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鮎川参考人 世界自然保護基金、WWFジャパンの鮎川です。
WWFは一九六一年に設立された世界最大の自然保護団体です。世界の約四百五十万人と一万社・団体のサポーターに支えられ、
地球規模のネットワークを基盤として、およそ百カ国の国々で
活動しております。WWFは、森林、海水、淡水、有害化学
物質、生物の種の保全、そして
地球温暖化を六つの重点項目として
活動を展開しております。
私は
地球温暖化の担当ですけれ
ども、二十カ国以上の
代表から成る国際チームが結成されておりまして、
京都議定書を発効させること、そして、まず取り組まなくてはならない先進国の
排出削減を実現するために、特に
産業界と手を組むなど、さまざまなプログラムを展開しております。本日はその
観点からお話をさせていただきたいと思います。
温暖化の深刻さが起きておると思いますけれ
ども、この三月、南極大陸の最大級の棚氷が崩壊しました。そして、これは厚さ二百メートルもあるラーセンBという棚氷で、広さは三千二百五十平方キロメートル、東
京都よりも広い、そういった氷が解け出したわけです。これは三十年で起きた最大の崩壊と言われており、過去五十年間に南極周辺の平均気温は二・五度も上昇しているということで、
地球温暖化がもう既に起きているということが言えると思います。
さらに、ヒマラヤの氷河湖は、多くは解けた氷河や雪解けの水を蓄え、洪水を起こしかねない
状況にあるという
報告も、この四月、国連
環境計画、UNEPの方から出されました。
つまり、世界では恐ろしい
地球温暖化の影響がもう既に起きているということが言えると思います。この
地球の温暖化をとめようと、世界の国々が十年以上も話し合った末、ようやく
取り組みの
合意にたどり着いたのが
京都議定書です。これは温暖化を防ぐ唯一の国際協定であり、最も重要で現実的なツールであります。
COP7で具体的なルールやガイドラインが決められ、ようやく批准をできる
段階に来ています。
アメリカがこれから離脱して世界に不協和音を醸し出そうとしておりますけれ
ども、今のところ
京都議定書にかわり得る国際的な
取り組みはありません。
これを発効させ、世界の国々が
実施に
取り組み始めるよう、そして
日本は、
京都という名の当事国として、一日も早くこれを批准していただきたい。批准の承認が十日以降
国会で
議論され始めたと聞いておりますけれ
ども、
京都議定書の批准というのは最も重要で、
温暖化対策推進法改正法案とは切り離してでもこの批准を進めていただきたく、私のきょうの最大の
お願いはこれです。
というのも、
日本で六%
削減は可能であり、
京都議定書批准は
経済的
効果もあるというお話もしたいです。
WWFジャパンが昨年発表しました「
地球温暖化問題解決のためのWWFシナリオ」によりますと、ハイブリッド車、
燃料電池、発光ダイオード照明など、
エネルギー効率の高い最新の
技術を
導入したり、サービス
経済へ移行をしたり、自然
エネルギーの
導入及びCDMやJIなどの
京都メカニズムを
利用することによって、二〇一〇年までに一九九〇年
レベルから一二%まで
削減が可能という結果が出ております。つまり、
日本は
削減しようという政策的意思さえあれば、
京都議定書を批准して温暖化を防ぐための具体的なシナリオを既に手にしていると言えると思います。
また、これも昨年発表したものですけれ
ども、「
京都議定書批准は
経済的損失をもたらすか」という
報告がありますが、これは、
日本は炭素
削減という
規制の中では、これを受け身ではなく積極的にとらえ、
技術開発に投資を行い、その結果付加価値率を上げ、GDPを九五年から四百七十三億ドル、約六兆円も上げることができる。
企業は
エネルギー高価格に反応して新製品の
開発や
省エネルギーなどの革新に積極的に
取り組み、その結果、
産業構造は脱
エネルギー化に向けて変化していきます。
日本はこうした活躍をしてこそ
温暖化対策の世界市場をリードするようになれるはずです。
また、
京都議定書発効を支持する
企業の署名を集めるエミッション55という
運動があります。これはヨーロッパ発の
運動で、ドイツテレコム、クレディ・スイス、ヌオン電力会社などが中心になっておりますけれ
ども、既に世界から百六十五社が署名をしております。
日本からも、リコー、富士ゼロックス、キヤノン、セイコーエプソン、京セラ、ナットソース・ジャパンなどを含む二十五社が署名しております。こうした
企業は、
京都議定書を発効させ、脱炭素
社会を目指すことが、世界にとっても、そして自分たち
企業にとっても必要で、新しい
産業、雇用を生み出すビジネスチャンスととらえているわけです。
以上述べた
観点からすると、
地球温暖化対策推進法改正法案は、
改正の姿勢については
評価いたしますが、いわゆる善意や
国民運動などによる努力
目標だけで、
各種規制や税制政策などの具体策については中身があいまいなものになっています。批准を
機会に、
日本が
京都議定書を担保するための強力な
施策を備えた抜本的
改正を行うことを望んでいたのですが、本
改正案では
京都議定書を担保するための
法律として見直すべき
改正が十分に行われていないと認識され、非常に残念です。
今
国会での審議では、批准の承認を確実にした上で、時間の許す限り十分な審議をし、可能な限りの修正などをして強化していただけるよう、本日は、次の点を中心に
お願いしておきたいと思います。
第一章の「総則」、これは「的確かつ円滑な
実施を確保すること」とありますけれ
ども、ここの部分は、
京都議定書の
目標達成を確保することとするべきです。全体的に、
京都議定書の
削減目標を
達成するための政治的意思が感じられるものとしていただきたい。
次に、
温室効果ガス排出量及び吸収量を算定し、これを公表するとありますけれ
ども、これは、実質的な
削減を行い、
京都議定書の
目標達成及び
京都メカニズムの運用の基盤となるものであり、これを確実なものにするためには、
排出源ごとのデータの把握が必要であります。どのくらいの
排出量を
削減したかを見るためには、もととなる
排出量がベースにあって初めて計算できるわけです。
地方公共団体や民間団体が
削減の
実施状況を把握するためには、
事業者等の現状の
排出量を把握することが必要であり、これが
京都議定書目標達成の第一歩であります。
例えば、このたび佐川急便が、WWFが行っているCO2
削減プログラム、クライメート・セイバーズに
参加することになり、覚書を取り交わしたんですけれ
ども、これは、
企業の
自主的取り組みを第三者認証機関が認証するプログラムです。
削減目標を掲げるために、
排出の現状データを把握してベースラインを設定し、これを第三者に認証してもらうことになったんです。これこそ、
企業の
自主的取り組みを客観的に
評価し、透明性のある確実なものにする試みです。このような
取り組みがもっと幅広く行われるようになれば、
企業の
自主的取り組みも数量的に
意味を持ち、
京都議定書達成の基盤ができるはずです。
第二章「
京都議定書目標達成計画」、ここで
計画の中身は何も書かれていません。しかし、
京都議定書目標達成計画の
策定に当たっては、
温暖化対策推進大綱を基盤とすると
大綱には書いてあります。そのため、
計画は、
大綱の問題点をそのまま引き継いでいることになります。
以下、その問題点です。
国民の
合意形成。
大綱は
基本的に
政府部内で
検討、決定されたもので、
国民の
参加がありません。
国民の
合意のもとでないと、
温暖化対策は
推進できないわけです。
合意形成のための
仕組みをつくるべきです。
それから、現状維持というだけの第一
ステップでは間に合いません。既存の
取り組みのもとでの
温室効果ガス排出量は、既に一九九九年で九〇年
レベルから六・八%
増加しています。CO2だけでいえば九%の増大で、二〇〇四年までの第一
ステップで、今までと変わらず各
主体の
自主的取り組みを中心としているような
状況では、結局、この大幅増大傾向をとめることはできないのではないでしょうか。その結果、
対策の
実施がおくれ、
目標達成がより困難になると思われます。
第二
ステップはどうするのでしょう。第一
ステップで
温室効果ガス排出量が減少
方向に向かわなかった場合、第二
ステップからどんなシナリオでどのように対処するつもりなのか、
社会全体として今から
対策、
施策を考え、準備しておかなければならないと思います。特に、炭素税
導入とか国内
排出量取引など、今までとは異なった、今までにない抜本的な政策が必要であることを今認識する必要があります。
国民各界各層の努力には、これは
国民運動だけではなく政策的支援が必要です。これは、
国民各界各層の努力に一・三から一・八%を
大綱では充てておりますけれ
ども、
国民運動的なものだけでは実現が難しく、こうした努力を数値化して
削減量として見込むことは実効性が乏しく、
京都議定書目標達成のためのツールとしてはならないわけです。これは単なる努力
目標にすぎないので、もっとちゃんとした政策支援のもとにこれを行わなくてはならないと思います。
それから、
京都メカニズムをきちんと使う具体的な
仕組みを構築しておく必要があります。
京都メカニズムというのは、何もしないで浮いてきたロシアのホットエアなど問題も多いんですけれ
ども、きちんと使えば、途上国へクリーンで持続可能な
発展に寄与する
技術と資金の移転が行われるメカニズムでもあります。途上国はこのメカニズムを通して
京都議定書に
参加するわけですから、その
意味でも多くの民間
企業がかかわるよう、民間
企業がかかわると得をするような
参加インセンティブのある
国内制度を構築しておく必要があります。本
改正法案では、こうしたことが確実になるような条文が入れられることを期待しております。
最後に、森林吸収源の問題をお話ししたいと思います。
森林吸収源の問題は、
京都会議以降の最大の難問であります。
京都議定書に入れられてしまったものの、樹種により、また樹齢により吸収量が異なり、データが不確実であること、また、山火事や病虫害などにより、吸収側から
排出側に回りやすく、永続性がないこと、そして、自然吸収量に比べ人為的な
活動に基づくものは計測しにくいことなどから、
環境NGOとしては、吸収量は最小限にすることを求めてきました。条約交渉の場でも、吸収源の取り扱いをめぐってはけんけんがくがくの
議論が展開され、二〇〇〇年の
COP6はこれが原因で決裂してしまったほどです。
その問題の森林吸収量を、
日本としては、ブッシュ米大統領が
京都議定書から離脱したおかげで、例外的措置として本来なら計算できないものまで計算してもいいと、千三百万トンまで認めてもらったわけです。
大綱で掲げている三・九%の吸収量というのはそういう数字であります。
それでも、これを
機会に
日本の森林を整備し、再生が図られるのであれば、それ自体は悪くない。しかし、新しい政策措置もなく、現状程度の
水準で森林整備、木材供給、
利用等が推移した場合には、二・九%程度の吸収量しか見込めず、大幅に三・九%を下回ると言われております。このように不確実で実現が難しそうな三・九%分をあらかじめ計上することは、
目標達成を極めて危うくするものであります。
いずれにせよ、
日本の森林が価値あるものだと認識を新たにし、真に追加的で人為的な
活動を行い、林業が
産業として成り立つような基盤を人材確保も含めて整備する必要があります。国産材の
利用を広げるために、公共施設や新規住宅などで国産材を一定割合
利用することを建築基準で決めたり、
バイオマス
エネルギーを発電や熱源として
利用を拡大し、もうかるビジネスとなる林業を確立しなければなりません。
さらに、森林の質的側面をあわせて
検討すべきです。持続可能な森林の管理、経営へ向けての明確な展望と具体的な
実施体制をあわせて示していただきたいということで、WWFとしてのお話を終わらせていただきます。(拍手)