○中島
参考人 中島でございます。
発言の
機会を与えていただいたことに感謝いたします。
レジュメに沿って話をしていきたいと思います。
まず、前提として前置きをさせていただきたいと思いますけれども、
医療は本来、本人のため、
患者さんのために行われるべきものであるということ、これがまず大前提であるというふうに思います。
措置入院等を含む強制入院においても、この視点を忘れてしまっては
医療としての本質を失うことになるだろうと思います。この点を前置きさせていただきまして、本論に入っていきたいと思います。
問題点として大きく二つ挙げました。
一つは、今山上
先生も触れられましたけれども、再び
対象行為を行うおそれというのがこの
法案の一番根幹になっているわけなんですけれども、その判定は不可能です。欧米の研究をもとにしても、真の
対象者より多くの本当は
対象でない者を拘束することになります。
再犯率が低いと考えられる本邦においては、さらに問題が大きく拡大されます。
これについて若干述べていきますが、多数の偽陽性者が生まれるという問題があります。再び
対象行為を行うおそれの判定は、これはもう原理的に一〇〇%行うことはできません。偽陽性、すなわち、本当は解放しても
対象行為を起こさないにもかかわらず、おそれがあるというふうに判定されて拘束される人が必ず生ずるということになります。私は、この
方々が少数であってもこれは許容されないと考えるものですが、実際にどのぐらいの数に及ぶかというのを考えてみます。
英米の研究では、的中率、これは種々の研究によって異なりますけれども、およそ五〇から八〇%といったばらつきがあります。方法によってもいろいろなばらつきがあります。どういう方法でこの
再犯予測を行うかによってもばらつきがありますけれども、どの集団にその方法を適用するか、どういうところを出てきた人、どういう
犯罪を犯した
人たちに適用するかによっても非常にばらつきがあります。このように、英米のように非常に多数の研究があるところでも未確立の問題です。本邦の集団には非常に研究が乏しいという
状況がありますので、これがどのように適用されるのが適切であるのかということが全く白紙の
状態です。
それと、この的中率というのは、非常にわかりにくいんですが、予測がそれだけ当たるということを示しているわけではありません。すなわち、的中率七〇%というと十人に七人当たるというふうに思われるかもしれませんけれども、そうではありません。感受性、特異性が仮に両方とも七〇%だというふうに考えた場合、母集団の
再犯率を二〇%とします。百人の母集団にこのテストを適用すると、百人の母集団で
再犯率が二〇%ですから、実際に
再犯を犯す人が二十人いるということになります。二十人のうち七〇%が正確に判定されるということになりますので、すなわち十四人が
再犯を犯すと予測されることになります。そして、百人のうち八〇%は実際には
再犯を犯さないわけですから、八十人のうち三〇%、一〇〇引く七〇で三〇%が誤って判定されるということになりますので、二十四人が
再犯を犯すというふうに予測されることになります。すなわち、このテストを行うと、合計三十八人が
再犯を犯すと予測されるわけなんですけれども、そのうち二十四人は、実は解放しても
再犯を犯さない人です。六三%、十人に六人は誤った拘束ということになります。
こうした問題は、実際にこのような
制度が実践されている英米等でも非常に大きく指摘されている問題なんです。
精神障害者であっても、その必要がないのに強制的に
拘禁され
治療を加えられることはあってはなりません。
精神障害者が
対象であっても、不必要な強制入院は損害賠償請求等の
対象になります。自発的入院で済む人はそのようにすればいいし、外来
治療で済む人は外来
治療をしたらいいと思います。新
法案では、強制入院の必要がない人を今述べたように多数強制入院させるということになります。
それから、おそれの判定にまつわる別の問題、これは種々の
議論があります。臨床の
現場で経験則に基づいての
判断は当たるか当たらないかの論争が、これはもう活発に行われています。これは
治療効果の判定の難しさを反映します。
そして、あと、
精神病というふうにされると
一般に暴力の
リスクが小さくなるというデータが、これは非常に多数出ています。それから、
再犯の予測因子として幾つかの因子が抽出されていますけれども、
精神病者もそれ以外もこの予測因子の内容は変わらないという研究も多数あります。
精神障害者のみを問題として取り上げることが
合理的な根拠が非常に薄いことを示しています。
それから、母集団の
再犯率が低いと的中率が下がります。先ほどの計算を反復していただければわかると思います。
再犯率は、これもいろいろな計算があるので一概に言えませんけれども、英米では十数%程度というふうにされていて、
日本でも、これははっきりしたデータがありませんけれども、先ほど御
意見をおっしゃった山上
先生たちのグループの
一つの例として七・一%というのがあります。重大
犯罪はもっと低いと思われますけれども、
日本の
再犯率が単純に低いと言うことはできませんけれども、こういうデータからも、
日本の場合には的中率がもっと下がるということが予測されます。
そして、長期を予測しようと思えば、さらに不正確になります。これはアメリカの研究ですけれども、マキシマム・セキュリティー・ホスピタルズという、非常に危険な人であるということで拘束された
人たちが、ある判決が出て九百六十六名が解放されたという事態がありました。その九百六十六名の
方々がどんなふうになっていくかということが非常に注目されたわけなんですけれども、その中で二〇%しか実は
再犯がなかったという研究があります。しかも、その二〇%の
再犯も、大多数は非暴力的な
犯罪であったというような研究があります。危険というふうにされていても、実際には危険でない人が非常に多いんです。しかも、その事実は解放してみないとわからないという、その誤りは解放してみないとわからないという問題があります。
これは、逆に、本来は危険な人を危険じゃないと誤って判定して出された場合には、そこで何か、例えば
犯罪を犯したということがあると非常に大きく報道される、そういうようなことがあることに対比して考えていただければすぐわかると思います
それから、
措置入院の「おそれ」と本
法案の「おそれ」の問題に関して若干触れますけれども、
措置入院における自傷他害のおそれというのと本
法案の再び
対象行為を行うおそれというのが混同して論じられる場合が多いので、それについて若干述べておきます。
まず理念的なことを申しますと、
措置入院は現在の症状に基づくおそれを
判断するものです。
法案は、これは将来のおそれを
判断するものです。それから、実践的な面の問題があります。
措置入院の大半は急性症状の消退とともに解除されています。ただ、現在の
措置入院の判定も、問題がないというふうには私は考えておりません。現行の
措置入院の運用も非常に問題があります。不当な長期入院の報告が少なからずあります。これには、私は
精神医療審査会の機能を強化していくこと、それから実態調査が急務、とにかく急いで、必要な事態だと思います。
それから、ここにオックスフォード
精神医学教科書の記載というのを載せました。坂口大臣が判定可能の根拠としてオックスフォード
精神医学教科書を引かれたと思いますけれども、このオックスフォード
精神医学教科書は、むしろ予測の難しさ、あるいは予測にまつわる問題を真剣に検討したものです。
精神科医が
社会的にそれを求められることについて、
精神科医の側の苦悩を示しているというふうに考えられます。ぜひ、記載を読んでいただければと思います。
問題点の二点目としまして、新
法案では、迅速な
医療が保障されず、また
医療の継続性が寸断されるという問題があります。
(1)としまして、迅速な
治療開始が不能になるということを述べました。時間の関係ではしょりながらお話ししますが、現在では二十三日間という逮捕、勾留期間の中で入院
治療が始められる場合が多いわけなんですけれども、新法では、鑑定入院という二、三カ月の入院をさらに経て、この鑑定入院の期間には本格的な
治療が始められないというふうに私は考えております、
治療開始が遅くなります。
それから、(2)として、退院が非常に困難になるという問題があります。現在でも、例えば私どもの
病院に入院していてその
方々が病状がよくなって退院するという場合に、
精神病院からの退院であるというふうに言うと、非常に退院が難しい、アパートを借りるのが難しいという問題があります。
そして、(3)として述べました、長期フォローは手探り
状態になります。一番病状が重い時期、その時期が一番
治療の取っかかりがしやすい時期なんですが、その時期を鑑定入院という形でみすみす逃すということになります。
(4)でも述べましたけれども、基本的に、今の
法案ですと、うまくいっている実践すらも破壊するという問題になります。
対象行為を行った者に限らず、適切な
精神科医療というのは、適切な人的資源及び
施設の保障に裏打ちされた多様な実践と、それが適切に情報公開されて、選ぶ権利も保障されたところで成立すると思います。それこそがまず実現しなければなりません。詳しくは述べませんが、
日本の
精神科医療はこの
状況からははるかにおくれたところにあります。
本
法案は、本来
拘禁されるべきでない人を多数
拘禁に追い込み、また
治療をかえって悪化させるという問題があります。拙速な
議論あるいは拙速な
制度の構築は禍根を残します。慎重な御討議をぜひお願いしたいと思います。私も、もし必要があれば幾らでも協力する用意があります。
それから、この問題に関して当事者の
方々の御
意見もぜひ聞いていただきたいというふうに思います。我々
専門家も
専門家としていろいろ
意見を申し上げますけれども、例えば退院をめぐるいろいろな問題、
地域でいろいろな苦労をしているというような実態に関しては、当事者の
方々の
意見の方が切実だろうと思います。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)