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佐藤参考人 社会福祉法人あげお
福祉会の
理事長の
佐藤でございます。
私は、三十年近くずっと一貫して精神科の患者さんの治療に当たってきた精神科医として、その傍らで、当然のことながら、患者さんたちの
社会復帰にもかかわる、そういう立場からきょうは
意見を述べさせていただきます。こういう
機会を与えてくださったこと、感謝いたしております。
私は、まず、
精神障害者の置かれた現状と問題点を述べた上で、今後の
就労の問題を少し語らせていただければと思います。
まず、
精神障害という概念規定なんですけれ
ども、これ自体が今回の法案でも定義づけが問題になっておるようですけれ
ども、非常に難しいんですね。医者によって、例えば精神分裂病の概念規定すら、百人精神科医がいれば百様あると言われるぐらい、非常に心のありようというのは複雑ですので、非常に難しいわけです。私自身は、精神の機能あるいは心のありように何らかの故障なり問題を生じて、その結果、
生活に困難を来している方たちを、とりあえずきょうは
精神障害者ということで述べさせていただきたいと思うんですけれ
ども。
そういうふうに考えますと、従来は、
精神障害者というのはおおむね精神分裂病を長く患っている患者さんたちが主に対象となっていたんですけれ
ども、現在、こういう複雑な時代の中で、その範囲は非常に
拡大しているというふうに考えなくてはいけないというふうに考えております。
精神障害者の数は、
厚生労働省の推計として二百万人以上というふうに出されているわけですけれ
ども、これはいわゆる治療を受けていらっしゃる患者さんの数をベースに出された
数字だというふうに聞いております。私自身の感じからいいますと、例えば、非常にポピュラーになりましたうつ病という病気についても、いわゆる内科にかかっている患者さんたちの五%ぐらいはうつ病の患者さんであろうというふうに言われたり、あるいは一生涯に一度うつ病を経験する人の数というのは四割に達するのではないかというようなことも言われております。そのぐらいうつ病というのは、心の風邪と言われるぐらい、非常にだれでもなり得る病気です。それでも、やはり
生活に困難を来すことはよくあります。
それから、パニック
障害という病名も新聞なんかで出ておりますけれ
ども、これも百人に一人ぐらいと言われておりますし、こういう方たちは御自身が困りますから治療を受けるわけですけれ
ども、治療を受けずに、相談にも行けない方たちもいます。一番典型なのが、マスコミにもよく言われておりますいわゆる引きこもりの青年です。
学校にも行かない、あるいは二十を過ぎても仕事にもつけないで家に閉じこもりがちになっている青年が非常にふえて、
社会問題化しているわけですけれ
ども、こういう青年たちの中には、もちろん分裂病の患者さんも多数含まれておりますけれ
ども、そうではない、従来の精神疾患の枠にはくくり切れない方たちがたくさん含まれているように思います。そういった引きこもりの青年たちの数も、これは推計でしかないんですけれ
ども、数十万人から、もしかしたら百万人ぐらいいるかもしれないというふうに言われております。
そのほかにも、いわゆる精神の故障ということではいろいろな形があるわけですけれ
ども、若者に覚せい剤が蔓延してきているんではないかとか、大人の世界ではアルコール依存症というのが、その潜在的な人数は非常に膨大な数ではないかというふうに言われたりしておりまして、現代
社会、何らかの形で精神的な、いわゆるメンタルなケアやサポートを必要としているそういった方たちは非常に多く、多様化しておって、すそ野も広く、人数は膨大なものになるんじゃないかというふうに考えております。
ですから、
厚生労働省の推計の二百万人、二百万人ちょっとという数は六十人に一人ですけれ
ども、それでもまだまだ少ないんじゃないかというのが実感です。
こうした
人たちに対して、じゃ、
対応はどうなっているかということについて述べますと、まず、心の問題は、
一つには治療をして、その後のケアとしての
福祉、いわゆる
医療と
福祉、それから予防としての保健、これが絡み合っておりまして、そこが
知的障害、
身体障害と若干違って、
医療と
福祉、両方が必要とされる分野というのがちょっと違うんではないかというふうに
認識しております。
まず、
医療面でいいますと、最近なんですけれ
ども、新しい抗精神病薬あるいは抗うつ剤の開発等々によりまして非常に治療技術が進歩しておりまして、そういう意味で、従来は治りにくいと言われていた心の病気も大体が治るというふうになってきております。それをベースとしまして、従来問題が指摘された民間の精神病院の治療環境あるいは
医療内容も非常に
改善しておりまして、精神科クリニックの急増、そして、国の方の入院中心主義から外来重視への政策の転換とかいう中で非常によくなってきているというふうには思います。
そして、
福祉面でも、
障害者基本法の中で
精神障害が位置づけられて、精神保健
福祉法の
改正の中でその
社会復帰の
促進がうたわれているという中で、随分
改善は見られてきているというふうに思うんですけれ
ども、ただ、
医療面ではまだまだ問題がありまして、まず、救急
医療がない、それから、小児の精神科に対する
対応は全く不備です。入院
施設もありませんし、小児の精神科医も数少ない。そして、先ほど申し上げましたような、従来の精神病ではない、神経症圏、軽症圏といった人格
障害とか摂食
障害、そういった、ある意味では手のかかる、手間暇のかかる、むしろ青年の病気に対する
対応が非常に立ちおくれております。
福祉面でも、実際には、
医療機関でのデイケア、あるいは
福祉面での作業所や授産
施設等々の
社会復帰の援助、あるいはリハビリテーションによって入院を抑制する、そういう意味では、入院を防止して、
医療費の抑制の効果もあるようなことは実証されてきているんですけれ
ども、それでもまだまだ
社会福祉施設の整備は立ちおくれております。
その原因としては、
一つには、やはり
精神障害者に対する差別とか誤解、偏見がまだまだ地域には強くて、
施設をつくること自体が非常に難しいという
状況。それからもう
一つは、そういう
施設に対する援助がまだ知的、身体と比べて半分以下であるという実情から運営自体が非常に難しい。そういったところから、なかなかその整備自体が進んでいないということが言えると思います。
精神保健
福祉事業が市町村におろされたということによりまして、市町村の格差が広がることが懸念されるわけですけれ
ども、上尾市では、市の方で建物を用意して、私
どもあげお
福祉会の方でその運営を全く任されるという公設民営という形で、授産
施設と地域
生活支援センターがこの四月に始まったばかりです。この公設民営、行政が建物を用意して、運営を民間の方で頑張っていく、これは
施設整備を
促進するための
一つの有力な方法ではないかというふうに考えております。
ただ、そうはいっても、実際に建物ができてもやはりその運営は非常に厳しいわけでして、先ほど申し上げたように、
知的障害、
身体障害と比べて二分の一以下、下手すると三分の一の援助しか得られない、そういう実態をやはり
改善していただかないと、なかなか
障害者の方たちの
社会復帰を援助する活動が効率よく行われないのではないかというふうに考えております。
最後に、
就労の問題ですけれ
ども、通常の
就労は困難であっても、何らかの形で、
就労という形で
社会参加をしたい、そういう
精神障害者の方たちはたくさんいます。それに対して、やはり
事業主側の方でなかなかこたえ切れていない実情があると思うんですけれ
ども、それと一方、既に
就労していてうつ病等々を発症して休職をし、大体よくなったんだけれ
ども、今度、仕事に戻る、復職に至るのが非常に難しいという方たちもやはりおります。
そういう
雇用後の
障害者といいますか、そういった方たちを
支援するためにも、具体的にはいろいろありますけれ
ども、まずは、通常より
負担の少ない形での
就労を考えていただくみたいな形で、柔軟な形での
雇用を
促進する
施策は進めていただけたらというふうに思います。
ただし、こういう
就労へ向けた
支援とともに、それと同時にといいますか、むしろそれより以前に、何回も申し上げますけれ
ども、やはりさまざまなニーズにこたえ切れていない
医療のあり方、そして差別や偏見がまだまだ根強い地域の意識とか、そういった現状を
改善し、そして
充実させていくことがまず求められているんだろうと思います。
自分自身が、私は
精神障害を持っていますということを言えない
社会なわけです。そこからまず改めていくこと、これは
国民に対する啓発活動を初めとして、さまざまな形でそういう差別や偏見をなくしていく活動がまず求められているというふうに考えます。
これをもちまして、私の
意見とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)