしまうと、それを変えるということは結局政策失敗ということで政治的に動かせなくなるわけですね。あと、憲法とか法律に為替レートは一対一で決めるとか書いてしまいますと、それを審議しないと変えることができないという。それは非常に機動性を欠くことですし、結局、エキシットポリシープロブレム、日本語で言うと何と言うんだかまだよく分からない、卒業問題というんですか、脱出問題というんですか。それは結局、そういう危機なしに固定レートから出るか、そういう問題であります。  アルゼンチンの危機というのは、さっきも申したように、九一年から対ドルに一対一で固定していて、その成果は上がったわけです。ところが、最近になって、まず九九年の一月に隣の大きい国、ブラジルが切り下げました。フロートダウンしました。そうすると、隣の国が競争力上がると相対的にアルゼンチンが競争力なくなります。それから、財政赤字があるときに、いわゆるインフレに、オーバーバリューになって、それを引き下げないと競争力が出てこない。輸出がだんだん伸び悩んでくると。明らかに一対一のレートというのは変えなきゃいけないんですけれども、先ほど申したように、政府は一対一にコミットしておりますから、それをやめるということは政権交代覚悟でやらなきゃいけないということになって、去年の終わりぐらいから、結局そのオーバーバリューになって競争力がなくなり、デフレになってきて、国民が不満を、社会的不満を持って、結局政府が倒れて幾つかの政府が、短い政府ができて、今ついに一月に新経済政策といって、為替の切下げ、フロートダウンをやったわけです。だから、典型的な卒業失敗の例であります。その下に書いてあるグラフのとおりでありますけれども、これは円ドルレートと同じ、数字が大きくなると切下げということで、今やこういう状態になっております。  あと、アルゼンチンの場合は憲法ではないんですけれども、法律に為替を一対一にすると書いていますから、変更するときにやっぱり議会で審議しないと為替変えられないわけですね。ところが、為替を変えるときには、フロートダウンするときには、一挙にやらないといけないわけで、特に、日曜日に発表して月曜日の朝から国民が動き出す前にフロートするというような早い行動が求められるわけですけれども、為替が法案を通さないといけないということになりますと、それの話が出た瞬間に討議浴びせられてしまうという問題があって、アルゼンチンは大統領に特別の権限を与えることによって乗り切ったようですけれども。とてもこういうのでは機動的なことができないと。  次の話もします。  じゃ、今そのアジア危機以降のこういうような世界でどういうふうに途上国の為替は運営すればいいかということ、これは私の意見でございますけれども申し上げます。ページ、四ページです。  環境として、世界経済は非常に不安定で競争的であると。途上国にとってみれば、国内産業というものは民間は弱く、政府も政策というのはうまくできない。それと、その中で国際統合圧力というものが高まっています。そういう中でどういうふうに為替を運営すればいいかというのが一般的な問題であります。  それから、為替レートというのは原則として一つしかないわけですから、三つある国もありますけれども、そういうところは早く統合して一つにしなければならない。為替は一つなんですけれども、政策目標はたくさんあるわけで、しかもその複数ある目標は必ずしも整合的でないと。一番大きいのは競争力維持、つまりインフレを起こしてしまえば為替を下げると、競争力を取り戻すというのが重要なんですけれども、もう一つ重要なのは、物価を安定させるために為替をむやみに動かさないと。それはカレンシーボードの考え方もそうであります。  そうすると、一方では柔軟に動かすというニーズがあって、もう一つはむやみに動かさないというニーズがありますから、これは両方取ることはできないわけで、やっぱりケース・バイ・ケースで、この国にとってはどちらが大事かということを考えなければいけないわけであります。完全に固定してしまいますと、今度動かさなきゃいけないときに、さっきも言ったように、政治危機が起こると経済危機も起こりますから、それでは困るわけであります。  このボックスに書いたものが私の一般的なレコメンデーションであります。「途上国は、対ドル「短期安定」「長期伸縮」を実現すべく、柔軟に為替制度・為替水準を選択せよ」と。だから、ドルペッグでもいいんです。あるいは、スライドというかクローリングペッグというか、毎日〇・何%ずつ下げていくとか、そういうのもいいんです。あるいは、数か月一定にして突然一〇%下げるとかそういうのでもいいんですけれども。あるいはフロートしながら時々介入する。余り名称にこだわってはいけないと思うんですね。実際に中国なんか、たしかIMFには管理フロートしていますとか言っていますけれども、実際にはもう十年、八年ぐらい固定していますから、非常に固定的なフロートもあるし、非常に柔軟なペッグもあるということです。短期安定、つまり日々のレートはむやみに激しく動かさない、そういう動きがあるとある程度カットするわけです。長期的には一〇%、二〇%動かさないといけないときがありますから、それは確保すると。長期的に動かすときに、政権が交代しなきゃ動かせないようじゃ困るわけで、そういうようなメカニズムにしておくと。  ここにかいたグラフというのは、これはマウスでかいたんでちょっとうまくかけていませんけれども、アイデアとしてはこういうものいろいろあるわけで、可変スライドというのは毎年何%変えるといって決めて、時々その変化率を変える、アジャスタブルペッグは階段状に変えるので、管理フロートは毎日動かすけれども変な動きがないように介入を時々すると。このいずれの場合も、長期的に見れば大体同じぐらいに下がっていればいいわけで、必ずしもそのどれでなければいけないということはない。  何で短期のスムージングが必要かというと、まず、毎日の動きというのはかなり乱高下が多いわけで、ファンダメンタルズに関係ない、だれかがどういうふうに言ったとかうわさとか、そういうものが一杯あるわけで、それはやっぱりカットしなきゃいけない。それから、何週間も何か月も同じ方向にどんどん振れるというようなのはバブルの可能性がありますから、そういうものをカットしなきゃいけない。あと、途上国では、日米欧などと違いまして大きな取引があると一挙に振れるという、そういうようなことがありますから、やっぱりそれも中央銀行が相対、反対の取引してスムージングしてやらないといけない。最後に書いたのは、スワップとか先物などがない国もありますから、そういう国では、余り毎週毎月変動するというのでは貿易取引とかそういうものができないというので、短期の部分では余り変動させない方が安心して貿易できるということであります。  それから、もう一つ重要なことは、今言ったのは通常の場合であります。もし、アジア危機とかあるいはロシアのルーブルが暴落したとかそういうのが周辺国で起こった場合は、通常の為替政策モードと切り替えて危機モードに変えなきゃいけない。  危機のときには、例えば自分がマレーシアタイが落ちたときには、ある程度の為替が下がるのはやむを得ないことであって、これを完全に守ろうとすることはできないわけであります。あるいは、ロシアが暴落したときには隣のカザフスタンとかキルギスタンというのはある程度落ちなきゃいけないわけで、大体二、三割は覚悟、五割以上落ちるというのはちょっと落ち過ぎだと思いますけれども、大体その程度は覚悟して、できるだけ早く速やかに落として、それで早く安定に持っていくというようなことを考えないといけないわけで、フロートダウンのタイミング、それから一挙にフロートするときの政策パッケージが非常に重要になるわけであります。  ここで書いたカザフスタンの例というのは、お配りした別の資料に、文章に書いてありますけれども、カザフスタンというのは非常に私はうまくやったと思うんですね。  九七年にアジア危機でしたけれども、九八年にロシアのルーブル危機でした。やっぱりカザフスタンも切下げ圧力があったわけですけれども、どういうふうにやったかというと、非常にアジアと違う。まず一挙に落として、もう二、三日で安定しました。数か月たつとほとんど固定みたいに、もうそれ以上落ちなくなったわけですね。これはアジアと随分違います。  それから、もう一つ違うのは、一緒に出したパッケージが、ここに書いてある、消費者、銀行、企業などが為替リスクを余り負わないように保護を掛けたということです。これは市場メカニズムとは違いますけれども、そういう危機のときには市場メカニズムと違う保護策を出すというのも時限的には構わないと。  あと、もう一つ重要なことは、カザフスタンは危機の最中に企業改革とか銀行改革を加速させなかった。これもアジアと随分違うことで、そういうことは危機の途中にやることではないと。  最後のページに参ります。  最近の円、ドル、元をめぐった動きについて少しコメントしますと、日本経済停滞、空洞化の状態にあるわけで、一方で中国は、この数年ですけれども、非常に競争力が伸びたように見えて、輸出も伸長していると。そういうことになりますと、為替で何とか調整できないかという話が出るわけでして、元については切上げ要求、円については円安、もう実際に今、百三十二、三円、四円ですか、なりました。  これについてどう考えるかということですけれども、まず中国については、青木先生もおっしゃいましたけれども、今ちょっと両極端の議論がございますね。中国は非常に日本にとって脅威であるというのと、中国というのはいずれ崩壊する可能性が高いと。これは両方可能性はあると思うんですけれども、やはりバランスの取れた、両方に目配りした中国対応が必要だと思うんで、強いか弱いかどっちかに決めて済むような国じゃないと思います。  それから、特にASEANとかインドネシアとかタイは、ベトナムなんかは中国に非常に脅威を持つのは当然なので、彼らが輸出するものは中国輸出するものに似ていますから。ところが、日本にとっては、ネギとシイタケは競合するかもしれませんけれども、余り輸出するものが重なっていないわけですね。  それがここにかいてある図で、これは関志雄という香港出身のエコノミスト、経済産業研究所の方が作ったグラフですけれども、これは何を言いたいかというと、このグラフ、右側にあるほど、これはアメリカにどれだけのものを売っているかという数量を書いたものですけれども、右に行くほどハイテクのものをアメリカに売っている、左に行くほどローテクあるいは一次産品を売っていると。中国アメリカに売っている分と日本の売っている分を計算すると、オーバーラップする部分はありますけれども、そんな大きくないです。日本と韓国、日本マレーシア日本とほかの国の方がずっとオーバーラップが多いので、中国というのは一番日本とオーバーラップが少ない国で、何でそんなに心配するんだというような意見が関志雄さんです。ただ、その中国の山がだんだん右に来る速度が速いというのはあるんですけれども。あと、青木先生ももうおっしゃいました、未解決の問題が山積しております。国有企業、所得格差その他。だから、そういうものを、いろんなものを見た上で、両極端に走らない判断が必要だと思います。  あと、中国の対外経済運営について少し申したいことは、中国はもちろんまだ移行経済であり、移行がまだ終わっていません。自由な民間資本移動というのがございませんから、結局、経常黒字を、黒字を出した後、貿易の面で出したのはどこにたまるかというと、民間にたまるというよりも、むしろ中央銀行の、その大部分が外貨準備になってたまるわけですね。だから、結局、売った黒字というのを、全部じゃないけれども、大部分を国でためているわけです。官でためているわけで、ある意味では七〇年代までの日本と同じです。八〇年に自由化、日本が自由化するまでは大体日銀が黒字をためていましたから。  それから、今、対ドル固定をやっています、中国、御存じのように。今、中国が強そうだから切上げしろというのもありますけれども、中国からしてみると、今からWTOするので、どうなるか非常に不安なところがあるので切上げやりたくない、ちょっとWTOとか競争力がどうなるか見てみたいというのがあるので、むしろ、弱くなれば切下げということになると思いますけれども。だから、どっちに動くかというのは必ずしも決められないと思うんですね。  むしろ大事なことは、これがアルゼンチンのようになってはいけないということが非常に重要なことで、固定というのは、今はいいですけれども永遠にはとてもできないわけで、中国もいつか、香港も含めて、いつかアルゼンチンみたいに、これはどうしても切下げしなきゃいけないというときが来る、あるいは切上げかもしれませんけれども、そのときに危機を起こさずに動かすには、今からそろそろ、動かしてもだれも驚かないような、そういうようなメカニズムに移行するという、ソフトランディングしておく必要があると思います。  それから、中国貿易構造を見ますと、組立て加工型、輸入部品・外資への依存が非常に強い。途上国では当然なんですけれども、中国というのは非常に大きい国で底の深い国かと思えるんですけれども、人口的には物すごく大きな国ですけれども、経済構造を見ると普通の途上国と大して変わらない。つまり、外資にドミネートされているわけですね、その輸出構造が。投資もそうです。あと、輸入部品が多いです。それから、貿易依存度も、その輸出輸入を足してGDPの四五%ぐらいかと思うんですけれども、これも非常に高い数字ですね。もうちょっとGDPが大きくて輸出入の分小さいかと思うと、そうではない。これは特に改革・開放してから急上昇で増えました。  だから、ここでパススルーというのは、結局そういうふうに貿易依存度外資依存度が高いときに、為替下げたときに、結局、為替下げた分だけまた中国でインフレが起こったら、結局実質ではそんなに変わらないわけですから、為替下げた意味とか上げた意味とか余りないかもしれない。これはまだもうちょっと研究しないと分かりませんけれども。  あと、日米貿易摩擦について私は本を書きましたけれども、御存じのように、日米の関係に見られます、六〇年代から、繊維から始まってずっとアメリカにその黒字をなくせと言われ続けたわけで、それに対してどういうことが起こったかというと、毎年じゃないんですけれども、数年に一遍、六、七年に一遍ぐらい急激な円高というのが起こりました。それから、激しいその日米通商の交渉というのをやらされました。  結局、それでアメリカの赤字がなくなったかというと別になくなっていないわけで、それから、アメリカ経済が再生したって、九〇年代は再生しましたけれども、それは為替を変えたからじゃなくて、結局まあアメリカの中のIT革命とか資産革命ですよね、資産、今になるとバブルと言う。だから、為替で変えて、今の日中も、中国が強くなってきたから、元・ドル、元・円レートですか、を変えて、中国の追随を止められるかって、やっぱり中国が上がってくるのはリアルな面ですから、競争力の面ですから、余りそういうものは何か問題のすり替えみたいで先送りになるような気がします。  特に、結局日本の場合でいうと、そういうふうにアメリカが余り黒字を減らせと言うものだから、東南アジアとかメキシコとか、あるいはアメリカ自体にいろんな投資してそこから輸出するようにしたから、確かに日本から輸出は減りましたけれども、東南アジアからソニーが輸出させているわけで、結局為替というものはそういうものなんですよ。本当に強くなっていく国を止めることはできないと思います。  最後に書いたことは、今はずっといろんな方が、為替レートに責任を持つ方あるいは過去に責任を持った方がいろんなことを、円安がいいんじゃないかというようなことをこの数か月おっしゃって、それがもう効いて円安になってしまいましたけれども、私、これは余り健全なことではないと思います。今言ったとおりです。  だから、本当に中国が怖いと思うんだったら、やっぱりリアルな面で対抗するしかないんで、それは青木先生がおっしゃったその自由貿易その他も含めてです。あと、もちろん企業の対策。為替だけでやるというのは、日本没落のというか、問題先送りの種になるんじゃないかと、そう思います。  どうもありがとうございました。
  11. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  これより質疑を行います。  本日も、あらかじめ質疑者を定めず質疑応答を行います。質疑を希望される方は、挙手の上、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  できるだけ多くの委員が質疑を行うことができるよう、委員の一回の発言時間は五分程度でお願いをいたしたいと思います。  また、質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  なお、理事会協議の結果、まず大会派順に各会派一人一巡するよう指名いたしたいと思いますので、よろしくお願いします。そして、その一巡終わりましたら、先生方の挙手をいただいて、また指名をさせていただきたいと思います。  それでは、まず最初に、山崎力君。
  12. 山崎力

    山崎力君 自民党の山崎でございます。  両先生に今お話を伺って、問題点絞ってお伺いしたいと思いますが、共通するところでの一番不確定要素、それで一番重要な要素はやはり中国だろうというふうに思います。  その点でお伺いしたいんですが、今一番問題になっている為替のこともございましたけれども、私はむしろ、自由な、先ほどお話、最後のところでありました民間資本移動の不在というところが一番の問題でありまして、これのないところに為替も何もあったもんじゃないなという気がするわけです。で、中国がうまくいくかいかないかというのが、いつの時点でこの民間資本移動を政府が容認するかということにあろうかと思います。  そして、東アジア経済の一番の僕の問題点は、日本中心とした資本投下をしている国が中国へ生産拠点をシフトするのかしないのかと。  これは人件費の当然の問題がございます。中国の場合、バックグラウンドが大きいものですから、ある人に言わせると、五年十年たつと人件費が上がるのが、中国の場合はもう同じ人件費でずっと来ていると。まして為替が固定化されているもんだから競争力が非常に強い、しかもなおかつ技術力もほかの東アジアの国々に比べて強いと。これが世界の生産拠点になるんではないかということが中国脅威論一つの背景にあろうと思います。  その辺のところでどういうふうなことが予想されるかということを踏まえなければ東アジアの将来経済展望というのは開けてこないという、これは極端な言い方になりますけれども、僕はそういうふうに考えているわけです。ですから、そのときは為替の問題も当然出てくるでしょう。  それで、もう一つ、これはどちらかというと大野先生の方に関するのかもしれないんですが、為替のことで余りということをおっしゃったんですが、それでは、日本が三百六十円一ドルでやっていたらどうなっていたのかねということがあるわけです。そうすれば、日本の生産拠点が東南アジアアジア東アジアに移転することも今みたいになかったんではないかということも言えるし、世界経済が大きく変動、今みたいな形にならなかったんではないか、逆の目から見ますとね。そうすると、やはり為替というのの大きさ、変化というのは相当程度大きいのではないかなという気が素人考えですがするんですが、その辺のお考えを併せて、中国のことについてのその辺の両先生の御見解と、大野先生の、その為替の僕みたいな考え方に対しての先生の考え方をお聞かせ願えればと思います。
  13. 青木健

    参考人青木健君) ちょっと難しい質問だと思うんですけれども、私は、じゃ、日本企業ASEAN中心に東南アジアに猛烈な勢いで投下したわけですけれども、日本はもとより、そこから中国へ生産拠点をシフトするかという、そういうふうな考え、観点から御説明させていただきたいと思います。  実は私、一九八七年から九〇年までマレーシアに駐在いたしておりました。そのころ、最初に御説明いたしました一九八五年に円高ドル安、為替レート調整、猛烈な勢いで日本に行ったわけです。マレーシア経済が復調、そして好調になったわけで、ある意味で私は、マレーシア経済の地獄から天国、その過程を内部においてつぶさに見たという感じがいたします。  その後、毎年ほぼ一回ぐらいマレーシアその他アジア諸国に行ったんですけれども、今の観点から申しますと、日本企業は猛烈な勢いでマレーシアなり生産拠点をシフトしたわけなんですけれども、やはり先ほどおっしゃられました賃金上がっているんです。しかし、それほど上がっていないということなんですね。  一つは、特に電気、電子が世界的な拠点の一つだったわけですけれども、女性の雇用を高めていったわけですね。一九六〇年ぐらいは電気、電子の雇用比率が一割ぐらいで、もう今や八〇、九〇%になったと。女性が賃金上昇を収めたということなんですね。  そういう意味で、マレーシア、人口は二千万人、少ないんですけれども、行っていたと。しかし、その後世界的に、あるいはアジア世界的に生産増やしていったわけなんですけれども、その国内、マレーシアに進出した日本企業が対応できない部分、中国で生産させていると。こういうふうな、ある意味で生産拠点を中国にシフトしたと同じことになるわけですね。  同じようなことが中国においては、マレーシアの場合は女性が生産拠点をシフトさせないけれども、過剰、受注が多い部分、中国に生産シフトという現象が、中国においては膨大な人口がありまして、先ほどおっしゃられましたように十年間ぐらい一万円ぐらいで賃金が上がらないということですね。しかし、技術的な向上をしている、いい製品ができるということで、これは中国に向かうのは不可避じゃないかという感じがいたします。  実は、同じようなことは七年前、今から七年ぐらい前ですか、MITのサロー教授がこういう指摘をしているんです。ちょっと読まさせていただきます。技能で中国の上から半分の労働者が日本の下から半分の労働者よりも優れたとしたら、経営者は中国より技能の低い日本労働者により高い賃金を支払うであろうかということですから、賃金が二十分の一、三分の一と、これは必然ですね。これは流れは止められないんじゃないかという感じがいたします。  しかし、中国の場合、不確定要素、いろんな問題があるから、リスク分散、特にニューヨークのテロ、世界貿易センターテロ攻撃以降、特に北米においてはカナダから自動車、進出日系自動車メーカーに部品の搬送が遅れてしまったということで、危険分散ですね。日本企業はそれまでジャスト・イン・タイムということで在庫をほとんどなくするような行動をしていたわけです。それが、テロ危機以降、ジャスト・イン・ケースという言い方をするんだそうです。この場合、ジャスト・イン・ケース・オブ・エマージェンシー、つまり、危機があったときにどうするかということ。恐らく中国の場合は何が起こるか分からないということで、すべて中国中国へと草木もなびくということはないんじゃないかというふうな感じはある。  実際、例えばナショナルのかつてシンガポールに現法の社長をした人たちに聞いてみますと、絶対そういうことはないと。必ず危険分散、リスク分散ということで、中国へ全部生産拠点ですか、集約する、あるいはシフトさせるようなことはないということで、その辺は大丈夫じゃないかというような感じがいたします。  ただし、十年先、例えば十年先には中国ASEANFTA、完成するということなんですけれども、二〇〇八年に中国オリンピックがあります。その前後、恐らく日本の東京オリンピックと同じように建設ブームで中国は沸くんじゃないかという感じはいたします。  今、大きな混乱がなくて、そういうことがあればまた再び中国中国というふうになびく感じもしないでもない、そういうふうに私は考えています。
  14. 大野健一

    参考人大野健一君) 幾つかありますけれども、まず中国資本移動をまだ許していないんでいつ許すんだという一つの問題、私は今はそれは考えなくていいと思うんですね。少なくとも、FDI、つまり投資で、工場を作ったり生産をする方の投資というのはできますから、ファイナンシャルキャピタルが中国に自由に出入りするということは、今、中国、考える必要はないし、当面の問題でないし、アジア危機の例を見ても、やっぱりそう簡単に、実体経済がまだああいう状態のときにやらない方がいいというのはありましたから。だから、それは問題じゃない、むしろ貿易の、WTOの方が問題だと思います。  為替については、中国の問題があるとしたら、今は強いように見えますけれども、これは波があるわけで、私が想定できる中国のショックというのは、何か中国の元が、政治的か分かりませんし社会的か分かりませんし、あるいは競争力が落ちてきて輸出が余り伸びなくなったかもしれませんけれども、切下げ圧力が掛かって、うまくエキシットできなくて、やっぱりタイのバーツみたいな形で落ち始めた場合、元が、そのときに東南アジア日本にかなりのショックが走るんだろうと思いますね。だから、必ずしも切上げの問題だけでなくて切下げのリスクもあるんで、そういうようなことが中国にとって少し考えておかないといけないことだと思います。  だから、エキシットプロブレムというか、為替を危機なしに脱出させるというようなことは、問題ないときはだれも考えようとしないんです。でも、問題が出てから考えるともう遅過ぎるんですね。これはアルゼンチンでもメキシコでも同じです。だから、今、問題ないときに中国をどうやってソフトランディングさせるかということを考えておかないと、今WTO入ってどうなるか分からないわけですから、いつまでこのユーフォリアが続くか分からないというので、両方のリスクを考えておいた方がいいと。  それから、もう一つ言いたいことは、中国が今、資本移動がないから為替が関係ないというよりも、私がさっき言ったように、中国経済というのは非常に、あんなに大きい国なのに非常に典型的な途上国経済なんですよ。つまり、貿易依存度が非常に高くて、部品をたくさん輸入してそれを加工して輸出する部分が非常に大きいわけですから、その辺は為替レートは関係ないんですね。だって、輸入してくる部品がドル建てですから。だから、それで、組立て加工の部分の賃金というのは非常に小さいわけで、それが為替切下げ、切上げによって何%か変わろうとしても、やっぱり中国の本質的に強い部分というのはそこから来ているものではないんで、為替によっては調整というのはなかなか難しいと思います。  元切上げしたら、その分だけドル、いわゆるパススルーでドルの輸入部品が下がる、上がるわけですか、で、出すときにまた同じレートでやれば結局余り変わらないんですね。だから、元切上げによって中国の競争力を下げることはできないと思います。むしろ、中国が、パーツインダストリーが少しずつ育ってきて、技術力が上がってきて、生産力、品質も上がってきてと、そういうところですから。  あと……
  15. 山崎力

    山崎力君 ちょっと済みません。よろしいですか、今のところで。  ですから、今、日本経済界の問題は、生産拠点が中国にシフトしているという問題から進んで、パーツインダストリー、要するに日本の部品製造業が、中小が中心ですが、それが中国にシフトしている、し掛けているというところが一番危機感を持っているところだというのが僕の質問の根底にあることなんです。
  16. 大野健一

    参考人大野健一君) もし日本経済が元気だったら、むしろそれは問題でなくて、発展していると言うと思うんですけれども、青木先生がおっしゃったように、やっぱり日本企業が一番安くていいものを作れるところに出ていくというのは本質的にこれは発展している、ダイナミズムだと思うんですね。それを日本で危機と考えるということは、雇用問題として考えるということは、やっぱりそれは日本の国内のエネルギーの問題なんで、どういうんですか、それを日本にとっていいことだと思えるような日本のエネルギーを中で作らなきゃいけないんで、それは中国に行くのを止めたってやっぱり中にエネルギーがない限りは解決にならないんで、やっぱり回り回って日本経済活力の復興になっちゃうんだと思いますね。  それからもう一つ、為替レートが日本でも三百六十円が今百三十円台になって、これを変えなきゃ海外進出もなかったんじゃないか。これについては、僕は、少し極端かもしれませんけれども、あの為替レート、三百六十円でも大体同じことが起こったと思います。ただ、その場合は、賃金とか物価の動きが変わっていただろうと思うんで、それは計算したことありますけれども。  ただ、為替レートをフロートにすると時々激しい円高、円安があるので、波があるという、ショックが大きいというのがありますから、急激に円高になったときに急いで出ると、八〇年代後半みたいな、そういうことはあると思いますけれども、今度円安になると今度はそれが止まるわけで、そういう揺れがフロートになって出ますけれども、根本的に三百六十円今やっていても、日本の賃金上がってくれば当然外出ていったと思います。ただ、フロートして、その波が時々激しい突き上げがあって、またそれが止まってと、そういうふうな激しい状況の方がたくさん海外に進出したかどうかというのは私はよく分かりません。  でも、根本的にやっぱり為替レートというのは、長期的に見ればやはり実物経済を根本的には変えられないと思うんですね。やっぱり日本先進国した、日本てまだ十分出ていないんじゃないですか、ほかの国に比べたら。アメリカ、ヨーロッパに比べて海外進出はまだ少ないと思います。これはやっぱり日本先進国して賃金が高くなったから、賃金をたくさん、労働力をたくさん作る部分は外に出ていくのは当然のことでありまして、それは三百六十円でも百三十円でも、それは相対的に物価とか賃金がどこに行くか、三百六十円ならば三百六十円なりの物価と賃金があるでしょうし、今みたいに円高になってくるとアメリカよりも賃金の上昇率が低いということになって、相対的にはそんなに変わらないと私は思います。
  17. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、藁科滿治さんにお願いいたしますが、今の山崎力君と大野参考人質疑応答もありましたが、今回は経済問題ですからいろいろな考え方がありますので、もう質疑応答をやっておりますと、とてもこれ三時間なので終わるものではありませんので、質問されます方に大変恐縮ですが、質問していただいてお二人の答弁を聞いて、また後日参考にするということで進めさせていただきたいと思いますんで、その二人で勝手にやり合うことはひとつ控えていただきますようにお願いをいたしたいと思います。  それでは、藁科滿治君。
  18. 藁科滿治

    藁科滿治君 中国経済力は、あるいは経済成長が進んで対日輸出拡大していくと、これは当然日本にとってはデフレの要因になっていくというふうに思っておりますが、こういう構図の中で我が国は一定の成長を確保していくというようなことになる場合に、中国の市場、それから労働力に対してどのようにアプローチしていったらいいのか、これが一つです。  それからもう一つは、今回、セーフガードが発動されたわけですけれども、これもいろんな角度から分析をし、評価をする必要があると思っておりますけれども、少なくとも基本的に我が国の農業の再生に果たして有効な作用を及ぼしたんだろうかと私はまだ若干疑念を持っているんですが、この点についてどのようにお考えでしょうか。  以上、二つ。
  19. 青木健

    参考人青木健君) じゃ、後者の方から。  日本の対中セーフガード、中国を、特定国である中国をねらい撃ちしてじゃないわけですね。しかし、暫定発動品目ですか、シイタケ、長ネギ、それから畳表、事実上中国からの輸入だった、ほとんど数量ベースでいえば中国から一〇〇%近かったわけですね。  日本の農業に対してプラスになったかどうかということなんですけれども、正しく、対中野菜セーフガードですか、これは先進国で発動したことがなくて日本が最初なんだそうですね。かつ、あれなんですね、日本の、三品目の日本中国からの輸入に占める割合は〇・四%なんですね。中国の対日輸出のまた一・何%、ほとんどネグリジブルな金額だったわけですね。にもかかわらず日本は対中セーフガードを暫定発動したわけですけれども、これ恐らく中国は報復関税をやらなかったという楽観論があったんじゃないかと、新聞なんかでもそう報道されているわけです。むしろこれは私はこういうふうにとらえております。  一九七三年、石油危機があってOPECが石油戦略を発動したわけですね。一九七九年にソ連軍がアフガニスタンに侵攻したとき、アメリカが対ソ穀物戦略をやったということですね。今度の日本は野菜、中国からの輸入の暫定発動をした。むしろ逆に中国に対して、日本のは野菜戦略に、だから石油戦略、穀物戦略に相当したものを彼らに認識さしてしまったんじゃないかというのが私の考え方です。  日本はこれまで自由貿易、あれですね、多角、そういう主張をしてきたわけですけれども、ここに至って野菜に対して初めてセーフガードを発動したということ。先進国の中で日本に、唯一、ほとんど唯一と言っていいぐらいセーフガードを発動していない国になるわけですね。そういう意味で、むしろ日本にとっては要するにその野菜戦略を中国に認識さしてしまったということで、むしろ弱みを握らしたんじゃないかというふうなことですね。  それからもう一つは、日本はパンドラの箱を開いたんじゃないかということですね。去年の四月二十三日に暫定セーフガード発動措置、先ほど言った三品目を発動したわけですが、それ以外に、これは東洋経済でまとめたので、その時点でいろんなセーフ調査要請中だとか、何とか監視対象品目とあるわけです。その中にタマネギ、トマト、ピーマン、ウナギ、ワカメ、木材、ニンニク、ナス、干しシイタケ、カツオ、合板、こういうのまであるわけですね。かつ、これらの品目の輸入先がほとんどアジアになるわけですね。  そういう意味でこの対中セーフガード暫定発動を引っ込めたわけですけれども、これから次から次へ発動していくというのはむしろマイナスではないかと。ましていわんや、先ほど言いました日本ASEANFTA協定ですね、恐らく中国一緒になっているというふうなときにおいて、日本がセーフガードを発動するというようなことを温存していくというのは私はマイナスだというような感じがいたします。  かつ、日本の農林水産業に従事している人間が、いわゆる専業の人数は二十六万人しかすぎないんですね。兼業農家入れると三百万人ぐらいいらっしゃる、兼業を入れると三百万ぐらいいたらしいんですけれども、日本の総従業者数に占める割合が〇・四%なんですね。農林水産業のGNP生産の占める割合は一・七%ということで。これは、日本のは農業を守る、それはそれなりに論理あるんでしょうけれども、守った先に日本が農業で一億二千万人食わしていけるかどうかということですね。工業の場合は、製造業の場合はおまえ行くなと言っても止めることができないわけです。お金持っていけば向こうで生産拠点を、あるいは工場を設立することができるわけですね。日本の、農業はそういうことができないわけですね。そういう意味で農業は、もちろんそこで働いている人を守らなければいけないわけですけれども、いつの時点か、やっぱり産業政策転換、必要性あるんじゃないかというような感じがいたします。  それから、セーフガード、ちょっと話を戻しまして、これは日本の少子高齢化を先取りして向こうで日本の商社だとかスーパーが開発輸入しているわけですね。そういう意味で日中問題ではなくて、あれは日日問題だという説もあるわけです。  今度は中国の台頭、工業化する、工業品日本に向ける。これもやはりいわゆる逆輸入が多いわけですね。特に繊維製品なんというのは中国から日本の総輸入の七八%中国、そのほとんどが逆輸入なんですね。日本企業が、あるいはさっきの安売りのとか、ユニクロですか、そういうことになるわけですね。それが確かにマイナス面があるのは分かります。しかし、それは日本中国から輸入したからマイナスじゃなくて、今度はもう一回、今度は日本輸出構造を見てみますと、日本輸出のほとんどが工業品、かつその四分の三、七五%が機械なんですね。自動車、電機一般だとかが大半を占めているわけです。しかし、過去十年間で日本輸出構造を見ますと、その構造はほとんど変わっていないんですね、七五%、そしてかつその構成ですね、機械四品目の。ということは、その背後における生産が変わっていないということで、日本技術革新がないか、あるいは産業構造が高度化していないということの表れですね。  そういう意味で、一方で中国中心にして、あるいはASEANから製品逆輸入が増えているということで、日本の産業構造は確かに一方的に輸入品の拡大、製品輸入拡大で追いまくられていると。中国輸入のうちの八割が製品輸入で、その大半が逆輸入ということですから、確かに日本経済は現在立ちすくんでいることは事実ですね。しかし、それは同時にまたチャンスであるわけですね。  日本国内において確かに今いろいろ問題を抱えているのは承知の上で言っているわけですけれども、国内においてブレークスルーできなかった、それは外国からのショックですね。かつてニクソンショックだとかオイルショックあるわけですから、それに対する、ちょっと言い過ぎになるかもしれませんが、それに似たようなことを期待したいなと。  だから、安い製品輸入中国から入ってくる、どこから来たってこれは日本の問題じゃプラスでとらえる。同時に、向こうが工業化する、所得水準を拡大していけば、日本向け、日本輸出が増えるということですね。特に沿海州は平均よりもはるかに高い。先ほど申しましたように、一人当たり所得が年間四千ドルぐらいある。それがもっと増えるということで、それは逆にマーケットとしてなるわけですね。  だから、いろんな問題があるのは承知なんですけれども、中国の場合はチャンスである、リスクであると同時にチャンスであるというとらえ方をやっていったらよろしいんじゃないかなという感じがいたします。
  20. 大野健一

    参考人大野健一君) 日本にとって農業問題というのが対外経済政策の最大の桎梏になっているということはもう明らかなことでありまして、これは政治的問題でもあるけれども、経済的、戦略的な問題でもあるわけで、私は、これは単に一つの産業の利害というよりも日本経済対外政策全体にかかわることとして正面から議論すべきだと思います。  もちろん、セーフガード、中国のネギ、シイタケ、畳表に対する、ああいうもので再生するわけないんで、しかも私、ああいうの、私だけではなくてたくさんの経済学者やいろんな人たちが不満どころか幻滅を感じたと思うんですが、こういう政策をやっていて、一方で自由貿易をやろうとか、ただ農業が悪いとか言うだけでは駄目なんです。これも政治的な問題があるんで、どういうふうに農業を再生するかというのは、農業を批判するだけでは駄目なんで、やっぱりここは経済の部分ですけど、ちゃんと環境が大事だ、あるいは保全が、水、自然、気圏とかいろんなものがあるんだったら、長期的にこういうふうに農業を変えようというビジョンをだれか作る必要があるわけで、それこそが最大の対外経済政策なんじゃないかと思うんですね。  もしそれができて、ある程度政治的妥協でどこまでそれをどういうペースで進めるというビジョンができれば、APECもWTOも、対米、対欧、シンガポールとの関係でもう全部そこで引っ掛かっているわけですから、だからそれを進めるためには、日本が常に対外経済交渉の場で後ろめたさを感じなくてもいいようにするためには、やっぱり国内問題としての農業をそういう政治的な、たたいて黙らせるというよりも、もっと前向きのビジョンを作るという、それが一番大事だと思います。それさえあれば、APECでもシンガポールでも、あるいは今回言っている、日本ASEANとの自由貿易をやるかやらないかでも、もっともっとリーダーシップ取れると思うんですね。それが思うことであります。  むしろ中国の、日本がやったことに、セーフガードに対しての対応というのは非常に僕は評価していて、まず報復を出して、それで日本がそれを引っ込めてもまだ出し続けて、おきゅうを据えるというようなことをやっていて、正にそういうしたたかさがあるのは僕は中国の対応を非常に評価しています。
  21. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 今のお二人の御意見に対しましては他の委員の先生方からもいろいろ後ほどあると思いますが、よろしくお願いいたします。  では、続きまして、沢たまき君。
  22. 沢たまき

    ○沢たまき君 大変ありがとうございました。公明党の沢でございます。  一つ大野参考人にお伺いいたします。  東アジアにおける通貨と金融の問題について伺いたいと思うんですが、先生の書かれた論文と本日の御説明で、一国の通貨政策は単純なものではなくて、その時々の情勢に合わせて安定性と伸縮性を様々な形で混合する中間オプションの中から随時選択していくしかない、そしてドルを主体とした体制を組まなくてはならないというその現状がよく分かったわけですが、そこで大変初歩的な質問ですが、一点伺いたいと思います。  よく国際金融専門の先生方の講演を聞きますと、アメリカは経常収支が赤字で、対外純債務が止めどもなく増えていると。したがって、当面ドルの急落はないものの、ドルへの信認が永久に続くのかという疑問が常にあると言われております。そこで、EUがユーロを創設したように、日本もドルだけに依存するんではなくて、円の信頼力を、信用性というんでしょうか、信頼力を高めて、将来的には円の国際化を進める必要があると思うんですが、この点について大野参考人はどうお考えになるでしょうか。これが一つです。  それから、青木参考人に伺います。  先生の論文を拝見いたしますと、NAFTAEU東アジア世界経済の三極であり、また東アジアとしては、NAFTAEUとの交流を図り、経済的連携を強化すべきであると述べていらっしゃいますが、そのとおりだと私も思うんですが、同様に私は、東アジアの中での日本役割として、中国ASEANとの経済的連携を図ることが最も大切だろうと考えております。例えば中国との問題にしましても、セーフガードを大きな問題にすべきではないと思っております。もちろん自由経済ですから競争はあります。しかし、大枠として協調的競争を目指すべきであって、対立構造を作るべきではありません。その意味日本の責任は大変重いと考えております。  そこで、一つ御質問をいたしますのは、貿易投資が自由化すれば、日本の産業は中国などのコストの安い国に今移動しています、いわゆる空洞化がますます進行するだろうと思います。そうしますと、日本としては新たな産業を作る必要があります。作り出さなくてはならないと思っているんですが、ハイテク関係などが考えられますが、どのような産業が有望なんでしょうか。また、どのような業種を育成すべきだとお考えでしょうか。お考えを伺いたいと思います。
  23. 大野健一

    参考人大野健一君) 円の国際化については、これも私の極端かもしれませんけれども考えなんですが、私は円の国際化というのは嫌いです。嫌いというのは、政策として掲げることに余り意味がないと思います、そういう研究会もいろいろあったんですけれども。  なぜかというと、まず為替の世界というものは民主主義じゃないんですね。為替というのは、GDPに比例してみんな使うんじゃなくて、やっぱり一番大きい国が一つ通貨をやって、みんなそれを使うというのが一番効率的なんです。だから、同じぐらいの経済規模があっても、今ユーロだってほとんどユーロ圏以外には通用していません。なぜかというと、やっぱりドルが使いでがいいんですね。三つ四つ主要通貨がない方がいい。これはもういい悪いの問題ではなくて、通貨というものはそういうものなんで、日本の中で二つ通貨があったらどうなるかということを考えていただけば面倒くさいわけですね。  だから、通貨というものはやっぱり一つのものに収れんすべきだし、もし円がドルを凌駕してドルを追い落とすほどの勢いがあるならば円にシフトするということを考えてもいいと思いますけれども、今は全くないですから、むしろ円ドルを安定させる、為替レートを。ASEANもドルに追随しながらドルを基準に運営すると。それぞれがドルに対して安定を図った方が僕はいいと思います。今がそういう状態ですけれども、円ドルレートというものはそう簡単には安定しないという問題がありますけれども。だから、ドル中心でいいと思うんですよ。  ただ、これもいろんな意見がありまして、円ドルレートが非常に動いて困るということなんで、これは当分そういう状況が続くんだったら、それだったら円をアジアで使って、そこで安定化した方がいいんじゃないか、分散化した方がいいんじゃないかという意見もよく聞きます。  だけれども、そうすると、日本としては円ドルの安定と、それから円・ASEANの安定という両方やらなきゃいけないわけで、ASEANから見ても非常に通貨政策が複雑になってくるんですよね。すべて対ドルで各国が落ちるときには自分だけ落ちて、それで終われば戻るといって済む世界じゃなくなってくるんで、バスケットをするとか円を、円にもドルにも考慮して為替を動かすという、非常に複雑になると思います。実態的にもレジュメで申しましたようにそんなに変わらない結果が生じるというんで、問題は円ドルレートをどれだけ不必要な動きを少しでも減らしていくかという、そういうようなマージナルな努力というものの方がずっと大事なんで、円ドルレートをほっておいたままASEANと円を安定させても余り効果はないというのが私の印象です。
  24. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 速記を止めてください。    〔速記中止〕
  25. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 速記を起こしてください。  それでは、青木参考人、どうぞ。
  26. 青木健

    参考人青木健君) 先ほどの、世界NAFTAEU東アジア三つに収れんしていくという意味を御質問され……
  27. 沢たまき

    ○沢たまき君 いいえ。というお話でございましたけれども、新たな産業を作るとしたらどういう産業を作ったらいいのか。ハイテクなんか考えられますけれども、そのほかにどんな産業が有望なんでしょうかなということです。
  28. 青木健

    参考人青木健君) そうですね、ITだとかナロー技術だとか、ちょっとそういうものしか考えられないですね。  実は新しい産業育成、今までは東アジア日本中心東アジア経済発展というのはいわゆる雁行形態ということで、日本が先頭に進んで、その次はNIES、ASEAN、それから中国と、こういう段階で来たわけですね。こういうような、これは一人当たりの所得水準でそういう序列をよく東南アジア諸国はザ・バリュー・アデッド・エコノミック・ラダーと、こういう言い方をするんですね。このバリュー・アデッドというのは付加価値、つまり一人当たり所得水準、エコノミック・ラダーというのは経済のはしごという意味です。それで日本がずっとなっていたと。経済発展するときはそのはしごが永久に続くようなことで日本が先頭にいるんじゃないかというふうな印象だったわけですね。  ところが、先ほど日本輸出構造がほとんど構造変化していないということは、その背後の生産、新しい産業が起こっていないんじゃないかということになって、日本が先頭にいるんだけれども、その後、特に中国が追い上げてきて、そのすぐ上のASEANを引きずり落とすような感じですね。ASEAN諸国は既にそういうことは私がいました一九八〇年代後半に、タイなり政府の白書とか文書でそういうことを言っているわけですね。いずれ中国というのはあの膨大な人口を背景に労働集約財、あるいは労働集約的な工業品の最終輸出基地になると。彼らが本格的に乗り出してくる前に我々は産業構造の高度化をやろうと、もうそれやらずしてバブルになってしまったわけですね。日本も過去十年間失われて、もう十年以上、十二年の失われた期間に入っているわけですけれども、日本がその新しい産業なりを起こしていけば、日本自らその上の階段を自分から駆けて上っていけることになっているわけです。なると思うんですけれども、残念ながら今はそうなっていないということですね。  IT革命、それもアメリカの不況によって大体内実が分かってきたということで、それからあとバイオですね。これはIT産業だとか、私の考え方ではIT産業とかバイオ産業というのはないんじゃないか。ああいうIT技術を使っていろんなソフトですよね、そういうことをプロジェクトなり仕事をやっていくのがITをうまく効果的に活用するんじゃないか。バイオなんかでもそうですね。例えば、食料品である、あるいは化学で使う、化粧品で使うということで、そういう技術で何かバイオ産業だとか何とか産業、IT産業というのは成り立たないんじゃないかということですね。そういう意味で、IT革命というのはそういった技術を使って、あるいはソフトを結び付けていろんな新しい分野を開拓していくというふうになっていかなければいけないんじゃないかということですね。  こういう例えがいいのかどうかちょっと分かりませんけれども、私はマレーシアにいたとき、例えばマレーシア日本経済の問題をやろうというときに、マレーシア国内で人材、スタッフが集まらないんですね。そうすると、それができるタイから呼ぶとかシンガポールから呼ぶということで、勢い国際会議にならざるを得ないということなんですね。日本の場合はそれをやったらもう研究者、専門家がいるから日本国内で全部完結してしまうわけですね。恐らく、日本がこういう状況に陥っていろんな問題を考えているし、これをブレークスルーとする人が一杯いると思うんですね。そういう人たちを、どうやって能力をリアライズ、発揮させるかという仕組みを、よくベンチャーだとか言いますけれども、例えば銀行で相も変わらず土地を持っているかどうかという、そういうプロジェクトを審査する能力がないわけですね。そういう発想がないからということですね。これは日本の問題ですよね、完全に。というふうに考えております。
  29. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、緒方靖夫君。
  30. 緒方靖夫

    緒方靖夫君 日本共産党の緒方靖夫です。  東アジアの枠組みについて、青木先生にまずお伺いしたいと思うんですけれども、小泉首相ASEAN歴訪、先月いたしましたけれども、そのときにASEANプラス3、日中韓に加えてニュージーランド、オーストラリアを加えて更にアメリカに関与させる、そういう方向を提起されました。これについては首脳会談、それぞれ報道を見ると、マレーシアではASEANプラス3がいいと。インドネシアでも同様なそういう答えが返ってきた。これは非常に経緯がある問題で、マハティールはEAEC構想を出して、アメリカが反対して日本も反対してという、そういう経緯がある中で、それでまとまって日中韓という、ASEANに加えて、それができたという経緯があるわけですね。  そうすると、どういう形がいいのか。アジアの価値観、あるいはアジアの結束ということが非常に強調されて、そこでそういう発想になると思うんですね。太平洋地域を加えるんだったらAPECがあるじゃないかと、そういうことになるわけですけれども、先生のお考えでその辺の枠組み、現実的でベストな方向というのは何かというその辺についてまずお伺いしたいと思います。  それからもう一つ大野先生、それからマレーシア青木先生大変お詳しいんで、済みませんけれども両先生にということになるんですけれども、アジア通貨危機の際の対応についてなんですね。  私もマレーシアに行って、ちょうどその九九年の九月に行って、ちょうどその直後だったんですが、そこでそれからその後も何度か行って非常に興味深く思ったんですけれども、一つマレーシアがIMFの勧告を受け入れて半年間やってみると、それがうまくいかないと自国の方式に変えるわけですよね。その結果、非常に大きな論争が起こりまして、雑誌のエコノミストを先頭に、実際上、アメリカやイギリスの政府がマレーシアを鎖国政策として非常に強く非難する、それに対してアメリカ国内ではクルーグマンとかあるいはビル・ゲイツとか、あるいは未来学者のトフラーとか、それがマハティールを擁護するようなそういう面白い論争があったわけですよね。  実際、結果はどうだったのかということで、一つはIMFの側にも恐らくいろんな教訓があると思います。それから、関係国にもあると思います。ですから、それぞれの教訓が何かと、その点についてお伺いしたいと思います。  以上です。
  31. 青木健

    参考人青木健君) 最初の現実的な枠組みですか。私は、現実的な枠組みとしてはやはり先行して発表された中国ASEANですか、それに日本が入るべき、韓国と一緒にですね。つまり、当初、先ほどおっしゃられた、たしかあれ一九九一年でしたか、EAE、最初EA、イースト・アジア・トレード・ブロックという言い方をしたんですね。ちょうど中国の首相が訪問したとき、その意図がちょっと、そのときなぜ発表したのかちょっと分からないんですけれども、事実としては、EAEC、結局マハティールの主張どおりになったということですね。現実的な枠組みとしてはそれがいいんじゃないかという。  あと、豪州ニュージーランドですね。先ほど委員おっしゃられたように、その背後にアメリカがあるんじゃないかという憶測があるわけですけれども、豪州ニュージーランド、地理的に見ると完全にアジアなんですよね、インドネシアのすぐ下ですから。という意味で、行く行くは私は、あれは地理的には、マハティール氏は当時あれはアジアじゃないという言い方をしていましたけれども、経済的に見る限りはもう完全に東アジア経済にインボルブしていると思いますので、行く行くは東アジアの枠組みに入れたらいいんじゃないかという感じがいたします。  それから同時に、そのとき日本がイニシアチブを取れるかどうかですよね。これもまたもう過去の話みたいなんですけれども、私がいたころ、日本はもう日の出の勢いで経済大国のような役割アジアにあって果たしているということで、日本企業が猛烈な勢いで来たということで、先ほど歴史的日本機会ということを言ったわけですけれども、あの当時、同時にこういう言葉も言われていたわけです。エコノミカ・パクス・ジャポニカというんですね。パクスといいますとパクス・ブリタニカというのがありますね。英国が支配した世紀、システムが続いています。その次は、パクス・アメリカーナと、エコノミカ・パクス・ジャポニカ、アジアにおいてはと。  これの意味は、第二次大戦前は軍事的にアジアを制圧をしようとして大東亜共栄圏を作ろうとしたが、これが見事に失敗したわけですね。ところが、戦後は経済的に完全にアジアを支配したという意味で、エコノミカ・パクス・ジャポニカなんですね。ただし、パクス・アメリカーナ、パクス・ブリタニカの違いは、その前は形容詞ないんで、パクス・ジャポニカの前だけ形容詞があるわけですね。それはその当時、日の出の勢いであったということなんですけれども、そのときそういう枠組みに乗ればよかったかなという感じもしないでもないんですけれども、もうこれは過去の終わったことなんですけれども、もしこれから現実的枠組みとして日本がイニシアチブを更に豪州ニュージーランドということは、先ほどの御説明させていただいたときに一番頑健な経済協力体になるわけですね、FTAになるわけです。そういう意味で、日本がやっぱりイニシアチブを取れるという意味では、日本経済、やっぱり背後に持っていかないといけないという意味で、というふうに考えております。  それから、あとマレーシアアジア通貨危機のときですけれども、当初、一九九七年の七月にアジア通貨危機が発生したわけですけれども、あの当時、マレーシアはまだ日の出の勢いであったわけですね。マレーシア、あのころメガプロジェクトということで、マラッカ海峡に橋を架けるとか、あるいはタイとの国境に高速道路を造るとか飛行場を何とか造る、そういう一杯、十ぐらいのプロジェクトがあって、それメガプロジェクトと。最初、それ混乱したわけですけれども、マハティール首相、そのときアンワール副首相というのがいまして、その後投獄されて、現在投獄されているわけです。アンワール副首相が兼蔵相であったわけですが、彼があれしたわけですね。IMFの、インドネシアなんかIMFの傘下に入ったけれども、マレーシアは入らなくて自発的にやったということですね。  そういう意味で、IMFコンディショナリティー・ウイズアウト・IMFと、こういう言い方しておるんですね。インドネシアの場合がノー、IMFコンディショナリティー・ウイズ・IMFかな、何かそんなようなことを言って、マレーシアの場合非常に優等生だったんですね。つまり、直ちにビッグプロジェクト、財政支出を削減を決定したわけですね。そういう意味で非常に意思決定が早いということだった。その後、いろんな動きがありまして固定相場制に、さっき大野先生がおっしゃられました固定相場制に戻って現在に至ったという。  その後、余りちょっと詳しくフォローしていませんので、大野先生にお願いしたいと思います。
  32. 大野健一

    参考人大野健一君) マレーシアを始めとするアジア通貨危機に関しては、やはりIMFというのはどう考えてもおかしかったと思います。そういうことを言う人は日本に、経済学者に一杯いるわけですけれども、IMFも大分変わったと思います。  まず重要なことは、ああいう危機が起こったときに財政、金融は、特に財政なんかを締めない、締めちゃいけないと。つまり、内需が落ちますから、それに輪を掛けるようなことをしないということはもうIMF分かったんではないでしょうか。  それから二番目に、危機の最中に銀行改革とか企業改革を強要しないということも僕は分かってきたと思います。  それから、一挙に民間資本が出ようとするときに民間資本を止めると、これはプライベート・セクター・インボルブメントとか言って、今ちょうどIMFのアン・クルーガーチーフエコノミストですか、が今議論中なんで、つまり途上国にリスク覚悟で入った民間投資を何で一〇〇%助けなきゃいけないんだという議論があって、そういう議論も今なされているようですから、IMFがどうもうまく対応できなかったということは、それはマハティールの言うので正しいと思います。  ただ、マハティールのようにかなり感情的に攻撃するというやり方は日本はやるべきではないんで、もうちょっとクールに議論する、かなり大蔵省、当時大蔵省がIMFに圧力を掛けたというああいうやり方でいいと思いますけれども、やはり西洋対東洋みたいなそういう感情論に持っていってはいけない。けれども、技術論で議論をしていくというそういうやり方はいいと思います。  あと、マレーシアが固定相場制に移って為替管理を少ししたのは九八年の九月ぐらいだったと思いますけれども、これがよかったかどうかというのは、タイミング的にもうこの時点ではもうアジア危機終わり、終息時点ですから、これがよかったかどうかということはもうちょっと早くやってもらわないと分からなかったと思います。その評価は、特にそれがあるから崩壊したとかすごくうまくいったということはなくて、ただやはり、さっき申しましたエグジットプロブレムが残っていますから、いつ今度為替を柔軟にするんだというタイミングを逸するとまた問題が起こるわけで、そういう問題に今すり替わったかなと思います。  だから、マレーシアのやったことは私から見るとそんな大したことはないんで、危機のときに為替を管理するというようなことは当然一時的にやっていいことだけれども、ちょっとそれから出るのに気を付けなきゃいけないなということでございます。
  33. 緒方靖夫

    緒方靖夫君 ありがとうございました。
  34. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 次に、田村秀昭君。
  35. 田村秀昭

    田村秀昭君 自由党の田村秀昭でございます。  両先生に同じ質問をさせていただきますけれども、両先生とも東アジア経済を語る、発展を語るときに中国のことを両方とも論じておられますけれども、中国はもちろん経済と政治というのは切り離せないものでありまして、中国は共産党の独裁政権であります。共産党の独裁、一党支配の国が経済大国になった例が過去にあるのかないのか、今後はあり得るのか。正に発展途上国並みの語るに、経済についてはそんな大国でもない中国を、軍事的には軍事大国ですけれども、東アジア経済を語るときに中国を入れなきゃならない理由について、分かるようにお聞かせください。
  36. 青木健

    参考人青木健君) そうですね、共産党一党支配の国が経済大国の例があったかどうかという、ちょっと非常に難しい問題で、これまだ可能性の問題ですね。  で、東アジアFTAの枠組みの中に中国を入れなければならないという理由ですか。そうですね、昔、詳しくは知らないんですけれども、ちょっとイメージ的な説明で申しわけないんですけれども、第二次世界大戦後、いわゆるソ連の共産主義を世界的に拡散するのをやめるために、いわゆるジョージ・ケナンという人がコンテインメントポリシーということを世界でやったわけですね、展開したわけですね。そのコンテインメントポリシーというのは、アメリカなんかに駐在している人に聞くと、それ積極的に押しとどめようというんじゃなくて、いわゆるロールバックさせるという意味じゃなくて、押しとどめ、非常に緩やかな概念だということですね。  そういう意味で、アメリカ世界じゅうに多国間にわたる軍事網をやったということなんですけれども、それはやっぱりいわゆる共産主義が世界じゅうにドミノ理論という、こういうことであったという感じがするんですけれども、それを今の現在の東アジア中国が台頭したからという意味では主張しているわけなんで、で、全然状況も違うし、経済的な意味でやろうとしているわけですから。  そういう意味で、むしろ中国を入れなければならないという理由は、私としては、中国の場合、今度WTOの加盟でいろんな厳しい条件、四つの条件を付けたわけですね。それは国際ルールに従わせようということなわけです。そういう意味で、中国を言われるのは、大抵やっぱりいわゆる知的所有権の侵害、あるいはコピー商品ですか、世界貿易の五から七%ぐらいあると。最大のやっている国は中国、その次は台湾、韓国らしいんですね。日本も被害を受けているということで、そういう意味で国際ルールに従わせるという、従ってもらうという意味で、やはり中国は入ってもらった方がいいんじゃないかということです。  と同時に、懸念しなければならないというのは、実は、先ほどのおっしゃられた、小泉首相シンガポールに行ったとき、日本ASEAN包括的経済連携構想と発表したわけですけれども、その中身を見ると、私の印象では従来のODAの経済の延長じゃないかということなんですね。ところが、ASEAN中国FTA協力フレームワークをもって見ますと、明らかに両者のFTAの形成を目指した実務的なアジェンダが多いんですね、項目が。だから、そういう意味で、中国FTAASEANFTAをやるとかなり先行してしまうということになりますと、今言った御懸念ですね、なぜ入れなければならないと。事実上、今度は逆に、日本をなぜ入れなきゃならないと、こういうふうに言われかねないということですね。そういう意味で、日本の対外経済戦略、特にアジア戦略は早急にそういう意味で確立する必要があるんじゃないかというような感じがいたします。
  37. 大野健一

    参考人大野健一君) 私は、日本中国関係が重要で、アジアの中で核になるというのは当たり前のことで、説明も要しないと思いますけれども、日本にとっては、安全保障、軍事、外交、政治的に中国の大きさというのはいかにも大きいものでありますし、経済的にも、今の為替レートで計算するとどうか知らないけれども、何十年後には日本を追い付くとか追い越すとか、そういう破竹の勢いですし、今どこのスーパーへ行っても見るとメード・イン・チャイナですから、今までのような日本中国経済関係、あるいは外交関係でいいわけがないというのは当然だと思います。つまり、セーフガード問題等、教科書、靖国問題だけでこの国と付き合っていけるわけはなくて、アジアの安定とか経済発展というのは中国日本がどういうような関係を築くかに懸かっていると言ってもいいんじゃないですか。その外に米国という、アメリカという非常に日本中国、そしてASEANにとって非常に重要なパートナーがいるという、そういうような構図を私は考えています。  ASEANは、根本的には、日本とはASEANの、生産基地という意味で非常に重要ですけれども、彼らとの軍事、安全保障、国際政治的な問題というのはそれほどないわけでして、日本にとっては経済的には関心ですけれども、中国とは多面にわたって付き合わなきゃいけないことが一杯あるので、今の日中関係というのは非常に未成熟なわけですね。それが私の印象です。
  38. 関谷勝嗣

  39. 大田昌秀

    大田昌秀君 青木先生に素朴な質問を二つばかりさせていただきたいと思います。  まず、中国の福建省辺りに設置されました経済特区が中国全体の経済発展にどういう影響を与えたのか。プラスになったのか、それともマイナスになったのかということが一つですね。  もう一点は、国有企業の問題ですね。これは現在、国有企業そのものが中国経済発展にどういう影響を与えているのか、将来はこの国有企業はどうなっていくかという問題について教えていただきたいと思います。  それから、大野先生には、これは若干日本経済政策、国内的な問題と関連して簡単な質問を二つだけやらせていただきますと、一九五八年から一九七二年まで沖縄ではドルを使っていたわけですね。アメリカが沖縄でドルを使おうとしたときに、銀行マンとかは大歓迎だということを言っておりましたけれども、大学の経済の教授なんかは真っ向からこれに反対したわけなんですね。そうしますと、一国の円経済の中でドルを使うということのもたらす影響といいますかインパクトという問題をどうお考えなのかですね。  それからいま一つは、日本経済政策が現在のまま続くとしたら私は将来中国と太刀打ちできないかというようなある種の恐怖感みたいなものを持っているわけですが、その理由は、対外的には非常に力を持っていると言われておりますが、国内的には非常に政策が硬直化しているのではないかと。例えば、グローバリゼーションが不可欠だといいながら、国内のいろんな規制が非常に大きいわけです。  例えば、沖縄に関していいますと、シアトル、ワシントンから神戸あるいは横浜に品物を運ぶのと、横浜から那覇に運ぶのと、シアトル、ワシントンから神戸に運ぶ運賃の方がはるかに安いわけなんです。それで、それは外航船によって運ばれているから、その外航船がもし横浜から沖縄に物を運ぶとしたら沖縄の物価は六分の一くらいに下がると言われているわけですが、一切そういうことを政府は認めないわけですね。  それから、例えば沖縄の基幹産業は泡盛なんですけれども、その泡盛はタイの砕米を使うわけなんですが、人が食べる米じゃなくて砕米を使うわけですが、それに食管法を掛けて、国が三万円ほどで買い上げて、そして九万円から十万円近くで卸していくと。そうすると、以前は年間二十億くらい泡盛産業から国、大蔵省がもうけているということを言われていて、最近は十億程度になっていると言われるわけなんですが、こういった、対外的には非常にいい格好をしているんでしょうけれども、対内的には非常に厳しいことをやっている。  それで、前の梶山官房長官のときには、一国二制度ということで、沖縄に本土他府県とは違った制度を設けようとしたわけですが、沖縄では全県フリーゾーンということを考えてその提案をしたわけですが、今、全県では駄目だということで、小さな地域に特化してフリーゾーンを設けようとしている。しかし、以前、政府が那覇地区にフリーゾーンを設けたわけですが、全然機能しなくて、一般財源から一億近い金をその維持管理に出しているというような状態だったわけですが、こういった経済の政策の問題について、何か教えていただけたら有り難いと思います。
  40. 青木健

    参考人青木健君) 中国の福建省、経済特区を数多く設置して、外国企業を呼んで経済発展をしたということは事実なわけですね。中国の場合なんかは、それによって、それは一つですけれども、三つの産業集積地域を形成したというふうに言われております。  それで、一つは、今おっしゃられました華南、広東省の珠江デルタですね。それはパソコンだとか複写機、家電などの労働集約的な輸出向け電機産業をそこで育てたということ。それで、二つ目の産業集積地域、浙江省、江蘇省、上海近辺ですが、あの辺りの長江デルタというところで、これは半導体だとかハイテク産業、自動車、鉄鋼、化学などのいわゆる重化学工業地帯の集積地になったということのようです。もう一つ、北京と中関村ですか、これはシリコンバレーという、この三つの産業集積地を沿海地区に作ったということなんですね。  これによって、今まで、先ほどありましたように、いわゆる雁行形態というのは日本を頂点として東アジア全域で形成していったわけですけれども、中国がその三つの産業集積を作ることによって、国内でその雁行形態を、だから、つまり労働集約的なのは奥地へそういうことができるようなことを作ったというふうに、中国の専門家に聞きましたらば正にそうだということですね。そういう意味で、東アジア、今までNIESだとかASEANを入れていたのが、これは国内で完結した雁行形態論のパターン中国は形成してしまったという。  先ほど、大田委員の御質問は沖縄のことを想定されたと思うんですけれども、あとマレーシアの場合、やはりFTAを、いわゆる特区、マレーシアの場合は、エクスポート、フリー・トレード・ゾーンというふうに、FTZということを言うんですけれども、これは、そこに入った場合、外国企業が入居した場合、輸入する場合が関税ゼロ、あるいは所得を、ホリデータックスといって十年間所得税を取らないという、そういうインセンティブを与えたわけです。だから、そのために輸出拡大したわけなんですけれども、その反面、国内経済とのリンクを完全に断ち切ったような格好で、要するに形成できなかったわけですね。そういうような産業を借地産業、テナントインダストリーという、あるいはそういうのをエクスポートエンクレーブ、輸出飛び地ということなんですね。  沖縄の場合、更に人口は少ないわけですね。だから、沖縄のことを想定されて、そういう意味で、前に沖縄にフリー・トレード・ゾーンを作るという意味マレーシアの経験を書いてくれということで書いた経験があるんですけれども、ちょっと人口とか、いろんな立地条件がありまして、ちょっと残念ながらできないんじゃないかということを書いた記憶があるんですけれども、中国の場合は、もう膨大な人口があって、いろんな産業、フルセットであるわけですね、ほとんど各省で。だから、そういう意味ではちょっと中国の場合はマレーシアとも違うんじゃないかというような感じがいたします。  それから、あと第二の国有企業の行方ですか、恐らくWTOに加盟することによって、いろんな輸入品が安く入ってくるということで、これも私は詳しくないんですけれども、中国の現在の専門家に聞いたところ、失業者が発生するんじゃないかということですね。失業者の発生という意味では、農村においても発生するんじゃないかと。地方に八億人ぐらいの人間がいて農業に従事しているということで、もし生産性が上がれば、あるいは安い製品、農業品が入ってくると二億人で済むんじゃないかと。残りの六億五千万人かですか、失業の危機にさらされるんじゃないかと。それで、沿海州で吸収できるか、これは絶対できないということで、だから国有企業と農業を、もしWTOに入って安い製品、農業品が入ってくれば膨大な失業者が発生するという、そういう意味で国有企業の改革というのは急務であるということじゃないでしょうか。そういう意味で、中国経済がうまくいくかということのシナリオはそこで崩れちゃうわけですね。  以上でございます。
  41. 大野健一

    参考人大野健一君) 大田委員がおっしゃった沖縄の状況中心とした日本はグローバリゼーションできていないんじゃないかというお話、全くそのとおりだと思います。  私が申し上げたいことは、今の政府は改革を目指しているわけですけれども、それはいいんですけれども、私は二つ不満な点があって、第一は、外圧をうまく利用して改革するという外との連携というのは、特に産業を立て直すには外との外圧を使うという観点がほとんど見られないんで、もちろん行財政改革も外務省改革も特殊法人改革もいいんですけれども、産業については、やっぱり今ずっと議論してきた中国の進出をどうするか、農業をどうするか、それを正面から議論することが改革、産業の再生になることじゃないでしょうかと。それがないのは、日本の中だけで改革するということも不可能だと思います、産業に関しては。  それから、先ほどどのような産業が出るでしょうかというのも、それも究極的には競争が決めることであって、民間が決めることで、それも国内で決めることじゃなくて、外から来る圧力で日本がどのポジションに、中国からあるいはヨーロッパから、アメリカからのいろんな状況が変わるときに日本企業がどうするかということが基本にあって、それを政府が支援するなりしていくという形なんで、その辺がまず抜けているというのが第一。  ですから、農業の問題、それからリストラを、そういうふうに外圧があったときに、中国がやってきたときにリストラを要する企業とかプロジェクトがあるわけですね。それをどうするかということを正面から議論することが本当の改革なんじゃないかというのが私の第一点目。  第二点目は、やはりこれも産業の改革ですけれども、市場経済というものは、もちろんビル・ゲイツみたいなあるいはユニクロみたいな新しい企業が出てきて作っていくということももちろん、シュンペーター的な破壊、創造的破壊は必要ですけれども、それと同時に重要なことは、駄目だった企業とかプロジェクトを取り除いていかないといけないと思うんで、そっちの方が今政府にとってできていないんじゃないかと。  それは、第一点のどうやってリストラ企業に対応するかということと関係ありますけれども、新しい企業を政府とか学者が考えるのはほとんど無理です。やっぱりそれは民間とか世界競争の市場形成の中でそのシグナルを受け取っていくしかないんで、そんな政府が決めたってできることじゃない。ただ、できることは、もう駄目だと、赤字あるいは不良債権で一杯になっている、あるいはもうどう考えてもプロジェクトが行き詰まっているような企業を早く解体して、その資源を、人的資源、資本的なものを新しいものに、民間にリリースしてやることができていないというのがこの十年間の問題なんだと思います。  バブルがあると必ずそういう駄目な企業、プロジェクトはあります。第一次世界大戦の後もそうです。朝鮮特需の後もそうです。そういうのを一掃するというのはなかなか難しいことで、それが根本的な経済再生のできていない理由なんで、その二つの点が、外圧を利用していないというのと、バブルの後の駄目な企業を、まだぽろぽろ破産していますけれども、もうちょっと加速できることがないのかという、その二点が日本の内的再生につながるんだと思います。
  42. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 以上で各会派一人一巡しましたので、これより自由に質疑を行っていただきます。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  43. 山本一太

    山本一太君 まず、大野先生に御質問したいと思います。  最近、ずっと金融と経済のことをよく考えているんですけれども、非常に経済は厳しい状況で、いろんなエコノミストとか経済学者とか経済ジャーナリストの人が千差万別の意見を言っておりまして、小泉総理のことを経済音痴と言う人がいるんですけれども、私は、やっぱりリーダーの役目というのは、経済政策のインズ・アンド・アウツを知っているということではなくて、専門家の意見を十分聞いて自分の哲学でどういうポリシーミックスを選んでいくかということに尽きると思うので、この批判は当たっていないというふうに思っています。  ただ、私も経済なかなか舛添先生みたいに専門じゃないんで分からないところもあるんですが、大きく言うと、舛添先生は外交政策も専門なんですが、大きく言うとやっぱり景気を回復させるために不良債権処理に軸足を置くのか、それともデフレ克服、デフレ対策みたいなものに軸足を置くのか、そのポジショニングをどっちに置くのか、あるいはそのポリシーミックスをどういうふうに考えていくのかということに尽きるんじゃないかと思っていまして、例えばデフレ対策を言う人たちは、特に何かアカデミシャンでマクロ経済の有名な先生とかそういう方々の中には、とにかくまずインフレにしなきゃいけないということで結構大胆な、インフレターゲットと呼んでいいのか分かりませんけれども、とにかくインフレにしろと言う方もいると思えば、逆に不良債権処理がすべての源だと、不良債権こそが日本経済のガンなんであって、こっちをとにかくしっかりやらないとどうしようもないと言う人もいて、そこのところがなかなか難しいところだと思うんですが。  私、今日、先生の話も聞いていて最近思ったことを再認識したんですけれども、デフレを止めなきゃいけないと。インフレを誘導する政策をやって、政府が土地買ったり株を買ったり国債を受けたりしながら、とにかくインフレにするということもやらなきゃいけないのかもしれないし、また、その不良債権を、かなり企業の淘汰が進んでもやらなきゃいけないと思うんですが、そういうものというのはやっぱり、小手先とは言いませんけれども、一時的にデフレスパイラルを止めるという効果であって、長期的にはやっぱり日本経済がよみがえるためにはこれは民間、政府が見付けたり政治家が見付けるものじゃないと思いますけれども、やっぱり新しい産業を見付ける、産業を活性化する、ここにあるように、実物部門の産業活性化しかないというようなことを大変思っております。  ですから、先生が今日おっしゃった為替レートは実は長期的に見れば実体経済には影響を与えないということも分かるんですけれども、ただ、その点においてさっき先生がおっしゃったことで一つちょっと疑念があるのは、どんどんどんどん中国企業が進出をしていく、これは経済の流れからいくとどっちかといえば健全な現象であるというふうにおっしゃいました。確かにそういう見方はあるのかもしれませんが、別の面でいうと、いわゆる産業の空洞化問題というのは常にあって、やっぱりネガティブな面もあるんじゃないかという気がいたします。  我々は政治家ですから、大体毎週地元に帰っては地元の中小企業を歩いてその状況を見たり、中小企業の社長さんに会ったり、製造業の二代目に会ったりしているんですけれども、やっぱり空洞化によって失われていくというものも相当あると。雇用がなくなる、あるいは物づくりの基盤が日本からなくなっていく。そういう中でさっき先生がおっしゃった、いや、それは日本にエネルギーがないからだというふうなお話をされたんですが、この今、先生がおっしゃったエネルギーというのは具体的にどういうものなのか、それは新しい産業なのか、あるいは何かのまた別のことを指しておっしゃっているのか、そのことを是非伺いたいというふうに思います。  それからあと、青木先生にも御質問を、参考人にも御質問をしたいと思うんですけれども、先ほど農業のことをおっしゃいました。別に群馬県が農業県で、群馬県から来ているから申し上げるわけじゃないんですが、農業というのは、専業農家は二十六万人しかいないというお話でした。兼業農家を合わせても三百万人しかいない。これは事実だと思いますし、それは工業製品やほかの産業に比べてGDPのほとんど一・七%ぐらいしか占めていないと。農業の人口は兼業を合わせても〇・四%しかないと。これで実際食べていけるのかという話もありましたが、私はやっぱり物事はそうそうそんなに単純なものではないというふうに思います。  もう言い古されていることかもしれませんけれども、やっぱり農業というものは、さっき大野参考人の方からもやっぱり未来のビジョンを作っていくというお話もありましたけれども、やはりいろいろな意味で、ある程度基幹食糧というものを国内で作るという意味もあると思います。それは食糧安全保障、食糧自給のコンセプトで、これは国の戦略にもかかわることかと思うんですけれども、そこについて、何ですか、農業がリーディング産業にならないからこれで食べていけるかというのはちょっと私は単純な見方だと思うので、是非ちょっとそこら辺のところをもう少し伺いたいと思います。  それから、もう一つだけ青木参考人に、青木先生にお聞きしたいのは、さっきのFTAの議論がありました。  これから二十一世紀、小泉さんの東アジアコミュニティー構想ではありませんが、中国ともASEANとも十分協力をして、やっぱりここはFTAを進めていかなきゃいけないというのが日本の国益だと思います。  実は、今月の末に自民党の若手議員十人で韓国に行って、ずっと続けてきた日韓若手議員交流ということで、向こうの三十代、四十代の十人のちょっと元気な議員と議員交流をやりまして、四時間ぐらい議論をするんですが、その最初に我々が持ってきたのが日韓のFTAということでした。日韓のFTAというのは非常に重要だと思います。かなり経済レベルの似た、しかも日本にとって戦略的パートナーである韓国との間でFTAをやっていくと。このことが、日韓のFTAということが、今、今日参考人のおっしゃった域内FTAを進めていく中でどういう重要性があって、どういう位置づけがあるのかと。どういう問題点があるのかということについてもちょっとお聞きできればと思います。
  44. 大野健一

    参考人大野健一君) まず日本国内のエネルギーのことですけれども、もうこれはずっと言っている話で、もう一度、大田委員に対する答えをもう一度言うことになると思うんですけれども、結局、何の問題考えても、日本の中にエネルギーがないことが中国を敵視したりあるいは空洞化が悪いとか言ってしまうわけで、それはもう産業のダイナミズムというのは、常に新しい産業ができ、新しい国が市場に参入する限りあるわけで、それをネガティブにとらえるかポジティブにとらえるかというのは明らかに国内の問題でありますよね。それをなぜ、どうやってダイナミズムのエネルギーを出すかということで、雇用問題、生活問題をどうするかという問題。これは中国を止めたりASEANに進出するのをブレーキ掛けてもできる問題、もちろん為替やそういう問題じゃないということを申し上げてきました。  それで、じゃどうすればいいのかという私の答えは、先ほど言った二つのことをやることであります。  つまり、外圧を利用して、中国がやってくるから、あるいはASEANに進出しなければ日本は生きていけないから、じゃ農業はどうするんだ、あるいはリストラされる繊維産業のワーカーはどうするんだということを正面から議論する。それを省庁間の争い的なものとか、あるいはどこかの出身の政治家と別の政治家の闘いとか、そういうレベルにするんじゃなくて、やっぱりナショナルアジェンダとして正面に議論することが、国内問題を正面に議論することが対外経済政策になるような今はそういう時点に来ているということが一つです。そのエネルギーが出ない限り、あと何やっても駄目ですよ。  それで、もう一つは、言いましたように、その駄目になった、バブルの後は必ずそういう変な企業が残っていますから、今でもまだ一杯残っていてぽろぽろ破産しますよね。あれを一気にやらなかったということがまだ後遺症があるわけで、ここにケインズ政策の大きな問題があるわけですよ。ケインズというのは、資本主義というのは非常に不安定で不況を起こすから財政とか金融で下支えできると言ったわけですけれども、マクロ的に、短期的にはそれはいいんですよ。マクロ的に、急激にマイナス成長になるのを止めることはできるけれども、それをやることによって今言ったような変なバブル企業が残っちゃうわけで、そこにトレードオフがありますよね。  それで、ずっと下支えしていると、マイナス五%、一〇%というふうにはなりませんけれども、結局、悪い企業を残しているからいつまでたってもプラスの方に行かないという問題があって、私、これどういうふうに解決すればいいか分かりません。短期的に一、二年みんなに泣いてもらうのが、失業を大量に発生させるのがいいかというと必ずしもそうは言えないけれども、それをやらないことによって変な企業が残ると。これは、この問題はまだ全然解決されていないんじゃないでしょうか。  一つ言えることは、日本の歴史を長く見ると、そういうことをやった大蔵大臣ているわけですよね。まず、松方正義が一八八〇年代前半に、いわゆるインフレになって増発したものを止めるためにわざとデフレを作ったというのは、もちろん国民は大きな声で反対しますよ、だけれども数年たつとそれは終わるわけで、その後何が起こったかというと、いわゆる会社設立のブームですよね、資本主義の。  それからもう一度、井上蔵相が一九三〇年ごろに、わざと円レートを、金本位に戻るためにデフレをやった。積極的にデフレをやったわけですね。それはもちろん井上蔵相はやり過ぎたとありますけれども、世界大恐慌と重なってやり過ぎたとありますけれども、その後、日本は一番最初に世界恐慌から出て、日中戦争が始まる三七年まで好況になったわけですよ、そのときは軍事ブームはあったかもしれませんけれども。  あと、朝鮮戦争の後、デフレになって特需がなくなったときに、日銀とか政府は引締めぎみにマクロを運営して、合理化を要求したわけです。その後、数年たって何が起こったかというと、高度成長期ですよね。  そういうのがまた起こるかどうか分かりません。けれども、そういうことを考えると、デフレを回避することばかり考えるということが本当にエネルギーにつながるのかというのを正面から議論するときが来ているんじゃないかと思います。
  45. 青木健

    参考人青木健君) じゃ、今の新しいエネルギーということでちょっとよろしいでしょうか。  日本は一九六〇年代に池田内閣が所得倍増計画を立てて、高度成長を謳歌したわけです。それと、冒頭の方で言いましたけれども、それと同じような現象マレーシアでも再現されたということですね。その一つは、もちろん一九八〇年代中ごろの日本企業の大量進出によって景気が良くなったということがあるわけですけれども、それを踏まえて、一九九一年にマハティール首相がビジョン二〇二〇、ワワサン二〇二〇、ビジョン二〇二〇という構想を出したわけです。  そのビジョンを出した時点では、これはこういうビジョンです。二〇二〇年までに自国経済先進国並みに引き上げようということだったんですね。年率七%の経済成長をやっていこうと。年率七%だと十年で倍になるわけですから、倍の倍ですから四倍になるということなんですね。  このビジョンを出した当初、いろんな各界から、政治家、経済学者あるいはいろんな人たちから、本当にできるのかいなということを、疑念を持たれていたわけですね。ところが、まあ景気がいいということもあったわけですけれども、マハティール首相がいろんな機会において自分のビジョンを言ったわけですね。このときに、私はそのときはもう既に帰ってきたわけですけれども、このビジョンというのは一般庶民が、例えば二〇二〇年、一般庶民が、そのビジョンが実現したときにどういうふうな自分の生活になるかということを、やっぱりそれを訴えるものがないと駄目だという感じですね。つまり、一般庶民のパッション、熱情を引き出すようなものでないと。  現在、日本の場合は、先ほどの質問ありましたように、新しい産業を作るということで、そういうレベルじゃ、やはり日本国民の一般庶民に訴える何か、これだけ人口が動いていて価値観が多様化して難しいと思うんですけれども、やっぱり一国のリーダーはそういう何かをやっぱり発信しなければいけないんじゃないかというような感じがいたします。  それは、高度成長、ちょうど私、学生時代であって、それからマレーシアに行ったのは社会に出てから行って、その比較あるいは似たところがよく、できたら言っておきたいということで今のことを言ったわけです。  それから、野菜に関する長期展望、先ほどのおっしゃる、私は東京生まれで群馬育ちなんでよく分かりますので。確かに、切って捨てるわけにはいかないわけですね。やはりこれも日本経済展望の中で位置付けないといけないという感じ、先ほど大野参考人が再三再四おっしゃられて、私も完全には。  日本の場合は、農産物とそれから魚介類は世界有数の輸入大国なんですね。日本輸入に占める大体一割ぐらいが食糧及び消費財、一割ですね、そのうちの三分の一がアジアからなんですね。これはもう不可避だと思うんですね。日本国内の事情、それから向こうの、先ほどの中国の野菜戦略じゃないわけですけれども、やっぱりFTA、関税ゼロになったらそういうチャンスも向こう、与えるということですから、もう入ってくると思うんですね。  そういうことを見越して、やはり日本の農業政策、あるいは農業政策を日本経済全般の中に位置付ける、そういうことがないと、いつもその問題、安いから入ってくるからと地域の選出の代議士の先生方を動かしてやると、これはもう利かないんじゃないかと思うんですね。早くそこから卒業しないといけないという感じがいたします。  それから、日韓FTAの場合は、ちょっと勉強不足で申し訳ないんですが、重要であることは分かっておるんですけれども。  日本と韓国の経済構造あるいは貿易構造ですね、やはり先ほど、部品の輸出が物すごく多いんですね、電気機械でも。その部品を加工して韓国は製品を輸出する。つまり、これは輸出輸入という言い方を彼らはしているわけですね。だから、そういう意味で完全に一体化しているという、もう技術上インテグレートしている経済構造だという感じがいたしますね。そういう意味で、韓国もやはり一緒になって恐らく形成されるであろう東アジアFTAに入るべきじゃないかという感じがいたします。
  46. 高野博師

    高野博師君 青木参考人にひとつお伺いしたいと思いますが。  東アジア経済成長というのは、ある意味では日本がバブルをアジア輸出したと、そういうことも言われているんですが、この東アジアの国々というのは日本と同じように経済的に二重構造になっている、構造的な問題がある。すなわち、ITとかハイテクとか国際的な競争力の高い分野と、あるいはそうでない農業、あるいは生産性の低い分野のこの二重構造の問題がある。また、対外依存度が高い。それから、高い貯蓄率を持っている。いずれ日本と同じような不況にぶつかるんではないかという気がするんですが、そこをどう思われるか。  大野参考人には、アルゼンチンの問題というのは、直接的には為替政策の失敗かもしれませんが、あそこもやはり構造的な問題を持っていると思うんですね。対外債務が大きいとか、あるいは財政赤字、あるいは中産階級がインフレで相当没落しているとか、あるいは、基本的に農業国なんですが、投機を相当昔からやっている。構造的にはもう十年前、二十年前と何にも変わっていないという問題があるんじゃないかと思うんですが。これはお答えは要りません。  一つ、対外債務じゃなくて、日本が持っている国債なんですが、アメリカの財務省証券というのは日本は三十四兆円ぐらい持っていると言われているんですが、その半分以上は政府なんですが。これは、外為法の問題もあるんですが、今、日本がこういう危機的な状況にある中で、この国債を売って、不良債権の処理とかあるいは財政再建とか金融危機に使えないものかどうか。  外為法上は問題があるなら外為法を変えたらどうかと思っているんですが、持ったまま金融機関がつぶれていくとか、あるいは日本アメリカの財政を支えるためだけに持っているというような部分がある意味であるわけですよ。これは、もっとうまく使えないかというのが私の個人的な意見なんですが、どう思われるか、簡単で結構です。
  47. 青木健

    参考人青木健君) 東アジア成長日本のバブルの輸出じゃないかという、それはもうおっしゃるとおりだと思います。  むしろ、問題の方は、東アジア経済成長経済というのは、先ほど大野先生から、中国の場合、LDCだといって、正にああいう、ほかのアジアもそうなんですね。  ちょっとまた、マレーシアにいたものですからマレーシアをどうしてもイメージせざるを得ないんですけれども、やはり二重構造なんですね。FTZ、つまりフリー・トレード・ゾーン、自由貿易地域を設定して、そこへ外国企業を呼んでそこから輸出すればいろんなインセンティブを与えるということ、国内経済とのリンクがないということ、これは先ほど申したとおりです。こういう経済を二重構造というわけですね。マレーシアでは、デュアリゼーション・イン・エキスポート・アンド・プロダクト、要するに輸出と生産のデュアリズム、二重構造、あるいはインダストリアル・デュアリズム、工業の二重性と。これはもう彼らも知っているわけです、政府のポリシーメーカーも全部知っている。それをいかに解消したいかということなんですね。  マレーシアの場合、先ほど中国の話も出たと思うんですけれども、そこで、日本企業中心とした外国企業工業品輸出する、それに必要なものを輸入する。工業品輸出すればするほど輸入拡大してしまうということですね。これは対外依存度が高まる。マレーシアの場合、一九八五年以前は輸出入依存度はそれぞれ五〇%なんですけれども、それ以降は、もう今現在一〇〇%ですね。そういう経済体質を持った経済はハイエクスチェンジエコノミーと、こういう言い方マレーシアではいたしております。そういうものの中で、これはマレーシアのみならずタイでもそう、ほかの国でもほとんど大同小異です。そういうような中で、東アジアFTAですね、できるかどうかということが問題になるわけですね。  そういう意味で、制度的に、あるいは協定に基づいてFTAを作ろうとする動きがあるわけですけれども、それを裏切るような構造が、先ほど申し上げましたように、IT世界的な生産輸出基地になることによって、そういう構造、あるいはそういう動きを裏切るような構造ができ上がりつつあるという。それからもう一つは、そういう構造、そういう二重構造だとか対外依存度が高い、不況ですか、なるという。  これが今日のレジュメの左の方の真ん中ぐらいで「幻のアジア経済」という有名な論文があるんですね。これはポール・クルーグマンという当時スタンフォード大学の教授をやられた先生が東アジア経済成長パターンを特定した有名な論文なんですね。これは、東アジア高度成長というのは、これは事実としてあるという。その成長パターンはどうかということを言ったわけですね。行動、つまり生産要素資本投入を続ける限り高い成長率を維持できる、しかしそれが途絶えた場合は失速しますよという言い方だったわけですね。これがアジア通貨危機を予言したということではなく、これは全然無関係の話を言っているわけですけれども、先ほどの、不況で、そういう経済不況になった場合、不況になりやすいということをおっしゃられたわけですが、それはうまくマネージしていけば回避、アジア通貨危機の経験もありますので、それは大丈夫じゃないかなという感じがいたします。  以上です。
  48. 大野健一

    参考人大野健一君) 今、日銀の外準ですか、対外資産を不良債権の処理、特に銀行の資本注入に使えないかというのを今ちょっと考えていたんですけれども、そういうことを考えたことがなかったのでまだ分かりません、よく分かりません。よく分かりませんけれども一つ言えることは、いずれにしても、銀行に資金を注入するということは、それは税金でやらなきゃいけないので、それは回り回ってどこかに国民負担が来るわけで、ただそれを外準を取り崩してやるということは、結局、国が持っている資産構成を変えるということじゃないんですかね。それを国債を発行してやるか、それとも増税してやるか、それとも外準を取り崩してやるかというのは、例えばドル資産をたくさん持ち過ぎていると思うのならそれをやるということはあると思いますけれども、そうでないんだったら、二つ問題を分けないといけないと思うんですね。  だから、どれだけの資金を投入するか、これはどこか回り回ってどこかに国民の負担になることは間違いないと思います。ただそれを、負担になったときに、国債を出して国の負債を増やすという形にするのか、それともドル資産を取り崩す、日銀と政府をくっ付けて考えると。だから、もしドルを持ち過ぎて、ドルが暴落しそうになったのでそれを減らしておくという問題とちょっと分けて考えないといけないような気がするんです。  それ以上は、ちょっと今これ以上思い付きません。
  49. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) 最後になりますが、森元恒雄君。
  50. 森元恒雄

    森元恒雄君 時間が大分迫ってきましたので、端的にお聞きしますけれども。  まず、青木参考人FTAについてお聞きしますが、日本の場合、先ほどから話が出ていますように、やっぱり農業問題が一番ネックになると思うんですね。それでアジアの問題、関係についても中国に一歩後れを取った感があるのは、そこがネックになっていたんじゃないかなと私は思うわけですが、仮に、日本アジアFTAに参加しないとなった場合にどういうデメリットがあるのか。それからまた、アメリカが、やはりアジアがクローズドなそういう経済圏域を作るということについて無関心でいないんではないかと思うんですけれども、仮にアメリカが自分もそこに入れろと言った場合には、それに対してどう対応するのが一番適当とお考えなのか。それからまた、中国がイニシアチブを取りつつありますけれども、それに対して日本が何が何でも日本主導でいくべきであるのかどうか。もしあるとしたら、その具体的戦術はどうするのが望ましいのかというような点についてお聞きできればと思います。  それからもう一点、大野参考人の方には、中国問題は国内問題だと、要するに国内の元気がないのがいかぬと、私も確かにそれはそうだと思いますが、やっぱり今の日本人の多くが抱いている懸念は、やはりかなりの部分が、当面と言うよりも中長期的に見て中国の産業に取って代わられてしまうんではないかということを非常に懸念していると思うんですね。そのときに、その先端部分を日本自らがもっと切り開いていけばいいとか既存の産業について競争力を付ければいいということは、確かに頭では分かっても、そう簡単にはなかなかできないんじゃないかということだと思うんですね。  それで、今までのお話で一つそこが抜けているんじゃないかなと思ったのは、やっぱり日本の場合には進出が非常に多いんですけれども、対外企業が国内に進出してくるのが非常に少ないと。特に中国との関係で、例えばかつて日米間の貿易摩擦があったときに、アメリカが取った措置あるいは日本が取った措置というようなことで、中国との間に同じようなことが起こり得るかということを考えたときに、中国企業日本に出てくるということはまず今のところ考えにくいわけですけれども、そういうようなことを含めてもう少し幅広く対応策というのは考えないといけないんじゃないかなと思うんですけれども、その点御見解をいただければと。
  51. 大野健一

    参考人大野健一君) おっしゃることはそのとおりだと思います。だから私も、国内問題、雇用問題が、あるいは産業を失うというものが大きい問題じゃないということじゃなくて、余りに大きい問題だからやっぱり正面突破で行くしかないというので、私の策はもう申しました。  もうそれ以上、尽きると思いますけれども、それ以上に確かに中国からFDIは今のところ来ないでしょうね。だけれども、まだ、やっぱり分かりません。もう二十年先にどうなるかというようなことを考えたときに絶対来ないとは言えないわけで、やっぱり日本市場というのはかなり市場としては大きい魅力がありますから、中国が売り込み、日本市場のマーケティングをするということは、今は余りなくたって、当然十年二十年のタームで考えたらあり得ることじゃないですかね。  それ以上のことはちょっともう、私はもう申し上げた原則以上のことは申し上げられなくて、何を、産業をどうやって回復するかと、それは政府の作業で政府が選ぶことじゃなくて、政府はそれを、民間がやることを助けるしかないんじゃないですか。
  52. 青木健

    参考人青木健君) 今の件ですけれども、いずれ、今外国企業日本に入ってくるかが少ないという件なんですけれども、何か、外国資本を導入しないで経済発展を成功したのは何か非アングロサクソンで日本が唯一だと。日本は昔から技術導入が好きで、それで自前でやってきたというので、それに近いのが韓国ということで、何かこれは昔というよりつい二、三年ぐらい前ですけれども、ロンドン・エコノミストがそういう発展モードで東アジアモデル型だと、最初から外資に対する警戒心がある。その典型はマレーシアですけれども、東南アジア型モデルだということで、いずれ日本はこの時代の流れが入ってくるんではないでしょうか。  それから、最初の御質問ですけれども、日本が参加しないFTAですか、日本東アジア構造関係貿易構造だとかあるいは投資関係から見てそういう選択肢はないと思います。それをやった場合は、日本がメリットはない、デメリットだけだという感じがいたします。選択肢はないと思います。
  53. 関谷勝嗣

    会長関谷勝嗣君) ありがとうございました。  予定の時刻が参りましたので、本日の質疑はこの程度といたします。  一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、長時間にわたり大変貴重な御意見をお述べいただき、おかげさまで大変有意義な調査を行うことができました。  参考人のますますの御活躍を祈念いたしまして、本日のお礼とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後四時散会