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加藤参考人 構想日本というネットワーク型のシンクタンクを主宰しております
加藤でございます。
既に今、
大塚、
村岡両
参考人からこの
法律についての
お話がありました。私は、
法律の
専門家ではありませんので、
法律そのものではなくて、この
法律ができると
関係者あるいは世の中の人たちはどういうふうに動くかな、その結果どんなことが起こるか、あるいはうまくいくかいかないか、そんなことについて、当たり前に考えられることを
お話ししたいと思います。
言うまでもございませんけれども、私たちの
環境というのは、これは雑な言い方ですが、大きく分けまして、空気とそれから水、それに土ということだと思います。この中で土だけ今まで
汚染についての
規制がきちんとできていなかった。それはなぜかということについては、先ほど
大塚先生、
村岡先生から
お話があったとおりであります。そういう
意味では、今度この土についてきちんとした
規制の枠ができる、これは大変にいいことだと思います。
私も、本来、
環境省については大いにシンパであるつもりでして、大変結構なことだと思いますけれども、ただ、かなり問題があるのも事実ではないか。それは、その中身です。その中身についても、もう既にこの
委員会でいろいろ御
審議されていると聞いております。私は、今
二つ申し上げたいと思います。
一つは、
調査と
情報開示、これがすべてのスタートだということです。かぎは、
汚染の
可能性のある
土地あるいは土については全面的に
調査をするということ、そしてその
調査した中身についてはなるべく詳細に
情報公開をするということ、この二点に尽きると思います。
しかし、残念ながらこの
法案では、例えば
原則として工場の操業を廃止したときといったような、
調査の
契機が極めて限定的になっております。
それからもう一点ですけれども、その
調査した中身、それの
情報の出し方ですけれども、これは
地表面の概況
調査を行って、そこで
汚染の疑いが強いとなれば、そこは
汚染地の
指定がされます。それは、いわばシロかクロかということを世の中に発表するということになります。
この二点の問題についてですけれども、まず、シロかクロかということになると、やはり普通の、ここは先ほど申し上げました世の中の人はどう対応するかということなんですが、シロかクロかと言われると、往々にしてマスメディアというのはこういうときにはあおりがちな、そういう報道をしがちであります。今までもそういうことは多くありました。その結果、特に資力のない中小企業などの場合には、これはクロになると大変だと。
調査をしないといけない。お金もかかる。あるいは、さらに
浄化しないといけないかもわからない。売ろうと思ってもこれは買い手がつかないかもわからない。そうなると、あらかじめ操業を廃止する前に表面をきれいにして、それであたかも何も
汚染がないかのようにして、それで売ってしまおう。これは、私は、特別に悪い人でなくても当然の人情ではないかなと。よく性善説あるいは性悪説というようなことが言われます。しかし、私はどちらも違うんではないかな、むしろ性弱説ではないかなと。人間とは、私なんかはその典型ですけれども、弱いものですから、やはりこっちの方がお金がかからないなと思ったらどうしてもそっちの方に行く。これは、それを責めてもしようがないんではないのかな。
私も霞が関で二十年余り仕事をしてまいりましたけれども、やはり霞が関の中だけ、あるいは
法律のことばかりやっていると、ひょっとしたらそういう世間の人の動きがわかりにくくなるのかもわからないなと、私もやめてようやくそういうことが少しわかるようになってきたのかもわかりませんが、この
委員会で御
審議いただく国
会議員の先生方、皆さんその辺は最もよくおわかりだと思います。ぜひ、世の中の人たちの機微、これを勘案した上で、今の点についてぜひ十分な御
審議をいただきたいと思います。
この
法案をつくるに当たって、作成の担当省である
環境省の方、恐らくいろいろなことを御
検討されたんだと思います。例えば、今私が申し上げました中小企業にとって負担にならないかとか、あるいは地価に悪い
影響が及ばないかとか等々を配慮した、あるいは配慮せよとの力がいろいろあった、そういう結果こういうことになったのではないかと思います。
しかし、私は逆に、いろいろな例を見てまいりますと、抜け穴が大きければ大きいほど、あるいは小出しにすればするほど問題は裏に潜って、結果的には悪い結果になる。そのことは、薬害エイズであっても不良債権の問題であってもあるいは狂牛病であっても、問題の中身は違っても同じような結果をもたらしている。ここは、やはり十分に注意をする必要があると思います。
そういうことを考えますと、私は、
最初に申し上げましたとおり、望ましいのは、全面的に
調査を行って、それをなるべく丁寧に詳しく世の中に出していくこと、そのことに尽きると思います。
土地にはいろいろあるんだ、例えば、道路に面している、あるいは日当たりがいいとか悪いとか、水はけはどうだこうだ、そういうことと同じように、その
土地にある土についても、こういうことで少し汚れている、あるいはここはこんなことで相当に汚れている、
浄化しないといけないぐらい汚れている、そういうことが当たり前の
情報として世の中に出回ることが、むしろ逆に最も健全なことであって、いわゆる風評とか、あるいはその結果としてのパニックを起こりにくくする。それで、結果的にはそれが
土地の流動化にもつながる。あるいは、これは小泉内閣の大きい柱でもあります都市の再生あるいは経済に対するプラス効果にも必ずつながるものである。逆に、それを恐れて限定的なものにすれば、必ず逆効果になるのではないか、そんなふうに思います。
この点については、私も必ずしも
専門家ではありませんが、随分いろいろな方に伺いました。ディベロッパーのような
土地の流通にかかわる
専門家は、大体一様に、きちっと
情報開示をしてもらった方がいいということを言っておられました。
二番目の点であります。これは、
土地と土ということです。
土地が
汚染されているということは、同時に、そこにある土が
汚染されているということです。それで、
土地は動きませんが、そこにある土は動くわけです。
これはたしか政策投資銀行の
調査だったと思いますが、二〇〇〇年で、いわゆる建設残土、建設
発生土という言い方もするようですが、これが年間五億トン
発生するようです。それで、これもこの方面の
専門家に伺いますと、その建設残土の多くが、山、山間部の谷合い、あるいは農地を埋め立てるのに使われているということです。
これにつきましては、私が用意しました資料の五ページに、なかなかないものですから、少し古い絵を入れておきました。これは、営団
地下鉄八号線ですから、たしか有楽町線かと思います、ここで掘り返された土がどこへ行ったかというものを、矢印と数字、その行き先、地名で示したものであります。多くは、当時の埋立地、例えば夢の島なんかに行っております。今では埋め立ては随分減っておりますから、かなりの程度、これはむしろ海ではなくて山の方に行っているわけです。これは営団
地下鉄という半ば公的な機関についての
調査ですから、かなり行き届いた
調査ができておりますけれども、これは非常に例外的なものだと思います。これを見ても、随分広範囲に広がっております。
これが日本全国で行われるわけですし、現在ではむしろ山の方に行っている。そうなると、もしこの中に
汚染された土がありますと、ではどうなるかということは大変に心配になります。ましてや、谷あるいは農地に行った場合には、数年たって、それが我々にとって、例えば農地の場合には、そこでつくられた作物を経由して体の中に入ってくる、その
可能性というのは決して小さくはないのではないか。
私は、この
法律において、土が移る、どんどん捨てられて、あるいはどこかに持っていかれて使われる、場所を変える土についてどうするかという視点が全く欠落しているということも非常に大きい問題ではないかと思います。これについても、数年たって、何か問題が出てきてからでは遅いわけですから、ぜひとも十分な御
審議をいただきたいと思います。後から、あのとき、こういうことについてきちっと十分
審議が行われたのかなということのぜひないようにと切に願っております。
何しろ、この
法案の見直し
期間というのは、十年という、今どきちょっと珍しいぐらいの長い
期間ですから、十年たって見直すのでは、これは全く遅いのではないかと思います。
ちなみに、
一つ、これは新聞で私は見たことなんですが、土の輸出をしてはどうか。例えばマーシャル諸島のような、まさに地球温暖化の結果、どうも水位が上がって、国がひょっとしたらどんどん減って、消滅するかもわからないという心配をしている島嶼国があるわけですね。そういうところから、日本で掘り起こされた土を輸出してほしいという依頼がある。それに対して、国あるいはその大きい土の提供者である東京都は、どうもためらっている。なぜためらうかといいますと、そうやって土を輸出したときに、もしその土が
汚染されていた場合には、いわゆる有害
廃棄物の輸出を禁止しているバーゼル条約にひっかかってしまうのではないか、こういう新聞を見ました。
これは新聞記事ですから、どこまで正しいものかわかりませんが、バーゼル条約を気にしてなかなか輸出できない、そういうことをためらっているということがある一方で、国内なら有害な土がどんどん移ってもいいではないか、そんな判断をしているとは私はまさか思いませんが、こういう記事が、これは一九九六年ぐらいから何回か見られます。
先ほど申し上げましたけれども、
法律ができると、その
法律に
関係する人たちは、その
法律に対応して、自分がそこで不利なことのないように必ず行動します。そうしますと、やはりこの土についても、では早目にどこかに持っていこうかという
行為が出ないという保証は全くないのではないかと考えております。
それから
最後に、これは少しつけ足しであります。これも最近、全く別な話ではありますけれども、時々新聞の記事にありますが、今の会計
基準で時価会計をどんどん採用しております。もうこれが国際会計
基準になりつつあるわけですけれども、これが不動産、
土地についても及んできているわけです。
土地についての時価会計を導入しようとしますと、これはどうしても、その
土地の
状況、
土壌汚染を含めて、その
土地がどう評価されるかということがきちんと
調査されないといけない。この国際的な会計
基準に合致するかどうかということも、これは経済の面から見ますと非常に大きい要素です。ようやく日本の金融資産については時価会計が進んできたわけですけれども、これは保有する不動産についても同じことが言える。その面からも、十分な
調査を行って、詳細に発表することが不可欠になりつつあると思います。
それから、もう
一つつけ足しでありますが、これは、私もかつて役所にいたものですから、余り言いたくないなという気持ちがあるのですけれども、この
法律、全部で四十条ほどありますけれども、残念ながらその半分ほどが、
指定機関、
指定調査機関あるいは支援のための機関の
指定に関する事柄に割かれております。
私は、この
調査機関を国が
指定するというのは、これは、いわゆる構造改革、広い
意味での
行政改革に当たると思いますが、あるいは
規制緩和、そういう流れにどうも反するのではないかな、こんな感じがしております。ほかの面で、例えば公益法人に対する委託業務はどんどん減らしていこうとか、そういうことを含めて、
規制緩和あるいは
行政改革が進んでいるときに、
調査する機関を
指定するというのは、これはどんなものかな。これについても、やや論点が違いますけれども、やはり構造改革あるいは
規制緩和、
行政改革といったことについては、これはすべての
行政に関して常に注意をしておかないといけない点ですから、つけ足しではあると思いましたけれども、申し上げました。
以上で終わります。(拍手)