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佐藤道夫君 何か法治国家のリーダーにふさわしくないことを平気でおっしゃいますね。証拠なんか何だ、
アメリカは困っている、やれやれと言っている、それに協力しているだけだと。これはまさしく、さっきから何度も言っているやくざの論理ですよ。やくざが証拠なんて考えることはありませんからね。やれやれと言うだけの話であります。やっぱりどんなにつらくても証拠というのを一歩一歩踏み固めて前進していく、これが法治国家というものでありまして、これが
テロだろうが外国の勢力だろうが同じことです。悪いのはあいつらだ、証拠はこれだけある、だからやつらと、あいつらと交渉しようと。そうだそうだということで国民がついていく。
今、
アメリカがやっているのは、何しろ
事件が起きたらわずか二日後に、あいつの犯罪だと。
ブッシュ大統領に至っては、もうかくまうやつだって同罪だと。こんなことを平気で言わせておいていいんだろうか。第一次大戦の終息の際に国際連盟をつくって、話し合いの場というのを設けるようにしたのは
アメリカ。第二次大戦後、国際連合をつくって、この場で話し合っていこう、力の解決はもういいかげんにしようやと、こう言ったのも
アメリカ。その
アメリカが、自分の顔を殴られたと思ったらもう血相を変えて飛び出していって、けしからぬけしからぬと、それだけじゃないですか。おかしいと思いませんか。
それから、これも法律家とすれば放置しておけない問題なんですけれ
ども、オサマ・ビンラディン、あれの国籍は今アフガンなんですね。だれでもが、いやサウジアラビアだと思っておりまして、私調べましたら、九四年にサウジアラビアから除籍されまして、九八年にアフガンに入籍している。アフガン人なんですよ、あれは。これは
外務省にも確かめて、間違いないことですからね。
それで、国際法の大原則と言ってもいいんですけれ
ども、自国民は引き渡さない。外国が、おまえのところのあいつがうちの国に来てこんな悪いことをしていて、引き渡してくれと。これは、
日本と
アメリカは特別ですけれ
ども、ほかの国が言ってきたって引き渡さない。そんな国に渡したら、日ごろ保護している国民が本当に残虐な刑罰に遭うだろう。できたら証拠を見せてくれ、自国で裁判をすると。あるいは、非常に軽微な罪だったら、もうこんなことはいいじゃないかと。いずれにしろ、自国民は引き渡さないというのがもう何百年来の原則だと、こう言ってもいい。それが、平気な顔をしてアフガニスタンにあいつを引き渡せと。アフガニスタンに、こんなことは知っているはずですから、そう言っているわけですよ。おかしいと思いませんか。
それで、
日本はかつて生麦
事件というのがありまして、薩摩の大名行列を横切ったイギリス人をお供の侍が一刀のもとに無礼者と言って切り捨てた。イギリスはもう本当に烈火のごとく怒って、東洋の野蛮国は何たることをやるんだ、行列をちょっと乱したぐらいでその場で殺してしまう、許しがたいことだ、すぐ犯人を引き渡せと、こういうことになったわけです。薩摩に法律を知っている人がいたんですね。薩摩藩士を引き渡すことはできない、その処分はこちらで考えると。イギリスは、何を生意気なことを言うか、薩摩なんかに法律があるわけがないと言って、軍艦、大艦隊を派遣して鹿児島城下を焼き払ってしまった、それでも薩摩藩は引き渡さなかったと。そして結論はどうなったかというと、イギリスがまず、東洋の地の果てにこんな立派な人たちがいたのかと、幕府なんというのはもうへいこらへいこらするだけですから、もういいかげんな、相手にもしない。ところが、自分の主張をきちっと貫く、城下町が丸焼けになっても犯人は引き渡すことができない、そういうきちっとした人たちがいたんだということで、イギリスは幕府と手を切って薩英同盟を結んで、これが維新の原動力になったわけですよ。
筋を通すということは、それだけアングロサクソンたちは評価するわけですよ。なるほど、
小泉総理なる者はきちっとしたことを言っている、そのとおりだと、我々ももっと考え直そうかというぐらいの気持ちをいつも持っているんです、あの民族というのは。少々の悪口だって筋が通っておれば、ううんと言って考え込むのが彼らなんですよね。もうそういうふうに自国民は引き渡さないと。
あの第一次大戦だって、オーストリアは形だけ引き渡してくれと言った、もちろんセルビアが渡さないことは知っているんですけれ
ども。セルビアは、いや、それは渡せません、国際法の大原則です、自国で裁判しますとはっきり言ったわけですよ。そして、オーストリアが生意気なと言って、当時ゲルマン民族から見たらスラブなんというのは本当の野蛮人ですからね、裁判ではろくなものをやっていないに違いないと、こう思って攻め込んでいったら、向こうも立ち上がって、しかし、第一次大戦のさなかにきちっと裁判しているんですよ、セルビアは。そうして、
テロリスト八名中三名を死刑にしているんですよ。自国民ではあるけれ
ども、あんな悪いことをしたやつは生かしておけないと。残りの者は無期懲役。
ゲルマン民族が野蛮国、野蛮国と言って軽蔑してきたスラブ族、それだけのことをあの当時やっていたわけでありますし、生麦
事件の際も、薩摩藩は最後にあの下手人である侍に切腹をさせたわけです、武士の誇りを一応維持させまして。それだけ、野蛮国、野蛮国と言われて軽蔑されている人たちだって、物事を考えて対応をしてくる、これが人類の長い間の知恵が築き上げてきたことでありまして。
ですから、アフガニスタンに対して引き渡せと言っても、自国民ですから引き渡せません。
アメリカに引き渡したら、多分
アメリカ人は今頭に血が上っていますから、すぐ死刑にしろぐらいのことを言い出すでしょう。そういう国には渡せません。しかし、自分の国に裁判制度、私もよくわかりませんけれ
ども、多分ないんでしょう、法律云々、そういうものはないんでしょう。そこで百歩譲って、第三国に引き渡しましょうと。
なぜそれを
アメリカは受け入れないのか。あんな野蛮国の言うことを聞いていられるかと、自分がどれほど文明国だと思っているのか、本当におかしいと思いますよ。なぜ、十歩、二十歩、いや百歩も下がって、そうか、じゃ一応話だけは聞いてみようとか、あるいは国連にお願いして国連に聞いてもらおうとか、裁判をするにしてもどの国がいいのか、そういうことを真剣に議論するのが、私、文明国の責務だと思うんですけれ
ども、どこの国のどのリーダーもこんなことを言っていないでしょう。
アメリカの言うことはもっともと、もっともっとがんがんやれ、そしてタリバン後を考えろ、その方が手っ取り早いや、あんな野蛮人
どもはもう抹殺してやれと、こんなふうに首相も思っているんじゃないですか、本当のことは。そう言いたくもなるわけです。
私、言っていることはごくごく当たり前のことで、ちょっとした法律家に聞けば皆このことを言います。引き渡し、それは無理です、絶対渡すことがありません。じゃどうするか、あの国に裁判やらせるのかと。いや、やっぱり第三国でも選んで、そこに送らせてそこで裁判をする、きちっと弁護人もつけて本当に正式な手続で裁判をやる。私、頼まれればまた弁護人をやってもいいんですよ、私も忙しくないものですからね。
いずれにしろ、近代法治主義というのはそういうことなんですよ。そういうことを築き上げてきたのが
アメリカであり、イギリスであり、ドイツである先進諸国。その先進諸国が今束になって、アフガンけしからぬ、やっつけろやっつけろ、あんなやつは皆抹殺してやれと、こう言っているわけでしょう。人民に危害は加えていないと言ったって、随分何か人民に被害が出ているじゃありませんか。それは当然でしょう。あれだけの空爆をやれば、その被害が周辺にいる人民にも及ぶ。
一人の命は全地球よりも重いと、こう言われております。なに周辺にいたアフガン人の一人、二人何でもないやというのが我々の感覚なんでありまして、大変私、納得できない。いかがでしょうか。──私、こっちの方に聞いているんだよ。