○植田
委員 社会民主党・市民連合の植田
至紀でございます。
今回の
刑法改正にかかわりましては、私どもも賛成という立場でございますので、基本的に、そういう
意味では中身、内実を補強するという
観点で何点かお伺いをさせていただきたいと思っております。ただ、私自身、
立法動機等々幾つかお伺いしたいこともあったのですが、今回の法案はかなり長い審議時間が保証されておりまして、できるだけ重複は避けながら、私の問題解説を入れながら幾つかお伺いしたいと思っております。
ただ、その前に、質問の中身に入る前に、やはりこういう案件にかかわってくると、いわゆるテクニカルな、法案の技術的な話等々もさることながら、やはりこうした今回の
刑法改正にさまざまな形で思いを寄せておられる方々の思い、心情というものをこういう場でも共有化していきたい。これは
法律の中身に直接かかわる話ではないだろうけれども、やはり人を守っていくというのが
法律である限りにおいて、そういうこともこういう場で共有化していきたいなという思いもございまして、たまさか実際の当事者の方からメッセージをいただきました。
「
刑法改正の審議に寄せて」ということで、千葉市にお住まいの
井上保孝さん、郁美さん御夫妻から、やや長いわけですけれども、こういうことを御紹介するということも、ひとつ審議の中で意義もあるだろうということでちょっと御紹介をさせていただきまして、その中身をお聞きいただきまして、
法務大臣の思いなり、また御見解なり御決意なりというものを聞かせていただければと思います。お二人からいただいたものでございますが、
私達は一昨年十一月に、東名高速道路上で
飲酒運転の大型トラックに追突され、後部座席にいた三歳七カ月と一歳十一カ月の二人の娘を焼死させられました。同乗の
井上保孝も大やけどを負い、計五回の手術を受け、退院したものの現在もリハビリに通っています。
この
事故の
加害者は、十数年も前から
飲酒運転を常習とし、この日も高速道路上で昼食時にウイスキーと缶入り焼酎を大量に飲んでわずか一時間の仮眠を取っただけでハンドルを握った挙句の
事故でした。その
加害者が逮捕され、
起訴された罪状は
業務上
過失致死傷罪と道交法違反(酒酔い
運転)でした。私達が大いに疑問に思ったのは、高速道路上で昼間に大量の酒を飲んで
運転して
事故を起こすのがなぜ「
過失」なのかと言う事と、これほど悪質なのになぜ業過の法定刑がたった「五年」なのかと言う事でした。にもかかわらず、検察庁の求刑五年に対して地裁の判断は、被告人にも
情状を認めて、さらに一年刑を軽くした懲役四年の実刑判決でした。量刑が軽すぎるとのかどで、検察は異例の控訴に踏み切ったものの、この判決は、結局、高裁でもくつがえりませんでした。高裁の判決文で、裁判長は、「もし
国民感情の中に、交通事犯の量刑が軽いという意見があるとすれば、それは
立法で検討すべきである」という異例の所感を述べました。司法の自らの判断については何ら変えようとせずに、量刑が軽いのは
立法の責任と、責任をたらいまわしするこの言葉に私たちはさらに傷つきました。
ちょうど私たちの
事件の一審判決が下りる直前の昨年四月、神奈川県座間市で、友人と歩道を歩いていた大学生二人が、後ろから百キロを越える速度で走ってきた無免許、無
保険、無
車検の車に撥ね飛ばされて二人とも即死するという
事件がありました。そして、その
事件で、大学に入学したばかりの一人息子を亡くした母親が、今の
法律は命の重みを反映していないと法
改正を訴えて立ちあがった事を知りました。造形作家の鈴木共子さんでした。私達は、鈴木さんと共同して、「悪質な交通事犯には厳罰を」と法
改正を訴えて署名活動を本格化させ、街頭署名も行い、広く一般の人々にも呼びかけました。その後、署名活動は、だんだんと熱を帯び、賛同する仲間も増えていきました。東京の町田を皮切りに、千葉、大阪、上野、浜松、長崎、盛岡と、同じように悪質な
交通事故で最愛の
家族を亡くした人たちが大勢、街頭署名に参加しました。最後までこの運動のための組織は結成しませんでしたが、本当に悔しい思いをされている
遺族が個人個人の意志で協力してくれました。各々が、切々と、今の法が悪質な交通事犯に対しては甘すぎる、軽すぎることを広く訴え、声を挙げていったことで、
遺族でない何万名もの方にも署名運動に協力いただき、国の基本法をも変える大きなうねりとなっていったのです。
私達の東名高速での
事故を知っている一般の人は多く、「あれほど悪質な
事故の
加害者でもたった四年の懲役刑にしか処せられないという、今の
法律はおかしい」という私たちの意見に同意して泣きながら署名をしてくれた人がたくさんいました。また、無関心に通り過ぎようとしている人たちに、私達があの東名
事故の
被害者である事をマイクで話し掛けると、「あぁ、あの
事故の…」と思い出して、わざわざ戻ってきて、「私もずいぶんとあの判決に腹が立って何か私なりに意思表示ができないかとずーと思っていた」と言って署名してくれた上に、何枚も署名用紙を持ち帰ってくださった方もいました。
このようにして、先月末までに合計三十七万四千三百三十九名の署名が国内外から集まりました。これらは、歴代の
法務大臣に四回にわたって届けさせていただきました。その都度、大臣からは、前向きな対応を示していただきました。保岡前々
法務大臣は、「
厳罰化の方向で検討する。そのために諸外国に
調査団を派遣する。」と、また、高村前
法務大臣は、「
法務省で、
刑法改正の意見交換会を開き、法制審を経た上でできるだけ早く国会に法案を提出する。」と約束してくださいました。森山
法務大臣にも、二回に分けて合計十一万を超える署名を届けさせていただき、「秋の臨時国会で成立を目指す」と、しっかりと私達の思いを受け止めてくださりました。署名を提出しながら、
交通事故の
被害者遺族の思いを歴代の
法務大臣に伝えさせていただくことで、
法務省と
遺族がキャッチボールをしながら今回の法案提出にこぎつけたものと思っております。署名を初めて
法務大臣に提出してからちょうど一年で、今、こうして
厳罰化を実現する法案が審議されている事に対し、
法務省を始めとする
関係者の並々ならないご努力に心より感謝し、署名を寄せていただいた三十七万余の賛同者を代表してお礼を申し上げたいと思います。
さて、この法案について、異論を差し挟んでいる
遺族もいると聞き及びました。そのおもな主張が、二百十一条の二項として付加されている
内容に対してであるとのことです。私達自身も、この項目は、署名活動で訴えてきた事に含まれてはいないことなので、戸惑ってはいます。しかし、森山
法務大臣が、私達からの最後の署名簿を受け取ってくださった先月下旬に、はっきりと、「これは、怪我の
程度が軽く、
被害者も
起訴を望んでいない等のある一定の
要件がそろった
事案に限定される。」と言明されました。私達もその言葉を信じ、実際の運用を見守る事が大事だと考えています。
私達が訴えてきた事に対して、これほどまでに早く、行政が、また
立法が動いてくれたことに改めて深い感謝の念をあらわしたいと思います。法案が通ってからも、その運用について、
遺族の一人としてまた一
国民として、今後ともこの
法律によって悪質交通事犯の
厳罰化が図られる事とともに、悪質な違反および
事故が抑止されるという効果を見守り続けたいと思います。今は本法案の一刻も早い成立と施行を願ってやみません。
以上ですが、大臣、いかがでございますでしょうか。