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参考人(畑
明郎君) 大阪市立大学の畑と申します。
資料をお配りしていますが、それに基づきまして説明いたします。
まず、私は、今回の
法案につきましては、本当に効力のある法律にするためにはかなりたくさん問題があると思っております。取りあえず十五項目、附帯決議は衆議院十四項目でしたけれども、十五項目程度挙げさせていただきます。
一つは、
土地とか
土壌というのは、やはり
空気、水と同じように公共の信託財産とやっぱり考えるべきであると思っております。現在の
土地所有者が永久に
土地を
所有するわけでもありませんので、それを
汚染する権利はないと思われます。いわゆる私有財産制を取っておりますドイツの
土壌保護法等でも、
土壌に
影響を及ぼす者はすべて、有害な
土壌変更を引き起こさないように行動しなければならないとはっきり目的の方に義務付けております。やはり
土地所有はいっときですし、
土地は永遠であることを考える必要があると思います。
それから二つ目は、名称が
土壌汚染対策法案となっておりますように、今回の
法案は
防止法ではないと思っております。それも、この
対策も事後の一部の
対策法であると思っております。ドイツやオランダの
土壌保護法では、
汚染の
未然防止等、
土壌生態系の保全などの予防原則を目的にはっきり明記しておりますし、日本の場合、今回の
法案は全くそれは含まれておりません。
未然防止に関しては、
環境省の答弁等によりますと、衆議院のですけれども、いわゆる
水質汚濁防止法等で図ると言われているんですけれども、
水質汚濁防止法の
地下浸透防止の
措置、すなわち
浄化命令につきましては過去一度も発令されたことはありません。
私、イタイイタイ病の三井金属の神岡鉱山の問題をこの三十年ぐらいずっとやっているんですけれども、そのときも亜鉛電解工場の
地下が
土壌・
地下水汚染されていまして、排水口から出るカドミウムよりもはるかに大量のカドミウムがその
地下に、北陸電力の発電用水路は工場の下、
地下十メートルを通っていまして、そこから流れていたわけです、これは裁判後分かったわけですけれども。ところが
水質汚濁法は、ここの場合は鉱山ですので鉱山保安法ですが、これは水路に流れて、
地下水が浸透しているのはこれは排水口ではないと。はるかに排水
基準をオーバーしているんですけれども、
環境省とか、通産省ですか、全く対応しなかったわけです。そういうこともあります。したがいまして、今までの
水質汚濁防止法の
未然防止措置というのはほとんど機能していないと思われます。
それから三番目ですが、先ほども
鈴木先生が言われましたけれども、
土壌と
地下水汚染はほとんどセットというか、同時に起こります。ということで、今回の
法案を見ますと、
地下水汚染防止の視点が非常に弱いと思われます。
地下水の
汚染についても、いわゆる飲料水にしていなければ
地下水汚染については
措置する必要がないと。特に都市部は大多数が水道水源に
地下水はなっておりませんので放置されております。
地下水が
汚染されますと
土壌汚染が更に拡大します。土は動きにくいですけれども、水は非常に動きます。どちらに行くかも分かりませんし。ということで、飲まない
地下水についてもやはり
環境基準を適用して
対策すべきであると思われます。
この一つの事例が、私もかかわっております大阪市此花区の高見フローラルタウンですね。後の
資料の方に付けておりますので、いわゆるUSJの近く、USJも
土壌汚染されていたんですけれども、その近くの大規模団地です。住んでいる団地で、たくさんの人が住んでいるところで初めて
土壌汚染が生じたということでTBSにも紹介されたものです。
それから四番目、ガソリンスタンド等からの油類の漏れですね。これも最近非常に頻発しております。この油類の中にはベンゼン等の発がん
物質も入っております。それとやはり硝酸性窒素類等による
土壌・
地下水汚染も多発しておりますので、やはり
対象物質を重金属とかVOC等のそういう
有害物質に限定せずに、油類とか硝酸性窒素類、そういう
生活環境影響項目といいますか、そういうものも
対象にすべきだと思っております。
それから五番目ですが、
調査対象を第三条で要は廃止された
工場等の
土地というふうに限定しておりますが、やはり
残土の捨て場も含めた、不法投棄も含めて
廃棄物のそういう
埋立地とか軍事基地、軍事基地に関しては最近、日本でも横須賀、それから沖縄、韓国、フィリピン等で米軍基地の跡地等で
土壌・
地下水汚染がたくさん多発しております。そういう基地も含めたすべての
土地を
対象にする必要があると思っております。
例えば東京都の
環境確保条例では、工場・事業場の廃止時のみならず、
土地の改変時、三千平米以上ですけれども、それとか操業中でも
地下水汚染がある場合は
調査させるということになっております。したがいまして、この
対象工場は二万七千と思われますが、工場の廃止は年間七百ぐらいしかないんですね。だから、非常にその
調査の機会も数も少なくなるということです。ですから、この第三条ただし書の、要は工場から工場に変える場合は
調査の必要もないという、こういうことはいわゆる工場転がしになって、いつ
汚染したか分からなくなりますから、やはり工場から工場に転用する場合でも
調査はすべきだと思っております。
それから六番目ですが、第四条の
調査対象なんですけれども、都道府県知事が
土壌汚染によりそういう
健康被害が生ずるおそれがあると認める
土地とされておりますが、むしろその付近の住民等から
土壌汚染のおそれがあるということでそういうことが市町村長に通報された
土地というか、もっと身近な首長の方に連絡があったものについてやはり
調査すべきだと思います。それは操業中の工場・事業場であっても、
廃棄物埋立地、
残土埋立地、軍事基地等も含めて
対象とすべきだと思っております。
それからまた、これは日弁連が提案しておりますが、現在のやっぱり
汚染実態がよく分からないと。
土壌環境センターの推定によりますと数十万か所
汚染されているというふうなことも報告されておりますので、全国の
汚染実態を正確に把握するために、やはり全国
土地履歴
調査とか、
地下水等では一部の県でやっていますが、業種別の工場・事業場
調査等、そういう広く網を掛ける
調査をやる必要があるんじゃないかと思っております。
それから七番目ですが、
農用地土壌汚染防止法は、これは私有地なんですね、農地は。私有地であっても
汚染者負担原則、PPPに基づいて
汚染原因者に費用を、要するに
土壌復元費用を負担させています。ということで、
汚染原因者が不存在、既につぶれた企業とか不明の場合、また負担能力がない場合のみ、基金とか
土地所有者が負担するものにすべきだと思います。あくまでやっぱり
汚染原因者に責任を取らせるべきだと。これは
農用地土壌汚染防止法はそうなっているということです。
それから八番目が指定
調査機関の問題ですが、これもやっぱり指定するんじゃなくて、分析能力のある大学とか、それからまた
環境計量士の資格のある民間
調査機関等でも
調査できるように、自由に
調査できるようにすべきだと思います。
それから九番目ですが、知事が
調査命令、地域指定、
措置命令、
汚染原因者の
特定等をすべて行うことになっておりますが、これは非常に知事の負担も多いですし、むしろ市町村長の方が地域に密着しておりますので、いろいろな
情報も分かっていますので、住民
意見を聴取してこれらを行うように改めるべきだと思います。
また、住民参加の手続が閲覧以外にはほとんどありません。やはり
調査・
措置命令に当たって、住民への
情報公開と住民
意見が反映する、そういう手続の機会を設けるべきだと思っております。
それから十番目ですが、
汚染の除去
措置として、いわゆる恒久
対策である
土壌浄化以外に、ここでは必要かつ合理的な
措置が覆土であるという、はっきりとこの
資料に書かれていましたけれども、こういう覆土とか舗装とか立入り制限、立入り制限なんかはこれは全く
対策にはならないと思います。こういう応急的な
対策はその場しのぎでありますし、やはり覆土というのは
土地をかぶせる、臭いものにふたをするもので、
汚染の問題を、
土壌汚染を将来に先送りするだけであると思います。
また、
汚染土壌を完全に元に戻すとか完全に封じ込めるということは現在の技術では困難であるということを認識する必要があると思います。例えば東京都の六価クロム事件、いまだに六価クロムが、封じ込めたはずの六価クロムが地上に
流出してきているということが起こっています。ということで、やはり
汚染の
未然防止を徹底的に重視しないと
土壌汚染は防げないと思っております。
それから十一番目ですが、国と
関係業界、この基金の問題です。これは日本の場合、これも
土壌環境センターの推定では約十三兆円と推定されていますが、せめて、アメリカのスーパーファンドが約一兆円と聞いておりますが、その程度の規模にする必要があると。わずか十億円では足りないということと、あと、ドイツは現在年間八千億円ぐらいの資金を投入して
土壌浄化をやっております。それを十年間ぐらいやる予定と聞いております。ということで、やはり無駄なダム等の
公共事業を削り、
土壌浄化のように本当に
環境を再生する事業にこそ資金を投下すべきだと思っております。
それから十二番目は、最高百万円以下の罰金の問題ですが、この罰金が安過ぎるということです。例えば、最近言われている日本農林規格、JAS法の
改正案では、個人の罰金は百万円以下ですが、法人の場合は一億円以下にして、一年以下の懲役刑ということで、これぐらいの厳しい罰則を盛り込まないと、罰金を払って
土壌を
汚染したままにするということが起こりかねないと思います。
それから十三番目ですが、
汚染原因者の早期
特定のためには、これは企業の内部告発も含む
情報提供が不可欠であると思われます。企業
関係者の
情報開示を推奨して、その開示者を、ホイッスルブロアですが、保護する
規定を盛り込むべきだと思います。
また、都道府県知事や市町村長は
汚染原因者の
特定に努める必要があるんですが、神奈川県等は衆議院の答弁で一〇〇%、ほとんど
特定できると言っているんですけれども、私は、
資料付けていますが、滋賀県の、住んでおります滋賀県の
地下水汚染の場合、ほとんど
汚染源は
特定されていません。されないままになっております。ということで、この
汚染原因者の
特定についてはかなり市町村長も含めて努力しないとなかなか困難だと思われます。
それから十四番目ですが、これは
省令の問題になりますが、要
措置レベルの問題です。カドミウム、鉛、砒素、セレンを一律一五〇ppmにしておりますが、例えばカドミウムで見ますと、自然界値は〇・五ppmですので、三百倍です。ドイツの
基準は、これ
土地の用途別に一〇から六〇ppmということでなっておりまして、かなりやっぱり日本の
基準は甘いと。もちろん、
土壌の溶出
基準、
環境基準も、
基準自身は私は甘いと思っております。
それから
最後に十五番目ですが、
農用地の、少しちょっとこの法令の範囲から外れるかもしれませんが、
関連ありますので述べますが、
土壌復元工法は、埋め込み客土、これは神通川の場合のみです。田んぼの真ん中に数メーター穴を掘り込みまして
汚染土壌を埋め込む、その上に新しい土を客土するという形なんです。しかし、その他の地域はほとんど上乗せ客土です。
汚染土壌を下に置いたまま、上に三十センチ以上、山の土を乗せるという、こういう方法でしか、要するに
汚染土壌の捨場がないんですね。ということで、水田下部に埋め込んでおりまして、これは恒久的な
対策ではないんですね。百年もつか、五十年もつか分からないんですね。
それからまた、カドミウムの
基準が二重
基準になっています。現在、食品衛生法では一ppm、食糧庁の通達では〇・四ppmになっていまして、これはダブルスタンダードになっていますので、この
土壌復元は一ppm以上にしかやられていません。〇・四から一の間につきましては、いわゆる何か水をたくさん長い間張るとか、石灰入れるとか、そういう対症療法というか、そういうやり方でやられていまして、最近の食糧庁の産米
調査では
汚染米も出ていますし、準
汚染米、〇・四以上のものですね、流通させてはならない米が全国で百か所以上出ております。
そういうことで、現在、コーデックスの方で国際
基準案が〇・二ppmが提案されていまして、日本が反対して遅れていると聞いておりますが、この〇・二ppmに
強化一本化すべきでありますし、この〇・二にしますと、日本の米は五%ぐらい、今回の
資料にも東京都に入っている米、四%ぐらい超えているんですけれども、普通、工場とか鉱山がなければ、〇・一ppmは超えることはありません。〇・一を超えると何らかの
汚染があると見た方がいいんですけれども。
そういうことで、今回の
法案に関しても、やはり
環境基準をベースにして、
環境基準ももっと厳しくする必要あると思いますけれども、覆土のような、臭い物にふたをするような、こういう
措置が増えるようでは、後世に負の遺産というか、ツケを残すだけになると思いますので、もっとしっかりした
法案にしてほしいと思っております。
以上で終わります。